2018年7月4日水曜日

ピックアップあれこれ

オーストラリアでスティーヴ・フランシスさんが手がけるピックアップの工房、PiezoBarrel。管楽器用のピックアップ・マイクとしては完全に '過去の遺物' となったマウスピース・ピックアップですけど、まだまだホーンでエフェクターを使いたい人には 'ニッチな' 需要があるのです。個人的に驚いたのがオスマン・トルコの軍楽隊の伝統なのか、バルカン半島一帯からトルコ、ギリシャにかけてクラリネットを中心に小さな工房が頑張っていること。とりあえず、ここでは管楽器の 'アンプリファイ' が始まった1960年代後半から70年代、そして最近の製品のいくつかを取り上げてみたいと思います。








H&A.Selmer Inc. Varitone ①
H&A.Selmer Inc. Varitone ②

1965年に管楽器メーカーとしてお馴染みH&A.Selmer Inc.が手がけた元祖 'アンプリファイ' サウンド・システム、Varitone。Selmerブランドのほか、管楽器への市場拡大を狙ってなのかBuesherブランドでも販売されておりましたが、製作自体は現在でもPAの分野で大手のElectro Voiceが担当したようです。振動を感知して電気信号に変換するピエゾ・トランスデューサー方式のピックアップは、音源に対して理想的な取り付け位置を見つけるのが難しく、マウスピース部分はもちろん、金管楽器のリードパイプやベルの真横などいろいろ試しながら完成に漕ぎ着けたとのこと。ちなみにVaritoneは通常の '3300 Auditorium Model' のほか、上の動画にある '3100 Club Model' の2種がラインナップされておりました。この 'Club Model' はライヴなどの汎用性を高めた '若干' 小ぶりな仕様で、'Auditorium Model' のアンプ正面に備えられていたTremoloの 'Speed' と 'Depth' コントロールは外部からのコントロールに移されております。


またSelmerはVaritone専用のほか、サックス用ネックと共に 'Cellule Microphonique' の名で単品でも販売しており、これは当時日本の管楽器店も輸入販売しておりましたが・・いやあ、ピックアップ本体で2万円、取り付け用器具込みのサックス用ネックが1万円と、そのまま現在の価格にしても半端ではない高価なものだったようです。これは売れなかっただろうなあ。ちなみにVaritoneのピックアップは真鍮製の台座をネックやリードパイプに接合し、ピックアップ本体は台座とスクリューネジで着脱することができます。







C.G. Conn Multi-Vider
C.G. Conn Model 914 Multi-Vider

続いて登場したのが管楽器の名門、C.G.ConnのMulti-Viderでして、Selmer Varitoneに比べると他社の製品、ギター用のエフェクター(当時は 'アタッチメント' という呼称が一般的)などとの互換が可能な汎用性に優れておりました。また、ピックアップ自体も後発のGibson /MaestroやAce Tone Multivox専用のピックアップと互換性のある2つのピンでピックアップ本体に差し込むもので、その普及という点ではVaritone以上の成功を納めます。こちらの設計はファズやワウなどの製作をするJodan Electronicsが担当し、それまでのVaritoneにあった不自由さから一転、後発のVox / King AmpliphonicやGibson / Maestroの製品にも採用される、マウスピース側に接合するソケット部とピックアップ本体をゴムパッキンで嵌め込む方式をMulti-Viderが最初に始めました。またメーカーからはカールコードと通常のケーブルの2種が用意されて、ピックアップを外した後は真鍮の蓋で覆い通常のマウスピースとして使用することが可能です。











Gibson / Maestro W-1 Sound System for Woodwinds
Gibson / Maestro W-2 Sound System for Woodwinds
Gibson / Maestro W-3 Sound System for Woodwinds

ちなみにConnは自社製品のほか、Robert Brilhartさんという方が手がけるデンマーク製マウスピース・ピックアップ、'R-B Electronic Pick-Up' なども純正品として推奨していたようです。広告の写真を見るとピックアップとアンプの間にヴォリューム・コントロールの付いたプリアンプを腰に装着しておりますね。当時、サックスやトランペットはもちろん、フルートへの使用などかなり普及しておりました。一方でGibson / Maestroのものは、ピックアップの本体部分はサックスのリード、クラリネットのバレルに一体成型されており、そこへ2つのピンを差し込んで使用するかたちとなります。このMaestro Woodwindsは1967年のW-1から1971年のW-3に至るまでこの分野における最高のヒット作となりました。それは現在でも状態良好の中古がeBayやReverb.comなどに出品されていることがそれを裏付けます。







Vox / King Ampliphonic
Vox / King Ampliphonic Pick-Up

このMulti-Viderとほぼ同時期に登場したのが英国の名門ブランド、Voxが手がける 'Ampliphonic' のシリーズです。これまでのピックアップがパッシヴだったのに対してこの 'Ampliphonic' ピックアップは、'A〜B〜C' と可変するヴォリュームの付いたアクティヴの仕様が特徴。基本的な作りはSelmer Varitone同様スクリューネジの着脱(互換性はない)となりますが、一部、Multi-ViderやGibson /Maestroとの互換性に合わせてゴムパッキンのソケット部を持つ製品もラインナップされました。また、管楽器市場への拡大を狙ってか当時、Voxと同じく傘下であったKingのブランドでも販売して総合的なPA製品含め展開しました。





Vox 'Ampliphonic' Woodwind and Brass Instruments
Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
Piezo Barrel Instructions
vimeo.com/160406148

そして、こちらはVoxが 'Ampliphonic' シリーズのひとつとして展開した管楽器群。すでにクラリネットのバレルやコルネット、トランペットのベル横に穴開け加工を施し、そのままピックアップ装着してステージに直行できます。このコルネットなどは同じく傘下のKingのOEMじゃないかな、と思うのですけど、ベル横に開けられた穴はまず小さなピンで塞ぎ(失くしそう)、それからネジ式の蓋で閉じるという構造となっております。ドン・エリスなどもそうなのですけど、管楽器奏者にとってマウスピースというのは音色を司るものから加工を嫌がる人も一定数おり、このような場合にラッパのリードパイプ上やベル横に穴を開けて装着する場合があります。PiezoBarrelとエンドース契約していると思しき?ユーザーのひとり、Tony Dimitrioskiさんなるラッパ吹きもがっつりベル横に穴を開けて装着。

さて冒頭でも触れましたが、このような旧態依然なマウスピース・ピックアップも一部、エフェクツを愛する管楽器奏者たちには需要があるようで(わたしです)、何故か古くはオスマン・トルコの軍楽隊に由来するのか、バルカン半島から地中海一帯において小さな工房が頑張っております。その中からブルガリアのNalbantov Electronics、ギリシャのTap ElectronicsなどがオーストラリアのPiezoBarrelのライバルとして今後注目されるかもしれません。というか、ワイヤレス・システムに対応していたり、オクターバー内蔵のピックアップを製作したりと製品開発の力の入れようはこちらの方が上かも・・。







Nalbantov Electronics

Piezo Barrelのライバルその1。ブルガリアの工房Nalbantov Electronicsです。ガレージ臭たっぷりのPiezo Barrelに比べて、製品としてよりハイクオリティなパッケージとなっており、専用のオクターバーからDIYキット、ワイヤレス・システムに至るまで幅広く対応しております。動画は穴開け用のドリルなどがピックアップと共に梱包された 'DIY' キットの作り方ですが、いやあ、サックスのネックを万力などで固定せずそのままドリル貫通・・振動でブレて穴がズレたり抑えている指いっちゃいそうで怖い(苦笑)。





TAP Electronics
TAP Electronics Pick-Ups

Piezo Barrelのライバルその2。ギリシャのTAP Electronicsです。こちらもNalbantov同様に幅広いラインナップを揃えており、Piezo Barrelに比べ製品としてよりこなれた設計となっておりますね。昨日の項でも紹介しましたがピックアップ本体にオクターバーを内蔵させるとか、なかなかメンドくさがりな管楽器ユーザーの心理をよく読んでいる(笑)。この 'Octa' はオクターヴトーンのほか、1バンドEQ、ヴォリュームの3つのパラメータを持ち、USBによる90秒の急速充電により8時間ほどのパフォーマンスが可能。







The Little Jake ①
The Little Jake ②

こちらは '番外編' というか、バスーンの 'アンプリファイ' として唯一無二な存在のピックアップ、The Little Jake。どちらといえばアンサンブルの楽器で即興演奏とは無縁のバスーンは、ポール・ハンソンさんの演奏と共にその鈍重なイメージをマイケル・ブレッカーばりに刷新しました。細いパイプに穴を開けて装着するピックアップとガムの空き缶を利用したプリアンプがセット。その下のJim Dunlopのデモ動画としてバリトン・サックスのマウスピースに接合されているのは、2010年前後に英国で製作していた工房、Pasoanaのマウスピース・ピックアップ。Nalbantov ElectronicsのNCM600との比較動画なども残されておりますが(ロシア語なんでサッパリ・・)、このグルグル渦巻き柄のPasoanaピックアップはワイヤレス・システムなど幅広く手がけていたものの残念ながら消滅・・。ああ、この 'ニッチな' 分野で生き残るのは生半可なことではないようです。









Gibson / MaestroのSound System for Woodwinds用ピックアップはほとんどConnと大差ないので割愛して、管楽器用 'アンプリファイ' システムの最後発、Hammondが開発したInnovex Condor RSMのマウスピース・ピックアップをご紹介。と言ってもこちらはマイクの名門、Shureに外注として用意させた付属品で一般には手の入らない貴重なもの。つまり、Condor RSMのユーザーだけが手にすることができたもので、1971年のデイビスの動画及び上の写真にある緑のマークの付いたものがInnovexブランド専用、下のリンク先の写真が本家Shureのものでその他、上の写真にあるISC Musicのブランドのものが存在します。Hammondは当時、エディ・ハリスや駆け出しの頃のランディ・ブレッカー、そして御大マイルス・デイビスへ本機の '売り込み' を兼ねた大々的なプロモーションを展開。そんなデイビスとHammondの関係は、1970年の 'Downbeat' 誌によるダン・モーゲンスターンのインタビュー記事から抜粋します。

"そこにあったのはイノヴェックス社の機器だった。「連中が送ってきたんだ」。マイルスはそう言いながら電源を入れ、トランペットを手にした。「ちょっと聴いてくれ」。機器にはフットペダルがつながっていて、マイルスは吹きながら足で操作する。出てきた音は、カップの前で手を動かしているのと(この場合、ハーモンミュートと)たいして変わらない。マイルスはこのサウンドが気に入っている様子だ。これまでワウワウを使ったことはなかった。これを使うとベンドもわずかにかけられるらしい。音量を上げてスピーカー・システムのパワーを見せつけると、それから彼はホーンを置いた。機器の前面についているいろんなつまみを眺めながら、他のエフェクトは使わないのか彼に訊いてみた。「まさか」と軽蔑したように肩をいからせる。自分だけのオリジナル・サウンドを確立しているミュージシャンなら誰でも、それを変にしたいとは思っていない。マイルスはエフェクト・ペダルとアンプは好きだが、そこまでなのだ。"




残念ながら本機自体はデイビスのお眼鏡に叶わなかったものの、このShureのマウスピース・ピックアップはデイビスの愛用品、Giardinelliのマウスピースに穴を開けて接合されて1975年の活動停止まで突っ走ります。以下、リンク先のShureのHPから質問コーナーに寄せられたピックアップに対する回答。

Shure CA20B Transducer Pick-Up

"Q - わたしはShurre CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。"

"A - CA20Bは1968年から70年までShureにより製造されました。CA20BはSPL/1パスカル、-73dbから94dbの出力レベルを持つセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それはHammond Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られておりませんでした。

CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられて、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイ・インピーダンスの出力を60'ケーブルと1/8フォンプラグにより、InnovexのCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクツを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax、Fuzz、Cello、Oboe、Tremolo、Vibrato、Bassoonなどの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。

Condorはセールス的に失敗し、ShureはいくつかのCA20Bを生産したのみで終わりました。しかし、いく人かのプレイヤーたちがCA20Bを管楽器用のピックアップとしてギターアンプに繋いで使用しました。その他のモデルのナンバーと関連した他の型番はCA20、CA20A、RD7458及び98A132Bがあります。"



そんなShure CA20Bも6年近い '沈黙' を経て再びステージに立った頃には、すでに '時代遅れの代物' と化したのか、ピックアップ本体は外されて蓋で閉じられた 'アコースティック・マウスピース' としてミュートと共に奏でます。こういう変化からもう、すでに 'ワウの時代' ではなくなったことを象徴する一コマと映るのですが、この蓋の形状からもしかすると 'エレクトリック・マイルス後期' はCA20Bだけではなく、Selmerの 'Cellule Microphonique' も使用していたのかもしれませんね(デイヴ・リーブマンはこちらを使用しておりました)。







さて、ここまではいわゆる管楽器用エフェクターの付属品として用意されていたマウスピース・ピックアップを見てきましたが、1970年代に入るとピックアップ単品として発売されて気軽にアプローチすることが可能となります。そのきっかけとなったのがピックアップの老舗、Barcus-berry。この会社の製品が革新的だったのはピックアップ本体の小型化であり、マウスピースという限られたスペースの邪魔にならない取り付けを実現したこと。しかし、個人的には製品の耐久性という点でイマイチな部分が多く、わたしの環境ではマウスピースに接合して一年ほど過ぎるとガクッと感度が落ちてエフェクツのかかりが悪くなります・・(2つダメにしました)。そもそもピエゾ・トランスデューサー式はマイク同様に湿気に弱く、定期的なピックアップ本体の着脱を通して製品の寿命へ貢献すると考えております。実際、猛烈な息の出入りにより熱気から急速に冷えた結露としてピックアップに対する負担は相当なもの・・結局、現在はカタログ落ちしているのを見ると製品としての設計に無理があったのでしょう。





ちなみにBarcus-berryはこの製品の特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者のLester M. BarcusとJohn F. Berryの両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しております。特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなく、カップ内に穴を開けてピックアップを接合しているんですねえ。しかし、カップ内で音をピックアップするとプシャ〜とした息の掠れる音が入り、動画はPiezoBarrelのものですが、こんな独特な音色となってイマイチ扱いにくいのでシャンク部に穴を開けた方が使いやすいと思います。





1982年のジャコ・パストリアス・グループ参加の頃はそんな '転換期' であり、モデルチェンジしたピックアップと共に中継コネクターをマウントする部分が、ベルとリードパイプ括り付けの 'タイラップ仕様' から専用のクリップでマウントする方式に変更。しかし動画のランディ・ブレッカーは、マウントするパーツが未だ従来のタイラップも付けたまま状態という、いかにも過渡期の勇姿を拝むことができます。また、ボブ・ミンツァーが吹くバス・クラリネットもBarcus-berryの1375-1で 'アンプリファイ'。後年、ランディ自身はこの頃のセッティングを振り返ってこう述べております。

"エフェクトを使い始めたころはバーカスベリーのピックアップを使っていたし、マウスピースに穴を開けて取り付けていた。ラッキなーことに今ではそんなことをしなくてもいい。ただ、あのやり方もかなり調子良かったから、悪い方法ではなかったと思うよ。"




最初の写真のものは1970年代初めに製品化された金管楽器用1374で、中継コネクターを介して2.1mmのミニプラグでフォンへと接続します。中継コネクターにぶら下がるタイラップはベルとリードパイプ部分をグルッと引っ掛けておくという仕様でして、この会社の製品はその '作り' という点でも結構荒っぽいんですよね。これ以後、1970年代後半には3.5mmのミニプラグに仕様変更され、金管楽器用は中継コネクターを専用のクリップでリードパイプに着脱できるようになったのが真ん中の写真のもの。この時期の製品を個人的に調べてみて分かったのは、1982年製造と1983年製造のものでピエゾの感度がかなり変わってしまったことでして、正直、1983年製は 'ハズレ' と言いたいくらいエフェクツのかかりが悪いですねえ(謎)。そして1990年代半ばに発売されるも少量で生産終了した 'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001が同社 '有終の美' を飾ります。Barcus-berryが社運を賭けて開発したと思しき本品は同社で最も高価な製品となり、当時代理店であったパール楽器発行の1997年のカタログを見ると堂々の65,000円也!しかし、すでにグーズネック式のマイクがワイヤレスと共に普及する時代の変化には太刀打ちできませんでした。



この6001の代表的なユーザーとしては、近藤等則さんが1990年代終わり頃から 'DPA' 流用によるオリジナルなマウスピース・ピックアップへ換装する2007年頃まで使用しておりましたが、今や、同社を象徴していたマウスピース・ピックアップはカタログからその姿を消し、この老舗の '栄枯盛衰' と共にすっかり寂しいものとなったのは残念至極。やはり他社がやらないところで、この会社ならでの発想を活かす製品作りを継続してやって頂きたいですねえ。ちなみにこの6001使用時の近藤さんは、ベル側のマイクとマウスピース・ピックアップを2チャンネル真空管プリアンプの名機、Alembic F-2Bで 'モノ・ミックス' して出力しておりました。




珍しいBarcus-berryの 'エレクトレット・コンデンサー' 式ピックアップとしては、一時期、金管用の5300というのがラインナップされておりました。これはラッパのベルのリム縁にネジ止めしてマウントするもので、1981年に復帰したマイルス・デイビスもメーカーは違いますが同種のピックアップをステージで使用しておりましたね。当時、もの凄いお金のかけたワイヤレス・システムだったそうですが、このBarcus-berryの方はすでに '廉価版' としてリーズナブルなお求めやすい価格で提供されました。こんな構造ですけどオープンホーンはもちろんミュートもちゃんと拾うナチュラルな収音であるものの、ワウなどのエフェクツをかけると簡単にハウってしまいます。基本的にはリヴァーブやディレイ程度で '生音' の収音に適したピックアップなのですが、これもグーズネック式マイクの登場であっという間に '過去の遺物' に・・(デイビスもあの '傘の柄' のようなワイヤレス・マイクに変えちゃいましたしね)。



Barcus-berry 1375 Piezo Transducer Pick-Up
Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ①
Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ②

その他の製品は、木管楽器用1375-1、穴は開けずにリード部分へ貼り付ける仕様の廉価版1375などがあり、現在では、元々フルートの 'アンプリファイ' に力を入れていた同社らしく頭管部に差し込む6100、サックス/クラリネット用としてベル内側にベルクロで貼り付ける(荒っぽい!) 'エレクトレット・コンデンサー' 式のC5200 (C5600)などの一風変わったピックアップを供給するなど、相変わらず '斜め上' のセンスで細々と展開しておりまする。動画はジャン・リュック・ポンティ、ジョージ・デュークらを擁したフランク・ザッパ1973年の全盛期のものですが、イアン・アンダーウッドのバス・クラリネットに貼り付け型1375を用いてエフェクティヴなソロを披露。しかしネック部にConn Multi-Vider用ピックアップのための穴も開けられて蓋で閉じられております。


Barcus-berry 1333 Super Boost

ちなみにBarcus-berryの 'ピエゾ式' マウスピース・ピックアップはパッシヴなので、メーカーから別に汎用のプリアンプが用意されておりました。これも時代ごとのモデルチェンジが激しく、初期の1330S High Impedance 'Standard' Preamplifier、Super Boostの1333や1433-1、1980年代からは3Vのボタン型リチウム電池のプリアンプがピックアップと同梱して販売され、その後の1990年代頃からはUniversal Interface 3500Aなどが登場しました。また、'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001に対応したBuffer Preamp/EQ 3000Aはこれらとインピーダンスが違うので共用することはできません。写真のものは1970年代後半の1430 Standard Pre-Ampと1432 Studio Pre-AmpというDI出力の付いたもので、9V電池のみならずDC9V電源の駆動も可能とします。







DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
DPA SC4060、4061 Review
Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2
Rumberger Sound Products K1X ①
Rumberger Sound Products K1X ②

そんな我らが '電気ラッパ' の伝道師、近藤等則さんなのですが、永らく愛用したBarcus-berryからファンタム電源の供給可能なDPAの直径5.5mmな 'ミニチュア・マイロフォン' で一新!ピックアップ本体の着脱から防水としてポリプロピレンのシールドをソケット部に貼るなど、その構造はBarcus-berry 6001をほぼ踏襲しており、これを音響機器の世界で伝説化されているNeveの質感を再現したマイク・プリアンプPheonex Audio DRS-Q4M Mk.2と共に使用。また、ピックアップをマウスピースに装着するソケット部は新大久保のグローバルにオーダーして製作してもらったとのこと。このようなファンタム電源に対応しているマウスピース・ピックアップは、数は少ないですが他にドイツのRumberger Sound Productsのものがありますけど・・これもeBayなどで見つけたものの流石に高いなあ。




NeotenicSound AcoFlavor ①
NeotenicSound AcoFlavor ②

このような管楽器の 'アンプリファイ' が当時のロック、R&B、フュージョンやプログレなどのブームと不可分ではないワケでして、ここで挙げた製品以外にもその他、CountrymanやC-Ducerなどから発売していたという噂は聞いているのですが未だ見つからず・・。う〜ん、'エレクトロニクス万能' と信じられていた時代の熱気ってもの凄いですね。そして、ピエゾといえばその特有の '質感' を補正してくれる唯一無二の便利アイテム、NeotenicSound AcoFlavorが結構売れているそうですヨ。わたしも微力ながら本機モニターとしてお手伝いさせて頂いたので、やはりこういうアイテムが楽器は違えど同種のニーズを求められているのは嬉しいですねえ。本機は 'Acoustic-Pickup Signal Conditioner' と呼ばれており、さらに '生っぽい' 補正、増幅にPureAcousticを加えると良いそうです。わたしは本機の後ろにMagical Force、そしてHeadway Music AudioのEDB-2でダイナミック・マイクとミックスさせて愛用中。もうひとつ愛用している本機の前身に当たる '隠れた名機'、Board Masterに比べると間違いなく音に密度が増しており、ピックアップからの感度調整を司るFitとは別にLimitツマミを回すことで '暴れ感' を抑えることができます。現在のセッティングはMaster 1時、Fit 10時、Limitを9時にセット・・。以前はLimitは0だったのですが、やはり少し上げてやると格段に演奏がしやすくなりますねえ。わたしの場合、ここからさらに細かな補正は後段のMagical Forceにお任せ。ちなみに本機はプリアンプではなく、奏者が演奏時に感じるレスポンスの '暴れ' をピックアップのクセ含めて補正してくれるもの、と思って頂けると分かりやすいでしょうね。管楽器でPiezoBarrelなどのマウスピース・ピックアップ使用の方は絶対に試して頂きたい逸品です!

最後は日本を代表する楽器メーカーのひとつ、Roland。その創業者である故・梯郁太郎氏が1960年代からRolandとして独立するまで携わっていたのがAce Toneです。いわゆる 'GSブーム' においてはGuyatoneやElk、Tiesco、Honeyなどと並び 'エレキ' の代名詞的存在となったことは、その製品カタログにおいてオルガン、リズムボックス、エフェクター、アンプなどを総合的に手がけていたことからも分かります。そんな世界の新たな動きに呼応しようと奮闘した日本の 'Ace Tone' ことエース電子工業株式会社。まさに日本の電子楽器の黎明期を支えたメーカーと言って良いでしょう。


Ace Toneが鍵盤奏者やギター奏者のみならず、管楽器の 'アンプリファイ' にもアプローチしていたことはほとんど知られておりません。そもそも '電化アレルギー' の多い保守的なジャズの世界でこの手の機器にアプローチすることは '堕落' したことと同義であり、実際の効果はもちろん、それをステージ上で積極的に探求しようとした奏者もほぼ皆無であったと推測されます。しかしこれは、それまでバンド・アンサンブルの '主役' であった管楽器が '退場' する瞬間でもありました。ビッグバンドにおける4ブラスを始めとした豪華な '音量' は、些細なピッキングの振動がそのまま、ピックアップとアンプを通して巨大なスタジアム級のホールを震わせるほどの '音圧' に達する 'エレキ' に簡単に負けてしまったのですから。






このあたりは海外でもほぼ同じ状況ではありましたが、しかし巨大なスタックアンプの爆音によるアンサンブルの中で埋もれない為や、ジャズよりもプログレやR&Bのスタイルでの需要など、消極性と可能性の狭間で愛用の管楽器に穴を開けざるを得ませんでした。いわゆる 'ジャズの帝王' マイルス・デイビスですら、それまでのモダン・ジャズのキャリアを捨ててロックに色目を使った、ポップの軍門に降ったなどと頑固なジャズ・クリティクから罵詈雑言を浴びせられていたのにも関わらず、自らの新たな音楽の探求の為に 'アンプリファイ' の可能性に賭けたのです。Ace Toneがこういう海外の事情にいち早く飛び付き、例えコピーと言えどもひとつの製品として市場に送り出すのはHoneyと双璧の存在と言って良いでしょう。



1968年、当時としてはかなり高価な管楽器用 'アンプリファイ' サウンド・システムであったMulti-Vox。各種オクターヴを操作するコントローラー・ボックスEX-100は39,000円、マウスピースに穴を開けて接合するピックアップPU-10は3,000円と、その 'ニッチな' 需要と相まってなかなか手の出るものではなかっただろうと推測されます。当初の広告では、コレでジョン・コルトレーンのタッチやソニー・ロリンズの音色が再現出来るとのキャッチコピーが泣かせますね(笑)。またAce Toneは1968年にHammondと業務提携をして、本機もOEMのかたちで米国に輸出する旨がアナウンスされていたことを1969年のカタログで確認することが可能。しかし 'Inquire for details and prices' と強調されているのを見ると日本から現物が届いておらず、カタログでアナウンスされたものの米国では発売されなかった感じですね。実際、今までeBayやReverb.comなどに流れてきた記憶がないので、世界最大のエフェクター・サイトである 'Disco Freq's Effects Database' にもこれまで本機が掲載されることはありませんでした。





さて、このMulti-Vox EX-100。サックス用にはコントローラーをVaritone同様にキー・ボタンの側、ラッパでは奏者の腰に装着して用いるもので、日野皓正さんなどは同社のギターアンプSolid Ace SA-10にテープ・エコーEC-1 Echo Chemberの組み合わせをアルバム 'Hi-Nology' 見開きジャケットで拝むことが出来ます。当時、このようなスタックアンプといえばTeiscoやElkと並び総合的にPAを手がけていたAce Toneの土壇場だったのですが、海外製のギターアンプと比べると圧倒的に歪まなかった・・。しかし、それがこのような管楽器用アンプとしては十分に威力を発揮したのだと思います。



Terumasa Hino Quintet 1968 - 69

このMulti-Voxをいち早く導入したのがマイルス・デイビスの '電化' に感化されていたトランペットの日野皓正氏とテナーサックスの村岡建氏のふたり。すでに本機発売の翌年、そのデモンストレーションともいうべき管楽器の可能性をいくつかのイベントで披露しております。

⚫︎1969年3月24日 初の日野皓正クインテット・ワンマン・コンサートを開催する(東京サンケイ・ホール)。'Love More Train'、'Like Miles'、'So What' などを演奏、それに合わせてあらかじめ撮影された路面電車の 種々のシーンをスクリーンに映写し、クインテットがインプロヴァイズを行う。日野さんのラッパには穴が開けられピックアップを取り付けて初の電化サウンドを披露した。

⚫︎1969年6月27、28日 クインテットによる「日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン 'Hi-Nology'」コンサート開催(草月会館)。写真家の内藤忠行のプロデュースで司会は植草甚一。第一部を全員が 'Like Miles'、'Hi-Nology'、'Electric Zoo' を電化楽器で演奏。第二部は「スクリーン映像との対話」(映画の公開ダビング)。「うたかたの恋」(桂宏平監督)、「POP 1895」(井出情児監督)、「にれの木陰のお花」(桂宏平監督)、「ラブ・モア・トレイン」(内藤忠行監督)の5本、その映像を見ながらクインテットがインプロヴァイズを行い音楽を即興で挿入していった。コンサートの最後にクインテットで 'Time and Place' をやって終了。





Ride and Tie / Takeru Muraoka & Takao Uematsu

日野皓正さん1969年の傑作 'Hi-Nology' の内ジャケットでは使用中の写真がありますけど音源には入っていない模様。本作で共演するサックス奏者、村岡建さんは、この時期から少し経って1971年の植松孝夫さんとの '2テナー' によるライヴ盤 'Ride and Tie' で全編、'アンプリファイ' なオクターヴ・トーンを堪能することが出来ます。実はコレ、Ace Tone Multi-Voxなのでは?と思っているのですが、取説での村岡さんの談によればヤマハから '電気サックス' 一式を購入したことが本盤制作のきっかけとなったそうで、その海外事業部を介して手に入れた '海外製品' (Varitone ?Multi-Vider ?)を使用したと理解する方が自然かもしれません。ちなみに日野さんは、この時期の '日野ブーム' と共に大きく影響を受けた 'エレクトリック・マイルス' 及び '電気ラッパ' に対してこう述べております。

- エレクトリック・トランペットをマイルスが使い始めた当時はどう思いましたか?

"自然だったね。フレイズとか、あんまり吹いていることは変わってないなと思った。1970年ごろにニューヨークのハーレムのバーでマイルスのライヴを観たんだけど、そのときのメンバーはチック・コリアやアイアート・モレイラで、ドラムはジャック・ディジョネットだった。俺の弟(日野元彦)も一緒に観に行ってたんだけど、弟はディジョネットがすごいって彼に狂って、弟と "あれだよな!そうだよな!" ってことになって(笑)。それで電気トランペットを俺もやり始めたわけ。そのころ大阪万博で僕のバンドがああいうエレクトリックのスタイルで演奏したら、ヨーロッパ・ジャズ・オールスターズで来日中だったダニエル・ユメールに "日野はマイルスの真似しているだけじゃないか" って言われたことがあるんだけどね。"




肝心の日野さんによるMulti-Voxを用いた音源は未だ聴けていないのですが、同じ大阪万博のステージでC.G. Conn Multi-Viderを引っ提げてやって来たのがスイス出身のサックス奏者、ブルーノ・スポエリ。これは万博のスイス館のためにThe Metronome Quintetとして来日したもので、それを記念して日本コロンビアから7インチ 'EXPO Blues' を吹き込んでおります。この、Multi-Viderのネロ〜ンとした電気サックスの音色がたまらない・・。

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