2020年1月1日水曜日

お久しぶり 2020

明けましておめでとうございます。

あっという間の2020年・・お正月にして 'Tokyo 2020' でございます。気象病に見る陽気のアップダウンから眼精疲労やストレートネックを始めに、ええ、色々と自律神経に不調をきたして体が悲鳴を上げておりました。それを機にPCとインターネット使用自粛(涙)。いわゆる 'テクノ・ストレス' というヤツですね。最低限、仕事で使うPCは仕方ないとして暇さえあればチェックしていたデジマートやハードオフ、ギズモ・ミュージックにナインボルト、一度見始めたら止まらないYoutube、海外のサイトではBoutique Pedal NYCや 'お宝漁り' で散財する元の 'Effects Databese' からeBay、Reverb.comなどなど・・これらの '巡回' を夏を境に先月まで一切辞めました(いや、ちょこっとは見てたけど)。









洪水のような '情報に対する禁欲主義' と言うワケではありませんが、たった数ヶ月離れただけでここ最近の機材、音楽の情報が一切ないのです・・うぅ。また身の回りの機材もDAWを中心に断捨離、特に液晶の画面を凝視するような波形編集の類いは全て捨てましたヨ。もちろん、何でもかんでも売り払って 'ミニマリスト' になりたいワケじゃなく、いま必要とするべきものを手元で明確化したかったんですよね。










そんなモンモンとした中でいつも自分の意識にあったのがトランペットの 'シンセサイズ' で、いわゆる 'ギターシンセ' というよりもっとプリミティヴなオシレータの素材としての役割。ジャズとシンセサイザーといえば古くはMoogやArpにアプローチしたディック・ハイマンやエミル・リチャーズ、ポール・ブレイ&アネット・ピーコックらの存在がいたと思うのですが、さらにそこから独自の世界観にまで引き上げたギル・メレがひとつのピークだったと思うのです。ここからキーボーディスト的に象徴されるヤン・ハマーとは真逆の器楽演奏にこだわらないピート・コージーやスイスの奇才、ブルーノ・スポエリさんのようなスタンスにわたしなどは強い憧憬を示してしまいますね。そういう奇特な方たちにとってEMSやBuchlaのシンセサイザーは特に強い興味を惹き付けたのではないでしょうか。また、ここにMIDIで統合してMax/mspなどで映像含めたサウンド・システムを構築してやると創作楽器 'Mutantrumpet' を駆使するベン・ニールへと接近することになります。1960年代後半にSonic Arts Unionとしてゴードン・ムンマやロバート・アシュリー、アルヴィン・ルシエらとライヴ・エレクトロニクスの実験に勤しんだデイヴィッド・バーマンがそのニールを迎えて制作した極楽盤 'Leapday Night' の気持ち良さ。昇天。ちなみに、ここでジョン・ハッセルが電気ラッパと共に扱うのはフランスの作曲家、サージ・チェレプニンが開発したSergeのモジュラーシンセですね。こーいう寄せては返す 'さざ波' のようなドローンの音作りが気持ち良い〜。











Buchla Easel K
Buchla Music Easel
Buchla Music Easel Review
Music Easel by Morley Robertson

そんなMoog、Arp、EMSと並ぶシンセサイザー黎明期の 'レジェンド' ともいうべきBuchlaミュージック・シンセサイザー。その中でもこのMusic EaselはBuchlaというブランドのイメージとして時代を超えた評価を得ております。以下、'サウンド&レコーディングマガジン' 2015年4月号でエンジニア、渡部高士氏(W)とマニピュレーター、牛尾憲輔氏(U)によるBuchla Music Easelのレビュー対談をどーぞ。

- まずお2人には、Buchlaシンセのイメージからおうかがいしたいのですが。

W - 珍しい、高い、古い(笑)。僕は楽器屋で一回しか見たことがないんだよ。当時はパッチ・シンセを集め始めたころで、興味はあったんだけど、高過ぎて買えなかった。まあ、今も買えないんだけど(笑)。

U - BuchlaとSergeに関しては、普通のシンセとは話が違いますよね。

- あこがれのブランドという感じですか?

U - そうですね。昨今はモジュラー・シンセがはやっていますが、EurorackからSynthesizer.comなどさまざまな規格がある中で、Buchlaは一貫して最高級です。

W - ほぼオーダーメイドだし、価格を下げなくても売れるんだろうね。今、これと同じ構成のシンセを作ろうとしたらもっと安く組めるとは思うけど、本機と似た構成のCwejman S1 Mk.2も結構いい値段するよね?

- 実際に操作してみて、いかがでしたか?

W - Sergeより簡単だよ。

U - 確かに、Sergeみたいにプリミティブなモジュールを使って "これをオシレータにしろ" ということはないです。でも、Music Easelは普通のアナログ・シンセとは考え方が違うので、動作に慣れるのが大変でした。まず、どのモジュールがどう結線されているのかが分からない・・。

W - そうだね。VCAが普通でないつながり方をしている。

U - 音源としては2基のオシレータを備えていて、通常のオシレータComplex OSCの信号がまずVCA/VCFが合体した2chのモジュールDual Lo Pass Gate(DLPG)に入るんですよね。その後段に2つ目のDLPGがあって、その入力を1つ目のDLPG、変調用のModulation OSC、外部オーディオ入力から選べるようになっている。

W - だから、そこでComplex OSCを選んでも、1つ目のDLPGが閉じていると、そもそも音が出ない・・でも、パッチ・コードで結線しなくてもできることを増やすためにこうした構成になっているわけで、いったん仕組みを理解してしまえば、理にかなっていると思ったな。Envelope Generator(EG)のスライダーの数値が普通と逆で、上に行くほど小さくなっていたのには、さすがにびっくりしたけど。

U - でも、こっちの方が正しかった。

- その "正しい" という理由は?

W - Music EaselのEGはループできるから、オシレータのように使えるわけです。その際、僕らが慣れ親しんだエンヴェロープの操作だと、スライダーが下にあるときは、例えばアタックならタイムが速く、上に行くほど遅くなる。これをオシレータとして考えるとスライダーが上に行くほどピッチが遅くなってしまうよね?だからひっくり返した方がいいと言うか、そもそもそういうふうに使うものだった。時代が進むにつれてシンセに独立したオシレータが搭載されるようになり、エンヴェロープを発振させる考え方が無くなったわけ。

- 初期のシンセサイザーはエンヴェロープを発振させてオシレータにしていたのですか?

W - そう。Sergeはもっとプリミティブだけどね。最近のシンセでも、Nord Nord Lead 3などはARエンヴェロープがループできますよ。シンセによってエンヴェロープ・セクションに 'Loop' という機能が付いているのは、そうした昔の名残なんでしょうね。Music Easelはエンヴェロープで波形も変えられるし、とても面白い。

- オシレータの音自体はいかがでしたか?

W - とても音楽的な柔らかい音がして、良いと思いましたよ。

U - レンジはHigh/Lowで切り替えなければならないのですが、音が連続して変化してくのがいいですね。あとEMSのシンセのように "鍵盤弾かせません!" というオシレータではなくて、鍵盤楽器として作られているという印象でした。

W - EMSは '音を合成する機械' という感じ。その点Music Easelは '楽器' だよね。

U - 本機ではいきなりベース・ライン的な演奏ができましたが、同じようなことをEMSでやるのはすごく大変ですから。

W - 僕が使ったことのあるEMSは、メインテナンスのせいだと思うけど、スケールがズレていたり、そもそも音楽的な音は出なかったけどね。この復刻版は新品だからチューニングが合わせやすいし、音自体もすごく安定している。

U - 確かに、'Frequency' のスライダーには '440' を中心にAのオクターヴが記されていて、チューニングがやりやすいんですよ。

W - そもそも鍵盤にトランスポーズやアルペジエイターが付いていたりと、演奏することを念頭に作られている。

- オシレータのレンジ感は?

W - 音が安定しているからベースも作れると思うよ。だけど、レゾナンスが無かったり、フィルターにCVインが無かったり、プロダクションでシンセ・ベース的な音色が欲しいときにまず手が伸びるタイプではないかな。

- リード的な音色ではいかがですか?

W - いいんじゃないかな。特にFM変調をかけたときはすごくいい音だったよ。かかり方が柔らかいと言うか、音の暴れ方がいい案配だった。普通、フィルターを通さずにFMをかけると硬い音になるんだけど、Music Easelは柔らかい。

U - 僕はパーカッションを作るといいかなと思いました。

W - 'ポコポコ' した音は良かったよね。EGにホールドが付いているから、確かにパーカッションには向いている。でも、意外と何にでも使えるよ。

- 本機はオーディオは内部結線されていて、パッチングできるのはCVのみとなりますが、音作りの自由度と言う観点ではいかがですか?

U - 信号の流れを理解すれば過不足無く使えますが、例えばオシレータをクロスさせることはできないし、万能なわけではないですね。

W - でも、他社の小型セミモジュラー・シンセより全然自由度は高いよ。'パッチ・シンセ' である意味がちゃんとある。

U - 確かに、変なことができそうですね。

W - Pulser/Sequencerのモジュールも入っているし、いろいろと遊べそうだよね。パッチングの色の分け方も分かりやすい。あとバナナ・ケーブルって便利だね!パッチング中に "あれどこだっけ?" と触診するような感じで、実際にプラグを挿さなくても音が確認できるのはすごく便利。ケーブルの上からスタックもできるし。

U - 渡部さんのスタジオにはRoland System 100Mがありますが、Music EaselでできることはSystem 100Mでも実現可能ですか?

W - できると思う。System 100Mにスプリング・リヴァーブはついてないけどね。

- 復刻版の新機能としては、MIDI入力が追加されて、ほかのシーケンサーでMusic Easelをコントロールできるようになりました。

U - 僕が個人的に面白いと思ったのは、オプションのIProgram Cardをインストールすると、Apple iPadなどからWi-Fi経由でMusic Easelのプリセットを管理できるところ。ステージなどで使うには面白いと思います。

W - それはすごくいいアイデアだね。

- テスト中、お2人からは "これは入門機だね" という発言が聞こえましたが。

W - 独特のパラメータ名やしくみを理解してしまえば、決して難しいシンセではないという意味だよ。よく "モジュラー/セミモジュラー・シンセは難しそう" という人がいるけど、ケーブルのつなぎ方さえ分かってしまえば、完全に内部結線されているシンセより、自分が出したい音を作るのは簡単だからね。

U - 1つ目のDLPGにさえ気付けば、取りあえず音は出せますしね。

W - Music Easelで難しいのはオシレータとDLPGの関係とエンヴェロープだね。でも逆に言えば、特殊なのはそこだけとも言える。エンヴェロープが逆になっているのを発見したときは感動したな。シンセの歴史を見た気がしますよ。

U - 音作りの範囲はモノシンセに比べたら広いし、その領域がすごく独特です。

W - このシンセの対抗機種はArp OdysseyやOSC Oscarなどのモノシンセだよ。シーケンサーでSEっぽい表現もできるし、8ビット的な音も出せる。もう1つMIDIコンバータを用意すれば、2オシレータをパラで鳴らしてデュオフォニックになるし。

- ちなみにモジュラー・シンセというと、ノイズやSEというイメージが強かったりしますよね。

U - 確かに、モジュラー系の人はヒステリックな音色に触れがちですよね。

W - 僕はポップスの仕事でもガンガン使っていますよ。モジュラー・シンセはグシャグシャした音を作るものだと思っている人も多いようですが、アナログ・シンセの自由度が広いだけ。まあでも、オシレータに変調をかけていくと、ヒステリックな音にはなりがちだよね。

U - 変調を重ねていく方向にしか目が行かないということもあると思います。

W - でもモジュラー・シンセで本当に面白いのはオーディオの変調ではなくて、CVやトリガーをどうコントロールするかなんだよ。その意味でMusic Easelはちゃんとしている。

- 本機をどんな人に薦めますか?

W - お金に糸目を付けず、ちょっと複雑なモノシンセが欲しい人(笑)。

U - 小さくてデスクの上に置けるのはいいと思います。例えばラップトップだけで作っている人が追加で導入するシンセとしてはどうですか?

W - いろいろなパートを作れていいんじゃないかな。これ一台あれば演奏できるわけだから、その意味で楽器っぽいところが僕はいいと思ったな。鍵盤付きだし、音も安定している。

U - 確かにこれ一台で事足りる・・Music Easelが1stシンセで、"俺はこれで音作りを覚えた!" という人が出てきたら最高ですね(笑)。

W - で、ほかのシンセ触って "エンヴェロープが逆だよ!" って怒るという(笑)。












Boss RC-505 Loop Station
Electro-Harmonix 16 Second Digital Delay 2004
Charles Cohen ①
Charles Cohen ②

そんなMusic Easelのお供としてよく似合うのがElectro-Harmonix 16 Second Digital Delay。本機は16秒のサンプリング・タイムを持つループ・サンプラーとショート・ディレイ、'バリピッチ' 的可変を楽しめるモジュレーションの複合機です。小節数を設定してピッチとテンポ、逆再生でそれぞれ可変させることができるもので、Music Easelに対してMIDIのマスタークロックとして同期させてみても面白い。ちなみにオリジナルMusic Easelは1972年にわずか25台のみが製造されたレアなものなのですが、その内の一台の '使い手' として知られる電子音楽作家、チャールズ・コーエンもヴィンテージな16 Second Digital Delayと共に使用しておりました。







Buchla iProgram Card

この、ほとんどミニマルなシーケンス一発の '一筆書き' 的スケッチなものを得意とする 'セミ・モジュラー' なMusic Easelは、そのオシレータのみならずあらゆる楽器からリズムボックス、そこらで鳴らした具体音に至るまでなんでも外部から入力し、色々な変調を試みる '素材作り' として威力を発揮します。こういうドラムをトリガーにして変調したリズムを生成するのは 'ベッドルーム・テクノ' 黎明期に流行したやり方で、多くのユーザーがSherman Filterbankに突っ込んでましたね(笑)。さて、この時代のアナログシンセは基本的に音色のプログラムは出来ないのが一般的でしたが、本機には2枚のブランク基板が用意されて最良なセッティング時に抵抗などをユーザーが基板にハンダ付け、そのままプログラム・カードとして保存することが可能。現在の復刻版ではそれに加えてPCやiPadなどとWifiを経由して管理、エディットなどを行えるiProgram Cardを用意しております。そして、そんなテクノ・シーケンスのルーツ的存在として、なんと1958年!の時点で 'Birth of Techno' してしまったTom DisseveltとKid Baltanことオランダの電子音響作家、Dick Raajimakersによる奇跡の一枚がコレだ!。





Korg Sound On Sound Review

ループ・サンプラーは便利な '文明の利器' (笑)として楽しいものですが、身軽な '旅のお供' にはこんなお手軽なハンディ・レコーダーとして2009年に登場したKorg Sound On Soundも便利な逸品。その名の通り、古の '宅録世代' には懐かしい 'ピンポン録音' をループに特化したデジタル・レコーダーとして実現したもので、発売時には3万ちょいの価格帯で手が出ませんでしたが 'ディスコン' となった今ならソコソコの中古を格安で手に入ります。大方のレビュー通り、少々クセのある使い勝手ながらシンプルに録音、重ねていくだけでも面白いトラックとして十分メモ代わりに使えます。こういうシンプルな '液晶もの' ならストレスが無いですね。





1010Music
1010Music Blackbox

いや、もうちょい凝ったコトもやりたいよなあ・・という方には、こんな小さな 'ワークステーション' としてビートメイクに威力を発揮する1010Music Blackboxをどーぞ。本機は同社の 'ユーロラック' モジュールとして製作するサンプラーBitbox、シーケンサー/ファンクション・ジェネレーターToolbox、そしてマルチ・エフェクターのFxboxを統合、卓上型の専用機に仕上げました。基本的にはAkai Professional MPCシリーズと共通する各パッドへのサンプルのアサイン、内部シーケンサーにプログラムして内蔵エフェクツなどを駆使しながらエディット、ソングとしてビートメイクしていきます。そしてタッチパッド式のキーボードも備えているので '上物' のハーモニー的生成もバッチリであり、またMicro SDカードでその他PCのDAWとのやり取りも可能です。











Buchla on L.S.D.

何だか長〜い文章を引用している内に目の奥がチカチカして首がカチコチしてきた・・ヤバい。そろそろ画面を離れてひとっ風呂浴びながら血行を良くして来た方が良さそうです。さて、このMusic Easelのパネル面に '怪しい物質' は塗られてはおりませんが(笑)、あの 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にケン・キージー&メリー・プランクスターズ主宰の '意識変革' の場として機能した 'アシッドテスト' でSEを担当したドン・ブックラ。最先端のNASAから極彩色に塗れたサイケデリアの世界へ 'ドロップアウト' した彼の姿を、ノンフィクション作家トム・ウルフの著作「クール・クールLSD交換テスト」ではこう述べております。

"突如として数百のスピーカーが空間を音楽で満たしていく・・ソプラノのトルネードのようなサウンドだ・・すべてがエレクトロニックで、Buchlaのエレクトロニック・マシンもロジカルな狂人のように叫び声をあげる・・(中略)エレクトロニック・マシンのクランクを回すと、なんとも計算できない音響が結合回路を巡回して、位相数学的に計測された音響のように弾き出された"

そんなBuchlaをヒッピーの世界から一転、アカデミックな環境へと納入されるようになったのは 'San Francisco Tape Center' を設立したモートン・サボトニック。それまでテープ・レコーダーによる実験的音響に精を出していたこの優れた作曲家は、ドン・ブックラと共同で新たにBuchla 100 Series Modular Electronic Music Systemを生み出すこととなります。当初からブックラとサボトニックはこの新しいアイデアについて意見を闘わせており、それはBuchlaシンセサイザーの基本コンセプトとして現在まで受け継がれております。そんな発想の源にはサボトニック自身が元々クラリネット奏者であったことも含め、後年、この時の出会いと開発時のエピソードとしてこう述べております。

"ドンとは初日から議論を重ねていた。ドンは楽器を作りたがっていたが、わたしは「目指しているのは楽器ではない。最大限近づけて表現するならば、楽器を作るための機材、絵を描くための機材というところだ」と伝えた。ドンは我々が望んでいた機材の本質を理解していなかった。このような考えを持っていたわたしは、鍵盤は不要だと考えていた。昔ながらの音楽制作を繰り返すようなことはしたくなかった。音程を軸にした音楽制作ではなく、奏者のアクションを軸にして音楽制作ができる機材を作りたかったんだ。"

この辺りがMoogやArpとは違う、BuchlaがEMSなどと似た志向を持つ '未知の楽器' モジュラーシンセとしての威厳ですね。これは日本で初めてBuchlaを導入した教育機関である東京藝術大学の '音響研究室' で、その発起人でもあった白砂昭一氏が同様の趣旨のことを述べておりました。

"僕は最初っから鍵盤の付いているものは忌み嫌ってた。最初から装置であるべきなんです。芸大で教える、アカデミックな世界で考えるシンセサイザーというのはね。なぜNHKがシンセサイザーを買わなかったかというと、要するにキーボード・ミュージックなんですよ。キーボードがあると、発想がもうキーボードになっちゃうんです。ブックラのよさはキーボードがないこと。タッチボードっていうのは、キーボード風に使うこともできるけど、あれは単なるスイッチ群なんです。芸大でモーグを入れたのは、電子音楽にあれを使おうというよりも、新しい楽器の研究としてなんです。ここは楽器の研究設備でもある。モーグは新しい電子楽器としての息吹を持っているから、そういうものは買って調べなきゃいけないってね。"

白砂氏によれば、Buchlaはモートン・サボトニックの作風に影響されてセリーの音楽が組み立てられやすいようにタッチボード・シーケンサーを備え、音の周波数の高さもフィート切り替えではなく20〜20000Hzまでポンと自由に切り替えられるものだと見ているそうですが、まさに鍵盤のふりした感圧センサー、電圧制御でジェネレートする 'トリガー・ミュージック' の操作性にこだわることでBuchlaは音楽の '成層圏' を突き抜けます。











ちなみにこのようなアタッシュケース型のポータブル・シンセサイザーとしてはお馴染みEMSのSynthi AKSのほか、2002年頃にAnalogue SolutionsからそのSynthiを意識したVostokというヤツがありました。こちらもSynthi同様にマトリクスパッチ・ボードやX-Yジョイスティックなどを用意して内蔵する各モジュールをパッチングするという、EMSの '機能強化版' 的構成ではあったものの、なぜかその出音の評価がイマイチで見た目ほど大した評価を得られなかったのは残念なり。






さて、そんな '断捨離' の代わりというワケではありませんが、この長い '前フリ' を経て(笑)アタッシュケース型の 'セミ・モジュラーシンセ' であるBuchla Music Easelをかなり思い切って購入!(これでしばらくは無駄遣い出来ません・・涙)。まさか自分がモジュラーに手を出すとは思わなかったけど、この僅か6Kgちょいの '小さなスタジオ' は旅行カバンの如く外へ持ち運べるんですよね。これまではついつい、今月の新製品だったりビザールなヤツをネットで見つけてはあれこれ繋ぎ変えてみる・・こーいう '足りないもの' で満たしていくという考え方だったのですが、これからはほぼ一台に向き合った創作方法。これ以降、わたしの環境も 'モバイル' として意識的にガラリと変えて、週末は関東近県の '小旅行' のお供としてコイツを頻繁に持ち出す生活へと変貌。最低限の着替えと本1冊をカバンに突っ込み、片手には移動する旅のお供、Buchla Music Easel。美味しいもん食って自然を満喫し、温泉で凝った体と気分をほぐしながら '目の前の音' と戯れる。耳を圧迫するヘッドフォンも嫌いだからSonyのウェアラブルネックスピーカー、SRS-WS1を肩に乗せて小さく再生。持った感じが少々重くて肩凝るかと心配だったのですが、基本的にWifiで音飛ばすこの手のヘッドフォンの中から 'アナログ接続' 出来るのはこれしかなかった・・。実際、肩にかけてみると首下と鎖骨で支えるのでそれほど重さは感じません。別に '世捨て人' になったワケでも '神秘主義' にやられたワケでもありませんが(笑)、単に限定的な環境の中で '時間の使い方' を見直しただけ、なのです。ホント、前回は '真夏の徹夜' なんぞを推奨しておりましたが(汗)、激しい気温変化に体が追い付かないままPCの画面を凝視・・そりゃおかしくなるわ。とりあえずPCとケータイ、ネットを手放せない皆さま、人間の中身は替えがききませんのでご注意あれ。









しかし、心身共に調子がイマイチだったこの時期、いわゆるヒステリックで音圧ガッツリの音楽なんか全く受け付けなかった・・。シンセサイザーでいうならここで挙げられているいくつかの動画での 'フリケンシー・ミュージック' なんて苦痛でしかないですヨ、ほんと。じゃ、なんでシンセなんて買ったの?と問われれば、このBuchlaの音色って丸くてポコポコしていて優しいんです。もちろん、鼓膜を突き刺すようなノイズも生成出来るのだけど、やはりそういう音作りとは真逆な音色をジックリ、コトコト好き勝手に弄っておりました。目の前の音と戯れておしまい・・また明日はまっさらな状態からパッチングしてスライダーやツマミを触っていくのです。そして、そういう 'シンセサイズ' のBGMとして流れていたのがカル・ジェイダーを始めとしたヴァイブとパーカッションのラテン・ジャズやエキゾチカの世界。こーいう 'ひっそりとした秘境' ともいうべき人工的な楽園からカイロプラクティクな逃避行であらゆる '情報' が洗い流されていきまする・・。ああ、毎朝を波の音で目覚める 'Hawaii Colls Show' のような日常だったらなあ。




                                                        'Turn On, Tune In, Drop Out'

心身不調から狂った '波長' をチューニングするべくシンセサイズの 'セラピー' を受けて、さらに温泉で五感に溜まった垢を洗い流し、再び現実の世界へと舞い戻るという '長い道程(Trip)' はLSD映画「白昼の幻想」のピータ・フォンダになった気分ですけど(笑)、さて、それでは初日の出と共にこのポータブルな '音のパレット' 担いでまた温泉に行ってきましょうか。


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