2015年12月2日水曜日

'アナーキー' 世界一周

今宵は喧しい。

小難しいコードやスケールなんか関係ない、ライヴで '一発モノ' だ!ってな感じも、ラッパを 'アンプリファイ' にする者たちにとって大きな刺激剤です。





Chupaconcha

スペインで 'Chupaconcha' なる、'アンプリファイ' なラッパのGiuliano Gius CobelliとドラムスのGiorgio Fausto Menossiのデュオからなるこのユニットもそんな勢いに溢れています。膨大なエフェクターと共にループ・サンプラーのBoss RC-50 Loop Stationでアンビエンス的にラッパをオーヴァーダブしながらかっ飛ばす・・どこかストリート・ミュージシャンっぽい趣。しかし、彼らはプロとしてヨーロッパのあちこちで活動しているようです。彼らのサウンドはクォン・ヴーのトリオなどに比べると荒削りで、むしろジャズというよりオルタナやポスト・ロックの響きがありますね。このようなポスト・ロックの先駆者という点では1990年代後半に 'シカゴ音響派' として名を馳せたグループ、トータスの一員でもあったこの人は重要です。











ロブ・マズレクはシカゴ伝統のAACMの流れを汲んだフリー・ジャズの世界に身を置きながら、ポスト・ロックのトータスがブレイクしたことでオーヴァーグラウンドに浮上し、自らのプロジェクトであるChicago Underground(Duo、Trio、Quartet、Orchestra)でフリー・ジャズとエレクトロニカの折衷を試みながら、その後はブラジルのアマゾンに移住して活動しているという変わり種の人でもあります。マズレクがエンジニアのケーシー・ライスと共に制作した2002年のソロ・アルバム 'Silver Spines' (Delmark)は、'アンプリファイ' なラッパを吹いている人も是非刺激を受けて欲しいです。ちなみに、本作で出てくるコルネットのベルを水の張ったバケツに突っ込んで吹く '水中ミュート' は、すでに沖至さんが1970年のアルバム '殺人教室' 収録の '水との対話' で25年以上も前に試されているんですよね、早い!沖至さんといえば当時、ジャズ喫茶ながらライヴ・ハウスとしても開放していた寺島靖国氏経営の 'メグ' にグループとして出演した際、この曲を演奏してバケツからブクブクと溢れる水しぶきを雑巾片手に寺島氏がアタフタと拭いて回っていた、というエピソードが面白かったですね。フリー・ジャズ大嫌いな上にこんな '粗相' までされるなんて・・。そうそう、沖至さんも1974年、渡仏直前の 'さよならコンサート' を記録したライヴ盤 'しらさぎ' (Trio)で、マウスピースにピエゾ・ピックアップを接合してワウペダル、Ace Toneのテープ・エコーとスタック・アンプを用いて、近藤等則さんに先駆けた 'アンプリファイ' なフリー・ジャズを披露した第一人者でもあります。

そして、ドイツ・フリーの重鎮、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハが主宰するグローブ・ユニティ・オーケストラの一員でもあるアクセル・ドーナーもユニークな存在です。ドーナーは、Holtonがあの超絶ハイノート・ヒッター、メイナード・ファーガソンのために製作した 'Firebird' ことST303スライド・トランペットにピエゾ・ピックアップを貼り付けてコンピュータでトリガーしたりするものの、基本的にはあらゆる特殊奏法を駆使して、微細なノイズを '採取' するような多様なトーンを生成していきます。本人曰く・・

"音色に興味があったんだ。ピアノでは音色を変えることは難しいけれどトランペットではそれが出来る。昔、レックス・スチュアートがいろいろ音色を変えて吹いていたね。エレクトリック音楽の影響もある。アコースティックだけれどもエレクトロニクスのような音とか。トランペットにいろいろな可能性を見出したんだ。"






近藤等則さんが '雑音探求30年ついに純音を超えた' というスローガンを元に 'アンプリファイ' の世界へ越境していったとすれば、ドーナーのラッパは、エレクトロニクスがそのままアコースティックなノイズとの境界を無効化していく行為にあるといっていいでしょうか。

管楽器の世界はいかにその 'さわり' を拡大し、身体と共鳴するのかについて長い歳月をかけてきたような気がします。啄木鳥のような素早いタンギングはまるでエレクトロニカにおける 'グリッチ' 的エラーな効果の先駆で、喉を唸るように鳴らすグロウル奏法とファズ・トーンによる歪み、口角や顎、楽器を手で揺すってかけるシェイクはそのままトレモロやヴィブラートになり、ベルの前に手のひらをかざして喋るように鳴らすミュートとワウワウ、倍音を活かしてひとりで7音近くをハモらせるマルチフォニックスとオクターバー、自然界のこだまはエコーとしてすべてを電気的に再現してきたわけですが、実はそのまま、管楽器こそアコースティックの領域で広げてきた 'エフェクト' の '元祖' なのかもしれません。

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