2020年6月5日金曜日

初夏のニッチな '質感' 対決

いろいろとペダルを漁っていくとどこか似たような共通点、一方で '似て非なるもの' な存在に囲まれていることに気付きます。アレ?これとソレ似てない?ん?確かに同じカタチしてるのにブランドもサウンドもビミョーに違う・・日本が下請けを担っていた一昔前の 'OEM' 製品などでは当たり前に良くある例です。また、VCFにVCA、エンヴェロープと呼ばれる機能でもそれぞれの工房においてあらゆる発想、コンセプトに基づいて回路に落とし込まれることで既存のカテゴリーは無効化されていきます。そして '往年の名機' がヒットするとそれに付随したクローン、その発展系で一挙に市場が賑わうのもこの世界ではすっかりお馴染みの風景となりました。さらにここ近年は、大手から個人工房の枠を超えて、各々の工房間で得意とする技術を組み合わせた 'コラボ' 製品が増えてきております。Chase Bliss Audio × Cooper FxやBoss × JHS Pedalsなどなど、これは新たな傾向と言っていいでしょうね。








そもそも斜陽化する音楽産業の影で、こんな '電気仕掛けの小箱' の市場がこれほどまでに活況を呈すること自体が驚きです。つまり 'コンパクト・エフェクター' という物理的なサイズの '箱庭' があって、その制限された環境の中で大手から個人によるガレージ工房、ソフト・プログラミングから参入してくるベンチャー系、そして、昨日初めて半田ごてを持ち回路図と睨めっこしながら製作、ヤフオクやネット上の取り引きで話題となる自作マニアに至るまで、少々飽和している感は否めないものの幅広い層に支えられている面白い '業界' でもあるんですよね。ということでラッパにPiezoBarrelピックアップを装着、ここからは個人的に '質感' をテーマにしたニッチなペダル対決、スタートです。しかしEQD主宰のJamieさん、壊れてんの多過ぎ(笑)。





BJF Electronics Pale Green Compressor (3 Knobs)
BJF Electronics Pine Green Compressor (3 Knobs)
BJF Electronics Pine Green Compressor (4 Knobs)

スウェーデンでBJF Electronicsを主宰するBjorn Juhlの名を知らしめた製品のひとつPale Green Compressorをご紹介。ザ・ビートルズが当時のアビーロード・スタジオで用いたコンプレッサー、RS-124(Altec436BのEMIモディファイ)が本機製作のきっかけだそうで、最近のナチュラルなコンプレスの潮流に倣ったトーンから真ん中のツマミ 'Body' を回すことで空間的な広がりを演出することが可能。このBJFEの音は世界に認められてフィンランドのブランド、Mad ProfessorからForest Green Compressor、さらに米国のブランドBear FootからPale Green Compressorとしてそれぞれライセンス生産による 'Re-Product' モデルが登場しております。本家BJFEとしては2002年に登場以降、淡いグリーンのニトロセルロースラッカーから深いグリーンへの変更と共にPine Green Compressorへ変わります。ここでフォトセルと 'Body' を司る単軸二連ポットが変更されて3ノブ、4ノブ、5ノブの仕様と共に現在に至ります。わたしが所有するのは2020年にPedal Shop Cultが特別にオーダーした初期Pale Green Compressorの '2020復刻ヴァージョン' です。ちなみに本機の動作を司るオプティカル式のコンプは以前、Joemeekのハーフラック型プリアンプThreeQ内蔵のもので体感しているのですが、あのいかにもオプトならではのヌメッとしたかかり具合がイマイチ苦手でした。しかし・・なるほど、これがBJFEかってくらいOnにするとム〜ンとした密度の '艶' がある!。これは気に入りました。







Moody Sounds Carlin Compressor Clone
Carlin Electronics Compressor
Carlin Electronics Phase Pedal
Moody Sounds / Carlin Pedals
Carlin Electronics Kompressor & Phase Pedal Original
Interview with Nils Olof Carlin

一方、エフェクティヴに 'パッコン' とした効果で有名なMXR Dyna Compの影響は、1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinの手により生み出されたこのコンプレッサーに結実します。本機の特徴はコンプと銘打たれていながら 'Dist.' のツマミを備えることでファズっぽく歪んでしまうこと。あの 'エレハモ' のBig Muffもサスティンの効いたファズのニーズがあるというところから始まったようで、エフェクター黎明期においては 'ファズ・サスティナー'、クリーンにコンプ的動作をするものを単に 'サスティナー' として使い分ける傾向があったそうです。当時、本機はスウェーデンの音楽シーンにおいて人気を博していたらしく、それを同地の工房Moody SoundsがCarlin本人を監修に迎えて復刻したもの。1960年代後半から70年代初めにかけてそのキャリアをスタートさせたNils Olof Carlinは、電球を用いたモジュレーションの独自設計によるPhase Pedalのほか、持ち込まれた既成の製品(多分MXR Dyna Comp)をベースにしたCompressor、わずか3台のみ製作されたRing Modulatorを以ってスウェーデン初の 'ペダル・デザイナー' の出発点となりました。製品化はされなかった4013オクターバーなどもプロトタイプとして試しながら、当時人気を博したPhase PedalとCompressorはそれぞれ100台前後の生産数で終了したとのことです。


今でこそシンセサイザーのElektronやNordで有名なスウェーデンではありますが、こんな '辺境' というには失礼な北欧の地においても大きな影響をもたらしたコンプの世界は、そのまま同地初の 'ペダル・デザイナー' であるNils Olof Carlinや、奇才Bjorn Juhlの手がけるBJFEの名機Pale Green Compressorとしてエフェクターの世界を変えました。彼らのコダワリはMXR Dyna CompやRossによる 'Grey' コンプレッサーを出発点に、スタジオの定番Ureiのコンプをコンパクト化するナチュラルな志向含め受け継がれております。そんなダイナミズムへの偏執を受けて、いま一度この圧縮した '質感' に立ち返って見るのも面白いかもしれません。ちなみにコンプについては以下の名機2種の音も知っておいた方が良いでしょう。





Ross Audibles 'Grey' Compressor ①
Ross Audibles 'Grey' Compressor ②

ナチュラルなコンプレッションの出発点として蘇ったRossの 'Grey Box' ともいうべき伝説のRossコンプレッサー。これはRobert Keeley主宰のKeeley Electronicsが見出して以降、発展系含めて数々の 'デッドコピー' を市場に送り出してきましたが、いよいよ '本家' の名前を引っさげてオリジナルのかたちで復活です。未だオリジナルは高騰しておりますが、その '2020年版' ともいうべき復刻 'Grey' もかなりの再現度で売れ行き好調とのこと。基本的な回路構成はほぼMXRのDyna Compに近いそうですが、その真逆にナチュラルなかかり方の分、ガツッとしたコンプ特有のアタック感は求めていない感じですね。





MXR CSP028 '76 Vintage Dyna Comp
MXR CSP102SL Script Dyna Comp
MXR M102 Dyna Comp

ダイナミズムをギュッと均すコンプは、時に演奏の細かなニュアンスを潰す '悪役' として敬遠されてしまうのも事実。そんなコンプというエフェクターでしかできない圧縮を演出の '滲み' として捉えるとき真っ先に挙がるのがこの名機、MXR Dyna Compです。そんな代表的コンプならではの '質感' は現在でも多くの愛用者がおり、ギタリストである土屋昌巳氏はこう述べております。

"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"











NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force - Dynamic Processor ②
NeotenicSound Magical Force Pro - Linear Compressor (discontinued)
Terry Audio The White Rabbit Deluxe
Terry Audio The White Rabbit Deluxe on Reverb.com

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをアンプやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで付加する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。2011年頃に 'Punch'、'Edge'、'Level' の3つのツマミで登場した本機は一度目のリファインとカラーチェンジをした後、新たに音の密度を司るこの工房お得意の 'Intensity' を追加、4つのツマミ仕様へとグレードアップしたMagical Force Proへと到達。しかし、不安定なパーツ供給の面で一度惜しむらく廃盤、その後、声援を受けて小型化と根本的なリファイン、'Intensity' から 'Density' に名称変更して4回目の変貌を遂げたのが現行機Magical Forceとなりまする。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレはわたしの '秘密兵器' でして、Headway Music Audioの2チャンネル・プリアンプEDB-2でピックアップマイク自身の補正後、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのが面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。


そしてもう一方のTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。本機はわたしのセッティングでも愛用しているのですが、まさに効果てき面!サチュレートした 'ハイ上がり' のトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなって音抜けが良くなります。エフェクターボードの先頭と後端で威力を発揮するMagical ForceとThe White Rabbit Deluxe、これがわたしの '魔法' です。





API TranZformer GT
API TranZformer LX
JHS Pedals Colour Box
JHS Pedals Colour Box V2

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサー(6種切り替え)と2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能。しかし 'Tone' や 'Comp' とは真逆にLEDのOnで光っている状態がバイパス、Offの消灯状態でOnというのはちょっとややこしい(苦笑)。また、そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。最近、新たにファンタム電源を搭載したColour Box V2として 'ヴァージョンアップ' しました。







Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?






Spectra 1964
Spectra Sonics on Reverb.com
Spectra Sonics Model 610 Complimiter Custom
Spectra Sonics Model 610 Complimiter 'Sequential Stereo Pair'

ちなみにCarlin Compressorに見る '歪むコンプ' の系譜は、いわゆる 'ファズ+サスティン' とは別にスタジオで使用するアウトボード機器で珍重された '飛び道具コンプ'、Spectra SonicsのModel 610 Complimiter (現Spectra 1964 Model C610)がございます。1969年に発売以降、なんと現在まで同スペックのまま一貫したヴィンテージの姿で生産される本機は、-40dBm固定のスレッショルドでインプットによりかかり方を調整、その入力レベルによりコンプからリミッターへと対応してアタック、リリース・タイムがそれぞれ変化します。クリーントーンはもちろんですが、本機最大の特徴はアウトプットを回し切ることで 'サチュレーション' を超えた倍音としての '歪み' を獲得出来ること。上のドラムの動画にも顕著ですけど一時期、ブレイクビーツなどでパンパンに潰しまくったような '質感' で重宝されたことがありました。こんな個性的なコンプの味はAPIやNeveのモジュール、Urei 1176などの流れに続いてその内、Spectra 1964から 'ペダル化' することで新たなブームを期待したいですね。












Electro-Harmonix Attack Decay - Tape Reverse Simulator
Pigtronix Philosopher King (discontinued) on Reverb.com
Pigtronix Philosopher King (discontinued)
Koma Elektronik BD101 Analog Gate / Delay (discontinued)
Koma Elektronik

'質感' ということではもう一味、さらに拡張した音作りに威力を発揮するのが現在ではあまり話題に登らなくなったエンヴェロープ・モディファイア。この手の 'ニッチな' アイテムならお任せの 'エレハモ' から往年の迷機、Attack Decayが現代的にパワーアップして再登場。シンセサイザーでお馴染みのADSR(Attack、Decay、Sustain、Release)と呼ばれるエンヴェロープを操作するもので、この新作ではそれをワンショットのモノラル、ポリフォニックの2つのモードに3つまでセーブ/リコールのプリセット可能です。また効果をより鮮明にすべくファズも内蔵し、いわゆる本機の効果で最も有効性のある 'ヴォリューム・エコー' に最適な 'センド・リターン' を搭載することで、ここにディレイやモジュレーションを繋いで積極的な音作りに活用出来ます。本機のツマミはエクスプレッション・ペダルのほか、これまた最近の風潮に則ったCVにも対応することで 'モジュラーシンセ' からもコントロールすることが可能。また、こちらはすでに 'ディスコン' ですがPigtronix Philosopher Kingも多機能に楽しい一台。設計は1970年代後半に本機のルーツ的機種、Electro-Harmonix Attack Decayを手がけたハワード・デイビスで、中身はコンプレッサーのアタックとサスティン、VCAとゲートにより動作する 'シンセサイズ' のADSR機能と同一のもの。サチュレーションによる '歪み' と 'オート・ヴォリューム' からテープの逆回転風 'テープ・リヴァース'、そしてLFO的パーカッシヴなトレモロの特殊効果をエンヴェロープ・ジェネレータによる 'CV' 出力で同期させる至れり尽くせりな作りは、ある意味 '好き者' にとってたまらない効果と言って良いでしょう。そしてドイツで 'ユーロラックシンセ' のモジュール製作などで老舗のKoma Elektronikから、ゲートと 'ビットクラッシャー' 的アナログ・ディレイを組み合わせたBD101。ここではそのゲート・セクションによるダイナミクスの変化をどーぞ。一方のSpaceman EffectsのMission Controlは、オートフェーダー、エフェクトループ、Dry/Wetブレンダー、パラレル・スプリッター、2チャンネルミキサー、エンヴェロープ・ジェネレーター(EG)のCVコントロールにも対応するスイッチング・ユニット。本機の中核を成すのはVCAで7種のモード切り替えとエフェクトループ、CV In/Outを併用することで多彩な効果を生成します。通常のIn→Out接続ではモメンタリーなActuateスイッチをトリガーにしてオートフェーダーになり、さらに本機のエフェクトループに他のペダルを繋ぐことで原音とエフェクト音(Dry/Wet)のミックス、全面に並ぶEGのコントロールAttackとReleaseは65msから33秒までの広い範囲で設定可能で、素早い立ち上がりから長い減衰までエンヴェロープをコントロールします。また付属のCV-TRS変換ケーブルでエクスプレッション・コントロールも可能。以下、Mission Controlの機能解説なり。

●Offset
ゼロ以下の最小音量レベルを設定します。最小の音量からエフェクトが始まるモードでは、Offsetツマミでその音量を設定し、最大の音量からエフェクトが始まるモードでは、最終的な音量を設定します。

●Attack
'Actuate' スイッチが押されてから効果が現れるまでのスピードを設定します。各モードにより、効果が現れるまでのスピードと効果が消えるまでのスピードをそれぞれ切り替わります。

●Release
'Actuate' スイッチの効果が終わるまでのスピードを設定します。各モードにより、その効果が終わるまでのスピードと効果が戻るまでのスピードにそれぞれ切り替わります。

●Blend
エフェクトループ使用時にDry/Wetのレベルのバランスを設定します。またこのコントロールはエフェクトループ使用に関わらずブースター的設定も可能。Dry信号は本機背面にある 'Phase' スイッチを通っており、これはどのような場合でも原音は常に入力時から確保されております。

●Phase
本機背面にある小さなスイッチで、Dry信号の位相をコントロールします。'Blend' ツマミ使用時にエフェクトループに繋いだエフェクターと位相を揃えたい時に使用します。

●Mode
本機は'Gate(GT)'、'One Shot(OS)'、'LFO(LF)'、'Trigger(TRG)' の4種モードを備えており、その内の3種類に 'Up' と 'Down' の選択肢があります。

:Gate ↑
'Acuate' スイッチが押されると最大音量('Offset' ツマミで設定された音量)から 'Attack' ツマミで設定されたスピードで音がフェイドインして最大音量となり、'Actuate' スイッチが押されている間は音量を保持します。'Actuate' スイッチを離すと 'Release' ツマミで設定されたスピードで、最大音量まで音がフェイドアウトします。

:Gate ↓
'Actuate' スイッチが押されると最大音量から 'Attack' ツマミで設定されたスピードで音が最小音量('Offset' ツマミで設定された音量)までフェイドアウトし、'Actuate' スイッチが押されている間は音量を保持します。'Actuate' スイッチを離すと 'Release' ツマミで設定されたスピードで最大音量まで音がフェイドインします。

:Oneshot↑
'Actuate' スイッチが一回押されると最小音量('Offset' ツマミで設定された音量)から 'Attack' ツマミで設定されたスピードで音がフェイドインし、自動的に 'Release' ツマミで設定されたスピードでフェイドアウトします。

:Oneshot ↓
'Actuate' スイッチが一回押されると最大音量から 'Attack' ツマミで設定されたスピードで音がフェイドアウトし、自動的に 'Release' ツマミで設定されたスピードでフェイドインします。

:LFO ↑
'Actuate' スイッチが一回押されるとLFOが働き、最小音量よりフェイドアウトします。LFOの波形とスピードは 'Attack' (増)と 'Release' (減)ツマミでそれぞれコントロール出来ます。再び 'Actuate' スイッチを押すとLFOが止まり最小音量に戻ります。

:LFO ↓
'Actuate' スイッチが一回押されるとLFOが働き、最大音量よりフェイドアウトします。LFOの波形とスピードは 'Attack' (減)と 'Release' (増)ツマミでそれぞれコントロール出来ます。再び 'Actuate' スイッチを押すとLFOが止まり最大音量に戻ります。

:Trigger
'Actuate' スイッチが一回押されると最小音量より 'Attack' ツマミで設定されたスピードで音がフェイドインし、最大音量を保持します。再び 'Actuate' スイッチが押すと 'Release' ツマミで設定されたスピードでフェイドアウトします。

:Actuate
全てのモードでトリガーとして機能するモメンタリースイッチ。選択されたモードに応じてシングルタップか、モメンタリーホールドに切り替わります。










Dwarfcraft Devices ARF (discontinued) on Reverb.com
Dreadbox Epsilon - Distortion Envelope Filter (discontinued) ①
Dreadbox Epsilon - Distortion Envelope Filter (discontinued) ②

Spaceman Effects Mission Controlに代表されるエンヴェロープ操作。これに準じた機能を持つ製品としては残念ながら工房を畳んでしまったDwarfcraft Devicesから、イマイチその機能のウケが悪かった?ARF。Freq、Rez、Dpth、Attack、RlsというVCFとしては一般的な5つのパラメータに加えて歪ませるDrvツマミも装備。そしてエンヴェロープを操作するモメンタリー・スイッチでリアルタイム・コントロールしながら本機お待ちかねの拡張機能、Freq.、Env.Out、Trigger InのCVでモジュラーとの同期を楽しむことが出来まする。そして同様に 'VCF + Envelope' の構成で歪みに至るまでカバーするのがギリシャの工房、Dreadbox Epsilon。こちらも通常のエンヴェロープ・フィルターのほか、リアルタイムによるAttack、Releaseのエンヴェロープをモメンタリー・スイッチで操作します。また、エンヴェロープ自身をCVで出力、コントロールすることが可能。う〜ん何だろ、Mission Controlもそうなんだけどこのトリガーによるリアルタイム性は訴求力が弱いっすね(苦笑)。個人的に思うのはどれもエンヴェロープのカーブが極端過ぎるというか、むしろ単体でヴォリューム機能に特化したエンヴェロープ・モディファイアの方が使いやすいのかも知れません。












Toadworks Enveloope (discontinued)
Death by Audio Total Sonic Annihilation 2
Umbrella Company Fusion Blender
Mid-Fi Electronics Clari(Not) ①
Mid-Fi Electronics Clari(Not) ②
Mid-Fi Electronics Deluxe Pitch Pirate

個人的にこのようなエンヴェロープの機能に特化したペダルとして先鞭を付けたのは、今ではすっかりその名前を聞くことも無くなった工房、ToadworksのEnveloope。コレ、いわゆる単体機というより1ループのセレクターにエンヴェロープの機能を内蔵して、そのインサート内のペダルを攻撃的に遊んでみようというもの。発想としてはDeath by AudioのTotal Sonic Annihilationや2ループをミックスするUmbrella Company Fusion Blenderなどと近い製品ですね。 動画では同社のトレモロPipelineをループにインサートしてのエンヴェロープ操作、なんですが・・地味だなあ。本機はSensitivityとReleaseの2パラメータを軸にして、実は5通りほどの操作が楽しめるとのことでどれどれ・・取説を見てみよう。2つのトグルスイッチがそれぞれのモードに対応しており、通常のトゥルーバイパス・モードと 'Dyn' バイパス・モードがあり、'Dyn' モードにすると隣の 'Direction' スイッチの 'Normal' と 'Rev' の2モードに対応します。それぞれ 'Dynamic Forward' と 'Dynamic Backward' からなり、'Forward' では入力信号を複数に分割してエンヴェロープ操作、そして一方の 'Backward' はそれが逆となり(だから 'Rev')、主に基本の信号はループからのものとのことですが段々と書いていてワケわからん状態になっとります(汗)。ま、'ディスコン' になったのも納得。そして、フランク・ザッパの盟友として独自の '酔っ払ったようなブルーズ' を披露したキャプテン・ビーフハート。そんな彼のサウンド全体から 'ビーフハートのクラリネット' という尋常ならざるコンセプトを抜き出しペダルにしてしまった!のがこちら、Clari(Not)。米国のインディーバンドMMOSSのギタリストを経て現在ソロ活動中のDoug Tuttleが主宰する工房MId-Fi Electronicsは、とにかく全てが '飛び道具' という範疇を軽く乗り超えたペダルばかりラインナップしているのですが、この 'クラリネットじゃない' というネーミングと共に調子外れのクラリネットと伸び縮みするテンポ、まるでオーネット・コールマンから薫陶を受けたようなハーモニーに乗ってファズの如く 'さわり' の強いビーフハートの声がそのまま奇妙なヴィブラート、ピッチシフト、ディレイ、ファズ、エンヴェロープ全ての '調性' を解放して '再現' するClari(Not)・・その発想に乾杯!!。ここではそのClari(Not)とPitch Pirateを組み合わせたClari(Pirate)を取り上げますが、本機搭載の 'Envelope' (Lumpy Envelope Followerという名にニヤリ)がこの '飛び具合' に相当貢献しております。なおClari(Not)はファズ内蔵とファズ無しの2ヴァージョンをそれぞれオーダーすることが出来まする。









Vox / King Ampliphonic Octavoice Ⅰ and Ⅱ
Multi-Vox / BigJam SE-4 Octave
Fuzzrocious Pedals Knob Jawn

さて、続いての対決は1970年代のアナログ・オクターバー。いわゆる1オクターヴ/2オクターヴ下を付加するこの効果はピッチ・シフターが登場するまでシングルノートにおけるソロの 'オクターヴ奏法' として重宝されました。また、基本単音の管楽器における 'アンプリファイ' としても最初に製品化された効果であります。ここではその黎明期的製品であるVox / KingのAmpliphonicシリーズから、クラリネット用のOctavoice Ⅰと日本ハモンドが展開したブランドであるBigJamのSE-4 Octaveをそれぞれチョイス。ちなみにOctavoice Ⅰの方は米国のポートランド州オレゴンにあるガレージ工房、Googly Eyes Pedals主宰のDylan Kassenbrock氏により、元々の腰に装着する使いにくい仕様から、トゥルーバイパス、LED、4つのトグルスイッチといった 'フットボックス' に変更してノックダウンされました。そしてBigJamのSE-4 Octave。そもそもは後にRolandを設立する梯郁太郎氏が手がけたAce Toneの血脈を受け継ぐ会社であり、このOctave SE-4も1オクターヴ下、2オクターヴ下、5度下を3種切り替えスイッチと3つのスライダーでブレンドする極悪オクターバーでございます。ちなみに海外へは 'Multi-Vox' のブランドで輸出されましたが、この名称の由来のひとつ?として、Ace Tone時代に手がけた国産初の管楽器用オクターバー、Multi-Vox EX-100の遺伝子が受け継がれているんじゃないか?と睨んでおりまする。そして、ここ近年のオクターバーと呼ばれるものの大半は 'アナログ・モデリング' や、回路はアナログだけどトラッキング精度向上の為にデジタルで構成されたハイブリッドな製品が市場に並んでおります。米国の工房Fuzzrocious PedalsのKnob Jawnは、筐体中央に位置する大きな足で回せるツマミをブレンドとして、右に回せばデジタルによる1オクターヴ下/1オクターヴ上のオクターバー、左に回すと歪んだアナログ回路のアッパー・オクターヴのトーンになる変わり種。また、左側のフットスイッチはモメンタリーとなっており、踏んでいる間だけオクターヴ下を付加することが可能で、かなりリアルタイム操作に攻めたオクターバーとなっているのが面白い。














Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar TTL FZ-851S "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar F.Zappa Filter Modulation
Gibson / Maestro Rhythm n Sound for Guitar G1
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Systech Harmonic Energizer
Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier- ①
Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier- ②
Lovepedal Octave Planet Believe (discontinued)
Chicago Iron / Tycobrahe Octavia - Special Edition
Tycobrahe Octavia
Roger Mayer Octavio
Arbiter Add-A-Sound
Guitar Rig - Dweezil Zappa

ザッパのフィルタリングに対する音作りの研究に訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子ドゥィージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-pass、Band-pass、Hi-passを切り替えながらフィルター・スィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドとマスキングテープで固定してレーシング用フォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。しかしザッパのフィルターに対する探究心はMaestro Rhythm 'n Sound for Guitar G1の 'Color Tones' を始めにOberheim Voltage Controlled Filter VCF-200の 'Sample&Hold' 効果、Systech Harmonic Energizerに到るまで 'ニッチなペダル道' を歩む彼の耳の賜物ですね。さらにここへDan Armstrong Green RingerやArbiter Add-A-Soundのリング変調なアッパーオクターヴの倍音を加えてやれば完璧、かも。そんなアッパーオクターヴ効果といえばRoger Mayerもとい(って言うのも失礼だけど)、ソレを元にしたTycobrahe Octaviaでしょう。






Triode Pedals Leviathan

米国はメリーランド州ボルチモアで製作する工房、Triode Pedalsのリゾナント・フィルターであるLeviathan。アシッド・エッチングした豪華な筐体に緑のLEDとツマミが見事に映えますけど、その中身もハンドメイドならではの '手作り感' あふれるもので期待させてくれます。本機のちょっと分かりにくいパラメータの数々を取説で確認してみると、いわゆるその大半がリズミックにワウをかける 'オートワウ' というより、ゆったりとしたフィルター・スウィープ、LFOの音作りに特化した独特なものでギタリストやベーシストはもちろん、キーボーディストからDJに至るまで幅広い層をカバー出来ますね。また、ここでのエクスプレッション・ペダルは安定感のあるE-Mu SystemsのVPDLでリアルタイム・コントロールしておりまする。

●Song
コントロールはフィルターのカットオフ周波数を設定します。クラシックなフィルタースウィープを作ることが出来ます。
●Feed
コントロールを調整すれば、レゾナンスフィードバックをコントロールしてエフェクトのかかりを最小から発振まで設定可能。
●↑/↓の3段階切り替えトグルスイッチ
上から順にハイパス、バンドパス、ローパスフィルターの設定です。
LFOセクションはSongコントロールの後に設置されます。ChurnコントロールはLFOスピード、WakeコントロールはLFOの深さを調整します。LFOをフルレンジでオペレートするには、Songを中央に設定し、Feed、Wakeを最大または最小に設定します。
●'Wake' と 'Churn' ツマミ間のトグルスイッチ
LFOの波形を三角波と短形波から選択できます。
●エクスプレッション・ペダル端子とDC端子間にあるトグルスイッチ
LFOのスピードレンジとレンジスイッチです。上側のポジションでFast、下側のポジションでSlowのセッティングとなります。








Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ①
Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ②

日本が誇る偉大なエンジニア、三枝文夫氏手がける京王技研(Korg)のSynthesizer Traveller F-1。本機は-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' を単体で搭載したもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。三枝氏といえば日本のエフェクター黎明期を象徴する2種、Honey Psychedelic Machine、Vibra Chorusの設計者としてすでに 'レジェンド' の立場におり、本機はちょうど京王技研からKorgへと移行する過渡期に設計者からユーザーへの '挑戦状' として遊び心いっぱいに提供されながら、結局は現在まで '発見' されることなく 'コレクターズ・アイテム' として捨て置かれております。そんな本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏も携わっており、いくつかのアドバイスを元に製作した当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったというのは面白い。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"




Filters Collection
BJF Electronics VCF - Voltage Controlled Filter ①
BJF Electronics VCF - Voltage Controlled Filter ② 

以上、'エフェクター最後の砦' とも言うべき、鈍らせる、尖らせる、歪む、変調する・・そして発振。コレ、すべてVCFという名のフィルターの仕事であり、決してワウだけの特定な使い方に限定されるものではございません。それを体感した者はその刻々と変化する音の '質感' に身悶え、まるで何物にも例えられないもうひとつの 'こえ' が生成する瞬間に慄きます。嗚呼、これぞフィルターの快感なり。しかし場所取るなあ(汗)。ただ本音を言えば、こんな大仰な機能満載も面白いけどシンプルに管楽器とマッチする最高のエンヴェロープ・フィルター、そーいうのを一台見つけられたら良いんですけどね。エフェクター界の奇才、Bjorn Juhl設計のBJFE VCFが欲しい・・。












Maestro Parametric Filter MPF-1
Moog Minifooger MF Drive (discontinued)
Mountainking Electronics Frequency〜LSD
Lovetone Meatball (discontinued)
Dwarfcraft Devices Happiness (discontinued)

次点としてはこちらのフィルターペダルもチェックして頂きたい。俗に 'タンク・シリーズ' とも呼ばれるMaestroのParametric Filter MPF-1は、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することで生み出されました。Natural(Broad、Med、Sharp)とOverdrive(Sharp、Med)の2つのチャンネルを持ち、かかるレンジのHeightと周波数のFreqで操作する 'フィルタリング' は唯一無二、まさに 'Moogならではの質感' として市場でも高騰しております。また、これをベースにしたと思しき 'Minifooger' シリーズで出したMF Driveもすでに 'ディスコン'。今後、MPF-1の価値と相まって市場で高騰してくるかも知れませんね。そしてフィルターといえば、いわゆる 'ワウ半踏み' の鼻詰まり的トーンに特化した効果をジューシーに歪ませたその名もズバリ 'LSD'。まだまだ面白いペダルは世界のあちこちから名乗りを上げてくるのが嬉しいですね。一方、基本はエンヴェロープ・フィルターながら各種 'フィルタリング' の効果に対応する英国の名機、Lovetone Meatball。Vlad NaslasとDaniel Coggins2人の手により送り出された本機はとにかく豊富なパラメータを有しており、いわゆる 'オートワウ' からフィルタースィープによるローパスからハイパスへの '質感生成'、エンヴェロープ・フォロワーを利用したトリガーやフィルター内部への 'センド・リターン' による攻撃的 'インサート' など、至れり尽せりな音作りの意匠が施されておりまする。さて、新たな挑戦の為に工房を畳んでしまったBenjamin Hinz主宰のDwarfcraft Devices。そのユニークなカタログが市場から消えてしまうのは非常に残念なのですが、ここは彼が製作したエンヴェロープ・フィルターHappinessによるLFOの 'CV同期' のパフォーマンス動画で静かに見送りたいと思います(涙)。














EMS Synthi Hi-Fli
Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
Colorsound Dipthonizer
Electro-Harmonix Talking Pedal - A Speech Synthesizer
Electro-Harmonix Stereo Talking Machine
Glou Glou Pralines / Moutarde
Glou Glou on Reverb.com
Subdecay Vocawah
Moody Sounds Way
Sherman

EMS Synthi Hi-FliやLudwig Phase Ⅱ Synthesizerに象徴される '喋るような' フィルタリング。これは原初的なエフェクツとも言えるトークボックス(マウスワウ)のことではなく、VCFにおけるバンドパス帯域を複合的に組み合わせることで 'A、I、E、O、U' といった母音のフォルマントを強調、まるで喋っているようなワウの効果を生成するものです。例えば日本を代表する作曲家、富田勲氏は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いが強かったようです。Moog導入前から愛用していたLudwig Phase Ⅱを出発点に当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さすがにその巨大な 'シンセサイズの壁' を手に入れることは叶いませんけど、EMSやLudwigの大きなシステムからColorsoundのDipthonizerやElectro-Harmonix Talking Pedalなどが1970年代にはありました、そして、現在はそのアップデート版のStereo Talking Machine、フランスの工房Glou Glouのリゾナント・フィルターPralines、米国の工房SubdecayのVocawahやスウェーデンの工房Moody SoundsのWay、ベルギーからHarman Gillisさんがお届けするSherman Filterbankに到るまで機器を '喋らせる' ことへの興味は尽きることを知りません。










U.S.S.R. Spektr-3 Fuzz Wah & Envelope Filter
U.S.S.R. Spektr-4 Fuzz Wah & Envelope Filter
U.S.S.R. Spektr Volna Auto Wah
U.S.S.R. Elektronika Synchro-Wah
U.S.S.R. Elektronika 12-011 Multi Effects
U.S.S.R. Elektronika PE-11 Flanger
U.S.S.R. Estradin Effekt-1 Flanger
U.S.S.R. SAM Effekt-1 Wah Fuzz / Vibrato
U.S.S.R. Lell EP Parametric Equalizer

これらデザインでは旧共産圏の '鉄のカーテン' の向こう側、ソビエトのSpektrが手がけるファズワウ&エンヴェロープ・フィルターも負けておりません。まさにファズ、ワウペダル、エンヴェロープ・フィルターを個別もしくは複合的に組み合わせて用いるマルチ的製品Spektr-4です。そもそもはこれらを2つのペダルでコントロールする '機能強化版' のSpektr-3というのがあり、それを単品にしたのがこのSpektr-4。そしてオートワウのみ単品にして、そのうねりから 'Wave' という意味を持つVolna Auto Wahも用意されております。昔のSF映画に出てくる小道具っぽさというか(笑)、こーいう 'ロール状' でダイヤルのようなパラメータって 'ペダルの世界' ではほぼ見ないですね。実際、使ってみると・・やはり官製品ならではのステージ使用を考慮しない仕様、限定的な効果のみ特化したのかレンジやパラメータの幅が狭いな。一方のElektronikaによる 'Cnhxpo-Bay' こと'Synchro-Wah' はなかなかにエグい効果でたまりませんね。一説にはElectro-Harmonix Doctor Qの 'デッドコピー' とのことで、ロシア語全開のさっぱり読めない取説にもそれっぽい単語が載ってる!(笑)。本機の極端にゲート感の強いエンヴェロープ・フォロワーの '飛び道具' な感じは、どこかDODのFX-25を思い出すなあ。














Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky 'Vexter'
Chase Bliss Audio / Cooper Fx Generation Loss
Recovery Effects Cutting Room Floor
Recovery Effects Viktrolux (discontinued) ①
Recovery Effects Viktrolux (discontinued) ②
Hungry Robot Pedals The Wardenclyffe
Blackout Effectors Whetstone on Reverb.com

コンプレッサーを '質感' というテーマで特化させる上で、そこから派生していると思しき? 'ベッドルーム・テクノ' 世代とプラグインのDSPテクノロジーからもたらされた 'ローファイ' 系エフェクターも見たいと思います。この名称、機能をコンパクト・エフェクターで初めて具現化したIbanezの 'Tone-Lok' シリーズ中の迷機、LF7 Lo Fi。まさにギタリストからDJ、ラッパーのような人たちにまでその裾野を広げたことは、この入力部にGuitar、Drums、Micの3種切り替えスイッチを設けていることからも分かります。本機のキモは極端にカット方向で音作りのするLo CutとHi Cutの周波数ツマミでして、基本的にはAMラジオ・トーン、電話ヴォイス的 'ローファイ' なものながらその加工具合は地味。EQに比べて極端にカットしながらワウになるでもなく、歪み系エフェクターの範疇に入れるには弱い感じですけど、本機の動画の大半がどれもブースター的歪ませてばっかりでいわゆる 'ローファイ' の差異に迫ったものが少ないのは残念。その中で上にご紹介するものは本機の魅力を引き出しており、また個人で 'ビット・クラッシャー' 的ノイズのモディファイを施したヤツも楽しい。このようなフィルタリングを 'ローファイ' の価値観で新しいモジュレーションのかたちとして提示したのがこちら、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky。さすがエフェクター界の奇才、Zachary Vexが手がけたその着眼点は、いわゆるアナログ・レコードの持つチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものというから面白い。特に真ん中に配置された 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな陽気と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。さらに現在の 'ローファイ' 対決としてZ.Vex Effects Instant  Lo-Fi JunkyとCooper Fx Generation Lossの比較動画もありますが、このGeneration Lossはここ最近のヒット作のようでChase Bliss Audioとの 'コラボ' による限定版まで登場しました。続くRecovery Effects Cutting Room Floorはピッチ・モジュレーション・エコーの変異系で、モメンタリー・スイッチによる 'Freeze' 効果からCV入力によるシンセサイズの変調など、グリッチの音作りまでカバーする幅広いもの。そしてHungry Robot PedalsのThe Wardenclyffeではローパス、ハイパスのフィルタリングとリヴァーブの 'アンビエンス' 含めて演出します。原音とエフェクツ音を個別に調整出来るのが便利。とりあえずHungry Robot Pedalsのヤツしか手元にないので、ここはBlackout EffectorsのWhetstoneと比較しよう。本機搭載のジャリッとした 'Ring' と 'Fix' モードによるリング変調からAMラジオ効果(3:08〜4:20)など、今となってはビミョーな感じかもしれませんが、他に無い効果で結構面白いのです。とりあえずコンプ同様、こういう 'ビミョーな質感' に耳をそば立てるプレイヤーがどんどん登場して欲しいですね。







→ 'Mixtur' Liner Notes
Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur

さて、'質感' の倍音による思い切ったアプローチとしてはリング・モジュレーターを使ってみる手もあります。え?全てを破壊する '飛び道具' の最右翼として真っ先に挙げられる機器ですけど・・これが意外に侮れない。そんなリング・モジュレーションといえば現代音楽の大家、カールハインツ・シュトゥックハウゼンが 'サウンド・プロジェクショニスト' の名でミキシング・コンソールの前に陣取り、'3群' に分かれたオーケストラ全体をリング変調させてしまった 'ライヴ・エレクトロニクス' の出発点 'Mixtur' (ミクストゥール)に尽きるでしょうね。詳しいスコアというか解説というか '理屈' は上のリンク先を見て頂くとして、こう、何というか陰鬱な無調の世界でおっかない感じ。不条理な迷宮を彷徨ってしまう世界の '音響演出' においてリング・モジュレーターという機器の右に出るものはありません。映像でいうならフィルムが白黒反転して '裏焼き' になってしまった色のない世界というか、ゴ〜ンと鳴る濁った鐘の音、世界のあらゆる '調性' が捻れてしまったような金属的な質感が特徴です。






Oberheim Electronics Ring Modulator (Prototype)
Maestro Ring Modulator RM-1A with MP-1 Control Pedal
Maestro Ring Modulator RM-1A
Maestro Ring Modulator RM-1B

そもそもは1960年代後半、後に 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムが同じUCLA音楽大学に在籍していたラッパ吹き、ドン・エリスより 'アンプリファイ' のための機器製作を依頼されたことから始まりました。この時少量製作した内のひとつがハリウッドの音響効果スタッフの耳を捉え、1968年の映画「猿の惑星」のSEとして随所に効果的な威力を発揮したことでGibsonのブランド、MaestroからRM-1として製品化される運びとなります。オーバーハイムは本機と1971年のフェイザー第一号、PS-1の大ヒットで大きな収入を得て、自らの会社であるOberheim Electronicsの経営とシンセサイザー開発資金のきっかけを掴みました。それまでは現代音楽における 'ライヴ・エレクトロニクス' の音響合成で威力を発揮したリング・モジュレーターが、このMaestro RM-1の市場への参入をきっかけにロックやジャズのフィールドで広く認知されたのです。そしてリング・モジュレーター唯一の演奏法とも言うべきフリケンシーのエクスプレッション・コントロール。このギュイ〜ンと非整数倍音をシフトする '飛び道具' 的効果にジックリと耳をそば立てて見れば、実はギタリストが拘るアンプの '箱鳴り' という一風変わったシミュレートの探求へと向かわせます。この辺の音作りに興味を持ったのは、これまたギタリストの土屋昌巳さんによる雑誌のインタビュー記事がきっかけでした。

"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使っています。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に勤めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけれど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リバーブのルーム・エコーを聴かされても、"何だかなあ" となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその "何だかなあ" がある程度補正できるんですよ。"












Eva Denshi / Maestro Ring Modulator RM-1A Clone ①
Eva Denshi / Maestro Ring Modulator RM-1A Clone ②
Moody Sounds Carlin Ring Modulator Clone ①

このような土屋さんの言われる '箱鳴り' のシミュレータという発想は、そのまま '飛び道具' ではないリング・モジュレーターの再発見として嬉しい収穫でしたね。そんな効果にアプローチする上でやはり試してみたいのが元祖Maestroのリング・モジュレーター。しかし滅多に市場には現れない上にその価値はますます高騰しておりまする。そんなニッチな需要に応えるかたちで大阪の工房、Eva電子がほぼ一点モノ的に製作した見事なクローンが気になりますね。また、いわゆるリング変調の原点という意味ではこちら、Carlinのリング・モジュレーターというマニアックな一台も面白い。リング・モジュレーターとは、2つの入力の和と差をマルチプライヤー(乗算器)という回路で掛け合わせることで非整数倍音を生成し、これらを掛け合わせるためのオシレータが内蔵されておりますが、本機はリング変調の原点に則ってA、Bふたつの入出力を掛け合わせて音作りをする珍しい仕様。オリジナルはスウェーデンのエンジニア、Nils Olof  Carlinの手によりたったの3台のみ製作されたという超レアもので、それを本人監修のもとMoody Soundsが復刻したその独特なトーンはひと言で表現するならば '塩辛い'!いや、ヘンな表現で申し訳ないですけど(笑)、通常のリング変調にみるシンセっぽい感じとは違い、チリチリとした歪みと共にビーンッ!と唸る感じに柔らかさは微塵もありません。かなり独特というか、ステレオ音源を通しても良いし、B出力をB入力にパッチングしてA入力と掛け合わせても良いし、いろいろな発想を刺激してくれますヨ(動画ではB入力にアナログシンセのDoepfer MS-404を入力)。その他、Metasonixの真空管リング変調など、このリング・モジュレーターはある程度遊び倒して一周するとこのような 'シブい' 質感の倍音生成にハマるのだ。











Death by Audio Rooms
Death by Audio Reverbration Machine
Industrialectric RM-1N
Beautiful Noise Effects When The Sun Explodes
Beautiful Noise Effects & Demedash Effects
Gamechanger Audio Light Pedal

これら '質感' を構成する上でなくてはならないスパイスともいうべき 'アンビエンス' の生成に欠かせないもの、リヴァーブ。これもDSPテクノロジーにおける複雑なアルゴリズムの演算処理で高品質なもの、よりエフェクティヴでピッチシフトと組み合わせて一世を風靡した 'Shimmer' がある反面、そのクリアーかつワイドレンジな空間を汚そうとする '歪むリヴァーブ' の世界観が提起されます。まさに 'シューゲイザー' 的というか、基本クリーンが信条の管楽器では使いにくいことこの上ないのですが(汗)、そんなギタリストに貢献するDeath by Audio Reverbration Machineとカナダの工房、Industrialectric RM-1Nがそれぞれ登場。そして一方のオーストラリアから登場するBeautiful Noise EffectsのWhen The Sun Explodesは、エクスプレッション・ペダルによりリヴァーブ量をリアルタイムに増減させながら歪み、トレモロ、フィードバックの嵐を生成します。最後は、今やその革命的なアイデアで惹き付けるラトビアの変態、Gamechanger Audioの光学式スプリング・リヴァーブLight Pedalがスタンバイ。さ、どう使いこなしましょうか?。ちなみにDeath by Audioからは、同社初の6種のDSPアルゴリズムを搭載したデジタル・リヴァーブRoomsもスタンバイしておりまする。





Elektron Analog Heat HFX-1 Review
OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit
Dr. Lake KP-Adapter

そしてKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。








Rodec / Sherman Restyler (discontinued)
Rodec / Sherman Restyler Review
Sherman

ちなみにわたしの所有するDJ用エフェクターとしては、ベルギーを代表する2大ブランド、DJ機器を製作するRodecとHerman Gillisさん主宰の工房ShermanがコラボしたRestylerをKP-Adapterに繋いで愛用しておりまする。リアルタイムにソロで使うというより、ループ・サンプラーからのフレイズにかけてグニャグニャとリアルタイムでダブやるのに最適。インプットでブーストさせて潰れるまでの 'サチュレーション' させるのはもちろん、ユニークなのは 'Transient' の機能でフレイズ自体のアタック、リリースを弄ってさらにエンヴェロープの変調からガッガッガッとブツ切りに!。面白いと同時に正直、ここまでくるとラッパでやる必要があるのかな?という気はしますけど・・(苦笑)。










こちらはスペインでダブに特化した機器を製作するBenidub Audioから待ちに待ったフィルター専用機、Filtroが登場。ダブとフィルターと言えば、キング・タビーがダイナミック・スタジオから払い下げてきたMCI特注による4チャンネル・ミキサー内蔵のハイパス・フィルターが殊に有名です。EQの延長としてダイナミック・スタジオがオーダーしたこの機器は、後にプロデューサーのバニー・リーが "ダイナミックはこのミキサーの使い方を知らなかったんじゃないか?" と言わしめたくらい、タビーにとっての 'トレードマーク' 的効果としてそのままダブの 'キング' の座を確かなものとしました。そう、この効果が欲しければタビーのスタジオに行くほかなく、また、ここからワン・ドロップのリズムに2拍4拍のオープン・ハイハットを強調する 'フライング・シンバル' という新たな表現を生み出すのです。そのハイパス・フィルターは、左右に大きなツマミでコンソールの右側に備え付けられており、70Hzから7.5kHzの10段階の構成で、一般的な1kHz周辺でシャット・オフする機器よりも幅広い周波数音域を持っていました。タビーの下でエンジニアとしてダブ創造に寄与した二番弟子、プリンス・ジャミー(キング・ジャミー)はこう述懐します。

"ダイナミック・サウンズ用に作られた特注のコンソールだから、すごく独特だったよ。最近のコンソールには付いていないものが付いていた。周波数を変えるときしむような音がするハイパス・フィルターとか、私たちはドラムでもベースでもリディムでもヴォーカルでも、何でもハイパス・フィルターに通していた。ハイパス・フィルターがタビーズ独特の音を作ったんだ。"













Arbiter Soundimension
Musitronics Mu-Tron Bi-Phase on Reverb.com

そんなプリンス・ジャミーがキング・タビーのスタジオ 'Tubby's Hometown Hi-Fi' で手がけた曲のひとつがこの 'Dub of Lights'。'ダブマスター' といえばMaestro Echoplex、Roland RE-201 Space Echo、The Fisher K-10とGrampian Type 636のスプリング・リヴァーブ、リー・ペリーのスタジオ 'Black Ark' の守護神的存在であるMusitronics Mu-Tron Bi-Phase、'Studio One' のコクソン・ドッドが 'ダブ・スペシャリスト' のエンジニア名で用いて愛したArbiter SoundimensionやUKダブの巨匠、マッド・プロフェッサーによるMXR M-129 Pitch Transposerの 'インサート技' などなど、いつの時代でも乏しい環境で予想に反して酷使されるその機材は、ギタリストや管楽器奏者ら器楽演奏と全く同じ意味を持つほどこだわるのです。これぞ、まさに '音でデザインする' ダブ職人なり。









Vintage Fender Effects from The 1950's - 1980's
Old Blood Noise Endeavors Black Fountain Delay
Catalinbread Adineko Oil Can Delay

さて、今や主流であるデジタル・ディレイではありますが、一方では相も変わらず '往年の名機' 再現に挑む為のDSPによる 'アナログ・モデリング' 探求が盛んです。まだまだ人間の耳はアナログの曖昧さを求めているワケですけど、磁気テープ・エコー、磁気ディスク・エコーに続いてやってきたTel-Ray 'オイル缶エコー' の世界。オイルで満たされた 'Adineko' と呼ばれる缶を電気的に回転させることでエコーの効果を生成するものなのですが、このオイルが今では有害指定されていることで物理的に再現することが不可能。このオイルの雫のイメージそのままドロッとした揺れ方というか、懐かしくも 'オルガンライク' に沈み込む '質感' というか・・たまらんなあ。もちろん、現在の市場でこの 'アナログ・モデリング' に挑んだものが2種あり、最近頭角を現しているOld Blood Noise EndeavorsのBlack Fountainと今や老舗感すら漂わせるCatalinbreadのAdineko Oil Can Delayがそれぞれありまする。










Elta Music Devices Console - Cartridge Fx Device w/ 11 Cartridges
Cooper Fx Arcades - Cartridge-Based Multi Effect
Pladask Elektrisk Fabrikat
Ezhi & Aka Fernweh (discontinued)

また、ここまでご紹介した効果を一台で賄おうということではこちら、個人的に気に入っているロシアの新たな才能、Elta Music DevicesのConsoleをチョイス。コンパクトのマルチ・エフェクツながらSDカードで自社の機能をあれこれ入れ替えて、左手でジョイ・スティックをグリグリ動かすデザインにまとめ上げるなんて素敵過ぎる!その12個のSDカード・カートリッジの中身は以下の通り(上のサイトでは 'Digital' の無い11種のもの)。

⚫︎Cathedral: Reverb and Space Effects
⚫︎Magic: Pitched Delays
⚫︎Time: Classic Mod Delays
⚫︎Vibrotrem: Modulation Effects
⚫︎Filter: Filter and Wah
⚫︎Vibe: Rotary Phase Mods
⚫︎Pitch Shifter: Octave and Pitch
⚫︎Infinity: Big Ambient Effects
⚫︎String Ringer: Audio Rate Modulation
⚫︎Synthex-1: Bass Synth
⚫︎Generator: Signal Generator
⚫︎Digital: Bit Crasher

'モジュレーション/空間系' 中心のメニューですけど、今後いろいろなヴァリエーションが増える予定などあるのでしょうか?あくまで簡易的マルチなのでカートリッジを入れ替えるのみの同時使用出来ないものですが(ただし、カートリッジ入れ替え時に直前のプリセットは記憶する)、しかしこれで全然問題なく使えちゃいますね。個人的に気に入ったのが 'Synthex-1' の 'ベースシンセ' で、イメージとしてはチューバでブッバ、ブッバとしゃくり上げる感じの効果が面白い。Electro-Harmonix Micro Synthesizerに内蔵された 'Attack' スライダーでエンヴェロープのアタックを消して、Voiceセクションでフィルタースウィープさせる感じに近いですかね。そして、筐体に描かれたデザインが 'マレーヴィチ' 風ロシア・アヴァンギャルドな感じで格好良し!。またこのようなカートリッジ入れ替えによるマルチということでは、前述した 'ローファイ' ものGeneration Lossのヒットで一躍その名を知られたCooper Fxから今月登場するArcades。製品としては 'Ambient Package' (ReverbとDelayカートリッジ付)と 'Experience Package' (PitchとLo-Fiカード付)の2つのパッケージで用意されており、各カートリッジごとに8つのプログラムを搭載します。ここにはこのブランドを有名にしたGeneration Lossのプログラムもちゃんと用意されており、また各プログラムごとのプリセット保存はもちろん、エクスプレッション・コントロールを通じてCV/MIDIとの連携も行われるとのこと。そして、さらにここへグリッチな効果も個別に加えてみたら・・ということで、ノルウェーの新たな '刺客' ともいうべきPladask Elektrisk Fabrikat。もう、ここまでくると正確な読み方が分かりませんけど(苦笑)、本機もRed Panda ParticleやThe Montreal Assembly Count to Fiveなどと同様のディレイ、ピッチシフトによる 'グラニュラー応用系' のひとつですね。そろそろどこかのお店が代理店となって取り扱いそうな予感。最後はロシアのガレージ工房Ezhi & Akaから登場したFernweh(フェルンヴェ)。バナナプラグによるその巨大な 'モジュラーシステム' の中身は4種のローファイ・ディレイ&ピッチシフトの変異系、Mr. Nice、Mr. Glitchy、Mr. Clap、Mr. Arcadeとブッ壊れたファズ、モジュレーション、ローファイな20秒のループ・サンプラーのLoopeeで構成されております。とにかく何でも '汚い質感' にしてくれる複合機でして、本機の売り文句である 'テープを噛み砕いて燃やしたようなサウンド' という表現はなかなか的を射ておりまする。








Urei / Universal Audio 565T Filter Set
Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ
Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ on Reverb.com
Moog Moogerfooger (discontinued)

以下、個人的に '質感' への発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でしたが、この内容はいま読んでみても十分 '音作り' のリファレンスとして通用する内容です。

− そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S − 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

− それはだれかが先にやってたんですか?

W − 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S − 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W − 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

− しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S − 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W − それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S − で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W − 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S − ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W − フィデリティ(Fidelity)って '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

− 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W − それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

− フィルターとEQの違いは何ですか?

S − 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W − 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S − エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

− そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W − お手軽にいい音になるというかね。

S − 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

− しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W − それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

− 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W − 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S − それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W − よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

− 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W − ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S − 僕もArp2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W − System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S − 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W − 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

− 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W − それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

− トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W − 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S − それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W − 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S − Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

− エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W − エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S − 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W − 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S − 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

− 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S − それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W − 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

− ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S − 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W − ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

− 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S − デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W − それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S − 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W − それからEventide DSP4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S − どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。


Eventide DSP4000 Series (discontinued)

さて、上の 'フィルター対談' の中でエンジニアの渡部氏が最後にEventide DSP4000というラック型マルチ・エフェクターで自由にサンプル・レートやビット数を落とすパッチを組めるモジュールが面白いという話をしておりますが、コレ、まさに当時の 'エレクトロニカ' 黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となりました。このDSP4000は 'Ultra-Harmonizer' の名称から基本はインテリジェント・ピッチシフトを得意とする機器なのですが、色々なモジュールをパッチ供給することで複雑なプロセッシングが可能なこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する'、'加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールといった完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来るのです。当時で大体80万くらいの高級機器ではありましたが 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となりましたねえ。以下、当時のユーザーであった渡部氏によるレビューをどうぞ。

"DSP4000シリーズって、リヴァーブやピッチ・シフトのサウンドが良いのはもちろんなんですが、自分でエフェクト・アルゴリズムを組めるところがいいんです。モジュールの種類ですが、ありとあらゆるものがあると言ってもいいですね。例えばディレイ・モジュールがありますから、これを使えばフランジャー、フェイザーなどのモジュレーション系が作れますよね。リヴァーブのモジュールもピッチ・チェンジャーも当然あります。普通のエフェクターに入っているものはモジュールとして存在していると考えればいいですね。例えば、ゲート・リヴァーブを作りたければリヴァーブのモジュールとゲートのモジュールを持って来て、ゲートにエンヴェロープ・ジェネレータを組み合わせて・・っていうように、簡単に作れるんですよ。

シーケンサー・モジュールとか、関数モジュールのようなものもあります。自分の頭で考えればどうにでもできるんです。例えば、Ureiのアタック感をどういうモジュールの組み合わせで真似しようかな・・なんて考えるのは楽しいですよ。それにシンセとしても使えます。波形が選べるオシレータもフィルターもアンプもあります。サンプリング・セクションを入れればサンプリングが可能ですから、その気になればE-Muのサンプラーだって作れます。E-Muにあるパラメータを自分で思い出して、それをモジュールの組み合わせで再現していくわけです。

以前、ローファイ・プロセッサーのパッチを作ったことがあったのですが、好評だったのでいろいろなところに配ったんです。都内のスタジオで使われているDSPシリーズに幾つか入っていますよ。LFOでサンプリング周波数が動くようになっていたりするんですが、'Info' っていう、文字を表示するモジュールに僕のE-Mailのアドレスがサイン代わりに入っています(笑)。また、マルチバンド・コンプレッサーを作ったこともあります。フィルター・モジュールでクロスオーバーを組んで、コンプのモジュールをつないで・・ってやるわけですね。こうするとTC ElectronicのFinalizerみたいになります(笑)。結局、エフェクターというよりはDSPをどう使うかを自分で設定できるマシンという感じ。単にエフェクターの組み合わせが変えられるのとは次元が違うんです。人が作ったパッチを見るのも面白いですよ。構成を見ていると「こりゃあんまり良いパッチじゃないな」とか思ったりするんです(笑)。"



じゃ、そこまで言われるとこのEventide DSP4000の実力とはどんなもんか?と聴きたくなってしまいますけど、そんな疑問にちょうど良いリファレンスとしてこちら、土屋昌巳さん1998年の作品 '森の人 – Forest People' からインストゥルメントの 'ボジョレー氏の森' をどーぞ。この曲のあらゆるサンプルの '汚し役' でかかるフィルタリングにDSP4000が大活躍します。以下、本作当時のインタビューからこう述べております。

- 「ボジョレー氏の森」では曲全体にハイパス・フィルターがかかる部分がありましたが。

 "あれもDSP4000です。Sherman Filterbankだとまだあそこまでできない・・全体のクオリティを残しつつすごく小さなレンジにするっていうのはね。ただ安い音にしちゃうのはすごい簡単だと思うんです。効果としてはむっちゃくちゃローファイな、小さなトランジスタ・ラジオから流れているような音でも、そこで全体のクオリティが落ちちゃうのは嫌なんです。単に急に音像が小さくなるっていうのに命をかけました。"







Empress Effects Zoia ①
Empress Effects Zoia ②

そんなユーザーの好みに合わせて自由にモジュールを組む高級なシステムから20年後、まさに 'エフェクターを自由にデザイン' したいユーザーの為のアイテムがカナダの工房、Empress Effectsから登場したZoia。各モジュールはカラフルにズラッと並んだ8×5のボタングリッド上に配置し、そこから複数のパラメータへとアクセスしていきます。これらパラメータで制作したパッチはそれぞれひとつのモジュールとして新たにパッチングして、VCO、VCF、VCA、LFOといった 'シンセサイズ' からディレイやモジュレーション、ループ・サンプラーにピッチシフトからビット・クラッシャーなどのエフェクツとして自由に 'デザイン' することが可能。これらパッチは最大64個を記録、保存してSDカードを介してバックアップしながら 'Zoiaユーザーコミュニティ' に参加して複数ユーザーとの共有をすることが出来ます。まるで懐かしの学研 '電子ブロック' のペダル版のようで、いやあ凄い時代になったもんだ。











Gamechanger Audio Motor Synth -A New Method of Analog Audio Synthesis-
●8 Motors
●4 Note Polyphony with 2 Voices Per Key (with Separate Envelope and Portamento)
●4 Analog Filters with Envelope and Distortion
●4 Optical and Inductive Waveshapes with Cross-Modulation
●Arpeggiator, Sequencer and Loop Modes
●Performance Mode with Built-In Keys
●Full MIDI Control
●9 CV Ins and Outs

Gamechanger Audio Plasma Rack
Gamechanger Audio Motor Synth
Gamechanger Audio

そして、いま気になっているのが去年から刺激的なエフェクターを続々市場に投入するラトビアの工房、Gamechanger Audio。ピアノのダンパーペダルを模して 'Freeze' させるPlus Pedal、キセノン管をスパークさせる異色のディストーションPlasma PedalとPlasma Coil、光学式スプリング・リヴァーブのLight Pedal、そして8つのモーターを駆動させて '電磁誘導' により 'シンセサイズ' するMotor Synthとその 'ペダル版' ともいうべきMotor Pedalをアナウンスしております。ちょうど先月から世界に向けて少量出荷されているようですが、シンセとはいえ外部入力を備えているのでエフェクターとしても使えますヨ。仕組みは小さな光学式ディスクを直流モーターで高速回転させ、そのディスクに印刷された波形を赤外線フォトセンサーで読み取り、発音させるというもの。原理的にウェイヴテーブル・シンセなどと近しい構造なのですが、単純にこのワクワクする 'ハッタリ感' がスゲー!。動画で見る限り音色に幅がないかなー?という感じはありますけど(汗)、まずオシレータ聴くよりフィルターを味わいたいというくらいの 'フィルターフェチ' なわたしには問題無し(笑)。楽器って触ってみたい、欲しい!と思わせるツボが重要ですよね。










Buchla Easel K
Buchla Music Easel
Buchla Music Easel Review
Music Easel by Morley Robertson

最後はやっぱりコレ。Moog、Arp、EMSと並ぶシンセサイザー黎明期の 'レジェンド' ともいうべきBuchlaミュージック・シンセサイザーなんですが、2VCOのオシレータ以外でコイツには外部入力があるのですヨ。オリジナルは1972年にたったの25台のみ製作された超絶レアものですけど、それが現在の市場にほぼそのままの音作りで蘇ったのは歓迎したいですね。その外部入力はいわゆるオーディオ信号自体の加工ではなく、VCFとVCAが合体したDLPG、EG、LFOなどをパッチングしてトリガーによる変調ということで 'セミモジュラー' の醍醐味を堪能出来まする。それでは以下、'サウンド&レコーディングマガジン' 2015年4月号でエンジニア、渡部高士氏(W)とマニピュレーター、牛尾憲輔氏(U)によるBuchla Music Easelのレビュー対談をどーぞ。

- まずお2人には、Buchlaシンセのイメージからおうかがいしたいのですが。

W - 珍しい、高い、古い(笑)。僕は楽器屋で一回しか見たことがないんだよ。当時はパッチ・シンセを集め始めたころで、興味はあったんだけど、高過ぎて買えなかった。まあ、今も買えないんだけど(笑)。

U - BuchlaとSergeに関しては、普通のシンセとは話が違いますよね。

- あこがれのブランドという感じですか?

U - そうですね。昨今はモジュラー・シンセがはやっていますが、EurorackからSynthesizer.comなどさまざまな規格がある中で、Buchlaは一貫して最高級です。

W - ほぼオーダーメイドだし、価格を下げなくても売れるんだろうね。今、これと同じ構成のシンセを作ろうとしたらもっと安く組めるとは思うけど、本機と似た構成のCwejman S1 Mk.2も結構いい値段するよね?

- 実際に操作してみて、いかがでしたか?

W - Sergeより簡単だよ。

U - 確かに、Sergeみたいにプリミティブなモジュールを使って "これをオシレータにしろ" ということはないです。でも、Music Easelは普通のアナログ・シンセとは考え方が違うので、動作に慣れるのが大変でした。まず、どのモジュールがどう結線されているのかが分からない・・。

W - そうだね。VCAが普通でないつながり方をしている。

U - 音源としては2基のオシレータを備えていて、通常のオシレータComplex OSCの信号がまずVCA/VCFが合体した2chのモジュールDual Lo Pass Gate(DLPG)に入るんですよね。その後段に2つ目のDLPGがあって、その入力を1つ目のDLPG、変調用のModulation OSC、外部オーディオ入力から選べるようになっている。

W - だから、そこでComplex OSCを選んでも、1つ目のDLPGが閉じていると、そもそも音が出ない・・でも、パッチ・コードで結線しなくてもできることを増やすためにこうした構成になっているわけで、いったん仕組みを理解してしまえば、理にかなっていると思ったな。Envelope Generator(EG)のスライダーの数値が普通と逆で、上に行くほど小さくなっていたのには、さすがにびっくりしたけど。

U - でも、こっちの方が正しかった。

- その "正しい" という理由は?

W - Music EaselのEGはループできるから、オシレータのように使えるわけです。その際、僕らが慣れ親しんだエンヴェロープの操作だと、スライダーが下にあるときは、例えばアタックならタイムが速く、上に行くほど遅くなる。これをオシレータとして考えるとスライダーが上に行くほどピッチが遅くなってしまうよね?だからひっくり返した方がいいと言うか、そもそもそういうふうに使うものだった。時代が進むにつれてシンセに独立したオシレータが搭載されるようになり、エンヴェロープを発振させる考え方が無くなったわけ。

- 初期のシンセサイザーはエンヴェロープを発振させてオシレータにしていたのですか?

W - そう。Sergeはもっとプリミティブだけどね。最近のシンセでも、Nord Nord Lead 3などはARエンヴェロープがループできますよ。シンセによってエンヴェロープ・セクションに 'Loop' という機能が付いているのは、そうした昔の名残なんでしょうね。Music Easelはエンヴェロープで波形も変えられるし、とても面白い。

- オシレータの音自体はいかがでしたか?

W - とても音楽的な柔らかい音がして、良いと思いましたよ。

U - レンジはHigh/Lowで切り替えなければならないのですが、音が連続して変化してくのがいいですね。あとEMSのシンセのように "鍵盤弾かせません!" というオシレータではなくて、鍵盤楽器として作られているという印象でした。

W - EMSは '音を合成する機械' という感じ。その点Music Easelは '楽器' だよね。

U - 本機ではいきなりベース・ライン的な演奏ができましたが、同じようなことをEMSでやるのはすごく大変ですから。

W - 僕が使ったことのあるEMSは、メインテナンスのせいだと思うけど、スケールがズレていたり、そもそも音楽的な音は出なかったけどね。この復刻版は新品だからチューニングが合わせやすいし、音自体もすごく安定している。

U - 確かに、'Frequency' のスライダーには '440' を中心にAのオクターヴが記されていて、チューニングがやりやすいんですよ。

W - そもそも鍵盤にトランスポーズやアルペジエイターが付いていたりと、演奏することを念頭に作られている。

- オシレータのレンジ感は?

W - 音が安定しているからベースも作れると思うよ。だけど、レゾナンスが無かったり、フィルターにCVインが無かったり、プロダクションでシンセ・ベース的な音色が欲しいときにまず手が伸びるタイプではないかな。

- リード的な音色ではいかがですか?

W - いいんじゃないかな。特にFM変調をかけたときはすごくいい音だったよ。かかり方が柔らかいと言うか、音の暴れ方がいい案配だった。普通、フィルターを通さずにFMをかけると硬い音になるんだけど、Music Easelは柔らかい。

U - 僕はパーカッションを作るといいかなと思いました。

W - 'ポコポコ' した音は良かったよね。EGにホールドが付いているから、確かにパーカッションには向いている。でも、意外と何にでも使えるよ。

- 本機はオーディオは内部結線されていて、パッチングできるのはCVのみとなりますが、音作りの自由度と言う観点ではいかがですか?

U - 信号の流れを理解すれば過不足無く使えますが、例えばオシレータをクロスさせることはできないし、万能なわけではないですね。

W - でも、他社の小型セミモジュラー・シンセより全然自由度は高いよ。'パッチ・シンセ' である意味がちゃんとある。

U - 確かに、変なことができそうですね。

W - Pulser/Sequencerのモジュールも入っているし、いろいろと遊べそうだよね。パッチングの色の分け方も分かりやすい。あとバナナ・ケーブルって便利だね!パッチング中に "あれどこだっけ?" と触診するような感じで、実際にプラグを挿さなくても音が確認できるのはすごく便利。ケーブルの上からスタックもできるし。

U - 渡部さんのスタジオにはRoland System-100Mがありますが、Music EaselでできることはSystem-100Mでも実現可能ですか?

W - できると思う。System-100Mにスプリング・リヴァーブはついてないけどね。

- 復刻版の新機能としては、MIDI入力が追加されて、ほかのシーケンサーでMusic Easelをコントロールできるようになりました。

U - 僕が個人的に面白いと思ったのは、オプションのIProgram Cardをインストールすると、Apple iPadなどからWi-Fi経由でMusic Easelのプリセットを管理できるところ。ステージなどで使うには面白いと思います。

W - それはすごくいいアイデアだね。

- テスト中、お2人からは "これは入門機だね" という発言が聞こえましたが。

W - 独特のパラメータ名やしくみを理解してしまえば、決して難しいシンセではないという意味だよ。よく "モジュラー/セミモジュラー・シンセは難しそう" という人がいるけど、ケーブルのつなぎ方さえ分かってしまえば、完全に内部結線されているシンセより、自分が出したい音を作るのは簡単だからね。

U - 1つ目のDLPGにさえ気付けば、取りあえず音は出せますしね。

W - Music Easelで難しいのはオシレータとDLPGの関係とエンヴェロープだね。でも逆に言えば、特殊なのはそこだけとも言える。エンヴェロープが逆になっているのを発見したときは感動したな。シンセの歴史を見た気がしますよ。

U - 音作りの範囲はモノシンセに比べたら広いし、その領域がすごく独特です。

W - このシンセの対抗機種はArp OdysseyやOSC Oscarなどのモノシンセだよ。シーケンサーでSEっぽい表現もできるし、8ビット的な音も出せる。もう1つMIDIコンバータを用意すれば、2オシレータをパラで鳴らしてデュオフォニックになるし。

- ちなみにモジュラー・シンセというと、ノイズやSEというイメージが強かったりしますよね。

U - 確かに、モジュラー系の人はヒステリックな音色に触れがちですよね。

W - 僕はポップスの仕事でもガンガン使っていますよ。モジュラー・シンセはグシャグシャした音を作るものだと思っている人も多いようですが、アナログ・シンセの自由度が広いだけ。まあでも、オシレータに変調をかけていくと、ヒステリックな音にはなりがちだよね。

U - 変調を重ねていく方向にしか目が行かないということもあると思います。

W - でもモジュラー・シンセで本当に面白いのはオーディオの変調ではなくて、CVやトリガーをどうコントロールするかなんだよ。その意味でMusic Easelはちゃんとしている。

- 本機をどんな人に薦めますか?

W - お金に糸目を付けず、ちょっと複雑なモノシンセが欲しい人(笑)。

U - 小さくてデスクの上に置けるのはいいと思います。例えばラップトップだけで作っている人が追加で導入するシンセとしてはどうですか?

W - いろいろなパートを作れていいんじゃないかな。これ一台あれば演奏できるわけだから、その意味で楽器っぽいところが僕はいいと思ったな。鍵盤付きだし、音も安定している。

U - 確かにこれ一台で事足りる・・Music Easelが1stシンセで、"俺はこれで音作りを覚えた!" という人が出てきたら最高ですね(笑)。

W - で、ほかのシンセ触って "エンヴェロープが逆だよ!" って怒るという(笑)。










1960年代後半。あの 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にケン・キージー&メリー・プランクスターズ主宰の '意識変革' の場として機能した 'アシッドテスト' でSEを担当したドン・ブックラ。最先端のNASAから極彩色に塗れたサイケデリアの世界へ 'ドロップアウト' した彼の姿を、ノンフィクション作家トム・ウルフの著作「クール・クールLSD交換テスト」ではこう述べております。

"突如として数百のスピーカーが空間を音楽で満たしていく・・ソプラノのトルネードのようなサウンドだ・・すべてがエレクトロニックで、Buchlaのエレクトロニック・マシンもロジカルな狂人のように叫び声をあげる・・(中略)エレクトロニック・マシンのクランクを回すと、なんとも計算できない音響が結合回路を巡回して、位相数学的に計測された音響のように弾き出された"

そんなBuchlaをヒッピーの世界から一転、アカデミックな環境へと納入されるようになったのは 'San Francisco Tape Center' を設立したモートン・サボトニック。それまでテープ・レコーダーによる実験的音響に精を出していたこの優れた作曲家は、ドン・ブックラと共同で新たにBuchla 100 Series Modular Electronic Music Systemを生み出し、そこから自身の作品 'Silver Apples of The Moon' を世に問いました。当初からブックラとサボトニックはこの新しいアイデアについて意見を闘わせており、それはBuchlaシンセサイザーの基本コンセプトとして現在まで受け継がれております。そんな発想の源にはサボトニック自身が元々クラリネット奏者であったことも含め、後年、この時の出会いと開発時のエピソードとしてこう述べております。

"ドンとは初日から議論を重ねていた。ドンは楽器を作りたがっていたが、わたしは「目指しているのは楽器ではない。最大限近づけて表現するならば、楽器を作るための機材、絵を描くための機材というところだ」と伝えた。ドンは我々が望んでいた機材の本質を理解していなかった。このような考えを持っていたわたしは、鍵盤は不要だと考えていた。昔ながらの音楽制作を繰り返すようなことはしたくなかった。音程を軸にした音楽制作ではなく、奏者のアクションを軸にして音楽制作ができる機材を作りたかったんだ。"


この辺りがMoogやArpとは違う、BuchlaがEMSなどと似た志向を持つ '未知の楽器' モジュラーシンセとしての威厳ですね。これは日本で初めてBuchlaを導入した教育機関である東京藝術大学の '音響研究室' で、その発起人でもあった白砂昭一氏も同様の趣旨のことを述べております。

"僕は最初っから鍵盤の付いているものは忌み嫌ってた。最初から装置であるべきなんです。芸大で教える、アカデミックな世界で考えるシンセサイザーというのはね。なぜNHKがシンセサイザーを買わなかったかというと、要するにキーボード・ミュージックなんですよ。キーボードがあると、発想がもうキーボードになっちゃうんです。ブックラのよさはキーボードがないこと。タッチボードっていうのは、キーボード風に使うこともできるけど、あれは単なるスイッチ群なんです。芸大でモーグを入れたのは、電子音楽にあれを使おうというよりも、新しい楽器の研究としてなんです。ここは楽器の研究設備でもある。モーグは新しい電子楽器としての息吹を持っているから、そういうものは買って調べなきゃいけないってね。"

白砂氏によれば、Buchlaはモートン・サボトニックの作風に影響されてセリーの音楽が組み立てられやすいようにタッチボード・シーケンサーを備え、音の周波数の高さもフィート切り替えではなく20〜20000Hzまでポンと自由に切り替えられるものだと定義しています。まさに鍵盤のふりした感圧センサー、電圧制御でジェネレートする 'トリガー・ミュージック' の操作性にこだわることでBuchlaは音楽の '成層圏' を突き抜けます。