2019年3月3日日曜日

切り替えと '混ぜ混ぜ' の整理術 (再掲)

コンパクト・エフェクターをペダルボードに配置する、そもそもこれのメリットは何でしょうか?それを考えて見ます。まずは何と言っても利便性、これに尽きるでしょうね。エフェクターの1つや2つではそれほどメリットはないですが、これが5つ6つとなるとそれぞれを結線して足元に並べるだけでも手間がかかってしまいます。そこで、すべてをボードという場所に設置して予め結線しておけば、後は楽器とアンプをそのボードの入出力に繋ぐのみというお手軽さです。







そして、この結線にはもうひとつの利点、エフェクターに一括して電源を供給出来ることにあります。エフェクターは各製品に見合った電源供給を持ち、それに対応したACアダプターが必要になることからその煩雑さを解消したパワーサプライが活躍。一般的なセンターマイナスのDC9Vはもちろん、その他DC12VやDC18Vに厄介なセンタープラス、AC仕様のものはそのままACアダプターを差す為の電源タップとパッチ供給が一緒になったパワーサプライ、デジタルとアナログ機器を一括に電源供給する際に起こるノイズ問題を避けたアイソレート仕様のパワーサプライなど、使用するエフェクターに合わせて実に多岐に渡ります。





Radial Engineering Voco-Loco

ここでもう一度ボードを見渡してみれば、いくつまでのエフェクターを足元に置くか、という問題があります。これは置く数によってペダルボードが大きくなることを意味し、あまりに巨大なものだと持ち運びに不便となります。また、単純に複数機を直列で繋ぎ過ぎると音質が劣化するという問題に直面するでしょう。その為、必要なものをそのつど呼び出して用いるスイッチング・システムという機器で、このような複数機使用の弊害を解決することが可能です。ただ、どちらにしても足元はより煩雑で大きくなってしまうので、こういったものを導入する以前に、本当に自分にとって必要なエフェクターとは何かを見極める力が必要でしょうね。ちなみに、どうしても複数機使いたいけど音質劣化は嫌、尚且つ手軽に持ち運びたいという方はマルチ・エフェクターが最適です(デジタルにおける音質の好み、各種パラメータのエディット操作は煩雑ですけど)。







Audio-Technica VP-01 Slick Fly
Zorg Effects Blow !
Zorg Effects

こちらはフランスの新たな工房、Zorg Effectsの 'インサート' 付きマイク・プリアンプBlow !。ようやくというべきか、Audio-Technica VP-01 Slick FlyからRadial Engineering Voco-Locoをきっかけにして、Eventide Mixing LinkやこのBlow !のようなコンパクトによるマイクの 'アンプリファイ' なアプローチの敷居を低くしました。ま、相変わらず管楽器の '原理主義者' たちによるこの手のものに対する蔑視感情は根強いですけど、動画はここ最近の新製品を始めにマニアックなペダルの大試奏大会となったのは嬉しい(笑)。ホーン・プレイヤーの皆様いかがでしょう?刺激されましたでしょうか?







Eventide Mixing Link ①
Eventide Mixing Link ②

さて、このような増えてくるコンパクト・エフェクターの効果的な使い方の '救世主' として便利に使って頂きたいのがスイッチング・システムというもの。最近のコンパクト・エフェクターはいわゆるトゥルーバイパスが標準になったとはいえ、数が多くなるほど接点も増えることで 'ハイ・インピーダンス' による脆弱な信号のまま受け渡すことの弊害、バッファーとの併用が謳われております。またトゥルーバイパスの機械的構造からくる踏むと同時に鳴る 'ボンッ' というノイズも困りもの。ちなみに管楽器の 'アンプリファイ' の場合であれば、すでに信号がマイク・プリアンプを通っている時点で 'ロー・インピーダンス' 化されており、あまり管楽器の原音を重視した音作りに固執するよりもエフェクターを使うことを加味すれば、あくまでアンプやPAを通った上での 'クリーントーン' を作る、と発想を変えた方が良いと思います。





とりあえずスイッチング・システムとは、こういったトラブル含めて個別の 'ループ' に分けることで2つ、3つくらいのペダルをA/Bそれぞれのループで切り替えるA/Bライン・セレクターや、'A or B' のみならず 'A+B' の流れで並列にミックス出来るもの、さらにMIDIと統合してディレイやピッチ・シフターなどと連動した大掛かりなものに至るまで用意しております。個人的にはエレクトリック・ギターのようなソロとバッキングの使い分けなどしないので、例えばシーケンサーなどと同期して演奏する場合でもなければ管楽器でここまで緻密にプログラムするようなものは必要ないかな。ディレイなども単純にタップテンポぐらいのシンプルなヤツの方が使いやすいですね。


ギリシャのメーカーDreadboxの '1 Loop' なループ・ブレンダーCocktailを用いて、Z.VexのFuzz FactoryとDigitech Whammy、エレハモのリヴァーブCathedralをパラレル・ミックスで原音を '確保' した上でのミックス具合。エフェクターをかけただけで原音が潰れてしまったり(歪み系や '飛び道具' エフェクターなど)、音程が取りにくくなってしまったり、といったもの(モジュレーション系)には非常に効果的です。さらに本機は原音とエフェクト音をブレンドするMixツマミのほか、クリーンなトーンを持ち上げたり異なるインピーダンスを '底上げ' するBoostツマミを備えているのが便利。





Dwarfcraft Devices Paraloop

これらA、B2つのループの信号を 'パラレル' にミックスできる変わり種の 'ループ・ブレンダー' であるDwarfcraft Devices Paraloop。この手の製品で有名なのはCustom Audio Electronicsが製作していたハーフラック・サイズのCAE Dual / Stereo mini Mixerやそれの 'リプロダクト' モデルであるCAJ Custom Mixerがありますが、本機はその機能を '2ループ' に絞ったコンパクト版と言って良いですね。例えば片方のループにオクターバーを繋いで片方は原音を確保、またはディレイとリヴァーブ、コーラスとフィルターといった分離した '空間生成' で直列接続よりグッと効果的。これも色々なペダルを '抱き合わせて' 試してみると面白いでしょう。







Boardbrain Music Transmutron - Dual Fx Loop Crossover Filter

そしていよいよ出て来ましたね。コンパクト・エフェクターとエクスプレッションCV、'ユーロラック' モジュラーシンセのCVによる統合したスイッチング・システムがBoardbrainなる工房から登場!パラレル・ミックスで個別、同時に使用出来るほか 'Fission'、'Fusion'、Fallout' の3種モードにより、2つのLoopの機能を変更することが可能です。

●Fission
このモードでは、入力された信号の周波数帯を分割し、それぞれを2つのLoopにスプリットして再びミックスして出力出来ます。後述するUmbrella Company Fusion BlenderやVocuのMagic Blend Roomなどと同種の機能ですね。またエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。

●Fusion
このモードでは、2つのLoopのバランスを調整してブレンドすることが出来ます。これらミックスのバランスは筐体真ん中にあるSplitpointツマミ、またはエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。これは前述したDwarfcraft Devices Paraloopと同種の機能に当たります。

●Fallout
このモードでは、2つのLoopの前にワイドノッチ・フィルターを適用して、Splitpointツマミやエクスプレション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。ペダル・コントロールすることでワウのような操作を付加することが出来ます。また本機には、これとは別にHicut、Locutのフィルターを搭載して音作りに適用することが出来ます。

ちなみに本機搭載のフィルターは12dB、24dB、48dB/Octのスロープ角度を選択出来、それぞれFission、Falloutモードのワイドノッチ・フィルターにも適用されます。もちろん、Ch.2のLoopでフェイズアウトが起こった際の位相反転にも対応出来るのは素晴らしい。そして2つのLoopからなる 'Send/Return' にはフォンと 'ユーロラック' モジュラーでお馴染み3.5mmミニプラグが同時対応し、さらにこの3.5mmのLoopには内部DIPスイッチにより楽器レベルとラインレベルで 'インピーダンス' を切り替えて使用することが出来ます。ふぅ、凄いなコレは。





Umbrella Company Fusion Blender
Vocu Magic Blend Room ①
Vocu Magic Blend Room ②
Vocu Magic Blend Room Spec. 2

こちらはある機能に特化した '上級編'。ライン・セレクターを用いて既存のペダルを複数繋いだ '実験' では、上でご紹介したParaloopのほか、Umbrella Companyの多目的セレクター、Fusion Blenderは通常のA/Bセレクターのほか、AとBのループをフィルターによる帯域分割で '同時がけ' を可能とするなど、コンパクト・エフェクターの使い方にいろいろなアイデアを提供する素敵な一品。同種の製品としてはVocuの多目的セレクター、Magic Blend Roomも多機能ながらお求めやすい価格で 'タンスの肥やし' となったペダル群を生き返らせて下さいませ。





Pigtronix Keymaster

こちらも '2 Loop' ながら 'A+B' のミックスでさらにTRSフォンのほかXLR入出力端子を備えるユニークな多目的ライン・セレクター、Pigtronix Keymaster。本機のアイデアとしてDJ用ミキサーを 'コンパクト化' したいという思いから、'Series/Parallel' のトグルスイッチを 'Parallel' にしてエクスプレッション・ペダルでコントロールすることで、AループとBループをシームレスに切り替えることが出来ます。コレ、例えば両ループにループ・サンプラーを繋いでワンショット的なフレイズをサンプリング、ブレイクビーツ的な遊びが出来るかもしれませんね。また本機のXLR入力はファンタム電源が使えないもののダイナミック・マイクを繋ぐことが出来るので、そのまま管楽器での使用が可能!そしてコンパクト・エフェクターからラインレベルの機器に至るまで、幅広い 'インピーダンス・マッチング' を取って統合したサウンド・システムを構成することが出来まする。







Earthquaker Devices Swiss Things

そしてあのEarthquaker Devicesからも多目的なライン・セレクター、Swiss Thingsが登場。本機は '2 Loop'を基本にしたトゥルーバイパス仕様でA/B-Y出力、バッファー搭載のチューナー出力、最大20dBまでのクリーン・ブーストとヘッドルームの高いバッファー出力、外部エクスプレッション・ペダルによるヴォリューム・コントロール、同社開発のフレキシスイッチは電子リレー式のトゥルーバイパスを元に踏み方の違いで通常のラッチスイッチ、アンラッチスイッチへの切り替えが可能です。









なかなかの '物量' で整然とブチ込んでおりますが(笑)、Meris、Chase Bliss Audio、Strymonと高品質かつMIDIによる同期に対応した製品を揃えることで統合したシステムを構築することが可能ですね。このような同期やプログラムに対応したものはこれまでラックやマルチ・エフェクターに特化した分野でしたが、ここ最近はコンパクト・エフェクターの分野でも充実したシステムで組めるようになりました。







繰り返しますが、これらスイッチング・システムという類いのものはあくまで数の多くなったエフェクターに対して利便性を図るものであるため、基本的に接続の '接点' が増える分、直列とは別の意味でトゥルーバイパスの仕様であろうが音質は変化(劣化)します。しかし、直列で数珠繋ぎにして増やしていくより個別のエフェクターを一括でOn/Off、もしくは複数のエフェクターを統合したスイッチング・システム1つで自在に入れ替えなど、単純に繋ぐだけでは体感出来ない操作性にその魅力あり。とりあえず手始めに '2 Loop' のループボックス1つ導入するだけでもそのアイデアは広がりますヨ!というか、管楽器でここまでやろうとする人・・いないだろうなあ。






Dr. Lake KP-Adapter
Umbrella Company Fusion Blender

さて、このようなループ・セレクターを用いるに際して、いわゆるコンパクト・エフェクターの中にラインレベルのアウトボードをミックスするやり方もあります。特にステレオ入出力を備えた機器などに有効なのが新潟の楽器店あぽろんプロデュースのDr. Lake KP-Adapter。そもそもはKorgのDJ用エフェクターであるKaosspadをギターで用いる為に製作されたものですが、あらゆるラインレベルの機器に対してキチンとした 'インピーダンス・マッチング' を取ってくれます。またモノラルでの使用なら前述したUmbrella Companyの多目的ループ・ブレンダー、Fusion Blenderも基板内部のジャンパ差し替えでインピーダンス対応することが可能。






Elektron Analog Heat HFX-1 Review
Elektron Analog Heat Mk.Ⅱ
OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit

そんなKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。おお、これはAnalog Heatの 'ライバル機' といって良いでしょうね。









そんなフィルタリングのザラザラとした '質感' やワウを含めた変調感は、これらAnalog HeatやBoumの最も得意とするところであり、管楽器によるイメージとしてはラッパ吹きのBrownman率いるElectryc Trioの動画を参考にして頂ければ分かるはず。いわゆる 'サチュレーション' の飽和感をそのギリギリのところで 'クリーン' に太くする、荒くする、変調させるというのが設定の 'キモ' であり、慌てず騒がずハウらせず、ジックリとその倍音の変化に耳を傾けて頂きたいところです。









Gamechanger Audio

そしてこちらは番外編。サスティンの 'Freeze' という点ではループ・サンプラーのお仲間と言えるかもしれませんが、ここ最近は3400Vもの超高圧信号をキセノン管でスパークさせた新しいディストーション、Plasma Pedalで話題をさらっているラトビア共和国の新興工房Gamechanger Audio。このPlus Pedalは工房の第一弾ともいうべきピアノのダンパーペダルを模したコントローラーで踏んだ直前のサスティンをリアルタイム処理で 'Freeze'、ループによるロング・サスティンを実現した驚異のペダルです。サスティンは最大5つまでオーバーダブすることが可能でフェイドインの速度やディケイの細かな設定はもちろん、お手軽なループ・サンプリングとエフェクト音のみのWetへ瞬時に切り替えるフット・スイッチも付属するなど、ある意味、Electro-Harmonix Freezeをより音楽的に発展させたもののようです。





Electro-Harmonix Superego Synth Engine

そんなPlus Pedalと同種なものとして、Freezeの機能強化版とも言うべきSuperego Synth Engineは 'インサート' も備えており、オーバーダブしながらここにお好きなエフェクターを繋げばさらに過激な音作りに挑むことが出来まする。また、ピッチシフトとリヴァーブを軸に 'Freeze' 機能を備えた旧ロシアはクリミア自治共和国からのBlack Jack。特にリアルタイムで 'Hold' スイッチを踏んだ瞬間の音(Press)、一度スイッチを踏んで離した瞬間の音(Release)のどちらを 'Freeze' させるか、また 'Freeze' 時のトーンをクリーンにするか(Ice)、暖かくするか(Thaw)まで小まめに設定できるというこだわりがいいですね。










Lehle Little Lehle Ⅱ
Lehle

Sovtek、Spektr-4、Ezhi & Aka、Elta Music Devices…とりあえず、今回も 'プチ実験' ということで全て 'ロシア産' のペダルで揃えてみました。旧ソビエト製のSpektr-4が元々の '5pin' MIDI入出力端子からTRSフォン端子へのモディファイがされており、なぜか通常のアンバランスフォンを使えないことからLehleのTRS対応ループ・セレクターLittle Lehle Ⅱに 'インサート' して接続。とりあえず、この質実剛健で無愛想な '面構え' は国産や欧米のペダルにはない佇まいで格好良いですねえ。

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