2018年5月3日木曜日

5月の '質感' 実験室

いやあ、先月までの花粉症は本当にキツかった・・。そんな過酷な季節からいよいよ風薫る5月の連休真っ只中、バッグひとつでどっかに旅行へ出かけても良いし、ただ、時間を忘れて一日好きなことに没頭するってのも楽しみ方のひとつ。ええ、いくつか箱にしまいっ放しだったペダルを目の前に休みの一日を潰そうという算段です。



そんな、相変わらずチマチマとやっている 'アンプリファイ' の実験なのですが、その中でもフィルターというものの奥深さというか、管楽器で探求するのに最適なエフェクターはないんじゃないかな、と思っております。コレ、単純に入力の感度に応じてワウのかかるエンヴェロープ・フィルターの限定的効果だけじゃなく、いわゆる質感生成においてソロのダイナミズム演出に 'ハマる' とトーン・コントロール以上の効果大!裏を返せば、製品によってはどうやっても管楽器の帯域と合わず大した効果を発揮しない 'ハズレ' もあるので、まさに 'トライ&エラー' で挑むほかありません。エレクトリック・ギターとは違い、管楽器による 'アンプリファイ' って意外に使えるエフェクツは少ないと思うのだけど(特に '歪み系' は厳しい)、その中でもこのフィルター系ってのは各製品ごとの色、クセ、幅などの個性に溢れており、個人的にこれからエフェクターにハマってみたい奏者は真っ先に手を出して頂きたいですね。絶対にひとつだけでは満足しないというか、色々と探求するほど面白いくらいに管楽器のトーンの質感を変えることが出来ますヨ。ここではエンヴェロープ・フィルターほど限定的じゃなく、EQのように地味でもなく、まさに 'フィルタリング' というほかないビミョーな変化に耳を傾けてみたい。そんな '質感生成' に特化したペダルを風薫る5月の陽気に乗ってお届けしましょう。





Filters Collection
Moog Moogerfooger MF-101 Lowpass Filter
Korg VCF Synthepedal FK-1

こういうものに特化した製品というと現在では、コンパクト・エフェクターよりDJ用エフェクターで非常に大きな需要と市場があり、単調な ' 4つ打ち' やブレイクビーツのループによる質感生成と盛り上げの演出でよく使われております。これらは基本的にラインレベルの機器なのでギター用の 'コンパクト' と混ぜて使うとなれば 'インピーダンス・マッチング' を取る必要がありますけど、モーグ博士が '置き土産' として設計したMoogerfooger MF-101 Lowpass Filterの登場でDJ、キーボーディスト、ギタリストやベーシストなど幅広い層へ普及するきっかけとなりました。この手のシンセサイザーにおけるVCFを抜き出した製品としては、1970年代に登場したKorg VCF FK-1あたりがそのルーツと言って良いでしょうね。伝説の名機、Shin-ei Uni-Vibeを設計した現Korg監査役の三枝文夫氏が手掛けた本機は、Korgシンセサイズの原点としてMini Korg 700にも搭載されたフィルター 'Traveller' を抜き出し、Uni-Vibe同様のフット・コントローラーでワウペダルとは一味違う '質感' を生成します。









Moog Three Band Parametric Equalizer
Maestro Parametric Filter MPF-1 ①
Maestro Parametric Filter MPF-1 ②
Moog Minifooger MF-Drive
Stone Deaf Fx

この 'Traveller' に象徴的なフィルターの地味な効果は、当時、Mu-Tron Ⅲに代表される 'オートワウ' に比べていまいちウケは良くなかったんじゃないか、と想像します。しかし、1990年代以降のサンプラーを中心とした 'ベッドルーム・テクノ' の隆盛で、そのビミョーな質感生成の 'うま味' に気付いた人たち、特にDJがそれまでの価値観を引っくり返しました。彼らはレコードだろうがアナログシンセであろうがPCM音源であろうが、1980年代のデジタルが持つ 'ハイファイ' に対し、何がしかの機器を通すことで変化する '汚れ感' をもって 'ローファイ' の美学を提示。そんな中で引っ張り出してきたのがMoog1970年代のラック機器、Three Band Parametric EQ。一応3バンドのEQとなっておりますけど、ほとんどVCF並みのエグい帯域変化とただ通すだけで 'ぶっとい感じ' を生み、Moogシンセは買えないけどMoogの質感が欲しいという層にウケて中古市場でも高騰。また、ステレオの '2ミックス' 音源用に2台購入するも、あまりの個体差で左右のキャリブレーションの違いから揃えるのが難しかったというのはいかにもアナログらしい話です。さて、MaestroのParametric Filterは、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することとなります。このMPF-1もまさにそんなMoogの設計思想がコンパクトに反映された一台で、やはり1990年代以降の '質感世代' に再評価されましたね。とにかく何でも通してみる・・ジャリジャリと荒い感じとなったり、'ハイ落ち' する代わりに太い低域が強調されたりすれば、それはもう四畳半の '秘密兵器' として 'ブラックボックス化' するのです。後にMoogはこれを '歪み系' のエフェクターに特化したMinifooger MF Driveとして蘇らせましたが、英国の工房、Stone Deaf FxからもPDF-2として登場。MPF-1やMF Driveがあくまで '歪み + VCF' の構成なのに対し、PDF-2は 'Clean' と 'Dirty' の2つのチャンネルで切り替えて使うことができます。おお、便利〜。





Oberheim Electronics Ring Modulator (Prototype)
Maestro Ring Modulator RM-1A
Maestro Ring Modulator RM-1B
Eva Denshi Ring Modulator

この辺りの '歪み' 込みの質感生成としては、リング・モジュレーターというのも使い方によっては効果的だったりします。一般的にはフリケンシーをピッチ・シフトして 'ギュイ〜ン' と変調させるのがお馴染みですけど、原音を軸にうっすらと狂った倍音を付加していく感じでスパイス的に 'ふりかけて' みる。原音とエフェクト音をミックスできる 'ループ・ブレンダー' (Xotic X-BlenderやUmbrella Company Fusion Blenderなど)に入れて使うと良いのですが、さらにリヴァーブの後ろに繋いで 'アンビエンス' がビミョーに濁り出すという使い方も面白い。今やリング・モジュレーターは色々な製品がありますけど、個人的には大阪の工房、Eva電子さんが特注オーダーしているというMaestro Ring Modulatorの 'クローン' に興味ありますねえ。







Metasonix
Metasonix TS-21 Hellfire Modulator Review
Metasonix TS-22 Pentode Filterbank Review

そんなリング変調に象徴される '歪みっぽい' 質感の生成というか、完全に元の音を破壊してしまう機器として、ちょうど2000年頃に米国の真空管を得意とする工房、Metasonixから2種のラック型エフェクターが発売されました。当時、破壊的な変調具合でヒットしていたSherman Filterbankに比べるとその荒々しいガレージ臭たっぷりの '面構え' はワクワクさせてくれますが、リンク先レビューにある通りとにかくそのハンドリングに手間取る '想定外' のシロモノ。この機能をよりコンパクトにした廉価版、'Vacuum-Tube' シリーズのTM-1 Waveshaper / Ring ModulatorやTM-2 Dual Bandpass Filterでもその扱いにくい印象は変わりません。現在ではすっかり 'ユーロラック' モジュラーシンセのモジュール製作でその名を知られるMetasonixですが、その会社黎明期にはこんな意味不明なヤツを製作していたのだから面白いものです。



Metasonix KV-100 The Assblaster

そのMetasonixからこれらを統合したような真空管 'ギターシンセ' として登場したのがこちら、KV-100 The AssBlaster。このVCFやVCAを真空管と共に飽和させてしまったような '歪み' 感って、実はシンセとエフェクターの狭間で未だ探求され尽くされていない '分野' じゃないかと思います。過去、シンセとファズを組み合わせた '飛び道具' は結構市場に現れましたけど、やはりCVによる音作りにも対応したファズとかディストーションとかオーバードライブとか、今後 'モジュラーシンセ' の流行に乗っかる感じで流行したりして!?







Korg X-911 Guitar Synthesizer
Boss SY-300 Guitar Synthesizer

いわゆる 'ギターシンセ' ってのは管楽器にとってひとつの挑戦です。まあ、本格的なアプローチはAkai Professional EWIやYamaha SXに代表されるウィンド・シンセサイザーの世界が待ち構えているのですが、個人的にはエンヴェロープ・フィルターからオクターバー、モジュレーションを組み合わせた '擬似シンセ' 的アプローチってのが萌えるポイントだったりします(笑)。ちょっとレゾナンスの効いたワウを軸に、何とな〜くこれシンセっぽくない?って無理してる感じがツボというか。わたしは以前、1970年代後半に発売されたKorg X-911を所有しており、この時代の製品としてはトラッキングもまあまあの精度で結構お気に入りでした(取説には管楽器への使用も推奨!)。しかし、このカラフルなタクト・スイッチの耐久性が低く、いくつか反応が悪くなり始めた時点で泣く泣く手放し・・。このX-911以外では過去、Electro-Harmonix Micro Synthesizerのような '擬似シンセ' を試してみましたけど、一方で、近藤等則さんが現在使用中のBoss SY-300とか触ったら、絶対に音作りで迷い込むこと間違いない・・。しかし、'ギターシンセ' 的トーンの面白さって 'ピッチシフト' 的ハーモニーの合成より、入力のタッチセンスに追従するフィルター・スウィープの '質感' 生成にある気がしております(地味なんで見過ごされがちなんだけど)。









Sherman Filterbank 2
Electro-Harmonix Stereo Talking Machine
Subdecay Vocawah
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ

この辺のフィルタースウィープの '番外編' として、いわゆる 'フォルマント生成' に特化したヴォイス・フィルター、トーキング・ワウといったものをご紹介。このようなエフェクターと 'ヴォイス' の関係を探る上では、そのエフェクター黎明期から存在していた原始的なエフェクター、通称 'マウスワウ'、正式にはトーク・ボックスとかトーキング・モジュレーターと呼ばれるものがあります。その構造はギターやキーボードからの出力がホースを通して口に運ばれ、それを頭蓋骨で骨振動させながら口腔内を開閉することでフィルターの役割を果たすもの。ただ、こういった実際の口腔を用いて 'フィルタリング' させるのは結構大掛かりなセッティングとなってしまうので、ここは疑似的に 'ソレっぽい' 効果の出せるフィルターに登場して頂きましょう。このバンドパス帯域で上下をすっぱりとカットした 'フォルマント' の質感は、あらゆる音源に対してユニークな効果を発揮します。そして、Sherman以前の単体型 'フィルターバンク' としてヒットしたのが英国の工房、Analogue SystemsのFilterbank FB3 Mk.Ⅱ。当時、代理店では '通すだけでMoogの質感' というキャッチコピーが付けられておりましたが、なるほど、確かにどんな音源を通してもぶっとくて粘っこい質感は、どこかMoogと共通するアナログな感じがありますね。本機の特徴はモノラルからNotch、Bandpass、Lopass、Hipassを個別、または1+1、2+1にして取り出せる 'パラアウト' にあり、ミックスダウンなどで位相を操作する空間合成の音作りにも威力を発揮することです。上の動画ではライン入力とマイク入力の切り替え機能を利用して、いわゆる 'ヴォコーダー' 風セッティングにしたもの。残念なのはLFOがブツ切りするほど切れ味鋭くないところですが、そこは外部CVから対応してくれ、ということなのでしょうか?





Triode Pedals Leviathan ①
Triode Pedals Leviathan ②
Dreadbox Epsilon - Distortion Envelope Filter

さて、こちらは米国メリーランド州ボルチモアで製作する工房、Triode Pedalsのリゾナント・フィルターであるLeviathan。アシッド・エッチングした豪華な筐体に緑のLEDとツマミが見事に映えますけど、その中身もハンドメイドならではの '手作り感' あふれるもので期待させてくれます。いわゆるエンヴェロープ・フィルターの大半がリズミックにワウをかけるものばかりで、ゆったりとフィルターがスウィープするような音作りに特化したものというのは、コンパクト・エフェクターとしては案外と多くないですね。そんな中でもこのLeviathanは、実に多彩な音作りに応えてくれるものと踏んで購入、その昔、Lovetone Meatballで渋い音作りしていた頃を思い出しました(MeatballでLFOモジュレーションは出ませんけど)。コンセプトとしてはKorg Mr. Multi FK-2の現代版といった感じで、エンヴェロープ・フィルターからエクスプレッション・ペダルまで対応しているとのことですが、そのちょっと分かりにくいパラメータの数々を取説でちゃんと確認してみると・・。

●Song
コントロールはフィルターのカットオフ周波数を設定します。クラシックなフィルタースウィープを作ることが出来ます。
●Feed
コントロールを調整すれば、レゾナンスフィードバックをコントロールしてエフェクトのかかりを最小から発振まで設定可能。
●↑/↓の3段階切り替えトグルスイッチ
上から順にハイパス、バンドパス、ローパスフィルターの設定です。
LFOセクションはSongコントロールの後に設置されます。ChurnコントロールはLFOスピード、WakeコントロールはLFOの深さを調整します。LFOをフルレンジでオペレートするには、Songを中央に設定し、Feed、Wakeを最大または最小に設定します。
●'Wake' と 'Churn' ツマミ間のトグルスイッチ
LFOの波形を三角波と短形波から選択できます。
●エクスプレッション・ペダル端子とDC端子間にあるトグルスイッチ
LFOのスピードレンジとレンジスイッチです。上側のポジションでFast、下側のポジションでSlowのセッティングとなります。

このようなコンパクト・タイプのフィルターでここまで幅広い音作りに対応したものとしては、ギリシャのDreadbox Epsilonにも共通するのですが、やはり、多彩なLFOの設定に単なる 'オートワウ' とは違うフィルター専用機ならではの特徴がよく現れておりますね。ちなみにこの2機種、いわゆるエンヴェロープ・フィルターのイメージで購入してしまうとかなり残念というか、ほとんどその要求には応えてくれません(苦笑)。フツーに単体の 'オートワウ' として用意されているものを使った方が満足できると思われます。こういうところからもかなりマニアック& '質感' の生成に特化したのがこの 'フィルター・スウィープ' の効果なのです。







Ibanez LF7 Lo Fi
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky ①
Z.vex Effects Instant Lo-Fi Junky ②

楽器や音声などを加工する上で、エフェクターの中でも1990年代以降の新たな価値観に触発された一風変わったものが、Ibanezの 'Tone-Lok' シリーズの一台、LF7 Lo Fiです。その名の如く 'ローファイ' な質感にしてくれるもので、電話ヴォイス、AMラジオ・トーンなどの 'バンドパス' 帯域に特徴のある荒れた質感と言ったらいいでしょうか。そもそもは 'オルタナ・ロック' やヒップ・ホップにおけるロービットなサンプラーの荒れた質感を指す言葉として、1980年代のデジタル中心な 'ハイファイ' に対する価値観として共有されました。それはヴィンテージ・エフェクター再評価などもそうなのですが、むしろ、ターンテーブルからサンプラーなどのデジタル機器に取り込むことで、それまで気にも留めていなかった 'ノイズ' が音楽の重要な要素として、そのまま 'エフェクト' の如く切り取られたことに意味があったワケです。このLF7はギターのほかドラムマシン、ヴォーカルのマイクなど3つのインピーダンスに対応した切り替えスイッチを備えており、Drive、Lo Cut、Hi Cut、Levelの4つのツマミで音作りをしていきます。一応、ギタリストからDJまで幅広く使ってもらうことを想定していたようですが、結局はギタリストにはイマイチその価値観が伝わらず、DJにはそもそもこの製品の存在が知られることがなかったことで、現在でも他の追随を許さない '迷機' としてのポジションに甘んじております。また、このような 'ローファイ' な質感をアナログ・レコードのチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものとして、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junkyは早くからそのユニークな効果を市場に認知させました。特に真ん中の 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな5月の風と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。







Chase Bliss Audio
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ①
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ②

そして現在の注目株Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱの登場。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Mk.Ⅱのアナログによる古臭い質感をデジタルでコントロールするという、'ハイブリッド' かつ緻密な音作りに感嘆して頂きたい。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面に備えられた 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。またタップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。唯一の難点は、この工房の製品はどれもお高いってこと・・。





Penny Pedals Radio Deluxe Lo Fi Filter

こちらのPenny Pedalsから登場したRadio Deluxe Lo Fi Filterもヒジョーに良い感じ。こういった 'ラジオ・ヴォイス' というのはグラフィックEQでも作れるのですが、やはりソレに特化した単体機は音の狙いが分かっていて使いやすそうですね。管楽器の場合だとこの手の 'ローファイ' ものは、前にコンプレッサーなどでダイナミックレンジを抑えておいた方がよりかかりが分かると思います。





JHS Pedals Colour Box
Elektron Analog Heat HFX-1

さて、スタジオ・レコーディングにおけるアウトボードの技術の究極と言えるものが、永らく音響機器界の伝説的存在として語り継がれるRupert Neveのサウンドでしょう。特にNeveの手がけたミキシング・コンソールはその太い '質感' に定評があり、このコンソールをバラしてプリアンプ、EQなどを 'チャンネル・ストリップ' にするエンジニア必携のアイテムとなっております。この '質感' をコンパクト・エフェクター・サイズにしてしまったのが近年その名を聞くことの多いJHS PedalsのColour Box。構成はプリアンプ + EQといった感じながら、その可変具合はクリーンからそれこそファズっぽい歪みに至るまで加工することが可能で、動画でのヴォーカルのエフェクティヴな処理に驚かされます。なお入力はフォンとXLRの兼用なコンボ端子となっており、そのまま管楽器用マイクから入力するプリアンプにもなりますので是非ともお試しあれ。一方、スウェーデンのテクノ専門機器として有名なElektronから単体のマルチ・エフェクツ、Analog Heat HFX-1をヴォイスの '質感' 生成に試してみるという一風変わったもの。動画はElektron始めテクノ・ガジェットのパフォーマンス、レビューで人気のYoutuber、Cuckooさんですが、この適度にサチュレートしながらフィルタリングする感じは管楽器でも効果的ですねえ。このAnalog Heatは現在ElektronがプッシュしているDAWのプラグインと連携した 'Overbridge' にも対応しており、マイク、本機、PCだけで多様なパフォーマンスを可能とします。







Industrialectric
Industrialectric Echo Degrader

そんな 'ローファイ' の質感を異常なまでに突き詰めているのがデジタル・ディレイの分野。いわゆる 'デジカメ' に象徴される、キメの細かい画素数の製品を毎年 'アップデート' している一方で、すでに古びてしまったビットレートの荒い質感から取り出してくるのは、そんなデジタルのエラーする 'なまり方' の心地よさだったりします。エフェクター業界において今や群雄割拠の賑わいを見せるカナダですが、そこから新たに登場した工房、Industrialectricの 'ローファイ・ディレイ' であるEcho Degrader。おお、これはかなりの 'Lo Fi' というか 'Garbage' というか、もはや個性的なひとつの '楽器' と言っていいくらい主張しますねえ。特に本機の名称となっている 'Degrade' ツマミを回すことで、よく 'ローファイ・ディレイ' で用いられる 'テープを燃やしたような' バリバリ、ブチブチというノイズを付加してくれます。ちょっと取説を開いてみれば・・そこには本機ならではのユニークなツマミ、スイッチ類が並んでおり興味津々。

⚫︎Tone / Threshold
サウンド全体のトーンと、オシレーションのスレッショルド、さらに多くのパラメータと合わせて設定することで様々な効果を作れます。
⚫︎Degrade
ディレイに入るシグナルをカットし、壊れたテープマシンのようなトーンやコムフィルターをかけたディレイなどのサウンドを作ります。
⚫︎Tape Stability
テープが揺れるようなモジュレーションをかけたり、より強力な設定ができます。
⚫︎Tape Inputスイッチ
シグナルのインプットッレベルを選択します。Tape Stabilityの設定により違った挙動を示すことがあります。
⚫︎Tape Fidelityスイッチ
ダウンポジションではテープノイズが最大となり、アップポジションではリピートが高周波のみとなり、よりローファイでノイジーなトーンとなります。

なるほど〜。また2つあるフットスイッチのひとつがモメンタリースイッチとなり、キルスタッターやトレイル、オシレーション、モジュレーションのスイッチなど、様々な設定に応じて作動させることできるとのこと。



(Recovery) Hand-Wired Effects
Recovery Effects Viktrolux

こちらもEcho Degrader同様、いわゆる 'ローファイ' に特化したディレイ/ヴィブラートの変異系なのですが、相当にヘンチクリンな効果を生成しますねえ。米国ワシントン州シアトルでGraig Markel氏により手がけるこの工房は、Bad ComradeやCutting Room Floorなどの 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターで一躍市場にその存在を認知させました。この極端な 'ピッチ・ヴィブラート' はMid-Fi ElectronicsのCrari(Not)やDeluxe Pitch Pirateなどを彷彿とさせますが、本機もまた、いくつか他で見かけない独自の表記満載なので取説を見てましょうか。

●Time
ディレイタイムを調整します。
●Blend
エフェクトシグナルとクリーンシグナルのバランスを調整します。
●Volume
全体の音量を調整します。
●Shape
'Flutter' の波形をコントロールします。三角波から短形波まで可変できます。
●Flutter
テープフラッターのスピードを調整します。
●Stabilitty
'Flutter' のOn/Offを切り替えます。
●Repetition
ディレイのリピートをワンショットとマルチプルで切り替えます。

このViktroluxのもうひとつの特徴はディレイタイムに対してCV(電圧制御)でコントロールできることでして、動画ではアナログシンセからのLFOやゲート信号と同期、奇妙なシーケンス的フレイズを生成することができます。おお、この辺りにも 'モジュラーシンセ' を意識した現在のシーンの傾向が伺える、と思っていたら、すでに 'ユーロラック' のモジュール製作も始めておりました。







Seppuku Fx Memory Loss

そしてオーストラリアから最高(最低?)の 'Garbage' な 'ローファイ・ディレイ' であるMemory Loss。縦型から横型になったと思ったらツマミが増えたり減ったり、スイッチやボタンに変更されたりとひとつとして同じものがない・・。シーズンごと、というより毎月製作する度に設計者の気分?でちょいちょい仕様変更されるその姿は、もう、ある種の 'アート作品' というか、ディレイという '既製品' のキャンバスの中でマルセル・デュシャン的 'レディ・メイド' の実践をしているのか?とさえ言いたくなってくる(笑)。どれがオリジナルなのか、どれが完成形なのかどーでもいい、見る人、使う人の五感に訴えかけてくるだけでもう十分でしょう。



Blackout Effectors Whetstone Phaser V2

こちらは、今から10年ほど前に日本でも発売されたBlackout EffectorsのWhetstone Phaser。アナログ回路のフェイザーながらヴィブラート、エンヴェロープをスィープさせるPadからリング・モジュレーション、そしてFMラジオ・トーンともいうべきFixまで実に多彩(変態?)な効果を発揮することで、わたしも当時入手しました。いま、このBlackoutの製品はほとんど日本の市場で見かけなくなり、わたしも金欠で本機を手放してしまったことを未だに後悔しております。ここで特筆すべきはジャリッとした質感が魅力のリング変調からFixモード(動画3:07〜4:20)。わたしもメインのフェイザーよりこのFixモードが気になって購入したくらいですから(苦笑)。





Bastl Instruments Thyme ①
Bastl Instruments Thyme ②

こんなフィルターからディレイ、モジュレーションの効果を統合して、デジタルならではの '質感' 生成に特化してしまったのがこちら、チェコ共和国のBastl Instruments Thyme。いわゆる 'サーキット・ベンディング' 的なガジェットからモジュラーシンセまで幅広く製作してきたBastlの本格的なデスクトップ型マルチ・エフェクツの本機は、明らかに 'ユーロラック' モジュラーシンセからフィードバックしてきた技術を 'エフェクター化' してきたと言って良いでしょう。そんな謎めいた仕様は以下、こんな感じ。

●ラインからギター入力までの幅広い入力ゲイン(〜+20dB)
●Tape Speed、Delay Coarse & Fine、Feedback、Filter、extra heads Spacing and Levels、Dry/Wet Mix and Volumeからなる9つのパラメータ
●各パラメータはRobotモードからモジュレーション可能
●各RobotモードはLFO、エンヴェロープ・フォロワー、外部CVのパワフルなモジュレーション・ソースを持つ
●Freezeボタンはシグナル・フローを再構築してテープループ効果を生成
●タップテンポ
●インターナルまたは外部クロックからディレイを同期
●8プリセット × 8バンク(合計64プリセット)
●32ステップ・シーケンサー&4パターン・シーケンスのプリセット
●モノ&TRSステレオの入力切替
●ステレオ出力&ヘッドフォン出力
●MIDI入出力
●アナログ・クロック入力
●CV入力(0〜5V) V/octでテープ・スピードとディレイタイムを可変
●外部フットスイッチによるOn/Off可能



Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

Bastle Instrumentsはずーっとオモチャっぽい 'ガジェット' ばかり作っている工房だと思っておりましたが・・これはちょっと無視できない豪華さ、ですねえ。そしてStrymon Decoに象徴される多機能なアナログとデジタルの 'ハイブリッド'・・今や '質感' の生成はアナログ回路の専売特許ではなく、プラグイン・エフェクトからもたらされるデジタルのDSPで色々と操作をする時代ですヨ。





Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation ①
Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation ②
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Maestro Filter Sample / Hold FSH-1
Systech Harmonic Energizer

さて、Sherman Filterbankは飽きることのない多様性でもの凄いし、わたしが去年の暮れに手に入れたLudwig Phase Ⅱ Synthesizerも最高だった・・しかし、究極の '一品' 的フィルターということならやはりコイツでしょうか。コンパクト・エフェクターというにはあまりにデカイですけど、フランク・ザッパがギターに内蔵してまで愛用したカスタムメイドのフィルターをザッパのギターを手がけたPerformance Guitarが蘇らせてしまったもの。オーダーしたのは息子のドゥイージル・ザッパで動画のデモも彼本人によるものです。エフェクターという市場においてジミ・ヘンドリクスの果たした役割は、まさに現在進行形で大きな存在として君臨しておりますが、フランク・ザッパがフィルターに対して見せていた偏執的 'こだわり' もまた、ひとつの大きな市場を生み出していることは間違いありません。そんなザッパのユニークな '作曲・指揮' に大きな力を与えるフィルター群は、そのままMaestro Filter Sample/Hold FSH-1とOberheim VCF-200、Systech Harmonic Energeizerといったマニアックなペダルに光を当て再評価、数多くの 'クローン' 登場を促します。まあ、こんな珍しい一品もあるということでご紹介。





最近、この手の 'ガジェット' な音作りに少しづつですが '女子力' が湧き出してきたのは嬉しい限り。いや、こういうのってどーしても男性的 'コダワリ' でもってチマチマやっているイメージ強いですから、ね(苦笑)。このLAで活動するSasami Ashworthさんのような複数ペダルの組み合わせでシンプルにエグい効果を得るやり方から、一気に 'ユーロラック' モジュラーシンセのセットを組んでパッチングするKaitlyn Aurelia-Smithさんの凝った音作りに至るまで、そのアプローチは千差万別。とにかく興奮させ、奇妙に面白いサウンドが生成できるのならすべて 'アリ' なのです。








Bruno Spoerri Interview

話は変わり、こんな実験好きの 'マッドサイエンティスト' 的存在のひとりとして、スイスのジャズ・サックス奏者にして同地のエレクトロニクス・ミュージックの御大ともいうべきブルーノ・スポエリさんをご紹介。わたしがこの人の存在を知ったのは1970年、プログレに積極的だったレーベルDeramからジャズ・ロック・エクスペリエンスの一員として同郷のラッパ吹き、ハンス・ケネルと参加した '企画もの' 的ジャズ・ロック盤 'J.R.E.' を聴いたことでした。フロントのホーン2人はConn Multi-Viderで 'アンプリファイ' しているのですが、同時期には日本の大阪万博でスイス館のためにThe Metronome Quintetとして来日、日本コロンビアでこの7インチ 'EXPO Blues' を吹き込んでおります。おお、Multi-Viderのネロ〜ンとした電気サックスの音色がたまらない・・。そんな頃の思い出を '5つの質問' としてネット上のインタビューでこう答えております。

- また、1970年代にあなたは電化したサックスで実験されましたよね。あなたのサックスを電化するにあたり用いたプロセスはどのようなものでしょう?

- ブルーノ
サックス奏者でありジャズのインプロヴァイザーでもあるわたしは、いつもキーボード以外のやり方で演奏することを探していました。1967年にわたしはSelmer Varitoneを試す機会を得たのですが、しかし(それはあまりに高価だった為)、わたしはConn multi-Viderを、その後にはHammondのCondorへ切り替えて使いました。特にわたしは多くのコンサートでMulti-Viderを使いましたね(1969年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで私たちのジャズ・ロック・グループが使用し、そこでエディ・ハリスにも会いました)。1972年にわたしは、EMSのPitch to Voltageコンバーターをサックスと共に用いてコンサートをしました(VCS 3による3パートのハーモニーやカウンター・メロディと一緒に)。そして、1975年にわたしはLyriconの広告を見て直ちにそれを注文したのです。



EMS Pitch to Voltage Converter ①
EMS Pitch to Voltage Converter ②
Korg MS-03 Signal Processor
Moog MP-201 Multi-Pedal

ここでスポエリさんが述べるPitch-to Voltageコンバーターとは、アナログ・シンセサイザーでお馴染みの 'CV/Gate' による電圧制御を外部のギター、管楽器などから音程(ピッチ)による変換をしてくれるもの。 このEMSの1Uラック型のほか、KorgからもアナログシンセMS-20に内蔵されていたものを単体機したMS-03がありました。現行機ではMoogから 'Moogerfooger' シリーズとの組み合わせで用いるCV/Gate、MIDI対応のMP-201がありますが、Rolandのギターシンセ、SY-300内蔵のコンバーターなどはかなりの精度、低レイテンシーによる追従性を実現しており・・もはや 'ギターシンセ' の発音については過去のものとなりつつあるのかもしれません。







そんな 'マッド・サイエンティスト' のスポエリさんは、現在もゆる〜い感じのままモダン・ジャズから前衛的なライヴ・エレクトロニクスに至るまでツマミやスイッチを触り、元気にサックスを吹いているという・・憧れるなあ、こういう幅の広い生き方。ちなみに最後の動画冒頭、これ、Lyliconからの出力をElectro-Harmonixのトークボックス、Golden Throatからトランペットのリードパイプを共鳴管にして鳴らしているのでは!?ワウワウ・ミュートと電化したトーンとの折衷的アプローチが面白いですねえ。そして・・やっぱり究極の 'エフェクツ' はEMSだよなあ(羨)。

さあ、5月の 'ゴールデンウィーク' もいよいよ後半。これから本格的な夏へと向かっていくこの時期は、まさに '永遠の休日' であり '5月病' という名のドロップアウトへと多くの若者を誘います(笑)。いや、皆さま、気持ちだけは 'ドロップアウト' させて何かに没頭しながら、この眩しい季節の '誘惑' を乗り越えて下さいませ。

0 件のコメント:

コメントを投稿