2019年8月3日土曜日

身軽な 'アンプリファイ' 入門 (再掲)

管楽器奏者って身軽を好む人が多い気がする。それは今月最初の記事 '来るか電化楽器時代!' の中でテナーサックス奏者の松本英彦氏が発した言葉からも分かります。あの専用アンプとフルセットのSelmer Varitone担いで移動、搬入、セッティングの連続はさぞ大変だったことか、と。

"それに運ぶのがどうもねェ。いままではサックスひとつ持ってまわればよかった。ギターなんかじゃ最初からアンプを持って歩かなければ商売にならないとあきらめがあるんですが、ぼくはなにもこれがなくたってと考えるから・・。そういうつまらないことのほうが自分に影響力が大きい・・(笑)。"

楽器ケース小脇に抱えてサッとあちこち移動できるフットワークの良さというか、ギタリストがギターケースやエフェクターボード、人によっては 'MYアンプ' (ヘッドアンプだったりコンボだったり)まで持ち込む強者がいるのとは真逆の人種。つまり、こういうところから管楽器の 'アンプリファイ' に対する認識もその効果の是非のほか、単にメンドくさそうっていうイメージが先行してアプローチしない人が多いんじゃないかと思うのですヨ。








じゃ、身軽な 'アンプリファイ' って何ぞやという話になるのだけど正直、管楽器においてそんな大量のエフェクターって必要ないのです。せいぜいワウとオクターバー(ピッチ・シフター)、空間系くらいで十分だし、これらをマルチ・エフェクターひとつで賄ってしまえば、ほぼピックアップ・マイクとエフェクツだけの便利なセッティングとなります。実際のステージではDI含めてPAの扱いとなり、ほぼヴォーカルと同じ環境でモニターすることになる。また、移動でよく飛行機を利用する場合などでは、テロ対策により手荷物制限が厳しくなって小さいセットを組まなければならないという状況も出てくるでしょう(わたしには関係ないけど・・笑)。とりあえず、ここではそんな身軽かつ '最低限' な道具を中心に提案してみたいと思います。







Sennheiser Evolution e608
Sennheiser Microphone
SD Systems LDM94C

わたしにとって2つのピックアップ・マイク使用によるセッティングは譲れないのですが、その手軽さという点ではグーズネック式マイクだけでも十分に 'アンプリファイ' を堪能することが出来ます。このマイクも探してみるとほとんどで電源の必要なコンデンサー・マイクがズラッとラインナップされておりますが、むしろお手軽さと頑丈な構造、エフェクターとの相性という点ではダイナミック・マイクの方が扱いやすいと思いますね。Sennheiserの珍しいグーズネック式ダイナミック・マイクEvolution e608、サックスであればSD SystemsのLDM94も良いでしょうね。下の動画でのBeyerdynamic TG I52Dはちょっと音痩せが目立つかな?(Amazonで検索するとまだ買えるようです)。通常、管楽器の '生音' が持つアンビエンスを余すところなく収音してくれるのはコンデンサー・マイクに軍配が上がりますが、エフェクターを積極的に使う場合ではダイナミック・マイクの方がガツッとしたエフェクターの 'ノリやすさ'、限定的な帯域の収音に対するハウリング・マージンの確保の点で有利なことが多いのです。コンデンサーに比べてマイクを駆動する為の電源は要りませんが、プリアンプを挟むことで好みの音質に補正すればかなり追い込むことが可能ですね。もっとAudio-TechnicaやAKGといった大手メーカーもグーズネック式のダイナミック・マイクを手がけるべきですヨ。






K&K Sound Dual Channel Pro Preamp ①
K&K Sound Dual Channel Pro Preamp ②
Classic Pro ZXP212T
Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups

いや、やっぱりマウスピース・ピックアップも併用して使いたい!というか、個人的にはコッチを猛烈にプッシュしたい当方としては、この英国の 'エレアコ' な工房、K&K Soundから2つのピックアップをブレンドするミキサー機能の付いたプリアンプを試してみるのはいかがでしょう?この手のマイクとピエゾをミックスする分野は 'エレアコ' の世界では何年も前からいろいろと探求されており、そのノウハウを同じ 'アコースティック' 楽器である管楽器に応用しないのは勿体ない。このK&Kには2つの入力をそのままミックスする 'Dual Channel Pro Preamp' のほか、姉妹機としてTRSフォンひとつで 'ステレオ入力' できる 'Dual Channel Pro 'ST' Preamp' があり(上掲動画下のもの)、これらはよく似ているので購入の際はご注意下さいませ。蓋を開けるとその基板上にはGain、Treble、Mid、Bassの3バンドEQを2チャンネル分備えており、ケース内にベルクロで貼り付けてあるマイナス・ドライバーで調整できるのは便利。そして、2つのピックアップ・マイクの内、マイク側のXLR端子はClassic Proの600Ωから50kΩに変換する 'インピーダンス・トランスフォーマー' のZXP212Tでフォンにして入力します。ちなみにSennheiser e608にはXLR端子に腰へ装着する為のクリップが付属しているので凄い便利。










Viga Music Tools intraMic

いや、マウスピース・ピックアップ使ってみたいんだけど、やはりガッツリと楽器に穴を開けるのはなあ・・というお悩みの方にはサックス限定ですがこちら、フランスのViga Music ToolsからintraMicがございます。固定する金属製ピンの付いたピックアップ本体とプリアンプがセットになったものですが、なるほど、そのセンサー部分をネックとマウスピースの間に挟み込むようにして取り付けるんですね。挟み込むことによる耐久性は分かりませんが、これは楽器に穴を開けたくない人には朗報的ピックアップなんじゃないでしょうか!また管楽器の収音では順にコンデンサー、ダイナミック、グーズネック式、そしてintraMicでのGuillaume Perretさんによる 'キーノイズ' や '被り' とフィードバック含めた音質比較動画が分かりやすい。





Zoom MS-50G Multi Stomp for Guitar
Zoom MS-70CDR Multi Stomp

さあ、ここからはエフェクツを物色してみたいのですが、価格と機能、サイズにおいてZoomの 'Multi Stomp' と呼ばれるMS-50Gとモジュレーション/空間系に特化したMS-70CDRはいかがでしょうか。この2機種のプリセットは現在もZoomから 'ファームウェア・アップデート' により追加、更新されているのですが、やはりMS-50Gは 'for Guitar' とあって 'アンプ・モデリング' のシミュレータが多い印象ですねえ。ここら辺は管楽器だと単に潰れてノイジーなサウンドになってしまうので注意が必要ですが、それでもフィルター系でランダム・アルペジエイターやギターシンセ風のエグい効果などもあってかなり楽しめますヨ。





また、MS-70CDRの煌びやかさはほぼこれ一台で 'アンビエンス' の設定が賄っちゃうくらい高品質。いまはV 2.0へアップデートされ、従来のモジュレーション、空間系のほか、ダイナミクス系含めてさらに51のプリセットが追加されてトータル137種ものエフェクツが使用できます(選ぶだけで大変・・)。そしてMS-50G、MS-70CDR共に最大6つまでのエフェクトを同時使用することが可能なのですが、当然各プリセットのパラメータも細かく用意されているのでこの小さなLED相手に格闘することは覚悟して下さいませ。





Mak Crazy Sound Technology Guitar Fairy
Mak Crazy Sound Technology Temporal Time Machine

一方、そんな膨大なプリセットも要らなければプログラムするのもメンドくさい、いちいちパラメータの階層を開いて・・というマルチ特有の '使いにくさ' が苦手な人は、むしろ、こちらの単純かつ高品質なモジュレーション系マルチで十分なんじゃないでしょうか。実際、ギターと違ってソロとバッキングを管楽器で使い分ける場面はほぼ無いワケでして、このクリミア自治共和国製Guitar Fairyの6つのプリセット(Chorus、Flanger、Phaser、Tremolo、Vibrato、Envelope Filter)で切り替えて、各々の設定に従いReverb、Speed、Depthを調整するという至極簡単な本機の方が煩わしくなくて良いと思いますヨ。個人的に6つのプリセットに対してReverbだけ個別に調整、ミックスできるのは便利な機能。もちろん6つのプリセットの内のひとつしか使用できないので不自由と感じるかもしれませんが、複数のモジュレーションを同時にかける場面はほぼ無いので問題ないでしょう。





ZCat Pedals Q-Mod
ZCat Pedals Poly Octaver 2

こちらも旧ロシア圏のラトビア共和国からQ-ModとPoly Octaver 2。ここの製品も日本には早くから入ってきており、モジュレーション、空間系に特化したペダルを少量生産している稀有な工房です。Q-Modはその名の如くChorus、Flanger、Phaser、Tremoloの4種切り替えとリヴァーブを個別に付加できるもので、フットスイッチと電源抜き差しでトゥルーバイパスとバッファードバイパスに切り替えられるほか、リヴァーブを常時有効にするモードを選ぶことで、バイパス時でもリヴァーブだけはかかった状態にできるというかなり凝った仕様となっております。一方のPoly Octaver 2はChorusとReverbに上下1オクターヴのオクターバーをミックスできるという変わり種。





Electro-Harmonix The Worm

こんなお手軽な '全部載せ' はエフェクター界の老舗である 'エレハモ' の得意とするところであり、Phaser、Tremolo、Vibrato、Wahの4種を搭載し、さらにワウはAutoとManualの2モード切り替えでAutoによる 'モジュレーション・ワウ'、Manualでは外部エクスプレッション・ペダルを繋いでワウペダルのように使うことが出来るThe Wormがお得。ここではそのワウ・コントロールをエクスプレッション 'ペダル' ならぬ 'ツマミ' で操作しておりますが、あえてツイストのようにツマ先でグリグリさせるのも面白いかも。下の動画はその '新旧比較' ですけどスペースさえ気にしなければ、やはり 'エレハモ' はこの弁当箱サイズの方がテンション上がりますねえ(この旧モデルでエクスプレッション・ペダルは使えません)。







Hotone
Hotone Tape Eko
Hotone Xtomp mini - DSP Processing Pedal
Hotone Xtomp & Xtomp mini Review

ここまで紹介したものはモジュレーションに特化したものが多いため、やはり個別にディレイやリヴァーブを用意しておきたいのは確か。そこで最近メキメキとコストダウンを図りながらその品質を上げている中国製エフェクターをチェック。特に 'Maid in Hong Kong' としていま一番元気の良いHotoneの '手のひらサイズ' なディレイ、Tape Ekoを追加で入れてみましょう。と思っていたら、早速サックスでHotoneやZoom MS-50Gによるエフェクター試奏の動画を発見。あまりあれこれ追加しちゃうとこの項本来の趣旨を離れちゃうけど(汗)、やっぱりこの小さなサイズだと色々試したくなりますよね。また、HotoneはZoomに負けず劣らずのマルチ・エフェクツ、Xtomp、Xtomp miniなどがあります。これらはスマホを介して自由にアルゴリズムを入れ替えられるDSPプロセッシング・ペダルなのですが、個人的にZoom含めてこの手の 'ファームアップ' ものはメーカーの技術と供給次第というか、初期の不安定なソフト、新たなライバル機や状況の変化でそのモデリング技術が一気に古臭くなり、パタッと製品開発を止めちゃう危険性があること。とりあえず便利かつ多機能、コスト・パフォーマンス最高なデジタルの '新製品' が出た時は慌てて飛びつかないで下さいませ(今のところZoomは安定してますけど)。






Elta Music Devices Console - Cartridge Fx Device w/ 11 Cartridges

わたしは個人的に気になっていたロシアの新たな才能、Elta Music DevicesのConsoleをチョイス。コンパクトのマルチ・エフェクツながらSDカードで自社の機能をあれこれ入れ替えて、左手でジョイ・スティックをグリグリ動かすデザインにまとめ上げるなんて素敵過ぎる!その12個のSDカード・カートリッジの中身は以下の通り(上のサイトでは 'Digital' のない11種のもの)。

⚫︎Cathedral: Reverb and Space Effects
⚫︎Magic: Pitched Delays
⚫︎Time: Classic Mod Delays
⚫︎Vibrotrem: Modulation Effects
⚫︎Filter: Filter and Wah
⚫︎Vibe: Rotary Phase Mods
⚫︎Pitch Shifter: Octave and Pitch
⚫︎Infinity: Big Ambient Effects
⚫︎String Ringer: Audio Rate Modulation
⚫︎Synthex-1: Bass Synth
⚫︎Generator: Signal Generator
⚫︎Digital: Bit Crasher

'モジュレーション/空間系' 中心のメニューですけど、今後いろいろなヴァリエーションが増える予定などあるのでしょうか?こちらもGuitar Fairy同様あくまでカートリッジを入れ替えるのみの同時使用出来ないものなのですが(ただし、カートリッジ入れ替え時に直前のプリセットは記憶する)、しかしこれで全然問題なく使えちゃいますね。ちなみに、筐体に描かれたデザインが 'マレーヴィチ' 風ロシア・アヴァンギャルドな感じで格好良し!





Boss VE-20 Vocal Processor
Boss VE-5 Vocal Performer

もちろん、このマウスピース・ピックアップは使わずグーズネック式マイクだけで 'アンプリファイ' したい人はBossのVE-20 Vocal Processorが一番手っ取り早く、ダイナミック・マイクはもちろんコンデンサー・マイクとしても本機はオススメです。マイク入力とDI出力を備えたマルチ・エフェクツであり、オクターヴからハーモニー、モジュレーション、ディレイにリヴァーブ、ループ・サンプラーまで満載の便利な一品。というか、管楽器の 'アンプリファイ' 人口において本機のユーザーが一番多いんじゃないでしょうか?(Youtubeの動画でもよく見かけます)。そしてもっとお手軽な廉価版として用意されたVE-5 Vocal Performer。流石にVE-20やZoomのマルチと比較するとプリセット的に見劣りしますけど、サイズ的にはほぼポケットに入っちゃいますね。工夫して楽器に装着してみるというのも面白いかも。

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