2016年10月2日日曜日

コンドーさんという '息吹き'

学生運動の熱気が過ぎ去った1970年代、バブル全盛期の 'Japan As No.1' であった1980年代、冷戦構造が終焉し世紀末を迎える1990年代、そして2000年代以降・・ずーっとひとり突っ走ってきたコンドーさんのベストって何だったんだろうか、などと考えております(コンドーさんなら最新作こそベストだよって答えるでしょうケド)。





とにかく 'ゲリラ的に' あらゆるプロジェクトやコラボレーションを通して作品をリリースしてきたコンドーさんではありますが、1996年のDJクラッシュとの 'Ki-Oku - 記憶'、1999年のビル・ラズウェル、エラルド・ベルノッキとの '遍照 - Charged'、そして最新作である2015年、再びベルノッキとの 'You Don't Know What Love Is' の3枚は、ここ20年ほどのコンドーさんのスタイルを象徴しているのではないでしょうか。早過ぎず遅過ぎず・・ある意味、マイルス・デイビスの遺作となった 'Doo-Bop' の手法を継承、発展させたことで欧米のメディアからも 'Next Miles Davis' の称号が付けられたのだと思います。そういう意味では、ちょうど良いタイミングでトリップ・ホップの寵児となったDJクラッシュと出会ったことに意味がありました。



1990年代といえばまさに 'ベッドルーム・テクノ' 胎動をもって世紀末へと疾走する10年であり、早すぎたミクスチャーサウンドのバンド、IMAを解散したコンドーさんがひとり '自家発電' でもって自然と対峙する '地球を吹く - Blow The Earth' のプロジェクトを開始したターニングポイントでもあります。この時期、オランダのアムステルダムに拠点を置き、世界とのネットワークを活発化させたコンドーさんの嗅覚は間違っていなかった。それは、テクノロジーが安価になったことで四畳半の一室から世界を変えることに誰もが夢中となる・・そんな10年と真っ向勝負したと思うのです。1999年の 'Charged' はそんなネットワークがもたらした賜物であり、ビル・ラズウェルとはこの後の 'Method of Defiance' へと続いて行くこととなります。



また、その象徴的な作品であるDJクラッシュとの 'Ki-Oku'は、1990年代後半にノルウェーから現れたニルス・ペッター・モルヴェルら 'フューチャー・ジャズ' なる世代に対し、実に大きな影響を与えていたのかが分かりますね。ある意味ではそれまで '主流' とされた米国ジャズのマッチョイズムに対し、日本やノルウェーなどの '辺境' からそれぞれの世界観をエレクトロニクスで乗り越えて行けることを可能にしたとも言えます。



2015年の 'You Don't Know What Love Is' は、そんなお馴染みのジャズ・スタンダードを最新のテクノロジーでもって乗り越えて行こうとするもの。決して枯れたのではなく、いつでも馴染み深いものからメロディの髄を絞り出すコンドーさん自身がすでに 'Timelessな' 存在として君臨しております。さて、これから2020年代を迎えるにあたり、音楽を取り巻く状況は大きく様変わりしました。2016年の最新作 '夢宙 - Space Dream' を手始めにコンドーさんは今後どんな種を蒔くのか、何を発信するつもりなのかその興味は尽きません。まあ、コンドーさんの '裏街道' (ホントはこっちがオモテ?)であるフリー・インプロヴァイザーとしての姿を記録したペーター・ブロッツマンとの 'Die Like A Dog Quartet' の諸作や、ジョン・ゾーン主宰のレーベルTzadikからのソロ作 'Fukyo - 風狂' なども刺激的なんですけどね。





ビル・ラズウェルのオーガナイズでコンドーさん、DJクラッシュ、IMAバンド時代の盟友である山木秀夫さんからなるミニマルなジャムセッション。ひとりエフェクター全開な '電気ラッパ' のパフォーマンスも格好良いけど、こういうバンドというアンサンブルの中でクールに聴かせるための '地味に電気を使う' ラッパもイイですね〜。





Spiri Da Carbo Vario
DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
Toshinori Kondo Equipments
近藤音体研究所
Digitech Whammy Ricochet

そうそう、コンドーさんのトランペットは長らくBengeを吹いておりましたが、ここ近年はスイスの工房であるSpiriのカーボンファイバー製ベルを備えたDa Carbo Varioをメインとしております。確かに従来の真鍮とは違う 'コォ〜' という筒っぽい成分が聴き取れるというか、ダークで暖かい響きがしますね。 そして、コンドーさんが川崎市登戸で構えられているプライベート・スタジオ '近藤音体研究所' の一部をイケベ楽器さんが取材されている!まさにコンドーさんの音楽の '心臓部' であり創造の源と呼ぶにふさわしい場所です。さらに、1989年の発売以来、現在までコンドーさんの足元にある 'トレードマーク' 的エフェクターのDigitech Whammyもこんな小さくなりました。これまでペダルで行っていたピッチベンドUp/Downをモメンタリー・スイッチにより行うという、もっと早く商品化すべきであったナイスなモデルチェンジ!

空の気 - 自然と音とデザインと (みすず書房)

最近、コンドーさんがデザイナーの佐藤卓氏と対談した '空の気 - 自然と空とデザインと' を読んだのだけど、やはりこの(愛着を込めて)おっさんの話は面白い。まあ、以前から同じようなこと言っているだけなんだけど、しかし、それがちゃんとその時代その時代の '波' をキャッチして '変奏' し、時代のコトバとして見事にハマっているのだからコンドーさんのアンテナは錆び付いていない。理屈じゃなく動くこと、それによって生じる '波動' を大事にされているというか、日本の四季というものを(あえて) 'デザイン的' に捉えてはそのうつろいやすい '色即是空' なものこそ、日本なのだと 'ホラを吹ける' のはコンドーさんくらいでしょうね。決して、'和' や '禅' などと抹香臭い説話や教条的な '癒し' のスピリチュアリズムにならず、そういうのをサイバーパンクとして遊んでみろよ、と促されているようで・・コンドーさんの視点はいつもずっとどデカイのです。


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