2018年9月5日水曜日

モジュラーの壁 (再掲)

まだまだその熱気が留まることを知らない 'モジュラーシンセ' のブーム。あくまでマニア の間でのみの話なのかと思いきや、小さなガレージ・メーカーやコンパクト・エフェクターを製作する者たちが軒並み参入し、今や欧米でひとつの市場を形成しております。





このような流れを受けたのか、Korgは往年のセミ・モジュラーシンセMS-20 Miniやモジュラー的発想で音作りのできるArp Odysseyの復刻、Rolandは新たにデザインしたAira Modulerを用意するなど、決して小さな出来事ではなくなりました。きっかけはドイツのシンセサイザー・メーカーDoepferが製造しているA-100モジュラーシンセの規格を元に、いわゆる 'ユーロラック' サイズによるモジュールであること。往年のモジュラーシンセといえば 'タンス' などと呼ばれたMoog Ⅲ-P(Ⅲ-C)やRoland System 700の巨大なモジュールの集合体を思い出しますが、現在の 'ユーロラック' はモジュール自体のサイズを小型にした卓上型のもの。それこそコンパクト・エフェクターを買うような感覚で小さなモジュールを買い集め、自分だけのサウンド・システムを気軽に構築することができるのです。





以前はオタク的な 'マッド・サイエンティスト' たちの占有物というイメージのあったモジュラーシンセですが、現在はこのような女性アーティストが 'ユーロラック' サイズによるモジュラーシンセのサウンド・システムを構築するなんて・・。しかしKaitlynさんは気持ちの良い環境で鳴らしているなあ。







Moog System-55
Moog Mother-32
Moog Moogerfooger CP-251 Control Processor
Moog Moogerfooger

そんなモジュラー・ブームにMoogも刺激を受けたのか、なんと1973年発表のモジュラーシンセSystem 55、35、Model 15を復刻してしまいました。テクノポップ世代ならYMOのステージで見てビックリした方も多いでしょうが、その巨大なモジュールもさることながら価格も半端ではない垂涎もの・・'YMO世代' にはたまらないでしょうね。また、昨今の 'ユーロラック' サイズに合わせた最新型のモジュラーシンセ、Mother-32も用意されております。さすがに1台だと1VCO、1EGの構成なので3段積みのラックに複数のMother-32を搭載して巨大な壁を築きたくなってしまいますけど・・出音はMoogならではの素晴らしいもの。ちなみに、管楽器を用いてMoogにアプローチする最初の一歩としては、CP-251を中心に各種CV(電圧制御)でVCF、VCA、LFO、EGなどやり取りの出来る 'Moogerfooger' シリーズから始めてみるというのも良いかもしれません。しかしMoogといったらやっぱり '木枠' だね!





さて1960年代後半、意外にも当時の '未知の楽器' Moogシンセサイザーに食い付いたのはエミル・リチャーズやディック・ハイマンといったジャズの奏者たちでした。いわゆる 'コマーシャル・ミュージック' の体裁を借りながら、当時、最も先端的なかたちでエレクトロニクスと格闘していたという事実は、単に風変わりな 'モンド・ミュージック' 的視点でのみ語られているのは惜しいと思います。これは、彼らとは真逆のシリアスな視点に立ち、アネット・ピーコックとArpシンセサイザーを用いて前衛的表現を追求したポール・ブレイにしても同様でしょう。マイルス・デイビスが 'Bitches Brew' で '転向' したと大騒ぎになった当時のジャズ界にあって、むしろ、もっとその先を行っていた彼らの仕事は未だ 'キワモノ' の領域から出ないままです。





これら初期のMoogシンセサイザーのマニピュレーターとして活躍したのがポール・ビーヴァーとバーナード・クラウゼのコンビ。上記のエミル・リチャーズや映画 '白昼の幻想' のサウンドトラック、ザ・ビートルズのジョージ・ハリスンが自ら買い上げたMoogシンセを用いてAppleに吹き込んだソロ作 '電子音楽の世界' などに携わり、また、現代音楽専門のレーベル、LimelightからはMoogシンセのガイド的アルバム 'The Nonesuch Guide to Electronic Music' を発表して、得体の知れなかったシンセサイザー普及に一役買いました。ちなみに、上記ディック・ハイマンのアルバムには当時、Moog相談所の所長であったウォルター・シーアが携わっております。





タンジェリン・ドリームやクラウス・シュルツェ、ポポル・ヴーなどのプログレ勢に好まれたモジュラーシンセですが、ジャズの世界においては、ピアニストのポール・ブレイが妻のアネット・ピーコックと一緒に 'Synthesizer Show' と称した演奏を行っておりましたね。ブレイはArpのモジュラーシンセ2600を駆使し、アネットの歌声もシンセの外部入力から変調する前衛的なものでした。これは、ワルター・カーロスがMoogでバッハを演奏した 'Switched on Bach' を発表し、作曲家の富田勲氏が米国からそのMoogを日本に輸入しようとして 'これは楽器か?何かの機器か?' と関税でモメる前夜に記録された、未知の楽器シンセサイザーと即興的アプローチの一コマでもあります。そして1950年代にはジャズの名門Blue Noteで 'Patterns in Jazz' を制作したサックス奏者ギル・メレも、1960年代後半にはElectar、Envelope、Doomsday Machine、Tome Ⅳ、Effects Generatorなる自作のフィルターやオシレーターをきっかけにエレクトロニクスへ接近。この1971年のパニック型SF映画 'The Andromeda Strain' のサントラでは、(たぶん)EMSのモジュラーシンセを駆使して完全なる電子音楽作品を披露しています。宇宙から謎の病原菌が地球に撒かれて人々が恐怖に慄くというSFらしく、得体の知れない恐怖が迫ってくる雰囲気をシリアスな電子音響で見事に再現。



こちらはオランダの現代音楽にして電子音楽のパイオニア的存在、ディック・ラージメイカー(aka キッド・バルタン)とトム・ディセヴェルトのコラボレーションによる傑作。1958年!にして '元祖アシッド・ハウス' と呼びたくなるくらいテクノな匂い全開のシーケンスは、まさに '過去から来た未来' を暗示しております。









Buchla Music Easel
Buchla Music Easel Review

さらにMoogと並ぶシンセ黎明期の二大巨頭のひとつ、Buchlaもこの市場に参入してきました。ロックやジャズのアーティストに好まれたMoogと違い、こちらは当時、現代音楽の作曲家モートン・サボトニックが監修していたのが特徴的です。また、EMS Synthiをイメージしたようなアタッシュケース型のMusic Easelも復刻、いやあ、狂ったようなぶっといオシレータの出音含め格好良いですねえ。本機は独特な構造を備えており、2VCOがVCA/VCFの合体したDual Lo Pass Gateという2チャンネルのモジュールからゲート、変調用オシレータ、外部入力を選び、またエンヴェロープ・ジェネレータをLoop、発振させてオシレータにするというまさに 'シンセの原点' と呼ぶに相応しいものです。そんなBuchlaを代表する1967年の 'Silver Apples of The Moon' はサボトニックによるモジュラーシンセの金字塔的作品。楽音的なMoogと違い、いわゆる '鍵盤的発想' ではないところから出発してサイケデリックな空間を描き出します。







Tom Oberheim SEM / SEM Pro
Oberheim DS-2 Digital Sequencer

Korgが大々的に始めたアナログシンセの '復刻' は、1970年代の名機であるMS-20やArp Odysseyの訴求力が時代を超えて支持されていることを見事に証明したと言えるでしょう。そんな時代の流れは同じく1970年代に席巻した 'オーバーハイム・シンセサイザー' の生みの親、トム・オーバーハイムをも動かします。長らくMarion Systemsと名を変えて製品開発を行ってきたトム・オーバーハイムが久々に自らの名で '復刻' したのは原点ともいうべきシンセ・モジュール、SEM。オリジナル通りの構成にパッチング機能を追加したSEM with Patch PanelとMIDIインターフェイスを搭載したSEM Proで、'ユーロラック' モジュラーや現在の音楽環境との連携を目指した音作りはさすがの一言。ちなみに元々は1970年代初め、同社のデジタル・シーケンサーDS-2の音源モジュールとして製作されたもので、打ち込んだシーケンスを走らせながらモジュールを操作させるというのが '正しい' 使い方でした。





Korg MS-20M Kit + SQ-1 Step Sequencer

そんな 'モジュラーシンセ' の入門編としてこちら、Korgの名機MS-20のモジュールと8ステップ2段のシーケンサーSQ-1のセットはいかがでしょうか?一応 'Kit' ということで自分で組み立てるのですが接着剤、ハンダ一切不要で基板含めたいくつかのパーツを取説通りに組み立てるだけのお手軽さ。2VCO、2VCF、2VCA、2EG(Envelope Generator)、1LFOのシンプルな構成ながら内部ルーティンをパッチングにすることである程度自由な音作り、アナログシンセの基本を学べることが本機の大ヒットへと繋がりました。







Korg MS-03 Signal Processor

このMS-20には精度の高い 'CV/Gateコンバータ' が搭載されており、外部の音程から 'Hz/V' (Korgの規格)の電圧制御(CV)と 'CV Trig' や 'Env Out' でシンセをコントロールすることが可能で、さらに単品のコンバータであるMS-03では 'Oct/V' も搭載されてKorg以外のシンセを 'Portamento' や 'CV Hold' なども加えて加工することが出来ます。これは往年の 'ギターシンセ' ともいうべきX-911にも同様の機能として搭載されており、例えば管楽器をMS-20の外部入力から突っ込みオシレータを追従させてエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)で揺さぶってみるとか、いろいろな音作りを堪能することが出来まする。





さて、管楽器だとMIDIを中心にMAX/mspなどでサウンド・システムを構築する 'Mutantrumpet' のベン・ニールのアプローチと近しい関係かもしれません。1960年代後半にSonic Arts Unionとしてゴードン・ムンマやロバート・アシュリー、アルヴィン・ルシエらとライヴ・エレクトロニクスの実験に勤しんだデイヴィッド・バーマンがそのベン・ニールをゲストに迎えて制作した極楽盤 'Leapday Night' の気持ち良さ!







Akai Professional EWI
Sherman Filterbank 2

このようなベン・ニールのやり方としては、例えば 'ウィンド・シンセサイザー' のEWIによりブレスでシンセサイザーをトリガーし、リアルタイム・サンプリングでラッパから映像含めたシーケンスをコントロールすることとも共通するのですが、鍵盤ではない発想からモジュラーシンセと取り組んでみるというのは重要でしょうね。それはBuchlaのモジュラーシンセがなぜ鍵盤を付けなかったのかという問いに対して、元々はクラシックのクラリネット奏者であったモートン・サボトニックのこの言葉からも伺えます。

"(鍵盤を付けなかった)一番の理由は 'Buchlaで音楽を演奏するつもりがなかった' からだ。私はクラリネットでどんな音楽でも演奏することができる。だからシンセサイザーで '音楽' を演奏することは、私にとっては意味が無いんだ。当時、私はBuchlaになろうとしていた楽器を 'Electronic Music Easel' と呼んでいた。音楽におけるサウンドを、絵画の絵の具と同じように捉えていたんだ。だから鍵盤はタッチ・プレートになり、指先の力加減でサウンドの '色' を制御できるようにした。"

ちなみに動画はAkai ProfessionalのEWIとトランペット型のEVIですが、元々は米国のナイル・スタイナーという人が開発、販売したSteiner Hornというのが原型です。EVIはSteiner Hornそのもののデザインでしたが、すぐにサクソフォンの運指によるEWIに一本化された為に今となっては希少なモデル。しかし現在ラインナップされているEWI4000にはプログラムとしてEVIの運指で演奏することが可能です。







すでにProtoolsに象徴されるコンピュータでのDAW環境が一般化し、すべてがプラグインやソフトシンセなどを画面上でプログラミングする制作手法の反動として、このようなアナログ的な制作手法が甦っているというのは興味深いですね。これは単に、ソフト化されたモジュラーシンセを画面上のヴァーチャルなパッチで結線して鳴らしていた若い層が、懐古趣味的に '手作業' で試してみたということではなく、利便的な環境の中で '何でもできることが何かを刺激することではない' ということに気がついたのだと思います。音色の保存は出来ない、MIDI(MIDI to CV/Gateコンバーター)はあるけど基本的にモノによる音作り、'ユーロラック' サイズになったとはいえ場所の取る制作環境など、モジュラーシンセの不便さを挙げていけばキリがないのですが、むしろ、その不便さこそが音楽的なモチベーションを刺激すること、'手を使う' ことがそのまま創造力の担保として至極自然に体感できるのでしょう。上の動画はマトリクス・パッチピンが独特な 'ガジェット・シンセ' の極北であるEMS Synthi AKSとその最高峰、Synthi 100!。







Bruno Spoerri Interview
EMS Pitch to Voltage Converter ①
EMS Pitch to Voltage Converter ②
Computone Lyricon

さて、こちらはそんなジャズ・サックス奏者から実験好きの 'マッドサイエンティスト' 的存在へと変貌したスイスのエレクトロニクス・ミュージックの御大、ブルーノ・スポエリ。わたしがこの人の存在を知ったのは1970年、プログレに積極的だったレーベルDeramからジャズ・ロック・エクスペリエンスの一員として同郷のラッパ吹き、ハンス・ケネルと参加した '企画もの' 的ジャズ・ロック盤 'J.R.E.' を聴いたことでした。そんな管楽器と 'エレクトロニクス初期' の頃の思い出を '5つの質問' としてネット上のインタビューでこう答えております。

- また、1970年代にあなたは電化したサックスで実験されましたよね。あなたのサックスを電化するにあたり用いたプロセスはどのようなものでしょう?

- ブルーノ
サックス奏者でありジャズのインプロヴァイザーでもあるわたしは、いつもキーボード以外のやり方で演奏することを探していました。1967年にわたしはSelmer Varitoneを試す機会を得たのですが、しかし(それはあまりに高価だった為)、わたしはConn multi-Viderを、その後にはHammondのCondorへ切り替えて使いました。特にわたしは多くのコンサートでMulti-Viderを使いましたね(1969年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで私たちのジャズ・ロック・グループが使用し、そこでエディ・ハリスにも会いました)。1972年にわたしは、EMSのPitch to Voltageコンバーターをサックスと共に用いてコンサートをしました(VCS 3による3パートのハーモニーやカウンター・メロディと一緒に)。そして、1975年にわたしはLyriconの広告を見て直ちにそれを注文したのです。









最近の 'ユーロラック' モジュラーシンセでは、いわゆる 'グラニュラー・シンセシス' のアプローチからサンプラーなどデジタルの発想を積極的に盛り込んでおり、従来のアナログシンセとは違うベクトルで製品開発が行われております。創造力の詰まったアイデアの源泉とも言うべき豊富なパレットを欲し、尚且つ潤沢な資金力をお持ちの方はこのモジュラーシンセ、是非ともチャレンジしてみて下さいませ!

2018年9月4日火曜日

再び '質感生成' の旅に出る

以前、'質感に携わるものたちへ' や '5月の '質感' 実験室'という項でも書いたのですが、この '質感' というヤツと管楽器の 'アンプリファイ' について、もう少し追求してみたいという欲求があるんですよね。目的は 'アンプリファイ' という環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、ピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音' を '作ろう' という試みなのです。





Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ ①
Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ ②
Urei / Universal Audio 565T Filter Set

以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

- そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S - 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

- それはだれかが先にやってたんですか?

W - 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S - 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W - 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

- しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S - 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W - それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S - で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W - 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S - ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W - フィディリティって '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

- 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W - それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

- フィルターとEQの違いは何ですか?

S - 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W - 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S - エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

- そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W - お手軽にいい音になるというかね。

S - 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

- しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W - それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

- 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W - 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S - それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W - よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

- 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W - ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S - 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W - System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S - 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W - 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

- 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W - それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

- トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W - 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S - それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W - 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S - Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

- エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W - エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S - 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W - 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S - 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

- 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S - それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスはしっていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W - 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

- ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S - 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W - ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

- 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S - デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W - それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S - 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W - それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S - どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。



Electrix EQ Killer + Filter Queen
Electrix EQ Killer + Filter Queen Review

以前に紹介したものはオートワウや 'ローファイ' もの、シンセサイズするフィルターなど、かなりエフェクティヴに '質感' 自体を変えてしまうもの中心でしたが、今回取り上げるのはなかなかに 'プラシーボ' 的なエッジ、各帯域を補正する難物ばかり。EQのようにも思えますが、各帯域の位相などに影響を及ぼすEQと比べて、例えばMoogやArpのVCF、VCAに外部入力すると単純にMoogやArpの '匂い' になるその機材特有の '質感' を求めるということと同義です。







しかし効果自体はそういった 'シンセサイズ' と違い、一聴して直ぐにその効果を把握できるものではないのだから悩ましい・・。面白そうだと慌てて購入して、何だよコレ、変わんねーじゃねーかよ!と直ぐに投げ出してしまいたくなるものばかりですが(苦笑)、ずーっと使ってみて突然 'Off' にした時、実はその恩恵を受けていたことを強く実感するもの。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムとしてここにお届けします。











JHS Pedals Colour Box

そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階で切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。上の動画だけ見ても管楽器奏者の認知度は上がっておりますね。



API TranZformer GT
API TranZformer LX

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサーと2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能ですね。





Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?





Pettyjohn Electronics Filter

こちらはPettyjohn Electronicsのその名もFilter。と言っても 'シンセサイズ' のフィルターではなくEQ的発想からギターの '質感' を整えていくもの。中身を覗くとなかなかにレアなオペアンプ、コンデンサーなど豪華なパーツがずらりと並びこだわりが感じられます。本機もまた、JHS Pedals Colour Box同様にアナログ・コンソールのEQ回路(たぶんNeveでしょう)をベースに設計されたようで、ギターの帯域に向けながら、あえて 'EQ' ではなく 'Filter' と称して極端な '位相乱れ' を廃し、あくまで '質感' の生成に特化したものだということが分かります。







Terry Audio The White Rabbit Deluxe

そんなPettyjohnとは真逆なガレージ臭プンプンのTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。







NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force ②

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをライヴやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで '付加' する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのも面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。



Hatena ? The Spice ①
Hatena ? The Spice ②

ちなみにこの工房はNeotenicSoundの前にHatena?というブランドを展開し、Magical Forceの源流ともいうべきActive Spiceという製品で一躍その名を築きました。このThe Spiceはまさに最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミズムのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。Magical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整する音量のVolumeの他はかなり異色なもの。音圧を調整するSencitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、Tightスイッチはその名の通り締まったトーンとなりOn/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となりまする。







Maestro Parametric Filter MPF-1
Stone Deaf Fx

MaestroのParametric Filterは、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することで生み出されました。本機特有の 'フィルタリング' はやはり1990年代以降の '質感世代' に再評価されることとなり、とにかく何でも通してみる・・ジャリジャリと荒い感じとなったり、'ハイ落ち' する代わりに太い低域が強調されたりすれば、それはもう 'ベッドルーム・テクノ世代' の求める '質感' へと変貌します。後にMoogはこれを '歪み系' のエフェクターに特化したMinifooger MF Driveとして蘇らせましたが、英国の工房、Stone Deaf FxからもPDF-2として登場。本機は 'Clean' と 'Dirty' の2つのチャンネルで切り替えて使うことが可能でおお、便利〜。また、専用のエクスプレッション・ペダルを用いればエンヴェロープ・フィルターからフェイザー風の効果まで堪能できる優れモノ。管楽器においては適度なクランチは 'サチュレーション' 効果も見込まれますが、完全に歪ませちゃうとニュアンスも潰れちゃう、ノイズ成分も上がる、ハウリングの嵐に見舞われてしまうので慎重に '歪ませる' のがこれら設定の 'キモ' なのです。



Pigtronix Disnortion Micro

Youtubeでも積極的にラッパの 'アンプリファイ' を推奨するカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがPigtronixのアッパー・オクターヴなディストーション、Disnortionでのデモ動画。しかし、さすがにコンデンサー・マイクのセッティングではほとんど歪ませることが出来ず、ほぼサチュレーション的倍音の '質感生成' に終始した音作りですね。ワウも踏んでおりますがかなりコンプでピークを潰しながらハウる寸前・・。すでにこの 'でっかいヴァージョン' は廃盤ですが、現在はより小型なDisnortion Microとしてラインナップ。









Elektron Analog Heat HFX-1
Elektron Analog Heat HFX-1 Review
Elektron Analog Heat Mk.Ⅱ

ここまでは基本的にギター、ベース用のコンパクト・エフェクターに絞った '質感' ものを取り上げてきましたが、このテクノ系シンセやドラムマシン、サンプラーなどを製作するスウェーデンのElektronが送り出した 'Audio Enhancer / Audio Destroyer' のAnalog Heatが面白い。その名の如くアナログ的に倍音やトーンを破壊するくらい変えてしまうのですが、Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。これは例えば、Boss VE-20 Vocal Processor内蔵の '歪み系' が管楽器に対して有効であるのと同じ理屈で使いやすいのです。さて、その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。すでにこのHFX-1は廃盤となり、現在では大型LCDを備えたMk.Ⅱにモデルチェンジしておりますが、管楽器で理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメ!





OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit

こちらはフランスのOTO Machinesから登場の 'Desktop Warming Unit' と題したBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。おお、これはAnalog Heatの 'ライバル機' といって良いでしょうね。

Dr. Lake KP-Adapter

ちなみにこれらステレオ入出力、ラインレベルの機器をコンパクト・エフェクターと同時に使用する場合は、新潟の楽器店あぽろんプロデュースのDr. Lake KP-Adapterのインサートで使用するのが便利です。











Audio-Technica VP-01 Slick Fly
Zorg Effects Blow !
Radial Engineering EXTC-SA

ここまで紹介してきた機器はプリアンプ的機能を持ったものもあり、例えば、管楽器用に特化した 'インサート' 付きプリアンプなどと共に使うとピークを割って歪んでしまう場合があるのでレベル合わせには注意が必要です。個人的には直列で繋いでからパッシヴのDIで出力した方が使いやすいんじゃないかな、と思いますね。もしくはマイクからそのままライン・ミキサーへ入力した後、Radial Engineering EXTC-SAのような 'リアンプ' でバスアウトから 'インサート' する、または 'センド・リターン' で原音とミックスするかたちでの接続がベター。動画は 'ユーロラック' サイズの '500 Series' で用意されたもの。









さて、いかがだったでしょうか。これらはプリアンプやブースターの機能も持ち合わせながら、その '質感' を過剰にさせることでファズっぽく、ドライブっぽく歪ませることも可能・・いわゆる 'サチュレーション' の飽和感までカバーします。これを管楽器においてはそのギリギリのところで 'クリーン' に太くする、荒くするというのが設定の 'キモ' であり、慌てず騒がずハウらせず、ジックリとその倍音の変化に耳を傾けて頂きたいところです。

2018年9月3日月曜日

9月のワウ選び

エフェクターってひとつひとつは小さいですが、これがいくつか溜まってくるとスペースを占拠して生活を圧迫する(苦笑)。'Pedals And Effects' の動画にある '秘密基地' みたいに棚へズラッと並べてみたい欲望もあるのだけど、あんな膨大な数を所有していないし埃まみれになるのもイヤなもの。そんな '圧迫' の最たるものがワウペダルでして、これが床に置きっ放しのまま不意に躓くと突き指するくらい痛かったりするんですよね・・。しかし、管楽器の 'アンプリファイ' でディレイと並び最も満足度が高いのもこのワウペダル。ええ、ワウワウ、ギュイ〜ンとブレスと共に踏んだりベンドする 'プレイヤビリティ' へのダイレクトな反応が楽しいじゃないですか。すでに何度か取り上げておりますが、またまた、懲りずに行ってみましょうか。


わたしの現在の足元に収まっている '手のひら' ワウの先駆、シンガポールのガレージ工房が手がけたPlutoneium Chi Wah Wah。光学式センサーによる板バネを用いたワウペダルで通常のワウとは真逆の踵側をつま先で 'フミフミ' して操作します。専用のバッファーを内蔵して0.5秒のタイムラグでエフェクトのOn/Off、そして何より便利なのがワウの効果をLevel、Contour、Gainの3つのツマミで調整できるところ。特別、本機にしか出てこない優れたトーンを持っているとは思いませんが、基本的なワウのすべてをこのサイズで実現してしまったものとして重宝しております。ワウの周波数レンジは広いものの、ペダルの踏み切る直前でクワッと効き始めるちょっとクセのあるタイプ。また、2010年の初回生産分のみエフェクトOn/Offのタイムラグが1.1秒かかる仕様だったので、中古で購入される方はご注意下さいませ(2010年10月以降は0.5秒仕様)。本機はペダルボードの固定必須で使うことが安定する条件となり、普通に床へおいて使うと段々と前へズレていきます。個人的にはその踵側を踏む姿勢から、立って踏むより座って踏んだ方が操作しやすいですね。ちなみに上記のリンク先にあるPlutoneiumのHP、ええ、アジア色全開の怪しいサイトではございません(笑)。





G-Lab
G-Lab Wowee-Wah WW-1
G-Lab Wowee-Wah WH-1 Warren Haynes Signature Model

Chi Wah Wahが超小型ならこちらはスイッチのOn/Offを '足乗せ' な感圧式センサーにしたポーランドG-Lab製ワウペダル、Wowee-Wah WW-1。実際、このような機械式スイッチの '踏み外し' によるOn/Offの不具合はよくあるのですが、それを単にペダル面に足を乗せるだけでセンサーが感知してOn/Offしてくれるという有り難い逸品。もちろん、通常の機械式スイッチとの切り替え可能でさらにトーン調整用としてQ-Factor、Bass、Deep、Volumeの各スイッチも備えて多様な音作りに対応します。また本機にはウォーレン・ヘインズのシグネチュア・モデルWH-1も用意され、WW-1に比べてQ-Factorスイッチのみの特化したワウとなっております。









Jim Dunlop Crybaby
Crybaby Mini CBM95 VS. Crybaby GCB95

こちらはわたしが一番最初に購入したワウペダル。時代はちょうど1990年代半ばの 'ヴィンテージ・エフェクター' 再評価と復刻が始まっていた頃でして、それまで管楽器店しか知らなかったわたしにとりエレクトリック・ギターのお店は完全に未知の世界。全くの門外漢から見ればズラッと並んだ楽器の違いなど分かるハズもないのだけど、それは管楽器店にズラッと並ぶ金色や銀色のラッパを見てどれも同じじゃん、という感想と一緒ですね(笑)。このワウペダルというヤツも皆一様に黒いペダル状の物体が並んでおり、どれを選んだら良いのか分からなかったのですが、一応頭の中にあったのはマイルス・デイビスが使用したVoxのもの。しかしここで、そもそもギター用の機器を管楽器で使うにあたって大丈夫なのか?かかる帯域によってハズレもあるのでは?という '警報' が鳴り出します。もちろん試奏なんて出来ない環境でいくら悩んだって答えは出ないのだけど、そんな黒い物体の中で一台だけ 'スペシャル' なヤツを発見!見た目はCrybabyながら、中身はRoger Mayerという会社の 'ワウキット' をお店で組み込んで販売しているとのこと。価格もそこに並んである中でかなり高いものだったことから悩みましたが、購入の決め手は横に付いている3段階切り替えスイッチ(動画のものは7段階切り替え式)。今でこそこういうワウペダルは珍しくないですが、当時はこのRoger Mayer以外で見たことのない仕様でして、これならギター以外の楽器でもいけるんじゃないか、と・・。音色的には 'ドンシャリ' ながらラッパでもかなりエグい効き方で満足したことが昨日のことのように懐かしい。まあ、残念ながらこのRoger Mayerのものは今では入手できないものの、いわゆるノーマルのCrybabyでも十分に管楽器で威力を発揮してくれます。色々なモデルを展開しており、On/Offスイッチを省いて板バネで踏めばそのままOn、離せばOffになるGCB95Qなどは便利なのですが、その中でも '手のひら' サイズのCBM95 Crybaby Mini Wahはサイズ感と機能で申し分ないのでは?





さて、そんなマイルス・デイビスといえばVoxのワウペダルでして、あくまで噂話の域ではありますが、バンド・オブ・ジプシーズの大晦日公演のバックステージで再会したジミ・ヘンドリクスからデイビスの元に送られてきたのがご存知 'Clyde McCoy' ワウペダル。これを1970年から71年にかけて自身のステージで踏んでおりましたが、バンド・メンバーを一新した1972年以降、活動停止する75年にかけて足元にあったのがこの 'King Vox Wah' というもの。本機は、それまでイタリアEME社での生産をしていたVoxが米国カリフォルニア州のThomas Organ社の工場に移して生産した当時の新製品。この '面構え' を見るとわたしなどはそのまま 'エレクトリック・マイルス' のイメージへと変換してしまいます。





Maestro Boomerang BG-2
Farfisa Wha-Wha / Volume
Maestro Wha-Wha / Volume WW-2

ワウペダルって消耗品というイメージもあり、基本的に 'ヴィンテージ' のものは手を出さないのですが、比較的状態の良いMaestroのBoomerang BG-2というのは一時期気に入って所有しておりました。DeArmondやFoxxのペダルと共通する流線型な筐体が格好良いのはもちろん、そのVoxやCrybabyとは一味違うニュアンスのワウは管楽器にもマッチしました。特に本機は、アイザック・ヘイズの 'Theme from Shaft' で聴かせる印象的なワウ・カッティングを奏でたことで近年再評価されたのには驚き・・。そんなMaestroの '血統' としてこちら、オルガンの製作で老舗的存在のFarfisaから用意されたワウペダル。オルガンとギターの入力に際して前面のスイッチで切り替えられるようになっており、また、筐体自体の踏む角度が上下に調整できるというのも座って踏める為の配慮となっているのが面白い。効果自体は比較的大人しい効き具合でオーソドックスなのですが、実は本機、BG-2の前身に当たるMaestro Wha-Wha / Volume WW-2のOEM品なのです。鍵盤メーカーらしいFarfisaの仕様の違いは、全て金属筐体のMaestroに比べてこのFarfisaはプラスティック筐体となっております。わたしは1960年代のヴィンテージな管楽器用 'アンプリファイ' システムを所有しており、それらでワウワウさせるべく中古で見つけて愛用しておりまする。









Moog Moogerfooger MF-101 Lowpass Filter
Electro-Harmonix Riddle: Qballs for Guitar

わたしの 'アンプリファイ' な管楽器の原風景がまさにこれ、ワウワウをかけて咆哮する歪んだトーンなんですヨ。ベルを真下に向けて屈み込むようにペダルを踏むマイルス・デイビスの姿はかなり奇異に映り、ラッパのマウスピースから飛び出るケーブルはそのままペダルへと直結されている・・。ん!?コレはどゆこと!?そんな素朴な疑問から早30年ちょっと・・未だ熱狂しているって良いのか悪いのか(苦笑)。ちなみに、ここでは音量の感度調整によりかかるエンヴェロープ・フィルターの動画も上げておりますが、最近の製品はVoxやCrybabyに代表される 'ヴィンテージ・ワウ' のトーンを意識したものが多く、その操作性のほか、一聴しただけではワウペダルとの判別をしにくいものがあります。どうしてもペダル操作が煩わしい、苦手だという方はこのエンヴェロープ・フィルターを選んで見るというのも一考です。







Source Audio SA143 Bass Envelope Filter
Source Audio SA115 Hot Hand 3
Sonuus Wahoo

管楽器の 'アンプリファイ' 広報に精を出すJohn Bescupさんは色々なワウを試されておりますけど、現在 '手元' に置いているSouce Audio SA143は新たに追加した多機能な一台。どうもそのサイバーな(オモチャっぽい?)デザインからここ日本ではイマイチ人気に乏しく、最近そのラインナップを一新してStrymonのようなアルミ筐体にヘアラインを施したものに変更されました。このSA143はデジタルならではの多彩な効果と扱いやすさ、安価な中古市場において結構人気が高く、外部エクスプレッションからSA115 Hot Hand 3と呼ばれるモーション・コントロールを行うことでテルミン的操作を楽しめます。また、ラッパ吹きながらベース用を選んだのは想像ですが効きの良さと音痩せのなさ、を重視した結果なのではないかな、と。このようなデジタルの多目的な機能を備えたものとしては英国の新興メーカー、Sonuus Wahooというのもありますが、まあ、あまりに多機能過ぎるので動画やリンク先のスペックをご参照下さいませ(苦笑)。シンプルにばっちりハマる単純なワウを買うか、このような多目的に音作りできるものを買って好みのセッティングを追求するか、いつも悩むところなんですよねえ・・。



Jacques Trinity - Filter Auto & Classic Wah

そんなエンヴェロープ・フィルターが 'ヴィンテージ・ワウ' を意識した変わり種として、フランスの工房Jacquesから登場した 'Filter Auto & Classic Wah' のTrinity。エンヴェロープ・フィルターの中には外部エクスプレッション・ペダルを繋げることでペダル操作できるものもあるのですが、本機はエンヴェロープ・フィルターと 'ヴィンテージ・ワウ'、モジュレーション的フィルタースウィープな多機能を備える '三位一体'。ユニークなのはそのエクスプレッション・ペダルとして唯一無二なポンプ式の 'フミフミするヤツ' が付いてくること!コレ、多分この工房独自のアイデアなんじゃないかと思いますが、感触としては少々硬めで 'グリグリ' っとポンプの奥の方にスイッチがある感じ。見た目でパフパフするイメージ持っていると裏切られますけど(笑)、そんなに強く踏まなくてもちゃんとワウとして機能しますので好奇心旺盛な方はどーぞ。ちなみに、そんな '飛び道具' 的仕様に反して音色はオーソドックスなワウですね。



Voodoo Lab Wahzoo

こちらはペダル・タイプの '三位一体'。Voodoo Labといえば高品質なパワーサプライの定番、Pedal Power 2 Plusでエフェクター界に燦然と輝く存在ともいうべきブランドなのですが、その他のエフェクターについては正直マイナーの域を出ないというか、まあ、あまり人気のあるイメージではないですね。そういう偏った評価を受けてか、長らく代理店を務めてきたAll Accessが取り扱い終了したことで現在同社の製品は日本の市場から姿を消してしまいました(未だPedal Powerユーザーなのに・・悲)。そんなVoodoo Labが手がけたこのユニークなワウ、Wahzooもイマイチ浸透しなかったのですが、代理店終了と共に '現状渡し' の在庫整理でわたしも格安で手に入れました!本機はワウペダル、エンヴェロープ・フィルター、4種切り替えからなるランダム・アルペジエイター(Xotic Robotalkでお馴染み)をひとつのペダルに搭載してしまったもので、これ一台だけで多彩な効果を生成することが出来ます。便利な 'マルチ' 仕様でランダム・アルペジエイターの 'ユーザー・プリセット' を4つまでプログラム出来るものの、効果自体はオーソドックス過ぎてちょっと個性に欠けるかな。ちなみにペダルの可変はタコ糸を用いたスムースな踏み心地となりまする。







Xotic Effects Robotalk-RI
Mu-Tron Micro-Tron Ⅲ -Classic Blue-
HAZ Laboratories Mu-Tron Ⅲ+

1990年代後半、突如市場に現れたXotic Guitars Robo Talkはそれまでのエンヴェロープ・フィルターとは一味違う '隠し味' で瞬く間に席巻しました。その一風変わった効果を持つ本機の出所は、1970年代にトム・オーバーハイムによりデザインされたMaestro Filter Sample/Hold FSH-1。特にフランク・ザッパがSystech Harmonic Energizerと共に愛用したことで現在まで大きな付加価値が付いております。また、本機の評価は単なる '懐古趣味' に留まらず、同時代の新たな 'ジャンル' ともいうべきエレクトロニカの 'グリッチ' と本機の 'ランダム・アルペジエイター' の見事な呼応性にあります。初代及び2代目までは2つの個別供給であるDC18V仕様でしたが、現在のRobotalk-RIは一般的なDC9V仕様として使いやすくなったのは便利。特筆したいのは本機のエンヴェロープ・フォロワーの追従性が非常に優れており、Rangeの 'ワンノブ' ひとつで見事にワウとしての仕事をこなしてくれる 'シンプル・イズ・ベスト' !。そして、同じく '70'sオートワウ' の代表格、Mu-Tronがオリジナル設計者マイク・ビーゲルの手で復刻されました。これはMu-FxのブランドからTru-Tron 3Xの名でほぼオリジナル通りに蘇ったものなのですが、現在ではMu-Tronブランドの名も復活し、さらにコンパクトなMicro-Tron Ⅲとして使いやすくなっております。ちなみにオリジナル通りの復刻といえば先に登場したHAZ LaboratoriesのMu-Tron Ⅲ+が個人的に気にいって愛用しておりました。エンヴェロープ・フィルターってワウのQを鋭くする代わりに音痩せするものが多いのだけど、本機は大人しめながら原音の太さを保ったままちゃんとワウとしての仕事をこなしてくれる稀有な一台。元Musitronicsで働いていたハンク・ザイジャックが手がけたものでビーゲル氏は貶してたけど(苦笑)、いや、その大きな筐体に抵抗なければオススメしたいですねえ。動画は1970年代に新映電気がデッドコピーしたUni-Tron 5との比較試奏ですが、エグいながらも音痩せ全開な新映製に比べてこのMu-Tron Ⅲ+の安定感(ついつい派手目にかかるUni-Tron 5の方に耳を奪われちゃいますが)。





Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar F.Zappa Filter Modulation

そして・・フッフッフ。つ、ついにあの '化け物' フィルターのペダルをとある筋を通じて手に入れたゾ!ええ、日本ではとんでもない価格で販売されていたので店頭のガラスケースを眺めるだけでしたが(汗)、いやあ、このBoss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-pass、Band-pass、Hi-passを切り替えながらフィルタースィープをコントロールするという荒削りな一品。実際、ペダル裏側には配線がホットボンドとマスキングテープで固定して配置されており、まるでレーシング用フォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身は・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼びたいエグいもの。これを管楽器などで使ってしまい怒られやしないか(誰に?)とヒヤヒヤしますが、VCFを丸ごと抜き出してきたような帯域幅の広いQの設定で、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' からワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。あ、もちろん本機もBoss FV-500の筐体を利用したタコ糸によるスムースな踏み心地なり。







Acoustic Control Corporation 260 + 261
Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-1
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Systech Harmonic Energizer
Fredric Effects Do The Weasel Stomp !

ちなみに、フランク・ザッパが追求してきた 'フィルター趣味' ってMaestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-1→Oberheim Voltage Controlled Filter VCF-200→Systech Harmonic Energizerとかなり独特な嗜好となっているので、そろそろジミ・ヘンドリクスの機材ばかりではなくこの辺りの '分析' も積極的に掘り進めて頂きたいですねえ。その源流ともいうべき1968年のステージではVoxのワウペダルとヘッドアンプのAcoustic 260、そしてMaestroのG-1(G-2は翌69年の発売)の姿を拝むことが出来ますが、多分ザッパはG-1内蔵の3種からなる 'Color Tones' の 'ワウ半踏み' 風フィルタリング効果こそ重要なトーンだと感じていたのかも。そんなHarmonic Energizerのトーンを英国の工房Fredric EffectsがデッドコピーしたDo The Weasel Stomp!。



Z.Vex Effects Wah Probe Vexter

実はこちらも以前所有しておりました。Z.Vex Effectsといえば 'エレハモ' とは別の意味で奇才、ザッカリー・ヴェックスの豊かな発想力を具現化した '飛び道具' 製品でこの市場を引っ掻き回し、それは現在進行形で 'ペダル・ジャンキー' の欲望を鷲掴みしてきました。このWah ProbeというのもそんなZ.Vexを代表する一台であり、ペダル操作の部分を 'カッパーアンテナ' という銅板に足や手を近付けたり遠ざけたりしながらワウワウさせます。このシリーズはほかにTremolo ProbeやFuzz Probeなどが用意されておりますが、入力バッファーに同社ヒットのきっかけとなったブースターSuper Hard Onを内蔵、少々サチュレートした '歪み感' を伴ったワウトーンが特徴的。ワウの効き自体はオーソドックスなものでフツーに使えるものの、踵を支点につま先を空中で浮かせながら操作するということで、やはり足首が疲れるのは否めませんねえ(笑)。しかし、その帯域の広いトーンは管楽器にもバッチリ合いますので '他とは違うワウ!' を探している方は是非チャレンジして頂きたい。







WMD Protostar

上でご紹介したSource AudioやSonuusとは別に、世の中にはチマチマと凝った音作りで色々と '実験' してみたいと思う人たちがおります。そんな溜飲を下げる存在として徹夜でハマりそうな逸品がこちら、WMD Protostar。すでにこのWMDは 'ビットクラッシャー' なGeiger Counterや 'ユーロラック' モジュラーシンセの分野でも有名ですが、そんなところからフィードバックされた思しきこのコンパクトにして各種パラメータとパッチング・システムが異様な存在感を放ちます。どれどれ、ちょっとその豊富なパラメータを覗いて見ましょうか。

●Attack
エンヴェロープが信号に反応する速さを調整。このツマミでAttackとReleaseの両方をコントロールします。
●Threshold
信号に対してエンヴェロープが反応する敏感さを調整。
●Env Amt
エンヴェロープがフィルターの周波数にどの程度影響するかをコントロールするアッテネーターです。正負両方の設定が可能。
●Resonance
フィードバックやQと同様の意味を持つコントロール。カットオフ周波数周辺のブーストを調整します。
●Freq
フィルターのカットオフ周波数を設定します。
●LFO Rate
前うLFOのスピードを調整します。
●LFO Amt
LFOがフィルターの周波数にどの程度影響するかをコントロール。
●Compression
信号の最終段にあるコンプレッションの強さを調整。余計な音色や共振を抑えるために使用します。
●Dry / Wet
エフェクト音に原音をミックスします。
●Mode
本体の動作モードをボタンで切り替えます。4つのモードは上からノッチダウン、ハイパス、バンドパス、ローパスです。
●Send / Return
外部エフェクトループ。フィルターの前段に設置したいエフェクトを接続します。
●CV / Exp
エクスプレッションペダルを電圧制御(CV)でコントロール。この端子はExp Outに直結します。TRSフォン使用。
●Sidechain
エンヴェロープ・フォロワーへのダイレクト入力です。外部ソースを使用してエンヴェロープ・フォロワーをコントロール。
●Exp Out
CV / Exp入力の信号を出力します。ここからエクスプレションペダルで操作したいソースへと接続。
●Env Out
常時+5Vを出力し、エンヴェロープがトリガーされると0Vになります。
●LFO Out
トライアングルウェーブのLFOを出力します。スピードはLFO Rateでコントロール。
●LFO Rate
LFOのスピードをコントロールするためのCV入力。
●LFO Amt
LFO Amtコントロールを操作するためのCV入力。
●Freq
カットオフ周波数を操作するためのCV入力。
●Feedback
レゾナンスを操作するためのCV入力。



フゥ〜・・もう、単なるワウというよりフィルターの '化け物' っていうくらい豊富過ぎるパラメータ満載で、正直ここまで必要あるのか?という気もしますが、しかし、週末の '暇つぶし&探求' にはもってこいの一台でもあります。アプローチ的にはマイルス・デイビスのワウというよりニルス・ペッター・モルヴェル的フィルターの '質感' に威力を発揮しそう。また一方では、コンパクト・エフェクターから 'ユーロラック' モジュラーシンセへの危険な '招待状' 的きっかけになってしまうこと間違いなし(笑)。皆さま、散財にはご注意下さいませ。

2018年9月2日日曜日

真鍮無垢な '喇叭' の世界

こういう従来のラッパとは違う'ぶっとい' ヤツが市場に現れたのは1990年代初め。多分当時、シカゴに工房を構えていたデイヴィッド・モネット製作のものをウィントン・マルサリスが吹いて話題となってからだと思います。基本的にMonetteはフル・オーダーのシステムを取っていることもあり、オーナーが手放さない限りは中古として市場に出回らないのですが、日本の楽器店が '見た目だけマネ' したようなBachやYamahaの改造品をよく見かけましたね・・。そんな、とにかく高い、重たい、珍しい・・のハイエンドなラッパばかりを集めてみました。









Monette
Spiri daCarbo Vario

永らくその変わらないフォルムの伝統を引き継ぎ、ヨーロッパのクラシックの中で育まれてきたトランペットという金管楽器は、そのMonetteを合図にして近年、かなり独創的なラッパを好む層が増えてきました。それはアート・ファーマーの要望でMonetteが製作したトランペットとフリューゲル・ホーンの '混血' Flumpetに結実し、一方では、近藤等則さんもご愛用のスイスの工房Spiriによるカーボンファイバー製のベルを装着したdaCalboなど、古い固定観念に捉われない 'ハイテク' なラッパを志向する層へと広がります。しかしロイ・ハーグローヴは、InderbinenのSilver Artに続いてSpiroのdaCalboといった新しいラッパを常にチェックしているとは・・。





Inderbinen Horns
Inderbinen Silver Art
Inderbinen Inox
Inderbinen Da Vinci
Inderbinen Studie
Inderbinen Amarone

ロイ・ハーグローヴと言えばスイスのInderbinenを吹くイメージが強いのではないでしょうか。従来のラッパにはなかった奇抜な発想の先駆的メーカーとして、管体すべてに銀をダラダラと垂れ流しちゃうこのSilver Art。正直、ラージボアで銀の固めまくったベルは鳴らすのキツそう。他にもInoxやDa Vinciとか・・この 'やり過ぎ' な感じは一体何なんだ?また英国のTaylorとか、もうふざけているとしか思えないくらい 'ぶっ飛んだ' ラッパのオンパレード・・。実際、ラッパ業界は 'Selmer信仰' の強いサックスに比べてヴィンテージへの執着が薄いと思います。特徴的なのは通常のチューニングスライドとは別にベルが可動式の 'チューニングベル' 式としてネジ止めされていること。



Eclipse Trumpets U.K.
Spada Trumpets

Inderbinenと同じスイスの工房であるSpadaやニルス・ペッター・モルヴェルが愛用する英国の工房Eclipseのラッパもこんな方式なのだけど、多分、吹奏感と音のツボなどに影響があるのでは?いや、個人的にはこのような調整箇所が多い分、凄い面倒くさそうなんですが・・(苦笑)。実際、ボトムキャップの締め方だけで楽器の '鳴り' は激変するワケですから、使う度に全てを均等にネジで締められるかと言うと・・う〜ん。



Inderbinen Wood
Inderbinen Sera

また同社のフリューゲルホーンで人気があるのはInderbinenのWoodというヤツ。ここ日本ではTokuさんが愛用していることでも知られており、同工房では通常の管の巻き方であるSeraというモデルも用意されておりますが、このWoodはさらにベル、ボア共に大きく 'ウッディな' 鳴りをしてくれるとのことで 'ヴォーカル' 的イメージの吹奏感なのかな?その見た目はチェット・ベイカーなども吹いていた昔のSelmer K-Modifiedっぽい感じで、さらに持ちやすいようにボトムへ長いパイプが装着されております。

個人的にこの手のラッパでは随分と昔、お店に置いてあったInderbinenのStudieというのを吹いてみたことがあります。ベルやボアサイズも凄いですが、あちこちに錘のようなものが貼り付けてあって、見た目の厳つさは迫力満点(好みではないけど)。吹く前はその鈍重な見た目から抵抗感がもの凄いのかと思いきや、プッと軽く息を入れたものがそのままスルスルと音に変換する吹きやすさを実感!おお、何だヘヴィタイプって吹きやすいじゃん、と一瞬思ったのだけれど、しかし、この分厚く重い管体をローからハイまでフルパワーで鳴らしきれるのか?という '恐れ' と共にそっと置きましたね・・(苦笑)。あと、ベンドなどのニュアンスに対して崩れにくいというか、音像が一定に鳴っているという感じで、個人的には、何でも無駄な共鳴として鉄板で '抑えない' 従来のラッパのが好きだな、という感想でした。





Taylor Trumpets
Taylor Custom 46 Super Lite Oval NL

現在、奇抜なラッパばかりを作るイメージの強くなったTaylorのフリューゲルホーン、Phatboyでケニー・ウィーラーの名曲 'Kind Fork' に挑戦。ウィーラーはWeberのフリューゲルホーンでしたけど、どちらも管体がグニャグニャと曲がりに曲がって・・そんな既成の '管楽器観' はアンディ・テイラー氏の手により 'Custom Shop' 謹製で破壊されます(笑)。というかもう、これは理論的にどうこうよりラッパという 'アート作品' ですね。 この工房のものだと楕円形のベルに成形した 'Oval' シリーズのラッパが凄い気になっているのだけど。









Whisper-Penny
Monette Raja Samadhi
Monette New Prana STC Flugelhorn

そんな管体がグニャグニャと曲がりに曲がった流行は、ここ近年Whisper-Pennyなるドイツの工房からMonetteまで広く波及しております。特にフリューゲル界はその波を被っているようですが、このWhisper-Pennyさんのところはラッパ含めかなりの '独自理論' で突っ走ります。しかし、マウスピースのスロートから奇妙な金属棒を入れてスロート径を狭くし、ズズッと息の抵抗を強調する 'サブトーン' な 'エフェクト' は初めて聴きましたが、ミュートとは別に新たなラッパの 'アタッチメント的' 音色として普及したりして・・。ちなみにMonetteに代表されるヘヴィなラッパの目的は、遠逹性を指向してホールの最後端辺りをスウィート・スポットにして狙うのが目的だそうで、逆にPAによる 'マイク乗り' との相性は良くないという話を聞いたことがありまする。そんなヘヴィなラッパの中の最高峰、Monette Raja Samadhiはラッパ吹きなら一度は所有、吹いてみたいものの一本でしょうね。







Adams Instruments by Christian Scott

最近、メディアでその名前をよく聞くクリスチャン・スコットの最新作 'Stretch Music' のジャケットに現れる、フリューゲルホーンを上下引っくり返してしまったような?ヤツ(クレジットには 'Reverse Flugelhorn' となっている!)、これってオランダのAdamsでオーダーしたヤツなんですねえ。正直、かな〜り格好イイんですが、この人のやっている音楽も複雑なポリリズム構造でこれまた格好イイ!しかしスコットさん、いろんなタイプのアップライト・ベルなラッパが好みというか・・すべてメーカーのカタログには無い '一品もの' ばかり。





その濃いキャラ、バリバリと鳴らす個性、ジャズという狭い範疇に捉われないスタイル・・このクリスチャン・スコットは、最近のラッパ吹きの中で一番勢いがあるんじゃないでしょうか。特にこのポリリスティックなラテンへの強い関心は素晴らしいなあ。そんなスコットの最新作である 'Ruler Rebel' ではいま流行のTrapとかやっているんですねえ。しかし、Trapとスクリレックス以降のダブステップ(Brostep?)ってよく似ていて判別しにくいのだけど、ダブステほどブリブリせず小気味良いスネアのポリ具合がTrapの特徴なのかな?







そしてもうひとり勢いあるのが同名のベーシストの方ではない、イスラエル出身のラッパ吹き、アヴィシャイ・コーエン。2001年のデビュー作 'The Trumpet Player' ではトリオでここまでやるか!のまさに豪腕なラッパ吹きの魅力を十二分に発揮した一枚でした。ウッディ・ショウ的な 'スケール・アウト' などもバンバン繰り出しながら、ここ最近は 'アンプリファイ' でエフェクティヴなスタイルも披露しているのが嬉しい。吹いているラッパはヴィンテージのBachでしょうか?







パット・メセニー・グループへの参加で一躍その名の知られた米国系ベトナム人のラッパ吹き、クォン・ヴーもまだまだその潜在能力の高い人です。2005年にビル・フリゼールを迎えて制作されたアルバム '(残像) It's Mostly Residual' は、そのフリゼールやメセニーら 'ECM' 的音響の空間とエフェクティヴな残像で '脱バップ' の新しいスタイルを披露しました。現在は少人数による編成でワンホーンの世界観をリリカルに追求しているようなので、次なる新作が待ち遠しい存在でもありますね。





Van Laar - Trumpets & Flugelhorns

ドン・エリスがインド音楽やジューイッシュ、アラビック・スケールなどを吹くべくHoltonにオーダーしたものとして知られているのがこちら、クォータートーン・トランペット。よく見ると4本目のピストンが押しやすいように少々傾けて追加されており、半音の半分、1/4音という微妙な音程を鳴らすことが出来ます。他にTaylorやMonetteも製作しているようですが、オランダのVan Laarでもオーダーしている模様。





そして、このIbrahim Maaloufなるアラブ人?っぽいラッパ吹きのエキゾティックな哀愁感は良いなあ。フランスを拠点に活動しているようでエフェクツたっぷりのフランス人サックス奏者、Guillaume Perretなどとも共演しているそうです。こういうアラビックからジプシー・ミュージックな流れは数年前にバルカン・ブラスとして注目されたりもしましたけど・・再び来るのかな?





Schagerl Trumpet

そんな独創的なラッパの中でも、ドイツやオーストリアなど一部のオーケストラでは、トランペットと言えばピストンをフレンチホルンと同じロータリーバルブの横置きにしたロータリー・トランペットのことを指すようです。ジャズでは構造的にハーフバルブなどの細かいニュアンスが出来ないとかで一般化しておりませんが、ブラジル出身のラッパ吹き、クラウディオ・ロディッティなどはロータリーでバップをやったりしております。そんなロータリーを今度はそのまま縦置きにして作ってしまったのが、発案者であるトマス・ガンシュの名を付けたSchagerlのガンシュホーン。柔らかいトーンでこれまた格好イイ。




Vox 'Ampliphonic' Woodwind and Brass Instruments

ここで、トランペット、フリューゲルホーンとそれなりに '新製品' が活発化しているのに対し、イマイチその人気の点で日陰な存在なのがコルネット。コルネットという楽器はディキシーランドの最前線で華々しく活躍しながらしかし、その立ち位置をトランペットに奪われたまま現在までパッとしないんですよねえ・・。ナット・アダレイがこの楽器の '底上げ' に尽力し、日野皓正さんも一時期凝って使っていた時もありましたが、やっぱりトランペットの現代的なニュアンスに対し、どこかその丸く暖かい音色はシリアスになりにくい先入観があるのかもしれない。実際、そのナットも兄貴キャノンボールといつもセットで 'オマケ' 的扱いの印象が強いから、尚更その '日陰ぶり'  に拍車をかけている(苦笑)。そんなコルネットにはブリティッシュ・スタイルのショート・コルネットとアメリカン・スタイルのロング・コルネットの2種があり、ジャズではよりトランペット寄りな音色のロング・コルネットが好まれております。ちなみにナットと言えばKingのロング・コルネットSuper 20で、純銀ベルの 'Silver Sonic' をOlds No.3マウスピースで吹くというのが最も有名なスタイルです。しかし、ここではそのナットではなくウッディ・ショウのコルネットをどーぞ。









しかし、意外にもフリー・ジャズの前衛的な世界では一定の需要があるようで、ポケット・トランペットと共に使用したドン・チェリー、オル・ダラ、ドラマーのロイ・ヘインズの息子、グレアム・ヘインズ、ブリティッシュ・ジャズ・ロックとしてソフト・マシーンにも参加したマーク・チャリグ、1990年代のシカゴ音響派のシーンで注目されたロブ・マズレクといった奏者を輩出しました。そしてそのシカゴのシーンから続くのがこのベン・ラマー・ゲイ。彼らに共通するのは器楽奏者としての主張ではなく、アンサンブルやエレクトロニクス全体の中でその 'サウンドスケイプ' を描き出していくこと。とりあえずマークさん、グレアムさん、ベン・ラマー・ゲイさんそれぞれ格好良いサウンドをやっているのだけど・・もう、楽器としてのコルネットは関係ないな(苦笑)。



Puje Trumpets ①
Puje Trumpets ②
Taylor 46 Custom Shop Shorty Oval

ちなみにシェパードクルークのベルを備えて、コルネットとトランペットを合わせた? 'ミニ・トランペット' のPujeトランペットなるものもあります。Taylorからも 'Oval' シリーズとして同種の 'ミニ・トランペット' がありますが、サイズダウンしながらもちゃんとトランペット本来の '鳴り' を確保したヤツなら欲しいですねえ。







最後はここにもうひとり、ドイツの '音の収集家' ともいうべきアクセル・ドナー。この辺りの'エフェクト' というのは何も 'アンプリファイ' するものばかりではなく、例えばフリー・ジャズの奏者たちが探求する '特殊奏法' を応用して、そこから 'アンプリファイ' にフィードバックする発想の転換というのがあります。この分野で長らく金管楽器はその構造上、どうしても木管楽器の陰に隠れがちな '限界' があったのですが、アクセル・ドナーがHoltonの 'ST-303 Firebird' トランペットを用いて行う多様なノイズの '採取' は(実際、怪しげなピックアップする加速度センサー?が取り付けられている)、いわゆる旧来のフリー・ジャズよりエレクトロニカ以降の 'グリッチ' と親和性が高いように思うのですがいかがでしょうか?それは、フリー・ジャズにあった 'マッチョイズム' 的パワーの応酬ではなく、まるで顕微鏡を覗き込み、微細な破片を採取する科学者(ラッパ界のケージか?)のようなドナーの姿からも垣間見えるでしょう。

2018年9月1日土曜日

60'sグルーヴの一夜 (再掲)

残暑厳しい季節ではありますが、ああ、あの猛暑が去っていく・・。夏大好きのわたしにとってこの季節の変わり目ほど寂しいものはない。過ごしやすい秋?いや、そんな短い季節の後に控える冬の足音の恐怖といったらもう・・。今年の夏も異常気象だったのだから、12月でも半袖、短パン、サンダルで過ごせるくらいにならないかな?、東京も(苦笑)。



そんな '真夏の狂気' から短い秋風に乗っていくために '50年後の東京' を想像させる?ような、浮遊空間とダビーな動画をどーぞ。50年後は重力から解放された東京、お台場のゆりかごめに乗っていく様をSugar Plantの 'A Furrow Dub' がトリッピーに盛り上げます。いや、単にゆりかごめの先頭車からの動画を垂直反転させたものなのだけど、いやあ、こんな '未来' がいつか来るのだろうか?わたしの幼少期の記憶では21世紀はクルマが空を飛び、真空チューブの中を高速列車が疾駆、人々はピタッとしたスピードスケート選手の出で立ちで快適な生活空間を営んでいたハズなのだが・・(笑)。

さて、話は変わって狂乱の1960年代後半。それまでの 'モノクロ' なモダニズムから、ド派手な極彩色と共に怪しい出で立ちでサイケデリックなダンスフロアーに飛び出してきた若者たち。堅苦しいスーツを脱ぎ捨て、すべてがねじれた幻覚の中で何倍にも増幅した色彩と戯れ・・まるで永遠の休日を繰り返す 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を宣言します。





さあ、グルーヴィーなダンスフロアーにかかせない60'sファンキーなグルーヴの数々。いきなり強烈なテープ・フランジングの効いた音像と共にハモンド・オルガンから、このズンドコしたノリがたまりません。いわゆるロックという 'ジャンル' として定型化する以前の、ロックンロールやツイストあり、R&Bやブーガルー、ラテンからジャズまで '異種交配' した初期のロック衝動の方がいま聴いても実に刺激的。そしてジェイムズ・クオモを中心とした謎のサイケデリア集団、The Spoils of War。ところどころに挿入される電子音は、初期コンピュータのパンチカードを用いて演算し生成したものということから、案外と現代音楽畑にいた人なのかもしれません。しかし、出てくる音は電子音+サイケデリック・ロックのザ・ドアーズ風ポップを基調としており、Silver ApplesやFifty Foot Hose、The Free Pop Electronic Conceptなどと近い位置にいる音作りです。







まずはそんな狂乱のLate 60'sを象徴するサイケデリックのダンスフロアーから、ジ・エレクトリック・フラッグの 'Fine Jug Thing' が人々の視覚と聴覚に訴えます!このチープなコンボ・オルガンはザ・ドアーズから当時のGSバンドに至るまで、まさにサイケデリックの一夜にかかせない絶妙なスパイス。反体制をきどる無軌道な若者像、みたいな退廃的なシーンとして当時至るところで再生産されましたね。そして盲目のサックス奏者、エリック・クロスとラテン・ジャズの御大ジョー・ロコも 'イェイェ' な60'sガールズのコーラスに導かれてダンスフロアーの熱気に火を付けます!エル・グラン・コンボによりヒットしたこの 'Chua Chua Boogaloo' がロコの手にかかるとさらに通俗度UP!エコーの効いた女性コーラスの怪しげな 'イェイェ' 度とクラップが増して、オリジナルの典型的にレイドバックしたノリに比べこのタイトな感じはオリジナルより好きかも。しかし、こういう 'Go-Goガールズ' というのか、お立ち台に登ってサイケデリックなステージを盛り上げる演出は、そのままバブル末期の 'ジュリアナ東京' まで脈々と続くのですね(笑)。





60'sニューヨーク・バリオの一夜を真っ赤に染めたラテン・ブーガルー狂熱の一夜。そんな素晴らしいライヴ盤 'The King of Boogaloo' でブーガルーの帝王として君臨したのがヴァイブ奏者のピート・テレス。コレ、未だにブーガルーの傑作ながら未CD化、視聴制限もかけているということできっと権利を持った大手レーベルの怠慢の結果なのだろう。8ビートのヤクザなブーガルーのノリと熱い打楽器&ホーン・セクション、わいわいと賑やかな歓声と共にピート・テレスのヴァイブがひんやりとした夜の雰囲気を彩る・・もう、ここに足りないものはない!ってくらいの内容ですヨ。そんな最高のライヴ盤はYoutubeで視聴して頂くとして、同時期のレアな7インチ・シングルもグルーヴ濃縮100%のキラーチューン。







なになに、もっとブーガルーでノリノリしたい?じゃ、こんなホットなヤツはいかがでしょう?アレ、このホーンリフはどこかで聴いたことが・・そう、クリスティーナ・アギレラ2006年の全米ポップ・チャート第1位 'Ain't No Other Man' で丸々サンプリングされております、ってか、まんまだね。このThe Latin Blues BandはSpeedレーベルの専属バンドで、何とあのグルーヴ・マスター、バーナード 'プリティ' パーディも参加していたようです。なるほど、このファットバックしたファンキーなノリはやはり!続けてTicoの異色グループにして 'レア・グルーヴ・クラシック' の一枚に数えられる謎のグループ、ザ・ヴィレッジ・カラーズ唯一のライヴ盤。ラテン・ブーガルー専門のレーベルであったTicoながら、ノリは完全にR&Bの 'どファンク一色' で盛り上がります。そうかと思えば、ボサノヴァをやったりと節操のないところもこの時代特有の猥雑な怪しさで良し!この他、ブッカーT &ザMGズの 'Hip Hug Her'、エスキヴィルの 'Mini Skirt'、デイヴ・パイク1965年のアルバム 'Jazz for The Jet Set' などなど、この辺のグルーヴィーなノリにぴったりな音源はいっぱいあるのだけど、どれも視聴制限ばかり・・仕方ないとはいえ寂しいですが、どうぞYoutubeの方でご堪能あれ。







さあ、この辺りでクールダウン。いや、熱気はそのままながらクラクラと幻覚的作用が効いてきませんか?そんな幻惑的なムードをヴァイブの音色としてニュー・スウィング・セクステット、ジョー・クーバとベニートの六重奏団がお届けします。このヴァイブってヤツはその幻惑的な金属質の音色が乾いた手の温もりの打楽器との相性が抜群!ポワ〜ンとしたアンビエンスの空気と対照的なリヴァーブ無しの直線的ラインがそのまま、熱気漲っているダンスフロアーを冷ますと共にサイケデリックの深い酩酊状態へと誘ってくれるようです。







ブーガルーといえばジャズの界隈でも話題となり、Blue NoteやPrestigeなどの名門レーベルから8ビートを軸としたファンキーかつグルーヴィーなアルバムが粗製乱造されました。まあ、こちらは本業のジャズが立ちいかなくなり、渋々世の中の需要に合わせて 'やらされて' いたというのが本音のようですが・・。有名なのはルー・ドナルドソンによりヒットした 'Alligator Boogaloo' で、当時、日本のGSグループにまで歌詞を付けてカバーされたというのだからビックリ。お!ラテン・アレンジのハプニングス・フォーに比べて、ザ・ホワイト・キックスの方はアレンジがジャズ・ピアニストの三保敬太郎なのか。あの激烈サイケ・ジャズ盤 'こけざる組曲' の人だけにファズが効いていてエグいなあ。





意外に忘れられがちなのがご存知、サンタナ。いわゆる 'Bario' 界隈からブーガルー、サルサの黎明期において世界的ヒットを飛ばし 'ラテン・ロック' を認知させたのはこの人しかいないでしょう。特に彼らの存在を象徴的なまでに高めたウッドストックのステージは60'sグルーヴの '終わりと始まり' を見事に凝縮します。そんなサンタナの高らかな '宣言' は、そのまま '時代のあだ花' として燻っていたブーガルーの連中を '原理主義' に回帰するサルサと新たな '異種交配' へと向かわせるラテン・ロックの方向へ多様化します。前述したザ・ヴィレッジ・カラーズ同様、Ticoからデビューしたフラッシュ&ザ・ダイナミクスもそんなブーガルー末期からラテン・ロックに '感電' してしまった稀有な存在です。





このブーガルーの熱狂は日本のみならず遠くアフリカの地をも席巻し、その名もずばり 'Africa Boogaloo' として同時代にリリースされました。フェラ・クティに代表されるアフロビート的イメージからすれば、ここまでラテン色濃厚でビックリしますけど、実はキューバ革命の影響からルンバの流行と6/8拍子のポリリズム含め、アフリカとラテン・アメリカ圏の文化はかなり密接な繋がりがあるそうです。こちらはカメルーンから世界に打って出たマヌ・ディバンゴとコンゴ音楽の父、ル・グラン・カレことジョセフ・カバセレ、キューバ出身のフルート奏者ドン・ゴンサーロがパリで録音したもので、ここまでグァヒーラの香り濃厚なブーガルーをやるとはビックリ。そして、やはり挙げねばならない・・当時のジミ・ヘンドリクスらロックと並ぶ '二大インフルエンス' のひとり、'Master of Funk' ことジェイムズ・ブラウン。R&Bにおけるブーガルー・ダンスを流行させたひとりであり、この1969年には新たにポップコーンというダンスを披露しますが、この鋭角的に突っ込んでくるノリこそJBそのもの!おお、まだメイシオ・パーカーも在籍中だ。







こんなR&BのグルーヴはJBと共にもうひとり、アーチー・ベル&ザ・ドレルズの 'Tighten Up'!もまさに60'sを代表するもの。もう、このベースラインとギター・カッティングから始まるノリはあらゆるところでパクられましたね。オリジナルは超有名曲だけに視聴制限がかけられているので、ここではラテン・ブーガルーの人気バンド、TNTバンドによりビミョーにカリプソ風でパクった 'Musica Del Alma' をどーぞ。そして1950年代から活動するラテン・ジャズの重鎮、アル・エスコバルとソニー・ブラヴォによるカバー・・本当、ラテン界隈の人たちって 'Tightn Up' が好きなんだなあ。







米国ベイエリアのラテン・コミュニティから現れたウォーは、元ザ・アニマルズのヴォーカルであるエリック・バードンを迎えて、サンタナとは別のラテンとロック、ファンクの濃厚なエッセンスを混ぜ合わせて成功した稀有な存在です。その諸説ある前身バンドのひとつ、セニョール・ソウルのクールにして怪しげなブーガルーは、当時のラテン及びR&B界からハミ出したウォー前夜を予兆させるユニークな個性を感じさせますね。