2021年8月15日日曜日

真夏の夜長に耽る

身の回りにある機材をグルッと見渡すといっぱいあるな、と思っちゃいますね。それぞれに個性があってただ眺めているだけでも気分が上がる反面、正直、こんなに機材いらんよな、という気持ちも一方では持ち上がってくるのも事実(汗)。ある程度、限定された環境で目の前のものに向き合う時間って実はいろんな発見もあり大切なのですヨ。こーいう気持ちのモチベーションのひとつとして、1970年代にジャマイカはキングストンの貧しいスタジオであれこれ機材の過剰な実験、溢れ出る発想の塊であった数々の 'ダブマスター' たちの仕事ぶりに思いを馳せるのです。







カリブ海の孤島ジャマイカで探求された '変奏' ともいうべき 'ルーツ・ダブ' の世界。週末に大量のマスターテープと共に彼らのスタジオTubby's Hometown Hi-FiやBlack Ark、Studio Oneにやってくるプロデューサーのオーダーに従い、4トラック程度のリミックスとして過剰なエコーやスプリング・リヴァーブ、フィルターなどで '換骨奪胎' されたものをリアルタイムにダブプレートと呼ばれる鉄板をアセテートで包んだ盤面に刻む。その大量の 'ヴァージョン' はこの孤島を飛び出して、今や 'リミックス文化' におけるポップ・ミュージックのスタンダードとなりました。その 'ダブ発見' についてキング・タビーをフックアップしたプロデューサー、バニー・リーは間違えたミックスとダイレクト・カッティングによる最初の興奮と顛末についてこう述べております。

"ダブが始まったとき、それは本当の「ダブ」じゃなかった。ある日の夕方、俺とタビーがデューク・リード(プロデューサー)のスタジオにいると、スパニッシュタウンからルディ・レドウッドっていうサウンドマンがヴォーカルとリディムを使って曲をカットしてた。それをエンジニアがうっかりヴォーカルを入れ忘れたから、途中でカットを止めようとするとルディが言ったんだ。「待ってくれ、そのままやってくれ!」って。それで最初にヴォーカル無しのリディムだけのダブプレートが出来た。ルディは「今度はヴォーカル入りのをカットしてくれ」って言って、ヴォーカルが入ったのもカットした。その次の日曜日、ルディが回しているとき、俺は偶然そのダンスにいた。それで奴らがこないだカットしたリディムだけの曲をかけたらダンスが凄く盛り上がって、みんなリディムに合わせて歌い始めたんだ。あんまり盛り上がったもんで、「もう一回、もう一回」ってあの曲だけを一時間弱かけるハメになってたよ!。俺は月曜の朝、キングストンに戻ってタビーに言った。「タビー、俺らのちょっとした間違いがみんなに大ウケだったよ!」って。そしたらタビーは「よし、じゃあそれをやってみよう!」って。俺らはまず、スリム・スミスの「エイント・トゥ・ベック」とかで試してみたよ。タビーはヴォーカルだけで始めて途中からリディムを入れる。それからまたヴォーカルを抜いて、今度は完全にリディムだけにする。俺らはそうやって作った曲を「ヴァージョン」って呼び始めた。"












ダブの 'マッド・サイエンティスト' ことリー "スクラッチ" ペリーと 'BlackArk' スタジオの守護神的存在として彼の '魔術' に貢献した機器、Musitronics Mu-Tron Bi-Phaseとスプリング・リヴァーブのGrampian Type 636があるとすれば、一方のキング・タビーと 'Tubby's Hometown Hi-Fi' ではスプリング・リヴァーブのThe Fisher K-10とタビーがダイナミック・スタジオから払い下げてきたMCI特注による4チャンネル・ミキサー内蔵のハイパス・フィルターが殊に有名です。EQの延長としてダイナミック・スタジオがオーダーしたこの機器は、後にプロデューサーのバニー・リーが "ダイナミックはこのミキサーの使い方を知らなかったんじゃないか?" と言わしめたくらい、タビーにとっての 'トレードマーク' 的効果としてそのままダブの 'キング' の座を確かなものとしました。そう、この効果が欲しければタビーのスタジオに行くほかなく、また、ここからワン・ドロップのリズムに2拍4拍のオープン・ハイハットを強調する 'フライング・シンバル' という新たな表現を生み出すのです。そのハイパス・フィルターは、左右に大きなツマミでコンソールの右側に備え付けられており、70Hzから7.5kHzの10段階の構成で、一般的な1kHz周辺でシャット・オフする機器よりも幅広い周波数音域を持っていました。タビーの下でエンジニアとしてダブ創造に寄与、'Dub of Rights' のダブ・ミックスも手がけた二番弟子、プリンス・ジャミー(キング・ジャミー)はこう述懐します。

"ダイナミック・サウンズ用に作られた特注のコンソールだから、すごく独特だったよ。最近のコンソールには付いていないものが付いていた。周波数を変えるときしむような音がするハイパス・フィルターとか、私たちはドラムでもベースでもリディムでもヴォーカルでも、何でもハイパス・フィルターに通していた。ハイパス・フィルターがタビーズ独特の音を作ったんだ。"








Fender Soundette
Arbiter Soundette
Arbiter Soundimension
Arbiter Add-A-Sound

一方、Arbiterから登場したSoundimensionとSoundetteはBinson Echorecと同様の磁気ディスク式エコーであり、この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名です。またアッパー・オクターヴの効果を持つAdd-A-Soundはフランク・ザッパも愛用しました。そんなSoundimensionはジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。後には自らミキシング・コンソールの前を陣取り 'Dub Specialist' の名でダブ・ミックスを手掛けますが、そんな彼のスタジオStudio Oneでドッドの片腕としてエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"







そしてダブと言えばトランペットと最も親和性の高いエフェクツにディレイがあり、そんな '飛ばしワザ' を最大限に活用したのがダブにおける '空間生成' の拡張にあります。わたしがメインで使っているのはBBDチップによる '質感' をDSPテクノロジーで 'アナログ・モデリング' したStrymon Brigadierでして、その他、いくつかの製品も所有しております。流石に高価で嵩張るヴィンテージのテープ・エコーを買おうとは思いませんが(汗)、しかし、こればかりは幾つあっても全然無駄にならないくらいそれぞれの個性があり、それこそギタリストが歪み系ペダルばかり買い続けるのと同じ心理で '底なし沼' 的魅力があったりします。

ちなみに 'ローファイ' なこの手の '隠れ名機' としてはロシアも負けておりません。旧ソビエトの時代に 'ギターシンセ' 含めてマルチ・エフェクツ' に集大成させたのがこちら、Formanta Esko-100。1970年代のビザールなアナログシンセ、Polivoksの設計、製造を担当したFormantaによる本機は、その無骨な '業務用機器' 的ルックスの中にファズ、オクターバー、フランジャー、リヴァーブ、トレモロ、ディレイ、そして付属のエクスプレッション・ペダルをつなぐことでワウにもなるという素晴らしいもの。これら空間系のプログラムの内、初期のVer.1ではテープ・エコーを搭載、Ver.2からはICチップによるデジタル・ディレイへと変更されたのですがこれが 'メモ用ICレコーダー' 的チープかつ 'ローファイ' な質感なのです。また、簡単なHold機能によるピッチシフト風 '飛び道具' まで対応するなどその潜在能力は侮れません。Reverb.comで検索すると比較的状態の良い個体がロシアのセラーにより出品されているので是非お試しあれ(ちなみにロシアの電圧は240V)。そういえばフランジャーって何でか '共産主義者' たちの興味を惹いていたようで(笑)、こちらもReverb.comで検索すると旧ソビエト時代の '遺物たち' がやたらと出品されるほどフランジャー多し(謎)。一方、日本では流通しませんでしたが、なぜか欧米の '宅録野郎' たちのお部屋でよく見かける 'ガレージ臭丸出し' な謎の一台、Knas The Ekdahl Moisturizer。中身はVCFとLFOで変調させたものを本体上面のスプリング・リヴァーブに送ってドシャ〜ン、バシャ〜ンと乱暴に '飛ばし' ます(笑)。 


Gamechanger Audio Motor Synth

このようなダブに必須の '飛び道具' ということで、大きなミキシング・コンソールと共に手に入れておきたいのが 'ダブ三種の神器' ともいうべきスプリング・リヴァーブ、ディレイ、フィルターであります。スペインでダブに特化した機器を専門に製作するBenidub Audioは、現在の市場に本場ダブの持つ原点ともいうべき音作りを開陳するべく貴重な存在。すべては '目の前にある' 反復した音のミキシング・コンソールによる '抜き差し' から、ライヴとレコーデッドされた素材を変調するために '換骨奪胎' する・・これぞダブの極意なり。そして、ラトビアからピアノのダンパーペダルを模して 'Freeze' させるPlus Pedal、キセノン管をスパークさせる異色のディストーションPlasma PedalとPlasma Coil、光学式スプリング・リヴァーブの変異系Light Pedalなどを製作するGamechanger Audioが満を持して市場に投入したシンセサイザー、Motor Synth。8つのモーターを駆動させて '電磁誘導' により 'シンセサイズ' する本機こそ、そのままダブ製作の 'お供' として財布のヒモを緩めているのですが・・一向にココ日本には入荷してきませんね(謎)。








さて、最近の 'リヴァーブ事情' も見ておこうということで、Vongon Electronicsからは1978年の初期デジタル・リヴァーブLexicon 224の 'プレート・リヴァーブ' をモデリングしたUltraseerも用意しております。木製のウォールナット材に嵌め込まれたこのステレオ・ユニットは、32bitのフローティングDSPで作られた残響を '初期デジタル' の質感の為にあえて16bitにダウンサンプリング。一方、いわゆる処理の甘さからくるが故の 'エラー的' な揺れを 'ヴィブラート' として、レスリー風効果を生成するサイン波の 'Cycle' と日焼けで反ったアナログ盤や劣化テープの 'Random' をリヴァーブ・アルゴリズムに追加します。そして新たにChase Bliss AudioとMerisの 'コラボ' からは、同じく1970年代後半のデジタル・リヴァーブの質感と共にスタジオの定番として未だ鎮座するLexicon 480Lをこんな価格帯で実現してしまったもの凄いヤツが登場。Tank Mod、Diffusion、Clockなど3種のリヴァーブ・アルゴリズムを備え、リヴァーブテイルを完全にシェイピングするディケイ・クロスオーバー、10プリセット×3バンクのユーザー・プリセットを6つのムーヴィング・フェーダーでトータル・リコール出来る再現性はもはやペダルの範疇を超えておりまする。というかコレ、足下に置く人はいないでしょ(笑)。また、高品質リヴァーブといえばEventide Spaceで極めたプログラムを 'インフィニットモード' と 'フリーズモード' のリヴァーブ2種を中心にコンパクトにまとめ、'H9シリーズ' 同様PCと連携してソフトウェア 'Eventide Divice Manager' でプリセットの追加、保存、エディットを行うBlackhole Pedalが登場。一方で、いやいやリヴァーブはやっぱりアナログだよって人は、残響のディケイの長さを順に 'Le Bon'、'La Brute'、'Le Truand' のスプリング・ユニットとして3種用意されたフランスの工房、AnasoundsのElementをどーぞ。そして、キセノン管をスパークさせて特異な歪みを生成するPlasma Pedalでこの市場に一石を投じた以降も革命的なアイデアで惹き付けるラトビアの変態、Gamechanger Audioの光学式スプリング・リヴァーブLight Pedal。いよいよここ日本にも上陸して参りましたが・・さ、どう使いこなしましょうか?。








こちらはフランスで活動するVOSNEとドイツのMartin Sturtzerによるミニマル・ダブ・セッション。この 'サウンドスケイプ' ともいうべき深〜いリヴァーブ&エコーの音像から滲み出す '4つ打ち' の美学は、まさにジャマイカで育まれたダブの世界観がそのまま、暗く冷たく閉ざされたヨーロッパの地で隔世遺伝した稀有な例と言っていいでしょうね。1996年、ドイツでダブとデトロイト・テクノという真逆なスタイルから強い影響を受けたモーリッツ・フォン・オズワルドとマーク・アーネスタスは、自らBasic Channelというレーベルを設立してシリアスな 'ミニマル・ダブ' を展開するリズム&サウンドと、1970年代後半からニューヨークで積極的に展開させたロイド "ブルワッキー" バーンズの作品を再発することでダブを特異な段階へと引き上げることに成功しました。そして、彼ら 'Basic Channel' のダブを支える 'Dubplates & Mastering' との協同体制は、主宰ラシャド・ベッカーやMonolakeとしての活動もするカッティング・エンジニア、ステファン・ベトケによる貢献がその創造と源泉に深く結び付いた '聖地' でもあります。この硬質なダブの質感は 'ワッキーズ' の再発のみならず、同地ニューヨークで1990年代後半に起こった 'イルビエント' に触発されたSpectreなるヒップ・ホップ・ユニットのカセットも 'Dubplates & Masterring' でリマスタリングされるなど、その原点への配慮も忘れてはおりません。これは亜熱帯の緩〜い気候と共に育まれたジャマイカ産の 'ルーツ・ダブ' とも、ニューウェイヴと共にメタリックな質感を持った 'UKダブ' とも違う、まさにテクノを経過したドイツ産の 'Dubplates & Masterring' 特有のものでしょうね。









この 'Youtuber' Aldoさんの動画を見ていろんなコトがハッキリとしてきます。大抵、こーいう心境の時は心身が不調に陥っている時に考えてたりする(苦笑)。まさに狂った '波長' をチューニングするべくシンセサイズの 'セラピー' を受けて、再び現実の世界へと舞い戻るという '長い道程(Trip)' はLSD映画「白昼の幻想」のピータ・フォンダになった気分ですけど(笑)、そんな自律神経の凝り固まった血流を解き、風呂上がりのビールならぬ '目の前の'音 たちと戯れるのです。それは、大仰なシンセサイザーなど持ち出さなくとも自身で吹くラッパからレコード盤などあらゆる外界に溢れる 'ノイズ' として採取、それを元にあれこれ 'サンプル' として弄っていく醍醐味こそサンプラーという機器を使うことの面白さに繋がります。まさにリアルタイムで目の前のテクノロジーから '取り出していく' 行為のダブが持つ審美眼と同等のものであり、そう、音楽の取っ掛かりは何だって良いんですヨ。










Steelpan

さあ、机に向かって電源入れて・・という前に、まずはファンクのマナーを学ばなければなりません(笑)。というか、このコロナ禍とはいえ真夏にずーっと自宅で引き篭もって小さな液晶画面と顔突き合わせるなんてありえないでしょ。スプリフに火を付けて煙燻らすジャマイカのダンスホール文化もそうなんですけど、あの膨大なダブ・プレートはどこで需要があるのかと言えば、それは週末の野外パーティーで超低音のウーハーを飛ばす勢いで踊らせる為にあるのです。南国と音楽の関係性について偏見かも知れませんけど、特にコンピュータ中心の制作環境で '宅録' をやっているイメージは、暖かい陽射し溢れる日常より寒くて閉ざされた地域の方が活発なんじゃないか、という気がします。冬は外に出て行く機会もなく、ひとり暗く自室に閉じこもってアレコレやっている国々に対して、毎日が澄み渡る青空と陽射しの連続ならカーニバル的 '夏祭り' な過ごし方で一日の予定を立てる・・。いや、実際にはあまりに猛暑で日中は外出せず自宅で涼んでいるのかも知れませんけど(苦笑)。さて、そんなカリブの血脈としては、英国のラッパ吹きで西インド諸島バルバドス出身のハリー・ベケットやキングスタウン出身のシェイク・キーンなど、その'移民組' が奏でるフレイズの端々にこの地域独自の文化圏が聴こえてくるのは間違いありません。つまりモダンからフリージャズ 、ジャズ・ロックの '季節' を経てレゲエやダブと '邂逅' することでカリブ海と 'UK Blak' を辿る為の地図が完成するのです。そして、コロコロと南国のムード溢れる楽器といえばトリニダード・トバゴのドラム缶で製作する創作楽器スティールパンがあり、このジャコ・パストリアス・グループのカリプソ風ファンキーな 'The Chicken' で叩くのはトリニダード・トバゴ出身のスティールパン奏者、オセロ・モリノー。このスティールパンも炸裂する 'カリビアン・ファンク' の合図として、まずはショーン・コネリー主演のスパイ映画 '007サンダーボール作戦' の舞台となる1965年当時のバハマは首都ナッソーのビーチへとひとっ飛びしましょうか。













そんなカリブ海とバハマ一帯、実は音楽的に '不毛地帯' ではなかったことを証明する怪しいシリーズ 'West Indies Funk' 1〜3と 'Disco 'o' lypso' のコンピレーション、そして 'TNT' ことThe Night Trainの 'Making Tracks' なるアルバムがTrans Airレーベルから2003年、怒涛の如く再発されました・・。う〜ん、レア・グルーヴもここまできたか!という感じなのですが、やはり近くにカリプソで有名なトリニダード・トバゴという国があるからなのか、いわゆるスティールパンなどをフィーチュアしたトロピカルな作風が横溢しておりますね。実際、上記コンピレーションからはスティールパンのバンドとして有名なThe Esso Trinidad Steel Bandも収録されているのですが、その他は見事に知らないバンドばかり。また、バハマとは国であると同時にバハマ諸島でもあり、その実たくさんの島々から多様なバンドが輩出されております。面白いのは、キューバと地理的に近いにもかかわらず、なぜかカリブ海からちょっと降った孤島、トリニダード・トバゴの文化と近い関係にあるんですよね。つまりラテン的要素が少ない。まあ、これはスペイン語圏のキューバと英語圏のバハマ&トリニダードの違いとも言えるのだろうけど、ジェイムズ・ブラウンやザ・ミーターズ、クール&ザ・ギャングといった '有名どころ' を、どこか南国の緩〜い '屋台風?' アレンジなファンクでリゾート気分を盛り上げます。ジャマイカの偉大なオルガン奏者、ジャッキー・ミットゥーとも少し似た雰囲気があるかも。しかし何と言っても、この一昔前のホテルのロビーや土産物屋で売られていた '在りし日の' 観光地風絵葉書なジャケットが素晴らし過ぎる!永遠に続くハッピーかつラウンジで 'ミッド・センチュリー・モダン' な雰囲気というか、この現実逃避したくなる 'レトロ・フューチャー' な感じがたまりません。













同じサムネ画ばかりで目がクラクラしているでしょうけど、この亜熱帯にラウンジな感じはまだまだ続きますヨ。誰かすぐにホテルを手配して航空機チケットをわたしに送ってくれ〜。今夜一眠りして、翌朝目が覚めたら一面、突き抜ける青空と青い海、降り注ぐ日差しを浴びながらプールサイドで寝そべっていたらどれだけ気持ち良いだろうか。ほんとコロナじゃなかったらなあ、この永遠の 'シャングリラ' に身を沈めたかったのに(涙)。あ、皆さま、ここでの旅はネット・サーフィンの如く世界をクリックひとつで飛んで行き、自宅にいながら旅行雑誌パラパラめくっては思いを馳せる 'アームチェア・トラベル' の類いですのでコロナ禍の下、不要不急でお願い致しますね。











そんなバハマといえば首都のナッソー(Nassou)、そのナッソーといえば 'Funky Nassou' ということで、この 'カリビアン・ファンク' で最も有名なのがバハマ出身のファンクバンド、The Bigining of The End。1971年のヒット曲で聴こえる地元のカーニバル音楽、'ジャンカヌー' のリズムを取り入れたファンクは独特です。このジャンプアップする 'Funky Nassou' 一曲だけでカリブの泥臭くも陽気な雰囲気はバッチリ伝わっており、その優れたファンクを全編で展開したデビュー作以後、ディスコ全盛期の1976年にバンド名そのままの2作目をリリースして消えてしまいました。そしてもう一度、Trans Airのコンピ 'Disco 'O' Lypso' から 'Funky Nassou' のディスコ・カバーをどーぞ。



そして中南米から大西洋を渡り北アフリカへ上陸!。エチオピアから '昭和の哀愁を持つ男' (笑)ムラトゥ・アスタトゥケを始めとした、この懐かしくも夏祭りの叙情溢れる 'エチオピアン歌謡グルーヴ' で厳しいコロナ禍の夏を乗り切りましょう。ジャマイカで推進されたラスタファリ運動の神ジャーの '化身' として推戴されていたのがエチオピアの皇帝、ハイレ・セラシエ一世だったということで、なぜかジャマイカもそうなのだけど、彼らと日本の音楽が持つ '演歌性' の親和感って一体どこで繋がっているのだろうか?(謎)。







ちなみに、ダブの先駆的存在にして過剰なテクノロジーの使用とLSD体験における '意識の拡張' を表現したものがサイケデリック・ミュージック。テープ・エコーやスプリング・リヴァーブ、飽和するファズの歪みに未知なる 'シンセサイズ' の音作りなどなど、音楽史上、最もポップと前衛がせめぎ合った面白い時代でした。'セットイン' と呼ばれるLSD服用の為のリラクゼーション導入促進で濃密なインド音楽と電子音で被験者を 'Stone' させる一枚 'Turn On, Tune In, Drop Out' を 'LSDの教祖' ティモシー・リアリーに制作させるなど、今から考えればこんな '反社会的要注意人物' のレコードを手がける大手Mercuryはどうかしていたのかも(笑)。









さて、ダブと 'Tokio' が先鋭的なカタチで交差した瞬間を捉えたという意味ではもう一度、時計の針を1980年の 'TOKIO' に巻き戻さなければなりません。アフリカ・バンバータの 'Planet Rock' ?ハービー・ハンコックの 'Rockit' ?マントロニクスの 'Bassline' ?サイボトロンの 'Clear' ?いやいや、YMOの '頭脳' ともいうべき '教授' ことRiuichi Sakamotoにご登場頂きましょう。ここでは 'ニューウェイヴ' の同時代的なアティチュードとして、最もとんがっていた頃の '教授' がブチかましたエレクトロ・ミュージックの 'Anthem' とも言うべきこれらを聴けば分かるはず。特に 'Riot in Lagos' のデニス・ボーヴェルによるUK的 'メタリック' なダブ・ミックスが素晴らしい。この1980年はYMO人気のピークと共にメンバー3人が '公的抑圧' (パブリック・プレッシャー)に苛まれていた頃であり、メンバー間の仲も最悪、いつ空中分解してもおかしくない時期でした。そんなフラストレーションが '教授' の趣味全開として開陳させたのが、'ロシア・アヴァンギャルド' のエル・リシツキーをオマージュした意匠のソロ・アルバム 'B-2 Unit' と六本木のディスコのテーマ曲として制作した7インチ・シングル 'War Head c/w Lexington Queen' におけるダブの 'ヴァージョン' 的扱い方だったりします。しかし 'Riot in Lagos' をカバーするラッパ吹き、出て来ないかなー?。そしてボーヴェルが1978年に手がけた一枚 'Row Row Row' から 'River Dub' によるルーツなダブミックスをどーぞ。






 



さあ、南国の 'ファンク・マナー' をたっぷりと吸収してさっそく目の前の機材と戯れます。流石にOctatrackの操作は覚えるのに一苦労・・という声がスウェーデンのElektron技術陣に届いたかどーかは分かりませんけど(笑)、シンプルなワンショットのループ・サンプラーと8ヴォイスのPCMドラムマシンをひとつにまとめたDigitaktが登場、現在 '宅録野郎' たちを中心にヒット街道爆走中であります。このサイズでサンプラーとドラムマシン、シーケンスが一括して打ち込めるという分かりやすさはイイですね。プリセットで81個、最大127個のサンプルをRAMで生成し、現時点のヴァージョンアップではサンプルのスライスやタイムストレッチは出来ず、あくまでエンヴェロープでサンプルのスタートとエンド、ループポイントとチューニング、その再生方向(逆再生など)を弄りながらElektronご自慢の 'パラメータロック' というトリガー機能で鳴らす(だからワンショット)だけのもの。それらがリアルタイムで動かせる為に、突発的なグラニュラー効果から 'ウェイヴテーブルシンセ' のオシレータなども内蔵しているので面白いことが出来ます(現状モノラルのみなので 'Ver. Up' でステレオ化してくれ〜)。

●オーディオトラック×8
●MIDIトラック×8
●各オーディオトラックに独立したマルチモード・フィルター&ディストーション搭載。
●各トラックに独立した1つのLFOを割り当て可能(オーディオトラックのみVer.Upで2つに拡大)。
●センド・エフェクツ(ディレイ、リヴァーブ)
●サンプリング機能(64MB + Driveストレージ1GB)
● - USB経由による 'Overbridge' 対応 -
:Digitakt本体にUSB経由でオーディオデータ読み込み可能。
:専用プラグインで本体を制御(VST、AU対応)。
:2 In/Outのオーディオドライバー機能(CoreAudio、ASIO、WDM対応)。
:DAWトラックへのDigitakt本体のトラックを読み込み可能(24Bit/48Khz)。
:DAWのプロジェクト情報にDigitakt本体の設定を保存可能。
:USBによるMIDI信号の送受信が可能。
:Digitakt本体のシーケンサーとDAWを保存可能。






そして、今や '国産グラニュラー系' の老舗と呼びたいほど存在感溢れる '黄色いバナナ' を目印にしたBananana Effects。以前に同名でラインナップしていた 'Tararira' がデザイン、機能共に全て一新して再登場しました。その可愛いグラフィカルなLEDはもちろん、8ステップ・シーケンサーと9種のシーケンス、8種のエフェクツを中心に27種のスケールと3種のエディット可能なユーザー・スケール、9種のプリセット保存によりエレクトロニカの新たな世界を開陳するでしょう。このハープを 'アンプリファイ' にしてTarariraで遊んでしまう気持ちもよく分かるなあ。機材ってこんなポップなインターフェイスだけでもワクワクして触りたい、欲しいという感情が大事だと思うんです、うん。



 










一方でさらに凝った音作りへの挑戦。いわゆるステレオがもたらす 'デュアル・フェイズ' の定位はMusitronics Mu-Tron Bi-Phaseを始めとして、ミキシング・テクニックの妙を体感させる定番でもあります。流石にその高級機器を手に入れることは叶いませんが、ここではJMT SynthのPHW-16で同様のアプローチを '擬似ステレオ' で再現します!。モノラルの入力をそれぞれ 'Out A' と 'Out B' に振り分けて、RT ElecTRonix UBS-1の 'バッファー' を軸としたループ・システムで 'インピーダンス・マッチング' を取りながらパラレルにステレオ出力(本機はラインレベルのエフェクターです)。このUBS-1はバッファーの '質感' をDark〜Brightの8種からなるトーンとして選択し、メインの 'インサート' にはPHW-16を繋いで左右に振った '擬似ステレオ' のミックスにします。また 'Volume Send/Return' としてもうひとつのループがあり、追加の音源になるものをということでMaestroのRhythm 'n Sound for Guitar G-1はいかがでしょうか。こちらはメインの 'インサート' に対してその前後を 'Pre/Post' スイッチで選択可能となり、'Pre' にすることでPHW-16のLFOやResonanceによる発振させたドラムシンセとしてG-1のパーカッションをトリガーさせることが可能。PHW-16には2つのCV InにLFO OutやWave Outなど2つのCV Inがあり、さらに複雑な音作りに威力を発揮します。ちなみにそのG-1ではBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載し、この時代では先駆的だったオクターバーにして 'ウッドベース' のシミュレートとも言うべきString Bass、Fuzz Bassの2種、そして 'ワウ半踏み' 風なトーン・フィルターのColor Tonesを3種備えておりました。単純なトリガーによるユニゾンで鳴らすことを前提とした '飛び道具' は、今ならループ・サンプラーとの組み合わせが必須ですね。










ちなみにRhythm 'n Sound for Guitarのパーカッションの音源自体は、当時Maestroが発売していたRhythm Kingというリズムボックスからのものを流用しており、現在の基準で見ればおおよそリアルな音源とは程遠いチープなものです。このRhythm Kingは、あのスライ・ストーンの名盤 '暴動' (There's A Riot Goin' On)で全面的にフィーチュアされるリズムボックスでもあります。単にホテルのラウンジ・バンドとして、オルガン奏者が伴奏に用いていたリズムボックスをこのようなかたちでファンクに応用するとは設計者はもちろん、誰も想像すらしなかったことでしょう。スライ本人はスタジオの片隅に捨て置かれていたコイツを見つけて、ひとりデモ用として都合が良いことから使い出したらしいですけどね。また、ダブの巨匠であるリー・ペリーの 'Blackark' スタジオにもKorg Mini Pops 3リズムボックスのOEM、Uni-Vox SR-55と一緒にこのG2が置いてありましたね。これは、ジ・アップセッターズに演奏させたというよりもペリーのミキシングボードの隣りでSR-55の上に乗せられていたので、このリズムボックスをトリガーにして鳴らしていたのかな?そして土星からやって来た '太陽神' ことサン・ラもこの 'Disco 3000' でチクタクと怪しげなオルガンと共に登場!しかし、無機質に何の感情もなく繰り返すリズムボックスの響きってサイケだよなあ。スライがぶっ飛んだ状態でスイッチを入れて新たなファンクを創造したのも納得。





そして、このようなリズミックなペダルということではこちら、英国の鬼才David Raingerが手がけるこのMinor Concussionも地味に面白い。まるで "目覚めよ、フランケンシュタイン!" と叫びたくなるナイフ・スイッチを備えた 'シンセサイズ' のDr. Freakenstein Fuzzや様々な液体を封入して歪み量を変えるオーバードライブMinibarなど、そのぶっ飛んだ刺激的アイデアの源流とも言える本機は、いわゆる 'サイドチェイン' に特化したトレモロ/コンプレッサー。タップテンポやCVでランダマイズに揺らすトレモロのほか、付属のダイナミック・マイクを繋ぐことで外部から収音によるトリガーと共に揺れの '同期' をサポート(笑)。一体なぜ?という疑問は愚問です。こーいうアイデアを前にワクワクしながら、さあ、何かやってやろう!と思える人にのみ、本機は多くの可能性を開陳するのです。









そしてMaestroのRhythm 'n Sound for Guitar G-1と並び '1968年の飛び道具' として、黎明期のペダル・エフェクター史にその存在を刻み付けたHoneyのSuper Effect HA-9P。まだまだアジアの下請けであった高度経済成長期の日本から市場に現れた本機は、その '本家' であるHoneyを始めに英国のRose-Morrisや米国の大手Unicordと提携。そこからShaftesbury、Uni-Vox、Appolo、National、Greco、Elektra、Jax、L.R.E.、Cromwell、Sam Ash、Sekova etc..といった数々のブランド名と共にOEMとして海を渡って行きました。このHA-9Pはワウペダルとヴォリューム・ペダルに加えて、'発想の源' である波(Surf)と風(Wind)とサイレンの効果音を発生させる漲ったアイデアが素晴らしい!。その 'Wind' は新映電気(Companion)以降に 'Tornado' や 'Hurricane' の表記でも輸出されておりましたが、こーいう '飛び道具' をシンセサイザーでやらず本機を触ってやることに意味があるのですヨ。もう意地でも使い倒します(笑)。





さて、Moog、Arp、EMSと並ぶシンセサイザー黎明期の 'レジェンド' ともいうべきBuchlaミュージック・シンセサイザーで夜な夜な '素材作り' に勤しみます。このMusic EaselはBuchlaというブランドのイメージとして時代を超えた評価を得ており、まさに鍵盤のふりした感圧センサー、電圧制御でジェネレートする 'トリガー・ミュージック' の操作性にこだわることでBuchlaは音楽の '成層圏' を突き抜けます。以下、'サウンド&レコーディングマガジン' の2015年4月号でエンジニア、渡部高士氏(W)とマニピュレーターの牛尾憲輔氏(U)による本機のレビュー対談をどーぞ。

- まずお2人には、Buchlaシンセのイメージからおうかがいしたいのですが。

W - 珍しい、高い、古い(笑)。僕は楽器屋で一回しか見たことがないんだよ。当時はパッチ・シンセを集め始めたころで、興味はあったんだけど、高過ぎて買えなかった。まあ、今も買えないんだけど(笑)。

U - BuchlaとSergeに関しては、普通のシンセとは話が違いますよね。

- あこがれのブランドという感じですか?

U - そうですね。昨今はモジュラー・シンセがはやっていますが、EurorackからSynthesizer.comなどさまざまな規格がある中で、Buchlaは一貫して最高級です。

W - ほぼオーダーメイドだし、価格を下げなくても売れるんだろうね。今、これと同じ構成のシンセを作ろうとしたらもっと安く組めるとは思うけど、本機と似た構成のCwejman S1 Mk.2も結構いい値段するよね?

- 実際に操作してみて、いかがでしたか?

W - Sergeより簡単だよ。

U - 確かに、Sergeみたいにプリミティブなモジュールを使って "これをオシレータにしろ" ということはないです。でも、Music Easelは普通のアナログ・シンセとは考え方が違うので、動作に慣れるのが大変でした。まず、どのモジュールがどう結線されているのかが分からない・・。

W - そうだね。VCAが普通でないつながり方をしている。

U - 音源としては2基のオシレータを備えていて、通常のオシレータComplex OSCの信号がまずVCA/VCFが合体した2chのモジュールDual Lo Pass Gate(DLPG)に入るんですよね。その後段に2つ目のDLPGがあって、その入力を1つ目のDLPG、変調用のModulation OSC、外部オーディオ入力から選べるようになっている。

W - だから、そこでComplex OSCを選んでも、1つ目のDLPGが閉じていると、そもそも音が出ない・・でも、パッチ・コードで結線しなくてもできることを増やすためにこうした構成になっているわけで、いったん仕組みを理解してしまえば、理にかなっていると思ったな。Envelope Generator(EG)のスライダーの数値が普通と逆で、上に行くほど小さくなっていたのには、さすがにびっくりしたけど。

U - でも、こっちの方が正しかった。

- その "正しい" という理由は?

W - Music EaselのEGはループできるから、オシレータのように使えるわけです。その際、僕らが慣れ親しんだエンヴェロープの操作だと、スライダーが下にあるときは、例えばアタックならタイムが速く、上に行くほど遅くなる。これをオシレータとして考えるとスライダーが上に行くほどピッチが遅くなってしまうよね?だからひっくり返した方がいいと言うか、そもそもそういうふうに使うものだった。時代が進むにつれてシンセに独立したオシレータが搭載されるようになり、エンヴェロープを発振させる考え方が無くなったわけ。

- 初期のシンセサイザーはエンヴェロープを発振させてオシレータにしていたのですか?

W - そう。Sergeはもっとプリミティブだけどね。最近のシンセでも、Nord Nord Lead 3などはARエンヴェロープがループできますよ。シンセによってエンヴェロープ・セクションに 'Loop' という機能が付いているのは、そうした昔の名残なんでしょうね。Music Easelはエンヴェロープで波形も変えられるし、とても面白い。

- オシレータの音自体はいかがでしたか?

W - とても音楽的な柔らかい音がして、良いと思いましたよ。

U - レンジはHigh/Lowで切り替えなければならないのですが、音が連続して変化してくのがいいですね。あとEMSのシンセのように "鍵盤弾かせません!" というオシレータではなくて、鍵盤楽器として作られているという印象でした。

W - EMSは '音を合成する機械' という感じ。その点Music Easelは '楽器' だよね。

U - 本機ではいきなりベース・ライン的な演奏ができましたが、同じようなことをEMSでやるのはすごく大変ですから。

W - 僕が使ったことのあるEMSは、メインテナンスのせいだと思うけど、スケールがズレていたり、そもそも音楽的な音は出なかったけどね。この復刻版は新品だからチューニングが合わせやすいし、音自体もすごく安定している。

U - 確かに、'Frequency' のスライダーには '440' を中心にAのオクターヴが記されていて、チューニングがやりやすいんですよ。

W - そもそも鍵盤にトランスポーズやアルペジエイターが付いていたりと、演奏することを念頭に作られている。

- オシレータのレンジ感は?

W - 音が安定しているからベースも作れると思うよ。だけど、レゾナンスが無かったり、フィルターにCVインが無かったり、プロダクションでシンセ・ベース的な音色が欲しいときにまず手が伸びるタイプではないかな。

- リード的な音色ではいかがですか?

W - いいんじゃないかな。特にFM変調をかけたときはすごくいい音だったよ。かかり方が柔らかいと言うか、音の暴れ方がいい案配だった。普通、フィルターを通さずにFMをかけると硬い音になるんだけど、Music Easelは柔らかい。

U - 僕はパーカッションを作るといいかなと思いました。

W - 'ポコポコ' した音は良かったよね。EGにホールドが付いているから、確かにパーカッションには向いている。でも、意外と何にでも使えるよ。

- 本機はオーディオは内部結線されていて、パッチングできるのはCVのみとなりますが、音作りの自由度と言う観点ではいかがですか?

U - 信号の流れを理解すれば過不足無く使えますが、例えばオシレータをクロスさせることはできないし、万能なわけではないですね。

W - でも、他社の小型セミモジュラー・シンセより全然自由度は高いよ。'パッチ・シンセ' である意味がちゃんとある。

U - 確かに、変なことができそうですね。

W - Pulser/Sequencerのモジュールも入っているし、いろいろと遊べそうだよね。パッチングの色の分け方も分かりやすい。あとバナナ・ケーブルって便利だね!パッチング中に "あれどこだっけ?" と触診するような感じで、実際にプラグを挿さなくても音が確認できるのはすごく便利。ケーブルの上からスタックもできるし。

U - 渡部さんのスタジオにはRoland System 100Mがありますが、Music EaselでできることはSystem 100Mでも実現可能ですか?

W - できると思う。System 100Mにスプリング・リヴァーブはついてないけどね。

- 復刻版の新機能としては、MIDI入力が追加されて、ほかのシーケンサーでMusic Easelをコントロールできるようになりました。

U - 僕が個人的に面白いと思ったのは、オプションのIProgram Cardをインストールすると、Apple iPadなどからWi-Fi経由でMusic Easelのプリセットを管理できるところ。ステージなどで使うには面白いと思います。

W - それはすごくいいアイデアだね。

- テスト中、お2人からは "これは入門機だね" という発言が聞こえましたが。

W - 独特のパラメータ名やしくみを理解してしまえば、決して難しいシンセではないという意味だよ。よく "モジュラー/セミモジュラー・シンセは難しそう" という人がいるけど、ケーブルのつなぎ方さえ分かってしまえば、完全に内部結線されているシンセより、自分が出したい音を作るのは簡単だからね。

U - 1つ目のDLPGにさえ気付けば、取りあえず音は出せますしね。

W - Music Easelで難しいのはオシレータとDLPGの関係とエンヴェロープだね。でも逆に言えば、特殊なのはそこだけとも言える。エンヴェロープが逆になっているのを発見したときは感動したな。シンセの歴史を見た気がしますよ。

U - 音作りの範囲はモノシンセに比べたら広いし、その領域がすごく独特です。

W - このシンセの対抗機種はArp OdysseyやOSC Oscarなどのモノシンセだよ。シーケンサーでSEっぽい表現もできるし、8ビット的な音も出せる。もう1つMIDIコンバータを用意すれば、2オシレータをパラで鳴らしてデュオフォニックになるし。

- ちなみにモジュラー・シンセというと、ノイズやSEというイメージが強かったりしますよね。

U - 確かに、モジュラー系の人はヒステリックな音色に触れがちですよね。

W - 僕はポップスの仕事でもガンガン使っていますよ。モジュラー・シンセはグシャグシャした音を作るものだと思っている人も多いようですが、アナログ・シンセの自由度が広いだけ。まあでも、オシレータに変調をかけていくと、ヒステリックな音にはなりがちだよね。

U - 変調を重ねていく方向にしか目が行かないということもあると思います。

W - でもモジュラー・シンセで本当に面白いのはオーディオの変調ではなくて、CVやトリガーをどうコントロールするかなんだよ。その意味でMusic Easelはちゃんとしている。

- 本機をどんな人に薦めますか?

W - お金に糸目を付けず、ちょっと複雑なモノシンセが欲しい人(笑)。

U - 小さくてデスクの上に置けるのはいいと思います。例えばラップトップだけで作っている人が追加で導入するシンセとしてはどうですか?

W - いろいろなパートを作れていいんじゃないかな。これ一台あれば演奏できるわけだから、その意味で楽器っぽいところが僕はいいと思ったな。鍵盤付きだし、音も安定している。

U - 確かにこれ一台で事足りる・・Music Easelが1stシンセで、"俺はこれで音作りを覚えた!" という人が出てきたら最高ですね(笑)。

W - で、ほかのシンセ触って "エンヴェロープが逆だよ!" って怒るという(笑)。











サンプラーは何も仕込まなければただの箱、ということでその '素材作り' としてMusic Easelによるパッチングが活躍するのだけど、むしろ今はシンセの代わりにコンタクト・マイクによる 'ライヴ・エレクトロニクス' の音作りの方が楽しかったりする(笑)。この超高感度なピエゾ・ピックアップを用いてあらゆる具体音を採取、その素材の向こうに広がる '世界' は無限です。このようなアプローチとしては、簡易的な 'シンセサイズ' と組み合わせて同種の音作りをするKoma ElektronikのField Kit - Electro Acoustic Workstationという 'ソレノイド・キット' があります。 本機のLFOやエンヴェロープ・ジェネレータ(EG)、AM/FMラジオのチューナーからビー玉、アッテネートされたケーブルなどを用いてあらゆる '具体音' をモジュラーシンセと組み合わせて用いることが可能。これぞ 'ダダイズム' の極致、今なら噴飯ものの前衛まっしぐらだったジョン・ケージの '耳を開く' 哲学とは、あらゆる環境で '息づいて' いるミクロな世界に '額縁' を用意することなのだ。いや、もっと簡単な言い方をするなら目で波形だけを眺めてカーソル動かすばかりじゃなく、直に手を使って '自然' の中から見つけてくるコトですヨ。そしてMusic Easelと同じく即興的な 'シンセサイズ' で人気があったのは英国EMSが製作したパッチ式のポータブル・シンセサイザー、Synthi AKS。そのEMSについて世界で誰よりも知り尽くしている男、ブライアン・イーノのお言葉を拝聴しなければなりません。'アンビエント' を提唱し、常に音響設計とその作用、インターフェイスについてポップ・ミュージックの分野で研究してきた者の着眼点は音楽を聴く上での良い刺激をもたらしてくれます。しかし日本製品のインターフェイスをこき下ろしてEMSの簡便なアプローチを賞賛しながら、一方では超難度なFM音源を持つ日本の名機、Yamaha DX-7のオペレートにも精通しているのがイーノらしい(笑)。ちなみにEMS Synthiは高騰する中古市場と共にその 'リビルド品' が未だに順番待ち状態とのことから(汗)、ラトビア共和国の工房、Erica Synthsが満を持して製作した '現代版' のSyntrxでEMSの雰囲気を味わうことが出来まする。

- 今でもEMSを使っていますか?

E - 使っている。これにしかできないことがあるんでね。よくやるのは曲の中でダダダダダといったパルスを発生させたいとき、マイクを使って楽器の音をこのリング・モジュレーターに入れるんだ。それから・・(ジョイスティックを操作しながら)こうやって話すこともできるんだよ。

- プロデュースやセッションをする際にはいつもEMSを持ち込んでいるのでしょうか?

E - (「YES」とシンセで答えている)

- 最後までそれだと困るのですが・・。

E - (まだやっている)・・(笑)。でも本当に重宝な機械だよ。フィルターもリング・モジュレーターも素晴らしく、他の楽器を入れるのに役立つ。

- 大抵エフェクターとして使うのですか?

E - これはノイズを発生させるための機械、あるいは新しい音楽のための楽器なんだ。これをキーボードのように弾こうと思わない方がいい。でも、これまではできなかったものすごくエキサイティングで新しいことがたくさんできる。

- どこが他のシンセサイザーと違うのでしょう?

E - ほかのシンセサイザーでは失われてしまった設計原理が生きているからだ。原理は3つある。第1の原理は、これがノンリニアであるということ。現代のシンセサイザーは、すべて既に内蔵されたロジックがあって、大抵はオシレータ→フィルター→エンヴェロープといった順序になっている。だが、EMSだとオシレータからフィルターへ行って、フィルターがLFOをコントロールし、LFOがエンヴェロープをコントロールし、エンヴェロープがオシレータをコントロールするといったことができるんだ。とても複雑なループを作ることができるので、複雑な音を出すことができるんだよ。現実の世界というのもまさにそうやって音が生み出されている。決まった順序によってのみ物事が起こるわけではなく、とても複雑なフィードバックや相互作用があるんだ。

第2の原理はやっていることが目に見えるということ。シンセサイザーのデザインを台無しにしてしまったのは日本人だ。素晴らしいシンセサイザーは作ったが、インターフェイスの面ではまるで悪夢だよ。ボタンを押しながら15回もスクロールしてやっと求めるパラメータに行きつくなんてね。それに比べるとEMSは使いやすい。パフォーマンスをしている最中にもいろんなことができるから、即座に違った感じの音楽が出来上がるんだ。ボディ・ランゲージが音楽に影響を及ぼすんだよ。ボディ・ランゲージがあまりないと、窮屈で細かくて正確で退屈な音楽しか生まれないし、豊かだとクレイジーな音楽が生まれるんだ。

第3の原理は、これにはスピーカーを含めてすべてが組み込まれているので他のものを接続する必要がないということ。私がいかに早くこれをセットアップしたか見ただろう?もしもこれが現代のシンセサイザーだったら、まずケーブルを探して、オーディオセットの裏側に回って配線しないといけない。あれこれグチャグチャやってるうちに、恐らく私は出て行ってしまうだろうね。私はもう歳だから気が短いんだよ。










そして、現在も50ページ近い取説片手に格闘中のチェコ共和国からやって来た 'Robot Operated Digital Tape Machine' ことThymeは、電気ラッパからBuchlaシンセサイザーの音作りのスパイスに至るまで現在広く活用中。とりあえず、本機の真ん中に整然と並ぶDelayセクション3つのツマミCoarse、Fine、Spacingをテープの 'バリピッチ' の如く操作してループ・サンプラーからTape SpeedとFeedback、Filterで変調させながらフレイズが破壊・・これで電気ラッパはもちろん、古臭いアナログが魅力のBuchlaも若返りますヨ。そしてもうひとつのRobotセクションではFM変調の如く金属質なトーンへと変調し、それを真下にズラッと並ぶ6つの波形とエンヴェロープ、外部CVやMIDIからの操作と同期・・もちろんこれらのサウンドを8つのプリセットとして保存と、ここでは説明しきれないほどの機能満載。ElektronやBastlの 'デジタル・ガジェット' でお馴染みCuckooの動画解説だって36分もあるのです、まったく(汗)。とにかく本機はやることいっぱいあって(苦笑)、各ボタンやツマミに複数パラメータが割り当てられることからその '同時押し'、'長押し' といったマルチに付きものの大嫌いな操作満載で大変・・なのだけど、大事なのは機能を覚えることじゃなくコレで何をやるのか?ってこと。足元にズラッと機材並べてあれこれ繋ぎ変えては足りない機能があれば不要な機材を放出、それを元手にネット漁ってポチッ、翌日には真新しいガジェットがその狭い部屋のスペースを占拠するという日常をこの一台で終止符・・を打てるのか!?。


ついに 'DAW' が足下にやってきた!と大騒ぎするワケではありませんが、いやあ、もうこういう時代到来なんですねとシミジミ・・。一昨年にHeadrushというメーカーからLooperboardという巨大なペダルボード・サイズのループ・サンプラーが発売されてましたけど、このSingular Sound Aerosのコンパクト・サイズで簡便かつ '緻密なスタジオ' を所有出来るというのが嬉しいのです。本機は同社が発売していたプログラマブルなドラムマシン、Beatbuddyと同期して拡張した音作りを可能とさせるもので、6つのトラック単位で録音、再生出来るループ・サンプラー。モノラル入力で最大3時間、ステレオ入力で最大1.5時間、SDカード使用時は最大48時間の大容量録音を可能とします。1つのソング・トラックに最大36個のループトラック、また各ループトラックへの無制限オーバーダビング、これらを大きな4.3インチのタッチスクリーンで波形を見ながら大きなホイールをスクロールしながらエディット、4つのフットスイッチで作成したソングをセーブ、エクスポートすることでリアルタイムに作業、演奏に反映させることが可能。もちろんWi-Fi/BluetoothやMIDIと連携して外部ネットワークからのファームウェア・アップデート、保存などにも対応します。











ちなみにこの 'フット・レコーダー' ともいうべきループ・サンプラーは、そのプレイヤビリティーと簡易的に音楽を構成する 'スタジオ' の意識が統合されたものとして画期的な存在でした。それは2小節単位のフレイズをループして、上下2オクターヴ程度のピッチとテンポ可変、オーバーダブや逆再生ができるものとして、Electro-Harmonixは16 Second Digital Delayや2 Second Digital Delayなどを初めてペダルとして実現させました。1980年代に流行した 'メガミックス' の時代、E-Mu Emulatorなど高級な機器を所有出来ないクリエイターにとっては、この簡易的なループ・サンプラーで '初期デジタル' 最初の恩恵を受けていたことは特筆して良いでしょうね。わたしのループ・サンプラーの理解も未だこのElectro-Harmonix 16 Second Digital Delayで止まっておりまして(汗)、本機は16秒のサンプリング・タイムを持つループ・サンプラーとショート・ディレイ、モジュレーションの複合機で、小節数を設定してピッチとテンポ、逆再生でそれぞれ可変させることが出来ます。オリジナルのヴィンテージものは唯一無二なアプローチのギタリスト、Nels Clineの愛機として活躍しており、2004年のヴァージョンアップした '復刻版' では、外部シーケンサーやドラムマシンをスレーヴにしてMIDIクロックで同期させることも可能。ループ・サンプラーは各社それぞれに使い勝手があり、その設計思想のクセを体得できるか否かで同種製品の評価は大きく異なりますね。








そして1980年代後半には、E-Mus SP-1200やAkai ProfessionalのMPCシリーズが台頭することでMIDIシーケンサーとドラムマシンを中心とした ' ワークステーション' を実現します。この分野は 'ベッドルーム・テクノ' 以降の制作環境においてひとつの市場となり、現在はPCと連携させたNative instruments Machineや 'スタンドアローン' でPC並みの環境を携帯出来るMPC Liveなど活況を呈しております。その一方で、すでに伝説化されたE-Mu SP-1200の '質感' は憧れと共にオリジナル機は高騰してついにガレージ・メーカーによる 'SP2400' が登場しました。実際のライヴ演奏などでは、生のバンドのグルーヴに機械のループを同期させるとなると大変な労力を伴いますが、俗に 'YouTuber' なる動画を主なパフォーマンスの場とする 'ひとり演奏会' のお供としては、なくてはならない便利な機器だと言えますね。ここでちょっとサンプラーの特徴を上げておけば、主な機能は大体以下の5つになるだろうと思います。

①タイム・ストレッチ
②ループ/リヴァース
③キー・マッピング/ピッチ
④フィルタリング/エンヴェロープ
⑤ワンショット

①は、いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' 黎明期においてサンプラーを触ったことのある方ならその苦労が分かるのではないでしょうか?昔は取り込んだサンプルのピッチとテンポを同時に調整するのが難しかった・・。ピッチを上げればテンポも早くなり、テンポを下げればピッチが下がる。そんな時代に登場したドラムンベースって実はこういう苦労を乗り越えた上で体現したジャンルであり、Steinberg ReCycleという編集ソフトで細かくスライスして思いっきりテンポを上げながらピッチシフトしてやると・・あの緻密な高速ブレイクビーツが出来上がってしまうという・・。それも今では、自在にオーディオをタイム・ストレッチしていろんなサンプルをPC内でくっ付けられるのだから良い時代になったもんです。ちなみにElektron Digitaktの 'Ver. Up' で早く導入して頂きたい機能のひとつがコレ。

②はサンプラーの基本、2小節なり4小節のサンプルをループ(反復)させたり、いわゆる逆再生させたりってヤツ。まあ、これも初期のサンプラーはとにかくメモリーがバカ高かったことから、少ないサンプルとループをベースにしたブレイクビーツ的手法として結実したんですけどね。

③は、そもそもサンプラーは取り込んだサンプルを楽器のように演奏できる、ってのが初期の '売り' だったのもあり(メロトロンのデジタル版ということ)、同時期に登場したMIDIでキーボードへ 'マルチ・サンプリング' して音程を付けて割り振ってくれます。

④は、実はサンプラーが現在でも生き残る理由のひとつであり、逆に言えばサンプラーを誤解させる要因のひとつとも言えるシンセサイズの機能のこと。そう、サンプラーの 'エディット' はほぼシンセサイザーのVCF、VCA、LFOと同義であり、外部から取り込むサンプルをVCO(オシレータ)の代わりにすることでいろんな音作りに対応します。いわゆるPCMシンセサイザーというのもコレ。

⑤はいわゆる 'ポン出し' というヤツで、今なら舞台音楽のSEなどでシーンに合わせてジャン!と鳴らすのが一般的でしょうか。ヒップ・ホップの連中に人気のあるBoss SP-303などが有名ですけど、ここで紹介するループ・サンプラーというのも基本的にはこの範疇に入ります。








しかし、サンプラーと言えば1990年代後半の 'ベッドルーム・テクノ' 黎明期はその世紀末の空気と相まって本当に面白い時代でしたね。すでにバブルが弾けたとはいえ、まだまだその '貯金' で凌いでいた日本はMacや 'Windows '95' の登場と共に四畳半から世界の市場へと打って出るクリエイターが続出しました。アシッド・ジャズ、トリップ・ホップ、ジャングル/ドラムンベース、イルビエント、IDM/エレクトロニカに '4つ打ち' のハウスやテクノなど、今ではかなり懐かしい響きに聞こえるけど(笑)、いわゆる 'メジャー' とは真逆なところからリスナーとクリエイターの境界が消失したことの '一撃' が凄かった。そしてこれらのアプローチの根底には常にダブからの影響が色濃く漂っておりました。手法的には単純なフレーズ・サンプリング、もしくは未熟な 'タイム・ストレッチ' の機能を駆使しながら細かくドラムをバラしてMIDIシーケンスする程度のループ・ミュージックだったけど、その '初期衝動' って音楽が真にクリエイティヴであった最後の時代だったと思うのです。今はそれがGaragebandやケータイのアプリで、よりお手軽に誰でもパズルのように作れるってだけであって、やはりあの頃の興奮をリアルタイムに体験出来たのは貴重な財産だと思っております。もう、トランペットの練習そっちのけでサンプラー弄ることが楽しかったもんなあ(今も大して変わらんけど)。





Hologram Electronics

そんな 'ベッドルーム・テクノ' の時代から20年後、Dream Sequence、Infinite Jets Resynthesizerで 'グリッチ' とループ・サンプラーの分野に新たな価値観を提示するHologram Electronicsから 'グラニュラー・シンセシス' の奇跡とも言うべきMicrocosmもこの手のアプローチに必須ですね。発想的にはElektronのOctatrackやDigitaktなどを簡易的にペダルに落とし込んだ印象がありますが、まさに無尽に湧き出すように生成されるシーケンスの数々・・Aldoさんも早速自身の動画でチェックしておりまする。







さて、そんなElektron DigitaktとSingular Sound Aeros Loop Studio中心によるセットアップを始めたのはYoutuber、Aldoさんの超センスの良い動画にやられてしまったからです。このまったりとしたエレクトロニカ感を軸にして短い時間の中でちゃんと展開もある。動画ではそのAeros Loop StudioとDigitektの組み合わせを 'マルチトラック' の中心として、そこにEmpress Effects ZoiaやHologram ElectronicsのMicrocosmといった絶妙のスパイスでループに味付けするなど機材のチョイスが素晴らしい。そして、わたし的にはずっと考えていた '移動式スタジオ' とも言うべきアタッシュケースに全てをブッ込んでみました。53cm(W)×16cm(H)×33cm(D)のサイズで2.4kgのアルミ製。まだ 'ZeroHalliburton' として買収される前の1950年代に 'Halliburton' 時代として俗に '赤ハリ' と呼ばれるロゴのもので、まあ、ここまで詰め込むとそこそこの重さではありますけど(汗)、早くコロナが収束してコイツ担いで '温泉レコーディング' をやりたいなあ。とりあえず、一日中PCの画面とにらめっこしながら波形イジって何度でもやり直し、ちょっとヒマが出来ればそのままYoutubeやデジマート、ヤフオクやeBayにReverb.comなど 'ネット・サーフィン' をしている内に無益な一日が過ぎて行く・・もう、座りっ放し(汗)。これはコロナ禍の 'ステイホーム' でさらに加速した感があるのだけど(汗)、しかし、目の前にやること(やれること)が揃っていて2時間くらい触ったら電源を切り、後は外の空気を吸ってほかのことを考える一日の過ごし方があってもいい。それが '移動式スタジオ' であればさらにその '境界' は意味が無くなっていくでしょう。なかなか一気にそう変えるのは難しいけど(苦笑)、洪水のような情報を前にして音楽との新たな '付き合い方' が今の自分には必要ですね。 






再びドイツのMartin StrutzerとフランスのVOSNEによるミニマル・ダブ・セッション。すべては誰もが手に入れられる環境にあって、いかに音作りと編集、ミックスにおいてそのクオリティーに差を付けられるのか。センスはもちろんですが、いかに飽きさせずに反復するための '展開' を描いていけるかがカギでしょうね。そしてSugar Plantの 'A Furrow Dub' にのせて、今から '100年後の東京' を想像させる?ような浮遊空間をどーぞ。その頃にはお台場の 'ゆりかごめ' も重力から解放されたように疾走していると思うのですが(笑)、こんな世界観を単に 'ゆりかごめ' の先頭車から写した動画を垂直反転させただけという 'アイデアの勝利' 的動画。いやあ、こんな '未来' がいつか来るのでしょうか?。わたしの幼少期の記憶では21世紀はクルマが空を飛び、真空チューブの中を高速列車が疾駆、人々はピタッとしたスピードスケート選手の出で立ちで快適な生活空間を営んでいたハズなのだが・・(笑)。さて、そんな '真夏の夜の夢' と共に昼間の照り付けた熱気残るアスファルトを散歩する真夜中・・その渇いた独特の夏の匂い。肌に刺すビリビリとした漆黒の闇がそろそろ白み始めて来ました(実際は大雨真っ只中だけど・・)。さあ、高い夏空と共に強烈な陽射しを浴びる8月はまだまだ終わりません。'Endress Summer' !。

2021年8月1日日曜日

夏のフィルターとコンプ '自由研究'

 管楽器の 'アンプリファイ' 探求を旗印に、ちょこちょことやっているフィルターとコンプを組み合わせた '質感生成' の旨味。まあ、大雑把に言ってしまえばEQとコンプでどう音作りに反映させるか?という話になってしまうのだけど、最近は派手な効果や '飛び道具' でトランペットならざる音色を探求するよりこういう地味な感じが 'マイブーム' です。ともかく管楽器の 'アンプリファイ' でアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、それはピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' という試みなのです。














こーいう '簡易ボード' を組んでお手軽に実験しやすい環境を用意しているのだけど、このボードの中には2つのセッティングがあってひとつは 'Eventide Mixinglink+Leqtique 10Band EQ' でもうひとつは 'Hatena ? SpiceCube' を中心としたもの。どちらを使うかはその日の気分というか(笑)、まあ特にこだわりはありません。ただ、すでにトランペットのピックアップ・マイクからリミッターやEQによる '下処理' はかかった状態での音作りなので、あくまで 'エフェクト' としての 'フィルター+コンプ' というところにご留意下さいませ(汗)。ちなみに上の画像では黄金に輝くワウペダルPlutoneium Chi Wah Wahを 'インサート' しておりますが、今回いろんな 'フィルター+コンプ' の組み合わせをこちらの位置に繋いであれこれ実験しておりまする。そして 'アンプリファイ' として出力するのはアコースティック/PA用のコンボアンプ、SWRの12インチ160WのCalifornia Blonde ⅡをキャビネットのBlonde on Blondeとスタックさせて使用中。本機は2チャンネル用意されてBass、Mid Range、Trebleの3バンドEQ、アンサンブル中での '音抜け' を意識した高域を操作する 'Aural Enhncer' とハイファイ・ツイーターを背面に用意、そしてミキサー機能の 'センド・リターン' とスプリング・リヴァーブを装備しております。現在は 'ピエゾ+ダイナミック・マイク' のミックスとしてそのまま入力しておりますが、この2チャンネルを利用してもうひとつのマイク入力のみ 'アンビエンス' 用に分けてミックス出来るのは便利。また、このアンプ最大の特徴がハイ・インピーダンスによるアンバランス入力のほか、'Low Z Balanced' のスイッチを入れることでDI出力からTRSフォンのバランス入力に対応すること!。この機能はCalifornia Blonde Ⅱにのみ備えられており、初代機のⅠではDIのバランス出力からRadial Engineeringの 'リアンプ・ボックス' X-Amp Studio Reamperでインピーダンスを介して繋ぎます。このラインのバランス入力が他社のアンプにはない本機ならではの機能として重宝しており、取説ではこう述べております。

"ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイスの環境が得られます。"

ちなみに、このSWRという会社の創業者Steve Rabe氏は元々Acoustic Control Corporationでアンプの設計に従事していた御仁。そのRabe氏がSWR退社直前に手がけていたアンプのひとつにこのアコースティック用アンプCalifornia Blondeがあり、これもAcoustic時代の設計思想を引き継いだものと言えるのかも知れません。









Taylor Trumpets

さて、ヘンチクリンなデザイン過多のヤツ、ただただ重たい 'パクリMonette' のヤツはまったく興味なかったのですが、実は・・独自設計な楕円形 'Ovalベル' によるラッパの '46 Custom  Shop Shorty Oval' がここでの '主役' です(汗)。これまでヘヴィタイプのラッパをあまり良いとは思わず、個人的に好きなのはMartin Committeeのようなニュアンスの幅が広い楽器。しかし、このTaylorが2014年に製作した '46 Custom Shop Shorty Oval' は一目で惹かれてしまった。Taylorはこの年を境に 'Oval' と呼ばれる楕円形のベルを備えたシリーズを展開しており、そのユニークかつ独創的なスタイルに注目していたのですが、それを短いサイズにしたトランペットとして新たな提案をしたことに意味があるワケです。ええ、これは吹奏感含めロングタイプのコルネットではありません。トランペットを半分ちょいほど短くした 'Shorty' なのですが、ベルの後端を 'ベル・チューニング' にして '巻く' ことで全体の長さは通常のトランペットと一緒です。その 'Shorty' シリーズとしてはこの 'Oval' ベルのほか、通常のベル、リードパイプを備えたタイプも楽器ショーの為に製作されたので総本数は2本となりますね。重さは大体1.4Kgほどなのですが、短い全長に比して重心がケーシング部中心に集まることからよりズシッと感じます。また、この 'Shorty Oval' はマウスピースに穴を開けてPiezoBarrelピックアップを装着する 'アンプリファイ' で鳴らしておりますが、そのままアコースティックのオープンホーンで吹いてみても通常のラッパと何ら遜色無くパワフルに音が飛びますね。そして、Getzen/Alliedの 'Bauerfeind' バルブによるフェザータッチの操作性は最高です。ちなみにこの手のショート・トランペットにおけるルーツ的存在では、以前フランスで製作され近年再評価により復活したPujeのトランペットがありまする。












現在の管楽器の 'アンプリファイ' ではステージ上にアンプを置くことはなく、いわゆるPAシステムを通して客席側に聴こえる '外音' に対して、'返し' と呼ばれるステージ上の '中音' を司ることでヴォーカルと同じセッティングにして調整します。しかし、ステージ上の '転がし' と呼ばれるパワード・モニターの音量にも限度があることから、最近のステージでは管楽器奏者の耳に直接インイヤー・モニターを推奨するPAも多くなってきました。一方で、ひと昔前の 'アンプリファイ' な管楽器奏者が大音量のアンサンブルと対抗していた時代では、H&A Selmer Varitoneを出発点にアンプとPAを併用したセッティングが一般的でした。古くはドン・エリスがFenderのPro Reverbアンプを複数配置していたり、御大マイルス・デイビスやランディ・ブレッカーらにとってAcoustic Control Corporationのアンプはクリーンなトランジスタアンプとして人気がありました。また、ピックアップ・メーカーのBarcus-berryが専用のアンプを別個に用意していたり、欧州ではドイツのDynacordなどが簡易的なPA用アンプを広範囲に普及させております。当時のカンタベリー・ジャズ・ロックの雄、ニュークリアスのイアン・カーもそんなDynacordの愛用者です。



Beyerdynamic TG-I52
SD Systems LDM94C

わたしにとって2つのピックアップ・マイク使用によるセッティングは譲れないのですが、その手軽さという点ではグーズネック式マイクだけでも十分に 'アンプリファイ' を堪能することが出来ます。このマイクも探してみるとほとんどで電源の必要なコンデンサー・マイクがズラッとラインナップされておりますが、むしろお手軽さと頑丈な構造、エフェクターとの相性という点ではダイナミック・マイクの方が扱いやすいと思いますね。Sennheiserの珍しいグーズネック式ダイナミック・マイクEvolution e608、サックスであればSD SystemsのLDM94も良いでしょうね。残念ながら日本での供給が無くなってしまったBeyerdynamic TG-I52はちょっと音痩せが目立つかな?。通常、管楽器の '生音' が持つアンビエンスを余すところなく収音してくれるのはコンデンサー・マイクに軍配が上がりますが、エフェクターを積極的に使う場合ではダイナミック・マイクの方がガツッとしたエフェクターの 'ノリやすさ'、限定的な帯域の収音に対するハウリング・マージンの確保の点で有利なことが多いのです。コンデンサーに比べてマイクを駆動する為の電源は要りませんが、プリアンプを挟むことで好みの音質に補正すればかなり追い込むことが可能ですね。現在、あまりにもその選択肢が少ないということで、もっとAudio-TechnicaやAKGといった大手メーカーもグーズネック式のダイナミック・マイクを手がけるべきですヨ。












管楽器奏者であれば '足下' の前に '口元' のチェックをしなければならないということで(笑)、最近の管楽器における 'アンプリファイ' では、従来のグーズネック式マイクのみならずマウスピースやネックに穴を開けて接合するピエゾ・ピックアップ、さらに穴空け不要でピン状のピエゾをネックへ挟み込むViga Music Tools製ピックアップなど実に多彩となってきました(Youtubeにも登場するWarren Walker、BlendReed、Guillaume Perretら三者が愛用中)。リーズナブルな価格帯でeBayを中心に人気を博すPiezoBarrel製ピックアップのほか、同種の製品ではブルガリアからのNalbantov ElectronicsやギリシャのTAP Pickups、そして、ドイツはRumberger Sound Productsから登場したピエゾ・ピックアップ、WP-1XとK1Xの2種がありまする。またFacebook中心で数年前から製品改良しているトルコのDoze.roという工房のものもありますね。Rumbergerの製品はトランペットでも装着するユーザーのレビューがありましたけど、K1Xはやはり木管楽器用だからかネックに穴を開けるアダプターのサイズがデカい。ということで小型化したWP-1Xの穴空けサイズを見ると7.5mm・・あのBarcus-berryのピックアップ取り付けで開けるサイズが7mmですからギリギリだ(汗)。この手のピックアップの大半がほぼ木管楽器に隔っているのは、単純にピックアップ取り付けの為のスペースが金楽器用マウスピースでは薄く狭いからだと思います。いわゆるヘヴィ・タイプのマウスピースにすれば良いのでは、と思うかも知れませんが、あの分厚い真鍮の切削加工に苦労するのが嫌でPiezoBarrelのスティーヴ・フランシスさんは通常のラインナップから外しましたからね(苦笑)。ともかく管楽器でエフェクターを使うにはこの 'ピックアップ・マイク' が無ければ始まりません。しかしPiezoBarrelを紹介するオヤジ、キャラが濃いなあ(笑)。










まずはこちら、KorgのSynthepedal FK-1とRoger Mayer 456という 'テープ・エミュレータ' による組み合わせ。このFK-1は日本が誇る偉大なエンジニア三枝文夫氏が手がけたもので、前身の京王技研で手がけたSynthesizer Traveller F-1に次いで単体のペダルとして製品化したもの。-12dB/Octのローパスとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' とは、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏の独創的なアイデアから名付けられた機能であり、これは国産初のシンセサイザーとして最近復刻されたminiKorg 700FSにも搭載されております。そして、Ampex 456テープとStuder A-80マルチトラック・レコーダーによる '質感' をアナログで再現したRoger Mayer 456は、いわゆるオープンリール・テープの訛る感じとバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションに特徴があります。本機の大きなInputツマミを回すことで 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。ここでは何と言っても 'ヴィンテージな質感' の探求であり、Korgの 'Traveller' に特徴的なナローでイマイチ切れ味の悪いフィルタリングとRoger Mayerの 'テープ・エミュレータ' で味付けをすることにあります。キモはRoger Mayer 456にある 'Presence' ツマミでの抜けの調整ですね。









フランク・ザッパのフィルタリングに対する音作りに訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子のドゥイージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-Pass、Band-Pass、Hi-Passを切り替えながらフィルター・スウィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドで固定されフォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして帯域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。こちらはKorgの 'Traveller' とは真逆の現行品らしい派手な切れ味で、それを後述するDyna Compでナローに抑えることにあります。そんなFZ-851と組み合わせる定番のDyna Comp!。現行品としていくつかの種類が用意されているこの古臭い効果ですが、ここでは2008年に復刻した 'MXR Custom Shop' 製の'76 Vintage Dyna Comp CSP-028をチョイス。どっかの工房がモディファイしたと思しきLEDとDC端子が増設されておりますけど、本機にはヴィンテージの心臓部とも言うべきIC、CANタイプのCA3080を搭載しております。このDyna Compに象徴されるダイナミズムをギュッと均すコンプの '質感' は、時に演奏の細かなニュアンスを潰す '悪役' として敬遠されてしまうのも事実。そんな1970年代のコンプでは当たり前であった圧縮の演出を '滲み' として捉えたとき、過去から現在までずっと本機の愛用者であるギタリスト土屋昌巳氏の発言は参考になります。

"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"


ちなみにこのDyna Compと並んで1970年代を代表する 'ペダルコンプ' として殿堂入り、現在に至るまで定番として新たなユーザーを獲得しているのがRossのCompressor。創業者Bud Rossの意志を継いだ孫らにより2019年に 'Ross Audibles' として復活させたのがこの 'Gray' Compressorです。未だにヴィンテージの米国製初期、後期、台湾製などが市場を賑わせておりますが、この復刻版もかなりの再現度ながら、世界的に枯渇するアナログのパーツやコロナ禍により市場への供給が不安定のまま少量入荷状態ですね。ともかくナチュラルなコンプレッションをお求めであればコレは外せない一台。さて、ここで巷に溢れるペダル型のコンプレッサーについて言わせてもらえれば、Empress、Becos、Origin Effects、FMR Audio etc...現在ではさらに細かなパラメータと高品質な音色が '売り' の製品が市場を賑わせております。大抵は従来の 'ヴィンテージコンプ' にあった圧縮メインでダイナミズムを変えてしまう効果を避けて、いわゆるUreiなどの 'スタジオ機器' に象徴されるスレッショルドやレシオ、機種によってはサイドチェインの機能などを盛り込み不自然にならないコンプレッションをペダルで実現しております。ここでわたしがセレクトしたのは基本的に単純で古臭いコンプレッションのペダルばかりなのですが、コンプレッサーはそのパラメータが増えるほど操作が扱いにくく目的とする音色に容易に近付けません。そして、ここでの目的はコンプを通すことによる '質感' が大事なのであり、むしろ製品ごとの個性が強いものほどフィルターと組み合わせたことによる '趣旨' に叶うものでもあります。


 






カリフォルニア州オークランドから登場するフィルターの新たな刺客、Vongon Electronicsの多彩な機能満載なParagraphs。まさに 'フィルターフェチ' なわたしには打って付けな一台であり、'4 Pole' のエンヴェロープ・ジェネレータを備えたローパス・フィルターを基本にモメンタリースイッチでトリガーするエンヴェロープ、CVやMIDIによるモジュラーシンセとの同期など現在の多目的な音作りに対応しているのが良いですね。そのVCFの心臓部はAS3320のアナログチップを用いてLFOに相当するエンヴェロープ・ジェネレータは0.05Hzから始まり20秒のサスティン、300Hzのスレッショルドに至るまでうねるようなモジュレーションを付加します(もちろん自己発振可能)。また、入力部には楽器レベルからラインレベルまで幅広い信号を受け持つゲインを受け持っているのが近年の機器らしいですね。そして本機に合わせる現代のモダンなコンプとして、ナチュラルな効果で唯一無二のスウェーデン産BJF ElectronicsのPale Green Compressorをチョイス。このBJFEを主宰するBjorn Juhlの名を知らしめた代表的製品のひとつであり、ザ・ビートルズが当時のアビーロード・スタジオで用いたコンプレッサー、RS-124(Altec436BのEMIモディファイ)が本機製作のきっかけとのこと。最近のナチュラルなコンプレスの潮流に倣ったトーンから真ん中のツマミ 'Body' を回すことで空間的な幅の調整がイジれます。このBJFEの音は世界に認められてお隣フィンランドのブランド、Mad ProfessorからForest Green Compressor、さらに米国のブランドBear FootからPale Green Compressorとしてそれぞれライセンス生産による 'Re-Product' モデルが登場しております。動画はそのPale Greenの後継機に当たるPine Green CompressorとBear Footのものですが、本家BJFEとしては2002年の登場以降、淡いグリーンのニトロセルロースラッカーから深いグリーンへの変更と共にPine Green Compressorへ変わります。ここでフォトセルと 'Body' を司る単軸二連ポットが変更されて3ノブ、4ノブ、5ノブの仕様と共に現在に至ります。わたしのチョイスは不定期にPedal Shop Cultがオーダーする初期Pale Green Compressorの '2020復刻ヴァージョン' です。ここでのセッティングはまさに現行品ならではのモダンな '質感' が狙いで、BJFE特有の 'ム〜ン' とした密度のある艶っぽさこそ至宝!。









定番のEQで補正する音作りに 'プラス・アルファ' してここでは、単なるEQというよりそれこそ 'シンセサイズ' なフィルタリングまで対応するカナダの工房、Fairfiled CircuitryのLong Lifeを繋いでみます。エクスプレッション・ペダルの他にフィルター周波数のQとVCFをそれぞれCVでモジュラーシンセからコントロール出来るなど、なかなか凝った仕様です。こちらでの音作りには、Long Lifeのブースター的アプローチと兼用しての '歪むコンプ' のアプローチによるサチュレーションに挑戦。そこで近年の製品としては珍しい1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinの手により生み出されたコンプレッサーをチョイス。本機の特徴はコンプと銘打たれていながら 'Dist.' のツマミを備えることでファズっぽく歪んでしまうことで、当時、エフェクター黎明期においては 'ファズ・サスティナー' とクリーンにコンプ的動作をするものを単に 'サスティナー' として使い分ける傾向があったそうです。今でいうBJFEに象徴されるスウェーデン産 'ブティック・ペダル' のルーツ的存在であり、それを同地の工房Moody SoundsがCarlin本人を監修に迎えて復刻したもの。1960年代後半から70年代初めにかけてそのキャリアをスタートさせたNils Olof Carlinは、電球を用いたモジュレーションの独自設計によるPhase Pedalのほか、持ち込まれた既成の製品(多分MXR Dyna Comp)をベースにしたCompressor、わずか3台のみ製作された超レアなRing Modulatorを以ってスウェーデン初の 'ペダル・デザイナー' の出発点となりました。ここまではあくまでコンプレッサーを '質感' として補正する使い方でしたが、こちらは従来のセオリー通りな 'コンプ→EQ' のセッティングで狙いはCarlinの '歪み' をLong Lifeでコントロールすることにあります。








NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Density (discontinued)

ちなみにわたしのメインのエフェクターボードで絶対に欠かせないのがNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Force。いわゆる 'クリーンの音作り' というのをアンプやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムというか、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを 'アコースティック' だけでは得られないトーンとして生成します。2011年頃に 'Punch'、'Edge'、'Level' の3つのツマミで登場した本機は一度目のリファインをした後、新たに音の密度を司るこの工房お得意の 'Intensity' を追加、4つのツマミ仕様へとグレードアップしたMagical Force Proへと到達しました。しかし不安定なパーツ供給の面で一度惜しむらく廃盤、その後、声援を受けて小型化と 'Intensity' から 'Density' に名称変更して根本的なリファイン、4回目の変貌を遂げたのが現行機Magical Forceとなりまする。また、惜しくも 'ディスコン' となりましたが、本機からそのコンプ的機能 'Density' だけを抜き出した単体機も用意されておりました。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレはわたしの '秘密兵器' でして、Headway Music Audioの2チャンネル・プリアンプEDB-2でピックアップマイク自身の補正後、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのが面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。





Terry Audio The White Rabbit Deluxe ①

そしてMagical Forceと並ぶわたしの隠れた '魔法' であるTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様です。後段にこのWhite Rabbit Deluxeを配置することでサチュレートした 'ハイ上がり' のトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなり、音抜けの良くなる 'マスタリングツール' のような位置にある機器ですね。









Seamoon Fx Funk Machine

ちなみにマニアックなフィルターの 'リファイン' による復刻ではSeamoonも来ました。デイヴィッド・タルノウスキーの手がけたStudio PhaseやFunk Machineはフュージョン・ブームを支え、その後、独立したA/DAで傑作FlangerやFinal Phase、Harmony Synthesizerなどを残します。今回、市場に蘇ったのはエンヴェロープ・フィルターのFunk Machineであり、その新生Seamoon Fxを主宰するのはセッション・ベーシストとして過去にザ・ブレッカー・ブラザーズの 'Heavy Metal Be-Bop' などに参加したニール・ジェイソン。ここではジェイソンのみならず当時の愛用者であるラッパ吹き、ランディ・ブレッカーなどの意見も反映させているようですね。当時、ランディが使っていたのは無骨なデザインのVer.1の方ですが、1993年に '復活ブレッカーズ' としてリユニオン的な活動をし始めた頃はBossのT-Wah TW-1を愛用しておりました。そんなランディが初めてワウを使い出した時のエピソードをこう述べております。

"1970年当時、私たちはドリームズというバンドをやっていた。一緒にやっていた(ギターの)ジョン・アバークロンビーはジャズ・プレイヤーなんだけど、常にワウペダルを持ってきていたんだよ。彼はワウペダルを使うともっとロックな音になると思っていたらしい。ある日、リハーサルをやっていたときにジョンは来られなかったけど、彼のワウペダルだけは床に置いてあった。そこで私は使っていたコンタクト・ピックアップをワウペダルに繋げてみたら、本当に良い音になったんだ。それがワウを使い始めたきっかけだよ。それで私が「トランペットとワウって相性が良いんだよ」とマイケルに教えたら、彼もいろいろなエフェクターを使い始めたというわけだ。それからしばらくして、私たちのライヴを見にきたマイルス・デイビスまでもがエフェクターを使い出してしまった。みんなワウ・クレイジーさ(笑)。"


そしてKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。そして、もうちょいお手軽にサチュレーションやテープコンプの '質感' をお求めならStrymonのこちら、Decoはいかがでしょうか?。DSPの 'アナログ・モデリング' の技術を用いて、'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleのブレンドから 'テープ・フランジング' のモジュレーションまで生成。また、このStrymonの製品は楽器レベルからラインレベル、そして入力に 'インサート・ケーブル' を用いることでステレオ入出力にも対応とあらゆる環境で威力を発揮します。












一方、この手の 'シンセサイズ' なアプローチとして古くはKorg X-911などがありましたけど、いわゆる 'DJ用フィルター' として遠くベルギーでHerman Gillisさんがひとり手がける '孤高の存在' Sherman Filterbankもお忘れなく。流石に現在では使われ過ぎて '飽きた' という声もありますけど、それくらい大ヒットした機種としてまだまだその潜在能力の全てを引き出してはおりません。個人的には当時の主流であった無闇矢鱈に '発振' させない使い方でこそ、本機の新たなアプローチが光ると思っているんですけどね。その強烈なフィルタリングと発振、歪みからシンセやドラムマシン、ギターはもちろん新たな要素として管楽器にまでかける猛者が現れます。クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露しております。ほとんど 'オシレータのないモジュラーシンセ' と言って良い '化け物' 的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調してくれますヨ(動画途中の 'Intermission' は長く第2部は58:33〜スタート)。








このようなフィルタリングと強制的に帯域を抑え込むコンプレッション、そしてヒビ割れていくような '歪み' と共に陰鬱な世界が溶けて行く時間の '並行世界' を突っ走ります。まるで不条理な迷宮を彷徨ってしまう '音響演出' においてリング・モジュレーションの効果の右に出るものはありません。映像で言うならフィルムが白黒反転して '裏焼き' になってしまった色のない世界というか、ゴ〜ンと鳴る濁った鐘の音、世界のあらゆる '調性' が捻れてしまったような無調と金属的な質感が特徴です。これもフィルターとコンプの探求において寄り道する '隠れメニュー' なり。そんなトランペットのリング変調において '第一歩' を示したドン・エリスは、いわゆるペダル型リング・モジュレーターの第一号であるMaestro RM-1の設計者トム・オーバーハイムとの交流から発案されるきっかけとなりました。












いわゆるEQとは違う一昔前の '質感生成器' であるUrei 565TやMoogのThree Band Parametric EQ、そして '飛び道具コンプ' としてスタジオで現在でも珍重されるSpectra SonicsのModel 610 Complimiter(現Spectra 1964 Model C610)など、その後のDJ用エフェクターとしてのフィルターの音作り含め、まだまだ探求すべき分野は幅広くあります。以下、そんな発想のきっかけとなる 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。この頃はまさに四畳半の一室から世界へと発信する 'ベッドルーム・テクノ' の黎明期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

− そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S − 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

− それはだれかが先にやってたんですか?

W − 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S − 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W − 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

− しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S − 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W − それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S − で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W − 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S − ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W − フィデリティ(Fidelity)って '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

− 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W − それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

− フィルターとEQの違いは何ですか?

S − 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W − 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S − エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

− そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W − お手軽にいい音になるというかね。

S − 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

− しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W − それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

− 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W − 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S − それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W − よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

− 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W − ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S − 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W − System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S − 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W − 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

− 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W − それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

− トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W − 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S − それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W − 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S − Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

− エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W − エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S − 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W − 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S − 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

− 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S − それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W − 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

− ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S − 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W − ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

− 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S − デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W − それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S − 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W − それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S − どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。







ライヴの現場というよりかはまさに 'Covid 19以降' の世代を象徴する機器というべきか、一昨年から未だ話題となっている機器のひとつEmpress Effects Zoia。その昔、Eventide DSP4000というラック型マルチ・エフェクターがありましたけど、コレ、まさに当時の 'エレクトロニカ' 黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となりました。いわゆるピッチシフターの分野でその端緒を切り開いたEventideは、その元祖であるH910がジョン・ハッセルのトランペットによる独特な 'ヴォイス' として貢献したことを覚えている方はおられるでしょうか?。少々長く抽象的ですが、後年ハッセルは自身のユニークなトランペットの音色と奏法についてこう述べております。

- あなたの音楽における別の「垂直的な」側面は、トランペット演奏にも存在するように思われます。とりわけ、あなたの複数の楽器が同時に演奏されているかのようなトランペット・サウンドを作るために、あなたはハーモナイザーやピッチシフターを長年活用してきました。

"ハーモナイザーに関していえば、最初に導入したのはおそらくEventide H910だったのではないだろうか?。モデル番号は忘れてしまったが、だんだん大型になっていき、最終的には最も大型なモデルを持っていたが、なにしろプログラムがとても難しかった。現在使用している新しいモデルのH9は、オールデジタルでMIDIコントロールなどを小さな筐体に収めた後継版だ。H9の機能性には本当に興奮しているし、そのサウンドの一部は最新作にも入っている。その可能性には実に興奮させられるね。私は常に平行進行やシーケンスといったものに魅了されてきた。つまり、ラヴェルやブラジル音楽の多くで見かける5度の和声の動きだ。私が敬愛してやまないラヴェルの音楽には独特の美しさがある。それは、まず1本の鉛筆で壁に曲線を描いた後、さらに2本の鉛筆を手に取り、2本か3本の鉛筆を持って同じことをするのに似ている。数年かかったとしても、やがてうまくいけば、平行する進行を追いながら実際のコードチェンジを行えるテクニックが身につくことになる。そんなわけで、私は平行進行という豊かさを愛してきたのさ。また、インド古典音楽の歌い手であるPandit Pran Nathとの演奏では発声法やカーブなど方法を学び、素晴らしい機会となった。私は常に落ち葉の例え話に立ち返る。そこが出発点であり、次にそれをあえて消し去り、再び呼び出すというわけだ。"

さて、DSP4000は 'Ultra-Harmonizer' の名称から基本はインテリジェント・ピッチシフトを得意とする機器なのですが、色々なモジュールをパッチ供給することで複雑なプロセッシングが可能なこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する'、'加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールといった完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来るのです。当時で大体80万くらいの高級機器ではありましたが 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となりましたね。以下、当時のユーザーであったエンジニア渡部高士氏によるレビューをどうぞ。

"DSP4000シリーズって、リヴァーブやピッチ・シフトのサウンドが良いのはもちろんなんですが、自分でエフェクト・アルゴリズムを組めるところがいいんです。モジュールの種類ですが、ありとあらゆるものがあると言ってもいいですね。例えばディレイ・モジュールがありますから、これを使えばフランジャー、フェイザーなどのモジュレーション系が作れますよね。リヴァーブのモジュールもピッチ・チェンジャーも当然あります。普通のエフェクターに入っているものはモジュールとして存在していると考えればいいですね。例えば、ゲート・リヴァーブを作りたければリヴァーブのモジュールとゲートのモジュールを持って来て、ゲートにエンヴェロープ・ジェネレータを組み合わせて・・っていうように、簡単に作れるんですよ。

シーケンサー・モジュールとか、関数モジュールのようなものもあります。自分の頭で考えればどうにでもできるんです。例えば、Ureiのアタック感をどういうモジュールの組み合わせで真似しようかな・・なんて考えるのは楽しいですよ。それにシンセとしても使えます。波形が選べるオシレータもフィルターもアンプもあります。サンプリング・セクションを入れればサンプリングが可能ですから、その気になればE-Muのサンプラーだって作れます。E-Muにあるパラメータを自分で思い出して、それをモジュールの組み合わせで再現していくわけです。

以前、ローファイ・プロセッサーのパッチを作ったことがあったのですが、好評だったのでいろいろなところに配ったんです。都内のスタジオで使われているDSPシリーズに幾つか入っていますよ。LFOでサンプリング周波数が動くようになっていたりするんですが、'Info' っていう、文字を表示するモジュールに僕のE-Mailのアドレスがサイン代わりに入っています(笑)。また、マルチバンド・コンプレッサーを作ったこともあります。フィルター・モジュールでクロスオーバーを組んで、コンプのモジュールをつないで・・ってやるわけですね。こうするとTC ElectronicのFinalizerみたいになります(笑)。結局、エフェクターというよりはDSPをどう使うかを自分で設定できるマシンという感じ。単にエフェクターの組み合わせが変えられるのとは次元が違うんです。人が作ったパッチを見るのも面白いですよ。構成を見ていると「こりゃあんまり良いパッチじゃないな」とか思ったりするんです(笑)。"


じゃ、そこまで言われるとこのEventide DSP4000の実力とはどんなもんか?と聴きたくなってしまいますけど、そんな疑問にちょうど良いリファレンスとして上の動画、土屋昌巳さん1998年の作品 '森の人 – Forest People' からインストゥルメントの 'ボジョレー氏の森' をどーぞ。この曲のあらゆるサンプルの '汚し役' でかかるフィルタリングにDSP4000が大活躍します。以下、本作当時のインタビューからこう述べております。

- 「ボジョレー氏の森」では曲全体にハイパス・フィルターがかかる部分がありましたが。

 "あれもDSP4000です。Sherman Filterbankだとまだあそこまでできない・・全体のクオリティを残しつつすごく小さなレンジにするっていうのはね。ただ安い音にしちゃうのはすごい簡単だと思うんです。効果としてはむっちゃくちゃローファイな、小さなトランジスタ・ラジオから流れているような音でも、そこで全体のクオリティが落ちちゃうのは嫌なんです。単に急に音像が小さくなるっていうのに命をかけました。"






そんなユーザーの好みに合わせて自由にモジュールの組める高級なシステムから20年後、PCを使わず 'エフェクターを自由にカスタマイズ' 出来るZoiaの登場は待ち望んでいた方も多かったのではないでしょうか。各モジュールはカラフルにズラッと並んだ8×5のボタングリッド上に配置し、そこから複数のパラメータへとアクセスします。これらパラメータで制作したパッチはそれぞれひとつのモジュールとしてモジュラーシンセの如く新たにパッチングして、VCO、VCF、VCA、LFOといった 'シンセサイズ' からディレイやモジュレーション、ループ・サンプラーにピッチシフトからビット・クラッシャーなどのエフェクツとして自由に 'デザイン' することが可能。これらパッチは最大64個を記録、保村してSDカードを介してバックアップしながら 'Zoiaユーザーコミュニティ' に参加して複数ユーザーとの共有することが出来ます。自宅で膨大な時間と共に目の前の '積み木' と戯れる・・こりゃ凄い時代になったもんだ。

- 今月の '涼風' な音楽 -





最後は夏と 'ローファイ' のオマケ。夏と言えば涼風爽やかに体感温度をひんやりと下げるヴィブラフォンの響きは欠かせません。ハワイの波の音に誘われて 'Hawaii Calls Show' から 'エキゾティカ' のマーティン・デニー、ジャマイカでレゲエ前夜と言うべきロック・ステディの時代を生きたのはレニ・ヒバート、あのエルメート・パスコアールも在籍したブラジリアン・オクトパス、フォルカー・クリーゲルらドイツ人たちと 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にフランク・ザッパからシタールまで持ち出したのはジャズ・ロックのザ・デイヴ・パイク・セットに至るまで多彩な '涼風グルーヴ' をご堪能あれ。