2021年1月1日金曜日

フェイズとフィルターの黎明期

明けましておめでとうございます。

以前の記事 'フェイズの源流 - その黎明期 (再掲)' を一部増補、再編集してお送りしたいと思います。ロックとエレクトロニクスの加熱した1960年代後半。すでに欧米ではいくつかのメーカーから 'アタッチメント' と呼ばれるエフェクター黎明期が到来、当時のLSD服用による '意識の拡張' と相まってレコーディング技術が飛躍的に進歩しました。そんな 'パラダイム・シフト' の中、日本が世界に誇る作曲家、富田勲氏の音作りは音楽の発想を鍛える上でとても重要な示唆を与えてくれます。







いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクター登場前夜は、まだこの手の位相を操作して効果を生成するにはレスリー社のロータリー・スピーカーに通す、2台のオープンリール・デッキを人力で操作して、その位相差を利用する 'テープ・フランジング' に頼らなければなりませんでした。富田氏はこのような特殊効果に並々ならぬ関心を持っており、いわゆる 'Moogシンセサイザー' 導入前の仕事でもいろいろ試しては劇伴、CM曲などで実験的な意欲を垣間見せていたのです。

"これは同じ演奏の入ったテープ・レコーダー2台を同時に回して、2つがピッタリ合ったところで 'シュワーッ' って変な感じになる効果を使ったんです。原始的な方法なんだけど、リールをハンカチで押さえるんです。そしたら抵抗がかかって回転が遅くなるでしょ。'シュワーッ' ってのが一回あって、今度は反対のやつをハンカチで押さえると、また 'シュワーッ' ってのが一回なる。それを僕自身が交互にやったんです。キレイに効果が出てるでしょ。"



1970年の新製品である初期の 'ギター・シンセサイザー' Ludwig Phase Ⅱ Synthesizerは当時、富田氏が手がけていた劇伴、特にTVドラマ「だいこんの花」などのファズワウな効果で威力を発揮しました。また、シンセサイザーを製作するEMSからも同時期、'万博世代' が喜びそうな近未来的デザインと共にSynthi Hi-Fliが登場、この時期の技術革新とエフェクツによる '中毒性' はスタジオのエンジニアからプログレに代表される音作りに至るまで広く普及します。そんな時代の空気を吸ったような 'Moog前夜' の富田氏はLudwig Phase Ⅱについてこう述べておりました。

"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"

後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、映画のサントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する重要なものであったのかが分かります。また、この時期から1971年の 'Moogシンセ' 導入前の富田氏の制作環境について松武氏はこう述懐しております。

"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"

この '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さて、冒頭の1969年製作のNHKによるSF人形劇「空中都市008」では、まだ電子的な 'モジュレーション' 機器を入手できないことから当時、飛行場で体感していた 'ジェット音' の再現をヒントに出発します。

"その時、ジェット音的な音が欲しくてね。そのころ国際空港は羽田にあったんだけど、ジェット機が飛び立つ時に 'シュワーン' っていう、ジェット機そのものとは別の音が聞こえてきたんです。それはたぶん、直接ジェット機から聞こえる音と、もうひとつ滑走路に反射してくる音の、ふたつが関係して出る音だと思った。飛行機が離陸すれば、滑走路との距離が広がっていくから音が変化する。あれを、同じ音を録音した2台のテープ・レコーダーで人工的にやれば、同じ効果が出せると思った。家でやってみたら、うまく 'シュワーン' って音になってね。NHKのミキサーも最初は信じなくてね。そんなバカなって言うの。だけどやってみたら、これは凄い効果だなって驚いてた。これはNHKの電子音楽スタジオからは出てこなかったみたい。やったーって思ったね(笑)。"

まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もなければザ・ビートルズが用いたADT (Artificial Double Tracking)の存在も知られていなかったのです。つまり、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していた後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。ちなみにそのADTについてザ・ビートルズのプロデューサーでもあるジョージ・マーティンはこう述べております。興味深いのは、三枝文夫氏がHoneyのPsychedelic MachineやVibra Chorusを開発するにあたりインスパイアされた 'フェーディング' と呼ばれる電波現象にも言及していることです。

"アーティフィシャル・ダブル・トラッキング(ADT)は音像をわずかに遅らせたり速めたりして、2つの音が鳴っているような効果を得るものだ。写真で考えるといい。ネガが2枚あって、片方のネガをもう片方のネガにぴったり重ねれば1枚の写真でしかない。そのようにある1つのサウンド・イメージをもう1つのイメージにぴったり重ねれば、1つのイメージしか出てこない。だがそれをわずか数msecだけズラす、8〜9msecくらいズラすことによって、電話で話してるような特徴ある音質になる。それ以下だと使っている電波によってはフェーディング効果が得られる。昔、オーストラリアから届いた電波のような・・一種の "ついたり消えたり" するような音だ。さらにこのイメージをズラしていき27msecくらいまで離すと、われわれがアーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ぶ効果になる・・完全に分かれた2つの声が生まれるんだ。"






EMS Synthi Hi-Fli - Prototype

さて、そんないわゆる '人間の声' を模したような効果に特化したフィルター効果。いや、これは原初的なエフェクツとも言えるトークボックス(マウスワウ)のことではなく、シンセサイズにおけるバンドパス帯域を複合的に組み合わせることで 'A、I、E、O、U' といった母音のフォルマントを強調、まるで喋っているようなワウの効果を生成するものです。古くは 'ギターシンセ' の元祖であるLudwig Phase Ⅱ SynthesizerやEMS Synthi Hi-Fliなど高級なサウンド・システムの一環として登場し、いわゆる通俗的な 'ギターシンセ' の初期のイメージとして流布するきっかけとなりました。中身は上述したバンドパス・フィルターとファズを組み合わせて 'ソレっぽく' (笑)聴かせているような印象に終始するものが大半の代物、しかしその効果が醸し出すロマンはありました。この、何度見てもたまらない '楽器界のロールスロイス' とも言うべきEMS。いわゆる '万博世代' やAppleの製品にゾクゾクする人なら喉から手が出るほど欲しいはず。現在、このEMSは過去製品の 'リビルド' をDigitana Electronicsを中心に会社は存続しているのだからAppleが買収して、電源Onと共に光る '🍏' マークを付けた復刻とかやって頂きたい。個人的に 'エフェクター・デザイン・コンテスト' が開催されたら三本の指に入る美しさだと思います。










まさに 'サウンド・システム' と言ってもいいくらい大仰なLudwig Phase Synth ⅡやEMS Synthi Hi-Fliから数年後、よりコンパクトなかたちでその '喋るワウ' に特化したものとして普及したのが 'エレハモ' のTalking PedalやClorsoundのDipthonizerに当たります。特に 'A Speech Synthesizer' と銘打ったTalking PedalはEMSで製品開発に勤しんだ名匠、デイヴィッド・コッカレルが同社に移ってから手がけたもの。また、この手のニッチな効果はむしろ、現在の 'モジュラーシンセ' などと同列で扱う奏者たちの方がより自由な発想で刺激を与えてくれるのか、現在でも多くの工房から同種の製品が市場に供給されております。ちなみにこのEMSで製品開発に携わった名匠、デイヴィッド・コッカレルはその後Electro-Harmonixに渡り現在までその手腕を奮っておりますが、同じくEMSで製品開発に勤しんだエンジニアが携わったのが英国のAnalogue Systems。現在は ' ユーロラック・モジュラーシンセ' の分野ですでに老舗感すら漂わせておりますけど、創業時の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に製品第一号として登場したのがこのFilterbank FB3です。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、元EMSのスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに換装したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の要望を掴みます。発売当時、まるで 'Moogのような質感' という '売り文句' も冗談ではないほど太く粘っこいその '質感' は、3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassの 'マルチアウト' を駆使してLFOとCV入力による様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが可能。そんな本機の設計の元となったのはスティーヴ・ゲイがEMS時代に手がけた8オクターヴのFilterbankですね。そして本機と共に使うことを推奨している同社の16ステップ × 3列のアナログ・シーケンサーTH-48。ステップのモードはリセット、前進ラン/ランダム、外部トリガーの3種でA、B、Cの3列のうちA、B2列は音程のチューニングに際して便利なクオンタイザーの入出力に対応しており、Cの3列目ではCV出力スルーの設定でポルタメントの効果を生成することが出来ます。














Foxx Guitar Synthesizer Ⅰ Studio Model 9

毛羽立った筐体が特徴のFoxxの 'ギター・シンセサイザー' ペダルにKorgの 'Traveller' フィルターを搭載したVCF FK-1 'Synthpedal'。基本的に黎明期の製品はエンヴェロープ・フィルター、ファズワウ、フェイザー、フランジャー、LFOといった重複する機能が混交した状況であり、後にカテゴリー化される名前より先に話題となっていたもの、一部、類似的な効果を強調して付けるというのが習慣化しておりました。Shin-ei Uni-Vibeの 'Chorus' (当初は 'Duet')も後のBoss Chorus Ensemble CE-1とは別物ですし、LudwigやFoxx、Maestroから登場した 'Synthesizer' というのもRoland GR-500以降の 'ギターシンセ' とは合成、発音方式などで別物。それはMaestroのその名もずばりFuzz Phazzerから集大成的 '擬似ギターシンセ' なUSS-1に到るまでこの時代を象徴しました。 富田氏によれば、このような 'モジュレーション' 系エフェクターはMoogシンセサイザーの単純な波形に揺らぎを与えて 'なまらせる' 為に用いており、そこには機器自体から発する歪んだ 'ノイズ' がとても有効であることを力説します。

"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"










Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1

一方、こちらは日本が誇る偉大なエンジニア三枝文夫氏が手がけたKorgの前身、京王技研によるSynthesizer Traveller F-1。本機は-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' を単体で搭載したもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。三枝氏といえば日本のエフェクター黎明期を象徴する2種、Honey Psychedelic Machine、Vibra Chorusの設計者としてすでに 'レジェンド' の立場におり、本機はちょうど京王技研からKorgへと移行する過渡期に設計者からユーザーへの '挑戦状' として遊び心いっぱいに提供されながら、結局は現在まで '発見' されることなく 'コレクターズ・アイテム' として捨て置かれております。出でよ、挑戦者!。そんな本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏も携わっており、当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったというのは面白い。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"


余談ですが、佐藤氏がバークリー音楽大学から帰国した1968年、当時開発していた電気楽器のモニターとしてアプローチしてきたのが京王技研でした。面白いのは佐藤氏が目の前にした同社初のシンセサイザー 'Korgue' のプロトタイプに対して、'世界同時革命' 的(笑)に似たようなテクノロジーの進化のエピソードとしてこう述べております。

"8月に帰ってきた同じ年、京王技研(Korg)の社長さんから電話がかかってきたんです。アメリカに行く前からエレピやクラヴィネットを使っていたのを知っていて、「うちで今度、新しい電子オルガンを作ってみたんだけど、見に来て、ちょっと意見を聞かせてくれないか」っていうんですよ。それで行ったらば、ヤマハのコンボオルガンとかみたいなんだけど、音色を作れるようになっていたわけ。ここをこうすると音が変わるよ、というふうな。それで「これ、オルガンっていうより、シンセサイザーなんじゃないの?」って言ったら、シンセサイザーという言葉を誰も知らなかったの、その場にいる人が(笑)。

「なんだ、それは?」って言うんで、発振器からいろんな音が作れるっていうものを、シンセサイザーっていうらしいよって答えたら、「へえ、じゃあ、シンセサイザーっていうんだ、これは。そういう方に入るんだね」って。"






→ 'Mixtur' Liner Notes
Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur
→ 'Mixtur' Liner Notes
Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur

そんなリング・モジュレーションといえば現代音楽の大家、カールハインツ・シュトゥックハウゼンが 'サウンド・プロジェクショニスト' の名でミキシング・コンソールの前に陣取り、'3群' に分かれたオーケストラ全体をリング変調させてしまった 'ライヴ・エレクトロニクス' の出発点 'Mixtur' (ミクストゥール)に尽きるでしょうね。詳しいスコアというか解説というか '理屈' は上のリンク先を見て頂くとして、こう、何というか陰鬱な無調の世界でおっかない感じ。不条理な迷宮を彷徨ってしまう世界の '音響演出' においてリング・モジュレーターという機器の右に出るものはありません。映像でいうならフィルムが白黒反転して '裏焼き' になってしまった色のない世界というか、ゴ〜ンと鳴る濁った鐘の音、世界のあらゆる '調性' が捻れてしまったような金属的な質感が特徴です。ちなみに日本における 'シュトゥックハウゼン体験' は1966年に来日してNHK電子音楽スタジオで制作した 'Telemusik' がその出発点となります。しかしそれがよりアトラクション的に大衆にまで浸透?したのは、1970年の大阪万博におけるドイツ鉄鋼館の催しとして企画された球形型ホールで四方八方から連日炸裂するような電子音響のステージでした。まさに万博のテーマに呼応してスノッブな前衛の嵐が吹き荒れた '進歩史観' であり、パビリオンを案内するコンパニオンがその不協和音により生理不順となってしまったことは有名な話、だとか(苦笑)。






Oberheim Electronics Ring Modulator (Prototype)
Maestro Ring Modulator RM-1A
Maestro Ring Modulator RM-1B

このリング・モジュレーターはそもそも1960年代後半、後に 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムが同じUCLA音楽大学に在籍していたラッパ吹き、ドン・エリスより 'アンプリファイ' のための機器製作を依頼されたことから始まりました。この時少量製作した内のひとつがハリウッドの音響効果スタッフの耳を捉え、1968年の映画「猿の惑星」のSEとして随所に効果的な威力を発揮したことでGibsonのブランド、MaestroからRM-1として製品化される運びとなります。オーバーハイムは本機と1971年のフェイザー第一号、PS-1の大ヒットで大きな収入を得て、自らの会社であるOberheim Electronicsの経営とシンセサイザー開発資金のきっかけを掴みました。それまでは現代音楽における 'ライヴ・エレクトロニクス' の音響合成で威力を発揮したリング・モジュレーターが、このMaestro RM-1の市場への参入をきっかけにロックやジャズのフィールドで広く認知されたのです。








Maestro RO-1 Rover

こちらは、そんな超重量級の 'レスリー・スピーカー' をいわゆる 'ロータリー' 部のキャビネットとして、ギターアンプをパワーアンプにして駆動させるFender Vibratone。その '銀パネ' のグリルを外すとスピーカー本体の前に回転する風車を配置するものでして、これは当時、Fenderの親会社であるCBSがLeslieのパテントを所有していたことから実現しました。そしてMaestroからはドラムロール状のロータリー・スピーカーとしてRoverが製品化されます。ちなみにここ日本からも独特な上面配置のギターアンプ 'Checkmate 30' がTeiscoのOEMとして海外に輸出されており、上面テーブルを活かした木目調インテリアとしてコーヒーで一服できるお洒落な逸品がありました(笑)。しかし、こんな 'ドップラー' 効果を大きなアンプとしてFenderやMaestroが製作していた当時、日本のHoneyから電子的シミュレートで(当時としては)可搬性のよい '卓上型' 及び 'フットボックス' の製品として開発していたのですから、その世界的な技術力とセンス、恐るべし。このような黎明期における状況の中で「空中都市008」における 'テープ・フランジング' の効果は、当時、すでに製品化されていたHoneyのVibra Chorus、Psychedelic Machineなど伺い知らぬまま物理的な法則と手持ちの機器や録音環境を応用、組み合わせながら富田氏の飽くなき実験精神を呼び起こすきっかけとなりました。なければ作る・・この 'DIY' 精神はそのまま未知の楽器、'Moogシンセサイザー' の膨大なパッチングによる音作りへと直結します。また、1970年代後半には 'レスリー・スピーカー' の効果を即席で生成すべく、スピーカーをターンテーブルに乗せて屏風で囲い、マイクで集音するという '荒技' に挑みます。今なら同じセッティングをBluetoothのスピーカーをワイヤレスで飛ばすことで簡単に再現することが出来ますが、当時はかなり苦労したとのこと。

"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンがさんざん使ってたんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにものすごく高かった。それで '惑星' や 'ダフニスとクロエ' で使った方法なんだけど、FとSというスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したら、レスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はエナメル線を吊るして、それで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"









Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume
De-Armond Model 800 Trem-Trol
De-Armond Model 601 Tremolo Control

一方、そんなレスリー・スピーカーの効果を、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルで結実したもの。このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。また、このような 'オイル缶' を揺するモジュレーション機構は既に1950年代から存在しており、その中でもユニークな一品として有名なのが、ヴォリューム・ペダルの製作で有名なDe-ArmondのTrem-Trol。なんとペダル内部に組み込まれた電解液で満たした筒を、発動機により一定間隔で揺らして筒の壁に触れる面積の変化から音量を上下させるという・・なんとも原始的で、手の込んだ構造のトレモロですね。その下の動画は前身機にあたるModel 601の内部構造でこんな感じに揺らしております。今じゃその製作コストがかかり過ぎて大変だろうけど、エフェクター黎明期にはいろんな発想から電気的操作として取り出すという面白い時代でした。この丸くて暖かいレトロな雰囲気こそトレモロの真骨頂・・'ツイン・ピークス' のテーマとか弾きたくなりませんか?







Vintage Fender Effects from The 1950's - 1980's
Carlsbro Mantis BBD Analog Delay w/ Foot Switch

さて、今や主流であるデジタル・ディレイではありますが、一方では相も変わらず '往年の名機' 再現に挑む為のDSPによる 'アナログ・モデリング' 探求が盛んです。まだまだ人間の耳はアナログの曖昧さを求めているワケですけど、磁気テープ・エコー、磁気ディスク・エコーに続いてやってきたTel-Ray 'オイル缶エコー' の世界。オイルで満たされた 'Adineko' と呼ばれる缶を電気的に回転させることでエコーの効果を生成するものなのですが、このオイルが今では有害指定されていることで物理的に再現することが不可能。このオイルの雫のイメージそのままドロッとした揺れ方というか、懐かしくも 'オルガンライク' に沈み込む '質感' というか・・たまらんなあ。一方でこの大仰な '装置' とも言うべきエコーのサウンド・システムから、より可搬性に優れながらも短いディレイ・タイムに甘んじたBBDチップによるアナログ・ディレイ登場を促すのが1970年代の流れとなります。









Fender Soundette
Arbiter Soundette
Arbiter Soundimension
Arbiter Add-A-Sound

そんなエコーにおける富田氏の好奇心、想像力は群を抜いており、まだ、オーケストラを相手とした駆け出しの作曲家時代、エンジニア的視点からその擬似的な '空間合成' に対して注意深く耳を澄ませていました。NHKで放映された '富田スタジオ' にも複数の空間系エフェクターと共に、お手製のパッチベイやミキシング・コンソールを前にして様々な '空間生成' のテクニックを駆使していたようです。

"(映画の効果として)不気味な忍び寄る恐怖みたいなものを出すのにどうしてもエコーが欲しかった。その時、外を歩いていたら水槽があったんだよ。重い木の蓋を開けて、石ころを拾って放ってみたら「ポチャーン」って、かなり伸びのいい音がするわけ。好奇心旺盛なミキサーさんと共にそこへスピーカーとマイクを吊るしてやろうってことになった。スタジオの楽団の前にエコー用のマイクを立てておいて、その音を水槽に流して、その残響をマイクで拾ってミキサーの開いているチャンネルに戻す。そのエコー用マイクというのをストリングスに近づけるとブラスにエコーがかかる。両方にかけたいときは中間に置けばいい。"

その後、エフェクターとして出回った磁気ディスク式エコーのBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムとなり、その '秘密' ともいうべき物理的 'エラー' から生成される 'モジュレーション' について富田氏は以下のように語っております。

"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"

一方、Arbiterから登場したSoundimensionとSoundetteもBinson Echorecと同様の磁気ディスク式エコーであり、この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名です。またアッパー・オクターヴの効果を持つAdd-A-Soundはフランク・ザッパも愛用しました。そんなSoundimensionはジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。後には自らミキシング・コンソールの前を陣取り 'Dub Specialist' の名でダブ・ミックスを手掛けますが、そんな彼のスタジオStudio Oneでドッドの片腕としてエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンドディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"






"MAID IN JAPAN !"

時はザ・ビートルズの来日公演に揺れ、その影響で全国に 'GSブーム' の巻き起こった1967年2月に東京都新宿で設立されたHoney。元Teiscoのスタッフにより独立したこの小さな会社は、エレクトリック・ギター、ベース、アンプ、マイクやPAシステムなどと共にエフェクター(当時はアタッチメントという呼称が一般的でした)の製造にも乗り出します。当時のロックを代表する 'アタッチメント' として話題となっていたファズは、Baby Cryingの名前で製品化、海外へもOEMのかたちで輸出されて '流行の東洋の神秘、Honeyの効果装置' のキャッチコピーで好評を得たそうです。他にもAce Tone、Royal、Guyatone、Voiceなどから登場し、1970年代に入ってからはMiranoやElkが後に続くようにファズを製作しました。そんな高度経済成長期の真っ只中、このHoneyを筆頭に多くの日本の会社は欧米の下請け企業としてOEMの輸出に勤しみ英国のRose-Morrisや米国の大手Unicordと提携、そこからさらに細かなブランドとして店頭を飾ります。そう、高価なMaestroやFenderのエフェクターに手の出ないユーザーたちに向けた良心的な商品として、Shaftesbury、Uni-Vox、Appolo、National、Elektra、Jax、L.R.E.、Cromwell、Sam Ash、Sekova etc..のブランド名を付けた優秀なアジア製品群。そして輸出のみならず国内では独立元のTeiscoやGrecoへも納入し、またIdolという別ブランドでも販売するなど、とにかく 'GSブーム' と呼応するようにフル生産の状況であったことが伺えます。







このBaby Cryingは当時、英国のRoger Mayerの手により開発され、ジミ・ヘンドリクスの使用で有名となったOctavioに先駆けたアッパー・オクターヴの効果を持っており、それはサイケデリックの時代、どこかシタールの音色にも例えられるほどユニークなものでした。ちなみに同時期、Ace Toneで楽器製作に従事していた梯郁太郎氏はそんなHoneyの進取性に着目しており、彼ら自身が英国のTone Bender Mark Ⅰを参考にしてBaby Cryingが製作されていたことを打ち消してこう述べております。

"いやいや、そんなことはないんですよ。彼ら自身が耳で決めたのだと思います。ハニーを設計した人物はその後にエーストーン、ローランドに入社した人ですからその辺の事情は聞いてますけど、ハニーは歪んだ音にエッジをつけて微分する・・要するに低音部を抑えて、真ん中から上の音を強調する回路になっていて、当時としては新しい種類の音でしたね。"

ちなみに1967年、国産初のエフェクターとして製作されたAce Tone Fuzz Master FM-1の '元ネタ' とされたのは1962年にGibsonから登場したMaestro Fuzz Tone FZ-1。そのデモ音源ではいわゆるギターアンプを 'オーバードライブ' させるという発想ではなく、'Sousaphone' 〜 'Tuba' 〜 'Bass Sax' 〜 'Cello' 〜 'Alto Sax' 〜 'Trumpet' という流れで各種管楽器の模倣から始まっているのは興味深いです。このファズを一躍有名にしたザ・ローリング・ストーンズの 'Satisfaction' でキース・リチャーズの頭の中にあったのは、あのスタックスの豪華なホーン・セクションによる 'ブラス・リフ' を再現することでした。Maestroのブランドマークが 'ラッパ3本' をシンボライズしたのは決して伊達ではありません。もちろんこのような着想に加えて、FZ-1の開発者であるグレン・スヌッディとレヴィ・ホッブスの2人によりミキシング・コンソールの接触不良から '過剰な歪み' を取り出すという 'ファズ正史' の技術的側面で具現化されました。そんな日本でのファズ需要は1966年のザ・ビートルズ来日公演以降、GSと呼ばれるコピーバンドのムーヴメントが現れたこととパラレルな関係となりますが、当初はその歪んだトーンを三味線の音色に特徴的な 'さわり' であるとか、アンプのスピーカーのコーン紙を破いてみたりだとかの試行錯誤があったようです。しかし、このFZ-1のデモ音源とも言うべきメーカーが用意した管楽器のシミュレートというのは、むしろ発想として後の 'シンセサイズ' を先取りしたという重要な視点も隠されているのでは無いでしょうか?。









Honey Psychedelic Machine
Honey Vibra Chorus

1968年にはそんなHoneyのカタログも一挙に拡大、ファズに加えワウペダルのCrierはもちろん、トランジスタ7石、ダイオード1個、CDS2個の回路をスプリング・リヴァーブと組み合わせたソリッドステート式のEcho Reverb ER-1P、ファズとオートワウ!を一緒にまとめてしまったようなSpecial Fuzz、ワウペダルとヴォリューム・ペダルに波(Surf)と風(Tornado)とサイレンの効果音!を発生させる '飛び道具' のSuper Effect HA-9P、そして、いよいよ同社を世界的な名声へと押し上げるモジュレーションの先駆的名機、Vibra ChorusとHoneyの集大成的 'マルチ・エフェクター' の元祖、Psychedelic Machineが登場します。特筆したいのはここまでの独創的ラインナップを誇るのはこの時点で世界においてHoneyだけ、だったのです。










Shin-ei Companion / Uni-Vox Uni-Vibe Pt.1
Shin-ei Companion / Uni-Vox Uni-Vibe pt.2
Shin-ei Companion SVC-1 Vibra Chorus
Korg Nuvibe ①
Korg Nuvibe ②

そんな日本のエフェクター黎明期を支えたHoney / Shin-ei Companion。当時、ファズとワウがその市場の大半を占めていた中でいち早く 'モジュレーション' 系エフェクターの開発に成功したことで、現在までその技術力と先見性は高く評価されております。1968年のPsychedelic MachineとVibra Chorus、Special Fuzzをきっかけにして翌年3月のHoney倒産後、引き継いだShin-eiの時代になってからはUnicordへのOEM製品として本格的に生産されたUni-Vibe、Shin-eiのOEMブランドCompanionのVibra Chorus VC-15(SVC-1)、Resly Tone RT-18(Phase Tone PT-18)、最終型となったPedal Phase Shifter PS-33などが会社の倒産する1970年代半ばまで用意されました。








Shin-ei Companion Resly Tone RT-18
Shin-ei Companion Phase Tone PT-18
Shin-ei Companion Pedal Phase Shifter PS-33
Shin-ei Companion Resly Machine RM-29 ①
Shin-ei Companion Resly Machine RM-29 ②
Blackfield Orchester Elektronik Flying Sound (Rotor Effekt) ①
Blackfield Orchester Elektronik Flying Sound (Rotor Effekt) ②

途中、自社のResly Tone RT-18の名称がPhase Tone PT-18に変更されたことからも象徴されるように1971年、トム・オーバーハイムが手がけたPhase Shifter PS-1をきっかけにして起こった 'フェイザー・ブーム' は、Honey / Shin-eiの先駆的な存在を闇に葬るきっかけとなってしまったのが悔やまれます。これはそもそも先駆的製品であったこの 'Maid in Japan' が、まだまだ海外では安価なOEM製品以上の評価を受けていなかったことの証左と言ってよいでしょうね。少量生産していた 'アタッチメント' と呼ばれる機器は、ロック全盛とエレクトロニクスの革新により市場が活況、より生産体制を拡大すべくアジアなどの下請け企業へ発注し、大量生産と共にビギナー層への安価な製品供給を拡充してその裾野を広げていく・・。まさにHoney / Shin-ei Companionはそんな時代の真っ只中で興隆し、消え去ってしまった幾多ある会社のひとつだったのです。そんな '屈辱的' な先見性と 'フェイザー・ブーム' の狭間で産み落とされたと思しき珍品のひとつがコレ、Resly Machine RM-29。そもそも1968年にHoneyから三枝文夫氏によって開発された本機の '源流' に当たるVibra Chorusの製品コンセプトは、レスリー社のロータリー・スピーカーを電子的にシミュレートすることでした。それがShin-ei以降もずっと製品名として生き残ってきたワケなんですが、時代が一気に 'フェイザー' という新たな名称と共に普及したことで、Shin-eiはそのきっかけとなったMaestro Phase Shifter PS-1のデザインをそのままパクるという暴挙に出ます。しかし中身は従来の '源流' としたヴィブラート色濃い独特な効果ながら、Uni-Vibeに代表される渦巻くようなサイケデリック的強烈な揺れ感は薄められた廉価版として、何とも折衷的なモジュレーション系エフェクターの範囲に留まってしまいました。ちなみに最後の動画は西ドイツ製ファズワウ+フェイザーと謳いながら 'ダブルラバー' のペダルからShin-eiのOEMではないか?と睨んでいる実に怪しげな一品、Flying Sound (Rotor Effekt)。





そんなResly Machineに象徴される 'フェイザー・ブーム' からオクターバーやMusitronics Mu-Tronをきっかけに普及した 'オートワウ・ブーム' に何とか食らい付いたShin-eiはオクターバーのOB-28やエンヴェロープ・フィルターのMB-27といった新たな製品開発に着手しましたが、いよいよ会社として次なる一手を打ち出さなければならない状況へと追い込まれます。Resly ToneからPhase Toneへ、さらにはペダルに内蔵してリアルタイム性に寄ったPedal Phase Shifterへとバリエーションを展開してみたものの、多分、その中身は古くさい 'Vibra Chorus' の資産を手を替え品を替えの状態だったのだろうなあ、ということで、ほとんど製品開発の資金を捻出できなかったのだろうと想像します。ちなみにそのShin-eiをOEMで抱えていたUnicord社はKorgにも下請けを出しており、そんな '国産フェイズ' としてこんな怪しげな '据え置き型' も輸出しておりました。米国上陸後はUnicord社からUni-Vox PHZ-1のほかMonacor PZ-100、Melos PS-1000、BST LM-200といったブランドで販売されており、それぞれのブランド名を表示するLED('Video Counter' って何だ?)がフェイズの揺れに合わせて点滅する仕様が素敵です。そして、Shin-ei MB-27に先駆けて国産初のエンヴェロープ・フィルターとして登場したRoland AG-5 Funny Cat。弱めの 'ソフト・ディストーション(SDS)' と3段階切り替えの 'ハーモニック・ムーヴァー' を組み合わせて、まさに猫のような '鳴き声' を生成する・・のかな?。ちなみにこのRolandの前身に当たるAce Toneからも梯郁太郎退社後の日本ハモンド傘下でLH-100 Stereo Phasorを製作しております。













MXR M-101 Phase 90
MXR M-107 Phase 100
Maestro Phase Shifter PS-1A
Maestro Phase Shifter PS-1B
Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-1
Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-2
Maestro MP-1 Phaser
Maestro MSP Stage Phaser

デカイMaestro PS-1も数年後にはMXRからPhase 90というカラフルな一品の登場で旧態然な製品となり、ここにきてそれまでの '大型なアタッチメント' という形態から '手のひらサイズ' のコンパクト化が始まります。このMaestroと共にフェイザー市場拡大に貢献したMXR Phase 90自体、そもそもがMXR創業者であるテリー・シェアウッドとキース・バーのふたりが経営していた修理会社に持ち込まれたMaestro PS-1を見て一念発起、MXR起業へのきっかけとなったことは有名な話。これは、ロジャー・メイヤーがジミ・ヘンドリクスの為にカスタムで製作していたOctavioを修理する機会のあったTycobraheがデッドコピー、新たにOctaviaとして製品化したというエピソードにも通じることで、どこまでがコピー、どこからが影響なのかというのはヒジョーに線引きの難しい話でもありますね。MXRは4ステージのPhase 90、その廉価版の2ステージなPhase 45、デラックス版とも言うべきPhase 100の3種を用意しました。ちなみに元祖であるMaestro PS-1シリーズは当時の 'フェイザー・ブーム' の出発点となるべく大ヒット、未だに状態良好な中古があちこちで散見されておりますが、1970年代後半にはそれまで中心となって携わっていたC.M.I.からNorlinへと移譲、俗に 'Tankシリーズ' とも呼ばれる筐体で新たにモーグ博士がデザインしたMP-1 Phaser、MSP Stage Phaserへと変貌します。また、Maestroは早くにトム・オーバーハイムというシンセサイザーの大家を擁したことからフィルターの設計にも熱心で、管楽器の模倣を出発点にしたファズを始めに他社とは一味違う製品を黎明期の市場に開陳しました。すでに1969年には世界初とも言えるエンヴェロープ・フィルター 'Wow Wow' を初期のマルチ・エフェクツ・ユニットRhythm 'n Sound for Guitar G2に搭載し、その後、フランク・ザッパにより名曲 'Ship Ahoy' のパフォーマンスで伝説化したFilter Sample/Hold FSH-1は後に 'ランダム・アルペジエイター' と呼ばれるシンセサイズなフィルターとして復活、再評価されました。前述した '擬似ギターシンセ' のUSS-1はそんなオーバーハイムがMaestroで手掛けた結晶の '箱詰め化' ですね。






そのユニークな存在からエフェクター黎明期と ' サイケな時代' を象徴するカラフルなスイッチを備えたRhythm 'n Sound for Guitar。ファズとオクターバー、3種のトーン・フィルターを備えながらギターのトリガーで鳴らすリズムボックスを加えたことで、現在まで異色のユニットとして時代の評価に埋もれたままの存在となっております。1968年登場のG1は当時のフランク・ザッパがVoxワウペダル(と後2つほど歪み系?エフェクターを確認)やヘッドアンプのAcoustic 260と共にステージで使用しているのが動画で確認されており、多分ザッパは本機内蔵の3種からなる 'Color Tones' の 'ワウ半踏み風' フィルタリングトーンに強い関心を示していたと思われ・・ると思いきや、ザッパの機材を詳細に解説するMick Ekers著の 'Zappa Gear: The Unique Guitars, Amplifiers, Effects Units, Keyboards and Studio Equipment' によれば、同シリーズの姉妹機である管楽器用Sound System for Woodwinds W2とのこと。う〜ん、あえて管楽器用を使いますか・・(謎)。ちなみに本機は専用スタンドやアンプなどに置いて使う仕様から、筐体前面に被せてセッティングをメモするチートシートが付属しておりました。








Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-2

そんな初代G1ではBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載し、この時代では先駆だったオクターバーにして 'ウッドベース' のシミュレートとも言うべきString Bass、Fuzz Bassの2種、そして 'ワウ半踏み' 風なトーン・フィルターのColor Tonesを3種備えておりました。このG1も翌69年にはG2として大々的にヴァージョンアップし、当時のHoney Psychedelic Machineと並んでより 'マルチ・エフェクツ化' します。G2ではパーカッションからBass Drumを省きオクターバーもString Bassひとつになった代わりにMaestro伝統のFuzz Toneを搭載、Color Tonesも2種に絞られました。そしてトレモロのEcho Repeatに加えて1969年にして先駆的な機能がもうひとつ搭載されます。ちなみにG2のユーザーとしてはエディ・ハリスのグループに在籍したベーシスト、メルヴィン・ジャクソンがLimelightからのアルバム 'Funky Skull' でジャケットにもEchoplexと共に堂々登場。全編、先駆的な 'オートワウ' を活かした変態的ウッドベースを奏でております。






これら総合的エフェクター・ブランドのMaestroでは、そんな 'シンセサイズ' においてロバート・モーグが協力した唯一無二の一台、TH-1 Therminまで用意しているのには驚かされます。1920年にロシアの発明家レフ・セルゲーエヴィッチ・テルミンにより開発されたこの世界初の電子楽器は、あのモーグ博士にとっても長きに渡って自社で探求すべき機器として数多くの製品を市場に提供しました。音の高さ(ピッチ)を司る右手と音量を司る左手を奏者とアンテナの間で蓄えられた静電容量により変化、それに伴いオシレータの発振周波数を変調させて奏でます。ちなみにテルミンは微弱とはいえ電磁波を放出する高周波発振器なので、周囲にコンピュータを搭載した電子機器と併用する場合は少々注意が必要。そして、このTH-1のデモ音源を聴いていると思い出されるのは円谷プロ制作のSFドラマ '恐怖劇場アンバランス' のテーマ曲。多分、'おっかない曲' の5本の指に入るんじゃないかと思うのだけど(笑)、こちらも作曲はあの富田勲氏で多分、'モーグ・シンセサイザー' 導入直後で請け負った仕事のひとつですね。このドラマが制作された1970年代はそれまで邁進してきた高度経済成長期の歪みが表面化してきた時期で、公害と環境汚染、'エコノミック・アニマル' の人間性消失、都市の消費社会に対する自然回帰などの動きがあらゆる文化にも反映されておりました。小松左京原作の '日本沈没' や都市伝説雑誌 'ムー' に 'ノストラダムスの大予言'、ユリ・ゲラーの超能力といったオカルト・ブームが当時の 'シンセサイズ' の音作りにも反映していることは間違いありません。これは例えば、同時期のジャズ・ピアニスト三保敬が 'ジャズ・イレブン' を率いて制作した作品 'こけざる組曲' のドロドロした雰囲気にも共通するもの。わたしはこの作品を聴いてこれまた当時人気を博したドラマにちなみ '横溝正史ジャズ' と命名しましたけど・・分かってくれる人、いるかな?(笑)。
















ちなみにこちらはザッパのフィルタリングに対する音作りの研究に訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子のドゥイージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-Pass、Band-Pass、Hi-Passを切り替えながらフィルター・スウィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドで固定されフォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして帯域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。ザッパのフィルターに対する探究心は 'Ship Ahoy' のランダマイズなソロでお馴染みOberheim Voltage Controlled Filter VCF-200の 'Sample & Hold' 効果から、オクターバーへの関心としてArbiter Add-A-SoundやMu-Tronの傑作Octave Divider、さらに、そこで組み込まれていた機能を '緑の小箱' とも言うべき単体機としたDan Armstrong Green Ringerのギター内臓からSystech Harmonic Energizerに至るまで、まさに 'ニッチなペダル道' を歩む彼の耳の賜物に尽きますね。とりあえず、Mick Ekers著の 'Zappa Gear: The Unique Guitars, Amplifiers, Effects Units, Keyboards and Studio Equipment' は必読です。 












DeArmond Model 1900 Pedal Phaser
DeArmond 1920 Tornado Phase Shifter
DeArmond 1930 Twister Phase Shifter
Foxx Studio Model 7 Foot Phaser
Electro-Harmonix Bad Stone Phase Shifter
Electro-Harmonix Bad Stone Phase Shifter Pedal
Electro-Harmonix Small Stone Phase Shifter
Electro-Harmonix Micro Synthesizer
Fender Phaser

前述したように 'Synthesizer' の名の下に製作された黎明期ならではの '擬似ギターシンセ' では、ほとんどの製品でペダル内蔵型の複合機が主流でした。その流れを汲んでかこの 'フェイザー・ブーム' と共に希求されたのが 'ペダル・フェイザー' です。ヴォリューム・ペダルの製作として老舗のDeArmondもいち早くフェイザーにアプローチしており、ペダル内蔵型のModel 1900とより小型化した1920 Tornadoや1930 Twisterを市場にそれぞれ展開。そして、FoxxのStudio Model 9と姉妹機的存在でクイーンのブライアン・メイが愛用したことから伝説化されたModel 7 Foot Phaserや、後述するElectro-HarmonixにおいてもBad Stoneのペダル内蔵型が用意されました。ちなみに、このようなペダル型のほかにはFenderから円盤状のプレートをツイストさせて揺れを操作するユニークなPhaserも出現、2008年に復刻されて話題となりました。そんな70'sペダル界の王様 'エレハモ' から登場したフェイザーは2種あり、前者はボブ・ベドナーズの手によるBad Stone、後者のSmall StoneがEMSでシンセサイザーの設計に従事したデイヴィッド・コッカレルによりそれぞれデザインされました。これらは折しもやってきたR&Bやレゲエのファンキーなカッティング、フュージョンにおけるキーボードの 'バブリング' なトーンでMaestro、MXRと共に引っ張り凧の存在となります。そして、同社によるコッカレルのキャリアを活かした唯一無二の傑作と言えばこちらのMicro Synthesizerが挙げられますね。











こちらも 'Uni-Vibe' と同時期の初期フェイザーというか、レスリー・シミュレータと呼ぶべきドイツのSchaller Rotor Sound。このSchallerといえば 'ハンマートーン仕上げ' の重厚なフリをしながら実はプラスティック製筐体であるファズやトレモロ、'Yoy Yoy/Bow Wow' という謎な2つのトーン切り替えのワウペダルが有名です。また、同じくレスリー・シミュレータであるイタリアのオルガンの老舗Farfisa SferasoundからMaestro PS-1やMXR Phase 90をきっかけにして広まった 'フェイザー・ブーム' という形態への需要が起こります。ある意味これはUni-Vibeがもたらした '資産' のひとつでもあり、その後Greco Pedal PhaserやFoxx Foot Phaser、'エレハモ' からもBad Stoneのペダル版が登場して、ギタリストだけではなくキーボーディストにも広く普及するきっかけとなりました。そのイタリアでもオルガンのFarfisaからフェイザーの時代となりMontarboからファズ内蔵の 'Buzzer' とミックス出来るPB-2、三枝文夫氏のUni-Vibe開発のきっかけである 'フェーディング現象' をフェイズ効果として命名したTekson Fading EffectやJen ElettronicaのVariospectraなどの製品が市場に現れます。また、そのJenは専用のピックアップ使用による 'ギターシンセ' のGS-3000 Syntarなども開発しておりました。そして、北欧のスウェーデンからは1970年代初めにエンジニア、Nils Olof Carlinが手がけたPhase Pedalも出現。オリジナルはUni-Vibeと同種の8つのCDSと電球の点滅により '揺れ' を生成するもので、これも当時世界を駆け巡った 'フェイザー・ブーム' の一端を垣間見ることが出来るのではないでしょうか。今や、シンセサイザーの世界でその存在感を示すNordやElektron、ペダル界の革命児としてBJFEの遺伝子を世界にばら撒くBjorn Juhlを輩出するスウェーデンですが、そんな同国最初の 'ペダル・デザイナー' にして天文学への造詣も深かったCarlin本人は惜しくも2017年に亡くなられたそうです。また、このようなエフェクターにおける '辺境' への影響では、スイスのSSH InternationalからファズワウをベースにしたフィルターE-1もeBayやReverb.comなどでよく見かける1970年代の製品ですね。







Vox Model V251 Guitar Organ ①
Vox Model V251 Guitar Organ ②

ちなみに専用ピックアップによる器楽演奏の 'シンセサイズ' は古くから探求されており、例えばギター・シンセサイザーのような分野ではピッキングのトリガーで巨大なモジュラーシンセと同期、発音させることに技術者、一部奏者らがご執心しておりましたね。しかし、この手の機器の元祖に当たるVox Guitar Organの当時のデモンストレーション番組を見ても明らかなように、結局は今弾いているのがオルガンなのか?ギターなのか?という、何とも '色モノ' 的ブラインドフィールド・テストの域を出なかったことが露呈しちゃってる(苦笑)。こーいうのはサンプラー登場時に猫の鳴き声で鍵盤弾けます、みたいな頃まで伝統的に引きづっていて(笑)、分かりやすいんだけど一方では使い方の範疇、発想を阻害する要因になってしまいましたね。














Chicago Iron / Tycobrahe Pedal Flanger
Colorsound Dopplatone Phase Unit
Seamoon Funk Machine (Vintage)
Seamoon Funk Machine V1 (Vintage)
Seamoon Studio Phase
A/DA Final Phase
A/DA Flanger
A/DA Harmony Synthesizer ①
A/DA Harmony Synthesizer ②

一風変わった 'ヴィンテージトーン' を持つワウペダルとしてはこちら、Chicago Ironがお届けするTycobrahe Parapedalはいかがでしょうか。幻の70'sブランドとして君臨するTycobraheの完全復刻はChicago Ironにとってひとつの大きなチャレンジでした。Octavia、Pedal Flangerと共にラインナップされたこのParapedalは、まだTycobraheのブランド名を買い戻すまでは正式の名称が使えず 'Parachute' なるパロディ名で我慢し、現在ではようやく正規の 'Parapedal' としてそのモジュレーションの掛かった独特の 'フェイズワウ' を市場に開陳します。こちらはDC9Vながらオリジナル同様の 'ポジティヴ・グラウンド' の極性を持っているので、一般的な 'ネガティヴ・グラウンド' のペダルと同一のパワーサプライから電源供給する場合は注意が必要です。この手の 'フェイズワウ' という効果は、より大きい括りとして 'ペダル・フェイザー' という市場が席巻した時代の産物でもあり、それはフランジャー含めたモジュレーション系エフェクターから 'ギターシンセ' へと統合した音作りに結実します。エンヴェロープ・フィルターの '隠れた名機' Funk Machineで人気を博したSeamoonから登場するStudio Phaseを手がけたのがデイヴィッド・タルノウスキー。その彼が独立して携わったA/DAの名機FlangerとFinal Phase、そしてHarmony Synthesizerなど新種のデバイスはまさに1970年代末期の 'エフェクター全盛期' を盛り上げました。






このような黎明期を経ながら同じ位相を操作する効果を 'フェイザー' と 'フランジャー' としてカテゴリー分けされることで、ようやくエフェクターの市場に数多くの製品が登場します。その中でも特筆したいのがマイク・ビーゲルを中心にエンヴェロープ・フィルター、Mu-Tron Ⅲの大ヒットで先鞭を付けたMusitronicsであり、同社最大のユニットとして2台分のフェイザーを装備したMu-Tron Bi-Phaseはこのブームに終止符を打ちました。まるで '亜熱帯のサイケデリア' を象徴するマリワナの煙と共にたゆたうリー・ペリーに力を与えたその姿は、ほとんどギタリストがアプローチするのと同じ意識でミキサー、フェイザーを '演奏' している!一方、後に 'Moogerfooger' シリーズでも復活したMoog博士が手がけたラック版の12 Satage Phaser。エグいフェイズはもちろんですが、ステレオの音響生成において '3Dディメンジョン' 的定位にミックスで用いてやると効果てき面!ダブを作ることに熱中していたその昔、コイツが本当に欲しくて怪しげな中目黒のマンションの一室にあった楽器店で、外人オーナーとその彼女らしい通訳相手に本機の値段交渉をしたことが実に懐かしい(笑)。そして、Bi-Phaseと同じく強烈な '卓上' フェイズ・サウンドで時代を席巻したのが西ドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことからレアもので、本機は現在Van Daal Electronicsという工房により精巧なクローンが製作されております。一方、当時は 'ベルリンの壁' の向こう側であった東ドイツ産フェイザーも取り上げましょう。Vermona Engineeringも今ではドラムマシンや 'ユーロラック・モジュラーシンセ' の分野で老舗ですが、共産圏時代の野暮ったい '据え置き型' で1980年に登場したPhase 80はOn/OffスイッチとSpeed、Feedback、背面に備えたIntensityとSensibilityツマミという至極シンプルな設計でその後のVermona製品の出発点となりました。





Frogg Compu-sound - Digital Filterring Device

こんなカタチしてますけどペダルなんです。1970年代後半にFroggという会社がFoxxに依頼してわずか100台ほどしか製作しなかったエンヴェロープ・フィルターで、専用エクスプレッション・ペダルのほか、プログラマブルな100個のプリセットをいかにも '初期デジタル風' なEL管表示のデジタル・カウンターをテンキー操作する '電卓ライク' なルックスがたまりません。ちょうど同時代のYMOの使用で有名となったデジタル・シーケンサーRoland MC-8を彷彿とさせますが、実際の中身はアナログ回路で構成されているようです(笑)。当時の広告でも 'The Guitar Computer' と大々的に謳ってますけど(笑)、これってWMD Geiger Counterが登場した時も同じような 'デジアナ論争' ?というか、デジタル・カウンターが表示されれば人はすぐに中身もそうだと思い込んでしまう潜入意識がありますよね。こーいうハッタリ具合もそそられる魅力満点でして、Youtubeの動画で聴いてみれば実は地味なフィルタリングの '質感生成' に特化したヤツっぽいです。欲し〜。











上述したリー・ペリーと 'BlackArk' スタジオの守護神的存在として彼の '魔術' に貢献した機器、Musitronics Mu-Tron Bi-Phaseとスプリング・リヴァーブのGrampian Type 636があるとすれば、一方のキング・タビーと 'Tubby's Hometown Hi-Fi' ではスプリング・リヴァーブのThe Fisher K-10とタビーがダイナミック・スタジオから払い下げてきたMCI特注による4チャンネル・ミキサー内蔵のハイパス・フィルターが殊に有名です。EQの延長としてダイナミック・スタジオがオーダーしたこの機器は、後にプロデューサーのバニー・リーが "ダイナミックはこのミキサーの使い方を知らなかったんじゃないか?" と言わしめたくらい、タビーにとっての 'トレードマーク' 的効果としてそのままダブの 'キング' の座を確かなものとしました。そう、この効果が欲しければタビーのスタジオに行くほかなく、また、ここからワン・ドロップのリズムに2拍4拍のオープン・ハイハットを強調する 'フライング・シンバル' という新たな表現を生み出すのです。そのハイパス・フィルターは、左右に大きなツマミでコンソールの右側に備え付けられており、70Hzから7.5kHzの10段階の構成で、一般的な1kHz周辺でシャット・オフする機器よりも幅広い周波数音域を持っていました。タビーの下でエンジニアとしてダブ創造に寄与、'Dub of Rights' のダブ・ミックスも手がけた二番弟子、プリンス・ジャミー(キング・ジャミー)はこう述懐します。

"ダイナミック・サウンズ用に作られた特注のコンソールだから、すごく独特だったよ。最近のコンソールには付いていないものが付いていた。周波数を変えるときしむような音がするハイパス・フィルターとか、私たちはドラムでもベースでもリディムでもヴォーカルでも、何でもハイパス・フィルターに通していた。ハイパス・フィルターがタビーズ独特の音を作ったんだ。"

U.S.S.R. Elektronika 12-011 Multi Effects
U.S.S.R. Elektronika PE-05 Flanger

ちなみにこの手の効果はロシアも負けておりません。旧ソビエトの時代に 'ギターシンセ' 含めてマルチ・エフェクツ' に集大成させたのがこちら、Formanta Esko-100。1970年代のビザールなアナログシンセ、Polivoksの設計、製造を担当したFormantaによる本機は、その無骨な '業務用機器' 的ルックスの中にファズ、オクターバー、フランジャー、リヴァーブ、トレモロ、ディレイ、そして付属のエクスプレッション・ペダルをつなぐことでワウにもなるという素晴らしいもの。これら空間系のプログラムの内、初期のVer.1ではテープ・エコーを搭載、Ver.2からはICチップによるデジタル・ディレイへと変更されたのですがこれが 'メモ用ICレコーダー' 的チープかつ 'ローファイ' な質感なのです。また、簡単なHold機能によるピッチシフト風 '飛び道具' まで対応するなどその潜在能力は侮れません。そんなフランジャーって何でか '共産主義者' たちの興味を惹いていたようで(笑)、最近eBayやReverb.comなどにゾロゾロと現れている旧ソビエト時代の '遺物たち' からはやたらとフランジャー多し(謎)。









U.S.S.R. Spektr-3 Fuzz Wah & Envelope Filter
U.S.S.R. Spektr-4 Fuzz Wah & Envelope Filter
U.S.S.R. Spektr Volna Auto Wah
U.S.S.R. Elektronika Synchro-Wah

その他、旧ソビエト時代のファズワウ、オートワウ、エンヴェロープ・フィルターの数々。初期のファズワウSpektr-1やSpektr-2、ファズ、ワウペダル、そしてエンヴェロープ・フィルターを個別もしくは複合的に組み合わせて用いるマルチ的製品Spektr-4は、そもそもはこれらを2つのペダルでコントロールする '機能強化版' のSpektr-3から単品にして使いやすくしたもの。また、そこからオートワウのみ単品にした 'うねり' の効果として 'Wave' という意味を持つVolna Auto Wahも用意されております。昔のSF映画に出てくる小道具っぽさというか(笑)、こーいう 'ロール状' でダイヤルのようなパラメータって 'ペダルの世界' ではほぼ見ないですね。実際、使ってみると・・やはり官製品ならではのステージ使用を考慮しない仕様、限定的な効果のみ特化したのかレンジやパラメータの幅が狭いな。一方のElektronikaによる 'Cnhxpo-Bay' こと'Synchro-Wah' はなかなかにエグい効果でたまりませんね。一説にはElectro-Harmonix Doctor Qの 'デッドコピー' とのことで、ロシア語全開のさっぱり読めない取説にも確かにそれっぽい単語が載ってる(笑)。しかし欧米の工業規格と全く違う旧ソビエト産エフェクターはまさにデザインの宝庫ですね。






Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

さて、このエフェクター黎明期から全盛期を迎える1970年代、個別にカテゴリー化される流れからすべてを統合し、'マルチ・エフェクツ' 化する方向へも加速します。ここではクラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作サウンド・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"





またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"











Marshall Electronics Time Modulator Model 5402
Eventide PS-101 Instant Phaser
Eventide FL-201 Instant Flanger
Roland SPH-323 Phase Shifter
Roland SBF-325 Stereo Flanger
MXR M-126 Flanger/Doubler

珍しいラック型モジュレーションの究極なのがこちら、Marshall ElectronicsのTime Modulatorをご存知ですか?。1970年代後半にMarshall(ギターアンプのMarshallとは別の会社)から登場したこの1Uラックの本機は、まるで土管の中に頭を突っ込んでしまった時に体感できる 'コォ〜ッ' とした金属的変調感を体現したモジュレーションの極北。また 'CV/Gate' を備えることでLFOのオシレータ発振から 'ダース・ベイダー' の声に至るまで、モジュラーシンセ的コントロール含めてコンパクトなフランジャーでは再現出来ない強烈な効果がたまりません。わたしも未だに本機の中古を探しておりまする。このようなラック・エフェクターの世界ではいち早くこの分野で成功を収めたEventideのInstant PhaserやInstant Flanger、RolandのSPH-323 Phase Shifterにラック・フランジャーの最高峰SBF-325 Stereo Flanger、そしてMXR M-126 Flanger / Doubler、マニアックなところではフランク・ザッパが愛用したMicMix Dynaflanger Model265を始め、コンパクトペダルと一味違う効果として '掘っていく' ともの凄い機材があるのだ。





Metasonix

そんなラック・エフェクターの世界にも時に '迷機' ともいうべき意図不明なものが市場に少量出回ることもあり、それが俗に '真空管博士' と呼ばれるEric Barbourが2000年頃に発売したガレージ臭満載の4Uラック・ユニット、TS-21 Hellfire Modulator、TS-22 Pentode Filterbank、そしてTS-23 Dual Thyratron VCOの3種。これらは当時、高円寺にあったDTM関連の 'Modern Tools' が代理店として扱っており、音声信号を高電圧 'ビーム・モジュラー' で破壊するTS-21、4つのバンドパス・フィルターを内蔵したTS-22、2つのオシレータ内蔵のTS-23という荒々しくもマニア心くすぐる '宣伝文句' は、すぐにでもわたしを高円寺へと足を運ばせたことが昨日のことのように懐かしい(笑)。実際、試奏してこのレビュー通りの感想を持ちながら、製品としては不良品なんじゃないか?というくらい、真空管機器特有のブ〜ンとしたハムノイズも盛大に撒き散らす手に負えない代物でしたね。その後、よりコンパクトな 'TM' シリーズとして展開したのがこのTS-21の廉価型である 'Vacuum-Tube Wave Shaper/Ring Mod' のTM-1とTS-22の廉価版とも言うべき 'Vacuum-Tube Dual Bandpass Filter plus VCA' のTM-2となります。





MXR / ART M-129 Pitch Transposer
Mad Professor - Mixing Dub

そしてラック・エフェクターの '番外編'。ピッチ・シフターの 'インサート' へディレイを挟んで風変わりな '飛び道具' としたのがUKダブの巨匠、マッド・プロフェッサー。そんな彼が愛したMXR Ptch Transposerによるこの 'インサート' 技は、80's的なキラキラと階段状にピッチが変わっていくのが面白い。現在の高品質なピッチ・シフターに比べると決して精度は高くありませんが、この 'ハイ落ち' が独特な初期デジタル特有の '太さ' に繋がっていることからギタリストに愛されたのも分かります。ピッチ・チェンジの量をメモリーすることが出来て、それをフット・スイッチで呼び出すことも可能なのですが、格好良いのがツマミがタッチ・センスのセンサーとなっており、それを回さずともトントンと叩くだけでピッチ・チェンジが変わります。おお、この 'ハイテク' こそ1970年代を巡ったアナログ時代の終焉を物語るものなのかも知れません。










Sherman
Sherman Filterbank 2
Sherman Filterbank 2 Compact ①
Sherman Filterbank 2 Compact ②
Sherman Filterbank Prototype - 1996: S/N 31
Filters Collection

さて、このような 'ワウ〜フィルター' 史のほとんどが1960年代後半から1970年代にかけてその全盛を極め、以降はほぼその '過去の遺産' で幾度となく再評価がなされるだけでした。しかし1990年代後半の 'ベッドルーム・テクノ' 興隆で新たなジャンルとして登場したのが 'DJ向け' フィルター。その代表作こそベルギーでHerman Gillisさんが手がける '孤高の存在' Sherman Filterbankでしょう。流石に現在では使われ過ぎて '飽きた' という声もありますけど、それくらい大ヒットした機種としてまだまだその潜在能力の全てを引き出してはおりません。個人的には当時の主流であった無闇矢鱈に '発振' させない使い方でこそ、本機の新たなアプローチが光ると思っているんですけどね。その強烈なフィルタリングと発振、歪みからシンセやドラムマシン、ギターはもちろん新たな要素として管楽器にまでかける猛者が現れます。クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露します。これはわたしも '初代機' を所有しているのですが、ほとんどオシレータのないモジュラーシンセといっていい '化け物' 的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調します(動画途中の 'Intermission' は長く第2部は58:33〜スタート)。


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