2016年3月1日火曜日

電気喇叭の履歴書

ラッパを ‘アンプリファイ’ にして早20年余り・・ほぼ自分の足回りが固まってきたような気がしております(と言いつつ、満足はしていないのですが)。その探求の途中、エフェクターそのものやDTMの面白さなどにハマり余計な散財はしたものの、基本的な構成は当初から変わっていないですね。現在はプリアンプ、Magical Force、オクターバー、ワウペダル、プリセット・ヴォリューム、ループ・サンプラー、ディレイ、DI、そしてアコースティック用160Wのアンプ。まあ、ラッパでやれることなどたかが知れているので、例えば、ギタリストのように ‘歪み’ だけで34つと足元に置いては新製品が出る度にチェックするという ‘エフェクターの旅’ とは無縁です(それでもワウとオクターバーは '長い旅路' に出ましたケド)。最初に購入したのはRoger Mayerのワウ・キットをイケベ楽器で組み込んだCrybaby、オーバードライブのIbanez TS-9 Tube Screamer、そして 'オルガン・トーン' の心地よいJim DunlopUni-Vibe UV-1Electro-Harmonix Deluxe Memory Manという布陣でした。時代はまさにヴィンテージ・エフェクター復刻のまっただ中、とにかくギターと無縁なラッパ吹きのわたしは、場違いなお店のガラスケースに陳列されている ‘魔法の小箱’ の妙なルックスと効果に惹き付けられてしまったのです。特にUni-Vibeの、まるで深海でオルガンが鳴っているような心地よい揺れ具合は最高で、以降Uni-Vibe ‘クローン’ な製品をいくつかチェックするほどハマってしまいました(その割に今の足元に単体のモジュレーション系はありませんケド)。


 

そんなヴィンテージ・エフェクターの王様、Electro-Harmonix。鉄板を菱形に曲げたような筐体は迫力十分で、まるでアメ車のような荒削りさをそのデカさと共に誇るこのメーカーは、まさに当時の 'エフェクター・マニア' を狂喜乱舞させるに十分な存在でした。このDeluxe Memory Manはアナログ・ディレイの定番機として今や ‘殿堂入り’ しており、そのくぐもったトーンと強烈な発振具合、グニャグニャと音痴な気分になってくるモジュレーションを備えるなど、ディレイといえばコレ、というユーザーを多く輩出します。最初にラッパで用いて 'なんちゃってビッチズ・ブルー' や 'なんちゃってコンドーさん' の即席気分を味わえるのは楽しかったですね〜。なんか、ただ声にエコーが付いちゃうだけで大喜びしてしまう 'ダブ黎明期' の気持ちというか。ちなみに当時は、これらエフェクターと一緒にMackieのライン・ミキサーであるMS1202-VLZを買い、ヘッドフォンでモニターしながら使用、さすがにアンプを自宅で鳴らすことには及び腰でした。このDeluxe Memory ManもミキサーのSend/Returnに安いプリアンプをインピーダンス対策にしてSendから繋いでいたのですが、ACアダプター仕様以前のエレハモ製品はIn/Outのインピーダンス・レベルが高く、他社の製品とのインピーダンス・マッチングを取るのが大変でしたね。そして 'アンプリファイ' なラッパの顔であるワウ、こっちはかな〜りこだわりましたねえ。とにかくラッパにぴったりのヤツがないというか、ワウペダルからエンヴェロープ・フィルターまであれこれ・・ホント散財しましたヨ。なぜ、一番最初にRoger Mayerのマニアックなワウを選んだかというと、当時のワウとしては珍しく3段階の周波数帯域切り替えスイッチが付いていたからなんですね。つまり、そもそもがギター用の製品なだけに、モノによってはラッパでかけてもイマイチ効果の不明瞭なヤツがあり、このような帯域設定の機能はラッパ吹きにはとてもありがたいものでした(サウンド的にはミッドの薄いドンシャリな感じ)。



Plutoneium Chi Wah Wah

最初の動画は、わたしの現在の足元に収まっている '手のひらワウ' の先駆、シンガポールのガレージ・メーカーPlutoneium Chi Wah Wahです。光学式センサーによる板バネを用いたワウペダルで、通常のワウとは真逆の踵側を '踏み踏み' して操作します。専用のバッファーを内蔵し0.5秒のタイムラグでエフェクトのOn/Off、そして何より便利なのがワウの効果をLevel、Contour、Gainの3つのツマミで調整できるところ。特別、これにしかない優れたトーンを持っているとは思いませんが、基本的なワウのすべてをこのサイズで実現してしまったものとして重宝しております。ワウの周波数レンジは広いものの、ペダルの踏み切る直前でクワッと効き始めるちょっとクセのあるタイプ。また、2010年の初回生産分のみエフェクトOn/Offのタイムラグが1.1秒かかる仕様だったので、中古で購入される方はご注意下さいませ(2010年10月以降は0.5秒仕様)。そして、本機はペダルボードの固定必須で使うことが条件で、普通に床へ置いて使うと前にズレていく安定の悪さがあり、操作のスタイルも踵側を踏むことから立つより座って踏んだ方が演奏しやすいと思います。ちなみに上記リンクのPlutoneiumのHP、アジア全開の色っぽさで彩られており・・かな〜りセクシーです!




そもそも最初のきっかけがラッパを真下に向けてワウペダルを踏むマイルス・デイビスのステージ写真です。それまで管楽器とエレクトロニクスが結び付かなかったわたしの中で、マウスピースから伸びているケーブルと足元のワウペダルの ‘不釣り合い’ な印象は衝撃でした。何なんだこれは?どういうこと?と、もう頭の中が???だらけなのです。今と違ってインターネットなどない時代だけに、とにかくどこから手を付けようかと考え、神保町の古本街を回りスイングジャーナル誌のバックナンバーを探すことから始めました。1972年、1973年、1974年、1975年の特集記事はほとんど集め、今でもスクラップにして大切に保存してあります。さらに新大久保の管楽器ショップを回り出して情報収集をする内に、どうやらマウスピースの '物体' はBarcus-berryのピックアップであることを突き止めます(正確にはShureのピックアップなんですが)。あるお店で当時のBarcus-berry代理店であるパール楽器発行のカタログを入手し、ようやくその全貌を掴みかけたものの、何と本国ではすでに製造中止となったとの報を貰います。もともと日本に入荷する数も少なかったアイテムだけに、かなりの数の楽器店へ電話をしまくったのですが梨の礫・・。それでもようやくヤマハ銀座店に1点のみ在庫あります、の連絡あり、喜び勇んで駆け付けたことが昨日のことのように懐かしい。それも、かなり珍しいBarcus-berry 6001というエレクトレット・コンデンサー・ピックアップだったのにはビックリでした。そこで手持ちのカタログの価格表を見れば、何とBarucs-berry全製品中ダントツの高額である約6万なり・・。もう清水の舞台から飛び降りる気持ちでいきましたヨ。さすがにマイナーな製品故か、店員もどうやって取り付けて使用するのか皆目分からない状態だったのですが、以前に新大久保の老舗管楽器店であるDACで情報収集した際、フュージョン全盛期によく楽器に穴を開けてそれを取り付けたよ、という店員さんと知り合い、もしピックアップを見つけたら持っておいでと声をかけてもらっていたことを思い出します。もちろん、そのまま新大久保へ向かったのですが案の定、その店員さんもよく見つけたねえ、とビックリするやら呆れるやら。しかし、ここからがわたしにとっての '地獄の始まり' なのでした・・。

当時使っていたGiardinelliのマウスピースに穴を開けて接合されたピックアップ。さっそく自宅に戻り、付属のプリアンプBarcus-berry 3000Aに繋ぎミキサーでモニターしたのですが・・ん!?これは正しい音なのか!?正直、これが最初にこのタイプのピックアップを用いたときの感想です。ラッパを吹いている人に分かりやすく伝えるならバジングの音。そう、マウスピースだけを手で持って口に当て、ビービーと鳴らしたときのあの音です。ピッチも取りにくければ、そもそもラッパの素の音とはまるで違うコイツをどうチューニングしていくかが アンプリファイ最初の壁でしたね。確かに、原理的に考えれば音の源である口元へマイクを接合するワケですから、そのノイズをダイレクトに拾ってしまうのは当たり前なのです。それも感度の高いコンデンサー・ピックアップなので息の吹かれや、音源との近接効果による低音の持ち上がりなど、技術者から見たらそんな場所にコンデンサー・ピックアップなんか使うな!と注意するところ・・コレ、今から考えても設計的に失敗した製品ではないでしょうか?



DPA SC4060 Condenser Microphone

近藤等則さんはこのBarcus-berry 6001ピックアップを78年ほど使い、コイツの設計思想をベースに(ピックアップ本体のスクリューネジによる着脱、ポリプロピレンのスクリーンによるマイクの保護など)DPAのコンデンサーマイクを流用し、現在オリジナルなマウスピース・ピックアップでラッパを鳴らしております。DPAのマイクの性能は分かりませんが、このBarcus-berry 6001は一言でいえば酷い音でした。そんな酷い音を手なずけて、どうチューニングしていくかなんて皆目見当も付きません。これはコンドーさんも言われておりましたけど、1979年にニューヨークで初めてマウスピースに穴を開けてピックアップを取り付けたものの、そこからはラッパ用の機材なんかない状況でどうチューニングしていくか途方に暮れたそうです。いつまでもあがきは続くよと言われてましたがまさにその通り!

さて、そんな高いお金出して買った酷い音をどうねじ伏せてやろうかとしばし思案していたのですが、さっそく効果を現したのはJim Dunlop Uni-Vibeのコーラス効果。つまり音をダブリングさせてギザギザしたエッジをマイルドにすることで思いのほか演奏しやすくなりました。しかし、ピッチをデチューンすることで効果を現すエフェクターだけにかけっ放しするワケにはいきません。そして、次に手を出したのがコンプレッサーのMXR Dyna Comp。音のピークを叩いてならすにはコンプレッサーというエフェクターが有効だとの情報を得て、この赤い小箱を繋いでみたのですが、う〜ん、確かにコイツも音のギザギザしたところを目立たなくさせ、演奏はしやすくなりましたが、このコンプ特有のエッジの丸くなる圧縮感に違和感を覚えました。特にDyna Compというヤツは圧縮感の強いコンプの代表格です。とりあえずこれ以上の解決策は見つからず、この誤魔化した感じのままやむなく、ラッパとエフェクターの関係についてあれこれ探求を始めることとなります。





そんな中、Jazz Life誌で復活したザ・ブレッカー・ブラザーズの記事を読んで、ランディ・ブレッカーがBossTW-1 T Wahというエンヴェロープ・フィルターとオクターバーのOC-2 Octaveを用いているということを知り、さっそく同じモデルを中古で見つけてきて足元に追加。ここから 'フィルター&オクターバーの旅' にしばし出かけることとなります。ちょうどワウペダルのかかりの悪さに悩んでいたので、オクターバーをかけてエッジが際立つのはナイスだと思いましたヨ。(雑誌の記事を通してですが)ランディ良いアドバイスありがと〜。



Mu-FX Tru-Tron 3X

また、エンヴェロープ・フィルターもワウペダルとは違うニュアンスでハマり、具体的なことは以前に書いた 'パコパコで '先祖返り'' の方を読んでもらうとして、ここからラッパとシンセサイズ的な興味へと向かうこととなります。まったく歯が立ちませんでしたが、古いRolandのSystem 100というモジュラーシンセのモジュールの一部を手に入れて、外部入力からVCF、VCA、LFOを通してどのように変調するかの実験も試してみました。上の動画は、わたしのお気に入りであったMu-Tron Ⅲ+のオリジナル版を設計したマイク・ビーゲルが新たにデザインした後継機、Mu-FX Tru-Tron 3XをFarnell Newtonなるラッパ吹きが用いているもの。おお、結構エグくかかっておりますねえ。



Electro-Harmonix Micro Synthesizer

こちらは、そんな 'ギターシンセ' の代表格、Electro-Harmonix Micro Synthsizer。現行品はよりコンパクトなサイズとなりましたが、やはりエレハモといえばこのデカいヤツです。中身は上下1オクターヴのオクターバー、Square Waveと名付けられたファズ、いわゆるエンヴェロープ・モディファイアの機能であるAttack Delay、そしてエンヴェロープ・フィルターの機能を各々ミックスすることで 'シンセ風' な効果を生み出します。それなりに気に入っていたとは思うものの、金欠ですぐに手放してしまったかで正直あまり覚えておりません。機会があれば、いまもう一度使ってみたいと思いますね。しかしあれこれと探求してきたラッパの 'アンプリファイ' も2000年代の半ば頃、それまで頑張ってきたBarcus-berry 6001が断線してあえなく 'オシャカ' となりました。購入当初からこれは切れそうだな、と心配になるくらい細いケーブルの代物だったのですが、やはり楽器を振り回すことで相当のストレスを与えていたようです。残念に思いつつも時代はちょうどインターネット全盛期、この '代替え' を探すことにそれほど労力はいりませんでした。

Barcus-berry 1374 Piezo Transducer Pick-Up

とある所有者と交渉し、Barcus-berry 1374(1375-1)というピエゾ・ピックアップのデッドストック品を入手。ビックリしたのは、それまで使っていた6001とは比べものにならないくらい '扱いやすい' ことです。微弱な振動を電気的に音へ変換するピエゾ・トランスデューサーは、単にマイクで増幅するものとは違い、素直に音のニュアンスを再生してくれます。もちろんピエゾ特有のシャリっとした音質だったり、取り付け位置による収音のバランスの問題などはありますが、プリアンプやEQなどでチューニングして現在もわたしの '口元' で活躍中。コイツは6001と違い、ピックアップ本体からの細いケーブルは中継コネクターを介してギター用ケーブルに変換するので、直接細いケーブルへのストレスが加わらない設計なのも良いですね。そして、再び足元のエフェクターを取っ替え引っ換えしながらマイクやプリアンプにもいろいろ手を出して・・使った総額は数えたくありませんねえ。そしてBarcus-berryピックアップもスペアとしてかなりの数を集めたのですが、それらをサウンドチェックしてみると同一品にもかかわらずピックアップ(の感度)に結構な 'バラツキ' のあることが発覚。う〜ん、これは底なし沼・・本当にキリがありません。

ああ、20年なんてあっという間・・。


さて、コンスタントに動画をUPするJohn Bescupさん、今度はアシッド・ジャズ期に再評価されたギタリスト、アイヴァン "ブーガルー・ジョー" ジョーンズによる 'Right On' のカバーです。



しかし、手元足元にエフェクター満載なのですが、ほとんどDamage Control Glass Nexusがメインなんですねえ・・たま〜にMalekkoのビット・クラッシャーBITでリング・モジュレーションな効果をアクセント。ま、同じエフェクター好きとしていろいろ並べたい気持ちは分かります。



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