"When You Hear Music, After It's Over, It's Gone In The Air, You Can Never Capture It Again."
しかし、この21世紀においては便利な 'フット・レコーダー' ともいうべきループ・サンプラーという文明の利器があります。それは2小節単位のフレイズをループして、上下2オクターヴ程度のピッチとテンポ可変、オーバーダブや逆再生ができるまさにデジタル世代ならではのアイテムでしょう。また、より高度なものはMIDIによりシーケンサーと同期させることも可能です。実際のライヴ演奏などでは、生のバンドのグルーヴに機械のループを同期させるとなると大変な労力を伴いますが、俗に 'YouTuber' なる動画を主なパフォーマンスの場とする 'ひとり演奏会' のお供としては、なくてはならない便利な機器だと言えますね。2000年以降のエフェクター市場の中で新たに ‘市民権’ を得たこのループ・サンプラー。1980年代の初め、ジャコ・パストリアスがラック・タイプのMXR Digital Delayに内蔵されていたホールド機能を用いて、わずか1秒たらずのサンプリング・タイムを駆使し、ひとりベースのフレイズを繰り返すという ‘余興’ のようなステージを記憶している方も多いのではないでしょうか。この傾向は1981年にエレクトロ・ハーモニクスから16 Second Digital Delayと2 Second Digital Delayを発売したことで、まさにコンパクト・エフェクターにおけるループ・サンプラーの原点となります。日本では1990年代後半、レオ・ミュージックという会社が輸入したBoomerang Phrase Samplerというものがこの手の機器が流行する先鞭を付けます。そして2000年に発売されたLine 6 DL-4 Delay Modelerは、往年のディレイを ‘アナログ・モデリング’ のテクノロジーで再現した機器として好評を博しますが、本機内蔵の14秒のサンプリング・タイムによるループ・サンプラーの機能により、その後に続く同種製品の ‘手本’ と共に 'ループ・サンプラー' というジャンルを築き上げました。元祖であるエレハモも2004年に16 Second Digital Delayを限定復刻したくらいですから、いかにその影響力が大きかったかが分かります。
DJ用卓上型エフェクターとして大ヒットしたKorg Kaoss Padには、Hold機能的な短いループ・サンプラーの機能が付いているのですが、あまりにも短いフレイズを追っかけながら顔を真っ赤にさせて指でタッチパネルを操作します。
ヨーロッパらしい耽美的な雰囲気を盛り上げるような、Boss RC-2 Loop StationとディレイのTC Electronic Nova Delayによるリリシズム溢れる 'ループわざ' ですね。ECMでのニルス・ペッター・モルヴェルっぽいというか。後半はほとんどドローンによるアンビエントの構築に向かうのは、この手のYoutubeで披露するループ・サンプラー派に共通するスタイルです。
ループ・サンプラー派によるひとり多重奏三連発!最初の人はSD Systems LCM89コンデンサー・マイクを用い、Electro-Harmonix Superegoでループさせながら、深いアンビエンスの中でDigitech Whammy WP-Ⅱをうまく使って構築していますね。その他エフェクターは、Line 6 Echo Park DelayとDonner Jet Convolution Flanger、BiyangのTri ReverbとオーヴァードライブのOD-8、Joyo TremoloにアンプはTrace ElliottのGP7で鳴らしています。続く歪みきったサックス奏者は、Eventide Pitchfactor、Boss CS-3 Compressor、GE-7 Equalizer、Electro-Harmonix Micro Q-tron、そしてヴォーカル用マルチ・エフェクターであるBoss VE-20を用いたループわざを披露してくれます。一方、最後の人のようにこのVE-20一台だけでも十分 'ひとりアンサンブル' も可能であることが分かると思います。これからマイクとエフェクター一台だけで管楽器の 'アンプリファイ' をやってみたい、と思った人はVE-20から入門してみるというのも良いでしょうね(本機は直接マイクを入力できるのです!)。
→Boss VE-20 Vocal Processor
こちらはElectro-Harmonix Superegoを用いたトロンボーンによるデモ動画。最初のサックス奏者の動画でもアプローチしていますが、これはループはループでも短いフレイズをHold(Freeze)状態にしてシームレスで重ねていくもの。ピッチ・シフターなどと一緒に用いればドローン系のアンビエント・ミュージックを生成することができます。しかし最近はエレハモやPigtronix、MXRなどがギタリストのみならず管楽器奏者にも機材を提供して新しいユーザー層を開拓していますね。
→Electro-Harmonix Superego
Boss VE-20のように直接マイクから入力したい場合、もしくは以前ご紹介したAudio-Technica Slick Fly VP-01やRadial Engineering Voco Locoのような、プリアンプと同時にコンパクト・エフェクターを使用できる機器などと併用するにあたり、TC Helicon Ditto Mic Looperのようなマイク入出力を備えたループ・サンプラーを選ぶのも良いでしょう。管楽器の生音を遜色なくPAへ送る場合、プリアンプからコンパクト・エフェクターへ入出力すべく 'アンバランス接続' に変換してケーブルを長く這わせると外部のノイズを拾い劣化します。極力、マイクからの信号はXLR端子による 'バランス接続' でPAやアンプに出力するのが基本です。もちろん、単にマイク入力のみ備えたElectro-Harmonix 22500の後ろにコンパクト・エフェクターを繋ぎ、そこからDIを介してPAへと引き回すやり方もあります。しかしエレハモは、ループ・サンプラーの元祖である1983年発売の16 Second Digital Delayを2004年に復刻して以来、マルチ・トラック・レコーダーを応用したような2880 Super Multi-Track Looperと45000 Multi-Track Looping Recorder、コンパクト・サイズの22500 Dual Stereo Looper、360 Nano Looper、720 Stereo Looperといった製品を目地白押しでラインナップしていて、どれを選んだら良いのか迷うほどですねえ。
→Electro-Harmonix 22500 Dual Stereo Looper
こちらはわたしが愛用しているElectro-Harmonix 16 Second Digital Delay。16秒のサンプリング・タイムを持つループ・サンプラーとショート・ディレイ、モジュレーションの複合機です。小節数を設定してピッチとテンポ、逆再生でそれぞれ可変させることができ、外部シーケンサーやドラムマシンをスレーヴにして、MIDIクロックで同期させることもできます。ループ・サンプラーは各社それぞれに使い勝手があり、その設計思想のクセを体得できるか否かで評価は大きく異なります。例えば、現在でも足元に置くユーザーの多いLine 6 DL4 Delay Modelerなど、そのループ・サンプラーの操作に慣れてしまった人は未だ他社の機器に乗り換えることに躊躇するでしょう。また、さらに複数のトラックにループのフレイズを仕込んで各々ミックスできる 'マルチ・トラック・レコーダー' 的なものを使うと、それこそひとりアンサンブルはもちろん、複数のシーケンスを仕込んで '抜き差し' しながらソロを被せて一曲演奏することも可能にします。Boss RC-50やRC-300、Electro-Harmonix 45000、Pigtronix InfinityにBoomerang Ⅲ Phrase Samplerなどを用いて挑んでみる価値あり、です。
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