2016年8月5日金曜日

クイーカ "できるかな?"

2016年リオ・オリンピック始まります!

次から次へと現れるマイルス本ではありますが、最近の潮流にテコ入れする ‘Jazz The New Chapter’ の柳樂光隆氏監修による ‘MILES: Reimagined’。申し訳なくも立ち読みなんですけど、今年公開のドン・チードル主演・監督作品によるマイルス映画を巻頭にいろいろな方々の論考、対談が載っとりました。そんな中でわたしの目を引いたのがラテン雑誌に執筆するケペル木村氏のアイルト・モレイラの論考。いや〜、似たようなことを思っていた人もいるのですね。そうそう、デイビスの電気ラッパによるワウワウとモレイラのクイーカの呼応する関係、コレ間違いなく重要ですよねえ。ジミ・ヘンドリクスのワウワウの影響云々なんかより絶対こっちでしょう。





そもそも、最初はデイビスにうるさく付きまとってくるファンと間違えられ、バンドに入ったら入ったでデイビスの神経質な睨みに恐れを成して控えめにしていたらちょっとは叩けよと呆れられたという可哀想なモレイラさんなんですが、それでも60万ものワイト島の聴衆を前に圧倒的なパフォーマンスを展開するデイビスのバンドで、ひとりクイーカ、フレクサトーン、カウベル、シェケレ、ギロ、クラベス、サンバ・ホィッスルを取っ替え引っ換えしながら堂々の存在感を発揮しているのはさすがですヨ。特にオープニング・ナンバーの急速調な ‘Directions’ における、デイビスの直線的な突き刺さるフレイズと対を成すようにクック、フゴゴゴ・・とクッションの如くリズムの隙間を埋めていくクイーカの響き。これ、相当にデイビスの口うるさい指示でオレをよく見ていろ!スペースを開けたら間髪入れず入ってこい!って打ち合わせたんだろうなあ。



さて、そんなモレイラさんなんですが、デイビスのワウワウとの関係では19704月の ‘Little High People’ が最初の成果ではないでしょうか。当時は未発表に置かれ、後に ‘The Complete Jack Johnson Sessions’ というボックスセットで2つのテイクが公開されました。面白いのは、すでにこの時点でデイビスのワウワウの使い方がほぼ出来上がっていたということで、その印象はまるでコーキー・マッコイ描く1972年の ‘On The Corner’ ジャケットの世界。ストリートの賑やかな黒人のお喋りを戯画化した感じなんですが、それに一役買っているのがモレイラの喋るようなカズーとフゴフゴとしたクイーカの惚けた唸りなのです。う〜ん、なんでこんなイカスやつをお蔵入りにしてしまったのだろうか?(視聴制限をかけられているのでYoutubeでどーぞ)ちなみに上の動画はワイト島ライヴのDVDに入っている各メンバーのインタビューの内、モレイラの場面ですが、突然にデイビス・トリビュートをやって!の問いかけに始まったのがひとりビッチズ・ブルー!口ベースから口ラッパからパンデイロ(タンバリンじゃないですヨ)を手に取ってドデスカデン・・ともう忙しい勢い。何かもう愛すべきおっさんって感じです。



 

うそう、この時期のデイビスと 'ブラジル勢' としてはモレイラに加えてもうひとり、奇才エルメット・パスコアールがおりますが、このふたりは1960年代後半にQuartet Novoというグループで一緒に活動した旧知の仲でもあります。クイーカは出てきませんが、このクールなショーロの匂いを漂わせるジャズボサの格好良さ!続いて出てくる1973年のパスコアールと1960年代後半の短命グループ、Brazilian Octopus在籍時の貴重な映像!時代的にブーガルーの匂いのするボサって感じのBrazilian Octopusが怪しくてイイですが、1973年の映像でパスコアールが弾いてるのはなんと大正琴!まるでビリンバウ(ブラジルの民俗楽器)のごとく演奏しており、これは日系ブラジル人あたりから貰ったのでしょうか?

Precious / Miles Davis (Mega Disc)

おっと、なになにライヴにおけるモレイラをもっと堪能したい。と。そんな奇矯な趣味をお持ちの方なら同年6月の名盤 ‘Miles Davis At Fillmore’ をオススメしたい。いや、これは公式盤や近年発掘された無編集の ‘Miles At The Fillmore’ なる4枚組ボックスセットの話ではありません。水曜日から土曜日まで組まれた4日間のライヴの内、最終の土曜日を無編集で盗掘したブートレグに手を出すのです。今を遡ることウン年前、いつまで経っても 無編集盤を出さなかったSonyに業を煮やしたブートレガーがマスターテープからコピー、あっという間に高音質のブートレグが市場にばら撒かれました。しかし、なぜか土曜日のテープだけ違うテレコで回していた音源の方を出してしまった・・痛恨のミス!。ああ、当時の要チック・コリアとキース・ジャレットの2人が後方の定位に位置して聴こえにくいという、何ともバランスの悪いミックスなのだから泣くに泣けませんよ、コレは。しかし、その代わりと言ってはなんですが、アイルト・モレイラの露天商的パーカッションの雑多さがエコー感のないデッドな音像でリアルに迫ってくるという、ある意味 'デイビス流ダブ' ともいうべき珍妙な一枚となっております。'Complete Saturday Miles At Fillmore' (So What)や 'Precious' (Mega Disc)などのブートレグで聴けますのでお試しあれ。





そして同年8月のワイト島におけるライヴは公式DVDで堪能して頂くとして、ワウワウとクイーカなら決定盤 ‘The Cellar Door Sessions 1970’ でしょう。全6枚の内の5(初日のみモレイラ欠席)に渡り丁々発止でやり合うデイビスとモレイラの記録は、ついついキース・ジャレット中心に聴かれてしまう本ボックスセットもうひとつの聴きどころでもあります。そういえば、この年の10月にデイビスのグループへマイケル・ヘンダーソンが正式加入すると共に、一時的ながらモレイラに加えてもうひとり、'Bitches Brew' にも参加した別名 'ジム・ライリー' ことジュマ・サントスなるブラジル人との '2パーカッション' を試しているんですよね。公式には残っていないだけにどのようなコンビネーションを考えていたのか興味あります。さて、この 'Cellar Door' はすでに廃盤となってアマゾンのマーケット・プレイスでもイイ値段が付いておりますが、つまらないジャズを買うくらいならコイツに投資してGetすべし!しかし何度聴いてもユニークなデイビスの電気ラッパ。この 'アンプリファイ' における奏法の転換についてデイビスは慎重に、そして従来のジャズの語法とは違うアプローチで試みていたことをジョン・スウェッド著「マイルス・デイビスの生涯」でこのように記しています。

"最初、エレクトリックで演奏するようになった時、特に感じるものはなく、そのことはマイルスをがっかりさせた。コカインでハイになるのとは違っていた - むしろエレクトリックというのは徐々に体の中で大きくなっていくものだ、とマイルスは表現した。快感はある。しかしそれはゆっくりとした快感だった。やがて、必死になって音を聞こさせようとしない方が長くプレイすることも可能だとマイルスは知った。そのためにはいくつかの調整が必要だ。あまり速く演奏してしまうと、パレットの上で絵の具が流れて混ざるように、音が混ざってしまう。そこでフレージングの考え方を一から見直すことにした。長くて二小節。メロディの合間からもっとリズムを聞こえさせたいと思っていたマイルスにとっては、実に理にかなった発想だった。"

ここで肝心の 'Cellar Door' 音源は貼れませんので(涙)・・モレイラではなくムゥトーメとドン・アライアスによる '2パーカッション' の汗だくだくなデイビスのワウワウをどーぞ。







Highleads HP
Highleads Cube Mic

しかし、なぜそこまでモレイラ推しをするのか・・。実は電気ラッパに加えてちょっと前からクイーカなんぞを始めてみました。それもCube Micなるピックアップを取り付けた電気クイーカなんぞを・・。最後の動画で説明されている方が開発者のともだしんごさんです。クイーカというのはバケツや樽に山羊の皮を張り、その真ん中へおっ立てた竹ひごを濡れた布(ウェットティッシュが最適!)などでゴシゴシ擦ると例のクック、フゴフゴフゴ・・と鳴るブラジルの民俗楽器です。皮の打面をチューニングしながら指でミュートすることで音程を変えることができ、上手い人になるとちょっとした曲を演奏することができます!小さいものもあるものの、実用的な大きさは大体8インチ、9 1/4インチ、10インチのもので大きいほど音圧が出ますね。素材は木やアクリル樹脂、ブリキ、アルミ、真鍮などがありますが、一般的なのはステンレス製です。またクイーカの音色は、30代後半以上の世代ならNHK教育TV ‘できるかなに登場するキャラクター、ゴン太くんの鳴き声としてインプットされているでしょう。さあ、頑張って練習して浅草サンバ・カーニバルに出場するゾ!(ウソ)

実は、自分的には電気ラッパのヴァリエーションのひとつとしての電気クイーカって感じで使っております。ラッパ吹きがトランペットにミュートを嵌めたり、コルネットやフリューゲル・ホーンに持ち替えていろんな音色を使い分けるように、パーカッシヴな電気ラッパと電気クイーカがどこまで混交できるのかという探求ですね。





8月の極楽盤。マルコス・ヴァーリがアジムスやオ・テルソ(ヴィニシウス・カントゥアリアが在籍したプログレ・バンド)らと共に制作した1973年 '奇跡' の一枚 'Previsao Do Tempo' から、クイーカの隠し味が絶妙にポップなスタイルと融合する 'Flamengo Ate Morrer '。続く 'Mais Do Que Valsa' は、強烈に太陽の照り付けるプールへ飛び込み、ユラユラとした陽射しの中で水中を漂うマルコスさんの気持ち良さそのものです。快感!

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