すでにトランペットは生涯使いたいモノが手許にあるので滅多に物色することはないのですが、その愛機であるTaylorからまたミョーな 'キワモノ' 登場です(笑)。日本じゃこーいうセンスはよっぽどのモノ好きじゃない限り黙殺されるのですが(苦笑)、TaylorのFacebookのコメント欄を見れば世界中にいる変わり者な 'Taylor信者' から賞賛と質問の雨あられ...。これもトランペットという楽器に求めるものとして、控え目から紡ぎ出される実直さ vs いかに目立つかの国民性の違い、なんでしょうか?(あまりにやり過ぎて楽器としての本質を見失っちゃったようなセンスのモノは酷いけど...)。ココのラッパ見てると同じく 'キワモノ' 扱いながら、今や世界でその名を馳せるスイスのInderbinenが可愛く見えますヨ(笑)。別の言い方をすれば '管楽器のサイケデリック' と言っても良いくらい肥大化、グニャリと変形したような '意識の拡張' から具現化された造形美と言えるのかも(違うか...笑)。
独特なアシンメトリックの楕円形ベル 'Oval' シリーズが始まったのは2014年頃であり、それ以降は不定期に 'Custom Shop謹製' としてやってきたこの形状が '楕円から四角へ' のテーゼで変貌したのがこちら...。この理論的根拠をすっ飛ばした?ような '遊び心' は、ホルンの名門Paxmanのベル職人として研鑽を積んだアンディ・テイラーのアタマの中から迸るアイデアとして溢れ出ているのでしょう。最近は量産ラインでJohn PackerとのコラボによるJP Taylorやアダム・ラッパ・プロデュースで少量ハンドメイド製作を請け負うLotus、そして台湾の工房Carol BrassとOEM契約してTaylorの人気ショート・ゲルホン、Phat Puppyの広報に務めるなど、従来のハンドメイド体制一辺倒から脱してきております...(賛否ありますけど)。
しかし、もはや 'モノマネMonette' の蔑称でこの工房のラッパを蔑む人はいないくらい大きな存在となったことは確かです。その代表的なモデルが 'Custom Shop謹製' によるChicago Customであり、ここ日本ではジャズのラッパ吹き、佐渡涼氏がヘヴィな吹き比べとして最近イタリアから新たな旋風として話題のAR Resonanceのビッグベル(150mm!)Estremaとの比較動画。日本には140mmのブロンズベルを備えた 'Suprema'、150mmビッグベルの 'Estrema'、132mmと140mmのニッケルシルバーベルを各々選べる 'Feroce' の3種、フリューゲルホーンの 'Soave' が入ってきております。また、TaylorやLotus、Adamsのラッパにも標準装備される画期的なピストン・システム、M.A.Wilk Brassの "MAWバルブ" を装備し、さらに上述したLotusのラッパと同じくこちらもフォスファーブロンズ(リン青銅)などハイブリッドな素材を組み合わせた最近のトレンドに倣っております。そして特徴的なのが、レシーバー部をスクリューネジ式でMonette風のヘヴィ型マウスピースから専用のアダプター装着による既存の他社製マウスピース使用など、幅広いセッティングにも対応しているのは嬉しいですね。さて、もうひとつ現在の管楽器界隈で気炎を吐いているのがアダム・ラッパ・プロデュースのLotus。どこかTaylorのラッパとよく似てるなあ、と思った人がいたらご明察。ベルなどその製作の一部をアンディ・テイラーが請け負っております。その 'アダム・ラッパ仕様' とも言うべき独特な4バルブ・システムを備えたSilver Flare登場しました。このLotusのラッパもイエローブラス、ブロンズ、フォスファーブロンズ(リン青銅)、ニッケルシルバーという異なった素材を適材適所に組み合わせて新たな '鳴り' を獲得。今後、このようなハイブリッドなラッパがひとつのトレンドとなることは間違いありません。
→Spiri Da Carbo Vario B♭ Trumpet Review
そうそう異種の素材としてはスイスのSpiriから音響工学のAndreas Kellerの手がけた 'daCarboシリーズ' によるカーボンファイバーベルのラッパ、フリューゲルホーンも忘れてはいけません。あの'電気ラッパの伝道師' こと近藤等則さんも生前メインとして愛用しており、 この 'daCarbo' シリーズとしてベル丸ごとカーボンの 'Vario' と半分のみカーボンの 'Unica'、そしてToni Maierなるラッパ吹きのシグネチュアモデル(サターン・ウォーターキー付き!)の3種がラインナップしております。全てブラスの管体と比べ、どこか '筒っぽい' コォ〜とした共鳴の抑えた鳴り方がカーボンならではの特徴かな、と思いまする。
そうそう異種の素材としてはスイスのSpiriから音響工学のAndreas Kellerの手がけた 'daCarboシリーズ' によるカーボンファイバーベルのラッパ、フリューゲルホーンも忘れてはいけません。あの'電気ラッパの伝道師' こと近藤等則さんも生前メインとして愛用しており、 この 'daCarbo' シリーズとしてベル丸ごとカーボンの 'Vario' と半分のみカーボンの 'Unica'、そしてToni Maierなるラッパ吹きのシグネチュアモデル(サターン・ウォーターキー付き!)の3種がラインナップしております。全てブラスの管体と比べ、どこか '筒っぽい' コォ〜とした共鳴の抑えた鳴り方がカーボンならではの特徴かな、と思いまする。
ただ、一方では独創的な 'Flumpet' へのTaylorからの '回答' (要するにパクリ)などもやってたりするんですけど、ね...その名も 'Phrumpet' という(苦笑)。Monetteの独創的な金管楽器の革命は 'Raja Samadhi' を始め多くの革命をもたらしており、それはアート・ファーマーの要望でMonetteが製作したトランペットとフリューゲルホーンの '混血' Flumpetに結実します。コルネットから持ってきた 'シェファードクルーク' と共に今やトランペットやフリューゲルホーンから違和感なく持ち替えられるひとつのスタイルとなりました。また最近は、もうちょいトランペット寄りなコパーベルによる 'Balladeer' というカスタムも製作しておりまする。その他、本機のコンセプトからインスパイアされたものとしては、ジャズのラッパ吹きであるLuca Aquinoのシグネチュアモデルとして製作されたVan LaarのAquinoなどもそのひとつと言って良いでしょう。
そのMonetteのヘヴィタイプなラッパが世を賑わせていた頃にフランスの名門、アントワーヌ・クルトワから追従するように登場したEvolution Ⅱ。永らくその変わらないフォルムの伝統を引き継ぎ、ヨーロッパのクラシックの中で育まれてきたトランペットという金管楽器は、このMonetteを主宰するデイヴィッド・モネットの 'Raja Samadhi' を合図に 'ヘヴィタイプ' という設計思想から新たなカテゴリーを生み出しました。あのウィントン・マルサリスが愛用したことでMonetteを象徴したRaja Samadhiの 'ダブルベル' の発想に対するフランスからの '回答'、それがこのEvolution Ⅱであったと記憶しています。また、異なるマウスピースに対する吹奏感の補正を行えるギャップの調整システムはクルトワならではのアイデアですね。
さて、ヘンチクリンなデザイン過多のヤツ、ただただ重たい 'パクリMonette' のヤツにはまったく興味なかったのですが、わたしの愛機は独自設計な楕円形 'Ovalベル' によるラッパの '46 Custom Shop Shorty Oval' でございます。これまでヘヴィタイプのラッパをあまり良いとは思わず、個人的に好きなのはMartin Committeeのようなニュアンスの幅が広い楽器。しかし、このTaylorが2014年に製作した '46 Custom Shop Shorty Oval' は一目で惹かれてしまった。Taylorはこの年を境に 'Oval' と呼ばれる楕円形のベルを備えたシリーズを展開しており、そのユニークかつ独創的なスタイルに注目していたのですが、それを短いサイズにしたトランペットとして新たな提案をしたことに意味があるワケです。ええ、これは吹奏感含めロングタイプのコルネットではありません。トランペットを半分ちょいほど短くした 'Shorty' なのですが、ベルの後端を 'ベル・チューニング' にして '巻く' ことで全体の長さは通常のトランペットと一緒です。その 'Shorty' シリーズとしてはこの 'Oval' ベルのほか、通常のベル、リードパイプを備えたタイプも楽器ショーの為に製作されたので総本数は2本となりますね。重さは大体1.4Kgほどなのですが、短い全長に比して重心がケーシング部中心に集まることからよりズシッと感じます。また、この 'Shorty Oval' はマウスピースに穴を開けてPiezoBarrelピックアップを装着する 'アンプリファイ' で鳴らしておりますが、そのままアコースティックのオープンホーンで吹いてみても通常のラッパと何ら遜色無くパワフルに音が飛びますヨ。そして、まだWilson傘下で良い品質のものを手作りしていた頃の 'Bauerfeind' ピストンによるフェザータッチの操作性は最高です。また、これとは別にかなりの '巻き' の入ったショート・トランペットなども 'Custom Shop謹製' で製作していたりします。ちなみにこの手のショート・トランペットにおけるルーツ的存在では、以前フランスで製作され近年再評価により復活したPujeのトランペットがありまする。大久保管楽器店のリペアーさんが試奏もせず一目惚れの 'ジャケ買い' でオーダー、手に入れたそーです(笑)。一方、そんなPiezoBarrelピックアップのアドバイザーとして貢献したのが、バークリー音大で教鞭をとりプロとしても活動するDarren Barrett氏によるSchilkeのポケトラでの 'アンプリファイ'。音量の小さいポケトラと組み合わせるやり方は良いかもしれない...。さて、標準的なラッパからヘヴィタイプまでその吹奏感を試してくれるのは日本を代表するラッパ吹き、類家心平さん。自身が愛用するRoy Lowlerのラッパを手始めにしてBenchmark、AR Resonance、Martin、Monette、Mandala(サブのVan Laar Oiramを吹かないのは惜しい)といった豪華な試奏動画をどーぞ。類家さんといったら、あの左頬が大きく膨らむ 'ガレスピーズ・パウチーズ' と共に枯れたサブトーンがトレードマークですよね。そして類家さんによるMonetteの感想というか、ヘヴィ系ラッパ共通のニュアンスの問題ってよく分かりますねえ。あのミッドにミチッとした音像の崩れないピッチの安定感と高音域にスラーで吹き上がっていく時の幅の狭さ..。最高峰ということでトップ・プレイヤーが一度は手にして、その '離職率' (笑)の高さも一定数いる好き嫌いの激しい楽器でもありまする。
ラッパ界の 'キワモノ' 2トップの座を占守する(笑)スイスのトマス・インダービネンが主宰する工房、Inderbinen。2018年に急逝してしまったロイ・ハーグローヴがココの楽器を特に愛好していたことで、今でも世界に多くの '信者' を抱えているラッパでもあります。従来のラッパにはなかった奇抜な発想の先駆として、管体すべてに銀をダラダラと垂れ流しちゃうこのSilver Artの衝撃。正直、ラージボアで銀の固めまくったベルは鳴らすのキツそうで、さらにInoxやDa Vinciとか・・この 'やり過ぎ' な感じは一体何なんだ?。通常のチューニングスライドとは別にベルが可動式の 'チューニングベル' 式でネジ止めされて、管体の大半をそのスクリューネジの '締め具合' による組み上げから鳴りを調整するなど、実にユニークな構造となっております。伝統的なラッパと比較すればふざけているとしか思えないほどブッ飛んでおり実際、ラッパ業界は 'Selmer信仰' の強いサックスに比べてヴィンテージへの執着が薄いことからチャレンジ精神旺盛のマイスターを輩出する背景になっております(音響工学とカーボンベルとか)。また同工房のWoodというフリューゲルホーンは、古のSelmer K-Modifiedフリューゲルホーンにインスパイアされながら独自のトーンで唯一無二の個性で人気がありますね。日本ではTokuさんがSilver Artと並び愛用してトレードマークとされている楽器でもありまする。ただ、エクストラ・ラージボアの管体に銀をダラダラ垂れ流しの固めまくり...鳴らし切るのキツそうだなあ...。
そんなInderbinenのラッパの中でもキワモノ度としてSilverart以上に珍重?されているのが、何やら管体にゴテッと焼き物?の如く塗り固められているInoxと成金趣味全開のド派手なDa Vinciの2種。特にこの真っ黒いInoxはキミョーなリードパイプのデザイン含め、昔からずっと気になってたんですよねえ...欲しい!。製品ページによれば鋼粉と特殊な接着剤を混ぜ合わせたものを分厚く管体にコーティングしているようで、ダイナミクスの強弱から共振を極力抑えた設計にしているとのこと。ちなみに1.7kgもあります...。コレの通常ヴァージョン?と言うべきか、薄いスティール・コーティングで1.2kgの仕様としたのがToroなんですが、どちらもエクストラ・ラージボアということからパワフルでオープンな吹奏感が特徴です。
一方、最近その勢いを誇っているのがクリスチャン・スコット。彼の作品 'Stretch Music' のジャケットに現れるラッパを上下引っくり返したような?ヤツ(クレジットは 'Reverse Flugelhorn' となっている)は正直、かな〜り格好イイんですが、このスコットさんはいろんなタイプのアップライト・ベルなラッパをAdamsに '一品モノ' でオーダーしております。お気に入りなフリューゲルホーンの 'Reverse' のみならず、'Sirenette' というこれまた独創的なコルネットもユニークですね。トレント・オースティンさんのお店ACBでもコパーの一品モノをReverb.comで販売していたようですが、コレは無理してでも手に入れたかったなあ...。
そのクリスチャン・スコットと並んでユニークなラッパ吹きなのが、シカゴ出身のモーリス "モーベター" ブラウン。しかし、後述するシャーガルのガンシュホーンと '異種兄弟' のようなルックスのこの独特なラッパは何だ!?。コレ、よく見るとベルとチューニングスライドがクロスするようにバルブケーシング周りをウネってるんですよね...(凄)。ちょっと検索してみても全く出てこないのだけど、こーいう '自己主張系ラッパ' を求めるのは黒人ミュージシャンに共通するセンスだったりします(笑)。
そんな独創的なラッパの中でもドイツやオーストリアなど一部のオーケストラでは、トランペットと言えばピストンをフレンチホルンと同じロータリーバルブの横置きにしたロータリー・トランペットのことを指すようです。ジャズでは構造的にハーフバルブなどの細かいニュアンスが出来ないとかで一般化しておりませんが、ブラジル出身のラッパ吹き、クラウディオ・ロディッティなどはロータリーでバップをやったりしております。そのロータリーを今度はそのまま縦置きにしてピストンと同じ感覚で吹けるように作ってしまったのが、発案者であるトマス・ガンシュの名を付けたSchagerlの 'Gansch-Horn' とフリューゲルホーンの 'Killer Queen'。柔らかいトーンとロータリーならではのメカニカルな操作、そして 'くの字' 型に曲げたベルがこれまた格好良し。ロータリーでジャズやラテンが出来ないって誰が言った?。
ここ最近、わたしがTaylor Shorty Ovalトランペットに合わせていたマウスピースを新たに変更しました。これまではヴィンテージのGiardinelliによる6VSのコルネット用をJKの247アダプター(Cor→Tp変換アダプター)に挿して使用しておりましたが、どうもそのシャンク長とTaylorシャンクのミスマッチしたバランスから高音域の詰まり、ピッチのフラットする感じがイマイチだったのです。そこでたまたま安価で手に入れたC.G. ConnのConnstellation 7C-Nで吹いてみたところ結構良し。コレはその名の通りC.G. Connの名機Connstellationの付属として用意され60年代〜70年代にかけて製作されたマウスピースであり、リム内径は16.4mm、26のスロート径とBach 3CやGiardinelli 7C程度のサイズで抉りがあります。冒頭の動画はその7C-Nよりちょい大きめのサイズで、Constellationシリーズの前身に当たるModel 4マウスピースの試奏。一見、ヘヴィタイプのようなデザインというかMonetteのUnityマウスピースっぽく見えますけど(笑)、フツーのバランスによるマウスピースですね。その後、複数の7B-Nを入手していくつか試しましたがこちらは浅めのカップ内径で、やはりわたしは深めの7C-Nがピッタリと口に合いました。ちなみにC.G. Connの電化したサウンド・システムであるMulti-Viderの付属品として、'Telex' ピエゾ・ピックアップを装着出来るアダプター接合の7C-Wなどが当時ありました。こちらはワイドで薄めのクッションリムとなっております。
→Piezo Barrel on eBay
→Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
→Piezo Barrel Instructions
→vimeo.com/160406148
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現在、わたしが愛用しているのが、スティーヴ・フランシスさんがひとりオーストラリアの工房で手作りするPiezoBarrel。現在の主力製品は木管楽器用 'P5' と 'P7' に金管楽器用 'P9' になります。ピックアップ本体底部にはメーカー名の刻印、全体の金や黒、青いアルマイト塗装が眩しいですね。さらに同梱するマウスピースが 'ショートシャンク' の中国製 '無印' やFaxx製となりサイズに1Cが追加。また付属するケーブルも金属製プラグとなり、ピックアップを着脱するアダプターがマウスピースのカーブに合わせた波形の加工が施されるなどグレードアップしております。このカーブ状に加工されたソケット部は大変ありがたく、以前は 'DIY' するに当たってマウスピースのシャンク部を平らに削り取っていた手間が不要になったこと。製品としては、ピックアップ本体を封入するフィルムケースをさらにデザインされたパッケージで包装し、PDFによる取扱説明書などを用意してきちんとした印象になりました。本機の開発に当たってはスティーヴさんによればバークリー音大で教鞭もとるDarren Barrett氏(今や 'All The Things Brass And Technology' 動画の中のおじさんと言った方がいいか)とのテスト、助言を得てデザインしたとのこと。その中身についてメールで以下の回答を頂きました。
"The P9 is different internally and has alot of upper harmonics. The P6 (which was the old PiezoBarrel 'Brass') was based on the same design as the 'Wood' but with more upper harmonics and a lower resonant frequency so they do not sound the same."
なるほど〜。実際、以前の 'P6' と比較して高音域がバランス良く出ているなあと感じていたのですが、かなり金管楽器用としてチューニングしてきたことが分かります。一方で以前の 'P6' は木管楽器用との差異は無いとのこと。基本的にはピックアップ本体、ソケット加工済みのマウスピース、ケーブル、ピックアップ内蔵のゲイン調整の為のミニ・ドライバー、複数のソケットが同梱されて販売されております。Bachタイプのマウスピース・サイズは7C、5C、3C、1Cの4種がありますが、このPiezoBarrel 5Cの新旧比較画像からもお判りのように、'P9' 以降は通常タイプのほかショートシャンクのギャップを持った '無印' と 'Faxx製' のBachタイプも用意。そして以前の製品では、真っ直ぐに切削されたアダプターをマウスピースのシャンクを平らに削り取る手間を経て接合しておりましたが、この波形に加工されたアダプターをハンダで接合した方がその強度面でも圧倒的に有利です。ちなみに以前は不定期でMonetteタイプのものもラインナップしておりましたがスティーヴさん曰く、あの分厚い真鍮の切削加工が大変で止めてしまったとのこと(苦笑)。いやホント、金属の穴開け加工って地味に手間かかるんですヨ。
いや、管楽器の電化ではなくあくまでアコースティックのエフェクトにこだわるゾ、という方にはこんなユニークなアイテム、サブトーン生成のためのアタッチメントである '曲がった釘' はいかがでしょうか(笑)。このWhisper-Pennyなるドイツの工房の一風変わった工房はかなりの '独自理論' で突っ走っており、マウスピースのスロートから奇妙な金属棒を入れてスロート径を狭くしてズズッと息の抵抗を強調する 'サブトーン' な 'エフェクト' を生成。かなり息は取られるとのことですが、ミュートとは別に新たなラッパの 'アタッチメント的' 音色として普及したら面白いですね。ちなみにこの動画でWhisper-Pennyのラッパとして吹いてるものが、実はLuttkeという工房の製作するElephant Trumpetというのに良く似ているのだけどOEMなのかな?(謎)。
さて、このような 'マウスピース・ピックアップ' の黎明期にはC.G. Connのほか、H&A Selmer、Vox / King、Gibson / Maestroから各々純正品が用意されておりました。1970年代にBarcus-berryが市場に現れるまではH&A Selmerが一部単品で用意する以外、基本的に 'アタッチメント機器' の付属品という扱いでした。こちらはC.G. Conn Multi-Viderの為のピックアップとして用意されたRobert Brilhartさん製作による 'R-B Electronic Pick-Up'。ピックアップ単体のほか、ピックアップとアンプの間にパッシヴのヴォリューム・コントロールを用意して、奏者の腰で調整出来る仕様もありました。ケーブルはストレートなものとカールコードの2種を用意して 'デンマーク製' と表記されておりましたが、本製品はC.G. ConnのほかGibsonのMaestro、さらに専用品を用意していたVox Ampliphonicへも 'Uni-Level(Universal) Pickup' の汎用品として各々 '互換性オプション' の為に納入されておりました。このような同種製品による各社を跨ぐ供給網は、例えばマイクの名門Shureが用意したCA20BピックアップがH&A Selmerのほか、Hammond製作のInnovex Condor RSMの為に供給されていたことからも伺えます。当時の管楽器による使用では数え切れないほど多岐に渡っており、トム・スコット1967年の 'The Honeysuckle Breeze' からモー・コフマン1967年の 'Moe Koffman goes Electric' を始め、ドン・エリス1964年の 'Bonbay Bossa Nova' から1968年の 'Indian Lady' などでその '電化された姿' と共にシタールの抹香臭い香りがジャズのアウトサイダーたちを刺激し始めます。
ちなみにそのドン・エリスがインド音楽やジューイッシュ、アラビック・スケールなどを吹くべくHoltonにオーダーしたものとして知られているのがクォータートーン・トランペット。4本目のピストンを追加することで半音の半分、1/4音という微分音を鳴らすことが出来ます。最近、そのアラビック・スケールを基調に活動するレバノン系フランス人のラッパ吹き、Ibrahim Maaloufがこのクォータートーンの代表的奏者。当初はこの微分音を求めてMonetteにHoltonと同種の構造(4本目のピストンを右手の小指で操作)のラッパを試作してもらっていたようですが、最終的にはVan Laarへオーダーしたものを吹いておりますね。こちらは4本目のピストンを左手の人差し指で押しやすいように、若干左側に傾けて配置しているのが特徴です。すでに上述したLotusのSilver Flareではこれを4本目のスライドで調整して出しております。
インドの民俗楽器であるシタールが、当時の新しいロックの響きの中で渇望されていたというのは、今から考えると相当に '異様なもの' のように思えてきます。それは突然、欧米の文化圏の中から三味線や尺八が聴こえてくるようなもので、以前なら 'エキゾティック' なもの、今風に言えば 'Cool Japan' などと称して取り上げていたことでしょう。しかし1960年代後半、このシタールを始めとした東洋文化とヒッピーイズムの伝播は、遠くインドシナの地で泥沼に陥ったベトナム戦争を始め、それまで誇っていた欧米の価値観が揺らぎ出していたことに意味がありました。つまり、単なる流行を超えたところで時代を乗り越えようとする若者の反乱と意識改革に大きな力を与えた '響き' がシタールにはあったのです。1965年のザ・ビートルズ 'Norwegian Wood' と1966年のザ・ローリング・ストーンズ 'Paint It Black' で、それぞれシタールをフィーチュアしたことがロックにおけるシタール・ブームのきっかけを作ります。以後、サイケデリック・ロックにおいてシタールの響きは人気を博し、またジャズや映画音楽においても多用され、当時のフラワー・ムーヴメントを彩る 'サウンドトラック' として、大音量のエレクトリック・ギターと共に時代の空気を代弁しました。ここ近年のサイケデリックに対するリバイバルで見るなら、1990年代以降のアシッド・ジャズ、モンド・ミュージックとの繋がりでドイツのジャズ・ロック・グループ、ザ・デイヴ・パイク・セットの 'Mathar' が再評価されたことは大きいですね。それまでの瞑想的なインドのラーガ的イメージから一転、シタールをグルーヴィな8ビートに乗せるという価値観から '民俗音楽' としてのバックグラウンドを引き剥がしました。ここでシタールを弾くクリーゲルさんは1970年代をジャズ・ギタリストとして駆け抜けながら1980年代には廃業、その後、不動産業かなにかに転身してしまったという変わり種の人でもあります。そして 'ドイツ繋がり' でクラウス・ドルディンガーのずばり 'シタール・ファンク' の1968年作キラーチューン 'Sitar Beat' が続きます。一方、何とも謎のグループ、ザ・ソウル・ソサエティの 'The Sidewinder'。そう、一聴してお分かりのようにリー・モーガンのヒット曲ですね。1960年代後半に 'Saticfaction from The Soul Society' というアルバムをDotというレーベルからリリースしたグループのようで、その他、当時のヒット曲であるサム&デイヴ 'Soul Man' やザ・ローリング・ストーンズ 'Saticfaction'、ミリアム・マケバの 'Pata Pata' などをファンキーにカバーする '企画もの' 的一枚のようです。本曲のラテン・アレンジによるイントロで鳴る濃厚なシタールの '響き'、ええ、たったこれだけのアレンジなんですけど良いですね。そして日野皓正さん作の 'Dhoop' も日本のロックバンド、フラワー・トラヴェリン・バンドとのコラボ作で、いかにもこの時代ならではの '抹香臭い' アレンジとなりました。
'花のサンフランシスコ2連発'。さて、このようなシタールに魅了された者たちとしては、当時、ギターにおける早弾きのスキルと相まってアプローチする奏者がロック、ジャズの界隈から現れます。ザ・ビートルズのジョージ・ハリソン、ザ・ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ、ジミー・ペイジの師匠筋にあたるビッグ・ジム・サリヴァン、ジャズにおいては、パット・マルティーノやガボール・ザボ、後にヒンズー教徒に帰依までした 'マハヴィシュヌ' ことジョン・マクラフリンが代表的ですね。また、米国人ながらラヴィ・シャンカールに師事してシタールを習得、そのままジャズの世界で '伝道師的に' アラン・ローバー・オーケストラを始め、数々のセッションを経ながら無国籍グループ、オレゴンを結成、そしてマイルス・デイビスの 'On The Corner' にも参加したコリン・ウォルコットもおりました。その他、パット・マルティーノとの共演を経てマイルス・デイビスのセッションに参加、後にそのメンバーとなるカリル・バラクリシュナ、ウェストコースト一帯でセッション・ミュージシャンをしていたビル・プルマーなどもそれまでフツーの米国人ながらインドに '感染' し、以降は完全に 'ドロップアウト' してしまった連中です。そんなプルマーさん、ドン・セベスキーやデイヴ・グルーシンなど多くの作、編曲家らも夢中にさせたようで、ヘンリー・マンシーニがOSTを手がけた1968年のハリウッド映画 'The Party' は、そのテーマ曲でのシタール演奏をビル・プルマーが担当しました。またプルマーが同時期にImpulse !で吹き込んだ一枚 'Bill Plumer and The Cosmic Brotherhood' から、これまた同時代のバート・バカラックによるヒット曲 'The Look of Love' をどーぞ。このように '時代の音色' としてシタールを取り入れる一方で、インドの古典音楽の持つ即興演奏の '構造' にアプローチするジャズマンも登場します。スイス人ピアニスト、イレーネ・シュヴァイツァーが後にクラウトロックのバンド、Guru Guruとしてサイケに変貌するウリ・トリプテ、マニ・ノイマイヤーらとサックス奏者ヴァルネ・ウィランやシタール、タンプーラ、タブラでセッションする 'Jazz Meets India' など、欧州での '抹香臭い' 香りの熱病は蔓延します。そして、ジャマイカ出身で米国で活動したサックス奏者ジョー・ハリオットは、早くからインドの古典音楽にアプローチしていた稀有なひとりであり、そのまま西インド諸島の 'カリブ海' と本家インドを結び付けるかたちで先鋭的な 'クロスオーバー' を提示します。インド人ヴァイオリニストのジョン・メイヤーと '双頭' による 'Joe Harriot - John Mayer Double Quintet' としてAtlanticから立て続けに発表した連作は、まさに彼のキャリアの集大成として今後 '再評価' されるでしょう。ここではまだ駆け出しのケニー・ウィーラーによる初々しいラッパも拝めます。このジョー・ハリオットとジョン・メイヤーの試みは大西洋を渡り、ブリティッシュ・ジャズのジャズマンたちを刺激、1969年にThe Indo-British Ensembleの名義で 'Curried Jazz' というアルバムを制作します。ここでは1965年のハリオット、メイヤーらの 'Indo - Jazz Suite' に続いてラッパのケニー・ウィーラーらも参加しておりますが、この時代、まだ駆け出しの 'セッションマン' であったウィーラーがモダン・ジャズからフリー・ジャズ、ジャズ・ロックに加えてこのような 'インドもの' にまで参加するというのは、その後のECMで打ち立てる様式美を考えると感慨深いものがありまする。
この1960年代後半の 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を象徴してDanelectroのヴィンセント・ベルにより開発、登場したCoralのエレクトリック・シタール。シタールの共鳴にも似た 'Buzz' 音を生み出すブリッジ部を備えることでシタール風の音色を出すエレクトリック・ギターの一種で、後にマイルス・デイビスのグループに参加するカリル・バラクリシュナも携えていた一本でもあります。数年前にJerry Jonesにより復刻されて、最近再びDanelectroから正式のかたちで市場に供給されたことからもそのユニークな音色は健在ですね。しかしドラムスのアル・フォスターはともかく、1973年の10人編成だったマイルス・デイビス・バンドの画像で完全に忘れられたのかカットされてるシタールのカリル・バラクリシュナ...可哀想すぎる(涙)。上の弾いてる画像がそのご本尊でございます。そして、このインド音楽の 'お供' として、施法のラーガと共にインドの変拍子なリズム構造ターラをさらうに当たって便利なのがこちらのタブラマシンですね。ティーンタール(16拍子)、エクタール(12拍子)、ルーパクタール(7拍子)、ジャクタール(10拍子)などなど・・とターラの基礎ビートをプリセットによるパターンの 'ソング' を組んで学ぶことが可能。
そんなマイルス・デイビスの濃密なエレクトリック・ファンクに大きく貢献したのがVoxのワウペダルとGiardinelliのマウスピースに接合されたピエゾ・ピックアップ。これはHammondがInnovex Condor RSMの為に用意したShureの 'マウスピース・ピックアップ' であり、その世界初の 'ギターシンセ' と呼ばれるCondorはHammondがOvationと協業して製作したものでした。ギター用のGSM、管楽器用RSM、鍵盤などステレオ入出力に対応するSSMの3種が用意され、RSMはいち早く管楽器の電化にアプローチしたエディ・ハリスや駆け出しの頃のランディ・ブレッカーも手にしました。そして御大マイルス・デイビスにも本機とアンプ一式がデイビス邸へ直々に '売り込み' がかけられていたことを、1970年の 'Downbeat' 誌によるダン・モーゲンスターンのインタビュー記事でこう述べております。
"そこにあったのはイノヴェックス社の機器だった。「連中が送ってきたんだ」。マイルスはそう言いながら電源を入れ、トランペットを手にした。「ちょっと聴いてくれ」。機器にはフットペダルがつながっていて、マイルスは吹きながら足で操作する。出てきた音は、カップの前で手を動かしているのと(この場合、ハーモンミュートと)たいして変わらない。マイルスはこのサウンドが気に入っている様子だ。これまでワウワウを使ったことはなかった。これを使うとベンドもわずかにかけられるらしい。音量を上げてスピーカー・システムのパワーを見せつけると、それから彼はホーンを置いた。機器の前面についているいろんなつまみを眺めながら、他のエフェクトは使わないのか彼に訊いてみた。「まさか」と軽蔑したように肩をいからせる。自分だけのオリジナル・サウンドを確立しているミュージシャンなら誰でも、それを変にしたいとは思っていない。マイルスはエフェクト・ペダルとアンプは好きだが、そこまでなのだ。"
デイビス本人は本機よりアンプとVoxワウペダル、マウスピースに接合された付属のマウスピース・ピックアップに魅せられていたようで、その詳細について以下、上記リンク先のShureのHPから質問コーナーに寄せられた本製品に対する回答でこう説明されております。
Q - わたしはShurre CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。
A - CA20Bは1968年から70年までShureにより製造されました。CA20BはSPL/1パスカル、-73dbから94dbの出力レベルを持つセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それはHammond Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られておりませんでした。
CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられて、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイ・インピーダンスの出力を60'ケーブルと1/8フォンプラグにより、InnovexのCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクツを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax、Fuzz、Cello、Oboe、Tremolo、Vibrato、Bassoonなどの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。
Condorはセールス的に失敗し、ShureはいくつかのCA20Bを生産したのみで終わりました。しかし、いく人かのプレイヤーたちがCA20Bを管楽器用のピックアップとしてギターアンプに繋いで使用しました。その他のモデルのナンバーと関連した他の型番はCA20、CA20A、RD7458及び98A132Bがあります。
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