2016年1月4日月曜日

切り替えと '混ぜ混ぜ' の整理術


コンパクト・エフェクターをペダルボードに配置する。そもそも、これのメリットとは何でしょうか?それを考えてみたいと思います。





まずは何と言っても利便性、これに尽きるでしょうね。エフェクターの12つではそれほどメリットはないですが、これが56つとなるとそれぞれを結線して足元に並べるだけでも手間がかかってしまいます。そこで、すべてをボードという場所に設置して予め結線しておけば、後は楽器とアンプをそのボードの入出力に繋ぐのみというお手軽さです。そして、この結線にはもうひとつの利点、エフェクターに電源を一括して供給できることにあります。エフェクターは各製品に見合った電源供給を持ち、それに対応したACアダプターが必要になります。その煩雑さを解消するため、ボードに設置して電源供給できるようにパワーサプライという便利なものがあるのです。一般的なセンターマイナスのDC9Vはもちろん、その他DC12VDC18VAC仕様のものはアダプターを差すための電源タップと一緒になったものや、デジタルとアナログを一括に電源供給する際に起きるノイズ問題を避けたアイソレート電源のパワーサプライなど、実に多岐にわたります。ともかく、これを足元に置いておけば煩雑なケーブル類にまみれずスッキリします。





ここでもう一度ボードを見渡してみれば、いくつまでのエフェクターを足元に置くか、という問題があります。これは置く数によってペダルボードが大きくなることを意味し、あまりに巨大なものだと持ち運びに不便となります。また、単純に複数機を直列で繋ぎ過ぎると音質が劣化するという問題に直面するでしょう。その為、必要なものをそのつど呼び出して用いるスイッチング・システムという機器で、このような複数機使用の弊害を解決することが可能です。ただ、どちらにしても足元はより煩雑で大きくなってしまうので、こういったものを導入する以前に、本当に自分にとって必要なエフェクターとは何かを見極める力が必要でしょうね。ちなみに、どうしても複数機使いたいけど音質劣化は嫌、尚且つ手軽に持ち運びたいという方はマルチ・エフェクターが最適です(各種パラメータのエディット操作は煩雑ですが)。



Boss Vocal Performer VE-5

マイクを直接繋ぐことのできるヴォーカル用マルチ・エフェクター、Boss Vocal Performer VE-5。ヴォーカル用だけあってハーモニー、空間系中心のプログラムですが、このサイズならポケットにポンッと入れてステージに持ち込めますね(工夫すれば楽器本体に取り付けられるかも)。





そして、ペダルボードの最近の主流はいわゆるスノコ形式というヤツで、傾斜の付いたアルミ枠を柱にしてスノコ状に隙間が空いているボードです。これのメリットは配線や各エフェクターに電源を供給するパワーサプライなどをボード裏に引き回せることで、煩雑なケーブル類の処理とボード上のスペースを有効に活用できるところにあります。この手の元祖で、最初のサックス奏者の動画にあるPedal Trainというのがありますが(わたしも使っています)、次の動画でご紹介するT-Rex Tone Trunkはボードを階段状に設計し、段差の裏側への簡単なパワーサプライの取り付け、そして階段部分を境にネジを外し二分割して使い分けることができるなど、さらにもう一歩使いやすくした製品だと言えるでしょう。

さて、このような増えてくるコンパクト・エフェクターの効果的な使い方の '救世主' とも言えるスイッチング・システムですが、真っ先に思い出すのは、最低でも2つ、増えると5つくらいは繋ぐことができるA/Bループ・セレクターです。ABそれぞれのループにエフェクターを繋ぎ、個別に切り替えることができるというもの。また、ABのみならず、ABと組み合わせて使えるものもあります。これ以上のものになると、例えばMIDIを備えたディレイやピッチ・シフターなどのプログラムと連動し、パラメータも含めてスイッチング・システムから呼び出すことのできる大掛かりなものも用意されています。





Pigtronix Keymaster

さらに、このスイッチング・システムには単に分岐させて切り替えるもののほかに、積極的に演奏や音作りの中に組み込んで用いるものもあります。この辺の一風変わったループ・セレクターで面白いのがPigtronixのKeymaster。ABの切り替えをスイッチのみならず、ツマミもしくはエクスプレッション・ペダルを繋いでクロスフェードに切り替えられること。一見なんのことやらという感じですが、これはDJミキサーが2台のターンテーブルを交互にミックスする手法のことで、クロスフェードのシームレスな操作を、そのまま本機のツマミもしくはエクスプレッション・ペダルを繋いで行うことができます。本機はアンバランス入力のみならずTRSXLRといったバランス入力も備えており、幅広い入力ソースに対応しています。管楽器でダイナミック・マイクを用いるなら、このKeymasterをプリアンプにしてそのままコンパクト・エフェクターを使うことができますね。ちなみに、本機のXLR入出力はダイナミック・マイクなどをそのまま繋いでラインへ出力できるというだけで、ファンタム電源には対応していないのでご注意下さい。また、単にA/Bと切り替えるだけではなく、入力の原音に対してエフェクト音をミックスできるパラレル接続のループ・セレクターというのもあります。ライン・ミキサーやアンプに備えられているセンド/リターンの機能をループ・セレクターで実現してしまったもので、最近ではループ・ブレンダーなどと呼ばれたりします。


以前にもご紹介した、ギリシャのメーカーDreadboxのループ・ブレンダーCocktailを用いて、Z.VexのFuzz FactoryとDigitech Whammy、エレハモのリヴァーブCathedralをパラレル・ミックスで原音を '確保' した上でのミックス具合。エフェクターをかけただけで原音が潰れてしまったり(歪み系や '飛び道具' エフェクターなど)、音程が取りにくくなってしまったり、といったもの(モジュレーション系)には非常に効果的です。



BANANANA Effects

こちらは関西のガレージ・メーカーで、'BANANANA' と 'NA' が一つ多いのが正解だそうです。しかしラインアップされたエフェクターがすべてに '飛び道具' ばかり。大手メーカーでは二の足を踏みそうな 'ニッチな' 需要こそ、下町の工房にとってのビジネス・チャンスなのかもしれません。本機Loop Looperは、4つのループ・セレクターにシーケンス機能を付けちゃおうという面白い発想で、これは一昔前に流行したくじ付き自動販売機のルーレット辺りから着想を得たのではないでしょうか?

また、このような '飛び道具' エフェクター的な発想をループ・ブレンダーに盛り込んでしまった珍品としては、このようなものが最近市場に現れました。



Umbrella Company Fusion Blender

Umbrella CompanyのFusion Blenderというヤツで、いわゆるLoとHiという風に入力してきた原音を周波数帯域別に分け、それぞれをぶつからないようにして2つのエフェクターをミックスしてしまおうというもの。これは今までになかった発想であり、もちろん動画にもあるようにA/Bボックスやパラレルでのミックス、ディレイの残響音を残せるキルスイッチやライン・レベルの機器も繋げるインピーダンス・マッチングなど、至れり尽くせりの多機能セレクターです。



Vocu Magic Blend Room

こういうのは他に類例がないのでは、と思ったのですが、Vocuというガレージ・メーカーからすでに同様の機能を持つMagic Blend Roomが発売されておりました。こちらもA/Bループ・セレクター、パラレル・ミックスのループ・ブレンダー、そしてFusion Blenderと同じLoとHiの周波数帯域別ミックス、さらに逆相による擬似ステレオ出力などにも対応する多機能セレクターとなっております。

これらスイッチング・システムという類いのものは、あくまで数の多くなったエフェクターに対して利便性を図るものであるため、基本的に接続の '接点' が増える分、直列とは別の意味でトゥルーバイパスの仕様であろうが音質は変化(劣化)します。また、トゥルーバイパスのスイッチというのはその構造上、これも前後に繋ぐエフェクターとの関係によっては踏んだ時に 'ボン!' という 'スイッチング・ノイズ' を誘発する場合があります。そのため、最近ではトゥルーバイパスとバッファードバイパスの切り替えられる仕様のものも登場し、いろいろな '繋ぎ方' へフレキシブルに対応できる仕様の製品も登場しました。それはともかく、どうしてもエフェクター本体に対して直ぐに食指の伸びるものではありませんが、たくさんのエフェクターを直列で繋ぎ過ぎて音痩せする、もしくは、いろいろエフェクターを繋いではみたが飽きてしまった、もっと面白い使用法はないか?という方には、新しいエフェクターを導入する前にこの手の機器を導入して、手持ちの '資産' を蘇らせてみてはいかがでしょうか?

というか、管楽器でここまでやろうとする人・・いないだろうなあ。

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