2015年9月25日金曜日

コンドーさんという '媒体' (メディア)

さてさて、今日で10回目を数えるわけですが、今まできちんと触れられなかったあの人、近藤等則さんのことを取り上げましょう。とにかくコンドーさんの話は面白い。ジャズを舶来製の異人さんに例えて、エリート・コースの京都大学から一転、赤い靴履いてフリー・ジャズの世界へ連れられてしまったコンドーさんはしかし、世界の猛者たちと一戦やりあうべく日本人としてのメンタリティを鍛えることで、まさにオリジナルのスタイルを持つ孤高のラッパ吹きへ邁進します。だいたい、そのメンタリティな哲学の根底として、空海、最澄、法然、親鸞、一遍、一休といったお坊さん、雪舟や北斎といった画家たちをアナーキーに生きたジャズの巨人たちへぶつけているのだから只者ではありません。つまり、日本にもこんなムチャな生き方をした凄い連中がいたことで、決して舶来文化にひれ伏す必要なんかないよ、ということを教えてくれます。そしてコンドーさんは、いわゆるアンプリファイしたトランペットの探求者であり、たぶん世界でもここまでこだわって表現をしているひとはいないくらい、時間と労力をつぎ込んでいます。1990年代初めに都市からNature(自然)へというスローガンのもと、それまで活動していたバンドIMAを解散し、ひとり東京からアムステルダムへと移住して ‘自家発電の日々だったというコンドーさん。それは、自らのエレクトリック・トランペット探求の傍ら、人前でのコンサート活動からひとり自然の中に分け入って対峙し、耳を澄ますという ‘Blow The Earth’ への転身をもって、その後のフリー・インプロヴァイザーとしての生き方に大きな変化をもたらしたそうです。もちろん、完全に世捨て人となったワケではなく、当時、コンシューマ・レベルで普及したコンピュータを用いて音楽制作するベッドルーム・テクノの世代と共闘することで、1996年にDJ Krush ‘Ki-Oku’1999年にビル・ラズウェル、エラルド・ベルノッチと ‘Charged’ を発表し、新しい音楽表現と自らのトランペットにおいてひとつのスタイルを提示しました。





2000年を境に音楽を巡る環境は大きく変化し、CDにとって代わるようにAppleのデジタル音楽配信 ‘iTunes Music Store’ が登場して、事実上の音楽流通における市場は ‘終焉’。コンドーさんも、ビル・ラズウェルを中心としたユニットの ‘Method of Defiance’ や、フリー・ジャズの重鎮ペーター・ブロッツマンとの ‘Die Like A Dog Quartet’ との活動を自家発電の合間に行いながら、そのような音楽シーンの変化を虎視眈々と睨んでいた節があります。それは、ベッドルーム・テクノの勢いが2000年以降、特別新たなシーンなりムーヴメントを起こしてはいないこととも関係し、世界的な ‘音楽不況と言われる2000年以降に制作した音源がかなりの量を貯めていたことからも伺えます。つまりそれは、今までにあったシーンという現場と呼応する市場原理が成り立たなくなった2000年代の10年間を象徴しており、インターネットを中心に価値観が分散化した集落のように個別の共有圏だけを囲い込み、共通体験’ として得る知識に対しては閉ざす方向へ向かっている現在の状況を的確に示しています。コンドーさんは、音楽業界がジリ貧になっている今だからこそ、今後はひとりひとりの自営業化が進むことで、どのように自分の音楽をプレゼンテーションするかが重要だと力説しています。2015年に久しぶりの新作 ‘You Don’t Know What Love Is’ で、それまでのコンドーさんのイメージから180度転向したようなジャズ・スタンダード集という体裁を取りながら、しかし、本質としては20世紀の古典ともいうべきメロディの髄をいかにテクノロジーで乗り越えていくかをテーマとしています。コンドーさん曰く "今回のアルバムでも俺は闘っているよ" とのことで、決して聴きやすいイージー・リスニング的アプローチにはなっていません。’Charged’ に続いてコラボレーションをするエラルド・ベルノッチも、バラッドというロマンティックな色気に対するイタリア人の感性を期待して招集したそうです。さらに、過去15年ほどの間に溜まっていた音源の数々は ‘Toshinori Kondo Recordings’ という会員制のデジタル配信で随時Upしています。そして、長らく活動の拠点であったアムステルダムのスタジオを引き払い、川崎市登戸で近藤音体研究所なるプライベート・スタジオを開いて自家発電に勤しむコンドーさん。すでに還暦を過ぎながらも、そこから発信する情報はまだまだアグレッシヴで尖っています。

コンドーさんといえば、やはりアンプリファイしたトランペットのサウンド・システムですね。"家一軒立つほどの投資をした" という言葉もあながちウソではなく、とにかく頻繁に機材を入れ替えては組み合わせを研究しているようです。最近の足元としては、Digitech Whammy WH-1Fulltone OCDMaxon AF-9 Auto FilterLehle Julian Parametric BoostRMC 4 Picture Wahが飾っていますWhammyはコンドーさんのトレードマークともいうべきサウンドで、歴代のシリーズをヴァージョンアップごとに使い続けながら、最近は初代のWH-1に戻ったりしています。OCDはディストーションですが面白いチョイスですね。昔からコンドーさんはクランチなトーンをトランペットで試みており、1990年代初めにはCustom Audio Amplifiers 3+SE Tube Preampというノーマルとクランチとディストーションの3チャンネル真空管プリアンプをラックに入れていました。このOCDのツマミをみると、やはり歪み量は少ないクランチな設定にしてあるのが分かります。そしてエンヴェロープ・フィルターもこだわっており、このAF-9のほかに、Emma DiscumBOBlatorMenatone The Mail Bombなどのハンドメイド系も試していた時期があります。また新たなデバイスとして、3バンドのパラメトリックEQを備えたLehleのブースターを置いているのは興味深いです。ワウペダルはRMCのPicture Wahで、ネーミングからも分かる通りあのVox The Clyde McCoyを現代的に再現したもの。以前はFulltone Clyde Wahという同種のものを試していましたが、一方でスイッチレスの光学式や紐でペダルを動かすワウを使っていた時期もあり、Morley Bad Horsie 2Musician Sound Design Silver Machineなども使用。モジュレーション系は珍しく手を出さないのかと思いきや、一時Fulltone Chorulflangeが置いてありましたね。

さて、空間系の方は一貫して高品位なラック・タイプを使うのがコンドーさんの好みのようです。すべてがCustom Audio Japan Custom Mixerにパラレルで接続され、ステレオで出力できるようになっています。以前は1UサイズのCustom Audio Electronics Dual / Stereo Line Mixerを、Lexicon PCM42TC Electronic G Forceなどのディレイやリヴァーブで用いていましたが、最近は3Uのラックで持ち運びしやすくなっています。他に、コンパクト・タイプのLine 6 DL4 Delay ModelerEventide TimefactorHardwire RV-7 Reverbなどの空間系、そしてハーモニー系のマルチであるEventide Pitchfactorをミキサーに繋いで試していた時期もありましたが、現在ではLine 6 Echo ProEventide Spaceでほぼ固まっています。と思ったら、最近の近況を写した画像や動画を見ると、Boss SY-300やKorg Delay Labなど頻繁に入れ替えて試しているようです。この他、ピックアップ・マイク用のプリアンプとカラオケ再生用のDSDレコーダーKorg MR-2000Sがラックに入っています。マイク・プリアンプもコンドーさんにとってこだわりのデバイスであり、長いこと2チャンネルの真空管プリアンプAlembic F-2Bを、マウスピース・ピックアップとベル側のコンデンサー・マイクでミックスする使い方をしていました。その後、マウスピース・ピックアップを変更すると同時にルパート・ニーヴがデザインしたPortico 5032API のChannel Stripなどを経て、現在はPhoenix Audio DRS Q4M Mk.Ⅱに落ち着いています。どうやらコンドーさんはNeveの持つプリアンプの質感が好みのようですね



DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063


そして、近藤さんこだわりのマウスピース・ピックアップ。1979年のニューヨークで必要に迫られてマウスピースに穴を開けたようですが、1990年代後半まではBarcus-berry 1374を用いて、その後から2007年頃まで同社のエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ6001に変更、そして、DPAの無指向性ミニチュア・マイクロフォンSC4060が現在のマウスピースに収まっています。代理店の説明では4種類の感度を持つマイクが揃えられており、コンドーさんが採用しているのはこちら 'SC4062(超低感度 : 154dB SPL ドラムやトランペットなど音量・音圧の大きい楽器などに最適)' ではないかと思われます。製作にあたっての 'レシピ' として、この2007年のインタビュー記事を抜粋してみましょう。

"今年を振り返ってみると、いくつかよかったことの一つが、トランペットのマウスピースの中に埋めるマイクをオリジナルに作ったんだ。それが良かったな。ずっとバーカスベリーってメーカーのヤツを使ってたんだけど、それはもう何年も前から製造中止になってて、二つ持ってるからまだまだ大丈夫だと思ってたんだけど、今年の4月頃だったかな、ふと「ヤベえな」と、この二つとも壊れたらどうするんだ、と思って。なおかつ、バーカスのをずっと使ってても、なんか気に入らないんだよ。自分で多少の改良は加えてたんだけど、それでも、これ以上いくらオレががんばっても電気トランペットの音質は変えられないな、と。ピックアップのマイクを変えるしかない、と。それで、まずエンジニアのエンドウ君に電話して、「エンちゃん、最近、コンデンサーマイクで、小さくて高性能なヤツ出てない?」って訊いたら、「コンドーさん、最近いいの出てますよ。デンマークのDPAってメーカーが、直径5.5ミリのコンデンサーマイクを作ってて、すごくいいですよ」って言うんで、すぐそれをゲットして。

それをマウスピースに埋めるにしても、水を防ぐことと、息の風を防ぐ仕掛けが要るわけだ。今度は、新大久保にあるグローバルって楽器屋の金管楽器の技術者のウエダ君に連絡して、「このソケットを旋盤で作ってくれないかな」ってお願いして、旋盤で何種類も削らして。4ヶ月ぐらいかけてね。で、ソケットができても、今言ったように防水と風防として、何か幕を張ってシールドしないといけないわけだ。それをプラスチックでやるのか、セロファンでやるのか、ポリプロピレンでやるのか。自分で接着剤と6ミリのポンチ買ってきて、ここ(スタジオ)で切って、接着剤で貼り付けて、プーッと吹いてみて、「ダメだ」また貼り付けて、また「良くねーなぁ」って延々やってね(笑)。で、ポリプロピレンのあるヤツが一番良かったんだ。そうすると今度は、ポリプロピレンを接着できる接着剤って少ないんだよ。だから東急ハンズに行って、2種類買ってきたら一つは役に立たなくて、もう一つの方がなんとかくっつきが良くてね。その新しいピックアップのチューニングが良くなってきたのは、ごく最近なんだけどね。音質もだいぶ変わってきた。音質が変わると、自分も吹きやすくなるからね。"

ポリプロピレンのスクリーンに着脱式のマイクなど、Barcus-berry 6001の構造をそのまま踏襲しているようですね。コンドー・プロデュースでコレ、発売しませんか?


↑22:50から動画が始まります。

ふぅ〜、その存在も物量にかける情熱ももの凄い人だ。

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