2016年10月5日水曜日

バーカスベリーの 'ばらつき'

管楽器用のマイクとして、ベルにクリップで取り付けるグーズネック式のものが普及した1990年代、マウスピースに穴を開けて接合するピエゾ・ピックアップは完全に過去のものという認識でした。



1993年のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーで来日した際、ランディ・ブレッカーがグーズネック式マイクと併用して用いていたのが、近藤等則さんを除いてはたぶんこの手の製品がステージに登場する最後だったのではないでしょうか?1980年代半ば以降、トランペットはYamahaを愛用し、マウスピースはBach 3Cに穴を開けてBarcus-berryを接合していたランディ。結局、この次のツアーからはマウスピースもYamahaの 'ヘヴィタイプ' となりBarcus-berryの使用をやめてしまいました。最近のインタビューではそんなマウスピース・ピックアップについてこんな感想を漏らしております。

"うん、エフェクトを使い出した頃はバーカスベリーのピックアップを使っていたし、マウスピースに穴を開けて取り付けていた。ラッキーなことに今ではそんなことをしなくてもいい。ただ、あのやり方もかなり調子良かったから、悪い方法ではなかったと思うよ。"

1970年代初頭からビリー・コブハムのグループ在籍時には、デイビス同様にHammondから送られてきたInnovex RSMの付属ピックアップShure CA20Bを用いており、その後のザ・ブレッカー・ブラザーズ以降、より小型のBarcus-berryに切り替えました。確かに大音量のバンドと対峙する上であの収音方法はベストでしたが、やはりセッティングが煩雑であったというのがネックだったのでしょうね。



さて、そんなBarcus-berryのピエゾ・ピックアップなのですが、わたしもかなりの数を集めました。1970年代初めから市場に登場し、それまでは管楽器用エフェクターの付属として用意されていたものが、ピックアップ単体を小型化して販売したのが画期的だったのでしょう。'アコースティック' 楽器全般のピックアップや音響機器を製造するBarcus-berryは、老舗メーカーとしてマウスピース・ピックアップを1990年代半ばまで製造していたことで、一般的にも普及してよく知られた存在でした。その時代ごとに細かな仕様変更がなされており、今回わたしが集めてきたものをサウンドチェックしてみて、実はかなりピックアップ自体の感度にバラツキがあることが分かって驚いております。パッと見は何の変哲もない棒型の小さな金属片なのですが、いざマウスピースに取り付け、プリアンプからアンプに繋ぎ鳴らしてみるとこんなにも違うものなのか、と。

Model 1374
Barcus-berry 1375 Piezo Transducer Pick-up
Model C5600

まずはBarcus-berryの管楽器用各モデルについておさらいしておきましょう。

⚫︎Model 1374 - Brass用ピエゾ・トランスデューサー・ピックアップ
⚫︎Model 1375 - Woodwinds用の廉価版ピエゾ・トランスデューサー・ピックアップ。これはマ
  ウスピースに穴を開けず、パテ状のもので貼り付けて使用します。
⚫︎Model 1375-1 - Woodwinds用ピエゾ・トランスデューサー・ピックアップ
⚫︎Model 6001 - 9V電池駆動のエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ。ピックアップ
  本体はマウスピースとネジ止めで取り外し可能。
⚫︎Model 5300 - 9V電池駆動のBrass用エレクトレット・コンデンサー・マイク。ベルのリムに
  ネジで固定する一風変わったもので、1980年代初めに復帰したマイルス・デイビスが同様
  のタイプを使用しました。
⚫︎Model 5200(C5600) - 9V電池駆動のWoodwinds用エレクトレット・コンデンサー・マイク。
  ベルの中にベルクロで取り付ける現在唯一カタログにラインナップされているもの。

このほか、フルートの 'アンプリファイ' 用ピックアップがいくつか現行品としてラインナップされております。基本的に1374と1375-1はピックアップ本体は同一で、ピックアップから3.5mmミニプラグを介してフォン・ケーブルへと変換するための中継コネクターを、トランペットとサックス本体へマウントするためのパーツに違いがあるだけです。



上の動画はジョージ・デューク、ジャン・リュック・ポンティらを擁した、フランク・ザッパの 'ジャズ・ロック' 時代最高潮のもの。そのザッパの片腕、イアン・アンダーウッドがバス・クラリネットのマウスピースに1375を貼り付けており、ネック部分にはその他ピエゾ・ピックアップ用の穴も開けられて蓋がしてありますね。またトロンボーンのブルース・フォウラーのマウスピースにも1374が取り付けられております。ちなみに、この貼り付け型1375はマイケル・ブレッカーも1970年代のザ・ブレッカー・ブラザーズで使用しておりました。

Model 1430 Standard Pre-Amp

ではでは、そんなBarcus-berryピックアップの 'ばらつき' について見ていきたいのですが、たぶん1970年代後半製造の1374(現在使用中)、そして2本所有する1982年製造のWoodwinds用1375-1に関しては、どれも単純にエフェクターに対してよくかかる素晴らしい感度のものでした。微妙な差異ですが、1375-1の方がWoodwinds用だからのか、少し低域に寄っている感じがあってオクターバーが '塊り' の如く飛び出す感じがしました。本来、外部にプリアンプを用いるパッシヴのものながらピックアップ自体のゲインは高く設定されており、入力するBarcus-berry 1430 Standard Pre-AmpのGain(ヴォリューム)ツマミを10時くらいの位置で十分機能します。一方、下で紹介する最初期型の1374はピックアップ自体のゲインは低いもののエフェクターのかかり方自体は悪くないです。プリアンプ1430のGainツマミは2時がベストで音質もナチュラル、うん、作りは華奢だけどちゃんとピックアップとしては機能しております。しかし、2.1mmミニプラグの付いた細い付属ケーブルのせいか音痩せが目立つため、プリアンプ1430のLo-Cutスイッチはオフにしました。ちなみにその他のピックアップではすべて、Gotham GAC-1というスイス製の高品位ケーブルで製作したものを試奏に用いているため、正直、純正ケーブルとは音質の差が歴然なのは仕方ないですね。



Model 1374 (Early Version)

さて、その最初期型1374はデザインが少々異なっており、ピックアップ本体の横からケーブルを出して2.5mmミニプラグが装着されているというもの。上の動画のIMAバンド初期の近藤等則さんが使われており、メス型の中継コネクターはタイラップでトランペットのリードパイプとベルに括り付ける荒っぽい仕様です。この後のモデルチェンジでピックアップ本体のケーブルからメス型の中継コネクター(3.5mmミニプラグ仕様)をそのまま装着し、リードパイプに挟んだ専用のクリップでその中継コネクターをマウントする方式へと変更しました。そして問題は1983年製造のBrass用1374。う〜ん、ここまで違うかというくらいピックアップ自体のゲインが低いですね。こちらはプリアンプ1430のGainツマミを3時にして何とかなる感じ(Lo-Cutスイッチはオフ)で、それでもワウやオクターバーのかかり方は弱く迫力がありません・・。結局、ワウやオクターバー本体のツマミを深めにかけてバランスを取ったものの、わたしの所有する2本とも同じ特性のため壊れているワケではなさそうです。

ここでいろいろと推理してみるなら、たぶんBarcus-berryは1983年製造品からピックアップのゲイン・レベルを低く設定したものに '仕様変更' したのでしょう。1970年代には、この手のピックアップはアンプで出力するものをマイク録音するのが一般的でした。それをスタンドマイクで収音するベル側の生音とPAでミックスして、エフェクト音+生音として会場のモニターに出力します。これはプリアンプ1430の出力に 'Hi-Z' (ハイ・インピーダンス)と書かれていることからも分かりますね。しかし1980年代以降、PAシステムが整備され、よりクオリティの高いラインでの音作りが一般的になると、むしろアンプにマイクを立てて収音することのデメリットが目立ってきました。多くの電気楽器の中で行う 'エレアコ' のセッティングは、常にその他楽器との音の被りやハウリング、'返り' でもらうモニター音量の限度をどうにかして補正することに時間を取られていたのです。



上の動画はザ・ブレッカー・ブラザーズがチャカ・カーンと共演したもの。'返り' のモニター音量をあまり上げられない為か、ランディ・ブレッカーがウォークマンのヘッドフォンでモニターするという奇異な光景。現在の 'インイヤーモニター' のはしりと言っていいのでは?つまりアンプを用いず、そのままロー・インピーダンスへ変換してDIからPAミキサーに送り、そこから会場のモニター・スピーカーへ振り分けて再生する方式がトラブルの少ないことから、ピックアップ自体のゲインを見直すことでより 'ライン' の音作りに特化したものへ変わったのだと思います。足元のエフェクターはPAミキサーのバスからインサートするかたちで繋いで再びミキサーへ戻す。このようなラインの環境に合わせるため、Barcus-berryも1430に 'Lo-Z' のXLRによるDI出力を追加したModel 1432 Studio Pre-Amp / DIを用意しました。またこの頃からBarcus-berryは、ピックアップと共にインピーダンス・レベルを見直した腰に装着する専用プリアンプ(ボタン電池仕様)を同梱して販売を始めたこともそれを裏付けています。



Roland SPV-355 P/V Synth

ここでちょっと一服。1980年のザ・ブレッカー・ブラザーズによる 'Some Skunk Funk' ですが、珍しくランディはBarcus-berryピックアップを用いずスタンド・マイクでワウをかけており、弟マイケルはピックアップを取り付け、何とRolandの 'Pitch to CV Converter' 内蔵のラック型シンセSPV-355を用いております。そしてマイケルはAmpegのスタック・アンプで鳴らしていたんですねえ。

さて、Barcus-berryピックアップとマウスピースの相性についてですが、基本的にアンプで鳴らそうと思われているのなら、あまりにも深いカップと大きなスロート径は厳禁です。EQなどで補正しないとローが必要以上に出て音抜けが悪くなってしまい、オクターバーなどを踏もうものならアンプを飛ばしかねません。わたしも過去、大きなスロート径とオープン・バックボアのマウスピースに穴を開けて接合したものの、結局はその穴を埋めて元に戻すという苦い経験があります。相性が良いのは浅め〜中庸のカップでバックボアがタイトなものだとアンプからの再生もスッキリします。こう考えるとマイルス・デイビスがタイトなバックボアが特徴のGiardinelliを選んだのも納得できますね。ただし基本的にはピックアップの構造上、ローとハイがあまり出ない中域中心のシャリッとした硬い音質のものなので、やはりベル側の生音とミックスすることで '使える' ピックアップだと思います。



Piezo Barrel HP
Piezo Barrel on eBay

と、ここで嬉しいお知らせ!
オーストラリアでピックアップを製作するSteve FrancisさんのPiezo Barrelからいよいよトランペット用のピエゾ・ピックアップがeBayに登場しました。マウスピースはBachの7C、5C、3Cに対応している(加工済)ようで、これでわざわざヴィンテージなBarcus-berryを探さなくても済みそうです。また、Facebookの方ではWarburtonのモジュラー式マウスピースにも取り付けた写真がありました。ちなみにこのピエゾ・ピックアップはプリアンプを内蔵したアクティヴの仕様で、外部にプリアンプを用いることなくそのままコンパクト・エフェクターやDIへと接続できます。実はわたしもeBayで5C(Bachのコピー品らしい)のものを購入しました!

出音は素直で良いですね。アクティヴだからかBarcus-berryのピックアップに比べて太くダイナミックレンジが広い印象です。個人創業の小さい工房でひとり製作しているらしく、生産数は決して多くないこのPiezo Barrel。わたしに経営の手腕やマウスピースの穴空け加工のスキルがあれば、是非とも日本代理店をやって普及させたいなあ。

vimeo.com/160406148

上はRyan Zoidisさんというユーザーの方のPiezo Barrelの動画。これをきっかけにギリシャのTAP ElectronicsやブルガリアのNalbantov Electronics、ドイツのRumberger Sound Productsの同種ピックアップも、それぞれマウスピース加工済の製品として入手しやすい環境となったら嬉しいですね。

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