マイルス・デイビスのフォロワーというのはたくさんいます。ある意味、ジャズ・トランペットを志向している者にとって影響を受けない方がおかしく、直接、奏法や音楽性を継承していなくとも皆 'デイビスの子供たち' という言い方は可能でしょう。大雑把に、古くからジャズ・トランペットには 'ブラウニー派' と 'デイビス派' という分けられ方がありました。'ブラウニー' とはクリフォード・ブラウンというラッパ吹きのことで、1950年代半ばのハード・バップと共に現れた天才トランペッターとして、いわゆるビ・バップ以降のディジー・ガレスピー、ファッツ・ナヴァロの系譜を継いだラッパの持つ '陽' のイメージを体現した人でした。一方、デイビスのスタイルは空間を生かした中低域中心のダークなトーンによる '陰' なラッパの代表格です。同時代のケニー・ドーハムやアート・ファーマー、チェット・ベイカーなどはこちらのタイプでしょう。また、完全にデイビスに '成り切る' という人もあり、こちらは現在活動しているウォレス・ルーニーを筆頭に、日本では五十嵐一生さんや高瀬龍一さんなどがその影響を公言しています。1960年代のブリティッシュ・ジャズのシーンで活動を開始したイアン・カーは、デイビスに対する強烈なフォロワーであると同時にいわゆる 'マイルス・デイビス研究家' として、生涯をその音楽活動と分析に当てていた人です。1981年に発刊した名著「マイルス・デイビス物語」(スイングジャーナル社 小山さち子訳)は、そんな彼の研究者としての側面を伺い知ることができます。サックス奏者ドン・レンデルとの双頭クインテットで、同時代のデイビスのクインテットを追求していたカーは、1969年にデイビスの '電化' 、ジャズ・ロックへの変貌に引っ張られるようにニュークリアスというジャズ・ロック・グループを結成します。以前に 'ジャズ・ロックの季節' でご紹介したカンタベリー・ジャズ・ロックの雄、ソフト・マシーンとは '縁戚関係' 的な繋がりを持ち、ニュークリアスのメンバーの大半がソフト・マシーンのグループを '屋台骨'として支えることとなります。
活動初期の珍しくも怪しいPV風?動画。'エレクトリック・マイルス' をフォローしながら、どこかイギリスの牧歌的なアンサンブルを聴かせるところに、彼らが 'カンタベリー・ジャズ・ロック' の強い血統を持っていることを示しています。ソプラノ・サックスのカール・ジェンキンスはこの後ソフト・マシーンに移籍し、グループを一手に引き受ける '頭脳' として君臨します。
デイビスがワウを踏めばカーも踏みます。ジャケットからも分かるようにディスコ全盛期の波を被ったようなファンクで粘っこく攻めます。
1970年代末の頃で、すでにフュージョンの香りも濃厚に漂ってきていますが、それでもどこか、'カンタベリー・ジャズ・ロック' の矜持を保ったような牧歌的空気は健在です。カーもミュートとワウペダルでいよいよデイビスの '総決算的' なソロを聴かせます。グループとしてはこの後1980年代半ばまで活動して停止してしまいますが、ここ近年の 'レア・グルーヴ' における再評価や、'カンタベリー・ジャズ・ロック' の怒涛のようなCD再発と併せ、再び注目を集めようとしています。彼らニュークリアスのアルバムはどれもクオリティが高いので、普段アメリカのジャズばかり聴いている方にも是非お勧めしたいです。
1970年、プログレッシヴ・ロックのアルバムを積極的にリリースしていたイギリスのDeramレーベルからも、当時のジャズ・ロックの熱気に呼応した '企画モノ' 的一枚 'Jazz Rock Experience - J.R.E.' をリリースしました。と言ってもメンバーはすべてスイスのジャズメンで固め、今やラッパ吹きとしてより、アルプスホーンの名手として活動するハンス・ケネルとサックスのブルーノ・スポエリの二管が全編Conn Multividerでクールなジャズ・ロックを展開します。
ともう一人、イアン・カーを探している過程で見つけてしまったデンマーク・ジャズの重鎮、パレ・ミッケルボルグをどうぞ。そう、1985年にマイルス・デイビスと共に 'Aura' を制作(リリースは1989年)していますね。
1985年にノルウェーでパレ・ミッケルボルグ指揮のもとレコーディングし、デイビスがワーナー・ブラザーズ移籍後の1989年、思い出したようにCBSがリリースした奇妙な一枚。まあ1985年の時点で、デイビスとCBSの関係が良くなかったことを如実に現したものだったことは確かなようですね。しかし、このようなデイビスの貴重なレコーディング風景が記録されているのは嬉しいものの、Part.2〜4に視聴制限をかけるなんてCBSはせこくないか?
そんな指揮を任されたパレ・ミッケルボルグにとって、デイビスが自らの 'ヒーロー' であることは、このような若かりし日の 'アンプリファイな' スタイルによって一目瞭然。そう、成り切るって大事なことです(笑)。彼もニュークリアスと同時期にはジャズ・ロックにどっぷり(ちなみに上記ニュークリアスと同じフェスのステージ動画なんですね)で、これまたデイビスに触発されたようなワウワウのラッパを、1968年製のヘッドアンプFender Showman Reverb-Ampとキャビネットの二段積みで鳴らしています。さらにマウスピースまで曲げちゃったりしてかなり 'デイビス色' 濃厚!'アンプリファイ' はHolton-Heim?で 'アコースティック' はAl Cassでしょうか?しかし格好良いなあ。
それでも '若気の至り' かと思いきや、ミッケルモルグさんは今もラッパにハーモナイザーをかけて 'マイルス主義者' を貫いているのはさすがですねえ。しかし、北欧のラッパ吹きってニルス・ペッター・モルヴェルやアルヴェ・ヘンリクセン、マグナス・ブルーしかり、皆似たような '北欧っぽい' イメージでアプローチしているのはなぜなのだろう?他にもドイツのマルクス・シュトゥックハウゼンやフランスのエリック・トラファズなど、いわゆる 'ECM' のヨーロッパっぽい空気を大事にしているというか・・。こういうのは絶対に米国や日本からは出てこないものですね。
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