2017年11月5日日曜日

欲望する機械 - 'グリッチ' の制圧 -

コンパクト・エフェクター界 '最後の砦' というのは大げさ過ぎますが、ここ近年市場でその分野を賑わせているのがこの 'グリッチ/スタッター' 系のエフェクター。以前に第一弾ともいうべき '欲望する機械 - 'グリッチ' の反乱 -' で取り上げたのは、Masf PedalsのPossessedとRaptio、英国のmwfx Judder、Red Panda Particle、S3N Super FlutterとMicro Flutter、Butterfly Fx RARC(Round And Round Clock)などなど。





Masf Pedals Possessed
Masf Pedals Raptio
Catalinbread Csidman
Malekko Charlie Foxtrot

他に ''ジャンク' な生成装置作成法' でご紹介したCatalinbread CsidmanとMalekko Charlie Foxtrotもあり、おお、結構各社から出揃っているという感じですね。しかし、個人のデジタルにおけるプログラミングとソフト開発において以下、さらに面白そうなものが市場を賑わわせております。基本的にはショート・ディレイにおけるHold機能をランダマイズに操作できるという構造のようで、そこにピッチ・シフターを混ぜたり、トレモロからリング・モジュレーション、エンヴェロープ・フィルターを加えてみたり、という各社ならではの 'アイデア' が散りばめられていると言ったらいいでしょうか。ちなみにこのCsidman(コレで 'Discman' と読みます)、わたしもラッパでブチブチ言わせながら愛用中です。











Sunfish Audio Autoscopy
Triode Pedals
Recovery Effects Bad Comrade
Recovery Effects Cutting Room Floor
Mantic Effects Flex Pro

こちらはディレイを特集した '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' で取り上げた国産もの。Masf PedalsをきっかけにしてS3N、Butterfly Fx、Sunfish Audioと 'Maid in Japan' が結構頑張っているのは特筆したいですね。歪み系や空間系などに比べて決して売れるペダルというワケではないだけに、それでも欲しがる 'ニッチな' 層に対して機能と品質、コストがこれら製品の人気を左右すると思います。このAutoscopyと米国メリーランド州ボルチモアで製作している工房、Triode PedalsのHex Delayはそれぞれ基本的なディレイの機能の上に '飛び道具' ワザを乗っけたもの。Hex DelayはFeedbackを上げていくと歪んでいくところに特徴があり、これとディレイ・タイムに相当するCoarseというツマミを操作することで 'オヴァル的グリッチ' を生成します。 そして '歪み' ということでさらに過激なヤツ、米国ワシントン州シアトル在住のGraig Mankel氏主宰によるRecovery EffectsのBad ComradeとCutting Room Floor。そのBad Comradeはディストーションを基本にエコーと 'Gritch' ツマミ、'Stutter' & 'Freeze' スイッチに加えエクスプレッション・ペダルで跳びまくり、Cutting Room Floorはリヴァーブとモジュレーションに 'グリッチ' 機能をてんこ盛りともう何をか言わんや。さて、'歪み' 繋がりでこんなロービットにブチブチと千切れるフィルターの変異系はいかがでしょう?ケースが通常のものを引っくり返して用いているのもユニークなら、6つあるツマミもそれぞれLVL(マスター・ヴォリューム)、Focus(VCOのアタックをPumpノブとリンクして調整)、Pump(Focusノブとリンクしてエンヴェロープの範囲と時間を調整)、Mix(エフェクト音と原音のミックス)、Filter(6種のVCO切り替え)、Rate(フットスイッチ右側でLFOの周波数を調整)、$スイッチ(フィルターで選択されたVCOのディケイを2種から切り替え)、&スイッチ(フィルターで選択されたVCOの範囲を2種から切り替え)と・・ふぅ、取説がないと追い切れないですがかな〜り狂ったサウンドを生成してくれますねえ。











Hologram Electronics Dream Sequence
Hologram Electronics Infinite Jets Resynthesizer
Meris Effects Ottobit Jr.
Bananana Effects
Butterfly Fx RARC (Round And Round Clock)

こちらもディレイを特集した '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' で取り上げたもので、それぞれトレモロの変異系Dream Sequenceとビット・クラッシャーの変異系Ottobit Jr.。そしてHologramの 'ギターシンセ' ともいうべきInfinite Jets Resynthesizer。以前にRed PandaがParticleでこの市場に参入してきた '衝撃' を、今度はこのHologramが担っていくのかもしれません。そうそう、あっという間に売り切れてしまった国産のS3Nと入れ替えというワケではありませんが、大阪(最近、東京に移転したらしい)のガレージ工房であるBananana Effects('バナナ' じゃなく 'バナナナ' です)の '真っ黄色な' ピッチ・シフター/グリッチ・ディレイのMandalaとランダム・アルペジエイターのTararira。このサイズでピカピカに光りながらこの機能・・価格含め素晴らしい快挙ですね。S3Nの製品同様かなり 'ハイファイ' なので、この後に何か汚し系のエフェクターと組み合わせてみたいですが、この辺りは中、高、低域をそれぞれ削るローファイなフィルターを備えたButterfly Fx RARC(Round And Round Clock)の方が有利かも(今や入手は難しいですけど)。







Ezhi & Aka The Blob 2
Ezhi & Aka
Elta Music Devices

海外からも '新規参入組' が続々・・。ロシアのガレージ工房ともいうべきEzhi & Akaは、ほとんどこのような 'ジャンル' に類するペダルばかり少量生産しているのですが、このThe Blob 2、何とも 'ペダル・ジャンキー' を刺激するルックスではありませんか!トラックボールのアイデアをコントローラーに使うとは、なるほど。しかしロシアはその発想やデザイン・センス含め、これからのエフェクター市場における有望株になるのでは、と強く期待しております。できたら表記も読めなくていいから、旧ソビエト製エフェクターよろしくキリル文字表記でお願いしたい!そしていま、わたしの中でグーンとその株が上がっているElta Music Devices!かな〜りKnobsさんの動画に影響受けてますがSDカードのカートリッジ式マルチ・エフェクターのConsole、コレは間違いなく流行る!







Dwarfcraft Devices The Pitch Grinder
Dwarfcraft Devices Wizard of Pitch
Dwarfcraft Devices Super Wizard

比較的早くから 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターにアプローチしていた米国のガレージ工房、Dwarfcraft Devices。初期はホントにガレージ臭丸出しの荒い作りでしたが、ここ最近はかなり洗練されたモデルがラインナップ。このThe Pitch Grinderは 'グリッチ/スタッター' の効果をランダム・アルペジエイターとピッチ・シフトで設定して、それをいかにも 'ローファイ' な質感でまとめあげております。もうひとつの同種なRed Panda Particleの 'ハイファイ' さと比較するとよく分かるハズ。そしてこのThe Pitch Grinderからピッチ・シフトの機能のみ取出し、MixとSpeedのコントロールを付けたのがこのWizard of Pitch。本機のBenderというトグル・スイッチをOnにすることで、ピッチが上昇下降を繰り返すというところにもはやフツーのピッチ・シフターではないというか、さらにその機能強化版、Super Wizardまで作ってしまうのだから・・いやはや。まさにDwarfcraftの 'グリッチ' 三兄弟と呼ぶに相応しいものです。







Red Panda Particle
Red Panda
Lightfoot Labs
Lightfoot Labs Goatkeeper GK.2
Hexe Guitar Electronics reVolver Dx

そして、mwfx JudderやMasf Pedals Possessedと並び 'グリッチ' 界を賑わせたRed Pandaが誇る名機、Particle。ショート・ディレイの 'Hold' 機能とピッチ・シフトを軸にここまで高品質、かつ音楽的に表現した製品を他に知りません。しかし、これら動画をUPするYoutuber、Knobsさんは 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターに焦点を絞ってセレクトしている分、どれもランダマイズな魅力を引き出したオシャレな動画はセンス良し!また、Hologram Dream Sequenceの 'トレモロ変異系' の流れに先鞭を付けた今や幻の一台、Lightfoot Labs Goatkeeper。オレゴンの片田舎から突如羊のマークと共に現れ、数量限定でGK.1からGK.3までのシリーズを残して疾風のように去って行ってしまった変態トレモロ、というより、LFOとVCAを基本として明らかにエレクトロニカ以降の 'グリッチ/スタッター' に影響を受けたものでした。そしてHexe Guitar ElectronicsのreVolver。一番最初に上がった動画が2010年ですから、この手の製品としてはmwfx Judderと同じくらい先駆的製品と言っていいでしょう。現在では 'DX' として着々とヴァージョンアップを遂げておりますが、本機は最初からかなり完成度の高い 'グリッチ/スタッター' の効果を誇っており、日本でのMasf Pedalsの人気とぶつけるようにどこかの代理店が扱っていたら、かなりヒットしたんじゃないかと思いますねえ。ここも本機のほか、かな〜り変態的なペダルが揃っていて面白そう。







Landscape Stereo Field
Simon The Magpie

そんなKnobsさん、さっそく新しい 'グリッチ/スタッター' 系の機器をラインナップ。米国はニューヨーク、ブルックリンに工房を構えるLandscapeが製作する本機は、いわゆるステレオ音源をパッチなどでシンセサイズするもので、ユニークな金属板をタッチセンスして音楽を知らない人にも面白い音作りで没頭できる、というのがコンセプトとのこと。その昔、英国の玩具メーカーから発売されたStylophoneのような、ペンツールのスタイラスで金属板をなぞって音作りするのを思い出しました。というか、ホントにこう、物欲を刺激されるオシャレな動画作りをしますよねえ・・。そして、Knobsさんと並んでYoutubeでガジェット満載のノイジーかつ 'グリッチ' なペダルばかり紹介するSimon The Magpieさんが '共演' した!いや、このMagpieさんは 'DIY' でオリジナルのガジェット機器を製作、販売しているようで、それをKobsさんが購入、Youtubeに上げました。しかしMagpie Pedals、変態かつ面白いもんばかり作って売ってるなあ。







Alexander Pedals Syntax Error
SSD Devices Atom Smasher
mwfx Judder

さあ、じゃんじゃんと '後続' はやってきますヨ。米国のガレージ工房、Alexander Pedalsの新製品、Syntax Error。'ガジェット' 的ポップな面構えからは想像もつかないくらい、実に多彩な音色を備えており、グリッチ/スタッターからディレイはもちろん、ロービット系、リング・モジュレーター、モジュレーション、ピッチ・シフトと・・ちょっとRed PandaのParticleをもう少し荒くしたような魅力に溢れておりますねえ。因みにこのメーカーは日本ではLep/Ninvoltが代理店をやっているようですが、本機はまだ日本未発売のもののようです。そして英国はマンチェスターのガレージ工房、SSD Devicesからその名も '分子破壊' と名付けられた新製品、Atom Smasher。本機もまた多彩な機能を誇っており、その内訳は以下にStutter、Glitch、Reverse Ramp Delay、Dual Pitch Delay、Pitch Shift、Greitch Reverb、Pitch Shift Reverb、Reverse Reverbと、ふぅ。また左右フットスイッチの内、左側はこの手でお馴染みモメンタリー・スイッチとなっており、リアルタイム性に寄った作りと言っていいですね。そして本機を印象付ける赤いカバーと小さなスイッチ・・ええ、意味有り気のようでいて、特に機能と関係ない飾り的デザインで御座います(笑)。最後の青い筐体のものは、このグリッチ/スタッター系エフェクターの先鞭を付けた英国のガレージ工房、mwfxによるJudderの現行機です。元々は木材をくり抜いたような筐体にツマミやスイッチを備えるハンドメイド丸出しの荒い作りでしたが、Judderの話題で会社が潤ったのか、いわゆるフツーのエフェクター・デザインへと洗練されておりまする。









Xotic Effects Robotalk-RI
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Maestro Filter Sample / Hold FSH-1
Maestro Universal Synthesizer System USS-1

エレクトロニカを通じて広まったこの手の 'ランダマイズ' な効果。そのきっかけのひとつに1990年代後半、Xotic Guitarsから発売されたエンヴェロープ・フィルター、Robotalkの存在があります。通常のワウとチャカポコな 'ランダマイズ' に飛び跳ねるランダム・アルペジエイターの2モードを備えたそれは、遡ること1970年代半ば、Maestroから発売されたエンヴェロープ・フィルター、Filter Sample / Hold FSH-1に源流がありました。設計者は 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムで、自らの会社からもVoltage Controlled Filter VCF-200としてラインナップするなど、やはりシンセ的なアプローチから発案された独特な効果を有します。本機を用いた代表的なものとしてはフランク・ザッパの 'Ship Ahoy' などが有名ですね。この 'ギターシンセ' な体裁のMaestro USS-1は同社の代表的エフェクツ(ファズ、フェイザー、エンヴェロープ・モディファイア、オクターバー)をそのまま '全部乗せ' した集大成機で、そこにこのFSH-1の機能も内蔵されております。Robotalkの登場はこの歴史の狭間に埋もれていた '稀有な効果' を掘り起こし、今や、エンヴェロープ・フィルターに内蔵される代表的な機能のひとつとして、後発のZ.Vex EffectsやSubdecayを始めとした各社製品の 'スタンダード' として認知されました。









Z.Vex Effects Loop Gate
Koma Elektronik BD101 Analog Gate / Delay

さあ、こちらは番外編。いわば 'グリッチもどき' というべきか、ノイズ・ゲートとミュート・スイッチを利用した 'キルスイッチ' の変異系3種をご紹介。最初のZ.Vex Effects Loop Gateは本体にSend/Returnを備え、そこに歪み系などをインサートして、何でもこのLoop Gateで 'ブツ切り' してやろうというもの。本機はNormalとChopの2モードを有し、Normalではインサートしたエフェクトに対し通常のゲートとして働き、その '切り加減' を入力感度のSens.とエンヴェロープに作用するReleaseで調整します。そして 'グリッチ風' なトレモロ的 'ブツ切れ' 感を演出するChop。この時のReleaseはゲートの開閉速度として、トレモロのSpeedツマミと同等の働きに変わります。続く 'ドイツ版Moogerfooger' ともいうべきKoma Elektronikは、10ステップ・シーケンスによるランダム・アルペジエイターFT201も良いのですが、100msの超ショート・ディレイとゲートを組み合わせた 'ビット・クラッシャー' BD101の 'ゲート・セクション' を用いる 'ブツ切り' 感も面白いです。VCAをエンヴェロープ・ジェネレーターでトリガーしたような効果は、ちょっとLightfoot Labs Goatkeeperと共通すると思っていたら、そのGoatkeeperの 'LFO Out' をBD101の 'Speed' や 'Ext Gate' に繋いでさらに 'ランダマイズ' 。Dwarfcraft Devices Mementoは、その 'ブツ切れ' 感をもっとランダムな 'グリッチ/スタッター' 効果に寄せたもの。基本的にミュートするための 'キルスイッチ' を応用したもので、このカットするテンポを 'キルパターン' として 'Killスイッチ' にタップテンポで記憶させるだけ。後は 'Re-Killスイッチ' を踏めばその踏んだテンポの状態で記憶した 'ブツ切れ' 感が再現されます。また、この再現中に 'Killスイッチ' を踏めばキルパターンの速度を2倍から4倍にUPできます。こういう発想は明らかにエレクトロニカ以降から刺激を受けたものでしょうね。



Elektron Octatrack Mk.Ⅱ

さぁて、ここまではコンパクト・エフェクターによる 'グリッチ/スタッター' の効果を紹介してまいりましたが、こちらは8トラック装備のリアルタイム・サンプラー&シーケンサーで難解な操作から脱落者続出(笑)の孤高の存在、Elektron OctatrackがいよいよMk.Ⅱにヴァージョンアップされて再登場です。これもKnobsさんの手にかかるとこんな素敵な 'グラニュラー・シンセシス' のデモ動画になっちゃうのだから、皆さま、本機購入の際にはこの動画だけで騙されないように!逆に使いこなせれば最強の 'エフェクター' ともいうべき無限の '素材生成' をお約束いたします(ちょっと言い過ぎか?)。





しかし、これら 'グラニュラー・シンセシス' の発想をそのまま、これまでにない素晴らしい音響作品へと昇華させたマーカス・ポップこと 'オヴァル' こそ、まさに 'グリッチ' のオリジネイターと呼ぶに相応しいでしょう。一切の 'ガジェット' を拒否して、既成のCDの盤面に傷を入れ、それをランダム(という名のデジタルにおける '正しい' 間違い)な '読み取りエラー' で生成したものをサンプリング、膨大なアーカイブスを構築、編集するその 'メソッド' は、そのまま美術でもなければ 'サウンドアート' でもなく、まぎれもなくオヴァルの手により '作曲された' 音楽作品なのです。

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