2015年9月17日木曜日

ワウワウで '先祖返り'

ラッパ吹きにとって、左手を 'ミュートにかざす' やり方から '右足で踏む' やり方に変わったワウワウ。ある意味、最も管楽器の表現に適したエフェクターではないかと思います。





Jim Dunlop CBM 95 Crybaby Mini Wah
Jim Dunlop Crybaby

最初の動画はレゲエのビートにオーヴァーダブするように、Lawson L47MP Mk. Ⅱコンデンサー・マイクとCrybabyワウペダル、Ampegのギターアンプにマイクを立てて収音しています。また、Crybabyは 'シグネチュアモデル' 含めてかなりの種類がありますので、上記リンク先でどうぞご確認下さい。

最近は、ワウペダルも手の平サイズの超小型なものが市場に出回り始めています。突如現れたシンガポールのガレージ・メーカーPlutoneiumChi Wah Wahをきっかけに、ロシアのAMTからJapanese Girl WH-1、そして真打ちともいうべきDunlopからCBM95 Crybaby Mini Wahが登場。つまり、可搬性を求めて小型化を求める市場と、遜色なくワウの機能を小型化できる技術が手を取り合っているということでしょう。もちろん、小型化ということはワウの重要な要件である踏み心地の評価に繋がりますが、今のところ通常のワウペダルに比べ使いにくいという声は上がっていません。大体、以前はワウペダルというのは足のサイズ以上に大きいものと相場が決まっていました。安定感と踏み心地は最高、しかしその大きさと重さは常々ネックだったのです。また、機械式スイッチを踏み外すということも度々起こり、これが嫌な人は光学式センサーを用いたスイッチレスのワウを選びました。ワウがエフェクターの中でその他エフェクターとの違いがあるのは、エフェクターとしての効果がプレイヤビリティの中でいろんな表情を生み出すことにあります。つまり、ギターならピッキングとワウのストロークが一体となって初めて機能するエフェクターなのです。トランペットなら呼吸とフィンガリング、ストロークが一体となってと言いたいところですが、ここでマイルス・デイビスの意見がいろいろと参考になります。ワウペダルの導入以降、デイビスの演奏スタイルも変化し、ほとんど前屈するような姿勢で吹いていました。デイビスの言によれば、立ったポジションから屈んだポジションへと耳の位置を変えることですべてがベストサウンドで聴こえるということですが・・。

ああやって前かがみになってプレイすると耳に入ってくる音が全く別の状態で聴きとれるんだ。スタンディング・ポジションで吹くのとでは、別の音場なんだ。それにかがんで低い位置になると、すべての音がベスト・サウンドで聴こえるんだ。うんと低い位置になると床からはねかえってくる音だって聴こえる。耳の位置を変えながら吹くっていうのは、いろんな風に聴こえるバンドの音と対決しているみたいなものだ。特にリズムがゆるやかに流れているような状態の時に、かがみ込んで囁くようにプレイするっていうのは素晴らしいよ。プレイしている自分にとっても驚きだよ。高い位置と低いところとでは、音が違うんだから。立っている時にはやれないことがかがんでいる時にはやれたり、逆にかがんでいる時にやれないことが立っている時にはやれる。こんな風にして吹けるようになったのは、ヴォリューム・ペダルとワウワウ・ペダルの両方が出来てからだよ。ヴォリューム・ペダルを注文して作らせたんだ。これだと、ソフトに吹いていて、途中で音量を倍増させることもできる。試してみたらとても良かったんで使い始めたわけだ。ま、あの格好はあまり良くないけど、格好が問題じゃなく要はサウンドだからね。

なるほど、これを別の角度から考えてみると、ステージ上に生音が跳ね返ることで、アンプからのエフェクト音に対して直接生音を聴けることでピッチが取りやすくなるのではないでしょうか。実際にワウペダルを踏んで演奏するわたしの観点から言うと、立った状態でトランペットのピストンを押しながら足先でペダルの操作をするのは、少々やりにくさを感じるのも事実です。つまり、ギタリストのピッキングする右手と足先の位置から比べると、トランペット奏者の右手と足先の距離は遠く、操作の力加減に若干のコツがいります。デイビスのように前屈の姿勢で指先と足先の距離を近づけた方がコントロールし易いように感じます(ただし、長時間その姿勢を維持するのは無理だが)。ランディ・ブレッカーもアンプリファイ導入初期にワウペダルを踏んでいましたが、70年代後半のザ・ブレッカー・ブラザーズ以降、Seamoon Funk MachineBoss TW-1などの音量のダイナミズムの変化により効果を得るエンヴェロープ・フィルターへと切り替えました。これも、ペダルを踏むというストレスから解放されると同時に、早いパッセージのフレイズにも対応できるということが関係しているのかもしれません。



Moog Moogerfooger MF-101 Lowpass Filter

ラッパにMoogerfooger MF-101 Lowpass Filterをかけた動画。ワウペダルとは一味違う効果が分かると思いますが、動画を見るに正確にはエクスプレッション・ペダルを繋いで足でフィルター・スウィープを微妙に調整していますね。どうしてもペダルを踏むのが苦手だという方は、このようなエンヴェロープ・フィルターを選んでみると良いでしょう。

わたしも、Roger Mayerによる三段階帯域切り替えスイッチ付きのワウペダルを皮切りに、定番のVox V847、RMC Picture Wah、Musitronics Mu-Tron C-200、Kernというメーカーの真空管搭載ワウペダル、Maestro Boomerangなどを試しました。ペダルの踏み込み幅による操作性やQの効き具合、帯域幅によるワウのかかり具合など、とにかく製品ごとにそれぞれの個性があるといった感じですね。結局は手のひらサイズの先駆、Plutoneium Chi Wah Wahに落ち着きましたケド。

そういえば、1973年のマイルス・デイビス来日公演を見たジャズ評論家油井正一氏の電気トランペットのワーワー効果ありゃなんだ?という酷評記事を思い出すなあ・・。まあ、言わんとしていることは分からんではないけど、バッバー・マイリーなるスイング時代のワウワウ・ミュートの名手を引き合いに出すというのも・・何かズレていたような。そしてランディ・ブレッカーは、デイビスよりも早くワウをトランペットで使っていた、なのに世間はデイビスばかりを持ち上げると少々ご不満の記事を過去に読んだことがあります。しかし、管楽器がこぞってアンプリファイを始めた1960年代後半、すでにメーカーからそういう使い方は推奨されていました。



こちらはフランク・ザッパ率いるザ・マザーズ・オブ・インヴェンション1968年のもので、イアン・アンダーウッド、バンク・ガードナーらがGibson / MaestroSound System for Woodwindsとワウペダルを用いています。ワウワウ・ミュートからエレクトリック・ギターでのワウペダル、そして再び管楽器による 'アンプリファイ' のワウワウ、これぞ電気仕掛けの '先祖返り' なり。

さて、いよいよ日本の市場にお目見えした中国製の超小型ワウペダル、Mooer The Wahterと香港製のHotone Soul Press。シンガポール製のPlutoneium Chi Wah Wahをきっかけに現在続々と '手のひらサイズ' が市場に現れておりますが、ミニチュアワウにおいて '中華圏' の積極的なリサーチと市場拡大は興味深いです。こういう現象を見ると、いかに皆がワウペダルの重さに辟易していたのかが分かりますね。



 

Mooer
Hotone

この手のミニチュアワウは可搬性ばかりが取りざたされていますが、やはりワウペダルの機能にかかわる操作性がスポイルされていたら話になりません。わたしが現在使用しているPlutoneium Chi Wah Wahは、かかと側を支点につま先でペダルのかかと部分をフミフミするという、通常のワウペダルとは逆の操作のため好き嫌いが分かれます。このMooerのワウペダルは、その足乗せ台の部分を折り畳み式にデザインすることで、可搬性と操作性のふたつを解消した見事な設計だと思いますね。また、見事に手のひらサイズながらセンサーモード、ホールドモード、アドバンスモードという3つの機能が備えられており、足乗せ台に見える黒い部分が感圧式のセンサーとなっています。センサーモードは足を乗せている限りワウのかかる通常モード、ホールドモードは2回タップすることでオン/オフの切り替えをするモード、つまりタップしてワウを持続させる、しないを選択することです。アドバンスモードはこのセンサーモードとホールドモードを演奏中に切り替えられるモードとのことですが、う〜ん、この感圧センサーの使いこなしには慣れが必要ですね。また若干面倒くさいのは、各モードの切り替えをペダルに足を乗せながら電源コネクターの抜き差しで行うようですが、本機はトゥルーバイパスとなっています。一方のHotoneも手のひらサイズのエフェクターをラインナップするメーカーですが、このSoul Pressはワウペダル、エクスプレッション・ペダル、ヴォリューム・ペダルをそれぞれ切り替えられる '一台三役' の便利なヤツです。Mooerのワウに比べるとサイズ的にはこちらの方が使いやすいかもしれませんね。また姉妹機として、ワウペダルとヴォリューム・ペダルを足を乗せながら切り替えられる 'V/Wモード' を備えたVow Pressというヤツもメーカーからアナウンスされております。



G-Lab.

さて、もちろん '手のひら' サイズの超小型ワウは可搬性に重点を置いているのであって、やはり使い勝手など足のサイズに合わせた操作性という意味では、通常サイズのワウペダルの安定性に軍配が上がるでしょうね。ワウペダルの操作性でもう一点言われているのは、ペダルで機械式スイッチを押すことによる '踏み外し' の問題です。つまり、キチンと真下に踏み降ろせないことでスイッチがOnにならないことですが、これを解消したのがポーランドの新興メーカーによるワウペダル、G-Lab. Wowee-Wah WW-1。ペダル上面に感圧式センサーを組み込むことで、足を乗せるだけでOn/Offが可能の優れもので、また、G-Lab.では、この感圧式センサー部分だけを取り出したTBWP Wah-Padというアタッチメントとして、各社ワウペダルを乗せて使えるようにしました。

ラッパ1本ケースに突っ込んでどこにでも行く管楽器奏者は、両手に大量の荷物を持って移動することに堪えられないでしょうケド、このMooerやHotoneといったポケットに入るサイズのペダルだけで小さなエフェクターボードを作れるなら、お!ちょとラッパを 'アンプリファイ' にでもしてみようかな?と興味が湧くのではないでしょうか?

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