マウスピースのシャンク部分に穴を開けて接合するピエゾ・ピックアップ。いわゆる管楽器の ‘アンプリファイ’ では、1960年代後半から1970年代にかけて電気楽器の中で扱うPAとして一般的な方法でした。俗に ‘バーカスベリー・ピックアップ’ などと呼ばれていますが、当時、この老舗ピックアップ・メーカーのほかにも数多くのメーカーで採用されています。1960年代後半のロックと電気楽器の波に揉まれるかたちで1965年、管楽器メーカーの老舗SelmerがElectro-Voiceと共同開発により Varitoneを完成させました。その影響を受けてKingやConnといった管楽器メーカーも後に続き、主流となる電気楽器の中で何とか生き残りをかけた商品開発に目を向けます。また、そのような時代に乗り遅れまいと多くの奏者もマウスピースやサックスのネックにドリルで穴を開け始めました。'ジャズの帝王' マイルス・デイビスも、Hammond Organから新たに送られてきたInnovex Condor RSMを試すものの、その機器には関心を向けず、付属品として用意されていたShureのピエゾ・ピックアップCA20BをGiardinelliのマウスピースに接合します。以下、そのピックアップについての解説がShureのHPのBBSに載っていたので拙訳してみました。
(原語版)→Shure CA20B
(原語版)→Shure CA20B
“Q – わたしは、Shure CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。”
“A – CA20Bは1968年から1970年までShureによって製造されました。CA20BはSPL / 1パスカル、−73dbから94dbの出力レベルをもったセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それは、Hammond
Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られていませんでした。
CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられ、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイインピーダンスの出力を60' ケーブルと1/8フォーンプラグによって、Innovex製のCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクトを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax , Fuzz , Cello , Oboe , Tremolo , Vibrato , Bassoon などの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。
Condor RSMは製品としては成功せず、ShureもCA20Bをわずかの生産で終了しました。一部の管楽器奏者が、ギターアンプに接続するための管楽器用ピックアップとしてCA20Bを使い続けました。CA20Bとその派生モデル及び関連品の製品番号はCA20、CA20A、RD7458と98A132Bです。”
1971年のベルリン公演に見るデイビスと、Giardinelliのマウスピースに接合されたShureの CA20B。ちなみに、ランディ・ブレッカーが参加したビリー・コブハム・グループ1974年の公演の動画でも同じピックアップが確認できますね。
上記の動画は、1981年にチャカ・カーンのツアーに参加したブレッカー兄弟を捉えたもの。共にBarcus-berryのマウスピース・ピックアップが接合されていますが、兄のランディがウォークマンに付いてくるようなヘッドフォンをして吹いているのが怪しすぎます。コレ、'ころがし' のモニターに音を返してもらうことを嫌がったのか、ヘッドフォンでモニターしていると思われます。今なら 'インイヤー・モニター' として普通に行われている方法ですが、この時代、ライヴでこういうのをやっていたのはシーケンサーのクリックを聴きながら演奏するYMOくらいではないでしょうか。
→King Ampliphonic Pick-up
こちらは、KingがVoxと共同開発したAmpliphonicのピエゾ・ピックアップの写真と当時のカタログですが、基本的な構造はSelmer Varitone始めConn、Maestro、Innovex (Shure)すべてのピックアップに共通するものです。Barcus-berryはこれをさらに小型化したものと言えるでしょう。
さて、Barcus-berryのマウスピース・ピックアップは、大別すると4種類ラインナップされていました。ブラス用の1374、サックス/クラリネット用の1375-1、木管楽器のマウスピース先にパテで貼り付ける廉価版1375、そしてエレクトレット・コンデンサー型の6001です。ピエゾの1374と1375-1はドリルで穴を開けて接合するものですが、ピックアップ自体は同じで、管楽器側に装着する中継コネクターのパーツだけが違うものです。ブラス用の中継コネクターはクリップでリードパイプに装着するほかに、タイラップで中継コネクターを括り付けるもの(上記チャカ・カーンの動画でのランディはコレ)など、いくつかの仕様変更がありました。6001は1990年代初め頃に登場したもので、9V電池のプリアンプで駆動するエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ。マウスピースにドリルで穴を開けて接合しますが、エレクトレット・コンデンサー型だけにマウスピース内の '吹かれ' と水滴、湿気対策として、ピックアップ本体をポリプロピレンのスクリーンで保護し、スクリューネジで着脱可能となっています。これらモデルは1997年頃にはほぼ製造が中止されましたが、これは、より手軽で高音質なクリップ式の管楽器用マイクが市場に登場したからでしょうね。
→Barcus-berry C5600
現在管楽器用のものは、ベルの中にベルクロで取り付けるエレクトレット・コンデンサー・ピックアップのC5600(C5200)のみ・・寂しいラインナップです。
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