2019年3月2日土曜日

コルネットは '電気ウナギ' で感電する

ディキシーランドの花形楽器、コルネット。ビックス・バイダーベックからスイング期のボビー・ハケットといった名手を経てしかし、その後はトランペットにその座を奪われて現在までいまいちパッとしないイメージがあります。手のひらサイズのポケット・トランペットやダークで木管的響きのフリューゲルホーンなどと比べて、何となく古臭くて差別化の乏しい '短いラッパ' の印象に留まっているのではないでしょうか?





いわゆるモダン・ジャズの全盛期においてこの楽器の '底上げ' に尽力したのがナット・アダレイ。フュージョンの一時期に日野皓正さんも凝って使っていた時がありましたけど、やっぱりトランペットの現代的なニュアンスに対し、どこかその丸く暖かい音色はシリアスになりにくい先入観があるのかもしれない。実際、そのナットも兄貴キャノンボールといつもセットで 'オマケ' 的扱いの印象が強いためか、尚更その '日陰ぶり'  に拍車をかけているのは否めません(苦笑)。そんなコルネットにはブリティッシュ・スタイルのショート・コルネットとアメリカン・スタイルのロング・コルネットの2種があり、ジャズではよりトランペット寄りな音色のロング・コルネットが好まれております。そのナットと言えばKingのロング・コルネットSuper 20で、純銀ベルの 'Silver Sonic' をOlds No.3マウスピースで吹くというのが最も有名なスタイルですね。一方、そんなベタッとしたナットのファンキーなスタイルとは真逆のウッディ・ショウのモーダルなコルネットもどーぞ。











H&A.Selmer Inc. Varitone ②

そんな 'モダン・コルネット' の第一人者ともいうべきナット・アダレイが1968年にアプローチした '電気コルネット'。いわゆるH&A Selmer Inc.のVaritoneを用いてA&M傘下のCTIからリリースしたこの '仏像ジャズ' は、前年にクラーク・テリーがアルバム 'It's What's Happnin'' でアプローチしたことを追いかけるかたちで 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を謳歌した異色の一枚となりました。このVaritone、サックスの場合はマウスピースにピックアップを取り付けますが、トランペットやコルネットの場合はリードパイプ上部に穴を開けて取り付け、コントローラーは首からぶら下げるかたちとなります。まあ、効果的にはダークで丸っこい音色のコルネットが蒸し暑いオクターヴ下を付加して、さらにモゴモゴと抜けの悪いトーンになっているのですけど・・。上の動画はそんなVaritoneのコルネットをナットが吹く貴重なもの。不鮮明で見にくいですが、首からコントローラーをぶら下げて(2:39〜40)、ピエゾ・ピックアップはリードパイプの横に穴を開けて接合(4:29〜31)されているのが確認出来まする。



そしてナット・アダレイの奏法について述べれば、それほど難しいことをやっているワケではありませんが音域は広くテクニックもあり、やはり長年一緒にやってる兄キャノンボールと良く似たラインを吹いておりますね。そしてもう一点、かな〜りマイルス・デイビスからの影響濃いですヨ、この人は。いわゆるクリフォード・ブラウン的メカニカルな構成力に比べ、シンプルなリズム・フィギュアで中低域から一気にハイレンジへと跳躍するところなど、う〜ん確かにソレっぽい。'デイビス・フォロワー' のケニー・ドーハムやアート・ファーマー、チェットベイカーらが持つリリシズムに言及されることがないナットですけど、彼のソロ作を聴くと意外にうなだれているというか(笑)、特にハーモン・ミュートなどを使えば孤独感がアップ!案外と兄貴のハッピーな感じとは真逆の '根暗' な印象がナットの本音かもしれません。










Vox 'Ampliphonic' Woodwind and Brass Instruments
Vox / King Ampliphonic Stereo Multi-Voice
Vox / King Ampliphonic Octavoice Ⅰ and Ⅱ
Vox / King Ampliphonic Octavoice Ⅱ
Vox / King Ampliphonic Pick-up

こちらは同時期のVox 'Ampliphonic' シリーズとして登場した '電気コルネット'。コルネットのベル横側に穴を開けてピックアップを装着、腰に装着できるOctavoiceやアタッシュケースとして持ち運べるStereo Multi-Voiceと共に 'サウンド・システム' を構築することが出来ます。このStereo Multi-Voiceは同時期のConn Multi-ViderやMaestro Sound System for Woodwinds同様に1オクターヴ上の 'Soprano'、'Violin'、1オクターヴ下の 'Cello & Saxophone/Clarinet'、2オクターヴ下の 'Vox Bass & Saxophone/Clarinet'、そしてトレモロの組み合わせで 'アンプリアファイ' されたトーンを作っていきます。地味に面白いのは 'A.V.C.' というスイッチを入れることでビミョーにアタックやリリースの増減が出来ること。同時期、Voxでいわゆる 'オルガン・ギター' を製作していただけに多分、そちらからフィーチュアした初期シンセ的なパラメータのひとつではないでしょうか?









さてこのコルネット、意外にもフリー・ジャズの前衛的な世界では一定の需要があるようで、ポケット・トランペットと共に使用したドン・チェリーや、オーネット・コールマンやジョン・カーターらとの共演もあるボビー・ブラッドフォードもコルネット一筋の人。そしてブラッドフォードと同じくミシシッピー州出身でデイヴィッド・マレイやヘンリー・スレッギルらとの共演を経て、米国の 'ルーツ・ミュージック' への憧憬を志向するオル・ダラ。









こちらはブリティッシュ・ジャズ・ロックとしてソフト・マシーンにも参加したマーク・チャリグもコルネット愛用者のひとり。近年はさらにアルトホーンなどと併用してまだまだ 'フリー一筋' なんですね。続くドラマーのロイ・ヘインズの息子、グレアム・ヘインズは1980年代後半にスティーヴ・コールマンら 'M-Base' 一派との活動で注目されて、1990年代以降の 'ベッドルーム・テクノ' 世代との共闘を示すアルバム 'BPM' などを製作する一方、ライヴ・エレクトロニクスからラモン・テ・ヤングのようなドローン・ミュージック、そしてコレクティヴ・インプロヴィゼーションに至るまで幅広くやっておりまする。






こちらは1990年代のシカゴ音響派のシーンで注目されたロブ・マズレク。この人もトータスやアイソトープ217°、シカゴ・アンダーグラウンドの各ユニットでの多様な活動が知られており、現在はブラジルのアマゾンはマナウスを拠点にして活動しているようです。しかしこのマズレクさんは上述した各ユニットはもちろん、ザ・シー&ケイクとそれを主宰するリーダー、サム・プレコップのソロ作に至るまで多方面に参加しており、これはシカゴ音響派と呼ばれる一派が往年の 'カンタベリー・ミュージック' の如く強いシーンの繋がりを再確認させてくれまますね。







今、AACMから脈々と流れるシカゴのシーンより登場して大きな話題をさらっているのがこのベン・ラマー・ゲイ。前述したグレアム・ヘインズやロブ・マズレクもそうなんですけど、彼らに共通するのは器楽奏者としての主張ではなく、アンサンブルやエレクトロニクス全体の中でその 'サウンドスケイプ' を描き出していくこと。とりあえず・・もう、楽器としてのコルネットは関係ないな(苦笑)。

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