2020年5月5日火曜日

ブラスで '電気増幅' の壁

さて、管楽器でアンプっていうのはあまりイメージが湧かないのではないでしょうか。一般的には管楽器に取り付けたマイクの信号はそのままPAのミキサーに引き回されて、ミキサー内蔵のリヴァーブやディレイ、EQなどで処理されたものがステージ上のパワード・モニターへ振り分けられていくという流れになります(ヴォーカルと同じセッティングですね)。







もし、管楽器で個別にエフェクターを用いたいという場合では、ミキサーのバスアウトからDIでステージ上に送り足元のコンパクト・エフェクターを通り、再びDIでミキサーのチャンネルへ返すという流れとなります。最近、管楽器のマイクに最適化された 'インサート付き' のマイク・プリアンプ、Radial Engineering Voco-LocoやEventide Mixing LinkなどもPAからはそのようなセッティングで繋いで欲しいと指示されるのではないでしょうか。もしくはエフェクツ用と '生音' で2つのマイクを分けてセッティングするなど・・。つまり、PAエンジニアとしては管楽器自体の '生音' は確保したいという思いが強く、これは足元のエフェクターに不具合が生じた場合、ミキサー側でエフェクツに送るバスアウトを切っていつでも '生音' に戻れることでステージ上の進行を妨げないことを優先します。また、エフェクツのバランスなどをPAのミキサー側でコントロールしたいという思いも強いでしょう(突発的なハウリングなど)。







Yamaha Stagepas 400i / 600i

こういうところで、ひと昔前の 'アンプリファイ' な管楽器奏者が好んでいたアンプを用いてのセッティングは、その他電気楽器とのアンサンブルや複数マイクを立てることによる煩雑さから現代ではイヤがられるでしょうね(苦笑)。また、客席側に聴こえるPAを通した '外音' に対して、いわゆる '返し' と呼ばれるステージ上の '中音' を司るパワード・モニターの音量も限度があることから、最近のステージでは管楽器奏者の耳に直接インイヤー・モニターを推奨するPAも多くなってきました(ヴォーカルは完全にコレですね)。


SWR California Blonde Ⅱ

そういう世の中のPAの主流一切関係ナシのわたしは(笑)、アコースティック/PA用のコンボアンプをDIからラインで繋いでおりまする。現在のわたしのメインはSWRの12インチ一発、最大160W出力のCalifornia Blonde Ⅱでして、いかにも 'エレアコ' 用といった仕様のマイクとAux入力、またアンサンブル中での '音抜け' を意識して高域を中心に '横へ拡げる' 機能の 'Aural Enhancer' を備えるなど、ライヴでの使い勝手を意識したデザインとなっております。2チャンネル備えられたEQはBass、Mid Range、Trebleの3バンドでリアにハイのツィーターをコントロールするツマミが個別に用意、外部エフェクツ用 'センド・リターン' とスプリング・リヴァーブを内蔵(ちょっとノイズ多目ですが)。

このアンプ最大の特徴が、ハイインピーダンスによるアンバランス入力のほか 'Low Z Balanced' のスイッチを入れることでTRSフォンのバランス入力に対応すること。ちなみにこの端子の隣に 'Stereo Input' というTRSフォンの入力もあり、こちらに入れても使えなくはないのですが・・なぜかビミョーに 'ノイズ成分' が上がってしまうので 'Low Z Balanced' の方を選んでおります。このバランス入力が他社のアンプにはない本機ならではの機能として実に重宝しており、取説での説明は以下の通り。

"ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイスの環境が得られます。"



このアンプの各ツマミは少々ガリの出やすいところが玉に瑕で、重量も堂々の24Kgと重たいものの、アンプとしての音色は以前使っていたGenz-Benz UC4よりかなり好みですね。そして理想を言えばスタック化するべく、California Blondeのオプションとして用意されていた高域ツイーターである80W12インチの外部キャビネット、Blonde On Blondeが欲しくて探しておりまする(こんな '二段積み' したらもう自宅で鳴らせないけど・・苦笑)。




ちなみにこのSWR California Blondeのユーザーって誰がいるのかな?と気になっていたのですが、なんと 'レッチリ' ことレッド・ホット・チリ・ペパーズの超絶ベーシスト、フリーがウッドベース(横倒しになっとる)用としてステージに置いているのを発見。そんな動画の中から彼が余興?で吹くラッパの腕前もなかなかのものです。一時期はBarcus-berryのマウスピース・ピックアップもステージ上で使っておりましたが・・煩雑なセッティングからPAエンジニアの却下喰らったんかな?(苦笑)。






Yamaha PE-200A
Yamaha PE-200A + TS-110
Yamaha PE-200A + TS-100

管楽器の 'アンプリファイ' 黎明期にこぞって使い出していたのがAcoustic Control Corporationのスタックアンプ。当然、マイルス・デイビスもその時期を経て1973年の来日公演を機にエンドース契約をして使い始めたのがYamahaのPAシステムです。デイビスも使用したヘッドアンプ部のYamaha PE-200Aはスプリング・リヴァーブ、トレモロのほかにオートワウ!も内蔵されており、そのオートワウも 'Wah Wah Pedal' という端子にエクスプレッション・ペダルを繋ぐことでペダル・コントロールできるというかなり変わった仕様。案外、デイビスはワウペダルだけじゃなくこのオートワウも 'On' にしていたのでは?そしてパワーアンプ内蔵のTS-110キャビネット部分を縦に赤、黒、緑と'アフロカラー' で染め上げ、上から 'MILES、DAVIS、YAMAHA' とレタリングをすれば、もう気分は70年代の 'エレクトリック・マイルス' 一色!メチャクチャ欲しいけれど、12インチ二発で上下合わせて60Kg強という'冷蔵庫' のようなスタックアンプでございます(汗)。










Acoustic Control Corporation
Acoustic Control Corporation 360 + 361
Acoustic Control Corporation 115

あ、そうそう、このSWRという会社の創業者Steve Rabe氏は元々Acoustic Control Corporationでアンプの設計に従事していた御仁。上述しましたがAcousticのアンプといえばギターやベースのほか、1960年代後半〜70年代の 'アンプリファイ' でクリーンなアンプとして管楽器奏者にも重宝されておりました。260+261の組み合わせはマイルス・デイビスや初期のランディ・ブレッカーはもちろん、フランク・ザッパ1968年のステージで吹くイアン・アンダーウッド、バンク・ガードナーらの背後にAcousticのアンプが鎮座しておりました。ベース用の360+361はあのジャコ・パストリアスが愛した組み合わせとして有名ですね。こういうクリーンな設計思想?から勝手な想像ですけど、ラッパとSWRのアンプは相性良いのかな?(ちなみにCalifornia BlondeはRabe氏独立後の製品です)。






Musicman Amps HD / RD Series
40 Years of Roland Jazz Chorus

繰り返せば、管楽器は今やヴォーカルと同じくPAのラインで鳴らすのが常識となっておりますけど、わたし的には同じくラインで鳴らすとはいえ、やはり 'アンプという箱' をそばに置いて 'エレキ' 的に鳴らしたいのですヨ。それは生楽器本来のダイナミックレンジの再生より、クリーンとはいえアンプで飽和する '歪み' こそ重要なのです。ノルウェーのパレ・ミッケルボルグはテリエ・リピダルとの1978年のステージでキャビネットはMusicman、そしてRolandのミキサーPA-120をヘッドアンプ的に用い、この向かい合わせの客に対して一人 '異空間' なラッパを吹いている(笑)。バンドの規模にもよりますがでっかいスタックアンプではなく、60〜120W程度のアンプでもPAを併用すれば十分な音量を確保することが出来ます。そしてこの分野のイノベイターであるランディ・ブレッカーは、古くはAcoustic Control Corporationのサウンド・システムから出発し、1993年のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーの際にはクリーンなギターアンプの定番、Roland Jazz Chorus JC-120を2台ステレオで鳴らしておりました。ここ日本ではあらゆるライヴハウスに常設してある超定番のトランジスタアンプJC-120。ギターやキーボードなどでの使用はもちろん、その '裏ワザ' として後方の 'Return' からプリアンプをスルーしてラインでパワー・アンプをステレオにして鳴らすことも出来まする。そんな 'JC' についてランディ・ブレッカーは、来日公演時の 'Jazz Life' 誌とのインタビューによる機材話が興味深いので抜粋します。

ランディ − ここには特別話すほどのものはないけどね(笑)。

− マイク・スターンのエフェクターとほとんど同じですね。

ランディ − うん、そうだ(笑)。コーラスとディレイとオクターバーはみんなよく使ってるからね。ディストーションはトランペットにはちょっと・・(笑)。でも、Bossのギター用エフェクツはトランペットでもいけるよ。トランペットに付けたマイクでもよく通る。

− プリアンプは使っていますか?

ランディ − ラックのイコライザーをプリアンプ的に使ってる。ラックのエフェクトに関してはそんなに説明もいらないと思うけど、MIDIディヴァイスが入ってて、ノイズゲートでトリガーをハードにしている。それからDigitechのハーモナイザーとミキサー(Roland M-120)がラックに入ってる。

− ステレオで出力してますね?

ランディ − ぼくはどうなってるのか知らないんだ。エンジニアがセッティングしてくれたから。出力はステレオになってるみたいだけど、どうつながっているのかな?いつもワイヤレスのマイクを使うけど、東京のこの場所だと無線を拾ってしまうから使ってない(笑)。生音とエフェクト音を半々で混ぜて出しているはずだよ。"

− このセッティングはいつからですか?

ランディ − このバンドを始めた時からだ。ハーモナイザーは3、4年使ってる。すごく良いけど値段が高い(笑)。トラック(追従性のこと)も良いし、スケールをダイアトニックにフォローして2声とか3声で使える。そんなに実用的でないけど、モーダルな曲だったら大丈夫だ。ぼくの曲はコードがよく変わるから問題がある(笑)。まあ、オクターヴで使うことが多いね。ハーマン・ミュートの音にオクターヴ上を重ねるとナイス・サウンドだ。このバンドだとトランペットが埋もれてしまうこともあるのでそんな時はエッジを付けるのに役立つ。

− E-mu Proteus(シンセサイザー)のどんな音を使ってますか?

ランディ − スペイシーなサウンドをいろいろ使ってる。時間があればOberheim Matrix 1000のサウンドを試してみたい。とにかく、時間を取られるからね。この手の作業は(笑)。家にはAkaiのサンプラーとかいろいろあるけど、それをいじる時間が欲しいよ。

− アンプはRolandのJazz Chorusですね。

ランディ − 2台をステレオで使ってる。











さて、California Blonde Ⅱには 'ロー・インピーダンス' のライン入力のみならずギターや高出力のピエゾ・ピックアップなどを直接繋げられる 'ハイ・インピーダンス' 入力を備えております。これを 'ロー出しハイ受け' の原則に従ってコンパクト・エフェクターから低いインピーダンスで出力しアンプ側の高いインピーダンスで受けると・・ノイジーに歪みまくり、ゲインのバランスも取れずにハウリングの嵐に見舞われる(汗)。これが機材のセオリー通りではない各社機器間の '不都合な真実' (笑)であり、つまりきちんとインピーダンス整合が取れていないのですね。ということで一旦、エフェクターからの出力をパッシヴのDIで 'ロー・インピーダンス' に変換、そこから '逆DI' ことリアンプ・ボックスで再び 'ハイ・インピーダンス' の信号にしてアンプへと繋いで実験・・結論。コイツをDIとの間に挟めば 'ハイインピーダンス' 入力のアンプでもちゃんと管楽器で鳴らせますヨ。Snarky Puppyのラッパ吹き、Mike 'Maz' MaherもFenderのギターアンプでワウを踏んでおりますが(現在PiezoBarrelのマウスピース・ピックアップを使用)、これも古くはドン・エリスがFender Pro Reverbで鳴らしておりその広告にまで遡ることが出来ます。そしてブリティッシュ・ジャズ・ロックの雄、ニュークリアスのイアン・カーはDynacordのPA用アンプEminentで電化。欧州のPA製品としてはこのドイツ製がかなり普及していたのかも知れません。





Radial Engineering Reamp JCR
Radial Engineering Reamp X-Amp

そんな '逆DI' の実験として、ここでパッシヴのReamp JCRとアクティヴのReamp X-Ampで比較してみれば、パッシヴ(黒いヤツ)ではハムノイズっぽいのが低くブ〜ンと拾ってしまったのでローカット・フィルターを入れて対処、一方のアクティヴ(黄色いヤツ)では問題なくちゃんと 'インピーダンス変換' されました。やはりオススメは黄色いReamp X-Ampの方ですね。ただ、'Low Z Balanced' の完全ローインピーダンスに比べるとこの 'やり方' は少しだけタッチノイズに対してセンシティヴかな?このリアンプってヤツは、素の状態で録音されたギターを再びラインからギターアンプで再生、再録音する為のエンジニア・アイテム。このような専用の機器以外では、例えばお手軽な環境でも扱える '便利アイテム' としてすでに 'ディスコン' ですけどNeotenicSoundのBoard Masterも愛用中。入力部をギターのピックアップ別にHum、Single、Active、Lineと選択してLevel調整するだけ・・これでコンパクト・エフェクターからアンプのライン入力に 'アッテネート' 出来まする。ふぅ、しかし実験とはいえ '電気ラッパ' の 'アンプリファイ' は金も機材も増えてイヤになる(苦笑)。











Vintage Kustom Amplification
Kustom Amplification Bass 150-1 + 2-12B
Hughes & Kettner Tube Meister 18 Head (discontinued)

エレクトリック・ギター用のアンプは中域に特徴の歪ませること前提としたモノであり、クリーンで鳴らす管楽器では不要なノイズも目立ち上手く行きません。一方、低域という幅広い帯域を確保すべく鳴らすベース・アンプはクリーンであることが前提であり、そのオーディオアンプ的特性から実は 'エレアコ' 用アンプの代用としても十分機能します。フランスで活動するGuillaume Perretさんはテナーサックスでかなり歪ませるタイプのようですが(汗)、ここではAmpegのベース用スタックアンプで気持ち良く鳴らしておりまする。さらに続く 'メリーさんの羊' オジサン(笑)のクラリネットによる動画では、モコモコしたビニール地のソファ風アンプで有名なKustomのスタックアンプを鳴らしており、リンク先の 'Kustomファン' によるサイトによれば150W12インチ2発によるBass 150というモデルとのこと。また、バリトン・サックスのJonah Parzen-JohnsonさんはHughes & Kettnerの小型真空管スタックアンプ、Tube Meister 18 Headですね。








Carvin AG100D ①
Carvin AG100D ②
Barcus-berry XL-8

こちらはすでに 'ディスコン' ですが 'エレアコ/PA' 用コンボアンプ、Carvin AG100D。12インチ一発の100W出力で3つの独立した入力チャンネルとデジタル・エフェクツ、5バンドのグラフィックEQを内蔵しております。Ch.1はアコギやエレキ、Ch.2はドラムマシンにキーボードなど、そしてCh.3はマイク/ライン入力となっているのですが、その3チャンネルのミキサー機能が管楽器の 'アンプリファイ' を行う上で非常に重宝した使い方が出来るのですヨ。まず、グーズネック式マイクであれば腰に装着するバッテリーパックからXLR(メス)→フォンの変換ケーブル、もしくはワイヤレス・システムなどを用いてCh.2に入力して下さい。そしてアンプ後部の 'Stereo Line Out' からEQ前の信号を取り出して足元のペダル群に接続、その出力をCh.1かCh.2へ戻します。このようなチャンネル間を 'インサート' するかたちでマイクとペダルのインピーダンスを整合、調整することが可能になります。また、このAG100Dにオプションの外部キャビネットが用意されており 'スタック化' も可能ですが、これ以上の音圧を求める場合ではCarvinも簡易PAのサウンド・システムを用意していたようです。この会社の製品は以前サウンドハウスが代理店として扱っておりましたが、その後Carvinが楽器製作をやめてしまったことで現在は中古を探さなければならないのが残念なり。とりあえず、このCarvin AG100Dや後述するRoland KCシリーズに代表されるミキサー機能を持ったアンプがあればそのままプラグイン、簡単に管楽器を 'アンプリファイ' させることが出来るので最初の一歩としてはオススメです。ちなみにこの手の 'エレアコ' 用アンプは一昔前はピックアップの老舗、Barcus-berryぐらいでしか製作しておらず、リンク先にある15W出力のXL-8など今では貴重なモデルでしょうね。












Behringer K900FX Ultratone
Roland New 'KC' Series
Roland KC-150 - 4 Channel Mixing Keyboard Amplifier (discontinued)
Roland KC-350 - 4Channel Stereo Mixing Keyboard Amplifier (discontinued) 

現在、一般的に入手しやすいアンプとしては管楽器の 'アンプリファイ' にも向いているBehringerの12インチ一発、最大90W出力のキーボード用アンプK900FXも評判が良いですね。そして、この手のアンプで最もポピュラーなのがRolandの12インチ一発、最大65W出力のキーボード用アンプKC-150や最大120W出力のKC-350などはお手軽に試すことが出来まする(2018年にこの 'KCシリーズ' はラインアップを一新してKC-200 & KC-400となりました)。ここでご紹介している管楽器の 'アンプリファイ' 動画のほとんどで、この 'KCシリーズ' のアンプが活躍しているところからもその定番ぶりが分かるかと思います。





Acus Sound Engineering Oneforstrings AD
Acus Sound Engineering

最近では 'エレアコ' 用アンプも高級な木製キャビネットなどでオシャレなスタイルを心掛けており、このイタリアはAcusという工房の製品もそんなナチュラルな出音で人気急上昇中。出力、スピーカーの口径など各種用意されておりますが、ここでは最大350W出力、8インチ2発の小規模PAシステムともいうべき同社のフラッグシップOneforstrings ADをどうぞ。ただ、まあ 'エレアコ' 用アンプってクリーンかつワイドレンジなのはいいのですが、ギターアンプに比べると音圧がないんですよねえ。







Bose L1 Compact Portable PA Loudspeaker ①
Bose L1 Compact Portable PA Loudspeaker ②
Rumberger Sound Products K1X ①
Rumberger Sound Products K1X ②
Rumberger Sound Products

この何とも独特な形状のポータブルPAシステムは、Boseによる 'Satial Disperson' スピーカーテクノロジーにより縦型で6つの小型ドライバーと1つのベースエンクロージャーからほぼ180度の水平エリアをカバーして正面から真横に至るまで均一なサウンドを提供する新しいもの。動画はバス・クラリネットとコンデンサー型のマウスピース・ピックアップによるものですが、ナチュラルな音色からエフェクティヴなアプローチまでかなり自然な音場を生成しておりますね。そのマウスピース・ピックアップはドイツのRumberger Sound Productsの新製品、WP-1X。




Ashly LX-308B Stereo Mixer
Roland FM-186 16ch/6 Bus/Mic/Line Mixer ①
Roland FM-186 16ch/6 Bus/Mic/Line Mixer ②
Allen & Heath ZEDi10
Allen & Heath ZEDi10FX

そのままアンプのライン入力に突っ込んでも良いですが、ここはライン・ミキサーを間に挟んで 'バスアウト' へインサートするかたちで利用するエフェクツ術を活用してみましょうか。わたしの手元にAshlyのLX-308Bという1Uサイズのラック型ラインミキサーがあります。本機はステレオ8チャンネル(LRペア)のライン入力(その内2チャンネルはフォンによるマイク入力兼用)を備えたシンプルかつ高品質な仕様で、特に省スペースで各種信号をまとめたいユーザーには以前から重宝されていたんですよね。ということでこのLX-308Bを用いて 'ピックアップマイク→プリアンプ→LX-308B' と繋ぎ、さらにコンパクト・エフェクターとの 'インピーダンス・マッチング' を取ったセッティングを試してみたいと思います。ちなみに同種のラインミキサーとしてはRolandからLine/Micの16チャンネル、6つのバスを用意したFM-186がございます。こちらはXLRとフォン兼用のコンボ端子に6BusのIn/Outという仕様が本格派で便利ですね。さて、LX-308Bのメイン出力はステレオ出力とモノ出力のほか、補助的な 'Sub Out/In' が別個に設けられております。ミキサーとはどんなに高品質なものであれレベルツマミ、フェーダーなどひとつでも通過すればその音質は '変化/劣化' してしまうのですがこのSub Out、いわゆる 'バスアウト' としてメイン出力のヴォリューム調整に反映されない 'Pre Master' として出力出来るのです。つまりチャンネル1に入力した信号(Muteしておく)をそのまま一旦外部に取り出せるのですヨ。ここではチャンネル1でレベル調整したものをSub OutのLRから出力、各種エフェクターへと繋いでそのままSub InのLRへ入力、最終的なマスターヴォリュームでコントロールして下さい(モノなのでL入出力で繋ぎます)。もちろん、このようなラック型だけではなく、卓上据え置き型のマイク/ラインミキサー(YamahaやAllen & Heathなど)を用いればより多機能な仕様(XLR/フォンの 'Mic/Line' 入力や3バンドEQなど)でのアプローチが可能です。










Radial Engineering EXTC-SA
Conisis E-sir CE-1000 ① 
Conisis E-sir CE-1000 ②
Conisis E-sir CE-1000 ③
Eva Denshi Insert Box IS-1
Empire Custom Amplification +4dB → -20dB Convert Loop Box

この手の '便利小物' ならPA関連の機器でお任せの老舗、Radial Engineeringから '逆DI' ともいうべきReamp BoxのEXTC-SAをLX-308BのSub OutとSub Inの間に 'インサート' してみます。最初の動画は 'ユーロラック500' シリーズのモジュール版ではありますが、本機は独立した2系統による 'Send Return' を備えてXLRとフォンのバランス/アンバランス入出力で多様に 'インピーダンス・マッチング' を揃えていきます。ちなみに同種の製品としてはConisisことコニシス研究所からE-Sir CE-1000というのが受注製作品としてあり、わたしも過去DAWによる 'ダブ製作' の折に大量のコンパクト・エフェクターを 'インサート' してお世話になりました。そして、大阪でこの手の周辺用途に関する '便利機器' を製作するEva電子さんからも同種のInsert Box IS-1が出ておりました。その他、例えばギターアンプのプリアンプ出力とパワーアンプ入力の間に設けられる 'Send Return' でコンパクト・エフェクターを用いる為のこんなガレージな製品も利用出来ますヨ。アンプの修理工房が受注で製作するその名もズバリ '+4dB → -20dB Convert' な変換器というもので、各入出力の 'オーバーロード' を監視出来る便利なLEDを備えて2つのツマミでレベル調整して使用します。とりあえず、少々煩雑ではありますがこのような機器を用いれば各種レベルを混ぜても問題なく繋ぐことが出来るのです。






こちらはクラリネットでピエゾ型マウスピース・ピックアップのPiezoBarrelによるデモ動画。後ろに控えるのはMarshallのスタックアンプやOrange、Fenderのアンプなどをズラッと並べながらここまでクリーンによる音色だとあんまりアンプが何であるかは関係ないっすね(笑)。ちなみにリンク先の方ではPiezoBarreiを用いてKorg X-911をサックスで吹いているRian Zoidisさんは、最大400W出力のAccugroove Tri-112Lで鳴らしておりまする。どうやらKorg製品大好きなようで(笑)、X-911のほかレアなLFOのCVペダルMS-04やSDD-3000 Pedalなども愛用中。しかし、何故か動画の方ではShadowの貼り付け式ピエゾ・ピックアップSH4001をマウスピースに装着して 'アンプリファイ' しておりますね。








Ace Tone Solid Ace SA-9
Ace Tone EC-1 Echo Chamber

さて、Rolandといえばその前身に当たるのがこのAce Toneことエース電子工業株式会社。H&A Selmer Inc. VaritoneやC.G. Conn Multi-Viderに触発されて梯郁太郎氏が手がけた管楽器用 'アタッチメント'、Multi-Vox EX-100。サックスではコントローラーをVaritone同様にキー・ボタンの側、ラッパでは奏者の腰に装着して用いるもので、日野皓正さんなどは同社のギターアンプSolid Ace SA-10にテープ・エコーEC-1 Echo Chamberの組み合わせをアルバム 'Hi-Nology' 見開きジャケットで拝むことが出来まする。


当時、このようなスタックアンプといえばTeiscoやElkと並び総合的にPAを手がけていたAce Toneの土壇場だったのですが、海外製のFenderやMarshallのギターアンプに比べると圧倒的に歪まなかった・・。しかし、それがこのような管楽器用アンプとしては十分に威力を発揮したのだと思います。この国産初の製品を手がけた梯氏のお話は当時、'スイングジャーナル' 誌で行われた座談会でも披瀝されておりました。開発者の思いと一方で、奏者から 'アンプリファイ' することによる過剰なレスポンスへの戸惑いが意見交換されていてなかなかに刺激的です。すでにこの時点で管楽器を電化することがアコースティックとは別のアプローチ、奏法、ダイナミズムなど多くの '宿題' として提出されておりまする。

- 児山
まず日本で最初にこの種の製品を開発市販された梯さんに電化楽器というものの輪郭的なものをお話願いたいと思うんですが。

- 梯
電気的に増幅をして管楽器の音をとらえようというのは、もう相当以前からあったんですが、実際にセルマーとかコーンとかいった管楽器の専門メーカーが商品として試作したのは3年ぐらい前です。それが2年ぐらい前から市販されるようになったわけです。

- 児山
これは結局いままでのエレクトリック・ギターなどとは別であると考えていいわけですか。

- 梯
ええ、全然別なんです。これらの電化管楽器が、ギターなどと一番違うところは、コードのない単音楽器だけができる電気的な冒険というのが一番やりやすいわけです。といいますのは、コードになった時点からの増幅段というのは絶対に忠実でなければならない。ところが単音というのはどんな細工もできるわけです。この単音のままですと、これはまだ電子音なんです。そこに人間のフィーリングが入って初めて楽音になりますが、そういった電気的な波形の冒険というのが、単音楽器の場合いろいろなことができるわけです。その一例として、オクターブ上げたり下げたりということが装置を使うと簡単に実現することができるんです。コードの場合はその一音づつをバラバラにしてオクターブ上げたり下げたりしてまた合接する・・これはちょっと不可能なわけですね。

- 児山
これら電化楽器のメリットというか特性的なことをいまお話し願いましたが、そこでいかにして電気的な音を出しているのかという原理をサックスに例をとってわかりやすくお願いしたいんですが。

- 梯
現在市販されているものを見ますと、まずマイクロフォンを、ネックかマウスピースか朝顔などにとりつける。そのマイクもみんなエア・カップリング・マイク(普通のマイク)とコンタクト・マイク(ギターなどについているマイク)との中間をいくようなそういったマイクです。ですからナマのサックスの音がそのまま拾われてるんじゃなくて、要するに忠実度の高いマイクでスタジオでとらえた音とはまったく違うものなんですよ。むしろ音階をとらえてるような種類のマイクなんです。音色は、そのつかまえた電気のスペースを周波数としてとらえるわけです。それを今度はきれいに波を整えてしまうわけです。サックスの音というのは非常に倍音が多いものですから基本波だけを取り出す回路に入れて今度はそれを1/2とか1/4とか、これは卓上の計算機のほんの一部分に使われている回路ですけど、こういったものを使ってオクターブ違う音をつくったりするわけですよ。これらにも2つのモデルがあって、管楽器にアタッチメントされている物ですと、むしろ奏者が直ちに操作できることを主眼に置いて、コントロール部分を少なくして即時性を求めてるものと、それから複雑な種々の操作ができるということに目標を置いた、据え置き型(ギブソンのサウンド・システム)といったものがあるわけです。

- 児山
これで大体原理的なことはわかりますが。

- 菅野
わかりますね。

- 松本
ところが、これから先がたいへんなんだ(笑)。

- 児山
じゃ、そのたいへんなところを聞かせてください。それに現在松本さんはどんな製品を・・。

- 松本
現在セルマーのヴァリトーンです。しかし、これどうも気に入らないので半年かかっていろいろ改造してみたんだけど、まだまだ・・。サックスは、サックスならではの音色があるんですよ。それがネックの中を通して出る音はまず音色が変わるんですね。それから、音が出てなくてもリードなどが振動していたり、息の音などが拾われて、オクターブ下がバァーッと出るんですよ。

- 梯
それはコンタクト・マイクの特性が出てくるわけなんです。

- 菅野
わずかでもエネルギーがあればこれは音になるわけですね。

- 梯
ですから、マウス・ピースに近いところにマイクをつけるほど、いま松本さんのいわれたような現象が起るわけなんです。かといって朝顔につけるとハウリングの問題などがあるわけなんです。

- 松本
ちっちゃく吹いても、大きなボリュームの音が出るというのは、サックスが持つ表情とか感情というものを何か変えてしまうような気がするねェ。一本調子というのかなあ。それに電気サックスを吹いていると少し吹いても大きな音になるから、変なクセがつくんじゃないかなんて・・。初めオクターブ下を使ってたとき、これはゴキゲンだと思ったけど、何回かやってると飽きちゃうんだね。しかし、やっぱりロックなんかやるとすごいですよ。だれにも音はまけないし、すごい鋭い音がするしね。ただ、ちょっと自分自身が気に入らないだけで、自分のために吹いているとイージーになって力いっぱい吹かないから、なまってしまうような・・。口先だけで吹くようになるからね。

- 児山
それもいいんじゃないですか。

- 松本
いいと思う人もありますね。ただぼくがそう思うだけでね。電気としてはとにかくゴキゲンですよ。

- 児山
いま松本さんが力強く吹かなくても、それが十分なボリュームで強くでるということなんですが、現在エレクトリック・サックスの第一人者といわれるエディ・ハリスに会っていろんな話を聞いたときに、エレクトリック・サックスを吹くときにはいままでのサックスを吹くときとはまったく別のテクニックが必要であるといってました。

- 松本
そうなんですよ。だからそのクセがついてナマのときに今度は困っちゃうわけ。

- 児山
だから、ナマの楽器を吹いているつもりでやると、もうメチャクチャになって特性をこわしてしまうというわけです。結局エレクトリック・サックスにはそれなりの特性があるわけで、ナマと同じことをやるならば必要ないわけですよ。その別のものができるというメリット、そのメリットに対して、まあ新しいものだけにいろんな批判が出てると思うんですよね。いま松本さんが指摘されたように音楽の表情というものが非常に無味乾燥な状態で1本やりになるということですね。

- 松本
ただこの電気サックスだけを吹いていれば、またそれなりの味が出てくるんだろうと思うんですが、長い間ナマのサックスの音を出していたんですからね・・。これに慣れないとね。

- 児山
やっぱりそういったことがメーカーの方にとっても考えていかなきゃならないことなんですかね。

- 梯
ええ。やはり電子楽器というのは、人間のフィーリングの導入できるパートが少ないということがプレイヤーの方から一番いやがられていたわけです。それがひとつずつ改良されて、いま電子楽器が一般に受け入れられるようになった。しかし、このエレクトリック・サックスというのはまだ新しいだけに、そういう感情移入の場所が少ないんですよ。

- 松本
ぼくが思うのは、リードで音を出さないようなサックスにした方がおもしろいと思うな。だって、実際に吹いている音が出てくるから、不自然になるわけですよ。

- 梯
いま松本さんがいわれたようなものも出てきてるわけなんですよ。これは2年前にフランクフルトで初めて出品された電気ピアニカなんですが・・。

- 松本
吹かなくてもいいわけ・・。

- 梯
いや吹くんです。吹くのはフィーリングをつけるためなんです。これは後でわかったのですが、その吹く先に風船がついていて、その吹き方の強弱による風船のふくらみを弁によってボリュームの大小におきかえるという方法なんです。ですから人間のフィーリングどうりにボリュームがコントロールされる。そして鍵盤の方はリードではなく電気の接点なんです。ですからいままでのテクニックが使えて、中身はまったく別のものというものも徐々にできつつあるわけなんです。

- 松本
電気サックスの場合、増幅器の特性をなるべく生かした方が・・いいみたいね。サックスの音はサックスの音として、それだけが増幅されるという・・。

- 菅野
いまのお話から、われわれ録音の方の話に結びつけますと、電子楽器というものは、われわれの録音再生というものと縁があって近いようで、その実、方向はまったく逆なんですよね。電子楽器というのは新しい考え方で、新しい音をクリエートするという方向ですが、録音再生というのは非常に保守的な世界でして、ナマの音をエレクトロニクスや機器の力を使って忠実に出そうという・・。というわけで、われわれの立場からは、ナマの自然な楽器の音を電気くさくなく、電気の力を借りて・・という姿勢(笑)。それといまのお話で非常におもしろく思ったのは、われわれがミキシング・テクニックというものを使っていろいろな音を作るわけですが、電子楽器を録音するというのは、それなりのテクニックがありますが、どちらかというと非常に楽なんです。電子楽器がスタジオなりホールなりでスピーカーからミュージシャンが音を出してくれた場合には、われわれはそれにエフェクトを加える必要は全然ない。ですからある意味ではわれわれのやっていた仕事をミュージシャンがもっていって、プレーをしながらミキシングもやるといった形になりますね。そういうことからもわれわれがナマの音をねらっていた立場からすれば非常に残念なことである・・と思えるんですよ。話は変わりますが、この電化楽器というのは特殊なテクニックは必要としても、いままでの楽器と違うんだと、単にアンプリファイするものじゃないんだということをもっと徹底させる必要があるんじゃないですか。

- 梯
現在うちの製品はマルチボックスというものなんですが、正直な話、採算は全然合ってないんです。しかし、電子楽器をやっているメーカーが何社かありますが、管楽器関係のものが日本にひとつもないというのは寂しいし、ひとつの可能性を見つけていくためにやってるんです。しかし、これは採算が合うようになってからじゃ全然おそいわけですよ。それにつくり出さないことには、ミュージシャンの方からご意見も聞けないわけですね。実際、電子管楽器というのは、まだこれからなんですよ。ですからミュージシャンの方にどんどん吹いていただいて、望まれる音を教えていただきたいですね。私どもはそれを回路に翻訳することはできますので。

- 菅野
松本さん、サックスのナマの音とまったく違った次元の音が出るということがさきほどのお話にありましたね。それが電子楽器のひとつのポイントでもあると思うんですがそういう音に対して、ミュージシャンとしてまた音楽の素材として、どうですか・・。

- 松本
いいですよ。ナマのサックスとは全然違う音ならね。たとえば、サックスの「ド」の音を吹くとオルガンの「ド」がバッと出てくれるんならばね。

- 菅野
そういう可能性というか、いまの電気サックスはまったく新しい音を出すところまでいってませんか。

- 梯
それはいってるんですよ。こちらからの演奏者に対しての説明不十分なんです。要するに、できました渡しました・・そこで切れてしまってるわけなんです。

- 菅野
ただ、私はこの前スイングジャーナルで、いろんな電化楽器の演奏されているレコードを聴いたんですが、あんまり変わらないのが多いんですね。

- 児山
どういったものを聴かれたんですか?

- 菅野
エディ・ハリスとか、ナット・アダレーのコルネット、スティーブ・マーカス・・エディ・ハリスのサックスは、やっぱりサックスの音でしたよ。

- 梯
あのレコードを何も説明つけずに聴かせたら、電子管楽器ということはわからないです。

- 児山
そうかもしれませんが、さきほど菅野さんがおっしゃったようにいまそういったメーカーの製品のうたい文句に、このアタッチメントをつけることによってミュージシャンは、いままでレコーディング・スタジオで複雑なテクニックを使わなければ創造できなかったようなことをあなた自身ができる、というのがあるんです。

- 菅野
やはりねェ。レコーデットされたような音をプレイできると・・。

- 梯
これはコマーシャルですからそういうぐあいに書いてあると思うんですが、水準以上のミュージシャンは、そういう使い方はされていないですね。だからエディ・ハリスのレコードは、電気サックスのよさを聴いてくださいといって、デモンストレーション用に使用しても全然効果ないわけです。

- 菅野
児山さんにお聞きしたいんですが、エディ・ハリスのプレイは聴く立場から見て、音色の問題ではなく、表現の全体的な問題として電子の力を借りることによって新しい表現というものになっているかどうかということなんですが・・。

- 児山
そもそもこの電気サックスというのは、フランスのセルマーの技師が、3本のサックスを吹く驚異的なローランド・カークの演奏を見てこれをだれにもできるようにはならないものかと考えたことが、サックスのアタッチメントを開発する動機となったといわれてるんですが、これもひとつのメリットですよね。それに実際にエディ・ハリスの演奏を聴いてみると、表情はありますよ。表情のない無味乾燥なものであれば絶対に受けるはずがないですよ。とにかくエディ・ハリスは電気サックスを吹くことによってスターになったんですからね。それにトランペットのドン・エリスの場合なんか、エコーをかけたりさらにそれをダブらせたりして、一口でいうならばなにか宇宙的なニュアンスの従来のトランペットのイメージではない音が彼の楽器プラス装置からでてくるわけなんです。それに音という意味でいうならば、突然ガリガリというようなノイズが入ってきたり、ソロの終わりにピーッと鋭い音を入れてみたり、さらにさきほど松本さんがいわれたように吹かなくても音がでるということから、キーをカチカチならしてパーカッション的なものをやったりで・・。

- 松本
私もやってみましたよ。サックスをたたくとカーンという音が出る。これにエコーでもかけると、もうそれこそものすごいですよ(笑)。

- 児山
エディ・ハリスの演奏の一例ですが、初め1人ででてきてボサ・ノバのリズムをキーによってたたきだし、今度はメロディを吹きはじめるわけなんです。さらに途中からリズム・セクションが入るとフットペダルですぐにナマに切り換えてソフトな演奏をするというぐあいなんですよ。またコルトレーンのような演奏はナマで吹くし、メロディなんかではかなり力強くオクターブでバーッと・・。つまり、彼は電気サックスの持つメリットというものを非常に深く研究してました。

- 菅野
それが電化楽器としてのひとつのまっとうな方法なんじゃないですか。でも、あのレコードはあんまりそういうこと入ってなかったですよね。

- 児山
つまり、エディ・ハリスのレコードは完全にヒットをねらったものでして、実際のステージとは全然別なんです。また彼の話によると、コルトレーンのようなハード・ブローイングを延々20分も吹くと心臓がイカレちゃうというわけです(笑)。そしてなぜ電気サックスを使いだしたかというと、現在あまりにも個性的なプレイヤーが多すぎるために、何か自分独自のものをつくっていくには、演奏なり音なりを研究し工夫しなければならない。たとえば、オーボエのマウス・ピースをサックスにつけたりとかいろんなことをやっていたが、今度開発された電気サックスは、そのようないろいろなことができるので、いままでやってたことを全部やめてこれに飛び込んだというんですよ。

- 菅野
非常によくわかりますね。




-ハウリングもノイズも自由自在-

- 児山
ラディックというドラム・メーカーが今度電化ヴァイブを開発して、ゲーリー・バートンが使うといってましたが、彼の場合は純粋に音楽的に、そのヴァイブがないと自分のやりたいことができないというわけですよ。なぜかというと、自分のグループのギター奏者が、いままでのギター演奏とは別なフィードバックなどをやると、ほかの楽器奏者もいままで使ってなかったようなことをやりだした。そういう時にヴァイブのみがいままでと同じような状態でやっているというのは音楽的にもアンバランスであるし、グループがエレクトリック・サウンズに向かったときには自分もそうもっていきたいというわけなんですよ。もしそれをヴァイブでやることができれば、どういう方向にもっていけるかという可能性も非常に広いものになるわけですよね。

- 梯
それから、いままでの電子楽器というのは、とにかくきれいな音をつくるということだけから音が選ばれた。ところが音の種類には不協和音もあればノイズもある。そのことをもう一度考えてみると、その中に音の素材になりうるものがたくさんあるわけです。たとえばハウリングですが、以前にバンクーバーのゴーゴー・クラブへいったとき、そこでやってたのがフィードバックなんです。スピーカーのまん前にマイクをもってきてそいつを近づけたり離したりして、そこにフィルターを入れてコントロールして、パイプ・オルガンの鍵盤でずっとハーモニーを押さえ続けてるようなものすごく迫力のある音を出すんです。そんなものを見て、これはどうも電子楽器の常識というものをほんとうに捨てないと新しい音がつくれないと思いましたね。

- 児山
そうですね。ですから、いまこういう電子楽器、あるいは楽器とは別なエレクトリックな装置だけを使って、ジャズだといって演奏しているグループもあるわけです。まあそれにはドラムやいろいろなものも使ったりするわけですが、いわゆる発振器をもとに非常に電気的な演奏をしているわけなんですよ。

- 松本
ただ音は結局電子によってでるんだけど、オルガン弾いてもサックス吹いても同じ音が出るかもしれない。弾いてる人の表情は違うけれども、そういうのがあったらおもしろいと思いますね。

- 菅野
それにもうひとつの問題は、発振器をもとにしたプレーは、接点をうごかしていくといった電子楽器と根本的に違うわけだ。電気サックスなどは、松本さんがいわれているようにナマの音が一緒に出てくるという。そこが問題ですね。だからナマの音も積極的に利用して、ナマの音とつくった音を融合して音楽をつくっていくか、それともナマの音はできるだけ消しちゃって電子の音だけでいくか・・。

- 児山
それはミュージシャン自身の問題になってくるんじゃないかな。たとえばリー・コニッツなどのようにだれが聴いてもわかる音色を持っている人は変えないですね。自分の音を忠実に保ちながらオクターブでやるとか・・。

- 梯
しかしその場合、音色は保ち得ないんです。つまりその人その人のフィーリング以外は保ち得ないんですよ。

- 児山
なるほど、そうすると音楽的な内容がその個性どうりにでてくるということなんですね。

- 菅野
一般に音というものはそういうものの総合なんで、物理的な要素だけを取り上げるのは困難なわけです。そういったすべてのものがコンバインされたものをわれわれは聴いているわけですから、その中からフィーリングだけを使っても、リー・コニッツ独特なものが出てくれば、これはやはりリー・コニッツを聴いてるわけですよ。

- 松本
それならいいけどサックスというのはいい音がするわけですよ。それをなまはんかな拡声装置だといけない。それだとよけいイヤになるんですよ。


-ついに出現した電気ドラム-

- 児山
ニューポートに出演したホレス・シルヴァー・クインテットのドラマー、ビリー・コブハムがハリウッド社のトロニック・ドラムという電気ドラムを使用していましたが、あれはなんですか。

- 梯
うちでも実験をやっています。ロックなどの場合、エレキのアンプが1人に対して200W、リードが200Wならベースは400Wくらい。そうなってくるといままで一番ボリュームがあったドラムが小さくなってきたわけですよ。最初はドラムの音量をあげるだけだったのですが、やってみるとマイクのとりつけ方によって全然ちがった効果が出てきたわけですよ。

- 菅野
それは具体的に各ドラム・セットの各ユニットに取り付けるわけですか。

- 梯
最初は単純に胴の中にマイクを取り付けただけでしたが、いまはコンタクト・マイクとエア・カップリング・マイクの共用でやっていますね。

- 菅野
シンバルなんかは・・。

- 梯
バスドラム、スネア、タム・タムにはついていますが、シンバルはちょっとむずかしいのです・・。でもつけてる人もいるようですね。

- 菅野
ではいまの形としては、新しい音色をつくろうとしているわけですね。

- 梯
そうですね。現在ははっきりと音色変化につかってますね。

- 松本
でもやはりこの電気ドラムとてナマの音が混じって出るわけですよね。ナマの音がでないようにするにはできないのですか。

- 梯
それはできるんですよ。市販はしてないんですが、ドラムの練習台のようなものの下にマイクをセッティングするわけなんですよ。いままでのドラム以外の音も十分でますがシンバルだけはどうもね。らしき音はでるんですが。

- 松本
いままでの何か既成があるからでしょう。

- 梯
そうですね。だからシンバルはこういう音なんだと居直ってしまえばいいわけ・・。それぐらいの心臓がなきゃね(笑)。

- 菅野
本物そっくりのにせものをつくるというのはあまりいいことではない。あまり前向きではないですよ。よくできて本物とおなじ、それなら本物でよりいいものを・・。

- 松本
だから電気サックスでも、ナマの音をだそうとしたんじゃだめですね。これじゃ電気サックスにならない。

- 梯
松本さんにそういわれるとぐっとやりやすくなりますよ(笑)。

- 児山
電気サックスというのはだいたいいくらぐらいなんですか?

- 松本
ぼくのは定価85万円なんですよ。でもね高いというのは輸入したということからですからね。そのことから考えると・・。

- 梯
松本さんの電気サックスはニューオータニで初めて聴いたんです。これは迫力がありましたね。

- 松本
すごい迫力です。でも、それに自分がふりまわされるのがいやだから・・。

- 梯
こちらから見たり聴いたりしていると松本さんが振り回しているように見えるから、それは心配いらないですよ(笑)。

- 松本
それに運ぶのがどうもねェ。いままではサックスひとつ持ってまわればよかった。ギターなんかじゃ最初からアンプを持って歩かなければ商売にならないとあきらめがあるんですが、ぼくはなにもこれがなくたってと考えるから・・。そういうつまらないことのほうが自分に影響力が大きい・・(笑)。

- 児山
やはりコンサートなどで、おおいにやっていただかないと、こういった楽器への認識とか普及とかいった方向に発展していかないと思いますので、そういう意味からも責任重大だと思います。ひとつよろしくお願いします。それに、いまアメリカあたりでは電子楽器が非常に普及してきているわけなんですよ。映画の音楽なんかも、エレクトリック・サウンズ、エレクトリック・インスツルメントで演奏するための作曲法なんていうのはどうなるんですかねェ・・。

- 松本
これがまたたいへんな問題ですが、非常にむずかしいですね。

- 児山
それがいまの作曲家にとって一番頭のいたいことになってるんですね。

- 菅野
あらゆる可能性のあるマルチプルな音を出しうる電化楽器が普及すれば、新しい記号をつくるだけでもたいへんですね。

- 松本
そのエレクトリック・インスツルメントのメーカーだって指定しなければならないし・・。作曲家もその楽器も全部こなさなきゃならないですからね。

- 児山
そのように色々な問題もまだあるわけなんですが、現実にはあらゆる分野の音楽に、そしてもちろんジャズの世界にも着々と普及してきつつあるわけなんです。この意味からも電化楽器の肯定否定といった狭い視野ではなく、もっと広い観点から見守っていきたいですね。









C.G. Conn Multi-Vider
C.G. Conn Model 914 Multi-Vider

他にヴィンテージのアンプだとC.G. Connの 'アンプリファイ' システムであるMulti-Viderの付属として用意された500 Amplifierも所有しております。Jordan Electronics製作による最大定格出力500Wというところから名付けられた75W12インチ一発のこのアンプは、3つの入力(1つはMulti-vider専用)とTrebele、Bassの2バンドEQ、トレモロ、スプリング・リヴァーブをそれぞれ備えたシンプルなもの。1台のアンプで複数の入力を備えているのは、まだバランスよく聴かせる為のPAという音場以前でひとつのアンプから 'すべて鳴らす' という発想だったのだ(笑)。そして、この時代の管楽器専用アンプはいまの 'エレアコ/PA' 用アンプとは全く違う設計思想を持っており、基本的に管楽器に装着したピックアップからオクターバーを介してそのままアンプを鳴らします。これとベルからの生音をラインでPAに出力したものを各々ステージ上で 'ミックス' させていた為か、とにかくアンプからの出音がバカでかい!確かにこれならエレクトリック・ギターの音圧にも負けないのですが、これでは自宅で使いにくいので上述したNeotenicSoundのBoard Masterという 'インピーダンス整合' を取るアッテネータを繋いでおりまする。てかSelmer Varitoneもそうですが、このぶっとい地を這うようなオクターヴ音を聴いていると今のピッチ・シフターとかオモチャみたいに軽いなあ。






ちなみにピックアップに関してC.G. Connは自社製品のほか、Robert Brilhartさんという方が手がけるデンマーク製マウスピース・ピックアップ、'R-B Electronic Pick-Up' なども純正品として推奨していたようです。こちらはピックアップとアンプの間にパッシヴのヴォリューム・コントロールを用意して、奏者の腰に装着するかたちとなりますね。この 'R-B Electronic Pick-Up' は当時、サックスやトランペットはもちろん、フルートへの使用などかなり普及しておりました。










Vox / King Ampliphonic Nova Amplifier ①
Vox / King Ampliphonic Nova Amplifier ②
Vox / King Ampliphonic Pick-Up
Vox / King Ampliphonic

ちなみにC.G. Connと同じく管楽器用サウンド・システムを展開するVox Ampliphonicから登場した25WのアンプNovaには、'Bright/Dark' のToneスイッチとは別に 'Woodwind〜Brass〜Special' と可変させるVoiceというツマミが気になります。Voxのギターアンプに装備されていた 'Tone X' なる 'パライコ' を元にしたというこのツマミの '質感生成'・・どんな感じなんだろ?さらにトロンボーンのアービー・グリーンによるファンキーな 'Green Power' では、裏ジャケットでマウスピースに 'Ampliphonic' 装着!。









H&A.Selmer Inc. Varitone ①
H&A.Selmer Inc. Varitone ②

そしてこちらH&A.Selmer Inc.が手がけた元祖 'アンプリファイ' サウンド・システム、Varitone。Selmerブランドのほか、管楽器への市場拡大を狙ってなのかBuesherブランドでも販売されておりましたが、製作自体は現在でもPAの分野で大手のElectro Voiceが担当したようです。振動を感知して電気信号に変換するピエゾ・トランスデューサー方式のピックアップは、音源に対して理想的な取り付け位置を見つけるのが難しく、マウスピース部分はもちろん、金管楽器のリードパイプやベルの真横などいろいろ試しながら完成に漕ぎ着けたとのこと。ちなみにVaritoneは通常の '3300 Auditorium Model' のほか、上の動画にある '3100 Club Model' の2種がラインナップされておりました。この 'Club Model' はライヴなどの汎用性を高めた '若干' 小ぶりな仕様であり、一般的な 'Auditorium Model' のアンプ正面に備えられていたTremoloの 'Speed' と 'Depth' コントロールは内部に移されております。














最後はその 'マッド・サイエンティスト' ぶりで唯一無二、これからの再評価が待たれるギル・メレをご紹介致しましょう。彼のキャリアは1950年代にBlue Noteで 'ウェストコースト' 風バップをやりながら画家や彫刻家としても活動し、1960年代から現代音楽などの影響を受けて自作のエレクトロニクスを製作、ジャズという枠を超えて多彩な実験に勤しみました。そんなマッドな '発明家' としての姿を示す画像は上から順に 'Elektor' (1960)、'White-Noise Generator' (1964)、'Tome Ⅳ' (1965)、'The Doomsday Machine' (1965)、'Direktor with Bubble Oscillator' (1966)、'Wireless Synth with Plug-In Module' (1968)といった数々の自作楽器であり、特に1967年にVerveからのリーダー作 'Tome Ⅳ' は、まるでEWIのルーツともいうべきソプラノ・サックス状の自作楽器(世界初!の電子サックス)を開陳したものです。ま、一聴した限りではフツーのサックスと大差ないのですが、彼がコツコツとひとり探求してきたエレクトロニクスの可能性が正式に評価されなかったのは皮肉ですね。そんなメレ独自のアプローチは1971年のSF映画 'The Andromeda Strain' のOSTに到達、難解な初期シンセサイザーにおける金字塔を打ち立てます。ちなみにこの映画は、まさに今の新型コロナウィルスを暗示したような未知のウィルス感染に立ち向かう科学者たちのSF作品でして、その '万博的' レトロ・フューチャーな未来観と70年代的終末思想を煽るギル・メレの電子音楽がピッタリでした。

- 2020年5月7日追記 -



'Birth of Techno' - クラフトワークでラルフ・ヒュッターとの '共同創設者' であるフローリアン・シュナイダーが逝った。20世紀の音楽革命における偉大なるひとりでした・・R.I.P.。