2019年5月2日木曜日

再び '質感生成' の旅に出る (再掲)

わたしのペダルボードをジッと眺めているとその大半のペダルがトランペットのトーン、電気的に増幅した際の '質感' に関わるもので占有していることに気付きます。2チャンネルのプリアンプHeadway Music Audio EDB-2やNeotenicSound AcoFlavorはもちろん、Magical ForceにPurepadからTerry Audio The White Rabbit Deluxeに至るまで単にスイッチをOnにしただけでは一聴して効果の分からないヤツら・・。


こういう '周辺機器' を揃えないと管楽器の 'アンプリファイ' が物足りないのは歯痒いですけど、派手に変調させる各種エフェクツを活かすも殺すもこれら '周辺機器' の調整、補正に掛かっているのだから無視出来ません。ともかく、管楽器の 'アンプリファイ' においてこの '質感' というやつを個人的に追求してみたい欲求があるんですよね。目的はアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、ピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' という試みなのです。





Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ
Urei / Universal Audio 565T Filter Set

以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

- そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S - 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

- それはだれかが先にやってたんですか?

W - 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S - 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W - 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

- しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S - 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W - それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S - で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W - 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S - ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W - フィディリティって '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

- 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W - それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

- フィルターとEQの違いは何ですか?

S - 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W - 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S - エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

- そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W - お手軽にいい音になるというかね。

S - 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

- しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W - それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

- 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W - 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S - それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W - よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

- 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W - ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S - 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W - System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S - 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W - 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

- 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W - それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

- トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W - 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S - それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W - 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S - Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

- エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W - エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S - 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W - 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S - 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

- 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S - それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W - 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

- ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S - 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W - ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

- 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S - デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W - それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S - 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W - それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S - どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。






Bob Williams: The Analogue Systems Story
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ①
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ②
EMS 8-Octave Filterbank
Filters Collection

いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクターと並び、現在ではDJを中心に一般的となったフィルター専用機。1970年代にはUrei 565T Filter SetやMoogのMKPE-3 Three Band Parametric EQといったマニアックなヤツくらいのイメージだったものが1990年代の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に再燃、英国のAnalogue Systemsから登場したのがFilterbank FB3です。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、あのEMSでデイヴィッド・コッカレルと共に設計、開発を手がけていたスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに換装したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の要望を掴みます。当時、まるで 'Moogのような質感' という '売り文句' も冗談ではないくらい太く粘っこいその '質感' は、本機の '売り' である3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassの 'マルチアウト'、LFOとCV入力で様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが出来ます。そんな本機の設計の元となったのはスティーヴ・ゲイがEMS時代に手がけた8オクターヴのFilterbankですね。





さて、ここでご紹介するのはいわゆる 'シンセサイズ' によるフィルタリングとは違い、一聴して直ぐにその効果を把握できるものではないのだから悩ましい・・。面白そうだと慌てて購入して、何だよコレ、変わんねーじゃねーかよ!と直ぐに投げ出してしまいたくなるものばかりですが(苦笑)、ずーっと使ってみて突然 'Off' にした時、実はその恩恵を受けていたことを強く実感するもの。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムとしてここにお届けします。









JHS Pedals Colour Box

そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階で切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。上の動画だけ見ても管楽器奏者の認知度は上がっておりますね。



API TranZformer GT
API TranZformer LX

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサーと2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能ですね。





Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?





Pettyjohn Electronics Filter ①
Pettyjohn Electronics Filter ②

こちらはPettyjohn Electronicsのその名もFilter。と言っても 'シンセサイズ' のフィルターではなくEQ的発想からギターの '質感' を整えていくもの。中身を覗くとなかなかにレアなオペアンプ、コンデンサーなど豪華なパーツがずらりと並びこだわりが感じられます。本機もまた、JHS Pedals Colour Box同様にアナログ・コンソールのEQ回路(たぶんNeveでしょう)をベースに設計されたようで、ギターの帯域に向けながら、あえて 'EQ' ではなく 'Filter' と称して極端な '位相乱れ' を廃し、あくまで '質感' の生成に特化したものだということが分かります。







Terry Audio The White Rabbit Deluxe

そんなPettyjohnとは真逆なガレージ臭プンプンのTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。本機はわたしのセッティングでも愛用しているのですが、まさに効果てき面!'ハイ上がり' なトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなって音抜けが良くなり、確かに 'マスタリング・プロセッサー' で整えたような '魔法' をかけてくれます・・素晴らしい。







NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force ②
NeotenicSound Magical Force ③

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをライヴやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで '付加' する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのも面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。




Hatena ? The Spice ①
Hatena ? The Spice ②

この 'えふぇくたぁ工房' はNeotenicSoundの前にHatena?というブランドを展開、Magical Forceの源流ともいうべきActive Spiceという製品で一躍その名を築きました。このThe Spiceはその最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミクスのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。Magical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整する音量のVolumeの他はかなり異色なもの。音圧を調整するSencitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、そしてTightスイッチはその名の通り締まったトーンとなり、On/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となります。




ちなみにそのオリジナルのAcitive Spiceは2005年頃に市場へ登場し、個人工房ゆえの少量生産とインターネット黎明期の '口コミ' でベーシストを中心に絶賛、その 'クリーンの音を作り込む' という他にないコンセプトで今に至る '国産ハンドメイド・エフェクター' の嚆矢となりました。派生型のSpice Landを始め、2009年、2011年、2012年と限定カラー版なども登場しながら現在でも中古市場を中心にその古びないコンセプトは健在。エレアコ用プリアンプの代用としても評価が高く、わたしの分野である管楽器の 'アンプリファイ' でも十分機能しますヨ(今はNeotenicSound Magical Forceに任せているけど)。



エフェクターの世界においていろいろな '売り文句' を謳って製品化、その需要があれば一気にひとつの市場として波及するものが定期的に現れます。例えばスタジオでのFETコンプレッサーの定番、Urei 1176LNの 'コンパクト化' やNeveのプリアンプ、EQの 'コンパクト化' などはここ近年のトレンドでした。そして遊び心という点では、こんな珍品こそ 'エフェクター好き' がワクワクして手を伸ばしたくなる感じがありまする。繋ぐだけで 'モータウンの質感' を付与してくれるというMoSound・・何すか、コレ?(笑)。まず 'モータウンの質感' という、およそ一般的とは言い難い価値観を共有しないといけないのだけど(汗)、う〜ん、あのモータウン全盛期であった1960年代のコンプレスされたレコードの音のことなのだろうか?こういうのは、ザ・ビートルズのレコードから聴こえてくるガッツリとかかったリミッター・サウンドなんかと近い感じかもしれないですねえ。初代の小さいヤツと筐体を大きくした2代目があり、初代では基板内部にあったゲインを司る 'Deep' トリムを2代目では 'Oldies' ツマミとして外部に出し調整しやすくなりました。わたしも本機を所有しているのですが・・う〜ん、何だろ?(苦笑)。いや、確かにスイッチをOnにすると変わるんですヨ。上の帯域がフィルタリングされて丸くなる感じ・・それもビミョーな感じでして、内部の 'Deep' トリムも・・う〜ん、変わったような変わらないような感じ(苦笑)。しかし、いい感じにトーンの '耳に痛い感じ' が緩和されるのでわたしの 'ヴィンテージ・セット' で愛用しておりまする。



Acme Audio Motown D.I. WB-3 ①
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ②
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ③

ちなみにこんな '伝説のモータウン・サウンド' を '売り' にしている機器としては、Acme AudioのパッシヴDIであるWB-3というヤツもありますヨ。う〜ん、分かったようでその筋のマニア以外にはいまいちピンとこない 'モータウンの質感' というヤツ。単なる 'ローファイ' というワケではなさそーではありますが、確かにグッとミドルに寄りコンプレスした感じが 'モータウンっぽい' ってこと?。DI本来の仕事は 'インピーダンス・マッチング' の変換であり、それ以外の要素はアクティヴ、パッシヴを除けばほぼ考慮する必要はないのだけど、それでもこんな独特の '質感' にこだわったヤツが登場するのだから機材の世界は面白いのだ。









Lovetone Meatball ①
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Hi Fi
Chase Bliss Audio

さて、ここからはもう少し 'エフェクターライク' なペダルを取り上げます。エンヴェロープ・フィルターの機能を中心に地味な 'フィルタリング' の効果を発揮するもので1990年代後半に欧米のギタリストやベーシストはもちろん、DJやエンジニアにも好まれた英国の名機、Lovetone Meatballがありまする。とにかく豊富なパラメータを有しており、いわゆる 'オートワウ' からフィルタースィープによるローパスからハイパスへの '質感生成'、フィルター内部への 'センド・リターン' による攻撃的 'インサート'、2つのエクスプレッション・ペダル・コントロールと至れり尽せりな音作りでハマれます。また、このようなフィルタリングを 'ローファイ' の価値観で新しいモジュレーションのかたちとして提示したのがこちら、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky。さすがエフェクター界の奇才、Zachary Vexが手がけたその着眼点は、いわゆるアナログ・レコードの持つチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものというから面白い。特に真ん中の 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな陽気と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。そして現在の注目株Chase Bliss Audio Warped Vinylの登場。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Hi Fiは従来のモデルに 'Hi Fi' 的抜けの良さを加味したもので、アナログでありながらデジタルでコントロールする 'ハイブリッド' な音作りに感嘆して頂きたい。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面に備えられた 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。タップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのMXRサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。






Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar F.Zappa Filter Modulation
Guitar Rig - Dweezil Zappa

ザッパのフィルタリングに対する音作りの研究に訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子ドゥィージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-pass、Band-pass、Hi-passを切り替えながらフィルター・スィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドとマスキングテープで固定してレーシング用フォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。









Holowon Industries Tape Soup
Holowon Industries
Cooper Fx Generation Loss
Cooper Fx ①
Cooper Fx ②

そんな 'ローファイ' かつテープの伸び切った、鈍ったような '質感' ということでは、こんなアナログテープの 'ワウフラッター' に特化したエフェターもありまする。ニューヨーク州ロチェスターに構えるこの小さな工房で製作する本機は、Volume、Fidelity、Saturation、Speed、Biasというまるでオープンリール・デッキの 'バリピッチ' 的ツマミの構成から何でもグニャグニャとピッチ・シフティングしてしまいます。最近はCooper FxのGeneration Lossのようなデジタルによるものも登場しましたが本機の '飛び道具' ぶりもなかなかのもの。




Elektron Analog Heat HFX-1 Review
OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit
Dr. Lake KP-Adapter

そしてKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。





Pigtronix Disnortion Micro

Youtubeでも積極的にラッパの 'アンプリファイ' を推奨するカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがPigtronixのアッパー・オクターヴなディストーション、Disnortionでのデモ動画。しかし、さすがにコンデンサー・マイクのセッティングではほとんど歪ませることが出来ず、ほぼサチュレーション的倍音の '質感生成' に終始した音作りですね。ワウも踏んでおりますがかなりコンプでピークを潰しながらハウる寸前・・。すでにこの 'でっかいヴァージョン' は廃盤ですが、現在はより小型なDisnortion Microとしてラインナップ。ちなみに一見、管楽器とは '真逆' な志向に見える '歪み系' ペダルですけど、そもそもファズの元祖として1962年にGibsonから登場したファズ・ボックス、Fuzz Tone FZ-1のデモ音源ではその後のギターアンプを 'オーバードライブ' させたものではなく、'Sousaphone' 〜 'Tuba' 〜 'Bass Sax' 〜 'Cello' 〜 'Alto Sax' 〜 'Trumpet' という流れで各種管楽器の模倣から始まっているのは興味深いですね。Maestroのブランドマークが 'ラッパ3本' をシンボライズしたのは決して伊達ではないのです。



Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier-

そして、このような '歪みもの' と倍音成分ということではリング・モジュレーターも有効なのですが、そこでガッツリと 'シンセライク' に変調させてはダメ!。そんな地味な倍音生成としてMu-Tronでお馴染みMusitronicsが製作した 'アタッチメント' の一台、Dan Armstrong Green Ringerにご登場頂きましょうか。そもそもは英国のWereham Electronicsが手がけたものをMusitronicsで生産したことで人気爆発、その後日本や韓国製のコピーが出回るほどポピュラーになりました。直接ギターの入力ジャック、または配線を変更してアンプの入力にそのまま 'プラグイン' する独特な仕様で、元々はMu-Tronの傑作オクターバー、Octave Dividerに内蔵されていたものを単体の 'アタッチメント' として仕上げたもの。わたしはオリジナルの1970年代製を所有しているのですが、このビミョーに 'アッパーオクターヴ' 的なトーンが付加されるのは地味に面白い。さて、そんなリング・モジュレーターの 'ギュイ〜ン' とさせる 'シンセライク' な変調ワザではなく、地味に非整数倍音が生み出す '箱鳴り' に興味を持ったのは、ギタリストの土屋昌巳さんによる雑誌のインタビュー記事がきっかけ。こーいうお話もちょっとした '質感生成' のヒントとして刺激されるのではないでしょうか?。

"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使っています。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に勤めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけれど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リバーブのルーム・エコーを聴かされても、'何だかなあ' となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその '何だかなあ' がある程度補正できるんですよ。"





Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ①
Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ②

完全に '飛び道具' でありながらリング・モジュレーターとファズ、オシレータ発振と 'Traveller' フィルターを組み合わせた本機の魅力は未だ '発見' されておりません。こういうペダルはついつい派手にギュイ〜ンとやりがちで飽きてしまうのですが、地味に原音に対してほんの少しスパイス的に振りかける '質感生成' として耳を傾けてみませんか?日本が誇る偉大なエンジニア、三枝文夫氏が手がけた京王技研(Korg)のSynthesizer Traveller F-1は、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' を単体で搭載したもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏が携わっており、そんな当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったとは・・。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"





Empress Effects Zoia ①
Empress Effects Zoia ②

さて、上の 'フィルター対談' の中でエンジニアの渡部氏が最後にEventide DSP-4000というラック型マルチ・エフェクターで自由にサンプル・レートやビット数を落とすパッチを組めるモジュールが面白いという話をしておりますが、コレ、まさに当時の 'エレクトロニカ' 黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となりました。このDSP-4000は 'Ultra-Harmonizer' の名称から基本はインテリジェント・ピッチシフトを得意とする機器なのですが、色々なモジュールをパッチ供給することで複雑なプロセッシングが可能なこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する'、'加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールといった完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来るのです。当時で大体80万くらいの高級機器ではありましたが 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となりましたねえ。

そんなユーザーの好みに合わせて自由にモジュールの組めるシステムから20年後、いよいよそれのコンパクト版ともいうべきペダルがカナダの工房、Empress Effectsから登場です。各モジュールはカラフルにズラッと並んだ8×5のボタングリッド上に配置し、そこから複数のパラメータへとアクセスします。これらパラメータで制作したパッチはそれぞれひとつのモジュールとしてモジュラーシンセの如く新たにパッチングして、VCO、VCF、VCA、LFOといった 'シンセサイズ' からディレイやモジュレーション、ループ・サンプラーにピッチシフトからビット・クラッシャーなどのエフェクツとして自由に 'デザイン' することが可能。これらパッチは最大64個を記録、保村してSDカードを介してバックアップしながら 'Zoiaユーザーコミュニティ' に参加して複数ユーザーとの共有することが出来ます。







我らが '電気ラッパの師' である近藤等則さんとDJクラッシュのコラボレーションによる1996年の傑作 'Ki-Oku (記憶)'。コレ、いつもの 'コンドー節' ともいうべき派手にエフェクティヴなトーンは鳴りを潜め、マイルス・デイビス的ミュートのトーンを主軸としながら全てに電気的な加工を施しているのがミソなのです。慌てず騒がずジックリと・・この '人工甘味料' 的艶っぽいラッパのトーンを体感して頂きたいですね。ちなみにソロのみならず、DJクラッシュが拾い集めたバックトラックの細かなサンプル全てコンドーさんのフレイズの '再構成' なのが本盤のキモだ!

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