2018年11月2日金曜日

一粒のAcid -白昼の幻想 - (再掲)

固定観念の意識という厄介なものを取り去るに当たって、1960年代後半に投入された 'クスリ' の効能というのはいかにデカかったかということ。ある意味 '狂気の季節' であり、この時代を全身で受け止めてしまった人ほど 'あっちの世界' へ行ってしまったか、ほとんど '廃人' として余生をギリギリの状態で甘受しているのだと思われます。1967年にB級映画の帝王、ロジャー・コーマンはピーター・フォンダを主演とする低予算映画 '白昼の幻想' で、このLSDによるドラッグ・カルチャーを視覚的に再現することに挑みました。







当時としては画期的であったろうチープな '追体験' の演出は、それまでロジャー・コーマンがAIPで制作していたB級ホラー映画のノリでLSDの幻覚体験を認識していたこと、そして、これ以後に続く亜流 'ドラッグ映画' の先鞭を付けたきっかけだったとも言えます。音楽を担当したのは、バディ・マイルスやマイク・ブルームフィールドらが参加したジ・エレクトリック・フラッグで、当時、未知の楽器であったMoogシンセサイザーのインストラクターを務めるポール・ビーヴァーもその '幻覚体験' に電子音で一役買いました。このサイケデリック革命が音楽にもたらした影響としては、エレクトリック・ギターやシンセサイザーはもちろん、オーバーダブやマルチ・トラック、テープ編集にエフェクターの特殊効果など、それら '追体験' のための 'ギミック' とレコーディング技術が飛躍的に向上したことです。ある種、ジャマイカのダブに先駆けて起こったものと捉えてもよいでしょうね。







この1969年の 'Joy Ride' は、米国西海岸で活動したBrotherhoodというサイケデリック・ロック・バンドがより実験的な姿勢の別名義であるFriend Soundとしてリリースしたもの。聴き手の '知覚の扉' を刺激しながら、もう、ズブズブの 'ダウナー系' で行ってしまう強烈さですヨ。そしてジェイムズ・クオモを中心とした謎のサイケデリア集団、The Spoils of War。ところどころに挿入される電子音は、初期コンピュータのパンチカードを用いて演算し生成したものということから、案外と現代音楽畑にいた人なのかもしれません。しかし、そのサウンドは電子音+サイケデリック・ロックのザ・ドアーズ風ポップを基調としたもの。そんな同時期のSilver ApplesやFifty Foot Hose、The Free Pop Electronic Conceptなどと近い電子音響を駆使した音作りは、多くのドロップアウトした連中をインディーから大手レコード会社まで、ただ奇妙なものというだけで粗製乱造されました。それまで冴えない活動をしていたR&Bやサーフバンド、機械いじりの好きな売れない現音崩れ、素っ裸で走り回ってるような得体の知れない連中がこぞってこういう '企画もの' に乗っかり出すのです。







'LSDの教祖' としてその布教活動に取り組んだティモシー・リアリー。これは 'セットイン' と呼ばれるLSD服用の為のリラクゼーション導入を促す一枚で、濃密なインド音楽と電子音で被験者を 'Stone' させる1967年の 'Turn On, Tune In, Drop Out'。しかし、上述のFriend Soundやこのリアリー盤も大手メジャー・レーベルであるRCAやMercuryからリリースされていたというから、やっぱりどこか社会全体が壊れていたのかもしれないな・・。そして 'The Minx' という当時のポルノ映画ながら音楽はソフト・ロックのグループ、ザ・サークルが担当し、サントラはImpulse !を設立したボブ・シール主宰のジャズ・レーベルであるFlying Dutchmanからリリースされるという何とも 'フラワーパワー' な時代の一枚。ちなみにこれらサイケデリック・ロックの音源の大半はメジャー・レーベルが現在でも権利を持っているようで、The Freak Sceneの 'Psychedelic Psoul' やC.A.Quintetの 'Trip Thru Hell、'David Stoughton 'Transformer' といった激烈サイケ盤をここでご紹介出来なかったのは残念。Youtubeの方でどーぞ。









このような幻覚の '追体験' は、ケン・キージーが 'Can You Pass The Acid Test ?' を合言葉に主宰する一大イベント 'Acid Test' でストロボや墨流しなどの舞台照明と共に、グレイトフル・デッドが大音量のロックでそれら演出を盛り上げたことから広く普及しました。彼がサイケデリア集団 'Merry Pranksters' と共に主宰した幻覚の追体験をする 'Acid Test' は、まさに音響と照明が錯綜する '意識変革' の場であり、その中でもパッパッと焚かれるストロボライトの幻惑は、グニャグニャした墨流しの変調と対照的なサイケデリアのイメージを増幅させます。そんなストロボライトなのですが、その昔、Electro-Harmonixからいわゆる 'パーティーグッズ' としてEH-9203 Domino Theory Sound Sensitive Light Tubeというのがありました。これは赤い透明チューブの中に15個のLEDが並び、内蔵した小型マイクが音声信号を検出、音の変化に従ってLEDが異なるパターンで点滅するというもの。しかし、その10年以上前に日本のAce Toneから同様のストロボライト・マシーン(大げさ)、Psyche Light PL-125が発売されているんですヨ。時代はまさにサイケデリック全盛であり、本機は電源On/OffとストロボOn/Offのほか、ストロボのスピードを調節するツマミが1つあるシンプルなもの。ええ、'エレハモ' ほど凝った 'ハイテク' なものでは御座いません(笑)。このライトは、ストロボ前面に挿入する赤、青、黄の透明アクリル板フィルターと遠隔で操作できるようにスピード・コントローラーが付属しております。わたしもこの珍品を所有しており、残念ながらキャリングハンドルとアクリル板フィルターは欠品しているもののパッパッパッと眩いばかりにフラッシュの幻覚体験(笑)。そしてそのPsyche Lightの下には以前にご紹介したMulti-Vox EX-100の姿が!しかし 'Inquire for details and prices' と強調されているのを見ると日本から現物が届いておらず、カタログでアナウンスされたものの米国では発売されなかった感じが悲しい。





Honey Psychedelic Machine

とりあえずこのPsyche Light PL-125からは、同時期に日本が世界に誇るエンジニア、三枝文夫氏の手がけた 'マルチ・エフェクター' の元祖Honey Psychedelic Machineと並び、通俗的な流行であった日本の 'サイケ' ブームを反映する一端を垣間見た思いです。しかし、ストロボライトから三半規管を狂わす 'ファズ・モジュレーション' 系エフェクター、'シンナー遊び' や 'ハイミナール錠' だとか、昔の人たちは色々と '飛ぶ' ために苦心していたのですね・・(苦笑)。さて、このようなサイケデリックのイメージといえば、一般的には 'バッドトリップ' に象徴される悪夢のようなおっかない感覚。幻想的ながら人の顔が多重にぼやけたり声がこだましたりグニャリと渦を巻くような変調だったりということで、テープ・エコーや歪んだフィードバック、Psychedelic Machineのような強烈なモジュレーションの効果が現れたのは必然だったと思うのです。しかし、その一方で当初はどこかユーモラスなイメージで捉えられていたことも事実でして、それこそ '多幸感' 的なトリップを経験した人なら上記のイメージが全ておかしな現象に置き換えられていた。そんなトボけたイメージを1960年代後半のエフェクター黎明期に具現化したと思うのがこちら、Gibson / Maestroのマルチ・エフェクター、Rhythm 'n Sound for Guitarを個人的に推薦したい。






Acoustic Control Corporation 260 + 261
Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-1
Gibson / Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-2
Funky Skull / Melvin Jackson (Limelight)

' サイケな時代' を象徴するカラフルなスイッチを備えたRhythm 'n Sound for Guitarは、ファズとオクターバー、3種のトーン・フィルターを備えながらギターのトリガーで鳴らすリズム・ボックスを加えたことで、現在まで異色のユニットとして時代の評価に埋もれたままの存在となっております。1968年登場のG-1は当時のフランク・ザッパがVoxワウペダル(と後2つほど歪み系?エフェクターを確認)やヘッドアンプのAcoustic 260と共にステージで使用しているのが動画で確認されており、多分ザッパは本機内蔵の3種からなる 'Color Tones' に強い関心を示していたのではないでしょうか?そんなザッパのトーンに対するフィルター効果への関心は、そのまま1970年代にOberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200からSystech Harmonic Energizerの探求へと繋がります。ちなみに当初はMu-Tron Bi-Phaseのように筐体前面に被せてセッティングをメモするチートシートが付属しておりました。そんなG-1も翌69年にはG-2として大々的にヴァージョンアップし、当時のHoney Psychedelic Machineなどと並びエフェクター黎明期としては先駆的機能が内蔵されます。G-2のユーザーとしてはエディ・ハリスのグループに在籍したベーシスト、メルヴィン・ジャクソンのLimelightからのアルバム 'Funky Skull' でジャケットにもEchoplexと共に堂々登場。全編で先駆的なワウを活かした変態的ウッドベースを奏でております(ブログでは視聴制限のためYoutubeでどーぞ)。



また、ダブの巨匠であるリー・ペリーの 'Blackark' スタジオにもKorg Mini Pops 3リズムボックスのOEM、Uni-Vox SR-55と一緒にこのG-2が置いてありましたね。これは、ジ・アップセッターズに演奏させたというよりもペリーのミキシングボードの隣りでSR-55の上に乗せられていたので、このリズムボックスをトリガーにして鳴らしていたのかな?しかし、無機質に何の感情もなく繰り返すリズムボックスの響きってサイケだよなあ。スライがぶっ飛んだ状態でスイッチを入れて新たなファンクを創造したのも納得。





そんな初代G-1ではBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載し、この時代では先駆だったオクターバーのString Bass、Fuzz Bassの2種、そして 'ワウ半踏み' 風なトーン・フィルターのColor Tonesを3種という仕様。続くG-2ではパーカッションからBass Drumを省きオクターバーもString Bassひとつになった代わりにMaestro伝統のFuzz Toneを搭載、Color Tonesも2種に絞られました。そしてトレモロのRepeat Percussionに加えて1969年にして先駆的な機能がもうひとつ搭載されます。



Vox Repeat Percussionに影響を受けたトレモロのEcho Repeatと本機最大の先駆的機能、Wow Wowが登場して本機は 'マルチ・エフェクター' 的色彩が強くなります。そう、コレってエンヴェロープ・フィルターの元祖と言われたMusitronics Mu-Tron Ⅲ(1972年発売)よりずっと早くに実現されたものなのですヨ!むしろ本機以降、MaestroがFilter/Sample Hold FSH-1以前にこの機能だけを単体で発売しなかったのが不思議なくらい。しかし、パーカッションはほとんど冗談みたいな作りなのに、このWow Wowはいわゆる 'なんちゃってワウ風' でもなければ効きが悪いわけでもなく、たった1つのツマミだけでちゃんとピッキングに追従するワウなんですねえ。素晴らしい!



ちなみにパーカッションの音源自体は、当時Maestroが発売していたRhythm Kingというリズムボックスからのものを流用しており、現在の基準で見ればおおよそリアルな音源とは程遠いチープなものです。ちなみにこのRhythm Kingは、あのスライ・ストーンの名盤 '暴動' (There's A Riot Goin' On)で全面的にフィーチュアされるリズムボックスでもあります。単にホテルのラウンジ・バンドとして、オルガン奏者が伴奏に用いていたリズムボックスをこのようなかたちでファンクに応用するとは設計者はもちろん、誰も想像すらしなかったことでしょう。スライ本人はスタジオの片隅に捨て置かれていたコイツを見つけて、ひとりデモ用として都合が良いことから使い出したらしいですけどね。Little Sisterの音源はそんな '暴動' 制作時にスライがプロデュースしたシングル盤のもの。





このいなたい感じ。まさに存在もその音色も 'ビザール' 感満載というか、やはりエフェクター黎明期の製品って日本的に言えば '万博感' とでも言うべきワクワクする感じがあって良いですねえ。実際、そんな夢想は使ってみて 'え、コレだけ?' みたいなハッタリ具合に終始するんですけど・・(苦笑)。実はこのG-2を以前所有していたことがあり、特にパーカッションのトリガーの繊細さと言うか、きちんとスタッカート気味に一定のタッチで入力してやらないと 'ダダッ' みたいな二度打ちするエラーが味わえます。



こちらは、そんな '時代遅れ' にユニゾンで鳴らすだけの使いにくさを現代の '文明の利器' であるループ・サンプラーを駆使して '一人アンサンブル' を展開します。おお、コレは本機のパーカッション内蔵を考えるとむしろ有利というか、ま、やってることは現在の 'Youtuber' 的アプローチではありますが(笑)楽しいですね。ギターの音色はファズにトーン・コントロール2種で変化を付けて、オクターバーはベースにしてエンヴェロープ・フィルターでソロ弾き、マシンガン・トレモロを空間系のディレイの味付けとして合わせてみる・・なるほど。いま、'Youtuber' 向けにMIDI同期の機能も追加して '復刻' したら売れるんじゃないか?未だにMaestroの '復刻' は実現しませんが、'エレハモ' ならようやく時代が我々に追い付いたとか言い出してやるのは間違いない(笑)。









さ、話を戻して、このようなサイケデリックの感覚は瞬く間に世界を駆け巡り、日本はもちろんメキシコやブラジルなどの若者たちを狂喜乱舞させました。また、それまで米国のジャズに憧れていたヨーロッパにもこの流れは一足飛びに波及し、当時、冷戦により分断されていた共産圏の東ドイツから西ドイツに移住し、スウェーデンの地で 'The Mad Rockers & Bloody Rockers' として自由に塗れたロルフとスティーヴのキューン兄弟も '狂気の季節' を経験します。







やはり挙げねばならないファンカデリックの2作目 'Free Your Mind and Your Ass Will  Follow' からタイトル曲と逆再生した 'Eulogy & Light'。Friend Soundやティモシー・リアリー、ファンカデリックの1作目がドロ〜ンとした 'ダウナー系' なら、こちらは瞳孔開きっぱなしの覚醒する 'アッパー系' という感じでしょうか。そして、テキサス・サイケデリックの雄として、現在まで '永遠のアウトサイダー' の如く君臨するメイヨ・トンプソン率いるレッド・クレイヨラ。サイケということでは1967年の大名盤である 'The Parable of Arable Land' を挙げなければならないところですが、ここでは、2作目として予定されながらあまりのダダ的 '実験ぶり' にお蔵となった 'Coconut Hotel' をどーぞ。この荒涼としたテキサスの砂埃舞う中に現れるひなびたホテル、という設定が何ともサイケというか、チープなトレモロの効いたオルガンやハープシコードと共に、こちらも瞳孔開きっぱなしの乾いた覚醒感が迫ってくる怖い感じ・・ヤバイ。







ここまでくるともう '電波系' というか、勝手に宇宙からの電波と交信している状況で、ほぼ廃人状態。間違いなく日常生活を送ることは困難かと思われます・・。1966年にイタリアで結成された '電脳サイケデリア集団' であるMusica Elettronica Viva。現代音楽畑のリチャード・タイテルバウムやフレデリック・ジェフスキ、ジャズのサックス奏者、スティーヴ・レイシーなども参加するなど、まさにヒッピー的な 'コミューン' として機能しました。似たような集団として、ここ日本でも小杉武久氏を中心とするタージ・マハール旅行団というのがありましたね。そしてオーストラリア人ヒッピーとして世界を放浪し、英国でロバート・ワイアットらとソフト・マシーンを結成しながら 'クスリ' で再入国を拒否されたデイヴィッド・アレン。新天地フランスで後に奥さんとなるジリ・スマイスらと結成したのがこのゴング。'コミューン' 的色彩の強い 'プログレ' が特徴の出入りの激しいバンドで、フランク・ザッパやPファンクの向こうを張る 'ラジオ・グノーム・インヴィジブル' (見えない電波の妖精の物語)のストーリーを三部作でぶち上げて人気を得ます。そして、The Blues ProjectでのR-B Electronic Pick-Upで 'アンプリファイ' したフルートによるBinson Echorec 2を駆使した '幻覚の旅'。









サイケデリックの時代というのは、音楽のみならず美術や映画、文学などあらゆる芸術分野へ波及するくらいの意識革命だったと思うのですが、むしろ、そのような '時代の空気' に感染することで、期せずして結果的に 'サイケ' となってしまったものも大量に粗製乱造されました。当時の 'イージー・リスニング' や映画音楽のOSTはもちろん、保守的なジャズの世界にもエレクトロニクスの波が押し寄せることで奇妙な 'ギミック満載' のサイケデリック作品が続々登場。当時の 'イージー・リスニング' 界を代表する101人のオーケストラからなる101 Stringsは、まさにそのような 'Space Odyssey' を締め括る1969年にこんな 'ギミック満載' なサイケデリック作品を作り上げてしまいました。また、ハービー・マンのラテン・ジャズで賑やかに踊らせていたデイヴ・パイクが1966年、ライヴ音源を元にぶっ飛んだテープ編集を施して 'サイケ' してしまった 'The Doors of Perception'。その名もザ・ドアーズの '元ネタ' となった '知覚の扉' ということですが、あまりの無節操ぶりにレコード会社が 'お蔵入り' させて4年後にリリースしたというから笑えます。このようなジャズの分野におけるエレクトロニクス導入はあらゆる実験へ勤しむことになるのですが、その中でも三保敬太郎率いる 'Jazz Eleven' の 'こけざる組曲' は最高峰でしょうね。特にこの '聞かざる' のファンクなビートとワウ、ハープシコードや女声コーラスの 'サイケ' な音色が渾然一体となって、3:28〜のグルグルと三半規管を狂わせるような強烈なパンニングの嵐。ぜひデイヴ・パイク共々ヘッドフォンで体感して頂きたい!もう完全にトリップしますヨ、これは。





そんな '狂気の季節' から50年以上経った現在、まだまだサイケデリックの神話は社会のあちこちで大きく口を開いて待ち構えております。皆さま、絶対に興味本位で手を出してはいけません。これらはイメージの副産物であり、創造することが決して大きくなったり小さくなったりするワケではありません。もう一度言います。幻覚もいつかは覚めるのです。

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