2016年3月2日水曜日

欲望する機械 - 'グリッチ' の反乱 -

一時は完全に '過去の遺物' と化したコンパクト・エフェクターは、1990年代以降の 'ヴィンテージ・エフェクター' 再評価を経て、今や大小あらゆる企業がしのぎを削る大きな市場となりました。その中でも '新たな効果' としてエレクトロニカ興隆と共に注目を集めたのが 'グリッチ/スタッター' と呼ばれるものです。



そもそもはオーディオ・データとして、コンピュータの中でCycling 74 MAX/Mspを始めとしたプラグイン・エフェクトで処理することで生成する 'エラーノイズ' の一種であり、これは、CDの盤面にサインペンで '傷' を付けることで起こる '読み取りエラー' をハードディスクに貯蔵し、音響作品のとっかかりとするオヴァルを先駆として流行しました。





MWFX Judder
Red Panda

長らくこのような効果はコンピュータ上での処理に任されてきましたが、ここ数年の間にいくつかのメーカーからそれを再現したような製品が市場に現れています。最初に日本の市場に現れたのは上記のJudderというヤツで、イギリスのガレージ・メーカーであるMWFXからのもの。いかにも 'ガレージ・メーカー臭' 満載の木をくり抜いた筐体、ホールド・ディレイ機能の応用で弾いた少し後にモメンタリー・スイッチを踏む必要があるなど、以降の同種製品に先鞭を付けた仕様となっております。続く米国はミシガン州で製作するRed PandaのParticle。こちらは'グリッチ/スタッター' にピッチ・シフターやディレイ、デチューンの機能を加えた多機能型で、より洗練されたハーモニーと 'グリッチ' の同居する仕様は、今回取り上げた機器の中で最も音楽的なアプローチを可能とします。そして、この分野は特に日本のガレージ・メーカーの躍進ぶりが凄まじく、今や世界に誇る 'ノイズ・メーカー' としてその地位を確保し、最近は 'ユーロラック・モジュラー・シンセ' の分野へも積極的に参与しているMASF Pedalsは先駆的存在でしょう。このような効果を生み出すものは、回路的にはショート・ディレイのホールド機能とループ・サンプラーの応用、効果としては以前に 'シーケンスされる快感' でも取り上げた、シーケンス機能付きのエンヴェロープ・フィルターの発想に近いものだと言えます。



MASF Pedals Possessed

その名称 'Possessed' とは '取り憑かれる' の意で、5つあるパラメータのツマミもそれぞれ五感の 'Taste' (味覚)、'Touch (触覚)'、'Hearing' (聴覚)、'Smell' (嗅覚)、'Sight' (視覚)から名付けられています。まさに '飛び道具' エフェクターらしく名称の先入観に囚われず使ってみて欲しいとのことで、完全に予測不能、制御不能に陥ること間違いなし(褒め言葉です)。まるで '旧共産圏的' 製品っぽい無愛想なルックスは最高で、筐体の裏面には素晴らしい西洋のお城が描かれております。しかしスイッチの耐久性は低く、使い続けると何度か '踏み抜けた' ようにOnにならなかったのは残念(わたしの個体だけ?)。あと 'エレアコな' ラッパで試したからなのか少々ノイジーな印象、Outputのゲインを回し切るとブ〜ンと持ち上がります。




MASF Pedals Raptio

そして、以前に ''飛び道具' という懐刀' でもご紹介したMASF Pedals RaptioとS3N Super Flutter V.2。このS3Nというガレージ・メーカーは、V.2にまで 'ヴァージョンアップ' したサンプラー機能付きのSuper Flutterと 'グリッチ/スタッター' 機能のみの手のひらサイズな廉価版Micro Flutterを限定生産しておりました。Raptioは、Possessedがほぼランダマイズな 'ノイズ生成器' ともいうべき存在なのに対してシーケンス的にコントロールできるもので、トレモロ的な 'ブツ切り' をモーメンタリー・スイッチで操作します。また、シームレスなホールド状態のループも生成できるという点では、Electro-Harmonixの同種製品FreezeやSuperegoの対抗機とも言えるでしょう。ちなみに、わたしはこのMicro Flutterを試したことがあるのですが、とにかくガレージ・メーカーとは思えないくらい製品としてのクオリティ、技術力の高いものです。正直、これを2万円クラスで少量生産していたという点で、かなりの割高コストだったのではないかと思いますね。早い生産体制の復帰を切に願うばかり。

Butterfly FX RARC (Round and Round Clock)

こちらはまだデモ動画のない状態ですが、新規参入してきたButterfly FXからの新製品であるRARC(Round and Round Clock)。これはMASF Pedals以上に 'ガレージ・メーカー臭' がプンプンするというか、正直見た目は失礼ながら '個人製作' レベルな荒い作りです。In/Outにエクスプレッション・ペダル端子、スイッチの各表記もなければ、LEDも付けられていない荒削りなルックス。これ、取説なくしたら不便かも。まあ、今でこそエフェクター・メーカーとして成長したFulltoneやKeeley、Analog Manなども、当初は完全に 'シロウトの個人製作レベル' 丸出しな作りでしたケドね。特徴としては3段階の 'ローファイ' な質感を設定できるフィルター機能で、これはS3N Micro Flutterの 'デジタル臭い' クリアーな質感とは完全に真逆です。また、Boss FV-50Lを流用したエクスプレッション・ペダルが付属しており、これを繋げることでディレイ・タイムが可変、さらに増設されたスイッチをOnにすることでFV-50Lのツマミが稼働し、ペダルの踏み込み幅を調整することができます。しかし、こういう製品が続々と市場に現れてくるのは歓迎したいですね。

さて、ナンダカンダと解説しておいてなんですが、これら 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターは '歪み系' と並び、実はラッパではかなりの '鬼門' 的存在です。こういう効果は大好きなのだけどMASF Pedals PossessedとS3N Micro Flutterでそれぞれ試した限り、やはりマイクで収音するラッパだとブツ切りする度に鳴るドッドッドッという 'トレモロ・ノイズ' や、Micro Flutterのモメンタリー・スイッチを踏む度に大きく鳴るブツッとしたノイズが耳につきます。やはりクリーン過ぎるアンプで鳴らしていると想定外のノイズが回り込み目立ってくるようです。また、リアルタイムなフレイズでスイッチを踏むより、ループ・サンプラーなどで録音したフレイズに対して用いた方が効果的ですね。つまりKorg Kaosspadのようなシームレスなリアルタイム性ではなく、客観的な視点の中で調整するリアルタイム性というか。これは例えば、ビデオで撮りながらいろいろと映像を加工していくのか、撮った写真に対してあれこれコラージュ的に手を加えていくのかの違いと言えば分かりやすいかもしれません。

こういう効果をすばやくOn/Offしては、ソロのフレイズのわずかな合間に挟みながら演奏してみるとかなり格好良いんじゃないかとアプローチしてみたものの・・いや〜、コイツを手なずけるのは相当難しいですねえ。むしろ、これを読んで奮起し、どなたかが 'オリジナル' な可能性を身に付けてもらうことに期待します。








と、ここで以前取り上げた ''飛び道具' という懐刀' の番外編、米国の 'Pedal Geek' ともいうべきDennis Kayzerさんの2014 & 2015年新製品ベスト25 & '飛び道具' エフェクター・ベスト25!この人、膨大な量のコンパクト・エフェクターを収集しては、一昨年から新製品 '年間ベスト' を暮れにYoutubeで発表するもの凄い人です。あくまでギタリスト的視点ではありますが、世の中にはこんなブッ飛んだブツがゴロゴロしているということで・・どうぞお腹いっぱい召し上がり、面白そうなヤツに挑んでみて下さいませ。ていうか、もうラッパでは太刀打ちできない・・。




Source Audio

またまたJohn Bescupさんの動画で今度はダブに挑戦!前回まではSWRのベースアンプで鳴らしていたのが、ここから新たに入手したらしいLeslie Model 205ロータリー・スピーカーに換装しました(Bescupさんの後方にある茶色い箱)。ロータリーによるドップラー効果でメチャクチャ気持ち良く鳴っておりますね〜。お、机の上にSource Audio SA126 Bass Envelope Filterがあります。コレ、別売りのHot Hand SA115モーション・センサーという指輪のようなもの嵌め、テルミン的にコントロールできる面白いものです。動画を見る限り、モーション・センサー使っているのかどうかは分かりませんが、机に乗っけて手で操作するBescupさん向けのエフェクターなのは間違いない。

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