2015年10月5日月曜日

ブリティッシュ・ジャズの '片思い'

マイルス・デイビスのフォロワーというのはたくさんいます。ある意味、ジャズ・トランペットを志向している者にとって影響を受けない方がおかしく、直接、奏法や音楽性を継承していなくとも皆 'デイビスの子供たち' という言い方は可能でしょう。大雑把に、古くからジャズ・トランペットには 'ブラウニー派' と 'デイビス派' という分けられ方がありました。'ブラウニー' とはクリフォード・ブラウンというラッパ吹きのことで、1950年代半ばのハード・バップと共に現れた天才トランペッターとして、いわゆるビ・バップ以降のディジー・ガレスピー、ファッツ・ナヴァロの系譜を継いだラッパの持つ '陽' のイメージを体現した人でした。一方、デイビスのスタイルは空間を生かした中低域中心のダークなトーンによる '陰' なラッパの代表格です。同時代のケニー・ドーハムやアート・ファーマー、チェット・ベイカーなどはこちらのタイプでしょう。また、完全にデイビスに '成り切る' という人もあり、こちらは現在活動しているウォレス・ルーニーを筆頭に、日本では五十嵐一生さんや高瀬龍一さんなどがその影響を公言しています。1960年代のブリティッシュ・ジャズのシーンで活動を開始したイアン・カーは、デイビスに対する強烈なフォロワーであると同時にいわゆる 'マイルス・デイビス研究家' として、生涯をその音楽活動と分析に当てていた人です。1981年に発刊した名著「マイルス・デイビス物語」(スイングジャーナル社 小山さち子訳)は、そんな彼の研究者としての側面を伺い知ることができます。サックス奏者ドン・レンデルとの双頭クインテットで、同時代のデイビスのクインテットを追求していたカーは、1969年にデイビスの '電化' 、ジャズ・ロックへの変貌に引っ張られるようにニュークリアスというジャズ・ロック・グループを結成します。以前に 'ジャズ・ロックの季節' でご紹介したカンタベリー・ジャズ・ロックの雄、ソフト・マシーンとは '縁戚関係' 的な繋がりを持ち、ニュークリアスのメンバーの大半がソフト・マシーンのグループを '屋台骨'として支えることとなります。



活動初期の珍しくも怪しいPV風?動画。'エレクトリック・マイルス' をフォローしながら、どこかイギリスの牧歌的なアンサンブルを聴かせるところに、彼らが 'カンタベリー・ジャズ・ロック' の強い血統を持っていることを示しています。ソプラノ・サックスのカール・ジェンキンスはこの後ソフト・マシーンに移籍し、グループを一手に引き受ける '頭脳' として君臨します。

 

デイビスがワウを踏めばカーも踏みます。ジャケットからも分かるようにディスコ全盛期の波を被ったようなファンクで粘っこく攻めます。



1970年代末の頃で、すでにフュージョンの香りも濃厚に漂ってきていますが、それでもどこか、'カンタベリー・ジャズ・ロック' の矜持を保ったような牧歌的空気は健在です。カーもミュートとワウペダルでいよいよデイビスの '総決算的' なソロを聴かせます。グループとしてはこの後1980年代半ばまで活動して停止してしまいますが、ここ近年の 'レア・グルーヴ' における再評価や、'カンタベリー・ジャズ・ロック' の怒涛のようなCD再発と併せ、再び注目を集めようとしています。彼らニュークリアスのアルバムはどれもクオリティが高いので、普段アメリカのジャズばかり聴いている方にも是非お勧めしたいです。



1970年、プログレッシヴ・ロックのアルバムを積極的にリリースしていたイギリスのDeramレーベルからも、当時のジャズ・ロックの熱気に呼応した '企画モノ' 的一枚 'Jazz Rock Experience - J.R.E.' をリリースしました。と言ってもメンバーはすべてスイスのジャズメンで固め、今やラッパ吹きとしてより、アルプスホーンの名手として活動するハンス・ケネルとサックスのブルーノ・スポエリの二管が全編Conn Multividerでクールなジャズ・ロックを展開します。

ともう一人、イアン・カーを探している過程で見つけてしまったデンマーク・ジャズの重鎮、パレ・ミッケルボルグをどうぞ。そう、1985年にマイルス・デイビスと共に 'Aura' を制作(リリースは1989年)していますね。



1985年にノルウェーでパレ・ミッケルボルグ指揮のもとレコーディングし、デイビスがワーナー・ブラザーズ移籍後の1989年、思い出したようにCBSがリリースした奇妙な一枚。まあ1985年の時点で、デイビスとCBSの関係が良くなかったことを如実に現したものだったことは確かなようですね。しかし、このようなデイビスの貴重なレコーディング風景が記録されているのは嬉しいものの、Part.2〜4に視聴制限をかけるなんてCBSはせこくないか?



そんな指揮を任されたパレ・ミッケルボルグにとって、デイビスが自らの 'ヒーロー' であることは、このような若かりし日の 'アンプリファイな' スタイルによって一目瞭然。そう、成り切るって大事なことです(笑)。彼もニュークリアスと同時期にはジャズ・ロックにどっぷり(ちなみに上記ニュークリアスと同じフェスのステージ動画なんですね)で、これまたデイビスに触発されたようなワウワウのラッパを、1968年製のヘッドアンプFender Showman Reverb-Ampとキャビネットの二段積みで鳴らしています。さらにマウスピースまで曲げちゃったりしてかなり 'デイビス色' 濃厚!'アンプリファイ' はHolton-Heim?で 'アコースティック' はAl Cassでしょうか?しかし格好良いなあ。



それでも '若気の至り' かと思いきや、ミッケルモルグさんは今もラッパにハーモナイザーをかけて 'マイルス主義者' を貫いているのはさすがですねえ。しかし、北欧のラッパ吹きってニルス・ペッター・モルヴェルやアルヴェ・ヘンリクセン、マグナス・ブルーしかり、皆似たような '北欧っぽい' イメージでアプローチしているのはなぜなのだろう?他にもドイツのマルクス・シュトゥックハウゼンやフランスのエリック・トラファズなど、いわゆる 'ECM' のヨーロッパっぽい空気を大事にしているというか・・。こういうのは絶対に米国や日本からは出てこないものですね。


2015年10月4日日曜日

Call It Anythin' !

ある意味、マイルス・デイビスの存在って大きいのです。この管楽器における 'アンプリファイ' というのも 'ジャズの帝王' がアプローチしてくれなければ、1970年代の一時期に流行した程度の '慰みもの' として、そのまま時代の片隅に埋もれていたことでしょう。実際、1990年代後半にソニーが大々的にデイビスのカタログをリマスタリングしたことと並行し、当時、シーンを席巻していた 'ベッドルーム・テクノ' の世代からのリスペクトと相まって、いわゆる 'エレクトリック・マイルス' 再評価の火が付きました。ビル・ラズウェルが、そんな 'エレクトリック・マイルス' の素材を元にした 'ガイドブック' の 'Panthalassa' と、それを 'ベッドルーム・テクノ' のクリエイターたちで再構成した 'Panthalassa Remix' をリリースしたことで、その後のジャズとエレクトロニクスの関係に再び大きな変動をもたらしたのです。このような、過去を振り返ることがそのまま未来を予兆させるという奇妙な 'トリビュート' の感覚は、ジャズの世界からも二枚の 'エレクトリック・マイルス・トリビュート' として1998年に現れます。

①UMO Jazz Orchestra with Special Guest Tim Hagans / Electrifying Miles (A-Records)
②Yo Miles ! / Henry kaiser & Waadt Leo Smith (Shanachie)

①はフィンランドの有名なUMOジャズ・オーケストラが、1960年代後半から1980年代初め頃のデイビスの楽曲を 'Electrifying Miles' として、地元ヘルシンキで挑んだコンサートの一夜を記録したものです。指揮はEero Koivistoinen、そして副題にスペシャル・ゲストの扱いでティム・ヘイガンスがデイビス役のソリストとして選ばれています。面白いのは、ちゃんとヘイガンスのラッパがワウペダルにより 'アンプリファイ' され、当時の楽曲の雰囲気を再現していること。この 'アンプリファイ' による怪しい魔力が、旧態依然とした伝統的ビッグバンドのアンサンブルの中で 'エレクトリック・マイルス' の世界を描き出すのだから、何とも不思議な気持ちになりますね。



こちらは最近の活動のものらしく、トランペットはJorma Kalvi Louhivuori (よ、読めない)という人の 'アンプリファイ' なラッパ。いいですねえ、アンプ・シミュレーター通した感じの歪んだワウワウで。下記はそんな 'JKL' さんのHPで、彼も真っ赤なMartin Committeeを吹いている 'マイルス者' です。

Jorma Kalvi Louhivuori (JKL) HP

この 'Spanish Key' の収録された 'Bitches Brew' は、まさにデイビスの '電化宣言' として当時のメディアを真っ二つに引き裂きました。その中でも‘Bitches Brew’ におけるタイトル曲の印象的なタップ・ディレイは、あのアルバム全体に流れている荘厳な雰囲気を象徴しているでしょう。ちなみに、このときのレコーディングが特別なものだったのは、従来のデイビスの作品に比べて大所帯によるメンバーと多くの電気楽器群が参加しており、デイビス自身、目いっぱい張り上げなければトランペットをきちんとモニターできないという状況から用いられることとなったそうです。当時8トラックを用いて4チャンネル方式で録音しており、トランペットの音を拾うのにトランペットに取り付けたコンタクトマイクからアンプで出力した音と直接ラインでミキシングボードに入力した音(DIで分岐)、そして、通常通りにスタンドにマイクを立ててベルから拾う音をミキシングボードの上で混ぜてあらゆる音色を作り出しています。またデイビスの座る真正面にはモニタースピーカーが置かれました。このようなやり方の最も効果的な曲こそ、あの ‘Bitches Brew’ の印象的なタップ・ディレイであり、それはコロンビアの技術部門がカスタムメイドで製作したテープエコー ‘Teo 1’ がもたらしたものです。以下は、1998年にCBSが大々的にマイルス・デイビスのカタログをデジタルリマスタリングとリミックスを行った際に、それを手がけたエンジニアのマーク・ワイルダーの言による ‘Teo 1’ の詳細。

しかしミックスの中には同時に、ぼくらが再現しようと試みた特徴的な点も幾つかある。1969年に使っていたのと同じ機材を使う努力をしたよ。当時CBSにあったオリジナルのEMTプレート・リヴァーブは今もある。そして ‘Teo 1’ と呼ばれる特注の機材があって、これはテープ・ループ1本に、録音ヘッド1つと、再生ヘッドが最低4つは付いていたんだけど、もうぼくらのところにはなかった。だからその効果・・トランペットによく使われていたんだけど・・を真似るために、複数のディレイ機材が必要になったんだ。

アルバム ‘Bitches Brew’ は、オリジナルの2ミックス・マスターが相当に劣化しており、このままではリマスタリングに耐えられないと判断したCBSにより、元々の8トラック・マスターから再度ジョー・ワイルダーの手によってリミックスをするという危険な賭けに挑んだいわくつきの一枚。テオ・マセロのオリジナルなミックスが気軽に聴けなくなってしまった現在、この判断は今でも議論の的となっています。

さて、②はジャズはジャズでもフリージャズの世界からの 'トリビュート' で、元々そちらの世界が持っていたアフロ・スピリチュアリズムとの親和性において、実は近い位置にあったのが 'エレクトリック・マイルス' のスタイルでした。"ワダダ" レオ・スミスとヘンリー・カイザーという、これまた一癖ある 'フリー派' が、かなり 'エレクトリック・マイルス' 期のデイビスとピート・コージーに成りきり、ほぼリメイクといった感じの仕上がりです。"ワダダ" もここではワウペダルを駆使して、いつもの彼とは違うスタイルを見せつけます。どうやらこの企画が気に入ったのか、カイザー& "ワダダ" のコンビによる 'Yo Miles !' の続編として 'Sky Garden' (2004年)と 'Upriver' (2005年)がその後リリースされました(一作目から三作目まですべて二枚組というヴォリューム・・圧巻です)。





'Yo Miles !' シリーズの一作目から 'Moja - Nne' とは、1974年の 'Dark Magus' 一曲目のカバーということで 'Turnaroundphrase' のことですね。そして、三作目 'Upriver' から1970年の 'Go Ahead John' をカバー。しかし、彼らは取り上げる楽曲がいちいちマニアック過ぎます。



また、いわゆるクラブ・ジャズのスタイルから登場したラッパ吹き、ニルス・ペッター・モルヴェルやこのエリック・トラファズなどは、そのまま 'エレクトリック・マイルス・フォロワー' たちとして、エレクトロニクスと 'アンプリファイ' なラッパを 'ベッドルーム・テクノ' の世代と共闘して 'リファイン' させることに余念がありません。

それでも、この 'エレクトリック・マイルス' と呼ばれていたコンセプトを、果たして単独の楽曲として取り上げて '愛でる' のか、表面的なジャズとエレクトロニクスの融合として継承するのか、についてはまだまだ 'フォロワー' の域を出ず理解されていないのかもしれません。一部、これら 'トリビュート' 作と同時期に菊地成孔氏が始動したユニットdCprGのように、そのリズム構造の面白さにまで切り込んで 'トリビュート' したものはあるものの、そのほとんどは '奇形化したフュージョン' という評価に甘んじています。そういう意味では、これから本格的に '分析' されなければならない音楽であると同時に、まったく違うことを始める契機のきっかけとも言えますね。


マイルス・デイビスの神通力、まだまだこの先も謳歌していく勢いです。

2015年10月3日土曜日

ランディ・ブレッカーの探求

わたしは特別熱心なリスナーというワケではなかったのですが、ある時代の世代にとってザ・ブレッカー・ブラザーズというのは大きな存在だったようです。1970年代後半のフュージョン・ブームはジャズやロック、R&Bにラテンといったあらゆる音楽のエッセンスが高度なスキルとテクノロジーの上に成り立っていたもので、別の言い方をするなら、それ以前の '反体制' な空気の中でロックに熱中していた世代が成熟し、もう少し音楽の深みと付き合ってみようとしたところでヒットしたのではないでしょうか。結局は、その深みというのがテクニックのひけらかしに走り過ぎたことで、次第に飽きられてしまったのですが、彼らザ・ブレッカー・ブラザーズは常にバップの伝統を根底に置いた上で、新しいことを探求していた存在でした。



わたしもランディ・ブレッカーのスタイルは好きで、正直その他 'レジェンド' とされているラッパ吹き(例えばリー・モーガンやフレディ・ハバードなど)ほど評価されていないことを残念に思っています。また、彼の作曲における奇妙なセンスも面白く、いまのジャズメンたちがもっと取り上げてくれたらその評価も今後上がっていくのでは、と期待しているのですが・・。

さて、上記動画の1993年ザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーの際に、来日公演時の 'Jazz Life' 誌とのインタビューによる機材話が興味深いので抜粋してみます。

ランディ "ここには特別話すほどのものはないけどね(笑)。"

− マイク・スターンのエフェクターとほとんど同じですね。

ランディ "うん、そうだ(笑)。コーラスとディレイとオクターバーはみんなよく使ってるからね。ディストーションはトランペットにはちょっと・・(笑)。でも、Bossのギター用エフェクツはトランペットでもいけるよ。トランペットに付けたマイクでもよく通る。"

− プリアンプは使っていますか?

ランディ "ラックのイコライザーをプリアンプ的に使ってる。ラックのエフェクトに関してはそんなに説明もいらないと思うけど、MIDIディヴァイスが入ってて、ノイズゲートでトリガーをハードにしている。それからDigitechのハーモナイザーとミキサー(Roland M-120)がラックに入ってる。"

− ステレオで出力してますね?

ランディ "ぼくはどうなってるのか知らないんだ。エンジニアがセッティングしてくれたから。出力はステレオになってるみたいだけど、どうつながっているのかな?いつもワイヤレスのマイクを使うけど、東京のこの場所だと無線を拾ってしまうから使ってない(笑)。生音とエフェクト音を半々で混ぜて出しているはずだよ。"

− このセッティングはいつからですか?

ランディ "このバンドを始めた時からだ。ハーモナイザーは3、4年使ってる。すごく良いけど値段が高い(笑)。トラック(追従性のこと)も良いし、スケールをダイアトニックにフォローして2声とか3声で使える。そんなに実用的でないけど、モーダルな曲だったら大丈夫だ。ぼくの曲はコードがよく変わるから問題がある(笑)。まあ、オクターヴで使うことが多いね。ハーマン・ミュートの音にオクターヴ上を重ねるとナイス・サウンドだ。このバンドだとトランペットが埋もれてしまうこともあるのでそんな時はエッジを付けるのに役立つ。"

− E-mu Proteus(シンセサイザー)のどんな音を使ってますか?

ランディ "スペイシーなサウンドをいろいろ使ってる。時間があればOberheim Matrix 1000のサウンドを試してみたい。とにかく、時間を取られるからね。この手の作業は(笑)。家にはAkai Professionalのサンプラーとかいろいろあるけど、それをいじる時間が欲しいよ。"

− アンプはRolandのJazz Chorusですね。

ランディ "2台をステレオで使ってる。"


この時のランディの足元には、Boss Octave OC-2、T-Wah TW-1、Digital Delay DD-3、Digital Delay/Sampler DSD-3、Super Chorus CH-1をパワーサプライPSM-5でまとめています。生音とエフェクト音を半々で混ぜて・・とある通り、まだBarcus-berry 1374マウスピース・ピックアップを使っていますね。8UのラックにはRolandのミキサーM-120、Alesis Quadlaverb、E-mu Proteus、Drawmer DS-201のノイズゲートのほか、Digitechとメーカー不詳のPitchriderなるハーモナイザーが入っています。この頃からすでに20年以上の時間が過ぎ、現在はRadial Engineering Voco Locoをベースに、Boss Dynamic Wah AW-3、Equalizer GE-7、Ernie Ballのヴォリューム・ペダル、そしてマルチ・エフェクターのME-70という簡便なセット、マイクはDPAのd:vote 4099Tを使っています。なんでも航空機の手荷物における重量オーバーに引っかかってしまうことで、より手軽なセットへ切り替えたとのこと。また、Barcus-berryのマウスピース・ピックアップについても、あのやり方はかなり調子が良かったから悪くなかった、と述べておられました。



ランディ・ブレッカーさん、今後もますますのご活躍を!

2015年10月2日金曜日

コンパクト・エフェクター '覚え書き'

足元に置くコンパクト・エフェクターの面白さは、管楽器の 'アンプリファイ' を構築していく上でひとつのモチベーションになります。もちろん、多様なエフェクターが一台に納められたマルチ・エフェクターで完結してしまっても全然問題ないのだけど、やはり自分の好みのサウンドをひとつひとつ買い足しては、この組み合わせはイイな、こっちの組み合わせだとイマイチだ、などとあれこれ考えるのが楽しいのです。ただ、基本的に楽器店で試奏などできないので、それこそYoutubeでギターでの試奏動画など見て想像力を膨らませながら 'トライ&エラー' するしかない。だからこの分野に手を出すということは、結構お金がかかることも考慮しなくてはならないですね。

それでも、あれこれ散財したわたしの意見を述べさせてもらえれば、プリアンプなどを除いて3個以上になると、それほど管楽器で効果的なものにならないと思います。つまり、オクターバー/ピッチ・シフター、ワウ、ディレイでほぼ、足元は完結しちゃうんですよ。リヴァーブなどはライヴを行う人ならPAでかけてくれるので、わざわざ自前で用意しなくても大丈夫。ループ・サンプラーは確かに想像力を刺激される楽しいものだけど、ライヴでバンドの中で使うのは相当難しいと思います(同期できない!)。歪み系は、マイクで収音するラッパにとって '歪む' = 'ノイズ増える' = 'ゲインアップ' = 'ハウリングの誘発' という公式ができるくらい、扱うのが難しいシロモノです。モジュレーション系は元々のピッチにかかわるエフェクターなので、コーラスくらいならイイけど、フェイザーやフランジャーなど、あまり派手にかけると '音痴' ぎみになり使うのが難しい。



上記の動画はSolid Gold FX Apollo Phaserをラッパで用いたもの。しかしJohn Bescupさんの選ぶエフェクターはどれも個性的なヤツばかりですね。これもPigtronix Envelope Phaser EP-2同様にフェイザーというよりフィルターとLFOが一体になったような '飛び道具' っぽい感じ。

そして、その '飛び道具' 系エフェクターと呼ばれるもの、例えばリング・モジュレーターやエレクトロニカで用いられる 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターなどは、確かにここぞと使えば刺激的だけど、楽曲の中での頻度は少なく、また派手なだけに飽きるのも早い(かつ、この手のニッチ系エフェクターは高価!)。とまあ、消去法的に述べてみましたが、エレクトリック・ギターのようにリードとバッキングで歪みが数種類、ディレイも複数のプログラムを設定し、スイッチング・システムのMIDIで切り替える、みたいな使い方に比べたら、管楽器での使い方などそれほどヴァリエーションはないということです。とりあえず最初の第一歩としては、基本的なワウ、オクターバー/ピッチ・シフター、ディレイだけでも十分、ラッパで探求できる余地はあるので、この3つの中からお気に入りを見つけて、あれこれ 'モノにする' のが 'アンプリファイ' への近道だと思いますね。ディレイならタップテンポくらいの機能で十分だし、ワウを踏みながらフレイズとの関係性を考えるだけでも飽きることはないでしょう。



後はイコライザーですね。ライヴの場合だと会場やバンドの規模により自らの音が聴こえにくかったり、あまり抜けてこない場合があります。足元にBoss Equalizer GE-7やMXR 10 Band EQといったグライコ、またはEmpless Para EQ w/Boostのようなパライコを置き、いろいろとイコライズしてみることをお勧め致します。上の動画はGE-7をさらにワイドレンジかつクリーンなS/NとしてHumpback Engineeringがモディファイしたもの。やはり管楽器の 'アンプリファイ' ではこのくらいのクリアーな方が扱いやすいですね。もちろん、ここまで述べてきたことは、'アンプリファイ' を効果的に作用させるための購入に関する優先順位みたいなものなので、面白いと思ったものならどんどん試して頂きたいです。





Electro-Harmonix Riddle

上記の動画はRadial Engineering Voco Locoをベースに、エンヴェロープ・フィルター、フランジャー、リング・モジュレーター、ディレイ、リヴァーブをサックスで試している動画です。そのエンヴェロープ・フィルターであるElectro-Harmonix Micro Q-tronは、一定のレベルで入力していないからイマイチ効果が分からずかかりが悪いですね。一方、下の動画の人はコンプレスしたトーンで見事にエンヴェロープ・フィルターのかかったソロを披露しており、Electro-HarmonixのRiddleというエンヴェロープ・フィルターを用いています。これはMu-tron Ⅲを設計したマイク・ビーゲルがデザインしたもので、専用に用意されたディストーションをミックスすることができるようですね。



Damage Control Glass Nexus 1
Damage Control Glass Nexus 2

実際、これだけ使うほど意味があるかどうかは分かりませんケド、それでも、こういう人の動画は視覚的に楽しいし、いろいろなエフェクターの効果が分かって嬉しくなりますね。ちなみに、このコルネットを吹くBescupさんが頻繁に手を置いて操作している青いエフェクターは、Damage ControlのGlass Nexusという真空管の入ったデジタルのマルチ・エフェクターです。



2015年10月1日木曜日

続・オクターバーで '温故知新'

Korg Octaver OCT-1を手放して、何か代わりのものを物色し始めています。コレ、個人的に結構お気に入りだったのですが、どうも微妙に電源回りからのノイズを拾っているんですよね。スイッチを踏むと薄〜っくですが ‘ブ〜ン’ という感じで、すでに設計が1980年代初めだからいろいろ気になるところは出てきます。代替ということでは、ちょうどタイムリーにMusitronicsの名機Mu-tron Octave Dividerの復刻版が二社から発売。ひとつは、オリジナルの設計者マイク・ビーゲル氏が自らの会社Beigel Sound Lab.のMu-FXからアナログ回路による ‘アップグレード’ 版。原音、アッパー・オクターヴそれぞれ個別に調整できるツマミが加わってさらに細かな音作りが可能、早いフレイズにも追従性が良いですね!

 

もうひとつはチェコ共和国の新興メーカーSalvation ModsVivider。コレもほぼオリジナル機通りの機能ながら、筐体はMXRサイズでコンパクトな作りです。どちらも日本の市場価格は同等なだけに、当然Mu-FXの方を候補に入れていたのですが、こちらはAC12V駆動なのが不便。Vividerの方はDC9Vの駆動でパワーサプライから供給でき、またYoutubeでのオリジナル機との比較試奏を見る限りかなりよく出来ています。唯一気になるのはデジタルで設計されているのですが、アナログ信奉者’ のわたしも今はデジタルもそれほど悪くないのでは、という心境に少々傾いております(それでもやはり、レイテンシーというデジタルによるピッチ検出の遅れは悩みどころなんですが)。他には、価格面とコンパクトさでElectro-Harmonix Nano POGや、多様な効果の出せるピッチ・シフターPitch Forkも気になります。いや、単にオクターヴかけるだけなら、香港製の超小型オクターバーHotone Octaなんかで問題ないかもしれません。この辺、ズラッと足元に並べて試奏してみたいものです。本当はギター・シンセサイザー系なども試してみたいのですが、もうエフェクターボードに乗せるスペースがありません。以前短期間だけ使っていたElectro-Harmonix のMicro Synthesizerとか、再度使ってみたらその印象も変わるでしょうね。別段気に入らなかったわけではないんだけど、とにかく所有しては、また別のエフェクターが欲しくなって手放しを繰り返していた頃だったので、正直あまり印象に残っていません。だからもう一度使ってみたいですねえ。





どうでしょう?オリジナル機と比べても遜色ないと思いませんか?いくぶんVividerの方が軽いかな、という気がしないでもないんですけど、これはAC100VとDC9Vの駆動の違いからきているのかもしれません。まあ、些細な差異です。というより、もうちょいクリーンな感じで試奏してくれないと元々の音色の違いがハッキリしないかも・・アンプがちょい歪み過ぎ。





本来、目的としては違う効果の製品だと分かってはいるんですが、う〜ん、やっぱり本物にはなんとも言えない風格がありますねえ。このガツッとしたかかり方の '肉食感' というか、正直、アナログのオクターバーを味わってしまったらピッチ・シフターによる 'オクターヴ下' とか物足りなくなってしまいますヨ。