2015年9月27日日曜日

金管楽器のためのダイナミック・マイク


管楽器を アンプリファイで扱う上でなくてはならないクリップ式マイク、そのほとんどがコンデンサー・マイクだと思います。マイクを駆動させるための電源が必要で、ダイナミック・レンジの広い収音を可能とする代わりに、マイク本体は繊細な扱いを要求されます。一方で、電源は要らず、タフな扱いと手軽な収音を可能とするのがダイナミック・マイクです。マイク・スタンドに設置する定番のShure SM57Beta57ASennheiser MD421-Ⅱなどが有名ですが、実は、数が少ないながらもクリップ式のものも発売されています。ドイツの老舗SennheiserBeyerdynamicのもので、アンプで鳴らすことを信条とするわたしにとって実にありがたいものです。周波数レンジの広いコンデンサー・マイクはハウリングにシビアであり、特にアンプを真横に置いて鳴らそうという場合非常に難儀します。その点、ダイナミック・マイクは高域の感度が落ちている代わりに中域に密度があり、ある程度のハウリング・マージンを稼ぐことができるのです。ちなみにこの二社のほかにもう一点、サックスやトロンボーン専用で、カーディオイドの指向性でベルに三点支持のフックを覆うように取り付けるSD Systems LDM94という一風変わったものがあります。

SD Systems LDM94
Sennheiser Microphone

上の動画はサックスによるマイク4種類の比較。管楽器用としてはコンデンサー・マイクのSD Systems LCM8gとダイナミック・マイクのLDM94、Beyerdynamicのダイナミック・マイクTG I52dが選ばれております。やはりスタンド・マイクに比べるとグーズネック式のものは音質的に相当スポイルされているというか、ライヴという環境での利便性にシフトして設計されている感じがしますね。さて、わたしがトランペットに用いているのは①。指向性はスーパーカーディオイドで、ShureHPの説明によればカーディオイドよりもピックアップ角度が狭く、横からの音を遮断、ただしマイクの背面にある音源に対し少し感度が高くなっている。環境ノイズや近くの楽器などからの遮音性がより高いためフィードバックが発生しにくくなるが、使用者はマイクの正面の位置を意識する必要があるとのこと。確かにマイクを触ると後方もゴソゴソと感度は高いのが分かります。対して②の指向性はハイパーカーディオイドで、同じくShureHPの説明によればハイパーカーディオイドには双方向性マイクロフォンの性質がいくらか備わっており、背面に対する感度が高くなっている。ただし、側面からの音の遮断に非常に優れ、フィードバックに特に強く、スーパーカーディオイドと同じく周囲の音が被りにくい性質。ただし指向性がとても強いため、音源に対するマイクの配置は正確さが求められるとあります。う〜ん、どちらもよく似た指向性ながら②の方がよりピンポイントで音を狙う設計というわけか。周波数特性としては①が4016000Hz、②は4012000Hzとのことで、この辺も指向性の違いに反映されているのでしょう。ダイナミック・マイクはコンデンサー・マイクに比べて特に高域の周波数レンジが狭く、近接のオンマイクにセッティングしてマイク・プリアンプで適正なゲインを持ち上げてやらないと機能を発揮しません(ちなみにファンタム電源を誤ってOnにするのは厳禁です!)。わたしがトランペットのベルにマイクを立てて収音しないのも、クリップ式の方が一定の距離に固定してマイクをセッティングできるからなんです。また、マウスピースにBarcus-berry 1374を接合しているので、ふたつのピックアップ・マイクによる位相差を一定に保つ必要があります。ちなみにこのBarcus-berry 1374は、中域を狙うポジションとしては良いのですが高音域の応答性が低く、結局はベル側のマイクとミックスして使うことを余儀なくされます。ホント、このように管楽器のマイキングというのは奥が深く難しいのです。ちなみに、このShureによるマイクと指向性、モニターとの関係を解説したブログは 'アンプリファイ' を行う上でいろいろと参考になります。

Joemeek Three Q
Root 20 Mini Mixer
Neotenic Sound Magical Force
Plutoneium Chi Wah Wah

さてさて、セッティングで難しいのは、ワウでブーストしたときとオープンホーンでアンプから鳴らしたときの音量を揃えておくことです。わたしはマイクからの出力をJoemeek Three QというプリアンプとEQでゲインを持ち上げており、ここでレベルメーターとにらめっこしながら、極力ハウらない設定を決めておきます入力のPreamp Gainは1時、出力のOutput Gainは11時の位置にして、3バンドのEQで追い込んでいきます。マウスピース・ピックアップは、本来微弱なピエゾをBarcus-berry 1430でグイッとゲインを持ち上げるので、それほど気にする必要はないのですが、ワウのかかり具合をトランペットの帯域に合わせるべくResponseというEQをHi寄りに。この後ろにバッファーアンプの内蔵したRoot 20 Mini Mixerからダイナミクス系エフェクターのMagical Force(Level 10時、Punch 1時、Edge 11時、Density 8時)を挟み、要であるワウのPlutoneium Chi Wah WahのLevel、Contour、Gainでバランスを調整、Levelは0時、Contourは4時、Gainは2時の設定にします。ワウの帯域幅が広いので踏み込んでグワッとゲインが上がると同時に、ローが回り込むのとハウリングしやすくなることに注意ですね。余裕があれば、この後ろにBoss GE-7 Equalizerなどのグライコで細かく帯域補正するのも良いかもしれません。 



上の動画はSnarky Puppyのラッパ吹き、Mike 'Maz' Maherによるトランペットの 'アンプリファイ' のセッティング。ワウやオクターヴ・ファズの時はダイナミック・マイクのShure SM58をFenderのギターアンプでマイク録りしており、ディレイのような生音の柔らかい質感を活かす場合はリボンマイク(RCA 44BXか)で録り分けて、それぞれのマイクの特徴を上手く引き出しております。ともかく、管楽器でコンデンサー・マイクとエフェクターのセッティングに悩んでいる方々、もしくは、管楽器をギターアンプで鳴らしてみたい!という覇気ある御仁は、是非このようなクリップ式ダイナミック・マイクも検討してみて下さいませ。

と、ここでオマケ的に、わたしが代々使ってきた管楽器用コンデンサー・マイクを軽くレビューしてみたいと思います。一番初めに買ったのは、CountrymanIsomax 2Cという超小型のもの。いわゆるピン・マイクとしてTVのアナウンサーが襟元に付けるのが正しい使い方なのでしょうけど、オプションとして針金を曲げたようなSaxclipというのがあり、それでベルに取り付けていました。ちょっとS/Nが良くなかったという記憶がありますが、音質はまあまあ。次は、晩年のマイルス・デイビスが使っていたマイクを模したSD Systems LCM77。ちょうどデイビス没後に派手なカラーの施されたMartinのトランペットが復刻されるなど、うまくその辺のユーザーに訴えたかたちで、わたしもまんまと乗せられました。クリス・ボッティ始め、現在でも日本で結構使っているユーザーがいますね。ちょうど傘の柄のようなかたちのデザインがユニークなものの、取り付けるところが3番ピストンの真下になることから、ゴンゴンというピストン・ノイズを拾ってしまうのが残念でした。そして、9V電池のバッテリーパックで駆動するのですが、XLRからフォンの変換ケーブルを通じてエフェクターに接続するとこれまたS/Nが悪い。後述しますが、Audio-Technica ATM 35で同様の接続でやってみてもここまで酷くなかったんですよね。この辺、今も使っているユーザーはどのように思っているのか気になります(ワイヤレスだと関係ないのかな?)。そして、次がShure Beta 98 H/C。とにかく小型にデザインされているのが好感持てますが、カーディオイドの指向性だからかどうも収音の範囲が狭く、いまいちエフェクターのかかり方が悪かったですね。さらに生音の収音も硬い感じがして気に入りませんでした。

そしてAudio-Technica ATM 35。わたしにとって管楽器用コンデンサー・マイクのベスト!2004年に購入して2015年まで使用するもただの一度も故障知らずという・・さすがの 'Made in Japan' です 。もちろん、音質もこの手のクリップ式マイクとしては実に優れており、生音のふくよかな感じをスポイルすることがありません。また、ちょっと落ち着いたような深みも好みでしたね。価格は3万強ということで、ラインナップとしてはこの下のクラス(AKGShure)とこの上のクラス(SennheiserDPAAMT)のちょうど良いところを突いた製品ではないでしょうか。欠点としては、付属のバッテリーパックAT8532が付いてくるにもかかわらず、なぜかケーブルが7m !近くもあるということ。コレ、完全に腰から引きずってしまうような長さで理解できません。その辺の不満を読んだのか、もうちょい価格を落とした姉妹機のATM 350では、ケーブル長4mという常識的な長さとなっております。わたしはAT8532を使わず、別売りで用意されていたXLR変換コネクターAT8539を用いてプリアンプに繋いでおりましたが、メーカーの話では付属のバッテリーパック込みで音質などが決定されており、AT8539は使えるけれども音質的にはむしろスポイルされるとのこと。つまり、ファンタム電源で供給する場合でもAT8532を介して供給して欲しいということです。他にイレギュラー的なものとしては、一時期Barcus-berry 5300というエレクトレット・コンデンサー・ピックアップをベルに取り付けていました。これは、ベルの縁を挟むようにネジで取り付けるもので、その独特な形状に対してキチンと生音を収音することはできましたが、エフェクターをかけるとハウリングしやすくて使用を断念しました。ちなみに、復帰直後の1981年から82年にかけてマイルス・デイビスがステージで使っていたワイヤレス・システムのマイクが、なぜかこの5300と同一のデザインだったのですが何か関係があるのでしょうか?(インターネット上でも資料が乏しいのでご紹介できないのが残念なのですが)。


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