2015年9月20日日曜日

マウスピース・ピックアップの誘惑

すでに '時代の遺物' と化したマウスピース・ピックアップ。現在市場でほとんど見かけないのは、単純にベルに取り付けるクリップ式マイクの方が手軽にアンプリファイできるからです。以下、マウスピース・ピックアップが廃れた理由を考察してみましょう。

①ピックアップの音質
②マウスピースへの加工
③煩雑なセッティング

①は、いわゆるピエゾ・トランスデューサーの持つ根本的な問題です。反応が早く、芯のある中域を捉える反面、低域はもちろん高音域が乏しく、硬くシャリシャリとした音質は生音へのこだわりを示す奏者にとって、決して満足のいくものではありません。ある程度プリアンプやEQで補正できるものの、基本的にはスタンドマイクを立てて、ベルからの生音とピックアップの音色をPAのミキサーで混ぜて出力するのが昔からの方法です。その代わりマウスピース・ピックアップは構造上、ある程度のハウリングには効果を示し、エフェクターの効きが良いです。また、現在のクリップ式マイクがラインからPAで出力されるのに対して、マウスピース・ピックアップは、アンプで再生したものをマイクを立てて収音するのが一般的でした。

②は、マウスピースにドリルで穴を開け、ハンダでピックアップを接合するという方法に、貴重なマウスピースへの加工を嫌がる奏者が一定以上いたということです。また、一度取り付けてしまうとマウスピースのサイズを変更できないのもマイナス。ピエゾは、取り付け位置によってもサウンドが激変してしまうことから、マウスピースのほかにサックスのネック部分、トランペットのリードパイプ部分、ベルの横側に穴を開けて取り付けるなど、いろいろな方法が取られました。1970年代のフュージョン・ブーム過ぎ去りし後、管楽器のリペア工房で穴の空いた楽器が再びハンダで埋められるべく列を成していたという話を聞くと、何か機材とブームの栄枯盛衰を見る思いですね。

③は、このマウスピース・ピックアップが、そもそもはアンプリファイによりエフェクターを積極的に用いるためのアイテムだということです。これは①でも触れましたが、ベル側の生音とのミックスでPAに出力するために、管楽器に対して2回線がステージ上からPAへ引き回されるわけです。PAとしては極力トラブルにならぬよう、煩雑なセッティングは避けたいのが本音です。そのような不満は、クリップ式のコンデンサー・マイクと並び普及したワイヤレス・システムが登場したことで、煩雑なケーブル類と共に、一気にこのタイプのピックアップを過去のものとしてしまいました。

とりあえず箇条書きにしてみましたが、もうひとつ追記すれば、コンサートの現場におけるPAシステム全体の再生クオリティが向上したことも大きいでしょうね。

現在、このタイプのピックアップを用いる奏者を見つけることは難しいですが、日本が世界に誇るフリー・インプロヴァイザー近藤等則さんは、1979年以来、一貫してトランペットのアンプリファイによる表現を探求してきた人です。そのサウンド・システム構築に家一軒立つほど散財してきたという話は冗談ではなく、現在も頻繁に機材を入れ替えながら、その可能性とオリジナリティの探求に余念がありません。



このように、一部のこだわりのある奏者以外には完全に忘れ去られてしまったアイテムではありますが、実は、ヨーロッパのいくつかのメーカーでは現在でも細々と製造されています。しかし、なぜかサックスやクラリネットなど木管楽器向けの製品が大半を占めているという・・。サックスはともかく、クラリネットをアンプリファイにして吹いているニーズ、そう多くはないと思うのですが・・。

Pasoanaというイギリスのメーカーですが、残念ながらHPが消えてしまったので今はもう会社がないのかもしれません。ピックアップはヴォリューム機能の有無による二種類と、ワイヤレス・システムまで用意された豊富なラインナップでしたがやはり需要は少なかったようですね・・。このShure CA20Bのような大きなトランスデューサーのデザインは格好よいです。



上は2013年のNAMMショウの映像で、Dunlopのエフェクターをバリトン・サックスでデモンストレーションを行う映像ですがPasoanaのピックアップを用いています。

TAP Electronicsというギリシャのメーカーで、かなり幅広くピックアップ全般を手がけており、こちらもPasoana同様、大きなトランスデューサーのデザインでヴォリューム機能の有無含め多様なモデルがラインナップされています(まったく読めませんが)。また、専用のオクターバーも製作しているようです。コレ、どこか日本の代理店が手がけませんかね?



TAP Electronicsの製品広告の動画。

こちらはRumberger Sound Productsというドイツのメーカーで、K1Xというモデルが一種類製作されています。オールドスタイルな前2社の製品に比べスタイリッシュなデザイン。そして、ここで紹介するものの中では唯一、ファンタム電源で駆動するコンデンサー・ピックアップです!コンドーさんのDPAマイクを流用した 'オリジナル・ピックアップ' と構造的には一緒になります。





Rumberger Sound Productsによるクラリネットでのデモ演奏で、下の動画ではAudio-Technica ATM 350コンデンサー・マイクも併用しておりますが、K1X単体でも音の広がりや空気感含め、コンデンサー・マイクとしての良さが現れており良いですね。価格はちょい高めの4万5千円くらい。

Nalbantov Electronics

こちらはNalbantov Electronicsという、ブルガリアで 'アンプリファイ' なクラリネットやサックスのためのマウスピース・ピックアップとオクターバーまで製作しているメーカーです。ワイヤレス・システムにも対応しているのはもちろん、ピックアップ本体とマウスピースに個人で穴を開けられるようドリルまで梱包されたキットも販売しています。





やはり大きなトランスデューサーのデザインが目を引きますが、ピックアップ本体とケーブルが着脱可能なのは便利です。またオクターバーも絶妙で良いかかり具合ですね。

Microphone Cyn

こちらは、トルコでクラリネット用ピエゾ・ピックアップを製作しているMicrophone Cynのもの。思いっきりアラビア風なメロディが奏でられていますが、Facebookに上げている動画ではコップの水にピックアップ本体が浸され、防水加工も施されているようでびっくりします



Microphone Cynによるクラリネットでのデモ演奏。しかし、ブルガリア、トルコ、ギリシャというバルカン半島から地中海一帯は、オスマン・トルコ時代からの軍楽隊の歴史があるのか、クラリネットによる 'アンプリファイ' 最後の秘境と言っていいくらい盛り上がっているんですね。

The Little Jake 1
The Little Jake 2

そして、個人的には下記の 'アンプリファイ' なバスーンのPaul Hansonさんのプレイが素晴らしすぎます。鈍重なイメージを吹き飛ばすようなブレッカースタイルで、ループ・サンプラーを用いながらアウトしまくる超絶プレイ。





こちらのバスーンには、The Little Jakeというハンドメイドのピックアップをマウスピース(と呼んでいいのか)の細いパイプに当たる部分に穴を開けて接合しています。ガムの空き缶を流用したようなプリアンプが付属し、バスーンやサックスでの使用を推奨しているようです。

う〜ん、これらのピックアップを何とかトランペットに流用できないかな?
Brassのブログなんですが、今回はWoodwinds満載でお送りしました。

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