2018年9月4日火曜日

再び '質感生成' の旅に出る

以前、'質感に携わるものたちへ' や '5月の '質感' 実験室'という項でも書いたのですが、この '質感' というヤツと管楽器の 'アンプリファイ' について、もう少し追求してみたいという欲求があるんですよね。目的は 'アンプリファイ' という環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、ピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音' を '作ろう' という試みなのです。





Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ ①
Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ ②
Urei / Universal Audio 565T Filter Set

以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

- そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S - 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

- それはだれかが先にやってたんですか?

W - 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S - 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W - 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

- しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S - 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W - それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S - で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W - 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S - ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W - フィディリティって '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

- 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W - それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

- フィルターとEQの違いは何ですか?

S - 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W - 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S - エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

- そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W - お手軽にいい音になるというかね。

S - 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

- しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W - それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

- 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W - 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S - それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W - よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

- 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W - ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S - 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W - System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S - 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W - 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

- 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W - それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

- トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W - 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S - それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W - 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S - Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

- エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W - エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S - 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W - 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S - 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

- 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S - それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスはしっていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W - 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

- ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S - 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W - ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

- 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S - デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W - それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S - 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W - それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S - どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。



Electrix EQ Killer + Filter Queen
Electrix EQ Killer + Filter Queen Review

以前に紹介したものはオートワウや 'ローファイ' もの、シンセサイズするフィルターなど、かなりエフェクティヴに '質感' 自体を変えてしまうもの中心でしたが、今回取り上げるのはなかなかに 'プラシーボ' 的なエッジ、各帯域を補正する難物ばかり。EQのようにも思えますが、各帯域の位相などに影響を及ぼすEQと比べて、例えばMoogやArpのVCF、VCAに外部入力すると単純にMoogやArpの '匂い' になるその機材特有の '質感' を求めるということと同義です。







しかし効果自体はそういった 'シンセサイズ' と違い、一聴して直ぐにその効果を把握できるものではないのだから悩ましい・・。面白そうだと慌てて購入して、何だよコレ、変わんねーじゃねーかよ!と直ぐに投げ出してしまいたくなるものばかりですが(苦笑)、ずーっと使ってみて突然 'Off' にした時、実はその恩恵を受けていたことを強く実感するもの。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムとしてここにお届けします。











JHS Pedals Colour Box

そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階で切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。上の動画だけ見ても管楽器奏者の認知度は上がっておりますね。



API TranZformer GT
API TranZformer LX

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサーと2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能ですね。





Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?





Pettyjohn Electronics Filter

こちらはPettyjohn Electronicsのその名もFilter。と言っても 'シンセサイズ' のフィルターではなくEQ的発想からギターの '質感' を整えていくもの。中身を覗くとなかなかにレアなオペアンプ、コンデンサーなど豪華なパーツがずらりと並びこだわりが感じられます。本機もまた、JHS Pedals Colour Box同様にアナログ・コンソールのEQ回路(たぶんNeveでしょう)をベースに設計されたようで、ギターの帯域に向けながら、あえて 'EQ' ではなく 'Filter' と称して極端な '位相乱れ' を廃し、あくまで '質感' の生成に特化したものだということが分かります。







Terry Audio The White Rabbit Deluxe

そんなPettyjohnとは真逆なガレージ臭プンプンのTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。







NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force ②

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをライヴやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで '付加' する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのも面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。



Hatena ? The Spice ①
Hatena ? The Spice ②

ちなみにこの工房はNeotenicSoundの前にHatena?というブランドを展開し、Magical Forceの源流ともいうべきActive Spiceという製品で一躍その名を築きました。このThe Spiceはまさに最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミズムのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。Magical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整する音量のVolumeの他はかなり異色なもの。音圧を調整するSencitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、Tightスイッチはその名の通り締まったトーンとなりOn/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となりまする。







Maestro Parametric Filter MPF-1
Stone Deaf Fx

MaestroのParametric Filterは、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することで生み出されました。本機特有の 'フィルタリング' はやはり1990年代以降の '質感世代' に再評価されることとなり、とにかく何でも通してみる・・ジャリジャリと荒い感じとなったり、'ハイ落ち' する代わりに太い低域が強調されたりすれば、それはもう 'ベッドルーム・テクノ世代' の求める '質感' へと変貌します。後にMoogはこれを '歪み系' のエフェクターに特化したMinifooger MF Driveとして蘇らせましたが、英国の工房、Stone Deaf FxからもPDF-2として登場。本機は 'Clean' と 'Dirty' の2つのチャンネルで切り替えて使うことが可能でおお、便利〜。また、専用のエクスプレッション・ペダルを用いればエンヴェロープ・フィルターからフェイザー風の効果まで堪能できる優れモノ。管楽器においては適度なクランチは 'サチュレーション' 効果も見込まれますが、完全に歪ませちゃうとニュアンスも潰れちゃう、ノイズ成分も上がる、ハウリングの嵐に見舞われてしまうので慎重に '歪ませる' のがこれら設定の 'キモ' なのです。



Pigtronix Disnortion Micro

Youtubeでも積極的にラッパの 'アンプリファイ' を推奨するカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがPigtronixのアッパー・オクターヴなディストーション、Disnortionでのデモ動画。しかし、さすがにコンデンサー・マイクのセッティングではほとんど歪ませることが出来ず、ほぼサチュレーション的倍音の '質感生成' に終始した音作りですね。ワウも踏んでおりますがかなりコンプでピークを潰しながらハウる寸前・・。すでにこの 'でっかいヴァージョン' は廃盤ですが、現在はより小型なDisnortion Microとしてラインナップ。









Elektron Analog Heat HFX-1
Elektron Analog Heat HFX-1 Review
Elektron Analog Heat Mk.Ⅱ

ここまでは基本的にギター、ベース用のコンパクト・エフェクターに絞った '質感' ものを取り上げてきましたが、このテクノ系シンセやドラムマシン、サンプラーなどを製作するスウェーデンのElektronが送り出した 'Audio Enhancer / Audio Destroyer' のAnalog Heatが面白い。その名の如くアナログ的に倍音やトーンを破壊するくらい変えてしまうのですが、Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。これは例えば、Boss VE-20 Vocal Processor内蔵の '歪み系' が管楽器に対して有効であるのと同じ理屈で使いやすいのです。さて、その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。すでにこのHFX-1は廃盤となり、現在では大型LCDを備えたMk.Ⅱにモデルチェンジしておりますが、管楽器で理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメ!





OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit

こちらはフランスのOTO Machinesから登場の 'Desktop Warming Unit' と題したBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。おお、これはAnalog Heatの 'ライバル機' といって良いでしょうね。

Dr. Lake KP-Adapter

ちなみにこれらステレオ入出力、ラインレベルの機器をコンパクト・エフェクターと同時に使用する場合は、新潟の楽器店あぽろんプロデュースのDr. Lake KP-Adapterのインサートで使用するのが便利です。











Audio-Technica VP-01 Slick Fly
Zorg Effects Blow !
Radial Engineering EXTC-SA

ここまで紹介してきた機器はプリアンプ的機能を持ったものもあり、例えば、管楽器用に特化した 'インサート' 付きプリアンプなどと共に使うとピークを割って歪んでしまう場合があるのでレベル合わせには注意が必要です。個人的には直列で繋いでからパッシヴのDIで出力した方が使いやすいんじゃないかな、と思いますね。もしくはマイクからそのままライン・ミキサーへ入力した後、Radial Engineering EXTC-SAのような 'リアンプ' でバスアウトから 'インサート' する、または 'センド・リターン' で原音とミックスするかたちでの接続がベター。動画は 'ユーロラック' サイズの '500 Series' で用意されたもの。









さて、いかがだったでしょうか。これらはプリアンプやブースターの機能も持ち合わせながら、その '質感' を過剰にさせることでファズっぽく、ドライブっぽく歪ませることも可能・・いわゆる 'サチュレーション' の飽和感までカバーします。これを管楽器においてはそのギリギリのところで 'クリーン' に太くする、荒くするというのが設定の 'キモ' であり、慌てず騒がずハウらせず、ジックリとその倍音の変化に耳を傾けて頂きたいところです。

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