ブログを始めて管楽器の 'アンプリファイ' を調べていく内に、一番ビックリしたのがクラリネットの '電化率' の高さでした。特にブルガリア、トルコ、ギリシャというバルカン半島から地中海一帯での盛り上がりは尋常ではありません。各国それぞれマウスピース・ピックアップを製作する専門のメーカーの存在は、それ相応の市場があるということを如実に反映しています。
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ジャズの世界では、1920年代のディキシーランド時代におけるシドニー・ベシェ、1930年代のスイング時代にスターとなったベニー・グッドマンらがソリストとして君臨しましたが、1940年代のモダン・ジャズ以降は完全にサックスにお株を奪われた状態だったと言えますね。せいぜいエリック・ドルフィーやベニー・モウピンらが持ち替えでバス・クラリネットを吹いていたくらいですが、これ自体クラリネットの持つ '明るい' 響きとジャズが相容れなかったことを物語っています。現在でも用いているのはドン・バイロンくらいではないでしょうか。そんな中、クラリネットで一定の地位を築いたひとりにロルフ・キューンがいます。弟はジャズ・ピアニストのヨアヒム・キューンで、ジャズマンとしてのキャリアの初期を冷戦時代の東ドイツで過ごし、1952年に西ドイツへ移住します。共産主義体制下の東ドイツで、当時の 'アメリカ帝国主義' の大衆音楽であったジャズがなぜ受け入れられたのかについては議論がありますが、一説には、アメリカ社会で人種差別に喘ぐアフリカン・アメリカンの民族音楽という観点から、ジャズを '抵抗の発露' として階級闘争と結び付けて見ていたのではないか、とも言われています。1964年にロルフ・キューンは、弟を従えてヨーロッパ・ジャズの金字塔ともいうべきアルバム 'Solarius' を吹き込みます。クラリネットでジョン・コルトレーンの 'シーツ・オブ・サウンド' を探求したそれは、クラリネットにおける即興演奏のひとつのスタイルを提示しました。その後、時代は 'サマー・オブ・ラヴ' を迎え、キューン兄弟はスウェーデンのMettronomeレーベルで 'The Kuhn Brothers & The Mad Rockers' というアルバムを制作します。スウェーデンという場所で一見、'覆面バンド' の如くロック・バンドとの共演を装ったそれは、スチュ・マーティン、ギュンター・レンツ、フォルカー・クリーゲルといったジャズの名手たちと繰り広げたサイケデリック・ジャズともいうべき内容となりました。
→Joachim Kuhn & Rolf Kuhn
上記の動画は 'The Kuhn Brothers & The Mad Rockers' に続けてリリースされた第二弾 'Bloody Rockers' からのもの。フランスのフリー・ジャズ・レーベルBYGから1969年にリリースされたもので、たぶん、前作と同じレコーディングされたものを二枚に振り分けたのだと思います。まさに、当時の 'ゴーゴー・クラブ' でストロボの照明に合わせて踊るのにピッタリな通俗性溢れるもので、ある意味 'Solarius' を評価したリスナーからは毛嫌いされる内容でしょうね。弟のヨアヒムはチープなコンボ・オルガン、ロルフはピエゾ・ピックアップを取り付けた 'Electro-Clarinet' (とクレジットには表記)で、オクターバーとワウペダルを全編で駆使して 'GS風サイケ' しています。たぶんGibson / Maestro Sound System for Woodwindsを用いているのではないでしょうか。長らく '幻のレア盤' の扱いを受けてきましたが、最近スペインのWah Wah Recordsというところから二枚揃ってアナログ盤で再発されました。
そもそもサイケデリックとは何か?1960年代後半に突如として始まった '意識革命' のようなもので、LSDを始めとした各種幻覚剤を服用して凝り固まった意識や旧世代の価値観を脱し、東洋思想でいうところの '解脱' の境地に皆で至ろうというもの。それは、幻覚作用を追体験させるようなけばけばしい極彩色のアートでファッションや音楽、映画や美術などあらゆる文化へ浸透するほどに大きな影響力を放ちました。そして 'LSDの教祖' なる怪しげな文句で 'Turn On, Tune In, Drop Out' のスローガンと共に登場したティモシー・リアリーは、まさにそんな時代の精神的支柱となった人です。もう一方のサイケデリックの雄ケン・キージーは、自らLSDの被験者としての体験から書き上げた小説 'カッコーの巣の上で' により作家としての名声を得て、 'Acid Test' なるイベントを開催しては 'Can You Pass The Acid Test ?' をスローガンに多くの若者たちをヒッピーへの '改宗' に促していきます。もちろん、このような 'アナーキズム' や幻覚剤の弊害は社会への挑戦として多くの規制を受け、例えばこんな 'LSDの誘惑' に注意を促す啓蒙映画なども多く作られたりしました。
まあ、今で言うところの '危険ドラッグ' のようなものですが、かえってこのチープかつビザールな映像処理と、初期電子音楽的な 'ノイズ' のBGMがある種の郷愁と共に惹きつけられます。しかし、ワウワウってのはやはり 'サイケな' 匂いのする音色だったのか、ここでも意識がねじれていくような雰囲気を盛り上げます。
そんな '若者の反乱' も遠い昔となった今年のロルフさん。クラリネットといえば朗らかな音色であったり 'チンドン屋' 的哀愁漂うイメージが強いと思うのですが、さすがシブ〜いジャズの音色で奏でております。
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