2017年11月4日土曜日

エコー '換骨奪胎'

空間生成を生み出すと共にトリッキーな効果音にも威力を発揮するディレイ。磁気テープを用いたテープ式エコー、磁気ディスクを用いたディスク式エコー、BBDチップを用いたアナログ・ディレイと '往年の名機' たちは、そのステージで複数テープヘッドのリアルタイム操作とテープ・スピードの変調、フィードバックによる発振、グニャグニャに音程の狂うモジュレーションなど、単に '音を飛ばす' だけではないアプローチで音楽の '領域' を広げました。



そんな中で近年、各社ディレイの中にディレイのトーンに対して外部エフェクターを用いて加工できる、'インサート' や 'センド・リターン' を備えた特殊なものが現れております。あまり一般的な仕様ではないものの、ディレイをより攻撃的に用いて新たな '使用法' を見つけたいユーザーに打ってつけのこの '専用端子'。'直列' ではなく、まるで中で '孕んで' しまったかのような 'やり方' を推奨する、そんな一風変わったディレイたちを見ていきましょう。





Blackbox Effects Quicksilver
OohLaLa Manufacturing Quicksilver
Guyatone SVm5 Slow Volume

わたしの記憶でそんな '特殊な' 機能のディレイの先鞭を付けたのがこちら、Blackbox Effects Quicksilverが最初だったのではないかと思います。BBDチップを用いたアナログ・ディレイながら、2つの設定したディレイタイムを瞬時にスイッチで切り替え、また外部エクスプレッション・ペダルで変調できるなど、かなりの 'ライヴ派' に訴えたレアかつ優秀な一台。その後OohLaLa Manufacturingと社名を変えてからも生産され、当時のアナログ・ディレイ製品の中では最も多機能、かつ '攻撃的' なディレイとして評価が高かったですね。下の動画ではその 'センド・リターン' にGuyatoneのエンヴェロープ・モディファイアSV-2 Slow Volumeを繋いで 'ヴォリューム・エコー' の幻想的な効果を生成。これは単に直列で繋いだだけとは一味違うユニークな発想だと思いますヨ。このSV-2の後継機が 'Mighty Micro' シリーズのSVm5なのですが、今や会社ごと消失してしまいました(商標を買取り、米国で新生 'Guyatone' ブランドとして復活しているようですけど)。







Boss PS-6 Harmonist
MXR / ART Pitch Transposer

'ペダル・ジャンキー' のDennis KayzerさんがQuicksilverの 'センド・リターン' にBossのピッチ・シフターPS-3をインサート、やっぱしキラキラしますねえ。これはディレイにピッチ・シフターをインサートした例ですが、逆にピッチ・シフターの 'インサート' へディレイを挟んだのがUKダブの巨匠、マッド・プロフェッサーの 'トレードマーク' であるラック型ピッチ・シフターのMXR Ptch Transposerで 'インサート' するワザ。これ、キラキラと階段状にピッチが変わっていくのが面白い。同時代のEventideの製品に比べると決して精度は高くありませんが、この 'ハイ落ち' が独特な初期デジタル特有の '太さ' に繋がっていることからギタリストに愛されたのも分かります。ピッチ・チェンジの量をメモリーすることが出来て、それをフット・スイッチで呼び出すことも可能なのですが、格好良いのがツマミがタッチ・センスのセンサーとなっており、それを回さずともトントンと叩くだけでピッチ・チェンジが変わるのです!おお、ハイテクだ(笑)。









Maestro Envelope Modifier ME-1
Boss Slow Gear SG-1
Morley ACV Attack-Volume
Electro-Harmonix Attack Decay
Pigtronix Philosopher King
Malekko A.D.(Attack / Decay)
Malekko Sneak Attack + Lil Buddy

Guyatone SV-2やBoss SG-1などのエンヴェロープ・モディファイア、いまいち使いにくいよなあ、と思っている方々は多いと思います。本機はコンプの亜流というか、コンプレッサーの動作のひとつとしてVCAによるサスティンの操作があり、それをゲートとエンヴェロープ・ジェネレーターで発展させたものがこのエンヴェロープ・モディファイア。そう、タッチセンスで音量を自動でコントロールしようとするものです。ジャンル的には 'オート・ヴォリューム' と呼ばれるヴォリューム・ペダルの亜流的位置付けでもありますが、その中身はコンプレッサーのアタックとゲート、VCAにより動作する 'シンセサイズ' のADSR機能と同一のものであります。古くはトム・オーバーハイムの設計したMaestro Envelope Modifier ME-1、Boss Slow Gear SG-1、変わり種としては巨大ペダルでお馴染みのMorleyから登場したACV Attack Volumeなどがありました。これは本体と繋がるピックアップ内蔵のピックで効果をかける何とも奇妙な一品で、同種の機能を用いたワウのPik-A-Wahもラインナップされました。そしてこれらと同時期、'エレハモ' で設計を担当していたハワード・デイビスが手がけたのがAttack Decay。さらにそれを近年、Pigtronixがデイビスを新たに迎えて設計、発展させたものがAttack Sustainと後継機のPhilosopher Kingです。この2機種はどちらもコンプレッサーと 'オート・ヴォリューム'、テープの逆回転風 'テープ・リヴァース' からLFO的パーカッシヴなトレモロの特殊効果まで、ある意味 '好き者' にはたまらない効果を備えております。また、Malekkoからは同種のSneak Attackも登場しました。ピッキングやダイナミズムに対して非常に繊細なため、なかなか効果的な使い方をするのに難儀したのかイマイチ流行らなかったエンヴェロープ・モディファイア。ディレイに 'インサート' することで 'エコー・ヴォリューム' を生成できるので、本機を使い余して 'タンスの肥やし' となっている方々、久しぶりに引っ張り出してみて下さい(単純にヴォリューム・ペダルを 'インサート' してもOKですヨ)。







Skreddy Pedals Echo
Carl Martin Echotone
Holowon Industries Tape Soup

米国カリフォルニアでMarc Ahlfsのデザインにより製作するガレージ工房、Skreddy Pedalsの人気ディレイであるその名もEcho。ハンマートーンによるレトロな表面仕上げからも分かる通り、本機はかなりアナログライクなディレイのようでElectro-Harmonix Deluxe Memory ManやStrymon El Capistanとの 'アナログ対決' 的な動画がYoutubeにも上がっております。ここではその 'センド・リターン' にフェイザーのMXR Phase 90をセレクト。そして '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' でも取り上げたCarl Martin Echotone。こちらは本機の 'センド・リターン' にBoss CE-2 Chorusを繋いで 'コーラス・エコー' の爽やかな効果を生成。これなどはコーラス機能の内蔵したディレイ製品がすでにありますけど、やはり自分のお気に入りのコーラスと組み合わせられるというのはグッド!ちなみにわたしはこのEchotoneをコンボ・アンプの 'センド・リターン' に繋いでいるのですが、やはり'テープ' の質感に重要な 'ワウ・フラッター' の効果が欲しいということでその機能に特化した珍品、Holowon Industries Tape Soupを本機の 'センド・リターン' に繋いでおります。このテープの変調スピードがグニャリと狂ったような '質感'、たまりませんねえ。ま、最近の 'テープ・エコー' を名乗ったディレイの大半はEl Capistan含め、すでにこの 'ワウフラ' 機能は付いているのですが・・。







Strymon El Capistan - dTape Echo
Empress Effects Tape Delay
Arbiter Soundimension

ちなみに、こちらは 'アナログ・モデリング' なディレイ、Strymon El Capistan - dTape EchoとEmpress Effects Tape Delayの双璧による 'テープ対決'。実際にグルグルと回る巨大なテープ・エコーを持ち歩いていた40年以上前に比べたら、こんな手のひらサイズで相応の効果を得られるのだから良い時代になったものです。そして磁気テープ式エコー、Tel-Ray / Morleyの 'オイル缶' 式エコー、Binson Echorecに代表される磁気ディスク式エコーらが現代のテクノロジーで再評価される中で、この隠れた磁気ディスク式エコー、Fuzz FaceやSound Cityのギターアンプでお馴染みArbiterのSoundimension / Soundetteも忘れないで下さいませ。と言ってもeBayで滅多に出てこない超絶プレミアものなので知名度低し。ラジオ風デザインの縦置き型がSoundimension、動画の横置き型のものがSoundetteで、この筐体の中にEchorec同様の磁気ドラムがグルグルと回っております。レゲエ前夜のジャマイカでコクソン・ドッド主宰のスタジオ、Studio Oneが最も愛していたエコー・ユニットであり、そこのエンジニア、シルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時、わたしはほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聞けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これがあのStudio One独特の音になった。それからコクソンがSoundimensionっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45cmぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、Soundimensionはヘッドを動かせるからそれぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"





Fairfield Circuitry Meet Maude
Schaller TR-68 Tremolo

ここ近年のエフェクター市場においてその存在感を発揮してきたのがカナダです。森と湖の大自然がそんな '澄んだ耳' と 'こだわり' を育んでいるのかは知りませんが(笑)、Radial Engineering、Diamond Guitar Pedals、Empress Effectsとどれも 'オーディオ・グレード' なハイ・コンポーネンツのパーツを丁寧に組みわせた '高品質エフェクター' を送り出しております。この無機質な筐体のFairfield Circuitryもそんなカナダのイメージを裏切りません。ある意味、日本の凝り性的な 'もの造り' 文化と一脈通じているというか、まあ、どれも日本の市場ではお財布に厳しいお高いものばかり。本機Meet Maudeはこれまた 'アナログライク' なディレイながらその多機能ぶりにも驚かされます。本機の基本的なパラメータは一般的なディレイに準じておりますが、一風変わった機能として飽和するディレイの '歪み' を避けるため、リミッター的コンプが内蔵されていること(ただし原音はスルー)。そしてある種 '偏執的' なのは、基盤上に備えられた6つのマイクロ・スイッチによる各種CVコントロールの設定です。スイッチ1でフィードバック、2でディレイタイムを外部エクスプレッション・ペダルでコントロールでき(1+2で両方)、また1〜4をOffにして5+6で今度はYケーブルによる 'インサート' 端子でディレイ音を外部エフェクターで加工可能とう〜ん、至れり尽くせりな仕上がり。動画ではMeris EffectsのリヴァーブMercury 7やSchallerのトレモロを繋いでおりますが、コレはもうライヴというよりスタジオで緻密に触ること前提のディレイですね。







Lovetone Meatball
Locustom Fx & Fun Parasite

ここで一息。この項では 'インサート' や 'センド・リターン' を備えたディレイを取り上げておりますが、こちらはその逆、'センド・リターン' を備えたエンヴェロープ・フィルターにファズと 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターをセット。1990年代に一斉を風靡した英国のマニアックなエフェクター、Lovetoneの各製品にはこのような 'センド・リターン' 端子を設けることでより過激な音作りを推奨しておりました。とにかく何でもあり!アレ?この端子なんだろ?と疑問に思ったら手持ちのエフェクターをバシバシと繋ぐべし!そしてフランスのLocustom Fx & Funなるブランドから登場したParasite(言い得て妙!)は、何とトレモロに 'センド・リターン' を設けて何でも揺らしてやろうというもの。LEDの点滅に合わせて、DryとWetを交互に入れ替えながらSpeedとMIxで調整(エクスプレッション・ペダルへのアサイン可)するという、ちょっと他社の製品にはないオリジナルな効果なのが面白いですね。



Moody Sounds Strange Devil Echo

さて、この項で紹介する 'インサート' や 'センド・リターン' を備えたディレイは、あくまでメインであるディレイの '補助機能' として用意されたもの。しかしスウェーデンのMoody Soundsから登場したStrange Devil Echoは、今回取り上げた各製品中、この 'センド・リターン' の音作りに特化することをメインに謳った唯一のもの!ツマミの表記も 'Interval' に 'Repeats' と他社では見かけないもので、この 'Repeats' を回すことでエコー音に対して外部に 'インサート' したエフェクターの影響が強くなっていきます。このような攻撃的姿勢は現在のエフェクター界にとって最も大事なものですね。







JHS Pedals The Panther
JHS Pedals Panther Cub V1.5
Diamond Guitar Pedals Memory Lane MLN-2
Diamond Guitar Pedals Memory Lane Jr.

ここ最近、'Boss' や 'Electro-Harmonix' とのコラボレーションなども行うことですっかりその名前と存在感の定着したJHS Pedals。'モディファイ' モデルと自社製品を得意とした一昔前のKeeley Electronicsなんかと近い位置にいるのかな?そんな同社のフラッグシップ・モデルとして君臨しているのがディレイ音を加工できる 'センド・リターン' を備えたこのThe Panther。BBDチップ 'MN3205' を用いながら1秒のディレイタイムを持ち、フィードバック及びディレイタイムのエクスプレッション・ペダルやタップテンポのプログラム・コントロールなど、カナダ産Diamond Guitar Pedalsの高品質アナログ・ディレイとして評価の高かったMemory Laneとの類似性を感じます。と思っていたらこのThe Panther、すでに小型化かつ機能を整理したPanther Cub V1.5としてモデル・チェンジしておりました。この辺りもMemory LaneがMemory Lane Jr.へと変遷した流れとよく似てる。





Moog Moogerfooger MF-104M Analog Delay
Elektron Analog Drive PFX-1

モーグ博士の '置き土産' ともいうべき 'Moogerfooger' シリーズ。廉価版というべき 'Minifooger' シリーズは生産終了しましたが、この木枠と黒い筐体の '家具調' モーグ・スタイルでコンパクト・エフェクター界の中でも威風堂々たるその姿は、ギターはもちろんモーグのシンセと並べた時にぴったりとハマるようデザインされました。こんな '凝った造り' のエフェクターは今後ますます出にくくなると思われるので、いくつか生産終了している 'Moogerfooger' を欲しいユーザーは楽器店へ急げ!そのラインナップの中でもある種のプレミア感を誇っていたのがこのAnalog Delay。急騰した 'アナログ・ディレイ' のブームと反比例するようにパナソニックがBBDチップの生産を止めてしまったことで、この '初代機' は1000台限定で発売されたのがその始まりでした。その後、中国産のBBDチップを用いることで復活し、延長するディレイタイムやタップテンポを備えたこのMF-104Mまで進化。本機もまた多彩な音作りとしてディレイタイムのエクスプレッション・コントロール、フィードバック音の外部加工のためのYケーブルを用いる 'ループ' 端子を備えます。下の動画ではMF-104Mの 'FB Insert' にElektronの '歪み系' マルチ、Analog Drive PFX-1をインサートして過激な音作りに挑戦!

さて、いかがだったでしょうか?ディレイの中にもうひとつのエフェクターを '孕む' かの如く組み合わせる 'インサート' の美学(ヘンな意味ではございませんっ)、足でコントロールできるフィードバック、ディレイタイムのリアルタイム性と、なかなか通常のディレイでは見かけないこんな機能をいろいろ試してみれば、また新たな刺激を受けること間違いないでしょうね。ここで紹介したコーラスやフェイザー、リヴァーブ以外でもリング・モジュレーターやフィルター、歪み系に 'グリッチ/スタッター' 系、さらにもうひとつディレイを繋いでしまうなど、その思い付いたアイデアを是非とも '具現化' させてみて下さいませ。

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