2016年9月1日木曜日

EXPO '70の狂気

万博といってもわたしはつくば万博の世代なのですが、やはり1970年の日本万国博覧会 by ‘人類の進歩と調和のぶち上げ方ってのは壮大なものだったのだろうと想像します。それは、前年にアポロ11号の月面着陸、ウッドストック・ミュージック・フェスティバル by ‘愛と平和の3日間という一大イベントが行われるなど、何かしら時代のパラダイム・シフトという熱気に支えられていたこととも関係しています。



この人類の進歩と調和のスローガンの中には、当時新たな機器として注目され始めていたシンセサイザーと電子音楽の世界がありました。会場の各パビリオンから流れてくる音楽のほとんどが無調による難解な電子音楽だったそうで、武満徹のクロッシング四季、高橋悠治の慧眼が鉄鋼館に、湯浅譲二のスペース・プロジェクションのための音楽がせんい館、テレ・フォノ・パシーが電気通信館へと、見事に提供するのは現代音楽の作曲家たちばかり。また、 西ドイツ館ではカールハインツ・シュトゥックハウゼンを招聘し、球形のホールで連日 ‘Spiral’ の公演を行っていました。



当時のシュトゥックハウゼンお得意の短波ラジオを用いたライヴ・エレクトロニクス作品ですが、331日の演奏では偶然受信した日本赤軍のよど号ハイジャック事件のニュースが絶妙にコラージュされたそうです。しかし、エレクトロニカってほとんどこの時代の現代音楽の '焼き直し' というか、むしろ生真面目に向き合っていたこの時代の方がぶっ飛んでいたということが分かりますね。





そして同じく、フランスの作曲家ヤニス・クセナキスも鉄鋼館のための音楽として ‘Hibiki Hana Ma’ (響き・花・間)を制作しました。こちらは日本の伝統楽器を素材としたテープ・ミュージックで、これらを電子変調させたミュージック・コンクレートとして360度のマルチ・チャンネルで再生したもの。しかしクセナキスの最高峰は、1971年にイランの第5回シラズ国際芸術祭の委託により8トラック・テープで制作した大作 'Persepolis' でしょう!日没後のペルセポリス遺跡を舞台にレーザーを用いた光の照明と100台ものマルチ・スピーカーから放たれる暴力的な轟音ノイズは、強力なフランジングによるジェット機音と相まってこの世の果てに吹き飛ばされていくようです。

ともかく大阪万博の印象は?と問われて '暑かった' という声が多いように、どこも行列のパビリオンを避けてクーラーを涼みにきた来客に対し、いきなりガリガリガリ、ギュイーンなどというノイズの洗礼に慌てて逃げ出したという人が多かったようですね。いまなら間違いなく 'Cool Japan' の名の下に 'AKB' や 'アニソン'、'ヴィジュアル系ロック' が流されていた万博だったというのに、1970年の日本はまだまだスノッブな前衛意識で忙しかったのです。



こちらはこの間もご紹介致しましたが、万博の翌年公開されたロバート・ワイズ監督作品 ‘The Andromeda Strain’。人類が未知の病原菌に慄くSF映画でしたが、その音楽をジャズ・サックス奏者ギル・メレが無調な電子音楽でさらに戦慄する世界を強調します。そういえば70年代の日本は高度経済成長の歪みとして、街中に光化学スモッグ注意報の電光掲示板がありましたね・・。





う〜ん、いかがでしょう?万博に見る人類の進歩と調和から聞こえてくるバラ色の未来というよりは、まるで世界がデッドエンドへと突き進んでいくような不安、焦燥感に満ち溢れた難解な音響ばかり・・。まだまだ前衛が猛威を振るっていた1970年代初めは、世界的にクローズアップされてきた公害や環境破壊、都市民の過剰なストレスと若者のドロップアウトがもたらす病理とシンクロするように、一見進歩的なフリをしながら不快な音響でテクノロジー万能な世の中に警鐘を鳴らしていたのだと思いますね。実際、大阪万博を象徴する岡本太郎の太陽の塔は、万博のスローガンと反発するように太古からの生命の力強さを示す生命の樹という皮肉が効いておりました。ジャズ・ピアニストの佐藤允彦が 'Soundbreakers' の名義でリリースしたその名もずばり '恍惚の昭和元禄' は、まさに高度経済成長と全共闘に揺れた日本の歪みを象徴する '昭和元禄' をタイトルにし、テープ・コラージュとフリー・ジャズ・ロックが和洋折衷でブツかり合ったこの時代ならではのもの。



こちらは1969年に制作され、その '太陽の塔' の中でも流されていたという現代音楽の作曲家にしてオノ・ヨーコの元旦那さんでもあった一柳慧の 'Music for Living Space'。建築家黒川紀章の建築論を初期のコンピュータによる音響合成ヴォイスで喋らせるという・・何だかよく分からない 'レトロ・フューチャー' な響きに満ちた一曲。

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