2015年9月30日水曜日

'アンプリファイド・ホーン' という音場

管楽器 をエフェクターで加工するにあたり、なぜしきりに 'アンプリファイ' などと呼称しているかと言うと、わたしはアンプで再生しているからなのです。通常、管楽器をマイクで用いる際、DIからPAのミキサーにラインで送出され、会場に配されるステージ・モニターへ振り分けられるというのがセオリーとなっております。要はヴォーカルなどと同じサウンド・システムを利用するものであり、現在では可搬性に優れた簡易PAシステムのYamaha Stagepas 400i / 600iなどで、ストレスなくダイナミック・レンジの広い再生環境を可能とします。しかし、やはりわたしはエレクトリック・ギターなどと同じく自分の横にアンプを置いて '鳴らしたい派' です。今や、エレクトリック・ベースにおいてもほとんどアンプは用いずにラインで鳴らす時代だと言うのに、場違いとも思えるような管楽器にして、アンプこそ 'アンプリファイ' における重要な音作りだと考えています。

Yamaha Stagepas 400i / 600i



ある意味、現在の日本の住宅環境においてレコーディングでアンプを鳴らすのは難しく、また、今どきのステージ上でもギター以外はPAからは避けられるやり方であり、正直理解を得るのは難しいでしょうね。管楽器は基本的にマイクで収音する以上、ハウリングや周囲の楽器からもたらされる '被り' に苛まれることとなり、極力ステージ上の 'ころがし' と呼ばれるモニターへ返される音量も限度があります。電気楽器主体のアンサンブルの中では、ほとんど管楽器の音量などPAの側で絞られ、まったくエフェクターの音が聴こえないステージなどざらにあります。ちなみにわたしは、基本的に自宅でひとりサンプラーなどへ録音するためにアンプへマイク(Shure SM57)を立てて鳴らしているだけなので、残念ながらライヴにおけるアンプでの '音作り' に対するノウハウは持ち合わせておりません。さて、アンプということになるといわゆるエレクトリック・ギター用ではなく、キーボード、アコースティック・ギター(及びヴァイオリンやその他アコースティック楽器)PA用のオーディオライクなものが相応しいですね。歪むことなく、クリーンでダイナックレンジの広い再生を誇りながらコンボ・アンプ特有の箱鳴りと中域のエッジを感じさせるもの。特にここ近年、アコギに特化したアンプは各社から目白押しで発売されております。また、キーボードやPAに特化したものとしては、Roland KCシリーズやBehringer Ultratoneのシリーズがあります。

Roland KCシリーズ
KC-60 (30W)
KC-150 (65W)
KC-350 (120W)
KC-550 (180W)
KC-880 (320W: 160W160W)

Behringer Ultratoneシリーズ
K450FX Ultratone (45W)
K900FX Ultratone (90W)



わたしが現在使用中なのは以下の2台。

SWR California Blonde
2004年の発売。アコースティック・ギターやヴァイオリン、ハーモニカなどのアコースティック楽器向け160Wのコンボ・アンプ。当初、アンプへの入力に際してRadial Engineering J48というアクティヴDIで、アンプからファンタム電源で駆動できるものだと思っていましたが、逆にゲインが持ち上がり過ぎてノイジーに。では、とそのままエフェクターからアンバランスでフォンに入力してみたものの、こちらも同じくツマミを10時程度の位置でノイズのレベルがグッと上がります。う〜ん、これはまいったなあとしばし悩んだ後、フォン入力の下に ‘Low Z Balanced’ なる小さなスイッチを発見。なになにと取説を開いてみればこのように記載されておりました。

ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイズの環境が得られます。

バランス出力のギターというのは馴染みが薄いですが、エレアコにおいてDIからバランスでPAのミキサーへ入力することが、そのままミキサーを必要とすることなく直でアンプに繋げることが可能なのです!注意すべきはアクティヴではなく電源不要のパッシヴDI。おお!嘘のようにジ〜と鳴っていたノイズが消え、クリーンなトーンがアンプのキャビネットから鳴り出しました。まあ、ヴォリュームのツマミは12時〜2時が使用上の許容範囲で、フルに回し切るとやはりノイズ成分が持ち上がりますね。しかし、このような気の利いたスイッチってその他アコースティック用アンプでは聞いたことがないので、これだけでもSWRの株がグン!と上がりましたヨ。つくづく会社自体が生産を止めてしまったのは惜しいばかりです・・。

Genz-Benz UC4
2000年発売のキーボードやアコースティック・ギター、PA用の135Wコンボ・アンプです。通常の据え置きのほか、モニターしやすいように傾けてころがしたり、専用の三脚スタンドに乗せるなどPA用モニターとしても機能するユニークなもの。4つのマイク/フォン/ライン入力によるミキサー機能を備え、あくまで簡易PA的なスタイルに特化しております。あらゆる環境に対応できる堅屈さと放熱用の空冷ファンが備えているものの、正直狭い室内でこのファンの風切り音は少々耳障りです(真空管アンプほどではないですが)。パッシヴのDIからのバランス出力はそのままUC4のマイク入力へ。通常、この手のマイク入力は常にファンタム電源がかかっているものですが、コイツは4チャンネル一括ながらOn/Offできる嬉しい仕様。ただし4つある入力のうち、4チャンネルのみライン入力であり、パッシヴのDIからバランスで入力する場合はこちらのXLR入力が最適。ほかのチャンネルのXLRだとマイク・プリアンプのゲインが高いのか少々歪んでしまいます。リア・バスレフのエンクロージャー仕様で、アンプ後方も十分空間を取って豊かな低域を確保するところなどはPA用という感じでしょうか。

この2台のコンボ・アンプ。どちらもクリーンな再生を得意とするオーディオライクな出音ですが、その感じは結構違います。簡単にまとめれば、SWRは正面から真っ直ぐに飛び出してくる力強さがあり、Genz-Benzはクセなく横に広がっていく感じ。アンプ的な '箱っぽさ' と色気という点ではSWRに軍配が上がりますねえ。Genz-Benzはやはりモニターっぽい素っ気なさというか、ステレオではないけど空間の広がっていく感じがあります。

いわゆるエレクトリック・ギター用のアンプは、基本クリーンな再生という条件の中ではヴォリュームと同時にGainも増幅することで 'ジー' というスタンバイ・ノイズが目立ち歪んでしまいます。そのため、これからアンプで管楽器を鳴らしたい!という人は 'エレアコ' を再生するためのアコースティック用アンプをお薦めしたいですね。そして、12インチ口径のスピーカーと出力は100W前後のものが最低限必要で、自宅ではノイズ面含めヴォリュームのツマミも12時の位置が限界ですが、コンボ・アンプ特有の中域にピークのある '箱鳴り' を堪能することができます。また、1960年代後半のドン・エリスなどはFenderの代表的なギター・アンプTwin Reverbを複数リンクさせて用いており、各種口径のスピーカー部を交換することでガラッと音のキャラクターが変わる改造が行われているので、これを用いて管楽器用にチューニングすることも可能。1960年代から1970年代のものでもJensen、Oxfored、EMINENCE、JBLのスピーカーに換装されており、特に、JBLのスピーカー部などはワイドレンジとクリーンな特性で 'オーディオライク' な再生を得意とします(真空管アンプなのでスタンバイ・ノイズは避けられませんが・・)。

SWR California Blonde Ⅱ
SWR Strawberry Blonde Ⅱ
Calvin AG100D
Fishman Loudbox Artist
Laney AH80
Laney AH300
Roland KC-350
Behringer K900FX Ultratone

あくまでスペック的な評価ですが、アコースティック用アンプなら100WのCarvin AG100Dやピックアップ・メーカーであるFishmanの 'Loudbox' シリーズなどが良いでしょう。またLaney AHシリーズやRoland KCシリーズ、Behringer Ultratoneなどのキーボード用アンプも十分その用途に向いていると思います。入力はDI(パッシヴではなく電源必須のアクティヴ)からロー・インピーダンスで出力する場合、XLRのマイク入力に繋いで下さい。もしくは、XLRとフォンを兼用するコンボ・タイプの入力ではTRSフォン(またはアンバランス)で繋いで下さい。基本的にマイク入力をラインとして用いるにはその入力部のファンタム電源をOn/Off可能か、マイク入力部のゲイン・バッファーと出力先からのインピーダンス・マッチングを考慮して繋ぐ必要があります。会場のPAと併用してアンプを自身のモニターとして用いるのであれば、アンプはDIのTuru端子からフォンでモニター用に繋ぎ、XLRの方はラインでPAに入力して下さい。このようなライン・レベル、マイク・レベルが混在する点では、多様なミキサー機能を持つキーボード・アンプの利便性が光りますね。可搬性なども考慮すれば、アコースティック用、PA用それぞれ10Kg前後の重量のものが手持ちのできる限界ではないでしょうか。しかし、狭い 'ハコ' の場所で鳴らす場合など、そもそもトランペットという楽器自体、生音がそのまま直近の者よりも '遠鳴り' することで他者に届きやすい楽器は、バンドの編成によってマイク、PA不要という場合も出てきますからこの辺はPAの人と要相談になるでしょう。



Neotenic Sound Magical Force

アンプからの出音、もしくはバンドのアンサンブルの中で埋もれないようにEQで補正するのは 'エレアコ' の必須条件なのですが、これがなかなかノウハウを見つけるのは難しいものです。ヘタなEQはかえって逆効果にもなりやすく、ほとんどPA任せにしてしまう方もいるでしょう。上記のNeotenic Sound Magical Forceは、まさに 'アンプに足りないツマミを補う' というコンセプトの 'リニア・コンプレッサー' という概念で、アンプから出力される音が散ってしまうのをギュッと纏めて音圧と密度、エッジを付加して聴きやすくしてくれる '縁の下の力持ち' 的なアイテムになります。わたしも使用しているのですが、この動画通りに 'Punch' と 'Edge' のふたつのツマミをグイッと回すだけで音像を気持ちの良いポイントに持っていってくれます。もちろん 'Density' はギュッとまとめてくれる縁の下の力持ち的存在であり、Joemeek Three Qの3バンドEQと併用することでかけっ放しです。EQを補正と考えるなら、コイツは積極的な音作りに威力を発揮すると言ったらいいでしょうか。また管楽器のみならず 'エレアコ' など、バンドのアンサンブルの中の音作りで迷路に嵌ってしまった場合、コイツに手を出してみると早い解決法が見つかるかもしれません(わたしはバンドをやっておりませんケド)。







Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds
Kustom Amplification

最初の人は、The Little Jakeというハンドメイドのピエゾ・ピックアップを取り付けたクラリネットでメーカー不詳のアンプを鳴らしています。そして、次のお二人はどちらもGibson / MaestroのSound System for Woodwindsによる動画ですが、最初の 'アンプリファイ' なクラリネットのおじさんは、1960年代のKustomのベース用スタックアンプBass 250で 'メリーさんの羊' をあやふやに奏でています。ベース用アンプは、歪まずにその豊かな低音を鳴らせるダイナミック・レンジの広さで、'エレアコ' の代用アンプとして用いられることも多いのです。続けて一転、今度はいきなり顔の怖いおじさんがしゃべり出しますが、RBなるデンマーク製のピエゾ・ピックアップが気になりますね。こちらはRolandのキーボード用アンプKC-350で鳴らしています。ちなみに、上記のKustomファンサイトで当時のカタログを見てみるとPA用システムなども用意されていたことから当時、管楽器の 'アンプリファイ' におけるサウンド・システムとして広く使われていたと思います。



Roland Jazz Chorus JC 1
Roland Jazz Chorus JC 2
Line 6 Pod HD

ちなみに、1993年のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーのステージでは、ランディ・ブレッカーはRoland Jazz Chorus JC-120を二台ステレオにして鳴らしており、このクリーンなトーンが '売り' のギターアンプも試してみて良いかもしれません。上の '復活' ツアーの動画でランディの後ろに傾けて置かれたJC-120、アレはランディ専用です。最近もRolandからJC-40という自宅でも十分に使えるサイズのJazz Chorusが発表されました。このRoland JCシリーズにおける音作りの '裏ワザ' として、アンプ後方にあるリターン端子に入力してJCのプリアンプ部分をバイパスする、いわゆる60W+60W(JC-120の場合)のステレオ・キャビネットとして使うことができます。コレ正確には、リターン端子に繋ぐ前にLine 6 Pod HDなどのアンプ・シミュレーターから入力し、あくまで 'アンプ・サウンド' の細かなパラメータはPod HDで行い、JCは単なる2チャンネルのスピーカーでしかないということ(その為、JC前面のツマミ類は無効)。むしろ管楽器などの接続では、ギター向けにチューニングされたアンプのツマミ類で設定するよりこちらのセッティングで鳴らした方が、クリーンでステレオな定位と出音を確保した上で、クランチかつ細かな音作りが出来るのではないでしょうか。

↓流れとしてはこんな感じ。
⚫︎Mic → Radial Engineering Voco Loco → Line 6 Pod HD → ×2 Roland Jazz Chorus JC (Return in)


Acoustic Control Corporation

このように管楽器のアンプによる再生は、まだまだ貧弱なPAシステムしかなかったロック黎明期においては一般的なやり方でした。特に当時管楽器の連中に好まれていたのが、アメリカの音響機器メーカーAcoustic Control Corporation社のギター、ベース用アンプを用いることです。当時Marshallのようなアンプに対して、比較的クリーンで再生できることから選ばれたのだと思います。マイルス・デイビス、エディ・ハリス、ランディ・ブレッカーや、フランク・ザッパのマザーズに在籍するイアン・アンダーウッド、バンク・ガードナーらサックス奏者は皆、そのステージのほとんどでこのAcousticのアンプを確認することができます。ちなみに、このアンプにおける最も有名なユーザーはベーシストのジャコ・パストリアスであり、360+361のスタックアンプのセット(約80Kg !)を常にツアーに持ち出して愛用しておりました。上記Acoustic社の当時のカタログを見れば、デイビスが用いていたのはギター用スタックアンプの260+261、361のキャビネットの組み合わせで鳴らしていたことが分かります。そして、1973年の来日公演を境にしてYamahaとエンドース契約を結び、そのサウンド・システムすべてが一新されました。



ステージのど真ん中に、まるで祭壇の如くそそり立つAcoustic 261+361のキャビネットをバックに演奏する1971年のマイルス・デイビス。しかし真下でドラムを叩くレオン 'ウンドゥク' チャンクラーにいつ落っこちてきやしないか、とヒヤヒヤしますね。

Acoustic 260+261

そして、この1970年代の 'エレクトリック・マイルス' の環境を '完コピ' したい方、上記リンクのアンプはいかがでしょう?こちらのベース版であるAcoustic 360+361がジャコ・パストリアスの愛用セットなら、YamahaのPAセットに換装する前の1970〜73年にマイルス・デイビスが愛用していたセットがこちらAcoustic 260+261なのです。状態の良いVox The Clyde McCoyワウペダルとShure CA20Bマウスピース・ピックアップを見つけるのは至難のワザですが・・これは鳴らしてみたい!。


2015年9月29日火曜日

'アンプリファイド' バップの逆襲

トランペットって不自由な楽器なんではないだろうか、というのを、サックス奏者たちの果敢な 'アンプリファイ' へのアプローチを見る度に思います。それは、思いのほかバップで培われた奏法の中で磨かれ、その完成度を高めていったことが今のトランペットの基礎を型作っているからです。フリー・ジャズのような奏法が '身体性' と共鳴するように展開する音楽においても、トランペットはサックスほど突き詰めていくことはできませんでした。1970年代のマイルス・デイビスの挑戦は、一度自らのスタイルを '更地' のごとくその痕跡を消し去り、まったく違うことをやることが必然だったのでしょう。デイビスの 'アンプリファイ' な奏法について、ジョン・スウェッド著の「マイルス・デイビスの生涯」(シンコーミュージック刊)でこう述べられています。

最初、エレクトリックで演奏するようになった時、特に感じるものはなく、そのことはマイルスをがっかりさせた。コカインでハイになるのとは違っていた - むしろエレクトリックというのは徐々に体の中で大きくなっていくものだ、とマイルスは表現した。快感はある。しかしそれはゆっくりとした快感だった。やがて、必死になって音を聞こえさせようとしない方が長くプレイすることも可能だとマイルスは知った。そのためにはいくつかの調整が必要だ。あまり速く演奏してしまうと、パレットの上で絵の具が流れて混ざるように、音が混ざってしまう。そこでフレージングの考え方を一から見直すことにした。長くて二小節。メロディの合間からもっとリズムを聞こえさせたいと思っていたマイルスにとっては、実に理にかなった発想だった。 

デイビスの唯一無二なアプローチに対し、正統的なバップの奏法に根ざしながら 'アンプリファイ' ならではのスタイルを築いたランディ・ブレッカーの功績は、むしろデイビス以上に褒め称えてもし尽くせないでしょうね。それは多くのフォロワーを生み出し、ある意味では当時の人気ラッパ吹き、フレディ・ハバードを凌ぐほど 'アンプリファイ' をモノにしていたと思います。ハバードに比べ、どことなくフュージョンの時代の中で脚光を浴びたイメージがありますが、実際には完全にバップの伝統に根ざしつつ、新しいことをやっていたのがランディでした。そんなランディ同様に、バップの伝統に根ざしながら同種のアプローチをしたのが、ハービー・ハンコックのグループで頭角を現し、ジャズマンと精神科医の '二足のわらじ' を歩んでいたエディ・ヘンダーソンです。代表作'Heritage' (1976年)や、それまでリリースされてきた一連のアルバム 'Realization' と 'Inside Out' (共に1973年)、 'Sunburst' (1975年)などは、どれもエフェクターとシンセサイザーを駆使したスペイシーな世界全開のクロスオーヴァー・ジャズ・ファンクです(貼り付けたいのですがどれも視聴制限がかけられているので、Youtubeの方でどうぞ)。



それじゃあまりにも寂しいので、ランディ・ブレッカーの 'アンプリファイ' 習作時代ともいうべきハル・ギャルパーのアルバム 'Wild Bird' (1972年)に参加したタイトル曲を。う〜ん、バップ・スタイルというより当時のマイルス・デイビスに影響され過ぎてますか。ソロを吹きながら左手でMaestro Echoplexのディレイ・タイムをイジっているのがカオスです。

そんな時代から40年以上経ち、バップの伝統に即しながら 'アンプリファイ' のトランペットで突っ走るBrownmanなるラッパ吹きの演奏をどうぞ。







ジャズ・スタンダードの定番 'Yesterdays' やジャズ・サックス奏者ジョー・ヘンダーソン作曲の 'Recorda Me'、そしてデューク・エリントン作の 'Caravan' がこんなアレンジで甦りました。この人、ランディ・ブレッカーとも共演しているようですね。しかし、ここでのBrownmanの '電話ヴォイス' のようなトーンのフィルターをかけたラッパは格好良い。こういうのはなかなか単体のエフェクターではないのですが、こんな面白いダイナミック・マイクを用いれば簡単に出せます。

Placid Audio Copperphone

デモ音源でトランペットもありますが、いかにもレトロなラジオから流れてきそうなトーンに変換できる 'エフェクター' マイクと言えますね。





従来のバップ・スタイルと 'アンプリファイ' の新たな表現をうまく溶け込ませたひとりとして、パット・メセニー・グループから大抜擢されたジャズ・トランペット界の気鋭、クォン・ヴーは必聴でしょう。トリオという編成でここまでの表現力を誇るラッパ吹き、そうはいません。

2015年9月28日月曜日

'モントルー' を分けたふたつの 'ファンク'

セールス的に惨敗したマイルス・デイビス1972年の 'On The Corner' 。このアルバム・リリースに際してCBSが用意したPR用のキャッチコピーには、こう記されています。

"マイルス・デイビスと共にストリートを歩き、歩道の人たちの言葉に耳を傾けよう、それは 'その地区' に暮らす人たちの喜び、苦しみ、美しさが凝縮された音楽。耳を澄ましてみよう、世界で最も美しい場所のひとつに"

翌年、デイビスから見れば '後輩' に当たるジャズメン、ドナルド・バードとハービー・ハンコックはそれぞれ 'Black Byrd' と 'Headhunters' で、それまでのジャズというフィールドを超えて同胞たちの強い支持を得ることに成功しました。そんな1973年の 'モントルー・ジャズ・フェスティヴァル' でステージを分けたバードとデイビス。まずは一躍、時の人となったバードたちが、'Black Byrd' 大ヒットの鍵を握る当時のヒット・メイカー、スカイハイ・プロダクションのラリーとフォンスのマイゼル兄弟と共に立ちます。バードのそばで控えめにラッパを吹いているのが兄のフォンスです。





 

マイルス・デイビスのグループは、このモントルーの直前に行った日本公演の際にYamahaとエンドース契約をしてアンプやPA一式を揃えましたが、ドナルド・バードたちも同じくYamahaのサウンド・システムを用いていますね。







このときのデイビスたちのステージは、ジャズ評論家レナード・フェザーによる酷評一色なコンサート評によると、第一部は聴衆のブーイングで迎えられたそうで、テレビ放送されたこの第二部では、完全に聴衆無視でバンドとデイビスによる 'ジャム・セッション' を好き勝手に繰り広げている感じですね。いや〜、デイビスには申し訳ないけど、これはドナルド・バードたちの方が 'わかりやすい' です。一般聴衆にウケるのも仕方がありません。しかし、 得体の知れない 'アンプリファイ' の魔力によって音楽が生成されるプロセスを堪能できるのは、完全にデイビスのファンクに分があるでしょう。

このジャズとフュージョンを隔てる '境界' として、 'On The Corner' と 'Black Byrd' に代表される '質感' の変容は、そのままジャズの制作システムと聴衆が大きく変化したことを如実に物語っているようです。

2015年9月27日日曜日

金管楽器のためのダイナミック・マイク


管楽器を アンプリファイで扱う上でなくてはならないクリップ式マイク、そのほとんどがコンデンサー・マイクだと思います。マイクを駆動させるための電源が必要で、ダイナミック・レンジの広い収音を可能とする代わりに、マイク本体は繊細な扱いを要求されます。一方で、電源は要らず、タフな扱いと手軽な収音を可能とするのがダイナミック・マイクです。マイク・スタンドに設置する定番のShure SM57Beta57ASennheiser MD421-Ⅱなどが有名ですが、実は、数が少ないながらもクリップ式のものも発売されています。ドイツの老舗SennheiserBeyerdynamicのもので、アンプで鳴らすことを信条とするわたしにとって実にありがたいものです。周波数レンジの広いコンデンサー・マイクはハウリングにシビアであり、特にアンプを真横に置いて鳴らそうという場合非常に難儀します。その点、ダイナミック・マイクは高域の感度が落ちている代わりに中域に密度があり、ある程度のハウリング・マージンを稼ぐことができるのです。ちなみにこの二社のほかにもう一点、サックスやトロンボーン専用で、カーディオイドの指向性でベルに三点支持のフックを覆うように取り付けるSD Systems LDM94という一風変わったものがあります。

SD Systems LDM94
Sennheiser Microphone

上の動画はサックスによるマイク4種類の比較。管楽器用としてはコンデンサー・マイクのSD Systems LCM8gとダイナミック・マイクのLDM94、Beyerdynamicのダイナミック・マイクTG I52dが選ばれております。やはりスタンド・マイクに比べるとグーズネック式のものは音質的に相当スポイルされているというか、ライヴという環境での利便性にシフトして設計されている感じがしますね。さて、わたしがトランペットに用いているのは①。指向性はスーパーカーディオイドで、ShureHPの説明によればカーディオイドよりもピックアップ角度が狭く、横からの音を遮断、ただしマイクの背面にある音源に対し少し感度が高くなっている。環境ノイズや近くの楽器などからの遮音性がより高いためフィードバックが発生しにくくなるが、使用者はマイクの正面の位置を意識する必要があるとのこと。確かにマイクを触ると後方もゴソゴソと感度は高いのが分かります。対して②の指向性はハイパーカーディオイドで、同じくShureHPの説明によればハイパーカーディオイドには双方向性マイクロフォンの性質がいくらか備わっており、背面に対する感度が高くなっている。ただし、側面からの音の遮断に非常に優れ、フィードバックに特に強く、スーパーカーディオイドと同じく周囲の音が被りにくい性質。ただし指向性がとても強いため、音源に対するマイクの配置は正確さが求められるとあります。う〜ん、どちらもよく似た指向性ながら②の方がよりピンポイントで音を狙う設計というわけか。周波数特性としては①が4016000Hz、②は4012000Hzとのことで、この辺も指向性の違いに反映されているのでしょう。ダイナミック・マイクはコンデンサー・マイクに比べて特に高域の周波数レンジが狭く、近接のオンマイクにセッティングしてマイク・プリアンプで適正なゲインを持ち上げてやらないと機能を発揮しません(ちなみにファンタム電源を誤ってOnにするのは厳禁です!)。わたしがトランペットのベルにマイクを立てて収音しないのも、クリップ式の方が一定の距離に固定してマイクをセッティングできるからなんです。また、マウスピースにBarcus-berry 1374を接合しているので、ふたつのピックアップ・マイクによる位相差を一定に保つ必要があります。ちなみにこのBarcus-berry 1374は、中域を狙うポジションとしては良いのですが高音域の応答性が低く、結局はベル側のマイクとミックスして使うことを余儀なくされます。ホント、このように管楽器のマイキングというのは奥が深く難しいのです。ちなみに、このShureによるマイクと指向性、モニターとの関係を解説したブログは 'アンプリファイ' を行う上でいろいろと参考になります。

Joemeek Three Q
Root 20 Mini Mixer
Neotenic Sound Magical Force
Plutoneium Chi Wah Wah

さてさて、セッティングで難しいのは、ワウでブーストしたときとオープンホーンでアンプから鳴らしたときの音量を揃えておくことです。わたしはマイクからの出力をJoemeek Three QというプリアンプとEQでゲインを持ち上げており、ここでレベルメーターとにらめっこしながら、極力ハウらない設定を決めておきます入力のPreamp Gainは1時、出力のOutput Gainは11時の位置にして、3バンドのEQで追い込んでいきます。マウスピース・ピックアップは、本来微弱なピエゾをBarcus-berry 1430でグイッとゲインを持ち上げるので、それほど気にする必要はないのですが、ワウのかかり具合をトランペットの帯域に合わせるべくResponseというEQをHi寄りに。この後ろにバッファーアンプの内蔵したRoot 20 Mini Mixerからダイナミクス系エフェクターのMagical Force(Level 10時、Punch 1時、Edge 11時、Density 8時)を挟み、要であるワウのPlutoneium Chi Wah WahのLevel、Contour、Gainでバランスを調整、Levelは0時、Contourは4時、Gainは2時の設定にします。ワウの帯域幅が広いので踏み込んでグワッとゲインが上がると同時に、ローが回り込むのとハウリングしやすくなることに注意ですね。余裕があれば、この後ろにBoss GE-7 Equalizerなどのグライコで細かく帯域補正するのも良いかもしれません。 



上の動画はSnarky Puppyのラッパ吹き、Mike 'Maz' Maherによるトランペットの 'アンプリファイ' のセッティング。ワウやオクターヴ・ファズの時はダイナミック・マイクのShure SM58をFenderのギターアンプでマイク録りしており、ディレイのような生音の柔らかい質感を活かす場合はリボンマイク(RCA 44BXか)で録り分けて、それぞれのマイクの特徴を上手く引き出しております。ともかく、管楽器でコンデンサー・マイクとエフェクターのセッティングに悩んでいる方々、もしくは、管楽器をギターアンプで鳴らしてみたい!という覇気ある御仁は、是非このようなクリップ式ダイナミック・マイクも検討してみて下さいませ。

と、ここでオマケ的に、わたしが代々使ってきた管楽器用コンデンサー・マイクを軽くレビューしてみたいと思います。一番初めに買ったのは、CountrymanIsomax 2Cという超小型のもの。いわゆるピン・マイクとしてTVのアナウンサーが襟元に付けるのが正しい使い方なのでしょうけど、オプションとして針金を曲げたようなSaxclipというのがあり、それでベルに取り付けていました。ちょっとS/Nが良くなかったという記憶がありますが、音質はまあまあ。次は、晩年のマイルス・デイビスが使っていたマイクを模したSD Systems LCM77。ちょうどデイビス没後に派手なカラーの施されたMartinのトランペットが復刻されるなど、うまくその辺のユーザーに訴えたかたちで、わたしもまんまと乗せられました。クリス・ボッティ始め、現在でも日本で結構使っているユーザーがいますね。ちょうど傘の柄のようなかたちのデザインがユニークなものの、取り付けるところが3番ピストンの真下になることから、ゴンゴンというピストン・ノイズを拾ってしまうのが残念でした。そして、9V電池のバッテリーパックで駆動するのですが、XLRからフォンの変換ケーブルを通じてエフェクターに接続するとこれまたS/Nが悪い。後述しますが、Audio-Technica ATM 35で同様の接続でやってみてもここまで酷くなかったんですよね。この辺、今も使っているユーザーはどのように思っているのか気になります(ワイヤレスだと関係ないのかな?)。そして、次がShure Beta 98 H/C。とにかく小型にデザインされているのが好感持てますが、カーディオイドの指向性だからかどうも収音の範囲が狭く、いまいちエフェクターのかかり方が悪かったですね。さらに生音の収音も硬い感じがして気に入りませんでした。

そしてAudio-Technica ATM 35。わたしにとって管楽器用コンデンサー・マイクのベスト!2004年に購入して2015年まで使用するもただの一度も故障知らずという・・さすがの 'Made in Japan' です 。もちろん、音質もこの手のクリップ式マイクとしては実に優れており、生音のふくよかな感じをスポイルすることがありません。また、ちょっと落ち着いたような深みも好みでしたね。価格は3万強ということで、ラインナップとしてはこの下のクラス(AKGShure)とこの上のクラス(SennheiserDPAAMT)のちょうど良いところを突いた製品ではないでしょうか。欠点としては、付属のバッテリーパックAT8532が付いてくるにもかかわらず、なぜかケーブルが7m !近くもあるということ。コレ、完全に腰から引きずってしまうような長さで理解できません。その辺の不満を読んだのか、もうちょい価格を落とした姉妹機のATM 350では、ケーブル長4mという常識的な長さとなっております。わたしはAT8532を使わず、別売りで用意されていたXLR変換コネクターAT8539を用いてプリアンプに繋いでおりましたが、メーカーの話では付属のバッテリーパック込みで音質などが決定されており、AT8539は使えるけれども音質的にはむしろスポイルされるとのこと。つまり、ファンタム電源で供給する場合でもAT8532を介して供給して欲しいということです。他にイレギュラー的なものとしては、一時期Barcus-berry 5300というエレクトレット・コンデンサー・ピックアップをベルに取り付けていました。これは、ベルの縁を挟むようにネジで取り付けるもので、その独特な形状に対してキチンと生音を収音することはできましたが、エフェクターをかけるとハウリングしやすくて使用を断念しました。ちなみに、復帰直後の1981年から82年にかけてマイルス・デイビスがステージで使っていたワイヤレス・システムのマイクが、なぜかこの5300と同一のデザインだったのですが何か関係があるのでしょうか?(インターネット上でも資料が乏しいのでご紹介できないのが残念なのですが)。