2018年11月3日土曜日

ピート・コージーの機材

わたしはギターを弾かないのですが、いわゆる 'エレクトリック・マイルス' の時期にひとり異彩を放っていた怪人ギタリスト、ピート・コージーの機材については強い関心を持っております。正直、その活動歴の大半がこのわずか3年ちょっとの時期に集約されており、それ以前の地元シカゴでChessやArgo / Cadetレーベルのセッション・ミュージシャンをやっていた頃や、マイルス・デイビス共演と並行してやっていたAACM(創造的音楽のための地位向上協会)とその他、散発的な仕事についてはほとんど分かっておりません。











Morris Mando Mania

現在ではブートレグなどで比較的良好な画質の '放送用動画' がお手軽にYoutubeでチェックすることが出来るのですが、なかなかピート・コージーの '足元' をはっきりと写してくれるものはありません。使用するギターはFenderのStratocasterやTerecaster、ピグスビーアーム付きのGibson Les Pallなど一般的ではありますが、1973年のオーストリアはウィーン公演の動画を見るとVoxのPhantom Ⅻという12弦ギターによるビザールなセレクトが泣かせます。また、この時期のコージーのトレードマーク的存在なのがこちら、日本のモリダイラ楽器のブランドMorrisが少量製作した透明アクリルのピックガード付き木目調のセミアコ、Morris Mando Mania。現在ではEastwood Guitarsという工房からピート・コージーのイメージに当て込んで '復刻' していたようです。



Yamaha PE-200A + TS-110
Yamaha PE-200A + TS-100
Yamaha PE-200A
Yamaha TS-200

その巨漢を上回る後ろに控えたスタックアンプは同年の東京公演以降、Yamahaのエンドースによって用意されたPE-200AとTS110の組み合わせ。これはコージーやレジー・ルーカス始め管楽器群のデイビスやデイヴ・リーブマン、ソニー・フォーチュンに至るまで皆このクリーンなアンプでの音作りに終始します。さて、そんなコージーの機材で最も見えにくいのがテーブルの上と下に置かれているエフェクターでして、基本的にコージーの歪みはアンプではなくエフェクターによって音作りされているようです。ちなみにこのPE-200Aは、一般的なBass、Middle、Trebleの3バンドEQとスプリング・リヴァーブのほか、内蔵のトレモロとエンヴェロープ・フィルター!をそれぞれ切り替えてエクスプレッション・ペダルでコントロール出来るというユニークな仕様。さて、当時の 'スイングジャーナル' 誌1975年来日公演の取材記事を開くと足元のペダル類に関してはこう記載されております。

"初演を待つ東京・新宿厚生年金ホールの舞台では、午後、一番にやってきたロード・マネージャーのクリス・マーフィーが、バンドのサウンド・システムをひとつひとつたん念にチェックしている。なにしろ、7人のミュージシャンたちが演奏に使用するペダル類のアンプへの接続だけでもひと仕事だ。マイルスがトランペットに接続しているペダルは、オハイオ州トレドにあるパワー・インダストリーズ社製の「De Armond」とキング製「Vox-Wah」というワーワー・ペダルの2種。マイルスは今回、マーティンの新しいトランペット(ブルーのメタリック塗装がほどこしてある)を持参したが、マウスピースはGiarnelli Specialと刻印のある古いもの。これは、マイルスが12才(!)のときから使ってきた愛器。このマウス・ピースに無造作にガムテープでピックアップ・マイクがくっつけてあった。ヤマハ・オルガンには、パワー・ペダルとCry Bofyというペダルがついている。ソニー・フォーチュンが使っているペダルは「De Armond」。レジー・ルーカスはモーレイ社製の「Sho-Bud」というペダル。ムトゥーメは「Univox」というリズムボックスにMu-Tron Ⅲという変調器を接続している。ピート・コージーはマエストロ社製のFuzz-Tron、それにPhase 90という変調器、さらにSynthiというアタッシュ・ケースの形をした小型シンセサイザーを用い、テーブルの下に3台のペダルを用意している。ベースのマイケル・ヘンダーソンはマエストロ社製のPhase Shifterを用いている。" (原文ママ)









Forgotten Heros: Pete Cosey
Maestro FZ-1S Fuzz Tone
Maestro FZ-1B Fuzz Tone ①
Maestro FZ-1B Fuzz Tone ②
Maestro FZ-1B Fuzz Tone John Landgraff Modified
Jordan Electronics Model 1000 Boss Tone ①
Jordan Electronics Model 1000 Boss Tone ②
MXR Phase 90

まあ、ジャズ専門誌なのでいくつか表記の怪しいものもあるのですが(苦笑)、レジー・ルーカスの足元はMorleyの巨大なワウペダルとSho-Budのヴォリューム・ペダル、そして他のステージ写真で確認したのですがMXR Phase 90とDallas-Arbiter Fuzz Faceを使っておりました。ムトゥーメが使うリズムボックスは1973年の来日時にデイビスのバックステージへ急遽届けられたもので、多分、新映電気がUnicord社へOEMで生産していたものだと推測されます。そして、ここでコージーの使うFuzz-Tronとは世界初のファズ・ボックス、Maestro Fuzz Toneのことであり、これはシカゴ出身のコージーがMaestroエフェクターを製作していたC.M.I.(Chicago Musical Instruments)との関係を考えると無理のないセレクトと言えるでしょう。ここで問題はFuzz ToneでもFZ-1BとFZ-1Sのどちらだったのか?ということ。FZ-1Bはここでのデモ動画でもお分かりのように、ザ・ローリング・ストーンズ1965年の 'Satisfaction' で印象的なブラスっぽいリフを奏でたFZ-1Aの直系に当たるモデル。FZ-1SはよりSastainを伸ばすことで当時のElectro-Harmonix Big Muffへの対抗機的位置付けなのかな?どちらにしてもファズ特有のジージー&コンプ感が強いですね。そしてリンク先の 'Forgotten Heros: Pete Cosey' によれば、Jordan ElectronicsのBoss Toneというアタッチメント的なファズも使用していたとのこと。Phase 90は現在でもフェイザーの名機として定番のMXR製であり、時期的にはいわゆるスクリプト・ロゴの軽いBud筐体の入った初期のものだと思います。当時のステージ写真を見るとPhase 90は足元ではなく机の上に置いて手でOn/Offして使用していたようですね。さらにテーブルの下に3台のペダルを用意しているとありますが、多分、ワウペダルの他にこれはウィーン公演の動画(1:01!)及びいくつかのステージ写真で一瞬、その足元を写したことから判明したのですが、Musitronicsのエンヴェロープ・フィルターであるMu-Tron Ⅲなのです。











Musitronics Mu-Tron Ⅲ
Vox Clyde McCoy Wah Wah Pedal
Morley Tel-Ray Pedals (Pre-1983)
Halifax Fuzz Wah Z
Hofner Fuzz Wah Z
Halifax Fuzz Wah Z2

さあ、ここまでくると肝心のワウペダルが気になりますが、エンヴェロープ・フィルターの名機であるMu-Tron Ⅲ以外では'Forgotten Heros: Pete Cosey' によればコージーのワウについてこう記されております。

"He Sat behind the table and put his effects - two wahs (a Morley for warm tones, a Halifax for solos, and Sometimes a Vox Clyde McCoy)"

なるほど、コージーは足元に2つのワウを置いていたようで、一つがMorleyの暖かなトーンを持つワウ、そしてワウペダルの名機、Vox Clyde McCoyをたまにスイッチして使っていたそうですけど、彼のリードトーンを司るのがドイツのHalifaxからのマニアックなファズワウ・ペダルだったとは!上記の 'スイングジャーナル' 誌から抜粋したステージ写真で確かにそのHalifaxのペダルを踏んでおりますね。このHalifaxはOEMとして 'Hofner' ブランドでも製造していたようですが、同じドイツ産のSchallerのファズワウ・ペダル同様プラスティック製筐体なのかな?





Maestro FP-1 Fuzz Phazzer
Maestro FP-2 Fuzz Phazzer

個人的には、この人から漂う 'マイナー感' (VoxのPhantomやMaestro Fuzz Tone、Halifaxとか)のせいか、例えばFuzz Toneと同じくMaestroのFuzz Phazzerなどを聴いていると、'アガパン' での蛇がのた打ち回ったようなトーンでコージーが使っていてもおかしくないエグい感じがある。Fuzz Phazzerは実際にコージーが使っていたワケではありませんが、何となくコージーっぽい音色があるってことでここで推薦します。さて、上記した ' スイングジャーナル' 誌のステージ写真に見えるHalifaxの前段に繋いだFuse付き銀メッキの怪しげなボックス・・何なのだろう???どう見てもMaestroには見えないし、銀メッキで斜面型の箱ですがこんなペダルは見たことありません。上のステージ写真ではギターケースで見えませんけど、接続順としてHalifaxの次にMu-Tron Ⅲを繋いでおります。





Maestro Phase Shifter PS-1A + PSFW-2 Foot Switch
Heptode Virtuoso Phase Shifter

ちなみに 'エレクトリック・マイルス' 全盛期の1973年のステージで、レジー・ルーカス、マイケル・ヘンダーソン、そしてデイヴ・リーブマンらの足元に鎮座していたのが世界初のフェイザー、Maestro Phase Shifter PS-1A。トム・オーバーハイムにより設計された本機は大ヒットとなり、後続の小型化したMXR Phase 90やElectro-Harmonix Small Stoneの普及と合わせて '70'sフェイザーの時代' を象徴しました。最近、アプローチする人は少ないけど、この時期のデイヴ・リーブマンが奏でる管楽器のフェイズの効いた 'オルガン・トーン' が凄い好きだなあ。










1973年の4月に加入したコージーがそれまでの10人編成から一挙に7人編成となり、実質的な 'コージーお披露目会' 的様相となった東京公演。いわゆる 'アガパン' の妖艶なギターと比べてもエフェクツ類の少ない素朴なセッティングというか、まだまだ 'ジミヘン度' が足りませんねえ(笑)。この加入当初のコージーのギターに聴ける 'ホーンライク' なフレイズにはジャズ・ギタリストとしての片鱗も垣間見えて、これは同じくジョン・コルトレーンからの影響を公言するもうひとりの怪人ギタリスト、ソニー・シャーロックと同質なものだと思うのです。さらにもうひとり、オーネット・コールマンから 'ハーモロディクス' の薫陶を受けた変態ギタリスト、ジェームズ 'ブラッド' ウルマー。そもそもコールマンが 'Prime Time' 結成に際して最初に声を掛けたのがコージーの '相方' であったレジー・ルーカス。結局はルーカスが同郷のジャマラディーン・タクーマを推薦することで加入することは無かったのですが、しかし、コールマンがバーン・ニックス&チャールズ・エラービーの '2ギター' を見つけられなければコージー&ルーカスの '2ギター' は、'Prime Time' として再出発していたかもしれませんねえ。そんな '2ギター' の絡みでイマイチ聴き取りにくいレジー・ルーカスのファンク・カッティングを堪能出来るのがこちら、1973年11月7日の旧ユーゴスラヴィア、ベオグラード公演の音源をどーぞ。さて、この怪人ギタリストを異様なものにしているアイテムのひとつとして、1971年に英国のEMSが開発したSynthi Aの使用があります。まだまだモノフォニックのアナログ・シンセ黎明期、記憶媒体のない本機をSonyのカセット・レコーダー 'Densuke' と共に用いることで、実に前衛的な 'ライヴ・エレクトロニクス' の効果を生み出しました。1975年の 'スイングジャーナル' 誌でもこう取り上げられております。





EMS Synthesizer

"果たせるかな、マイルスの日本公演に関しては「さすがにスゴい!」から「ウム、どうもあの電化サウンドはわからん」まで賛否両論、巷のファンのうるさいこと。いや、今回のマイルス公演に関しては、評論家の間でも意見はどうやら真っ二つに割れた感じ。ところで今回、マイルス・デイビス七重奏団が日本公演で駆使したアンプ、スピーカー、各楽器の総重量はなんと12トン(前回公演時はわずかに4トン!)。主催者側の読売新聞社が楽器類の運搬に一番苦労したというのも頷ける話だ。その巨大な音響装置から今回送り出されたエレクトリック・サウンドの中でファン、関係者をギョッとさせたのが、ギターのピート・コージーが秘密兵器として持参した 'Synthi' と呼ばれるポータブル・シンセサイザーの威力。ピートはロンドン製だと語っていたが、アタッシュケースほどのこの 'Synthi' は、オルガン的サウンドからフルートやサックスなど各種楽器に近い音を出すほか、ステージ両サイドの花道に設置された計8個の巨大なスピーカーから出る音を、左右チャンネルの使い分けで位相を移動させることができ、聴き手を右往左往させたのも実はこの 'Synthi' の威力だったわけ。ちなみにピートは、ワウワウ3台、変調器、ファズトーンなどを隠し持ってギターと共にそれらを駆使していたわけである。" (原文ママ)





実際その '右往左往ぶり' は、1996年にリマスタリングされた 'Agharta' 完全版の二枚目最後のところ(オリジナル版では割愛されていた部分)で存分に堪能することができます。また1974年の 'Get Up With It' に収録された 'Maiysha' では、ギターを本機の外部入力から通し、Synthi内臓のLFOとスプリング・リヴァーブをかけた奇妙なトレモロの効果を聴くことができますね。









ここでもうひとり。ほとんど '飛び入り' の如くステージに上がりマイルス・デイビス・グループの '公開オーディション' を受けて1年弱、バンド・アンサンブルの拡大に貢献?した若干18歳のフレンチ・ブラジリアン、ドミニク・ゴモン。その彼の記録である1974年3月30日、ニューヨークはクラシックの殿堂 'カーネギー・ホール' でのライヴを収めた 'Dark Magus' は、ゴモンとピート・コージー、レジー・ルーカスの '3ギター' によるほとんど獰猛なピラニアが獲物に喰らい付くようなカオス状態に終始しているのですが、その他、ブートレグでは5月28日のブラジル、サンパウロ公演のものが比較的良好な音源で聴くことが可能。こうやってゴモン単体での音源、動画などを見ると結構タイトかつファンキーなギタリストであることが分かります。ファンカデリックから80年代のマイルス・デイビス・グループを経験したドウェイン 'ブラックバード' マクナイトと似た匂いも感じるなあ。裏を返せばピート・コージーのようなフリーキーの要素は薄いのだけど、多分、デイビスの意図はコージーに足りなかった '妖艶さ' を体得すべくゴモンを 'カンフル剤' として起用したんじゃないかな、と思うのです。もちろん、その効果は翌年の 'アガパン' を聴けば納得して頂けるのではないでしょうか。







とにかくそのメジャーな活動歴も短ければ動画や資料も少ない・・。それでいて一聴すればコイツは何者だ!?とその興味を惹かれずにはいられない稀有な存在、ピート・コージー。未だにギター業界ではジミ・ヘンドリクスの機材やセッティングについて、ああでもない、こうでもないと現代の技術で 'モデリング' したり、個人の情熱でヴィンテージのパーツを見つけては何とか '再現' しようとする市場があるのだから面白いものですね。いつか、この怪人ギタリストに興味を持って追求する人が現れるかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿