昨日のファンカデリックで気づかされるのは、1960年代後半に投入された 'クスリ' の効能というのはいかにデカかったかということ。ある意味 '狂気' の季節であり、この時代を全身で受け止めてしまった人ほど 'あっちの世界' へ行ってしまったか、ほとんど '廃人' として余生をギリギリの状態で甘受しているのだと思われます。1967年にB級映画の帝王、ロジャー・コーマンはピーター・フォンダを主演とする低予算映画 '白昼の幻想' で、このドラッグ・カルチャーを視覚的に再現することに挑みました。
当時としては画期的であったろうチープな '追体験' の演出は、それまでロジャー・コーマンがAIPで制作していたB級ホラー映画のノリでLSDの幻覚体験を認識していたこと、そして、これ以後に続く亜流 'ドラッグ映画' の先鞭を付けたきっかけだったとも言えます。音楽を担当したのは、バディ・マイルスやマイク・ブルームフィールドらが参加したジ・エレクトリック・フラッグで、当時、未知の楽器であったMoogシンセサイザーのインストラクターを務めるポール・ビーヴァーもこの '幻覚体験' に電子音で一役買っております。このサイケデリック革命が音楽にもたらした影響としては、エレクトリック・ギターやシンセサイザーはもちろん、オーバーダブやマルチ・トラック、テープ編集にエフェクターの特殊効果など、その '追体験' のための 'ギミック' とレコーディング技術が飛躍的に向上したことです。ある種、ジャマイカのダブに先駆けて起こったものと捉えてもよいでしょうね。
このような幻覚の '追体験' は、ケン・キージーが 'Can You Pass The Acid Test ?' を合言葉に主催する一大イベント 'Acid Test' でストロボや墨流しなどの舞台照明と共に、グレイトフル・デッドが大音量のロックでそれら演出を盛り上げたことから広く普及しました。この1969年の 'Joy Ride' は、米国西海岸で活動したBrotherhoodというサイケデリック・ロック・バンドがより実験的な姿勢の別名義であるFriend Soundとしてリリースしたもの。聴き手の '知覚の扉' を刺激しながら、もう、ズブズブの 'ダウナー系' で行ってしまう強烈さですね。そしてジェイムズ・クオモを中心とした謎のサイケデリア集団、The Spoils of War。ところどころに挿入される電子音は、初期コンピュータのパンチカードを用いて演算し生成したものということから、案外と現代音楽畑にいた人なのかもしれません。しかし、出てくる音は電子音+サイケデリック・ロックのザ・ドアーズ風ポップを基調としており、Silver ApplesやFifty Foot Hose、The Free Pop Electronic Conceptなどと近い位置にいる音作りです。
'LSDの教祖' としてその布教活動に取り組んだティモシー・リアリー。これは 'セットイン' と呼ばれるLSD服用の為のリラクゼーション導入を促す一枚で、濃密なインド音楽と電子音で被験者を 'Stone' させる1967年の 'Turn On, Tune In, Drop Out'。しかし、上記のFriend Soundもこのリアリー盤も大手メジャー・レーベルであるRCAやMercuryからリリースされていたというから、やっぱりどこか社会全体が壊れていたのかもしれないな・・。
やはり挙げねばならないファンカデリックの2作目 'Free Your Mind and Your Ass Will Follow'。Friend Soundやティモシー・リアリー、昨日ご紹介したファンカデリックの1作目がドロ〜ンとした 'ダウナー系' なら、こちらは瞳孔開きっぱなしの覚醒する 'アッパー系' という感じでしょうか。そして、テキサス・サイケデリックの雄として、現在まで '永遠のアウトサイダー' の如く君臨するメイヨ・トンプソン率いるレッド・クレイヨラ。サイケということでは1967年の大名盤である 'The Parable of Arable Land' を挙げなければならないところですが、ここでは、2作目として予定されながらあまりのダダ的 '実験ぶり' にお蔵となった 'Coconut Hotel' をどーぞ。この荒涼としたテキサスの砂埃舞う中に現れるひなびたホテル、という設定が何ともサイケというか、チープなトレモロの効いたオルガンやハープシコードと共に、こちらも瞳孔開きっぱなしの乾いた覚醒感が迫ってくる怖い感じ・・ヤバイ。
ここまでくるともう '電波系' というか、勝手に宇宙からの電波と交信している状態で、ほぼ廃人状態。間違いなく日常生活を送ることは困難かと思われます・・。1966年にイタリアで結成された '電脳サイケデリア集団' であるMusica Elettronica Viva。現代音楽畑のリチャード・タイテルバウムやフレデリック・ジェフスキ、ジャズのサックス奏者、スティーヴ・レイシーなども参加するなど、まさにヒッピー的な 'コミューン' として機能しました。似たような集団として、ここ日本でも小杉武久氏を中心とするタージ・マハール旅行団というのがありましたね。
オーストラリア人ヒッピーとして世界を放浪し、英国でロバート・ワイアットらとソフト・マシーンを結成しながら 'クスリ' で再入国を拒否されたデイヴィッド・アレン。新天地フランスで後に奥さんとなるジリ・スマイスらと結成したのがこのゴング。'コミューン' 的色彩の強い 'プログレ' が特徴の出入りの激しいバンドで、フランク・ザッパやPファンクの向こうを張る 'ラジオ・グノーム・インヴィジブル' (見えない電波の妖精の物語)のストーリーを三部作でぶち上げて人気を得ました。
サイケデリックの時代というのは、音楽のみならず美術や映画、文学などあらゆる芸術分野へ波及するくらいの意識革命だったと思うのですが、むしろ、そのような '時代の空気' に感染することで、期せずして結果的に 'サイケ' となってしまったものも大量に粗製乱造されました。当時の 'イージー・リスニング' 界を代表する101人のオーケストラからなる101 Stringsは、まさにそんな 'Space Odyssey' を締め括る1969年にこんな 'ギミック満載' なサイケデリック作品を作り上げてしまいました。そして、ジャズの分野でもエレクトロニクスを導入したことであらゆる実験へと勤しむことになるのですが、この三保敬太郎率いる 'Jazz Eleven' の 'こけざる組曲' は最高峰でしょうね。特にこの '聞かざる' のファンクなビートとワウ、ハープシコードや女声コーラスの 'サイケ' な音色を用いながら、3:28〜のグルグルと三半規管を狂わせるような強烈なパンニングの嵐(ぜひHead phonesで体感して頂きたい!)。もう完全にトリップしますヨ、これは。
そんな '狂気' の季節から40年以上経った現在、まだまだサイケデリックの神話は社会のあちこちで大きく口を開いて待ち構えております。皆さま、絶対に興味本位で手を出してはいけません。これらはイメージの副産物であり、創造することが決して大きくなったり小さくなったりするワケではありません。もう一度言います。幻覚もいつかは覚めるのです。
1980年代後半に英国に渡ったハウス・ミュージックは、Roland TB-303のベース音と共にアシッド・ハウスとして爆発的な人気を得ます。これは、1960年代後半に盛り上がったサイケデリック・ムーヴメントが 'セカンド・サマー・オブ・ラヴ' として蘇ったものとも捉えられて、このようなレイヴの流れはテクノ以降のミニマル・ダブにまで連綿と受け継がれております。ミニマル・ダブの重鎮、Rod ModellとStephen HitchellによるユニットCV313のヒプノティックな人気曲 'Infinit 1' のSTLによるリミックス。このビザールな1970年代の映像と '四つ打ち' のサイバーな出会いがなかなかにサイケですねえ。
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