2022年7月15日金曜日

1968年の '飛び道具'

今やあらゆる過去のペダルがその発掘、再評価の対象とされておりますが、その中でも未だ時代の彼方に捨て置かれたもの、これからの '発掘' を待ち望みながら陽の目を見なかったものが数多くあります。また、時代の流行に乗りながらどう使って良いのか分からない '正解ナシ' の意味不明なモノもあり、例えばグリッチやグラニュラー・シンセシスのペダルは早晩そのような対象に指名されるでしょうね。そんな本稿のタイトルはまさにその年の '飛び道具' 以外の何物でもなかった後述する2つの迷機、Honey Super Effect HA-9PとMaestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-1に捧げます。


そして、謎めいた 'ワンオフ' のシグネチュアモデルとしてクラウト・ロックのバンドCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案による巨大な創作サウンド・システム、Alpha 77も早く解明して頂きたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、動画はダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴのスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。シュミットが弾いている右手はFarfisa Organとエレピ、伸ばす左手の先で操作する黒い壁のようなモジュールがそのAlpha 77であり、製作を請け負ったのはスイス・チューリヒにあったHogg Labsという会社でした。それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたJono Podmore氏はこう述べます。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"




またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"









この手の大掛かりなサウンド・システムは、例えばEmpress Effects Zoiaのようなヴァーチャルなモジュールを組み合わせてシミュレートするやり方では再現出来ないんですよねえ。つまり、アナログのペダルをひとつずつセレクトしながらそれらの信号をシリーズ、パラレルで自在にミックス出来るミキサーを軸にした音作りが重要なのです。ある意味、種々の機器を組み合わせることで生まれる偶発性の 'ガジェット的面白さ' ではないでしょうか?。ということで・・・

"リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理..."

の構成を再現すべく?手持ちのペダル類を集めて試してみました(笑)。CarlinのA、Bそれぞれの入出力で和と差を掛け合わせる 'マルチプライヤー' (乗算器)を備えたRing Modulator、スプリング・リヴァーブ+VCFでLFOとCutoffのCVもコントロール出来るKnas The Ekdahl Moisturizer、テープ・エコーは所有していないけどディレイタイムに 'インサート' 出来るMoody Sounds Strange Devil Echoにローファイなコーラスの '飛び道具' Intensive Care Audio Fideleaterをチョイス、ピッチ・シフター/ハーモナイザーはこの時代、ちょうどEventideの高級なHarmonizerがアナウンスされようかという頃でもあり、このAlpha 77では擬似的な 'ギターシンセ' のオクターヴでお茶を濁していたと想定してRed WitchのSynthotronを入れておこう。あとブースト的歪みとコンプレッションとしてCarlin Compressorも追加。これらのセッティングを活かすキモは、A、Bループを前後で入れ替えられる風変わりなループ・セレクターのOK Custom Design Change Box、Old Blood Noise Endeavorsの3チャンネル・ミキサーSignal Blenderやブースト内蔵ループ・ブレンダーのDreadbox Cocktailと効果的に組み合わせることにあります。ここではChange BoxのA、BループそれぞれにSynthotronとThe Ekdahl Moisturizerを繋ぎ前後をスウィッチ、かなりの変態具合です(笑)。またミキサー使用では名古屋の工房、Electrograveから4チャンネル出力を持つパンニング・マシンSearch and Destroy SAD-1(再販希望!)の 'マルチアウト' と組み合わせてみても楽しいでしょう。ステレオ音源はもちろん、ギターからの入力をジョイスティックでグリグリとパンニングさせたり、Autoスイッチを入れてトレモロのテンポをSlowからFast、Normalからブツ切りにするRandomに切り替えることで 'グリッチ風' の効果まで幅広く対応。4つの出力はそれぞれ個別に切り替えることが可能で、50% Dutyスイッチを入れることでモノラルでも十分な空間変調を堪能することが出来まする。え?それで似ているかどうかって?。アレコレやってるうちにそのアイデアだけ頂いて再現とかどうでもよくなってしまいました(苦笑)。ちなみにChange Boxの動画はYoutubeに無いので同種の機能を有するCooper Fxの多目的セレクター、Signal Path Selectorを代わりに上げておきます。というか、ここまで紹介しておきながらこれらニッチな '便利小物' が欠品、もしくは 'ディスコン' 状態であるところにその立ち位置が分かりますね(悲)。

















このようなミキシング・テクニックのスキルを 'ペダル化' したものには、Boardbrain Musicの多目的セレクターTransmutronがあります。本機はパラレルで個別、同時にDry/Wetのミックスが出来るほか 'Fission'、'Fusion'、Fallout' の3種モードにより、2つのLoopの機能を変更することが可能なコンパクト・エフェクターとエクスプレッションCV、'ユーロラック' モジュラーシンセのCVによる統合したスイッチング・システム。今後、ペダルと共にモジュラーシンセにおけるCV/Gateなどと同期する統合システムを見越した一台として、このBoardbrain Musicの挑戦はもっと注目されることになるでしょう。

●Fission
このモードでは、入力された信号の周波数帯を分割し、それぞれを2つのLoopにスプリットして再びミックスして出力出来ます。Umbrella Company Fusion BlenderやVocuのMagic Blend Roomなどと同種の機能ですね。またエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。

●Fusion
このモードでは、2つのLoopのバランスを調整してブレンドすることが出来ます。これらミックスのバランスは筐体真ん中にあるSplitpointツマミ、またはエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。これは廃盤になりましたがDwarfcraft Devices Paraloopと同種の機能に当たります。

●Fallout
このモードでは、2つのLoopの前にワイドノッチ・フィルターを適用して、Splitpointツマミやエクスプレション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。ペダル・コントロールすることでワウのような操作を付加することが出来ます。また本機には、これとは別にHicut、Locutのフィルターを搭載して音作りに適用することが出来ます。

ちなみに本機搭載のフィルターは12dB、24dB、48dB/Octのスロープ角度を選択出来、それぞれFission、Falloutモードのワイドノッチ・フィルターにも適用されます。もちろん、Ch.2のLoopでフェイズアウトが起こった際の位相反転にも対応出来るのは素晴らしい。そして2つのLoopからなる 'Send/Return' にはフォンと 'ユーロラック' モジュラーでお馴染み3.5mmミニプラグが同時対応し、さらにこの3.5mmのLoopには内部DIPスイッチにより楽器レベルとラインレベルで 'インピーダンス' を切り替えて使用することが出来ます。同種の機能を持ったものとしては国産のUmbrella Companyから多目的セレクターのFusion Blenderもありまする。通常のA/Bセレクターのほか、AとBのループをフィルターによる上下帯域分割で '同時がけ' を可能とするなど、コンパクト・エフェクターの使い方にいろいろなアイデアを提供する素敵な一品。また、本機は基盤上の内部ジャンパを差し替えて 'Hi or Loインピーダンス' を切り替えることで、ライン・レベルのエフェクターをギターなどでそのまま使うことが可能。こちらの方が入手しやすいでしょうね。ここでは2台の 'グリッチ系ペダル' Catalinbread CisdmanをTransmutronによる '同時がけ' で偶発的音作りを生成しながら、そのまま '擬似ステレオ' で出力、Strymon Decoの 'Through-Zero Flange' 効果で左右に広げながらOld Blood Noise Endeavorsの3チャンネル・ミキサーSignal Blenderによりミックスさせてみました。ちなみに2つのモノ出力と 'Pan' 機能、楽器/ラインレベル切り替えを備えたものとしては、Land DivicesのLand Mixerという4チャンネル・ミキサーもありましたね。そして、すでに 'ディスコン' ながら2 Loopの 'A+B' ミックスでさらにTRSフォンのほかXLR入出力端子を備えるユニークな多目的ライン・セレクター、Pigtronix Keymasterもユニークな逸品。本機のアイデアとしてDJ用ミキサーを 'コンパクト化' したいという思いから、'Series/Parallel' のトグルスイッチを 'Parallel' にしてエクスプレッション・ペダルでコントロールすることで、AループとBループをシームレスに切り替えることが出来ます。コレ、例えば両ループにループ・サンプラーを繋いでワンショット的なフレイズをサンプリングして、交互に頭出しするブレイクビーツ的な遊びが出来るかもしれません。また本機のXLR入力はファンタム電源が使えないもののダイナミック・マイクを繋ぐことが出来るので、そのまま管楽器での使用が可能!そしてコンパクト・エフェクターからラインレベルの機器に至るまで、幅広い 'インピーダンス・マッチング' を取って統合したサウンド・システムを構成することが出来まする。











そして続行中の 'リンギング・アプローチ' の為に建ててみた、エフェクターボードならぬ 'エフェクタータワー' (笑)。この 'タワー' で流用したのはオシャレに玄関先で靴を収納する金属製シェリフで、これは5段ですけどほかに7段もあります(笑)。ただ、あまり高くするとパワーサプライからの電源供給でDCケーブルが届かなくなるので注意。EX-Proのパワーサプライ内蔵4ループ・セレクターPSS-10に各種ペダルを繋いでおり、Loop 1はToadworksのエンヴェロープ・ジェネレータを内蔵したユニークなループ・セレクターEnveloopにBlackout Effectors Whetstone内蔵の 'Ring & Fix' モード(3:08〜4:20)とSeppuku Fxの '噛み砕くようなノイズ' を生成するモジュレーションMind Warpを各々接続。Whetstoneはこの2種モードにするとRateツマミが 'Ring' で非常に早い細切れスピードとなり、Depthツマミを下げてLFOの可変幅を切り替えるSweepスイッチ(Shallow/Wide)と組み合わせると一風変わったオクターヴ効果に早変わり。一方の 'Fix' はモジュレーションを無効にした揺れということでまさに 'Filter Matrix' 効果であり、そのままRateツマミはマニュアルによるフィルター・スウィープとして 'ワウ半踏み' 風味からチリチリとしたローファイな 'AMラジオ' 効果などを生成します。そして、この 'タワー' を統括するPSS-10をインサートするのは最近中古で手に入れたPresonusの2チャンネル真空管プリアンプ、Acousti-Q。そんな影のような倍音成分からなるアッパー・オクターヴの 'リンギング' 効果な出発点とも言うべきDan ArmstrongのGreen Ringer、Roger MayerとTycobraheによるOctaviaの挑戦は、まさにオクターヴとリング変調の '狭間' で生成する未だ未踏の領域でもありまする。








Loop 2にはWMDの破壊的なマルチ・ディストーションGeiger CounterとDreadboxのエンヴェロープ・ジェネレータ内蔵フィルターEpsilonの組み合わせです。Geiger Counterといえば全てをぶっ潰す 'ビット・クラッシャー' 的歪みの集大成と思われるかも知れませんが、252種用意されているウェーブテーブル式波形の中にはクリーンな音作りで管楽器にハマるものがあります。例えば動画中の 'Clean Lo-Fi' (4:39〜5:23)などはまさに 'リンギング' の最たるものでしょう。Epsilonは歪みの効いたエンヴェロープ・フィルターより、'Playing with Manual Gate' (2:22〜)というラッチングスイッチによるリアルタイムなトリガーでアクセントを付けるのが目的です。'Loop 3はMid-Fi Electronicsのエンヴェロープ制御によるジャンル不能のScrape Flutterに 'エレハモ' のFilter Matrixと同種の効果を出せるCV装備のDreadbox komorebi(木漏れ日)、そしてSunfish Audioのマルチ・エフェクツでローファイな 'Old Vinyl' がオススメのIkigai(生きがい)をチョイス。Komorebiは基本的にコーラス&フランジャーとしてDeluxe Electric Mistress辺りを参考にした機能がメインなのですが、Static、Rate、LFO OutのCV入出力と共に 'Ringi-SH' (3:27〜)として爽やかな効果から一転極悪な匂いが漂います。続くSunfish AudioのIkigai(生きがい)も国産の新たな工房として一味違うスパイスを効かせたラインナップを誇り、そのプリセットは1 - Tremolo/Ring Modulator、2 - Old Vinyl、3 - Filter Sample & Hold、4 - Fuzz、5 - Organ Simulator、6 - Crystal Delay、7 - Talking Filter、8 - Random Samplerの8種を用意。ここでのお気に入りは1の 'Tremolo/Ring Mod' と2の 'Old Vinyl' のザラ付いた質感ですね。そして最後のLoop 4にはアクセントとして、いわゆるターンテーブルの '電源落とし' 効果を備えるCatalinbread Coliolis Effect。基本的にはピッチシフトとエンヴェロープ・フィルター、Hold機能による 'グリッチ' 的効果に特化してリアルタイムにMission Engineering Expressionatorを介してエクスプレッション・ペダルを操作します。特にここでは 'Tape Stop & Stutters' (0:52〜2:28)でのギュイ〜ンとした時に逆再生風にも聴こえる感じがたまりませんね。ともかく、ここでの各種ペダルのチョイスは完全に原音を無調で狂わす '飛び道具' にすることではなく、あくまで原音は確保しながらその微かな倍音生成の演出として 'リンギング' させることにあるのです。








世にエフェクターと呼ばれるアタッチメントが登場したのは1940年代後半。いわゆるヴォリューム・ペダルに至っては戦前の1930年代にスティール・ギター用の製品がすでに用意されており、その戦後の開拓期の時点でオイル式のトレモロやスプリング・リヴァーブ、初めて磁気テープ式エコー 'EchoSonic' を内蔵したRay Butts製ギターアンプ、また後に 'トーキング・モジュレーター' と呼ばれる原初的な製品から1970年代に開花する 'ギターシンセ' のルーツ的製品でもあるVoxのV251 Guitar Organなどが考案されるなど、人間の音に対する特殊効果の類いへの探究心はそのままテクノロジーの進歩と共に軌を一としました。ちなみにそのGuitar Organに顕著なように、結局は今弾いているのがオルガンなのか?ギターなのか?といった '音当てゲーム' 的ブラインドフィールド・テストの域を出なかったところに '新製品' ゆえの苦闘の歴史が屍の如く立ち塞がります。こーいうのはサンプラー登場時に猫の鳴き声で鍵盤弾けます、みたいな頃まで伝統的に引きずっていて(笑)、分かりやすいんだけど一方では使い方の範疇、発想を阻害する要因にもなってしまいましたね。そんな誤解も受けて 'あるモノ' は時代の狭間に消えながら、それでもユーザーの '何か' に一石を投じようとメーカーが市場に開陳する(未だ何ものでもない) '飛び道具' の数々・・。




Arbiter Add-A-Sound

そして、磁気ディスク式エコーではイタリアのBinson Echorecに比べてマイナーな存在ながら一部に熱狂的な愛好者もいるArbiterのSoundimensionとSoundette。この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名ですね。またアッパー・オクターヴの効果を持つAdd-A-Soundはフランク・ザッパも愛用しました。そんなSoundimensionはジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。後には自らミキシング・コンソールの前を陣取り 'Dub Specialist' の名でダブ・ミックスを手掛けますが、そんな彼のスタジオ 'Studio One' でドッドの片腕としてエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"





一方である時期、ある時代に流行したペダルの組み合わせから提案する '革命' というのがあります。MXRはそのカラフルな筐体と手のひらサイズのスタイリッシュなデザインで、それまで高価で大仰な '装置' と呼ぶに相応しい1970年代のエフェクター市場に大きな衝撃を起こしました。そのMXRを代表するペダルが真っ赤なコンプレッサーDyna CompとオレンジのフェイザーPhase 90の2つであり、その後の各社カタログの先鞭を付けた '70年代鉄板の音作り'。コンプを '飛び道具' というのはいまいちピンとこないでしょうね。つまり、それまで '縁の下の力持ち' の如くレコーディング・スタジオのテクニックのひとつであったものを、当時の '新兵器' であるフェイザーと共に奏者へ投げ付けてきた技術者からの '挑戦状' とも言えるのです。さて、この 'コンプ+フェイズ' の提案としてはそのMXR以前、Maestroの手によりThe Sustainer SS-1とPhase Shifter PS-1の組み合わせがあり、これをコピーしたと思しき国産のRoland AS-1 Sustainer、Electro-HarmonixのBlack Finger などが市場に開陳されておりました。ただ、あくまでピークを抑えてサスティンを伸ばすだけが目的だった 'サスティナー' が歪みのヴァリエーションである 'ファズ・サスティナー' と両義で用意されていたのに対し、MXRのDyna Compは明確に 'コンプレッサー' という圧縮に焦点を絞った '質感生成' を目的にしたものであるということ。それまでの先入観としてあった踏めば明確に音が変わってこそ 'エフェクツ' であるいう価値観は、このサスティナー/コンプレッサーと呼ばれる製品が市場に投入されることで奏者自身のタッチ、レスポンスといった奏法とセットで音作りする意識へと変わるエポックメイキングの出来事だと言えますね。もはや、わざわざ筐体に 'Distortion - Free' などと注意書きをする黎明期は終わったことを告げたのがDyna Compの功績なのです。





こちらがその定番の先駆であるMXR Dyna CompとPhase 90。わたしの所有品はヴィンテージではなく、MXRが 'Custom Shop' の限定品として2007年と2008年に立て続けに発売した'74 Vintage Phase 90 CSP-026と'76 Vintage Dyna Comp CSP-028となります。中古で購入した時点でどっかの工房がモディファイしたと思しきLEDとDC端子が増設されておりましたが、こういった往年の 'ヴィンテージトーン' が現代のシーンに復刻される意味を考えましたね。特に現代のエフェクターにおいて '原音重視' やナチュラル・コンプレッションなどが持て囃される昨今、いかにもダイナミズムをギュッと均すコンプは、時に演奏の細かなニュアンスを潰す '悪役' として敬遠されてしまうのも事実。そんな1970年代には当たり前であったコンプレッサーでしか出来ない圧縮を演出の '滲み' として捉えるとき、そのDyna Compが現在の市場でも変わらず製造されている意味とは何なのであろうか?。そんなヒントとして現在でも愛用者であるギタリストの土屋昌巳氏はこう述べております。

"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"







ちなみにそのMXRのカタログの中でも唯一無二の '飛び道具' とされているのが変態の青い箱(笑)、Blue Box。この単純にオクターヴ下を付加していわゆる '擬似ギターシンセ' 風なトーンを生成する本機は、1974年の軽量 'Budケース' のものと1976年のそれぞれ 'スクリプト・ロゴ' なヤツを手に入れました。本機のウィークポイントである 'Output' の低さをクリーンブースト内蔵のループ・ブレンダー、Dreadbox Cocktailで底上げしながらミックスして愛用中。ジェフ・ベック1976年の作品 'Wired' 収録の一曲 'Come Dancing' で聴けるブリブリとしたソロこそ最良のリファレンスなのですが、一方ではベック使用のオクターバーはバイパススイッチを増設したColorsound Octivider+ファズという説も有力ですね(汗)。また、Snarky Puppyのラッパ吹きであるMike 'Maz' Maherがフリューゲルホーンとワウペダルを組み合わせて 'ギターソロ' のように吹くスタイルも圧巻です。






そして、このMXR製品をベンチマークするように現れたのが元Kustom Amplification出身のBud Rossが興した工房、Rossになります。その代表格となったのがグレーの筐体でお馴染みRoss Compressorであり、基本的な回路はDyna Compをベースとしながら出音は極端な圧縮と真逆の 'ナチュラルコンプ' として現在のヴィンテージ市場で '殿堂入り' を果たしております。続くPhaserにDistortionと、ほぼMXRのカタログに追従するラインナップを誇りながら単なるコピーに止まらない個性を備えていたのは流石ですね。そんなRossの伝統を創業者の意志を継いだ孫らにより2019年に 'Ross Audibles' として復活させたのがこの 'Gray' Compressorと 'Tan'  Distortion。未だにヴィンテージ品は米国製初期、後期、台湾製などが市場を賑わせておりますが、この復刻版もかなりの再現度ながら、世界的に枯渇するアナログのパーツやコロナ禍により市場への供給が不安定のまま現在活動停止中の模様・・。








さて、ここで巷に溢れる現行のコンプレッサーについて言わせてもらえれば、Empress、Becos、Origin Effects、FMR Audio etc...現在ではさらに細かなパラメータと高品質な音色が '売り' の製品が市場を賑わせております。大抵は従来の 'ヴィンテージコンプ' にあった圧縮メインでダイナミズムを変えてしまう効果を避けて、いわゆるUreiなどの 'スタジオ機器' に象徴されるスレッショルドやレシオ、機種によってはサイドチェインの機能などを盛り込み不自然にならないコンプレッションをペダルで実現しております。ここでわたしがセレクトしたのは基本的に単純で古臭いコンプレッションのペダルばかりなのですが、コンプレッサーはそのパラメータが増えるほど操作が扱いにくく目的とする音色に容易に近付けません。そして、ここでの目的はコンプを通すことによる '質感' が大事なのであり、むしろ製品ごとの個性が強いものほどフィルターと組み合わせたことによる '趣旨' に叶うものでもあります。ちなみにそのRossとDyna Compは回路的にはほぼ '従兄弟' のような関係ということで(笑)、ここでは日本を代表するギタリスト鈴木茂氏と佐橋佳幸氏、そして最近人気急上昇中の 'Funk Ojisan' たちによる 'コンプ動画' をどーぞ。ちなみにその鈴木氏の動画ではRossとDyna Compの回路的ルーツとしてMaestroのThe Sustainerを上げて、入力部がロー・インピーダンスゆえにギターでは適正でなかったと指摘されておりますけど、実はそのMaestroの初代SS-1の入力部は 'Hi / Lo' のインピーダンス切り替え仕様となっておりまする。









世界初の 'コンパクト・フェイザー' (というには大きな筐体ですが)であるMaestro Phase Shifter PS-1をトム・オーバーハイムがデザインした1年後、その修理品をテリー・シェアウッドとキース・バールの2人からなる工房に持ち込まれたことで一念発起、まさにオレンジ色の '手のひらサイズ' にまでサイズダウンしたのがMXR Phase 90です。Maestroが市場を開拓しMXRの登場で火の付いたこの 'フェイザー・ブーム' は、名門Fenderの 'ツイストする' Phaserはもちろん、Electro-HarmonixのBad StoneとSmall Stoneをそれぞれデザインしたボブ・ベドナーズとデイヴィッド・コッカレル、マイク・ビーゲルの手がけるMusitronicsからMu-Tron Phaserやそれを2台搭載したBi-Phaseなど、その広がりは世界的規模で1970年代の音楽シーンを一変させました。






最近人気の面白いYoutuber?って言って良いのかわからんけど(笑)、楽器販売からリペア、オリジナルのペダルまで手がける 'Funk Ojisan' のフェイザー特集。お店の在庫から個人のマニアックな私物まで結構な数のフェイザー特集を動画でやっております。そして、必ずこの 'Ojisan' たちが基板の匂いを嗅ぐというところまでがモノの魅力を放っているのは素晴らしい・・(笑)。あのヴィンテージなMaestroのペダル群で 'Dr.ペッパー・ライク' に漂う異国の '甘い香り' とか、分かる人いないかなあ...(苦笑)。








そんなMXRのDyna CompとPhase 90の衝撃は大西洋を渡り、遠く北欧の '僻地' とも言うべきスウェーデンのNils Olof Carlinなる若者の心を動かします。2016年に同地の工房Moody Soundsからの復刻によってその存在を知ったCarlinのペダルは、工房を興したNils Olof Carlinの手により1970年代初めにPhase PedalとCompressorを各々100台弱生産しました。このキャリアは後のBjorn Juhl主宰の工房、BJFEへと続くスウェーデン最初の 'ペダル・デザイナー' という称号を得た瞬間でもあります。その他、Carlinの手がけた当時の製品としては僅か3台のみ製作したというイレギュラー品のRing Modulatorが確認されており、またオクターバーの試作なども試みていたとのこと。そんなCarlin製品の第一号であり独自の設計と謳っている 'ペダル・フェイザー' のPhase Pedalは、まるでUni-Vibeのような電球とCDSをプラスティックのチューブで囲って可変させる8段フェイズシフトでエグみより爽やかなフェイズ効果に特徴があります。あのPedal Shop Cult主宰の細川雄一郎氏も所有されているようですね。そんな当時の状況を 'Effects Database' によるCarlin本人へのインタビューが残されているのでどーぞ。

- Carlinという工房はどのように始めたのでしょうか?。

C - 60年代後半〜70年代初めの学生時代、わたしは南スウェーデンの大学街で幾人かのミュージシャンと知り合いでした。わたしは電子機器を試したり、他の人に自分のアイデアを試してもらうことに熱心でした(わたし自身はミュージシャンとしてはあまり上手ではありませんでした)。これがわたしの小さなビジネス立ち上げのきっかけとなり、最初は近県のフレンドリーな楽器ディーラーを介して配布、後にスウェーデンの他のショップでも小売を始めました。わたしの知る限り、位相変調のフェイズ効果は自分自身の発明でした。他のビルダーは大抵、既製品の後から同様の解決策を考え出していました。また通常、周期的な効果を出すために発振器を使用しています。しかし、ワウワウのようにペダルで位相効果を制御することでは少々異なっていました。コンプレッサーに関しては、そのインスピレーションについて多分積極的ではなかったと思います。これはCarlinの楽器ディーラーがわたしに別のブランドのペダルを見せて、それをもっと向上させることは可能か?と聞いてきました。そのペダルをリヴァース・エンジニアリングして試してみることとなり、そして改良に成功したと感じました。

- Carlinという名前はどこから来たのですか?。

C - わたしの家族の名前ですよ。

- なぜ生産を終了したのでしょうか?。

C - わたしは70年代初め頃の数年間その事業に没頭していましたが、特に将来性もなく自身で管理できる規模の利益はほとんどありませんでした。わたしは自身の研究とキャリアについて改めて考え直さなければなりませんでした。





もうひとつは同地の工房Moody Soundsが、自身のHPのフォーラムでCarlin本人との思い出を語っております。Moody Soundsはそのペダル復刻のために、晩年のCarlin本人とコンタクトを取って監修と再設計をお願いしていました。当時の電球とCDSが使用不可となったことから白色LEDをベースに再設計、新たな筐体によるCarlin PhaserのデザインをしたのはCarlin本人なのです。そんなMoody Soundsは現在、BJFEのBjorn Juhlがデザインしたペダルのキット販売も手がけており、スウェーデンの 'ブティック・エフェクター市場' における中心地の役割も果たしていますね。そのナチュラルな効果で唯一無二のスウェーデン産BJF ElectronicsのPale Green Compressorは、Bjorn Juhlの名を知らしめた代表的製品のひとつです。ザ・ビートルズが当時のアビーロード・スタジオで用いたコンプレッサー、RS-124(Altec436BのEMIモディファイ)が本機製作のきっかけとのこと。最近のナチュラルなコンプレスの潮流に倣ったトーンから真ん中のツマミ 'Body' を回すことで空間的な幅の調整がイジれます。このBJFEの音は世界に認められてお隣フィンランドのブランド、Mad ProfessorからForest Green Compressor、さらに米国のブランドBear FootからPale Green Compressorとしてそれぞれライセンス生産による 'Re-Product' モデルが登場。動画はそのPale Greenの後継機に当たるPine Green CompressorとBear Footのものですが、本家BJFEとしては2002年の登場以降、淡いグリーンのニトロセルロースラッカーから深いグリーンへの変更と共にPine Green Compressorへ変わります。ここでフォトセルと 'Body' を司る単軸二連ポットが変更されて3ノブ、4ノブ、5ノブの仕様と共に現在に至ります。わたしのチョイスは不定期にPedal Shop Cultがオーダーする初期Pale Green Compressorの '2020復刻ヴァージョン'。ちなみにCarlin Compressorの方はMoody Sounds製のほかCreepy Fingersが手がけたもの、米国ブルックリン在住のスウェーデン人ビルダーであるStromer氏が精巧なクローンのGeorge Compressorとしても製作しております。

"ウチの顧客がスウェーデンのクラシックなCarlin Compressorのクローンを作成出来るのかどうか尋ねてきたことがきっかけとなり、わたしはCarlin本人と知り合いになりました。その送ってきた回路図にはCarlinのメールアドレスが付いていたので連絡を取り、クローン作成についての許可を取ったのです。そして電子機器について多くの興味深い話を直接交わしました。彼は毎年8月に天文学者のための年次総会がここで開催される時に工房へ寄ってくれました(注・Carlinは天文学への興味から自身の器具や望遠鏡などを設計していました)。彼はスウェーデン初のペダル・デザイナーなのですが、その歴史についてわたしが多くを語れるかどうかは分かりません。わたしたちはその過去についてあまり話しませんでしたが、より多くの新しい回路のアイデアについては話し合いました。ミュージシャンのPeps Personが1975年の作品 'Hög Standard' のライナーノーツでCarlinへの謝辞を述べる言葉があることも分かりました。彼はまた4013オクターヴダウンのペダル(CMOSフリップフロップのCD4013)も設計しましたが、そちらは市販されることはありませんでした。そしてRing Modulatorも70年代の設計でクールな回路です。当時、彼はそれをわずかしか製作しませんでしたが、後に回路をアップグレードしたクローンのキットとして販売したところ多くの人に高く評価されました。彼が当時、その '多く' を製作していたペダルはCompressorとPhase Pedalの2つだけでした。彼はわたしにそれがいくつ作られたのかを教えてくれましたが、大体どちらも100前後の製作数だったと思います。"

このCarlinのPhase Pedalは例えばMXR Phase 90などと比較するとあっさり、ウネりのない爽やかな感じで単体だと物足りなく思えてしまうと思います。しかし、そもそも本機の設計思想の出発点としてオールパス・フィルターによるフェイズ効果を 'ペダル・フェイザー' というリアルタイム操作することに主眼を置いたものとすれば、実は発想自体がモジュレーションではなくトーン・コントロールのワウ操作からCompressorと組み合わせて使うことこそCarlinが意図していたものなんじゃないか、と思えるんですよね。










そんなCarlin Compressorの特徴でもある '歪むコンプ' の質感生成。自嘲気味に他社製品のリヴァース・エンジニアリングとCarlin本人は言ってましたが、その個性的な 'Distツマミ' に現れる 'サチュレーション' は、いわゆる 'ファズ・サスティナー' とは別にスタジオで使用するアウトボード機器で珍重された '飛び道具コンプ'、Spectra SonicsのModel 610 Complimiter (現行はSpectra 1964のModel V610)を取り上げないワケにはいきません。1969年に発売以降、なんと現在まで同スペックのまま一貫したヴィンテージの姿で生産される本機は、-40dBm固定のスレッショルドでインプットによりかかり方を調整、その入力レベルによりコンプからリミッターへと対応してアタック、リリース・タイムがそれぞれ変化します。クリーントーンはもちろんですが、本機最大の特徴はアウトプットを回し切ることで 'サチュレーション' を超えた倍音としての '歪み' を獲得出来ること。上のドラムの動画にも顕著ですけど一時期、ブレイクビーツなどでパンパンに潰しまくったような '質感' で重宝されたことがありました。その個性的なコンプの味はAPIやNeveのモジュール、Urei 1176などの流れに続き、今後Spectra 1964からの 'ペダル化' を願って新たなブームを期待したいですね。また一方、Ampex 456テープとStuder A-80マルチトラック・レコーダーによる '質感' をアナログで再現したRoger Mayer 456は、オープンリール・テープの訛る感じとバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションに特徴があります。本機の大きなInputツマミを回すことで 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整。キモはその突っ込んだ '質感' を 'Presence' ツマミで調整する音抜けの塩梅にあります。ちなみに 'わたしの好きなペダル10選' があれば入るくらいのお気に入りですね。










このコンプ感と 'サチュレーション' に特化したものとしては、いわゆるプラグインのDSPテクノロジーからもたらされた 'ローファイ' 系エフェクターがこちら。この名称、機能をコンパクト・エフェクターで初めて具現化したIbanezの 'Tone-Lok' シリーズ中の迷機がLF7 Lo Fi。まさにギタリストからDJ、ラッパーのような人たちにまでその裾野を広げたことは、この入力部にGuitar、Drums、Micの3種切り替えスイッチを設けていることからも分かります。それを引き継いだのか?、そのまま新たな 'ローファイ' の価値観によるモジュレーションのかたちとして提示したのがこちら、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky。さすがエフェクター界の奇才、Zachary Vexが手がけたその着眼点は、いわゆるアナログ・レコードの持つチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものというから面白い。特に真ん中に配置された 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな陽気と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。さらに現在の 'ローファイ' 対決としてZ.Vex Effects Instant  Lo-Fi JunkyとCooper Fx Generation Lossの比較動画もありますが、その後、Chase Bliss Audioとの 'コラボ' による2019年限定版を経ていよいよ待望のMk.Ⅱがこの9月に登場します!。続くRecovery Effects Cutting Room Floorはピッチ・モジュレーション・エコーの変異系で、モメンタリー・スイッチによる 'Freeze' 効果からCV入力によるシンセサイズの変調など、グリッチの音作りまでカバーする幅広いもの。そしてHungry Robot PedalsのThe Wardenclyffeではローパス、ハイパスのフィルタリングとリヴァーブの 'アンビエンス' 含めて演出するなど、この分野に終わりはありません。






さらにイタリアからTEFI Vintage Lab.なる新興の工房の新たな 'ローファイ・プロセッサー' であるGolden Eraが登場。TemplesのリーダーであるJames Edward Bagshawのアイデアから生み出されたとのことで、いわゆるテープにおけるアナログ・レコーディングの '質感' を生成します。6つのツマミのうち 'WOB.dpt' でテープの摩耗と不安定なワウ・フラッターの再現、'WRP.dpt' でその音ズレの深さを調整しながら 'Noise' を混ぜて行くことで歪んだ世界が表出します。こちらも個人工房ゆえの少量生産による入手難な人気ペダルとなりまする。そして現在のペダル市場で気炎を吐くChase Bliss AudioのWarped Vinyl。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Hi Fiは従来のモデルに 'Hi Fi' 的抜けの良さを加味したもので、アナログでありながらデジタルでコントロールする 'ハイブリッド' な音作りに感嘆して頂きたい。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面に備えられた 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。タップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのMXRサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。そして今や '消息不明' なオーストラリアの謎めいた工房、Seppuku Fxの 'ガービッジ' なアート作品と言うべきKompakt Kasette。そして、サチュレーションやテープコンプの '質感' をお求めであれば最近MIDI対応などのマイナーチェンジされたStrymonのDeco V2はいかがでしょうか?。DSPの 'アナログ・モデリング' の技術を用いて、'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleのブレンドから 'テープ・フランジング' のモジュレーションまで生成。このStrymon各製品は楽器レベルからラインレベル、そして入力に 'インサート・ケーブル' を用いることでステレオ入出力にも対応とあらゆる環境で威力を発揮します。いわゆるモジュレーション効果の変異系と捉えられがちなこの 'ローファイ系ペダル' ですけど、むしろ 'ガッツリ' ではなく '小さじ' で原音に対して塗してやればトーンにエッジが付加されて良い塩梅となるでしょう(やり過ぎると逆に抜けの悪いトーンとなってしまうのでご注意あれ)。






最後は謎多き一台というか、1970年代の数多あるエフェクター・ブランドの中で未だ '発掘調査' の進んでいないGretschのFreq-Fazeをご紹介しましょう。一般的にコンプレッサーと呼ばれるエフェクターは単体のほか、冒頭の 'ファズ・サスティナー' を筆頭に歪み系ペダルとの '2 in 1' で製品化される場合が多いですね。その中でもこのFreq-Fazeは唯一無二の 'コンプ+フェイズ' をひとつの製品として組み込んでしまった "なぜそうなる?" が具現化された珍品。このGretschのペダルといえばExpandafuzz、トレモロのTremofect、管楽器用オクターバーであるTone Divider、またイタリアのJen ElettronicaがOEMで製作してGretschが 'Playboy' ブランドで販売したHF Modulatorなどもありましたが、どれも一般的知名度の低い 'レアもの' 扱いとあってこのFreq-Fazeも滅多に市場へ姿を現すことはありません。ちなみにそのJenからは 'Tone Benderライク' な筐体のシリーズでDynamic SustainerとKPS-900 Phase Shifterが各々ラインナップされておりましたね。さて、この 'コンプ+フェイズ' 以外でも本機が実に奇妙な仕様となっているのは、まず卓上に乗せるような 'ハーフラック・サイズ' であること。多分、キーボードの上に鎮座して使うことを想定させておきながら、いわゆる '尻尾の生えた' AC電源仕様ではなくまさかのDC9V電池駆動のみなのは・・なぜ?。エフェクツのOn/Offは筐体前面のトグルスイッチで行うのですが、筐体後面に回るとIn/Out端子のほかに蓋がされている。多分、ここにオプションのフットスイッチ繋いでOn/Offさせるつもりだったらしく、これも特に実用化されずに蓋をされてしまったということは色々と頓挫していた模様(苦笑)。この時代ならではのかなりガッツリとかかるコンプがフェイズの倍音を際立たせる効果で、こういう意外な組み合わせは再評価しても面白いでしょうね。いま作るのなら(上述したOK Custom DesignやCooper Fxのセレクターのような) 'フリップ' するスイッチでフェイザーの前後を各々入れ替えられる仕様で製品化してみたい。













こんなGretsch Freq-Fazeのような組み合わせなんかあるワケない、と思っていたら、そうそう、この怪しげなガレージ工房の製品がありました。コンプをベースにステレオ・リヴァーブとコーラス・エコーを組み合わせた複合機、Neon EggのPlanetariumはそのビザールな佇まいから興味をそそられます。ある意味その 'ガレージ丸出し' なアナログシンセ的筐体から生成されるサウンドは、Attack、Release、Ratioに加えて優秀なサイドチェイン・コントロールで 'ダッキング' による音作りを約束。これもV.2で従来のデュアル・モノからリアル・ステレオ仕様となり、DC9VからDC15Vに上げられることでよりヘッドルームの広いコンプレッションを実現します。そして2つのリヴァーブとコーラスから3つの異なるアルゴリズムを選択して、Sizeツマミは2つのリヴァーブ・サイズとホール・リヴァーブを追加。EchoセクションはMix、Time、Feedbackに加えてモジュレーションの部分で正弦波と方形波の選択と共にワウフラッター的不安定な揺れまでカバー。まあ、これはいわゆるコンプレッサーというよりVCAによる 'サイドチェイン' に特化した音作りということで、かなりイレギュラーな珍品ではありますけどね。ちなみに同種の効果では、英国の奇才にして 'マッド・サイエンティスト'  でもあるDavid Rainger主宰の工房、Rainger FxからMinor Concussionがありまする。基本的なトレモロのほか、外部CVや付属のダイナミック・マイクをトリガーに ' サイドチェイン' でVCAと同期してReleaseによるエンヴェロープを操作できるなどかなりの '変態具合' です。そんな本機の後継機としては現在、同工房からより小型化したマイナーチェンジ版のDeep Space Pulserが用意されております。








そして、エフェクター最初の黄金期を迎えたともいえる1960年代後半のロックによる '世界同時革命' は、まさにサイケデリックの価値観を '1粒の世界' で具現化した幻覚剤LSDの服用による '意識の拡張' から多くのパラダイム・シフトを呼び越しました。まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もないまま、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していたものを各々応用した後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。









そんな想像上の追体験は、このエフェクター黎明期特有の現象として技術者の実験、暴走、戯れ、勘違いから奇妙な効果が続々と市場に投げ付けられては時代の彼方に埋もれてしまったものが数多あります。例えば、この時代の 'レジェンド' として君臨する技術者、あの数々の革新をもたらしたHoneyの製品開発に携わった三枝文夫氏は後に京王技研(Korg)で製品化した '飛び道具' ペダル、Synthesizer Traveller F-1の 'Singing' 効果についてこう述べます。

"F-1には 'Singing' という発振のスイッチがありましてね。「誰かうまく使う人が出てくるんじゃないかな」くらいの軽い気持ちで、そういう機能を付けちゃいましたね、当時は。今は作る段階で細かい使い方を想定しますよね。量産することが前提だからどうしても構えてしまう。その反面、昔はもっと気楽でした。金型はほとんど使わないから失敗しても傷が浅くて済む。たまにヒットすれば、こりゃ嬉しいねって感じで(笑)。 -中略-  エフェクターに関して言うと、新しいエフェクトが生まれないのはなぜか?と思います。物や情報が有り余り、既存の製品に囚われ、かえって発想が制限されるからでしょうか。昔はとにかく物もなく、情報もなく、実現する素材も貧弱で、そして機能を表わす言葉もなかった。今は空間系とか歪み系とか、なにかとジャンル分けしようとするでしょ。ジャンル分けしようとすると、かえって考える範囲を狭くしちゃうんじゃないかと私は思うんです。例えば歪み系と言われたら歪みの中でしかものを考えてないですね。言葉があるとそれが重しになってくる。昔は言葉がなかったから、何をやっても良かったんですよ。"

この 'レジェンド' 三枝文夫氏のお言葉は深い。そう、未だ未知の物体であったシンセサイザー前夜ともいうべき時代にあれこれ試行錯誤していた実験精神は、すでに海の向こうで始まっていたMoog、Buchla、EMS、Arpの考え方と全く違うところから '世界同時革命' に参加していたということ。三枝氏自身が名付けた 'Traveller' という言葉ひとつ取っても、欧米のVCFとは似て非なるところで共鳴しているのです。国産シンセサイザーの第一号でもあるMini Korg 700で結実したその '三枝VCF' はF-1以降、VCF FK-1、Mr. Multi FK-2、X-911 Guitar Synthesizerに到るまで面々と受け継がれて行きます。











そして伊達に 'ジャパノイズ' の国ではないということで、この手の 'ノイズペダル' は国産も負けておりません。すでに50年以上前のペダル・エフェクター黎明期にその名を刻んだHoneyから登場したSuper Effect HA-9P。まだまだアジアの下請けであった高度経済成長期の日本から市場に現れた本機は、その '本家' であるHoneyを始めに英国のRose-Morrisや米国の大手Unicordと提携。そこからShaftesbury、Uni-Vox、Appolo、National、Greco、Elektra、Jax、L.R.E.、Cromwell、Sam Ash、Sekova etc..といった数々のブランド名と共にOEMとして海を渡って行きました。このHA-9Pはワウペダルとヴォリューム・ペダルに加えて、'発想の源' である波(Surf)と風(Wind)とサイレンの効果音を発生させる技術者の漲ったアイデアが素晴らしい。そんなSuper Effectは僅か2年半ちょっとの起業であったHoneyにおいて初期、後期の2種が確認されており、初期型は単に 'Wind' という表記でした。続く後期型から 'Tornado' (竜巻)と表記変更されたまま後継の新映電気以降、その 'Tornado' のほか 'Hurricane' の表記などで輸出されながらついに商品名自体が本来の効果とは関係なく、まさに 'エキサイトなペダル' というイメージだけで 'Exciter' の商標名までパクってしまいました(苦笑)。


Guyatone HG-208 Surf Deluxe 8 Strings Lap Steel Guitar

ちなみにこの 'Surf' はほぼ同時期、Guyatoneが当時のハワイアン・ブームに乗っかり発売したスチール・ギター搭載の 'Surf' 効果と同じなんじゃないですか!?。多分、この 'Surf' スイッチ押して波の効果音をバックにウィ〜ンとやるのが目的なんだろうけど期せずして初の 'エフェクト内蔵ギター' になりました(笑)。もしかしてコレはHoneyのOEM製品なのでしょうか?。






そのユニークな存在からエフェクター黎明期と ' サイケな時代' を象徴するカラフルなスイッチを備えたRhythm 'n Sound for Guitar。ファズとオクターバー、3種のトーン・フィルターを備えながらギターのトリガーで鳴らすリズムボックスを加えたことで、現在まで異色のユニットとして時代の評価に埋もれたままの存在となっております。1968年登場のG1は当時のフランク・ザッパがVoxワウペダル(と後2つほど歪み系?エフェクターを確認)やヘッドアンプのAcoustic 260と共にステージで使用しているのが動画で確認されており、多分ザッパは本機内蔵の3種からなる 'Color Tones' の 'ワウ半踏み風' フィルタリングトーンに強い関心を示していたと思われ・・ると思いきや、ザッパの機材を詳細に解説するMick Ekers著の 'Zappa Gear: The Unique Guitars, Amplifiers, Effects Units, Keyboards and Studio Equipment' によれば、同シリーズの姉妹機である管楽器用Sound System for Woodwinds W-2とのこと。う〜ん、あえて管楽器用を使いますか・・(謎)。この時期のステージ画像ではホーン陣のバンク・ガードナー、イアン・アンダーウッドらが用いるMaestro Sound System for Woodwindsのツマミを同時に触ってまで音作りの '指揮' をするザッパに驚きます(笑)。ちなみに本機は専用スタンドやアンプなどに置いて使う仕様から、筐体前面に被せてセッティングをメモするチートシートが付属しておりました。








Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-2

そんな初代G1ではBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載し、この時代では先駆だったオクターバーにして 'ウッドベース' のシミュレートとも言うべきString Bass、Fuzz Bassの2種、そして 'ワウ半踏み' 風なトーン・フィルターのColor Tonesを3種備えておりました。このG1も翌69年にはG2として大々的にヴァージョンアップし、当時のHoney Psychedelic Machineと並んでより 'マルチ・エフェクツ化' します。G2ではパーカッションからBass Drumを省きオクターバーもString Bassひとつになった代わりにMaestro伝統のFuzz Toneを搭載、Color Tonesも2種に絞られました。







Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-2

そしてトレモロのEcho Repeatに加えて1969年にして先駆的な機能がもうひとつ搭載されます。それが1972年のMusitronics Mu-Tron Ⅲに先駆けて製品化された世界初のエンヴェロープ・フィルター、Wow Wowです。ちなみにこのG2のユーザーとしてはエディ・ハリスのグループに在籍したベーシスト、メルヴィン・ジャクソンがLimelightからのアルバム 'Funky Skull' でジャケットにもEchoplexと共に堂々登場。全編、そのトボけた 'Wow Wow' 効果をファジーかつオクターヴな音色にブレンドさせて変態的ウッドベースを奏でております。また、ジャマイカのダブ・マスターであるリー・ペリーも 'BlackArk' スタジオと共にG-2を所有しており、KorgのリズムボックスMini Pops 3のOEM、Uni-Vox SR-55を全編で鳴らした 'Chim Chim Cherie' や 'One Punch' に 'Clave' などを混ぜて多用しておりました。









一方、日本を代表する作曲家にして 'シンセシスト' でもある冨田勲氏もそんなエフェクターの端緒を開く特殊効果に人一倍関心を持っていたレジェンドであります。1971年の 'Moogシンセ' 導入直前から師事、後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏は当時の富田氏の制作環境についてこのように述懐しております。ちなみに松武氏が富田氏の下から独立した直後の代表的な仕事のひとつが日本テレビのドキュメンタリー番組 '驚異の世界' のオープニング曲。この後半30秒のジングルの中に漲るプログレ全開のポリリズムが素晴らしい。また、前半部のデモ音源ではRhythm 'n Sound for Guitar G-2のパーカッションをアクセントにかなりテンポの違うアレンジで試されていたんですね。

"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"

このLudwig Phase Ⅱで聴ける '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。そんな同曲の '隠し味' 的存在なのが独特なシンバル音であり、これがRhythm 'n Sound for Guitar G-2の 'Tam-bourine' をトリガーで鳴らしているとのことで一聴すれば・・確かに(笑)。






このRhythm 'n Sound for Guitarと組み合わせてみたいのが、Gibsonの手により名門Maestroを復活させて登場したDiscoverer Delay。そういえばテープ・エコーの名機Echoplexに固執して1970年代の 'BBD競争' に乗らなかったMaestroは、実は今回のDiscoverer Delayが同社初のBBDディレイなんだと気が付きました。中身の方はまあ、フツーに想定通りの良いハイブリッドなアナログ感ですけど、とりあえず新生Maestro復活の 'ご祝儀代' 含め(笑)安価だったので買ってみました。今後、Gibsonからは過去のカタログからオリジナル通りの '復刻' (すでに2002年にはFZ-1Aを完全復刻済み)もあるとアナウンスしているので期待しておりまする。さて、こんな '全時代的シロモノ' をどう扱っていくべきか?。特にパーカッションのトリガーによる繊細さと言うか、きちんとスタッカート気味に一定のタッチで入力してやらないと 'ダダッ' みたいな二度打ちするエラーを味わえます。そんな時代遅れにユニゾンで鳴らす使いにくさを現代の '文明の利器'、ループ・サンプラーを駆使して '一人アンサンブル' を組み立てていく方が今の使い方。動画では、ギターの音色をファズにトーン・コントロール2種で変化を付けて、オクターバーはベースにしてエンヴェロープ・フィルターでソロ弾き、マシンガン・トレモロを空間系のディレイの味付けとして合わせてみましょうか。今年から始まったGibsonによる 'Maestro復刻' のカタログに本機が候補に入っているのかは分かりませんが、例えばその現代版としてループ・サンプラーとMIDI同期を備えたより 'DAW' と連携した仕様などは予測出来るでしょう。また昔はパーカッションの音源自体を同社のリズムボックスRhythm Kingから流用しており、当時の基準でもかなりチープなサウンドだったものが現代版ではどうなるのか?などなど・・。とにかくユニークな唯一無二の '迷機' であることは間違いないですね。







そんなSuper EffectやRhythm 'n Sound for Guitarなどが市場を賑わせていた頃、1972年のイタリアではEkoにより製作されたプログラミング機能を持つリズムマシン、Computerhythmが登場します。この1970年代のSF映画の小道具に出てきそうなズラッと並ぶ 'ウルトラ警備隊' 的ボタン(笑)にパンチカードを読み込んで鳴らすビザールな仕様は、現代のPolyend TrackerやSeqのような機器にときめくユーザーなら興奮すること間違いなし(やれることは全く比較になりませんが・・苦笑)。アシュラ・テンペルのマニュエル・ゲッチングやフランスの作曲家ジャン・ミッシェル・ジャールが愛用していたことも影響してか、当然eBayやReverb.comでも余裕で100万を超える超レアものですね。そんなビザールな機材紹介でお馴染みHainbachさんの 'お宅紹介' とも言うべき、これまたヨダレ垂涎の '宅録スタジオ' でございます。もう、動画から溢れる機材を隈なく探してしまう '機材廃人' の悲しい性・・(苦笑)。












Forgotten Heros: Pete Cosey

ちなみにこちらはポータブル・シンセサイザーとして現代音楽からジャズ、プログレッシヴ・ロックの分野で大成功した英国のEMS。1971年に登場したSynthiは多くのユーザーを獲得しましたが、その中でもユニークなのがマイルス・デイビス・グループの一員であった巨漢の奇才ギタリスト、ピート・コージー。まだまだモノフォニックのアナログ・シンセ黎明期、1975年の来日公演時に記憶媒体のない本機をSonyのカセット・レコーダー 'Densuke' と共に用いることで、実に前衛的な 'ライヴ・エレクトロニクス' の効果を生み出しておりました。基本的にバンド・アンサンブルのSEとしてノイズ放出担当ではありますが、あの 'Maiysha' でのウネりまくるコージーのギターはMXR Phase 90を全開にしてSynthi Aの外部入力から突っ込みLFOで揺らしてるんじゃないか?と推測しております。オリジナルのEMS製品はeBayやReverb.comなどでどれも '天井知らず' なほど高騰しておりとても手の出るものではありませんが(汗)、そんなコージーとEMS Synthi Aについて当時の 'スイングジャーナル' 誌でもこう取り上げられております。

"果たせるかな、マイルスの日本公演に関しては「さすがにスゴい!」から「ウム、どうもあの電化サウンドはわからん」まで賛否両論、巷のファンのうるさいこと。いや、今回のマイルス公演に関しては、評論家の間でも意見はどうやら真っ二つに割れた感じ。ところで今回、マイルス・デイビス七重奏団が日本公演で駆使したアンプ、スピーカー、各楽器の総重量はなんと12トン(前回公演時はわずかに4トン!)。主催者側の読売新聞社が楽器類の運搬に一番苦労したというのも頷ける話だ。その巨大な音響装置から今回送り出されたエレクトリック・サウンドの中でファン、関係者をギョッとさせたのが、ギターのピート・コージーが秘密兵器として持参した 'Synthi' と呼ばれるポータブル・シンセサイザーの威力。ピートはロンドン製だと語っていたが、アタッシュケースほどのこの 'Synthi' は、オルガン的サウンドからフルートやサックスなど各種楽器に近い音を出すほか、ステージ両サイドの花道に設置された計8個の巨大なスピーカーから出る音を、左右チャンネルの使い分けで位相を移動させることができ、聴き手を右往左往させたのも実はこの 'Synthi' の威力だったわけ。ちなみにピートは、ワウワウ3台、変調器(注・フェイザーのMXR Phase 90のこと)、ファズトーン(注・Maestro Fuzz Toneのこと)などを隠し持ってギターと共にそれらを駆使していたわけである。"








そして、一風変わったEMSの愛好者としては作家の安部公房もその一人だったりします(笑)。劇伴用のSEというか、まあ、ヒマな時間についつい触って 'あっちの世界' に意識を飛ばしたくなっちゃう時があるんでしょうねえ。この安部氏所有の一台はいま何処に?。またEMS初期の '擬似ギターシンセ' ということで、当時の '万博世代' から現在の 'Apple信者' まで喜びそうな近未来的デザインのSynthi Hi-Fliも登場。この時期の技術革新とエフェクツによる '中毒性' はスタジオのエンジニアからプログレに代表される音作りに至るまで広く普及します。現在、このEMSは過去製品の 'リビルド' をDigitana Electronicsを中心に会社は存続しており、個人的にはコレをAppleが買収して、電源Onと共に光る '🍏' マークを付けた 'Apple / EMS Synthi Hi-Fli' の名で復刻して頂きたい。さて、このシンセサイザーについては世界で誰よりも知り尽くしている男、ブライアン・イーノのお言葉を拝聴しなければなりません。'アンビエント' を提唱し、常に音響設計とその作用、インターフェイスについてポップ・ミュージックの分野で研究してきた者の着眼点は音楽を聴く上での良い刺激をもたらしてくれます。しかし日本製品のインターフェイスをこき下ろしてEMSの簡便なアプローチを賞賛しながら、一方では超難度なFM音源を持つ日本の名機、Yamaha DX-7のオペレートにも精通しているのがイーノらしい(笑)。ちなみにEMS SynthiもBuchla Music Easel同様に外部入力を持っており、内蔵オシレータの代わりにリズムボックスやギターなどあらゆる楽器を突っ込んで 'エフェクター' として音色加工出来る楽しさがありまする。

- 今でもEMSを使っていますか?。

E - 使っている。これにしかできないことがあるんでね。よくやるのは曲の中でダダダダダといったパルスを発生させたいとき、マイクを使って楽器の音をこのリング・モジュレーターに入れるんだ。それから・・(ジョイスティックを操作しながら)こうやって話すこともできるんだよ。

- プロデュースやセッションをする際にはいつもEMSを持ち込んでいるのでしょうか?。

E - (「YES」とシンセで答えている)。

- 最後までそれだと困るのですが・・。

E - (まだやっている)・・(笑)。でも本当に重宝な機械だよ。フィルターもリング・モジュレーターも素晴らしく、他の楽器を入れるのに役立つ。

- 大抵エフェクターとして使うのですか?。

E - これはノイズを発生させるための機械、あるいは新しい音楽のための楽器なんだ。これをキーボードのように弾こうと思わない方がいい。でも、これまではできなかったものすごくエキサイティングで新しいことがたくさんできる。

- どこが他のシンセサイザーと違うのでしょう?。

E - ほかのシンセサイザーでは失われてしまった設計原理が生きているからだ。原理は3つある。第1の原理は、これがノンリニアであるということ。現代のシンセサイザーは、すべて既に内蔵されたロジックがあって、大抵はオシレータ→フィルター→エンヴェロープといった順序になっている。だが、EMSだとオシレータからフィルターへ行って、フィルターがLFOをコントロールし、LFOがエンヴェロープをコントロールし、エンヴェロープがオシレータをコントロールするといったことができるんだ。とても複雑なループを作ることができるので、複雑な音を出すことができるんだよ。現実の世界というのもまさにそうやって音が生み出されている。決まった順序によってのみ物事が起こるわけではなく、とても複雑なフィードバックや相互作用があるんだ。

第2の原理はやっていることが目に見えるということ。シンセサイザーのデザインを台無しにしてしまったのは日本人だ。素晴らしいシンセサイザーは作ったが、インターフェイスの面ではまるで悪夢だよ。ボタンを押しながら15回もスクロールしてやっと求めるパラメータに行きつくなんてね。それに比べるとEMSは使いやすい。パフォーマンスをしている最中にもいろんなことができるから、即座に違った感じの音楽が出来上がるんだ。ボディ・ランゲージが音楽に影響を及ぼすんだよ。ボディ・ランゲージがあまりないと、窮屈で細かくて正確で退屈な音楽しか生まれないし、豊かだとクレイジーな音楽が生まれるんだ。

第3の原理は、これにはスピーカーを含めてすべてが組み込まれているので他のものを接続する必要がないということ。私がいかに早くこれをセットアップしたか見ただろう?もしもこれが現代のシンセサイザーだったら、まずケーブルを探して、オーディオセットの裏側に回って配線しないといけない。あれこれグチャグチャやってるうちに、恐らく私は出て行ってしまうだろうね。私はもう歳だから気が短いんだよ。


さて、そんなMoog、Arp、EMSと並ぶシンセサイザー黎明期の 'レジェンド' ともいうべきBuchlaミュージック・シンセサイザー。ヒステリックなまでに 'ノイズ生成器' として君臨するのがEMSだとすれば、このBuchlaは、スペーシーに深遠なる宇宙の果てへ飛ばされるような底なしの 'ブラックホール' 的音作りからまるで顕微鏡を覗き込むような微細なノイズの生成変化のざわめき、そして陽射し溢れる木漏れ日の中で寝そべっているような多幸感に包まれる優しい響きまで自由自在。これぞBuchlaの 'シンセサイズ' がもたらす個性ですね。

そのBuchlaを代表するMusic Easelは、オリジナル機が1973年にわずか25台のみ製作された超レアもの。その他、Buchlaの製作するパッチ式の 'モジュラーシンセ' は一部電子音響作家、大学などの教育機関を除いてほぼ市場で流通することのないものでした。その内の一台の '使い手' として知られるのがヴィンテージな16 Second Digital Delayと共に使用した電子音楽作家、チャールズ・コーエン。そして復活した新生Music Easelを以下、'サウンド&レコーディングマガジン' 2015年4月号でエンジニア、渡部高士氏(W)とマニピュレーター、牛尾憲輔氏(U)によるBuchla Music Easelのレビュー対談でどーぞ。

- まずお2人には、Buchlaシンセのイメージからおうかがいしたいのですが。

W - 珍しい、高い、古い(笑)。僕は楽器屋で一回しか見たことがないんだよ。当時はパッチ・シンセを集め始めたころで、興味はあったんだけど、高過ぎて買えなかった。まあ、今も買えないんだけど(笑)。

U - BuchlaとSergeに関しては、普通のシンセとは話が違いますよね。

- あこがれのブランドという感じですか?。

U - そうですね。昨今はモジュラー・シンセがはやっていますが、EurorackからSynthesizer.comなどさまざまな規格がある中で、Buchlaは一貫して最高級です。

W - ほぼオーダーメイドだし、価格を下げなくても売れるんだろうね。今、これと同じ構成のシンセを作ろうとしたらもっと安く組めるとは思うけど、本機と似た構成のCwejman S1 Mk.2も結構いい値段するよね?。

- 実際に操作してみて、いかがでしたか?。

W - Sergeより簡単だよ。

U - 確かに、Sergeみたいにプリミティブなモジュールを使って "これをオシレータにしろ" ということはないです。でも、Music Easelは普通のアナログ・シンセとは考え方が違うので、動作に慣れるのが大変でした。まず、どのモジュールがどう結線されているのかが分からない・・。

W - そうだね。VCAが普通でないつながり方をしている。

U - 音源としては2基のオシレータを備えていて、通常のオシレータComplex OSCの信号がまずVCA/VCFが合体した2chのモジュールDual Lo Pass Gate(DLPG)に入るんですよね。その後段に2つ目のDLPGがあって、その入力を1つ目のDLPG、変調用のModulation OSC、外部オーディオ入力から選べるようになっている。

W - だから、そこでComplex OSCを選んでも、1つ目のDLPGが閉じていると、そもそも音が出ない・・でも、パッチ・コードで結線しなくてもできることを増やすためにこうした構成になっているわけで、いったん仕組みを理解してしまえば、理にかなっていると思ったな。Envelope Generator(EG)のスライダーの数値が普通と逆で、上に行くほど小さくなっていたのには、さすがにびっくりしたけど。

U - でも、こっちの方が正しかった。

- その "正しい" という理由は?。

W - Music EaselのEGはループできるから、オシレータのように使えるわけです。その際、僕らが慣れ親しんだエンヴェロープの操作だと、スライダーが下にあるときは、例えばアタックならタイムが速く、上に行くほど遅くなる。これをオシレータとして考えるとスライダーが上に行くほどピッチが遅くなってしまうよね?だからひっくり返した方がいいと言うか、そもそもそういうふうに使うものだった。時代が進むにつれてシンセに独立したオシレータが搭載されるようになり、エンヴェロープを発振させる考え方が無くなったわけ。

- 初期のシンセサイザーはエンヴェロープを発振させてオシレータにしていたのですか?。

W - そう。Sergeはもっとプリミティブだけどね。最近のシンセでも、Nord Nord Lead 3などはARエンヴェロープがループできますよ。シンセによってエンヴェロープ・セクションに 'Loop' という機能が付いているのは、そうした昔の名残なんでしょうね。Music Easelはエンヴェロープで波形も変えられるし、とても面白い。

- オシレータの音自体はいかがでしたか?。

W - とても音楽的な柔らかい音がして、良いと思いましたよ。

U - レンジはHigh/Lowで切り替えなければならないのですが、音が連続して変化してくのがいいですね。あとEMSのシンセのように "鍵盤弾かせません!" というオシレータではなくて、鍵盤楽器として作られているという印象でした。

W - EMSは '音を合成する機械' という感じ。その点Music Easelは '楽器' だよね。

U - 本機ではいきなりベース・ライン的な演奏ができましたが、同じようなことをEMSでやるのはすごく大変ですから。

W - 僕が使ったことのあるEMSは、メインテナンスのせいだと思うけど、スケールがズレていたり、そもそも音楽的な音は出なかったけどね。この復刻版は新品だからチューニングが合わせやすいし、音自体もすごく安定している。

U - 確かに、'Frequency' のスライダーには '440' を中心にAのオクターヴが記されていて、チューニングがやりやすいんですよ。

W - そもそも鍵盤にトランスポーズやアルペジエイターが付いていたりと、演奏することを念頭に作られている。

- オシレータのレンジ感は?。

W - 音が安定しているからベースも作れると思うよ。だけど、レゾナンスが無かったり、フィルターにCVインが無かったり、プロダクションでシンセ・ベース的な音色が欲しいときにまず手が伸びるタイプではないかな。

- リード的な音色ではいかがですか?。

W - いいんじゃないかな。特にFM変調をかけたときはすごくいい音だったよ。かかり方が柔らかいと言うか、音の暴れ方がいい案配だった。普通、フィルターを通さずにFMをかけると硬い音になるんだけど、Music Easelは柔らかい。

U - 僕はパーカッションを作るといいかなと思いました。

W - 'ポコポコ' した音は良かったよね。EGにホールドが付いているから、確かにパーカッションには向いている。でも、意外と何にでも使えるよ。

- 本機はオーディオは内部結線されていて、パッチングできるのはCVのみとなりますが、音作りの自由度と言う観点ではいかがですか?。

U - 信号の流れを理解すれば過不足無く使えますが、例えばオシレータをクロスさせることはできないし、万能なわけではないですね。

W - でも、他社の小型セミモジュラー・シンセより全然自由度は高いよ。'パッチ・シンセ' である意味がちゃんとある。

U - 確かに、変なことができそうですね。

W - Pulser/Sequencerのモジュールも入っているし、いろいろと遊べそうだよね。パッチングの色の分け方も分かりやすい。あとバナナ・ケーブルって便利だね!パッチング中に "あれどこだっけ?" と触診するような感じで、実際にプラグを挿さなくても音が確認できるのはすごく便利。ケーブルの上からスタックもできるし。

U - 渡部さんのスタジオにはRoland System 100Mがありますが、Music EaselでできることはSystem 100Mでも実現可能ですか?。

W - できると思う。System 100Mにスプリング・リヴァーブはついてないけどね。

- 復刻版の新機能としては、MIDI入力が追加されて、ほかのシーケンサーでMusic Easelをコントロールできるようになりました。

U - 僕が個人的に面白いと思ったのは、オプションのIProgram Cardをインストールすると、Apple iPadなどからWi-Fi経由でMusic Easelのプリセットを管理できるところ。ステージなどで使うには面白いと思います。

W - それはすごくいいアイデアだね。

- テスト中、お2人からは "これは入門機だね" という発言が聞こえましたが。

W - 独特のパラメータ名やしくみを理解してしまえば、決して難しいシンセではないという意味だよ。よく "モジュラー/セミモジュラー・シンセは難しそう" という人がいるけど、ケーブルのつなぎ方さえ分かってしまえば、完全に内部結線されているシンセより、自分が出したい音を作るのは簡単だからね。

U - 1つ目のDLPGにさえ気付けば、取りあえず音は出せますしね。

W - Music Easelで難しいのはオシレータとDLPGの関係とエンヴェロープだね。でも逆に言えば、特殊なのはそこだけとも言える。エンヴェロープが逆になっているのを発見したときは感動したな。シンセの歴史を見た気がしますよ。

U - 音作りの範囲はモノシンセに比べたら広いし、その領域がすごく独特です。

W - このシンセの対抗機種はArp OdysseyやOSC Oscarなどのモノシンセだよ。シーケンサーでSEっぽい表現もできるし、8ビット的な音も出せる。もう1つMIDIコンバータを用意すれば、2オシレータをパラで鳴らしてデュオフォニックになるし。

- ちなみにモジュラー・シンセというと、ノイズやSEというイメージが強かったりしますよね。

U - 確かに、モジュラー系の人はヒステリックな音色に触れがちですよね。

W - 僕はポップスの仕事でもガンガン使っていますよ。モジュラー・シンセはグシャグシャした音を作るものだと思っている人も多いようですが、アナログ・シンセの自由度が広いだけ。まあでも、オシレータに変調をかけていくと、ヒステリックな音にはなりがちだよね。

U - 変調を重ねていく方向にしか目が行かないということもあると思います。

W - でもモジュラー・シンセで本当に面白いのはオーディオの変調ではなくて、CVやトリガーをどうコントロールするかなんだよ。その意味でMusic Easelはちゃんとしている。

- 本機をどんな人に薦めますか?。

W - お金に糸目を付けず、ちょっと複雑なモノシンセが欲しい人(笑)。

U - 小さくてデスクの上に置けるのはいいと思います。例えばラップトップだけで作っている人が追加で導入するシンセとしてはどうですか?。

W - いろいろなパートを作れていいんじゃないかな。これ一台あれば演奏できるわけだから、その意味で楽器っぽいところが僕はいいと思ったな。鍵盤付きだし、音も安定している。

U - 確かにこれ一台で事足りる・・Music Easelが1stシンセで、"俺はこれで音作りを覚えた!" という人が出てきたら最高ですね(笑)。

W - で、ほかのシンセ触って "エンヴェロープが逆だよ!" って怒るという(笑)。








Buchla Easel Card Doubler

さて、この時代のアナログシンセは基本的に音色のプログラムは出来ないのが一般的でしたが、本機には2枚のブランク基板が用意されて最良なセッティング時に抵抗などをユーザーが基板にハンダ付け、そのままプログラム・カードとして保存することが可能。現在の復刻版ではそれに加えてPCやiPadなどとWifiを経由して管理、エディットなどを行えるiProgram Cardを用意しております。そして、Music Easel弾きながらフォークトロニカ風ポップで歌うJeanieさんやDestiny 71zの 'インプロ一発' によるMusic Easelの即興的音作りは格好良いですねえ。本機はArp Odysseyのように基本的な構成はすでに組み込まれている 'セミ・モジュラーシンセ' なのですが、いわゆる 'CV/Gate' の電圧制御でどのようにコントロールするかによって剥き出しのノイズを '手懐けていく' かが醍醐味のひとつ。オーディオの変調ではなくキャンバスに絵筆を滑らせための 'デザイン' をどう生成していくかが重要なのです。





さらに追加のJeanieさん特集(笑)。しかしMake Noiseの 'ユーロラック' モジュラーはもちろん、Music Easelに加えてBuchlaの200eというモジュラーのシステムまで追加するとは凄いですね。この手のマニアックなモジュラー人気が若いコたちの敷居を下げて受け入れられているのは良い兆候です。日本にもこーいうアプローチでやっているコはいると思うんだけど、最近の '音楽の蓄積' に対する低下というか、卑近なものだけをロールモデルにして消費している傾向?は少々危惧しているんですよね・・・。膨大なサブスクという 'アーカイブの山' を前にして能動的に音楽を摂取する根気のあるコっているんだろうか?(謎)。












Bugbrand PT Delay Standard ②

そして、Music Easelにはフォンによるメイン出力のほかミニプラグによる出力があり、これとミニプラグの 'Aux In' を繋いでそのまま入力、過激なフィードバックの生成が可能。Music Easelとループ・サンプラーの組み合わせではJeanieさんもやっておられますが、わたしの懲りない 'ガジェット好き' の悪い虫が騒ぎ出し、Mid-Fi Electronicsのチープなローファイ・サンプラーLSD1820 Propaganda Moduleと英国のガレージ工房Bugbrandの 'ローファイ' なPT Delayを繋いだ 'シンセサイズ' による拡張も実験してみましょうか。そのLSD1820は内蔵のチープなコンタクトマイクで拾い、ICレコーダーのメモリー利用によりそのサンプルレートで '質感' を変えられます。またGateを入れることでサンプルのDecayを操作してリズムメイクにまで変調、単なるプレイバック・マシンではありません。一方、'アナログ・モデリング' のディレイではお馴染みPT2399のICを用いたのがこのPT Delay、本機を選んだ最大の理由が、動画のものは通常のフォン端子仕様ですけどわたしの所有品はCV入力がバナナプラグになっている!。つまりMusic EaselからのCVでコントロールして、ディレイタイムを最大2秒ほど伸ばしながらグリッチの生成に威力を発揮します。また、本機のディレイ音のみを 'Delay Out→Feedback' の 'センド・リターン' にして外部ペダルを繋げばさらに攻撃的ディレイへと変貌、最高ですね。まさにバナナプラグが基本仕様のBuchlaユーザーなら手を出さない理由はないでしょう。ちなみにこの 'Aux In' にはプリアンプが内蔵されているので、ギターを繋ぎLFOで揺らせばトレモロの代用にもなりまする(笑)。もちろん、トランペットのピックアップからの入力で変調させても面白い。














Buchla on L.S.D.

50年以上の時間を経て '小さな付着物' からもたらされた幻覚・・怖い。わたしのMusic Easelのパネル面に '怪しい物質' は塗られておりませんが(笑)、あの 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にケン・キージー&メリー・プランクスターズ主宰の '意識変革' の場として機能した 'アシッドテスト' でSEを担当したドン・ブックラ。最先端のNASAから極彩色に塗れたサイケデリアの世界へ 'ドロップアウト' した彼の姿を、ノンフィクション作家トム・ウルフの著作「クール・クールLSD交換テスト」ではこう述べられております。

"突如として数百のスピーカーが空間を音楽で満たしていく・・ソプラノのトルネードのようなサウンドだ・・すべてがエレクトロニックで、Buchlaのエレクトロニック・マシンもロジカルな狂人のように叫び声をあげる・・(中略)エレクトロニック・マシンのクランクを回すと、なんとも計算できない音響が結合回路を巡回して、位相数学的に計測された音響のように弾き出された"





さて、そんなBuchlaをヒッピーの世界から一転、アカデミックな環境へと納入されるようになったのは 'San Francisco Tape Center' を設立したモートン・サボトニック。それまでテープ・レコーダーによる実験的音響に精を出していたこの優れた作曲家は、ドン・ブックラと共同で新たにBuchla 100 Series Modular Electronic Music Systemを生み出すこととなります。当初からブックラとサボトニックはこの新しいアイデアについて意見を闘わせており、それはBuchlaシンセサイザーの基本コンセプトとして現在まで受け継がれております。そんな発想の源にはサボトニック自身が元々クラリネット奏者であったことも含め、後年、この時の出会いと開発時のエピソードとしてこう述べております。

"ドンとは初日から議論を重ねていた。ドンは楽器を作りたがっていたが、わたしは「目指しているのは楽器ではない。最大限近づけて表現するならば、楽器を作るための機材、絵を描くための機材というところだ」と伝えた。ドンは我々が望んでいた機材の本質を理解していなかった。このような考えを持っていたわたしは、鍵盤は不要だと考えていた。昔ながらの音楽制作を繰り返すようなことはしたくなかった。音程を軸にした音楽制作ではなく、奏者のアクションを軸にして音楽制作ができる機材を作りたかったんだ。"

この辺りがMoogやArpとは違う、BuchlaがEMSなどと似た志向を持つ '未知の楽器' モジュラーシンセとしての威厳ですね。これは日本で初めてBuchlaを導入した教育機関である東京藝術大学の '音響研究室' で、その発起人でもあった白砂昭一氏が同様の趣旨のことを述べておりました。

"僕は最初っから鍵盤の付いているものは忌み嫌ってた。最初から装置であるべきなんです。芸大で教える、アカデミックな世界で考えるシンセサイザーというのはね。なぜNHKがシンセサイザーを買わなかったかというと、要するにキーボード・ミュージックなんですよ。キーボードがあると、発想がもうキーボードになっちゃうんです。ブックラのよさはキーボードがないこと。タッチボードっていうのは、キーボード風に使うこともできるけど、あれは単なるスイッチ群なんです。芸大でモーグを入れたのは、電子音楽にあれを使おうというよりも、新しい楽器の研究としてなんです。ここは楽器の研究設備でもある。モーグは新しい電子楽器としての息吹を持っているから、そういうものは買って調べなきゃいけないってね。"

白砂氏によれば、Buchlaはモートン・サボトニックの作風に影響されてセリーの音楽が組み立てられやすいようにタッチボード・シーケンサーを備え、音の周波数の高さもフィート切り替えではなく20〜20000Hzまでポンと自由に切り替えられるものだと見ているそうですが、まさに鍵盤のふりした感圧センサー、電圧制御でジェネレートする 'トリガー・ミュージック' の操作性にこだわることでBuchlaは音楽の '成層圏' を突き抜けます。