2017年3月5日日曜日

春はピックアップの悩み

突然ですがBarcus-berryをやめた。








オーストラリアのSteve Fransisさん製作によるPiezo Barrelのピエゾ・ピックアップ付きマウスピース。eBayでもそこそこ数が出るようになりましたね。最近、ラッパでやっている人の動画もUPされておりましたが、何でかそのおっさんはコメント不可、リンクもさせないようにしているのでYoutubeの方でご覧下さいませ(-  -)。代わりにPiezo Barrelといえばこの人、というくらい立派に製品販促に一役買っているLinsey Pollakさん。

Piezo Barrel HP
Piezo Barrel on eBay

個人的にはBarcu-berryのものが扱いやすくてずっと用いてきたのですが、ここにきてまたもやあの問題・・エフェクターのかかりが悪くなってきたんだよなあ。う〜んどうしよう、などと悩みながらつらつらネットを徘徊していたらこんな一文が目の前に飛び込んできました。


                "ピエゾの大敵は湿気"

え!?これまで湿気といえばコンデンサー・マイクの '天敵' として、わたしもマイクポーチにマイクと一緒に乾燥剤を放り込んで管理したりしていたのですが、え!?ピエゾも?いやあ、これは知らなかった・・。そういえば復活したザ・ブレッカー・ブラザーズ1993年の来日公演時、ランディ・ブレッカー使用のBach 3Cに接合されていたBarcu-berry 1374ピックアップが、何でか黒いテープ?のようなものでマウスピースに巻かれてた・・。今から思うとピックアップ接合しちゃうと湿気で劣化するから、ただ穴へ差し込みテープで外れないように押さえていたのかも。









Piezo Barrel - Instructions
Nalbantov Electronics
TAP Electronics
TAP Electronics Pick-up
King Ampliphonic Pick-up
King Ampliphonic Pick-up 2
Shure CA20B

古くはVoxの 'Ampliphonic' 用マウスピース・ピックアップ、Gibsonの 'Maestro Woodwinds' 用マウスピース・ピックアップ、Connの 'Multivider' 用マウスピース・ピックアップ、'Innovex' 用のShure製マウスピース・ピックアップCA20Bなどが着脱式で、単純に 'アンプリファイ' と 'アコースティック' でマウスピースを兼用できるのが理由だと思っておりました。現行品のPiezo BarrelやTAP Electronics、Nalbantov Electronicsのものもそうです。Piezo Barrelの製作法は途中まで穴を開けてソケットを嵌め込み、そこから2.5mmの細い穴を開けて収音するなど、メーカーそれぞれのノウハウがあるようですね。しかし、こぞってピックアップ着脱式ということは、まるでマウスピースに穴を開けてピックアップ接合しちゃったら '湿気の温床' でダメにするよ、とメーカーから言われているような気になります。たぶんBarcus-berryのマウスピース・ピックアップが衰退した理由のひとつに、この '湿気' というのは理由のひとつだったのかもしれません。もしくは、完全に消耗品としてダメになったら新しいものと交換してくれ、というのがメーカーの態度だったのかも。わざわざ楽器店に持って行ってエポキシ系接着剤で付けたり外したりという点では、決してコスト・パフォーマンスのよい製品ではないですね。現在使用中の2個目も取り付けてから1年ちょっと・・特にダイナミックレンジが狭くなり、音に図太さがなくなると共にオクターバーのエラーが出始めてくるのが合図でした(早過ぎでしょ)。コレって接着剤でマウスピースに接合せず、ただ穴へ差し込み使うことで何とか製品寿命を延命させる以外に方法はないかもしれません。ああ、もうちょっと耐久性のある製品かと思っていたんだけどなあ・・これで2つダメにしました(涙)。

vimeo.com/160406148

このままだとスペア全てがイカレかねないので、そろそろ現行品であるPiezo Barrelを中心としたセットアップへ作り変えないとダメかもしれない。近場に工房があるのなら自分のマウスピースへ加工してもらうんだけど・・はるかオーストラリアですからねえ。それはともかく、パッシヴのBarcus-berryに対してアクティヴ(プリアンプ内蔵)のPiezo Barrelは、特にコンボアンプで鳴らそうとしているわたしにとって音作りが難しい・・。上のリンク先動画のRyan Zoidisさんはうまくセッティングして鳴らしていますケドね。わたしも購入してすでに所有はしているものの、まだメインでは使っておりませんでした。ということでPiezo Barrelマウスピース・ピックアップ、プリアンプ内蔵のアクティヴとして公式HPにはQ&A形式でこう記載されております。

Q: Do I Need a Pre-Amp ?

A: Piezo Barrel Pick-ups do not require a Pre-Amp.The output is similar to an Acoustic Guitar pick-up (Which is also a Piezo pick-up).

このピックアップにプリアンプは必要?との問いに、いや、アコギのピックアップ同様、本品はプリアンプを必要としないヨ、というSteveさんの答えなんだけど、う〜ん、そのままコンパクト・エフェクターに繋ぐとゲインが上がると同時に音が潰れて、すぐハウってしまいます。これってちゃんとインピーダンス・マッチングを取らないとダメなのでは?ということで、手っ取り早く3つの案を立ててみました。

Classic Pro ZXP212T
Classic Pro APP211L
Joemeek Three Q
Neotenic Sound Board Master

①Clasic Pro ZXP212T+AXP211L

サウンドハウス・プロデュースのインピーダンス・トランスフォーマーで、ピックアップ側のロー・インピーダンスと楽器レベルのハイ・インピーダンスを変換します。おお、きちんとレベルの取れた状態で信号が受け渡されました。ただし、あくまで '変換' なので音色的には可もなく不可もなし。

②Joemeek Three Q

マイク・プリアンプ、コンプレッサー、EQからなる 'チャンネル・ストリップ' の本機、ライン入力から-10dBvのアンバランスで出力してみます。おお、こちらも見事にレベルの取れた状態で信号を受け渡します。3バンドのEQも備えているので、グッとコシの入った音質に補正できるのもグッド!ただし、ライン入力とマイク入力を同時に使うことはできないのが残念(本機だけでピエゾとマイクのミックスができない)。

③Neotenic Sound Board Master

困ったときの 'Neotenic頼み' というワケではありませんが、過去にこういう製品も出していたのですね。入力側のピックアップと出力側とのインピーダンス・マッチングを、ピックアップ別に最適な 'Hum'、'Single'、'Active'、'Line' の4つの切り替えとLevelツマミで補正するブースターです。正直、この4つの切り替えの違いがわたしの環境では分かりにくかったのですが、とりあえず 'Active' 及び 'Line' に合わせて使用。本機はマッチングさせるのみならず、Neotenic Soundの '売り' である 'Buff' と呼ばれるバッファーを通すことで音にツヤと張りが出てきます。こう書くとバッファーを万能なエフェクターと勘違いする人が出てくると思いますが、複数のエフェクターを繋いだり、微弱な信号が外来ノイズなどに晒されることで変化、劣化していくのを '戻す' ものと言えばよいでしょうか。また、本機の後ろでRoot 20 Mini Mixerを介してマイク側とミックスしても問題なく使うことができました。

こういうのにセオリーはなく、とにかく出音が自分にとって満足できればそれが '正解' なのです。安価に抑えたいのなら①、マイクプリとEQで積極的に音色を作り込みたいのなら②、マイクとのミックス込みでピエゾ・ピックアップの音色を整えたいのなら③という感じでしょうか。個人的にはやはりプリとEQのおかげか②が一番良かったかなあ。③はEQ付いていたらもっと良かったけど、これだけでも十分魅力的な音色ですね。あ、そうそう、この 'トランペット' 用Piezo Barrelピックアップですけど、サックス/クラリネット用に比べてマウスピースのシャンク部分の肉厚が薄い為に、一度、ハンダで留めていたソケットがポロッと外れてしまいました・・。まあ、ハンダとエポキシ系接着剤で付け直しましたけど、もうちょいシャンク側の下地を削り込んでソケットがピタッと嵌るようにして頂きたいですねえ。もし購入した人でピックアップをソケットにネジ留めする際はあまり締め過ぎないように・・ポロッといきますヨ。

Neotenic Sound Pure Acoustic

さて、そんな 'ピエゾ使い' に待望のアコーステック専用プリアンプが登場しました!わたしも愛用の '秘密兵器' であるMagical Force製作のNeotenic SoundからPure Acoustic。おお、これはチェックしたいと思わせるような6つのツマミが整然と並んでおります。なになに、メーカーの説明によるとこんな仕様とのこと。

⚫︎Master: 出力される最終的な音量を調節します。
⚫︎Body: 楽器本体のサイズ感を豊かに増強させます。右に回すほど楽器の存在感がしっかり押し出されるようになります。
⚫︎Lo: Bodyツマミで決めた位置に対して、低域の膨らみ感を調節します。左に回すほどスッキリとしたタイトなサウンドになります。
⚫︎Hi: 弦を弾いたときの音の硬さを調節します。右に回すほど硬い音に、左に回すほど柔らかい音になります。
⚫︎Wood: 楽器の持つ木の鳴りの成分を電気的に強調させたり抑えたりします。左に回すと共振部分が抑えられた大人しい落ち着いた雰囲気に、右に回すと木が響いているような広がりが得られます。演奏する楽曲の楽器編成などに合わせて調節して下さい。
⚫︎Density: 弦を弾いたときのタッチに対するレスポンスの立ち上がり比率を決めます。左に回すと過度に立ち上がり、右に回すほどその感度が圧縮されます。タッチとレスポンスのバランス点を越えると音の雑味や暴れはさらに抑えることが出来ますが、音の表情は均一化されていきます。

なるほど。特に 'Body' と 'Wood' というアコースティックの '鳴り' に特化した2つのツマミがキモのようです。このあたりをEQのLoとHiを補助的に配置して、あえて '鳴り' というイメージで2つのツマミに落とし込んでいったのは見事ですね。Magical Forceもそうなんだけど、設計者のいっぺいさんは視覚的に把握させながら耳で音を決めていくセンスが抜群だと思います。EQの何kHzをブーストして・・なんて言われてもよく分からないけど、こっちのツマミが '箱鳴り' で隣のツマミで 'エッジ' を出して、そこにローかハイが足りてないと思ったらEQしてという方が把握しやすいというか。また本機は、ダイナミックレンジ確保の為にDC18Vの専用電源でヘッドルームを広く取った設計もグッド。ツマミの構成から 'アコギ' 専用と捉えられがちですが、いわゆるアコースティック楽器全般に対応しているそうです。例えば、ダイナミック・マイクのSennheiser e608で用いるなら、XLR端子からインピーダンス・トランスフォーマーClassic Pro ZXP-212Tを介してPure Acousticへ入力、ベストな音色に補正することが可能です。ただし、Piezo Barrelピックアップはアクティヴだから入力のレベル合わせは慎重にやらないとダメですね。

'Early' Electronic Saxophone by Japan

上記のリンク先は何と日本の個人製作者による '電子サックス' というか、Akai Proffesionalのウィンド・シンセサイザーEVI/EWIの先駆的試作品。1969年は日本のAce ToneからSelmer Varitoneをそのまんまコピーしたような管楽器用アタッチメント 'Multi Vox' が発売されておりましたが、未だシンセも分からなかった時代に、早くもEWI的な発想でアプローチしていた人がいたのは驚きですねえ。








'デンマークのマイルス' ことパレ・ミッケルボルグが完全に '電化' していた頃の動画三連発。1977年と78年はテリエ・リピダルのグループに参加した時のものですが、かなりプログレッシヴというか、ギターシンセ風のトーンでディレイをかけたラッパが格好良い!この頃にECMと契約して、このサウンドでアルバム出していたらもっと評価されていただろうにと思うと惜しいですねえ。78年にはマウスピース・ピックアップをやめて、ケーシング部に取り付けられたシンセをトリガーする機器(CV/Gate?)をベルのピックアップ・マイクに繋いでいるのにも注目。



After The War / Trouble

さて、デンマークといえばもうひとりの 'マイルス派' というべき、サヒブ・シハブとの共演や自己のJazz Quintet 60'での演奏で名の知られたアラン・ボッチンスキーがいます。ミッケルボルグとはThe Danish Radio Jazz Groupで共演歴もある彼ですが、混迷の1970年にベーシストのニールス・ペデルセン始め同郷のジャズメン総勢で、Troubleという名義の一枚 'After The War' を吹き込みました。何とも不気味なジャケットは意味不明ですが、サウンドはそんなイメージを払拭する全編パワフルなジャズ・ロック。ボッチンスキーも 'アンプリファイ' したラッパで張り切りますが、本作は彼のディスコグラフィでもほとんど知られていないのではないでしょうか?







The Guerrilla Band / Hal Galper
Wild Bird / Hal Galper

イアン・カーとランディ・ブレッカーはこの時代を代表する 'マイルス・フォロワー' ではありますが、単なるコピーにはならない '電化ぶり' の完成度が高いなあ。そして、ジャズ・ロック初期の胎動を示すハル・ギャルパーのデビュー・アルバム&セカンド・アルバム!ここでの注目は活動初期のブレッカー兄弟でして、特にザ・ブレッカー・ブラザーズ以前の荒く試行錯誤していたプレイ時期の貴重なもの。特にランディ・ブレッカーがまだマイルス・デイビスの影響下による 'アンプリファイ' でワウペダルの咆哮を堪能できる二枚、必聴なり。



そしてコリエル繋がりで1978年、マイルス・デイビス隠遁中の幻のセッションもどうぞ。メンツにコリエルと共にプーさんこと菊地雅章もキーボードで参加し、コリエルの奥さんのジュリーがデイビスのラッパを密かに持ってきていたそうですが、結局はオルガンで要所ごとにサインを送るのみで、逆にコリエルのワウの効いたギターがデイビスのラッパを代弁しているようにも聴こえます。まだまだ 'エレクトリック・マイルス' 期の混沌とした世界観は引きずりつつ、ピート・コージーに比べるとかなり理知的なソロで洗練された印象がありますねえ。プーさんはここでの経験があの名盤 'ススト' に行き着いたのかと思うと興味深い!先月、ラリー・コリエルは冥界へ旅立たれたそうで 'トリビュート' の意も込めて - R.I.P.。

しかしこのPiezo Barrelピックアップ。わたしに経営の手腕、そしてマウスピースへの加工技術の腕があればコイツを日本代理店として広めたいなあ。春は花粉症の悩み・・だけではないようです、うう。

2017年3月4日土曜日

'ジャンク' な生成装置作成法

音の実験が好きだ。とにかく機材と向き合い勝手気ままにツマミやスイッチをいじりながら出てくる音の流れに身を任せてみる。もちろん、既存の機器をあれこれ組み合わせてみたって '想定内' の結果の中で戯れているのだから、これを以って '前衛だ!新しい' などと無邪気に騒ぐ気はございません。むしろそんなスノッブさより、目の前のイメージからただ喚起されるという体験の方がずっと重要なのです。音の出るものだったら、コンパクト・エフェクターを大量に繋いでもハウリングさせて延々と鳴り続けるフィードバックでも剥き出しのオシレータの塊でも何でもOK。すべては目の前にある!



音の源ともいうべきオシレータ(発振器)。単なるノイズの生成から偶発的な '行為' を生み出していく様は、少し彫刻や陶芸などと似たアプローチかもしれません。実はその昔、最初の 'ノイズ・セット' を組んだことがありました。3Uのラック・マウントを購入し、1Uの引き出しラックの上にオシレータやコンパクト・エフェクターを並べ、そこに1Uのラック型エフェクターを組み合わせる。オシレータはFlower Electronics LBBというパッチ式の簡易シンセサイザーで、そこからWMD Geiger Counter、Pigtronix Attack Sustainを経てVocuの多機能セレクターMagic Blend Roomで逆相の擬似ステレオ出力、そしてVermonaのPH-16 Dual Analog Phaserで左右に揺さぶりながら変調させて、と。ここでは、そんな過去の記憶を思い出しながら再び 'ブラッシュアップ' して挑んでみたいと思います。









Skychord Electronics
Moody Sounds Baby Box
Electro-Faustus EF109 Drone Thing
JMT Synth

まずは肝心の音の源というべきオシレータ選びですけど、大阪で 'ノイズ・シンセ' に特化したガジェットを製作するJMT Synthは特筆したい。以前はこの手のガジェットといえば、Skychord Electronics Sleepdrone 5やMoody Sounds Baby Box、Electro-Faustus EF109 Drone Thingなどがありましたが、わたしが選んだのはTVCO-2というオシレータとVCF、タッチセンサーの機能が一緒になったもの。VCOとVCFはCVで同期することができ、Korg SQ-1とSyncでVCFを繋いでおります。基本的に数量限定の '一品モノ' なので、欲しいと思ったらお早めの購入が吉ですね。











Electro-Faustus EF103 Guitar Disruptor V.2
Vulcan Mulcider Argo Navis
Devi Ever FX Truly Beautiful Disaster

オシレータが決まったらソイツを強烈に歪ませる '歪み系' エフェクターを物色します。基本的にコンパクト・エフェクターの大半はこの '歪み系' に寄っており、真面目に探そうとすると大変な目にあうことは確実なので、ここは直感でシンセっぽいもの、ファズっぽくジリジリと歪むんだけどどこかフィルターがスィープして、発振する機能に特化したものに狙いを定めます。Electro-Faustus EF103 Guitar DisruptorとVulcan Mulcider Argo Navisの2機種はかなりマニアックなセレクトではありますが、Youtubeの動画ではなかなかにエグい感じでイイですねえ。Argo Navisは本体の中にフィードバックの回路を備えており、これはノイズ系アーティストがライン・ミキサーを用いて '発振' させるやり方を応用したもの。つまりセンドから出力したものをリターンで返したチャンネルのセンドにもう一度入力することで、フィードバックのループを生み出しています。まあ、機材的にはかなり負荷をかけた扱い方ではありますが(汗)、同様の構造を持った '飛び道具' 系歪みとしては奇才、デヴィ・エヴァー女史の手がけるDevi Ever FX(旧Effector 13) Truly Beautiful Disasterがありますね。


Excel EFLB-550

さて、ここからはエフェクターボード製作に取り掛かりましょう。ボードはイケベ楽器プロデュースのExcel EFLB-550でサイズは540(W)×340(D)。まずは '大物' ともいうべきパワーサプライのVoodoo Lab. Pedal Power 2とステップ・シーケンサーKorg SQ-1を上方の両端に設置。額縁を吊るす為の豆カンを加工して木ネジで固定します。とりあえず、こうやってサイズを決めてしまってからあれこれセレクトしていくというのも手です。たくさん繋げるのもイイのですが、実はサウンドのキモとなるのは大体3つ程度の機材を組み合わせた時に発揮するもので、後に数珠繋ぎしていくほど案外効果は薄かったりします・・。







Next Signal Gate SG-100
Korg SQ-1 Step Sequencer

ボードの両端にパワーサプライとKorg SQ-1を配置したら、Nextのノイズ・ゲート、Signal Gate SG-100を繋ぎます。本機には他社のゲートにはないユニークなGate Inがあり、ここにKorgのステップ・シーケンサーSQ-1からゲート信号をトリガーしてリズミックなパターンを吐き出すことが可能。まあ、あくまでSG-100はゲート出力を受けるだけなのでピッチとか複雑な変調は無理ですけど、実は上の動画を見て影響されました(笑)。さて、どんな感じになるでしょうか・・。ここでの目的は不規則で面白いパターンと '出会う' ことにあります。







Masf Pedals Possessed
Masf Pedals Raptio
Catalinbread Csidman
Malekko Heavy Industry Charlie Foxtrot


最近はエレクトロニカに代表される 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターも市場に現れて、それらを用いれば簡単に奇妙で面白いパターンを吐き出してくれます。例えばMasf Pedals PossessedやRaptio、Catalinbread Csidmanなどは人気があり、新しいところではMalekkoのCharlie Foxtrotも登場しました。こんな新しい 'ガジェット' 群もSG-100の後ろへ繋ぐことでさらにカオス、おお、あちこちへ狂った音の破片が飛び散りました。









Csidman VS. Charlie Foxtrotふたつの '共演' 動画もありますけど、このSimon The Mapgieさんはここ最近、Youtubeで狂った '飛び道具' エフェクターばかりを積極的に紹介しておりますね。例えば自作のピエゾ・ピックアップを内蔵したカリンバで 'グリッチ風' ノイズとか、かなりグッとくるアプローチで '飛び道具' の面白さを伝えてくれます。また、ロシアの新興ノイズ系エフェクター工房、Ezhi & Akaの 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターThe Blobも光るトラックボールで操作するなど面白そう!たぶん毎月、世界中から大量の '段ボール' がこのMapgieさんの所に送られているんじゃないか、と思うんだけど、とりあえず奇妙なものにはすぐ反応する人だってのは間違いないです。





Ibanez ES2 Echo Shifter
Vestax DDG-X2 Digital Delay
Dr. Lake KP-Adapter

お次は空間系エフェクターの定番ディレイなのですが、これも星の数ほどある製品の中から選ぶのに苦労しました。MIDIやユーザー・プログラムを組める複雑なディレイよりシンプルなヤツが好きなので、個別にオシレータの発振On/Offを備えるIbanez ES2 Echo Shifterなどが候補に登りましたが、結局は意外な製品、Vestaxのハーフラック型デジタル・ディレイDDG-X2を中古でゲット!いやあ、想定外の拾い物というか、このような 'DJプレイ' に特化したディレイを選ぶとは思いませんでしたね。本機の前身DDG-1は、一部のダブマニアたちからその荒い質感が好まれてちょっとしたプレミアが付いておりますが、このDDG-X2はハーフラック型という '使いにくさ' なのか不人気機種となり、Vestax倒産直後は在庫品が5,000円弱(定価39,800円)で投げ売りされていたという悲しい歴史があります。機能的にはタップテンポはもちろん、BPMカウンターとメトロノームのLEDによりBPMとディレイタイムを小数点第一位まで設定可能。ディレイタイムは4秒でモジュレーションとHold機能も有します。うん、安価なのでスペアでもう一機確保しましたヨ。ここではインピーダンス・マッチングの為、新潟の楽器店あぽろんプロデュースのDr. Lake KP-Adapterにインサートするかたちで用いております。これは元々Korg Kaosspadをエレクトリック・ギターで用いる為の機器で、ラインレベルと楽器レベルのものを問題なく接続できる便利なもの。さて、ここまでで一体どんなサウンドが生成されるのでしょうか?気になった方はどうぞ、ご自身で是非とも挑んで体感してみて下さいませ・・。



Toshinori Kondo Equipments

ラッパだとこういうのはどうなんだろ?まあ、収拾がつかなくなるのは分かっておりますけど(汗)、例えば、1970年代の 'エレクトリック・マイルス' のアプローチなんてラッパを 'ジャンクに' 扱うやり方のひとつとも言えるし、あれはすべてがリズムとして機能していれば何でも良かったのかもしれない・・。んで、我らがコンドーさんもポーランド?のオルタナ風ノイズ・バンドとの共演・・相変わらずの孤高の存在ですね。







Hair Stylistics Interview

膨大なガジェット群、ノイズ生成の名機EMS Synthi AやKorg MS-20などを駆使して放出される轟音と戯れる・・ケーブルまみれ、LEDまみれ、スイッチとツマミまみれ、ノイズまみれ・・ただひたすらに戯れるのみ。

2017年3月3日金曜日

'カリビアン・ファンク' で逃避行

いよいよ3月・・暖かい季節がやってきます(まだ寒いケド)。まあ、わたしには花粉症の季節なので寒さと並んで春は大嫌いなのですが、そんな春の陽気と共に鼻を垂らしながら無駄にだらだら。ああ、どうせ無駄にだらだらと過ごすのなら、燦々と日差し降り注ぐマイアミ〜バハマの、カリブ海沿岸の浜辺で寝そべっていたいもの。ホント、南国に逃避したい・・。

さて、そんなマイアミからバハマ一帯のカリブ海沿岸って、あまりブラック・ミュージックの匂いのしないイメージが昔からありました。同じカリブ海一帯でもニューオーリンズからハイチとドミニカ、そしてジャマイカの方が音楽的に豊かなイメージが強く、う〜ん、マイアミ?そういえば一時、コンプレッサーでポップアップするアメ車に搭載したウーハーからブンブンとした超低音で踊らせる 'マイアミベース' なる頭の悪い音楽がありましたけど、他になんかあったかな?というくらいイメージがない。何となくですけど、特にコンピュータを中心とした制作環境を考える上で音楽をやるイメージって、暖かい日差し溢れる地域より、寒くて閉ざされた地域の方が活発なんじゃないか、という気がします。外に出て行く機会もなく、ひとり暗く自室に閉じこもってやっているイメージというか・・毎日が澄み渡る青空と日差しの連続なら外行きますもんね。







そんなマイアミ〜バハマ一帯、実は音楽的に '不毛地帯' ではなかったことを証明する怪しいシリーズ 'West Indies Funk' 1〜3と 'Disco 'o' lypso' のコンピレーション、そして 'TNT' ことThe Night Trainの 'Making Tracks' なるアルバムがTrans Airなるレーベルから2011年、怒涛の如く再発されました・・。う〜ん、レア・グルーヴもここまできたか!という感じなのですが、やはり近くにカリプソで有名なトリニダード・トバゴという国があるからなのか、いわゆるスティール・パンなどをフィーチュアしたトロピカルな作風が横溢しておりますね。実際、上記コンピレーションからはスティール・パンのバンドとして有名なThe Esso Trinidad Steel Bandも収録されているのですが、その他は見事に知らないバンドばかり。また、バハマとは国であると同時にバハマ諸島でもあり、その実たくさんの島々から多様なバンドが輩出されております。面白いのは、キューバと地理的に近いにもかかわらず、なぜかカリブ海からちょっと降った孤島、トリニダード・トバゴの文化と近い関係にあるんですよね。つまりラテン的要素が少ない。まあ、これはスペイン語圏のキューバと英語圏のバハマ&トリダードの違いとも言えるのだろうけど、ジェイムズ・ブラウンやザ・ミーターズといった '有名どころ' を、どこか南国の緩〜い '屋台風?' アレンジなファンクでリゾート気分を盛り上げます。ジャマイカの偉大なオルガン奏者、ジャッキー・ミットゥーとも少し似た雰囲気があります。しかし何と言っても、この一昔前のホテルや土産物屋で売られていた '在りし日の' 観光地風絵葉書なジャケットが素晴らし過ぎる!永遠に続くハッピーかつラウンジで 'ラスト・センチュリー・モダン' な雰囲気というか、この現実逃避したくなる感じがたまりません。







同じサムネ画ばかりで目がクラクラしているでしょうけど、まだまだ続きますヨ、この南国気分。ああ、寒いのは嫌だあああ・・。誰かすぐにホテルを手配して航空機チケットをわたしに送ってくれ〜。今夜一眠りして、翌朝目が覚めたら一面、突き抜ける青空と青い海、降り注ぐ日差しを浴びながらプールサイドで寝そべっていたらどれだけ気持ち良いだろうか。







さて、バハマといえば首都のナッソー(Nassou)、そしてナッソーといえば 'Funky Nassou' ということで、ここら辺で最も有名なのがバハマ出身のファンクバンド、The Bigining of The Endでしょうね。長いことその 'カリビアン・ファンク' を代表するバンドであり、1971年のヒット曲で聴こえる地元のカーニバル音楽、'ジャンカヌー' のリズムを取り入れたファンクは独特です。彼らのデビュー・アルバムは全編、優れたファンクを展開しながらこの後、ディスコ全盛期の1976年にバンド名そのままの2作目をリリースして消えてしまいました。ハッキリいってこの 'Funky Nassou' だけで 'カリビアン・ファンク' はすべて片付いてしまうくらい影響力大なのだけど、う〜ん、さすがにこれだけ有名な曲だとYoutube以外では視聴制限をかけちゃうんでしょうね、ったく。ああ、'Funky Nassou' 1曲がないだけでこうもテンションが落ちるとは・・。





これらTrans Airからの一連の '再発' の中で、唯一単独のアルバムとしてリリースされたのがこの 'TNT' ことThe Night Trainの 'Maiking Tracks'。ああ、プールサイドに寝そべって永遠の優雅な休日を過ごすべくウトウトと・・春なのに常夏の白日夢。


しかし、綺麗な桜と共に身に沁みる寒さから解放された春の陽気はやはり嬉しいもの。いつもこの春の訪れがやってくると頭の中で鳴ってくるのがプリンスの 'The Most Beautiful Girl in The World'。まあベタなんだけど、何でかこの季節、いつもこのイントロがやってきます。柔らかで暖かくもどこか少し寂しい心情のある感じ。皆さま、分かってもらえますかねえ。







他にはこの時期、スティーヴィ・ワンダーの 'My Cherie Amor' とジ・アイズレー・ブラザーズは 'Spring Theme' としてマストでしょう。正直、アイズレーは 'For The Love of You' と 'Footsteps In The Dark' の2大名曲こそ春の訪れに相応しいのだけど毎度の視聴制限・・(涙)。次点でこの 'Hello It's Me' をどーぞ。そして1970年代後半以降、UK産R&Bグループとして活動するリッキー・ベイリー率いるデレゲーション。そんな彼らの代表曲 'Oh Honey' ・・ああ、こういう時のフェンダーローズの響きって永遠の微睡みを提供してくれる存在としてたまりませんね。

2017年3月2日木曜日

60's グルーヴィーな一夜

狂乱の1960年代後半、それまでの 'モノクロ' なモダニズムから、ド派手な極彩色と共に怪しい出で立ちでサイケデリックなダンスフロアーに飛び出してきた若者たち。堅苦しいスーツを脱ぎ捨て、すべてがねじれた幻覚の中で何倍にも増幅した色彩と戯れ、まるで永遠の休日を繰り返す 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を宣言します。



まずはそんな狂乱のLate 60'sを象徴するサイケデリックのダンスフロアーから、ジ・エレクトリック・フラッグの 'Fine Jug Thing' が人々の視覚と聴覚に訴えます!このチープなコンボ・オルガンはザ・ドアーズから当時のGSバンドに至るまで、まさにサイケデリックの一夜にかかせない絶妙なスパイス。反体制をきどる無軌道な若者像、みたいな退廃的なシーンとして当時至るところで再生産されましたね。





盲目のサックス奏者、エリック・クロスが 'イェイェ' な60'sガールズのコーラスに導かれてダンスフロアーの熱気に火を付けます!そしてカル・ジェイダーのヴァイブが、そのまま 'イェイェ' なコーラスを引き連れて熱いダンスフロアーをクールダウン。う〜ん、このヒップなノリというか、ほんとジョアン・ドナートは良い曲を書きますねえ。



さあ、グルーヴィーなダンスフロアーにかかせない60'sのファンキーなグルーヴの数々。いきなり強烈なテープ・フランジングの効いたハモンド・オルガンから、このズンドコしたノリがたまりません。いわゆるロックという 'ジャンル' として定型化する以前の、ロックンロールやツイストあり、R&Bやブーガルー、ラテンからジャズまで '異種交配' した初期のロック衝動の方がいま聴いても実に刺激的。なんでロック・バンドというと3ピースのお決まりなスタイルでギター掻き鳴らすものばかりなのか、イイ加減飽き飽きしませんか?





ラテン・ジャズの御大として1940年代からやってきたジョー・ロコもこの時期、まさに通俗的なブーガルーの世界に足を踏み入れます。エル・グラン・コンボによりヒットしたこの 'Chua Chua Boogaloo' もロコの手にかかるとさらに通俗度UP!エコーの効いた女性コーラスの怪しげな 'イェイェ' 度とクラップが増して、オリジナルの典型的にレイドバックしたノリに比べこのタイトな感じはオリジナルより好きかも。同じく御大ティト・プエンテもこの時代はブーガルーを 'やらされて' おり、大抵は皆、忘れたい忌まわしき過去の如く思っているようですけど・・いやいや、この 'HiT !' なノリは格好良すぎでしょ。







60'sニューヨーク・バリオの一夜を真っ赤に染めたラテン・ブーガルー狂熱の一夜。こんなライヴが毎夜繰り広げていたなんて素晴らし過ぎるブーガルーの帝王、ピート・テレス3連発!8ビートのヤクザなブーガルーのノリと熱い打楽器&ホーン・セクション、わいわいと賑やかな歓声と共にピート・テレスのヴァイブがひんやりとした夜の雰囲気を彩る・・もう、ここに足りないものはない!ってくらいの内容ですヨ、これは。未だCD化されていないのが不思議なほどの超名盤。





Eddie Palmieri & Cal Tjader

なになに、もっとブーガルーでノリノリしたい?じゃ、こんなホットなヤツはいかがでしょう?アレ、このホーンリフはどこかで聴いたことが・・そう、クリスティーナ・アギレラ2006年の全米ポップ・チャート第1位 'Ain't No Other Man' で丸々サンプリングされております。ってか、まんまだね。このThe Latin Blues BandはSpeedレーベルの専属バンドで、何とあのグルーヴ・マスター、バーナード 'プリティ' パーディも参加していたようです。なるほど、このファットバックしたファンキーなノリはやはり!本盤は当時のラテン・ブーガルーが持つヤクザなノリをアルバム一枚、丸ごと体現しております。そしてラテン・ヴァイブの大御所、カル・ジェイダーとラテン界の寵児として人気を博したエディ・パルミェーリ奇跡のコラボレーション!面白いのは、ジェイダー所属のVarveとパルミェーリ所属のTicoからそれぞれ 'El Sonido Nuevo' と 'Bamboleate' としてリリースしたこと。当時の様子はパリミェーリ本人による上記リンク先インタビューにありますが、この2作は、幾多のブーガルー盤を蹴散らすラテン・アルバム10選に入れてもおかしくない傑作ですね。う〜ん、やっぱ格が違うな。





こちらはTicoの異色グループにして 'レア・グルーヴ・クラシック' の一枚に数えられる謎のグループ、ザ・ヴィレッジ・カラーズ唯一のライヴ盤。ラテン・ブーガルー専門のレーベルであったTicoながら、ノリは完全にR&Bの 'どファンク一色' で盛り上がります。そうかと思えば、ボサノヴァもやったりと節操のないところもこの時代特有の猥雑な怪しさで良し!

この他、ブッカーT &ザMGズの 'Hip Hug Her'、エスキヴィルの 'Mini Skirt'、デイヴ・パイク1965年のアルバム 'Jazz for The Jet Set' などなど、この辺のグルーヴィーなノリにぴったりな音源はいっぱいあるのだけど、どれも視聴制限ばかり・・仕方がないとはいえ寂しいですが、どうぞYoutubeの方でご堪能あれ。







ブーガルーといえばジャズの界隈でも話題となり、Blue NoteやPrestigeなどの名門レーベルから8ビートを軸としたファンキーかつグルーヴィーなアルバムが粗製乱造されました。まあ、こちらは本業のジャズが立ちいかなくなり、渋々世の中の需要に合わせて 'やらされて' いたというのが本音のようですが・・。有名なのはルー・ドナルドソンによりヒットした 'Alligator Boogaloo' で、当時、日本のGSグループにまで歌詞を付けてカバーされたというのだからビックリ。お!ラテン・アレンジのハプニングス・フォーに比べて、ザ・ホワイト・キックスの方はアレンジがジャズ・ピアニストの三保敬太郎なのか。あの激烈サイケ・ジャズ盤 'こけざる組曲' の人だけにファズが効いていてエグいなあ。



このブーガルーの熱狂は日本のみならず遠くアフリカの地をも席巻し、その名もずばり 'Africa Boogaloo' として同時代にリリースされました。フェラ・クティに代表されるアフロビート的イメージからすれば、ここまでラテン色濃厚でビックリしますけど、実はキューバ革命の影響からルンバの流行と6/8拍子のポリリズム含め、アフリカとラテン・アメリカ圏の文化はかなり密接な繋がりがあるそうです。こちらはカメルーンから世界に打って出たマヌ・ディバンゴとコンゴ音楽の父、ル・グラン・カレことジョセフ・カバセレ、キューバ出身のフルート奏者ドン・ゴンサーロがパリで録音したもので、ここまでグァヒーラの香り濃厚なブーガルーをやるとはビックリ。





そして、やはり挙げねばならない・・当時のジミ・ヘンドリクスらロックと並ぶ '二大インフルエンス' のひとり、'Master of Funk' ことジェイムズ・ブラウン。R&Bにおけるブーガルー・ダンスを流行させたひとりであり、この1969年には新たにポップコーンというダンスを披露しますが、この鋭角的に突っ込んでくるノリこそJBそのもの!おお、まだメイシオ・パーカーも在籍中だ。また、1956年に 'Honky Tonk' のヒットを飛ばしたオルガニスト、ビル・ドゲットもこの時代には、JBのレーベルKingからJB流のファンク・アレンジによる 'Honky Tonk Popcorn' としてリメイク、ファンキーに迫ります。



しかしR&B界でブーガルーによるヒットを連発したのはジェリーOことジェリー・マレイのブーガルー・シリーズでしょう。最初のTom & Jerrio名義を出発点にしてもうブーガルーまみれ!'空手ブーガルー' とかいうインチキくさいノリは、この時期ハリウッドに現れたブルース・リー辺りからの影響でしょうか?TVドラマ 'グリーン・ホーネット' で、駆け出しのリー演じる日本人運転手役カトウが毎度繰り広げるカンフー・シーンは、ちょうどこの時期米国のお茶の間で人気を博しておりました。





そしてもうひとつ、このLate 60'sを代表するグルーヴが 'Tighten Up'!オリジナルはR&Bグループのアーチー・ベル&ザ・ドレルズですが、もうこのベースラインとギター・カッティングから始まるノリはあらゆるところでパクられましたね。オリジナルは超有名曲だけに視聴制限がかけられているので、ここではラテン・ブーガルーの人気バンド、TNTバンドによりパクった 'Musica Del Alma' をどーぞ。改めて聴いてみると結構カリプソっぽいノリもあるというか、ラテン界隈の人たちからも愛されたのは理解できますねえ。オルケストラ・ハーロウもイズマエル・ミランダをフロントに据えた1971年作で 'Horsin' Up' として取り上げているし、ね。





米国ベイエリアのラテン・コミュニティから現れたウォーは、元ザ・アニマルズのヴォーカルであるエリック・バードンを迎えて、サンタナとは別のラテンとロック、ファンクの濃厚なエッセンスを混ぜ合わせて成功した稀有な存在です。その諸説ある前身バンドのひとつ、セニョール・ソウルのクールにして怪しげなブーガルーは、当時のラテン及びR&B界からハミ出したウォー前夜を予兆させる、ユニークな個性を感じさせますね。


2017年3月1日水曜日

続・ジャズ・ロックの季節

ハービー・マンはジャズ・ロックの伝道師であった・・などと書くと、うん?ハービー・マンってジャズ・ロックなの?って声が聞こえてきそうであります。そもそもジャズ・ロックってのがジャズ側、ロック側のリスナーそれぞれで受け取り方が違っており、モダン・ジャズしか聴いていない耳でフランク・ザッパやソフト・マシーンまでフォローしている人は少ないでしょう。しかし、それでもある時代、ハービー・マンとその一派が撒き散らしていた 'ジャズ・ロック' は確かにロックのある雰囲気を伝えていたのです。



1969年の 'Memphis Underground' はまさにそんなジャズ・ロック時代を象徴する大ヒット作であり、当時のマンのグループのメンバー、スティーヴ・マーカス、ロイ・エアーズ、ソニー・シャーロックらはその片棒を担いでおりました。当時の 'ジャズ・ロック' 世代の人気者であったチャールズ・ロイドを意識したであろうマーカスは、マンのプロデュースでソロ作をAtlanticの傍系レーベルVortexから立て続けにリリースします。そこにはジャズ・ロックを象徴するギタリストとして 'Memphis Underground' にも参加したラリー・コリエルが参加、ギリギリガリガリとハードなギターを掻き鳴らします。ロイ・エアーズも1968年にマンのプロデュースでAtlanticから 'Stoned Soul Picnic' をリリース。そのローラ・ニーロ作のカバーでは 'Memphis Underground' のプロトタイプともいうべきマン流ジャズ・ロックを展開、全体的にフォーキーなサイケデリック的色彩溢れるものとなりました。そして、当時のマンのグループでひとり気炎を吐く異色の怪人ギタリスト、ソニー・シャーロックがマンの持つポップ加減に強烈な毒気を盛り込みます。すでに妻リンダとの 'Black Woman' やフランスのBYGで制作した 'Monkey Pockey Boo' でフリー・ジャズの極北を提示したふたりですが、マンのグループでは実に危ういバランスでポップとサイケデリック、モダン・ジャズの境界をグラグラと脅かす姿がたまらなかった。もちろん、その '寸止め' 感覚がかえってこの個性を際立たせているのであって、この夫妻にすべてを任せてしまったら以下の如く大変なことになります・・。



マンのプロデュースしたVortexからの 'Black Woman' とBYGからの 'Monkey Pockey Boo' は、自宅でフル・ヴォリュームにして聴こうものなら警察に通報されることを覚悟して下さいね。ともかくこのデンデケデケデケ、ギャリギャリした変態ボトルネック奏法は、このシャーロックでしか味わえない突然変異な妙味。さて、この時期のハービー・マン・グループの熱気はこれまで 'Herbie Mann Live At The Whisky A Go Go' というライヴ盤しかありませんでした。それは片面一曲ずつという消化不良状態が長いこと続いていたのですが2016年、いよいよAtlanticがその全貌を2枚組のヴォリュームでドカンと吐き出します。



Live At The Whisky 1969 - The Unreleased Masters / Herbie Mann
Green Line / Steve Marcus

冒頭でハービー・マンを 'ジャズ・ロックの伝道師' と呼びましたが、彼らは1969年と70年に立て続けで来日公演をしており、それまで海の向こうから聴こえてきたゲイリー・バートン、ラリー・コリエル、チャールズ・ロイド、ザ・デイヴ・パイク・セットらジャズ・ロックの名手に対し想像で補っていたことを、その眼前でドカンと生で披露したのです。特に69年はマイルス・デイビスも来日公演を予定しておきながら直前で中止となっただけに、なおさらハービー・マンらのジャズ・ロックは注目の的だったのは間違いない(その割には来日公演盤は作られませんでしたけど・・)。ともかくそのフラストレーションはこの2枚組発掘盤で晴らして下さいませ。シャーロック節全開としてはAtlantic盤でもお馴染みの 'Philly Dog' で唸りを上げるフリーキーなソロ!がたまりませんね。しかしズンドコしたマン流ジャズ・ロックの定番 'Memphis Underground' で調子付いてヴォリュームを上げていると、リンダの絶叫ヴォイス Black Woman' と 'Portrait of Linda in Three Colors, All Black' がCD二枚目で襲いかかってきて警察に通報されかねないのでご注意あれ。そう、実はこのハービー・マンのライヴには奥さんのリンダも '飛び入り' 参加してたんですよね。ちなみに70年の来日時には、いわゆる '日本企画もの' としてスティーヴ・マーカスをリーダーとしたアルバム 'Green Line' を制作しております。



さて、そんなシャーロックと 'Memphis Underground' で分け合った 'ジャズ・ロックの申し子' であるラリー・コリエルは、同時期にジャズ・ロック・グループとして人気を博したザ・ゲイリー・バートン・カルテットの一員でした。この後にThe 11th Houseというフュージョン・グループを結成するコリエルですが、1971年の時点ではまだまだ荒削りなジャズ・ロックでギリギリの狂気を見せ付けます。おっと、ハービー・マンでご紹介できる音源が少ないので、そのザ・ゲイリー・バートン・カルテットとライバル関係であったジャズ・ロック・グループ、ザ・デイヴ・パイク・セットの妙技三連発を追加でどうぞ。







米国人のデイヴ・パイクがオランダ、ドイツと巡って結成したザ・デイヴ・パイク・セット。いわゆる米国産ジャズ・ロックのフォーキーな雰囲気とは違うドイツらしい趣きが感じられるのは、もうひとりのリーダーであるドイツ人ギタリストのフォルカー・クリーゲルが持ち込んだものでしょう。同じ編成でライバルでもあったザ・ゲイリー・バートン・カルテットに比べ、どこか怪しい感じというか、シタールとかフィーチュアするサイケなセンスが格好良かったですね。







ニュージーランド出身のピアニスト、マイク・ノックも 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にはヒッピー風の出で立ちで彷徨いながらジャズ・ロックの先駆的グループ、ザ・フォースウェイを結成します。どこかウェザーリポートと被る 'キャラっぽさ' (ジョー・ザヴィヌルとマイク・ノックなど)を持ちながら、マイケル・ホワイトの 'アンプリファイ' したヴァイオリンとノックのフェンダーローズから放たれるMaestro Ring Modulatorの歪みきったトーンで 'ジャズ・ロック' の時代を宣誓します。



今や、ビル・フリゼールやジョン・アバークロンビーと並んでECMを代表するノルウェー出身のギタリスト、テリエ・リピダルも1973年はこんな荒削りな感じ。しかし、リピダルと言えば故・中山康樹さんのこんなエピソードを思い出します。深夜、マイルス・デイビスと深酒しながら突如、今度新しいギタリストを雇いたいのだが誰か良いのいるか?と聞かれ、ノルウェー出身のテリエ・リピダルはヘンドリクス・マナーなギタリストだとお勧めした中山さん。どんなヤツだ?ここにスペルを書け!と差し出された紙に、酔ったアタマで咄嗟に 'Terje Rypdal' と書けるヤツなどそうはいないと緊張する中山さん。しばらくしてデイビスのバンドには 'リードベース' ギターのジョセフ "フォーリー" マクレアリが収まったとの報が。どうやらデイビスには 'Terje Rypdal' が 'フォーリー' と読めたのかもしれない、とオチを付けた中山さん・・(笑)。そんな本人の与り知らないところでこんな 'やり取り' のあったテリエ・リピダルは現在も活動中であります。