2016年12月1日木曜日

トレモロで挑発する

車窓から眺める米国南部の長閑な田園風景や、色褪せたセピア色の写真を見ながら遠い過去に想いを馳せるなど、どこかノスタルジックな演出にかかせないのがゆらゆらとしたトレモロの音色。しかし一方で、まるでゲートでスパッと切り刻んでいくようなマシンガン・トレモロからVCALFOをかけてシンセライクに 変調させるトレモロまで、実は結構、奥の深いエフェクターではないかと思っております。ちなみによく似た効果であるトレモロとヴィブラートの定義は、音量の増減がトレモロ、音程の上下がヴィブラートであると考えるのですが、これは製品によって混同されている場合もあるので注意が必要です。


ここではエグい効果のトレモロを中心にご紹介したいのですけど、その出発点としてギターの入力ジャックに直接取り付けるVox Repeat Percussionという製品がありました。その名の如く、リズミックにフレイズを切り刻むことを目的として マシンガン・トレモロの異名も付けられた本機の魅力は、英国のFret-WareからそのVoxを元にMachine Gun Repeatを発売したことにも伺えます。通常の 'フット・ボックス' 型となったこの本機のユニークさは、スイッチがモメンタリー仕様となっており、踏んだ状態でのみエフェクトがかかるリアルタイム性に寄っていること。上の動画はかなり飛び道具的セッティングではありますが、その切れ味のほどが分かるかと思います。

このVox以前のトレモロとしては、基本的にスプリング・リヴァーブと併用してアンプに内蔵されるエフェクトという位置付けでした。その中でもユニークな一品として存在したのが、ヴォリューム・ペダルの製作で有名なDe-ArmondTrem-Trol。なんとペダル内部に組み込まれた電解液で満たした筒を、発動機により一定間隔で揺らして筒の壁に触れる面積の変化から音量を上下させるという・・なんとも原始的で、手の込んだ構造のトレモロですね。その下の動画は前身機のModel 601の内部構造でこんな感じに揺らしております。今じゃその製作コストがかかり過ぎて大変だろうけど、エフェクター黎明期にはいろんな発想から電気的操作として取り出すという面白い時代でした。この丸く暖かいレトロな雰囲気こそトレモロの真骨頂・・'ツイン・ピークス' のテーマとか弾きたくなりませんか?



Z.Vex Candela Vibrophase

このような物理現象を機械的に取り出したものとしては、エフェクター界の奇才、ザッカリー・ヴェックスがなんとロウソクの炎のゆらぎからトレモロとヴィブラートの効果を取り出すZ. Vex Candela Vibrophaseとして製作します。扇風機のような風車はヴィブラート効果のもの(扇風機にア〜と声を出すと変調するヤツ、昔やりませんでした?)で、これはレスリー・スピーカーを簡易的に再現するFender Vibratoneというギターアンプで製品化されましたね。ちなみに、この 'からくり時計' のようなプロトタイプはそのまま製品としても販売中・・お値段6000ドルなり。



Analog Outfitters The Scanner

トレモロ/ヴィブラートというヤツは、ファズ同様にヴィンテージな設計思想がそのまま独特な効果として認知されており、現代のテクノロジーが手を出しにくいエフェクターのひとつでもあります。ジミ・ヘンドリクスが使用したことで一躍有名となった日本が世界に誇る名機、Shin-Ei Uni-Vibeのドクドクした '揺れ' の効果を司るのは、その '心臓部' ともいえるフォトカプラー(CDS)という電球のような素子のおかげ。しかし、硫化カドミウムによる現在の環境規制で製品に組み込んで製作することはできず、各社が電子的なシミュレートにより何とか再現しようとしているのが現状です。このAnalog Outfitters The Scannerは、壊れたハモンド・オルガンからヴィブラート&リヴァーブ・タンクの部分を取り外し、新たにエフェクター・ユニットとして 'リビルド' したもの。やはり電子的な回路構成では味わえない、この物理的に変調させる '古くさい' 感じはたまりませんね。



Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ①

Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ②

そんなトレモロとヴィブラートの '混合' ということならこちら、米国ニューハンプシャー州で製作するMid-Fi Electronicsの新製品、Electric Yggdrasil (エレクトリック・ユグドラシル)。設計は 'MMOSS' というバンドのギタリスト、Doug Tuttle氏で、いわゆる '現場の発想' から一筋縄ではいかない '飛び道具' エフェクターばかりをひとり製作しております。Mid-Fi Electronicsといえば、'変態ヴィブラート' ともいうべきPitch PirateやClari (Not)の 'ぶっ飛んだ' 効果で一躍このメーカーを有名にしました。本機は位相回路による 'フェイズ・キャンセル' の原理を応用し、Uni-Vibe風のフェイズの効いたトレモロでサイケデリックな匂いを撒き散らします。



Supro 1310 Tremolo


いわゆる 'フットボックス' になる以前のトレモロはアンプ内蔵というのが一般的でしたが、その中でも代表的だったのがSuproのギターアンプ内蔵のもの。このSupro 1310 Tremoloは、そんな古臭い 'トレモロ感' をわざわざトランスによるサチュレーションを駆使し、真空管のバイアス可変による伝統的なSuproトレモロを再現する 'Amplitude' と、Fenderのギターアンプ内蔵のトレモロを再現した 'Harmonic' の2つのモードを搭載しております。また、'揺れ' のスピードはエクスプレッション・ペダルにも対応。
さて、時代はグッと駆け上がり、いわゆるシンセサイザーの発想により音量をコントロールする新しい発想のトレモロを見ていきます。こちらのザッカリー・ヴェックスによるZ.Vexから、16ステップのシーケンサーを組み込んだ変態トレモロSuper Seek Trem16のステップによるシーケンスから好きなステップを選択し、さらにその速度やタップテンポ、Glissと名付けられたツマミでランダムに設定することで予測不能な効果を現します。またMIDIで外部機器との同期をするなど、トレモロというよりシンセで用いるアナログ・シーケンサーの発想です。Sonarの方は、このサイズにしてこれまた多様な揺れ方を設定できるぶっ飛んだもの。Clean/Machineのスイッチでクリアーなトレモロと極悪な歪んだトレモロ、dutyツマミはタップテンポのスイッチと連動し、1、2、4のテンポ設定と合わせて等速、倍速、4倍速と変わり、Deltaツマミは上部のスイッチと合わせてスピードの可変を・・うん、複雑すぎるので動画で確認してみて下さい。しかしZ.Vexほど、トレモロだけでこんなに面白いヤツをラインナップしている会社はないですヨ。





Lightfoot Labs

突然その姿を現し、数量限定でGK.1GK.3までのシリーズを残して忽然と消えて行ってしまったLightfoot Labs Goat Keeper。たぶん、トレモロと名の付いたものとしては最も飛び道具的色彩の強いものでしょう。 ウムム・・これもSuper Seek Trem同様に説明するのが大変なくらいぶっ飛んだもの。トレモロの波形やテンポはもちろんシーケンス的効果も出来るのですが、かなりエレクトロニカ風壊れた揺れまでカバーしており・・なにがなにやら。正直グリッチ/スタッター系エフェクターのジャンルに入れてもおかしくないですね。またSync Inの端子を用いれば外部のドラムマシーンとの同期もOKです。しかしオレゴンの片田舎からこんなネーミング・センスと羊のイラストで疾風の如く駆け抜けた本機、本当に謎のまま 'Pedal Geek' たちを狂喜乱舞させた存在でした。
Dreadbox Kappa - LFO + 8 Step Sequencer

ギリシャでモジュラーシンセ的発想によりエフェクター製作をするDreadboxTaff。一見すると通常のトレモロと共通するものながら、メーカーも ‘Scientific Tremolo’ と名付けて従来のトレモロ感に捉われない音作りを推奨しております。本体自体はDepthSpeed、四種類からなる波形選択と深さを調整する一般的なパラメータを持ちながら、やはりLFO8ステップ・シーケンサーを備えるKappaに電圧制御(VC)で繋ぐことで、MoogMoogerfoogerシリーズやKoma Elektronikのエフェクターと共通するシンセライクな音作りに変貌します。

前述しましたが、トレモロはスプリング・リヴァーブと併用することであの古臭い揺れを演出するエフェクターです。そんな2つの効果を現代のDSPテクノロジーで1つにまとめてしまったのがStrymon Flint。基本的にアナログ回路で構成されるトレモロにあって、このStrymonの再現性は目を見張るものがあります。リヴァーブ部は1960年代のバネ臭いものから70年代のプレート・リヴァーブ、80年代のデジタルなホール・リヴァーブまで再現しており、このサイズのエフェクターから実に多様なセッティングを引き出すことが可能。



Z.Vex Loop Gate

ここからは番外編。結果的にトレモロの効果ではあるものの、機能としてはノイズ・ゲートを利用したキルスイッチの変異系をご紹介しましょう。まずはお馴染みZ.VexLoop Gate。本体にSend/Returnを備え、そこに歪み系などをインサートし、なんでもLoop Gateでぶつ切りしてやろうというもの。本機はNormalChop2つのモードを有し、Normalではインサートしたエフェクトに対し通常のゲートとして働き、その切り加減を入力感度のSens.と音のエンヴェロープに作用するReleaseで調整します。そして本稿の目的であるトレモロ的ブツ切れ感を演出するChop。この時のReleaseはゲートの開閉速度として、トレモロのSpeedツマミと同等の働きに変わります。



Dwarfcraft Devices Memento

このゲートによるブツ切れ感をもっとランダムに、例えばグリッチ/スタッター系エフェクターのように作用したら面白いのではないか?じゃ、やってみようということで試してみたのが、新たな ‘変態エフェクターとして頭角を現しているDwarfcraft DevicesMemento。基本的にはミュートするためのキルスイッチを応用したもので、このカットするテンポをキルパターンとしてKillスイッチにタップテンポで記憶させるだけ。後はRe-Killスイッチを踏めばその踏んだテンポの状態で ブツ切れ感が再現されます。またこの再現中にKillスイッチを踏めば、キルパターンの速度を2倍、または4倍にできます。



Selmer Varitone ①
Selmer Varitone ②

管楽器においては、世界初の管楽器用エフェクターであるSelmer Varitoneにもオクターバーと共にアンプに内蔵されていたのがトレモロでした。この素朴な効果の為だけにこんな大仰なサウンド・システムを稼働させなければいけないという可搬性の悪さ・・。しかし、こんなぶっとい感じのトーンは今のデジタルでは再現できないでしょうね。


モジュレーション系エフェクターの元祖として、ゆらゆらと空間を震わせるトレモロの音色・・揺れるって案外と人間の感情と近いところにあるのかもしれません。

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