2019年7月4日木曜日

クイーカできるかな? (再掲)

それまでモダン・ジャズの極北ともいうべき複雑なコード・プログレッションとインプロヴァイズの探求を行ってきたスタイルから一転、スーツを脱ぎ捨てヒッピー風の極彩色を纏い、ベルを真下に向けて屈み込みワウペダルを踏む姿は未だ '電気ラッパ' の 'アイコン' ではないでしょうか。



しかし、アレが果たしてデイビスにとって '正解' だったのか何だったのかは分からない。実際、あのスタイルへと変貌したことで従来のジャズ・クリティクはもちろん、当時、デイビスが寄せて行ったロック、R&Bからの反応もビミョーなものだったのですヨ。ここ日本でも1973年の来日公演に寄せてジャズ批評の御大、油井正一氏が 'スイングジャーナル' 誌でクソミソに貶していた。ワーワー・トランペット?ありゃ何だ?無理矢理ラッパをリズム楽器に捻じ曲げてる、ワウワウ・ミュートの名手であるバッバー・マイリーの足元にも及ばないなどと、若干、あさってな方向の批評ではありましたけど、まあ、言わんとしていることは分かるのです。極端な話、別にデイビスのラッパ要らなくね?って感想があっても何となく納得できちゃったりするのだ(苦笑)。





まだ、デイビスが最初のアプローチとして開陳した1971年発表の2枚組 'Live-Evil' の頃は要所要所でオープンホーンとワウペダルを使い分け、何となくそれまでのミュートに加えて新たな 'ダイナミズム' の道具として新味を加えようとする意図は感じられました。しかし1972年の問題作 'On The Corner' 以降、ほぼワウペダル一辺倒となり、トランペットはまさに咆哮と呼ぶに相応しいくらいの 'ノイズ生成器' へと変貌・・。それはいわゆるギター的アプローチというほどこなれてはおらず、また、完全に従来のトランペットの奏法から離れたものだっただけに多くのリスナーが困惑したのも無理はないのです。これは同時期、ランディ・ブレッカーやエディ・ヘンダーソン、イアン・カーらのワウワウを用いたアプローチなどと比べるとデイビスの '奇形ぶり' がよく分かるでしょうね。そんなリズム楽器としてのトランペットの '変形' について個人的に大きな影響を受けたんじゃないか?と思わせたのがブラジルの打楽器、クイーカとの関係なんです。デイビスのステージの後方でゴシゴシと擦りながらラッパに合わせて裏で 'フィルイン' してくるパーカッショニスト、アイルト・モレイラの姿は、そのままワウペダルを踏むデイビスのアプローチと完全に被ります。その録音の端緒としては、1970年5月4日にエルメート・パスコアール作の 'Little High People' でモレイラのクイーカやカズーと 'お喋り' する電気ラッパを披露しており、すでにこの時点で1975年の活動停止に至るラッパの 'ワウ奏法' を完成させていることにただただ驚くばかり。こんな管楽器とエフェクターのアプローチにおいて、ほんの少しその視点を他の楽器に移して見ると面白い刺激、発見がありまする。そんな 'アンプリファイ' における奏法の転換についてデイビスは慎重に、そして従来のジャズの語法とは違うアプローチで試みていたことをジョン・スウェッド著「So What - マイルス・デイビスの生涯」でこのように記しております。

"最初、エレクトリックで演奏するようになったとき、特に感じるものはなく、そのことはマイルスをがっかりさせた。コカインでハイになるのとは違っていた - むしろエレクトリックというのは徐々に体の中で大きくなっていくものだ、とマイルスは表現した。快感はある。しかしそれはゆっくりとした快感だった。やがて、必死なって音を聞こえさせようとしない方が長くプレイすることも可能だとマイルスは知った。そのためにはいくつかの調整が必要だ。あまり速く演奏してしまうと、パレットの上で絵の具が流れて混ざるように、音が混ざってしまう。そこでフレージングの考え方を一から見直すことにした。長くて二小節。メロディの合間からもっとリズムを聞こえさせたいと思っていたマイルスにとっては、実に理にかなった発想だった。"





ちなみにブラジルにはこのクイーカの他にもユニークな打楽器がいろいろあり、例えばこちらは弦を弓で叩いたり擦ることで鳴らすパーカッション、ビリンバウも有名です。この楽器の世界的名手といえば、エグベルト・ジスモンチやアート・リンゼイなどと共演したナナ・ヴァスコンセロス。すでに冥界へと旅立たれて行かれましたが、彼の擦過音はそのまま宇宙の彼方からこの地上にいまも降り注いでおりまする。









Cuica

そんなデイビスのパーカッシヴな奏法を理解しようというワケではありませんが(笑)、ラッパとは別にクイーカなんぞを手にして暇なときに擦っておりまする。このクイーカというヤツはバケツや樽に山羊や水牛などの皮を張り(近年はプラスティック打面もあり)、その真ん中へおっ立てた竹ひごを濡れた布(ウェットティッシュなども最適)でゴシゴシ擦ると例の "クック、フゴフゴ・・" と鳴るブラジルの民俗楽器です。皮の打面をチューニングしながら指でミュートすることで音程を変えることも可能で、大きさで人気のあるのは大体8インチ、9.25インチ、10インチのもので大きいほど音量も大きくなります。バケツ側の素材は昔は樽を用いたこともありましたが、その他ブリキ、真鍮、アルミ、擦る手元の見える透明のアクリル樹脂などがありますが、一般的なのはステンレスですね。そんなクイーカの音色といえば30代後半以降の世代ならNHK教育TV 'できるかな' に登場するキャラクター、ゴン太くんの鳴き声として記憶にインプットされているでしょう。最初の '音比べ' の動画では順にContemporaneaの9.25インチステンレス胴(プラスティック打面)、Lescomの9.25インチ真鍮胴(山羊革)、Art Celsiorの9.25インチブリキ胴(水牛革)で鳴らしておりますが、これだけでも結構な音質の違いが分かると思います。



Highleads Electric Cuica + New Cube Mic-W

わたしはブラジル産のArt Celsior製8インチのステンレス胴(山羊皮)を入手し、さらに日本で 'アンプリファイ' した打楽器専用のピックアップを製作するHighleadsへ連絡。通常はPearlの8インチに加工済み製品をラインナップしているのですが、工房主宰のともだしんごさんに特別にCube Micをわたしのクイーカの胴へ穴を開けてXLR端子を加工、装着して頂きました。












TDC by Studio-You Mic Option
NeotenicSound AcoFlavor ①
NeotenicSound AcoFlavor ②
Electro-Harmonix Bassballs - Twin Dynamic Envelope Filter
MG Music / MG Pedals
Rainger Fx Igor Mk.2 Pressure-Sensitive Controller
Catalinbread Csidman
Masf Pedals Possessed

XLR出力(ファンタム不可)からTDCのMic Optionを用いてフォンへと変換後、ピックアップのインピーダンスを操作出来るNeotenicSound AcoFlavorに接続。次にHatena ?のActive Spiceでプリアンプ的に音質を補正してわたしはSovtekのBassballsというベース用エンヴェロープ・フィルターに入力、ええ、'アンプリファイ' されたクイーカが見事に "ゲコーッ" と喋りましたヨ!そして 'アンビエンス' と 'フィードバック' の付加として、ここはブラジル産MG Musicのアナログ・ディレイThats Echo Folksというマニアックなヤツをチョイス。正直、見た目は普段わたしが積極的に手に取る感じではないのだけど(苦笑)、しかしこの '埃っぽい' 感じのぶっといアナログトーンは納得の 'ブラジル臭' を放ちますねえ。特に 'Pigs Tail' というルックス通りの 'ブタの尻尾' 的エクスプレッション・コントロールは変態なんですが・・残念ながらわたしのものは欠品(涙)。もしかしたらRainger Fxの感圧パッドセンサー 'Igor' を流用すれば使えるかもと思い・・注文、現在、海の向こうから届くのを待ちわびておりまする。そしてさらにCsidmanやPossessedのような 'グリッチペダル' を繋いでやったりすると勝手に奇妙なリズムを生成してくれますヨ(笑)。





Meris Hedra - 3-Voice Rhythmic Pitch-Shifter

また、そんなグリッチ効果とは別にピッチ・シフターをクイーカで試してみても面白いかもしれない。DSPの 'アナログ・モデリング' としてLIne 6→Strymon(Damage Control)と渡り歩いてきて今、この分野で存在感を醸し出しているMerisのHedra。本機は '3-Voice Rhythmic Pitch-Shifter' と呼ばれており、3ヴォイスのピッチとディレイの複合機でクロマティック及び指定キーによる 'インテリジェント・ピッチシフト' 機能、さらにマイクロチューニングによるデチューン機能で細かなピッチ補正にも対応します。そしてピッチヴォイスにディレイをかけることが可能で、ハーフスピード、オートスウェル機能を装備。さらに外部エクスプレッション・ペダルに各パラメータを割り当てて 'ワーミー' 効果から、タップテンポやMIDIによるビートクロックシンク機能でその名の如くリズミックなピッチシフトも出来るなど、ちょっとクイーカで使うには勿体無くも試してみたい機能満載です。日本では7月4日の今日発売!








ちなみにここではHattena ?のActive Spiceを取り上げましたが、より '生っぽい' 音質に補正できるプリアンプ、PureAcousticを試してみるのも良さそうです。Active Spiceでは独自のパラメータと言える4つのツマミ、全体を調整する音量のVolume、音圧を調整するSencitivity、歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整を施すGain、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンの構成でしたが、このPure Acousticはいわゆるプリアンプらしい機能に '独自のスパイス' を振り掛ける仕様。一見、取っ付きにくそうな整然と並ぶ6つのツマミに怯みますけど・・どれどれ。

⚫︎Master: 出力される最終的な音量を調節します。
⚫︎Body: 楽器本体のサイズ感を豊かに増強させます。右に回すほど楽器の存在感がしっかり押し出されるようになります。
⚫︎Lo: Bodyツマミで決めた位置に対して、低域の膨らみ感を調節します。左に回すほどスッキリとしたタイトなサウンドになります。
⚫︎Hi: 弦を弾いたときの音の硬さを調節します。右に回すほど硬い音に、左に回すほど柔らかい音になります。
⚫︎Wood: 楽器の持つ木の鳴りの成分を電気的に強調させたり抑えたりします。左に回すと共振部分が抑えられた大人しい落ち着いた雰囲気に、右に回すと木が響いているような広がりが得られます。演奏する楽曲の楽器編成などに合わせて調節して下さい。
⚫︎Density: 弦を弾いたときのタッチに対するレスポンスの立ち上がり比率を決めます。左に回すと過度に立ち上がり、右に回すほどその感度が圧縮されます。タッチとレスポンスのバランス点を越えると音の雑味や暴れはさらに抑えることが出来ますが、音の表情は均一化されていきます。

なるほど。特に 'Body' と 'Wood' というアコースティックの '鳴り' に特化した2つのツマミがキモのようです。このあたりをEQのLoとHiを補助的に配置して、あえて '鳴り' というイメージで2つのツマミに落とし込んだのは見事ですね。Magical Forceもそうなんだけど、NeotenicSoundの製品は視覚的に把握させながら耳で音を決めていくセンスが抜群だと思います。EQの何kHzをブーストして・・なんて言われてもよく分からないけど、こっちのツマミが '箱鳴り' で隣のツマミで 'エッジ' を出して、そこにローかハイが足りてないと思ったらEQしてという方が把握しやすく音が目の前にある感じ。また本機は、ダイナミックレンジ確保の為にDC18Vの専用電源でヘッドルームを広く取った設計もグッド。ツマミの構成から 'アコギ' 専用と捉えられがちですが、いわゆるアコースティック楽器全般に対応しているそうです。残念ながらPure Acousticの動画はありませんが、コレと似たパラメータを持つ '姉妹機' 的存在なベース用プリアンプDyna Forceの動画をどーぞ。こっちをクイーカで試してみても面白いかもしんない。



クイーカによるポップな楽曲と言えば何があるのでしょうか?マルコス・ヴァーリの 'Flamengo Ate Morrer' を始め、ブラジルのMPB辺りを漁ってみればいろいろ出てくるのは当然ですけど、意外なところではファンカデリック1979年のディスコ・チューン '(Not Just) Knee Deep' が絶妙なスパイスとして効いておりまする。

0 件のコメント:

コメントを投稿