2015年12月4日金曜日

'飛び道具' の王様リング変調器

さて、'コンパクト・エフェクター '覚え書き'' でいろいろとベーシックなものについて書いてきましたが、ここではもう一歩踏み込んでコンパクト・エフェクター使用の醍醐味である 'ニッチな' 分野、'飛び道具' と呼ばれる奇妙なエフェクターをご紹介したいと思います。その先鋒ともいえるのが、古くから現代音楽における電子音楽の分野で活用されていたリング・モジュレーターというヤツです。そう、あらゆる音を金属的で鐘のような質感に変調し、一切合切あらゆる音程を '無調' にします。本格的なシンセサイザーのモジュールとして用意されているものなどは、オシレーターを外部からLFOでトレモロにしたり、さらに別の音源と掛け合わせて新たな歪みを生成するなど、いろんな使い方ができるパラメータを備えており、ハマると実に奥の深い効果です。



Oberheim Ring Modulator (Prototype)

1970年のチック・コリアとキース・ジャレットによる '2キーボード' 時代の頃のマイルス・デイビス・グループのサウンドは、コリアの弾くエレクトリック・ピアノにかかせないスパイスとしてリング・モジュレーターが大活躍しました。オーダーを受けてトム・オーバーハイムが製作したMaestroのプロトタイプのものをコリアがギュイ〜ン、ガガガ・・と弾く映像を、'Isle of Wight' のコンサート映像で確認することができます。





そもそもは、友人であったオーバーハイムにトランペットの 'アンプリファイ' 用機器をオーダーしたのがドン・エリスであり、その中から生まれたMaestro Ring Modulatorは初のコンパクト・タイプとして評判を呼びました。それは、1968年公開の映画「猿の惑星」の音響効果として用いられ話題となったことからも分かります。上記の 'Hey Jude' は、まさにエリスによるトランペットでアプローチした記念すべき一曲。'無調の世界' ともいうべきカオスの渦から、微妙にザ・ビートルズの 'Hey Jude' だと分かるメロディの原型と無調に狂ったトーンを行ったり来たりして、いかにバランスを取るかがこのエフェクターをうまく使いこなすコツなのかを教えてくれます。本体にはエフェクト音と原音のバランスを取るツマミも備えており、これを、ほんの少しスパイス的に 'ふりかける' だけでも十分効果を発揮しますね。過去、わたしがよくやっていたのは、リヴァーブの後ろにリング・モジュレーターを微かにかかる設定にして接続、入力の強さにより微妙に狂ったピッチがリヴァーブの残響音に乗り、いわゆるアンプの '箱鳴り' をシミュレートさせるという効果を試していました。





Moogerfooger
Moog MInifooger MF Ring

こちらの動画は、Moogerfoogerのエンヴェロープ・フィルターであるLowpass Filter MF-101とRing Modulator MF-102によるMike Lloydという人のラッパでのもの。ロバート・モーグが生前最後に携わっていた製品がこのMoogerfoogerシリーズで、特にこの2機は最初に発売されたものです。トム・オーバーハイムといい、やはりシンセサイザーの設計と深く関わった人たちの強い興味を惹くのも特徴ですね。また、廉価版としてはMoogの 'Minifooger' シリーズからMF Ringが用意されております。



Way Huge Ring Worm

エフェクター界のカリスマとして、現在はJim DunlopでMXRのエフェクター開発に深く携わっているジョージ・トリップスの立ち上げたWay Huge。その彼の設計思想を今も守りながら新たに製品化されたのがこのリング・モジュレーター、Ring Worm。グシャッと無調に潰してしまうイメージの強いリング変調ですが、これはかなりクリアーで高品質なトーンを持っておりますね。このオシロスコープの波形を見ると元祖Maestroの筐体に輝く '波形マーク' を思い出します(あ、すでに 'ディスコン' とのことで中古でどーぞ)。



Fairfield Circuitry Randy's Revenge

ここ近年、カナダは高品質なエフェクターを製作する工房が多く集まる地として知られるようになりました。Radial Engineering、Diamond Guitar Redals、Empress Effectsなど、どれも日本では少々お高い価格ながらその価格に見合うだけの機能、品質を保った製品として高い評価を受けております。このFairfield Circuitryもそんな工房のひとつで、Randy's Revengeはコンパクトなサイズに多様な機能を詰め込んだリング・モジュレーターとして認知されました。どうしても歪みきって 'ノイジーな' イメージのリング変調にあって、本機は実にクリアーで粒の際立った効果が特徴です。



Electro-Harmonix Ring Thing

こちらの動画はGeoff Countrymanという人によるElectro-Harmonix Ring Thingのデモ動画。エレハモには古くからFrequency Analyzerという強力な製品が存在しているのですが、本機はその機能強化版という位置付けのもののようです。このくらいの原音とエフェクト音のバランスでも十分にその効果を発揮するのがリング・モジュレーターのエグさですね。





さて、そんなリング・モジュレーターもエフェクター界の鬼才、ザッカリー・ヴェックスの手にかかるとこのような '化け物' に変貌します。8ステップのシーケンサーを内蔵し、従来はフリケンシー・コントロールを外部エクスプレッション・ペダルでギュイ〜ンと踏むのがリング・モジュレーター唯一の '演奏法' だったのですが、本機ではランダムにシーケンスするアルペジオを鳴らすというシンセ的使い方が創造力を刺激します。以前にご紹介したXotic Robo Talkに内蔵されているランダム・アルペジエイターの機能もそうなのですが、リアルタイムのフレイズにかけるより、例えば、ループ・サンプラーで録音したフレイズに対してあれこれ操作していく '客観的' な使い方で効果を発揮すると思いますね。また上記動画で提示する、オシレータとピッチを合わせるようにチューニングするだけでも面白い使い方ができそうです。ともかく、何をやってもすべてが '狂った世界' になってしまうので、原音といかにバランスを取るかがキモとなるエフェクターだと覚えておいて下さい。



そして、またまた 'ペダル・ジャンキー' なDennis Kayzerさんによるリング・モジュレーター・ベスト10 !1990年代初めのヴィンテージ・エフェクター再評価のとき、市場で高値の付いていたもののひとつがこういった '飛び道具' の類いで、特にリング・モジュレーターはエレハモが2000年代以降に再発するまではどこも生産しておりませんでした。確か1990年代後半、レオ・ミュージックさんが取り寄せていたBlack Cat Productsのリング・モジュレーターを珍重していたのを覚えております。それまではヴィンテージのエレハモやColorsoundのペダル内蔵型、そしてトム・オーバーハイムのデザインしたMaestro RM-1A/Bなどはどれも皆プレミアが付いておりましたね(Maestroのは未だに高いけど)。

そんなリング・モジュレーター・・まさに、宇宙の最果てでそびえ立つ 'モノリス' のような存在として挑戦する私たちを常に待ち構えています。


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