2023年5月1日月曜日

初夏の '質感' 実験室

3年に渡るコロナ禍からの沈静化により、ようやく夏らしい季節が戻ってくる。わたしは5月から7月くらいまでの初夏の季節が好きだなあ。これが夏真っ盛りの8月になると早くも終わりを迎えてくる9月を想像して気分が黄昏てくるんですけど、ね...。深緑の木漏れ日から差す日差しと共にコロコロと奏でるスティールパンと午睡のいびきのようなクイーカのとぼけた味、チャカポコしたリズムボックスに '感電した' 電気ラッパを混ぜてみる...ほんと、今が一番良い陽気の音楽日和なり。



このダビーな音像によるスティールパンとフェンダーローズ、ヴォコーダーの絡みがとっても気持ち良いなあ...。なるほど、ローファイなブレイクビーツはRolandのSP-404SXで流してるのか。さて、そんな夏の予兆ともいうべき初夏の実験室。手許にあるのは電気ラッパと電気クイーカ、スティールパン...そして以下、今年からちょこっとだけ手を出した 'ユーロラック・モジュラーシンセ ' のモジュールとリズムボックスなども加えながら、こんなシンプルなセットを組んで見ました。ちなみにわたしのスティールパン(ローテナーパン)はチューニング済みの中古を某所で入手したのですが、我が家に到着してスタンドにセッティングしたその夜、東京にそこそこの揺れの地震(3.11じゃないです)がやってきてドカン、コロコロ...の落下からあっという間にチューニングが狂ってしまいました(悲)。どうしようと思っていたところ兵庫の山奥で一人国産のパンを製作する唯一無二のパンマン、生田明寛氏にお願いして再度チューニングして頂きました。元の状態よりさらに響き良くしておきましたヨ、とまで言って頂き大感謝です。いつかは生田氏のパンが欲しいなあ...。




Hikari Instruments Analog Sequencer Ⅱのトリガーを軸に 'Pingサウンド' を生成する同工房のPing Filterから、Bastl Instrumentsによるコンパクト・ペダルとの 'インピーダンス・マッチング' ともいうべきHendriksonを介して各種ペダルを接続。そこではMaestroのRhythm 'n Sound for Guitar G-1とループ・サンプラーのManeco Labs 16 Second Digital Delayを各々チョイス、これでリズムの生成を開始します。そしてBugBrandのローファイなPT Delayを介してJMT Synthの16 Stage Phaserでステレオ化し、その音像を後述するTrogotronic Iron CrossというCV/Gateのジョイスティック・コンローラーで操作します。わたしが所有しているのはV.4ですが、現行品はド派手なLEDと共にトリガーでチョップする切れ味鋭いLFOの搭載されたV.5となりまする。しかし、HikariのPing Filterはその名の如く "ピン!" と鳴る磨き上げた球のような質感がたまりませんね(笑)。これらで生成したノイズを '足下に置くDAW' ともいうべきSingular SoundのAeros Loop Studioであれこれ編集、構成...。本機は同社が発売していたプログラマブルなドラムマシン、Beatbuddyと同期して拡張した音作りを可能とさせるもので、6つのトラック単位で録音、再生出来るループ・サンプラー。モノラル入力で最大3時間、ステレオ入力で最大1.5時間、SDカード使用時は最大48時間の大容量録音を可能とします。1つのソング・トラックに最大36個のループトラック、また各ループトラックへの無制限オーバーダビング、これらを大きな4.3インチのタッチスクリーンで波形を見ながら大きなホイールをスクロールしながらエディット、4つのフットスイッチで作成したソングをセーブ、エクスポートすることでリアルタイムに作業、演奏に反映させることが可能。もちろんWi-Fi/BluetoothやMIDIと連携して外部ネットワークからのファームウェア・アップデート、保存などにも対応します。この手のモバイル環境はひとつ用意するだけでもガジェットの限界性が飛躍的に向上するのでオススメです。ただ、一方ではここまでの限定的なガジェット中心の音作りの本意として、日々その液晶画面から浴び続ける強い 'テクノ・ストレス' を避け目の前のコトに対して積極的に手を使いたいんですよね...。ついつい凝ったことやりたくなるとLCD画面で波形の見えるサンプラーは便利なんだけど、実は使わない音楽をやりたいという...悩むなあ(苦笑)。










このBastl Instruments Hendriksonにインサートするのは、そのユニークな存在からエフェクター黎明期と ' サイケな時代' を象徴するカラフルなスイッチを備えたRhythm 'n Sound for Guitar。ファズとオクターバー、3種のトーン・フィルターを備えながらギターのトリガーで鳴らすリズムボックスを加えたことで、現在まで異色のユニットとして時代の評価に埋もれたままの存在となっております。1968年登場のG-1はBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載し、この時代では先駆だったオクターバーにして 'ウッドベース' のシミュレートとも言うべきString Bass、Fuzz Bassの2種、そして 'ワウ半踏み' 風なトーン・フィルターのColor Tonesを3種備えておりました。このG1も翌69年にはG2として大々的にヴァージョンアップし、当時のHoney Psychedelic Machineと並んでより 'マルチ・エフェクツ化' します。G2ではパーカッションからBass Drumを省きオクターバーもString Bassひとつになった代わりにMaestro伝統のFuzz Toneを搭載、Color Tonesも2種に絞られた仕様となりましたね。そして、ヴィンテージのオリジナルは流石に手が届かないけど2004年の復刻版16 Second Digital Delayをこよなく愛する身としては、同じくこの機器に惚れ込んでしまった南米ウルグアイの工房、Maneco Labsのクローンも試さないワケには参りません(笑)。状態良好の中古品をオーストラリアのセラーから購入。








こちらはもうひとつの '実験室'。ヒップ・ホップでおなじみ2台のターンテーブルをDJミキサーのクロスフェードで交互に繋ぐ...ブレイクビーツやスクラッチ、サンプルを細かくチョップするようなトリガー技まで自在にテクニックを披露しながら '剽窃と誤用' により剥ぎ取ったリズムを叩き出す。さらにここからサンプルを '飛び道具' 的にアプローチすべく、デジタル・テープマシンのPhonogeneを2台チョイス。これは 'デジタル・テープマシン' ということで、いわばスクラッチに相当する役割を担わせております。本機はリアルタイムにフレイズをサンプリングして筐体中央のVari-Speedツマミを回せば、まるでテープレコーダーの再生速度や方向の如く生成変化を開始...。サンプルの再生中にSpliceボタンを押すことでフレイズの任意の位置に切れ目をチェック、この '頭出し' をバラバラにしたところでGene-Size、Gene-Shift、Slideの各パラメータをCVでパッチングしていくと...もはや予測不能の事態です(笑)。さらにHikari InstrumentsのTriple ADによりアタックとディケイをトリガーで変調...。












ここでの 'DJプレイ' に威力を発揮するのが、シームレスにA/Bの2ループを交互に切り替えられる特異な構成を持つ多目的ループ・セレクター2種。まずはBoardbrain MusicのTransmutronで本機はパラレルで個別、同時にDry/Wetのミックスが出来るほか 'Fission'、'Fusion'、Fallout' の3種モードにより、2つのLoopの機能を変更することが可能なコンパクト・エフェクターとエクスプレッションCV、'ユーロラック' モジュラーシンセのCVによる統合したスイッチング・システム。今後、ペダルと共にモジュラーシンセにおけるCV/Gateなどと同期する統合システムを見越した一台。

●Fission
このモードでは、入力された信号の周波数帯を分割し、それぞれを2つのLoopにスプリットして再びミックスして出力出来ます。Umbrella Company Fusion BlenderやVocuのMagic Blend Roomなどと同種の機能ですね。またエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。

●Fusion
このモードでは、2つのLoopのバランスを調整してブレンドすることが出来ます。これらミックスのバランスは筐体真ん中にあるSplitpointツマミ、またはエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。これは廃盤になりましたがDwarfcraft Devices Paraloopと同種の機能に当たります。

●Fallout
このモードでは、2つのLoopの前にワイドノッチ・フィルターを適用して、Splitpointツマミやエクスプレション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。ペダル・コントロールすることでワウのような操作を付加することが出来ます。また本機には、これとは別にHicut、Locutのフィルターを搭載して音作りに適用することが出来ます。

ちなみに本機搭載のフィルターは12dB、24dB、48dB/Octのスロープ角度を選択出来、それぞれFission、Falloutモードのワイドノッチ・フィルターにも適用されます。もちろん、Ch.2のLoopでフェイズアウトが起こった際の位相反転にも対応出来るのは素晴らしい。そして2つのLoopからなる 'Send/Return' にはフォンと 'ユーロラック' モジュラーでお馴染み3.5mmミニプラグが同時対応し、さらにこの3.5mmのLoopには内部DIPスイッチにより楽器レベルとラインレベルで 'インピーダンス' を切り替えて使用することが出来ます。ここではA/Bをシームレスに繋ぐべく 'Fusion' モードで使用します。そして本機に先立つかたちで登場していたのがPigtronixの多目的ライン・セレクターKeymaster。本機は 'Reamp Effects Mixer' の名の通りいわゆる 'リアンプ' のほか、DJ用ミキサーの 'コンパクト化' として 'Parallel' モードにしてエクスプレッション・ペダルでAループとBループをシームレスに切り替えることが可能。XLR入出力によるマイク/ライン入出力にも対応しているのが素晴らしいですね(TRSフォンとの同時使用不可)。こちらにはManeco Labsのループ・サンプラー16 Second Digital DelayとMwfxのJudderをセッティング。JudderはHoldによるトリガー連打、一方の16 Second Digital Delayに基本のビートを取り込んでClock Outからの同期をPhonogeneに送ります。今は1台目のPhonogeneにのみ同期させもう一台はフリーの状態ですが、Hosa CMM-545YのようなY型の分岐ケーブルでリンクさせても良いでしょう。そしてDJミキサーの 'クロスフェーダー' に当たるべく、A/Bの2ループをシームレスに2台のエクスプレッション・コントロールとして最適なのがChase Bliss Audioの 'ローラー型コントローラー' EXPを接続。何よりこのEXP、重厚な金属削り出しの筐体とローラーが複雑な機構により 'ものつくり精神' で組み込まれているのが素晴らしい。










基本となるメインボードを組んでからすでに5、6年になりますけど、トランペットに取り付ける2つのピックアップ・マイクをアンプで駆動させるためにこれだけの機器を通るのですヨ。正確には上の画像のNeotenicSound Magical ForceとTerry Audio The White Rabbit Deluxeの間に各種エフェクツを繋いでRadial EngineeringのパッシヴDI、JDIからアンプへとラインで出力することになります。しかし、基本的には単に鳴らすだけであればPiezoBarrelのマウスピース・ピックアップはそのままペダルに入力出来ますし、ダイナミック・マイクもプリアンプで増幅してそのままDIから出力してミックスすれば済んでしまう...。わざわざこんな面倒くさいセッティングで2チャンネルのマイク・プリアンプからDIの間にあれこれ繋ぐ必要などないのです。しかし、わたしの 'エレアコ' による音作りにおいて足下にこれだけの機器がないとダメなんだよなあ...。その中でも特に 'アンプリファイ' によるラッパの根幹に貢献しているのがこの5つの機器なのです。








さて、わたしのエフェクターボードで絶対に欠かせないのがNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Force。いわゆる 'クリーンの音作り' というのをアンプやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムというか、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを 'アコースティック' だけでは得られないトーンとして生成します。本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレはわたしの '秘密兵器' でして、Headway Music Audioの2チャンネル・プリアンプEDB-2でピックアップマイク自身の補正後、本機と最終的な出力の200Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーントーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味に設定、Punchで張り出すような '質感生成' にしてみるのも面白いかも知れません。とりあえず、気になった方は各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。このMagical Forceの機能強化版としてアナウンスされながら頓挫してしまった 'JazzToneMaker' こと幻のTiny Structure、未だに気になっておりまする...。ちなみにそれと同じ構成を持つベース用プリアンプDyna Forceの動画では、その特徴でもある 'Divarius Circuit' の要 'Body' と 'Wood' について説明しております。






一方、もう一つの隠れた '魔法' であるTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の解説を読むとわたしのもうひとつの '魔法' であるNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。そのMagical Force搭載のPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様のものです。またボード上で本機の直前にパッシヴのコンパクト・ミキサーを繋いだことからバッファー的存在としても重宝しておりまする。前段にMagical Force、後段にこのWhite Rabbit Deluxeを配置することでサチュレートした 'ハイ上がり' のトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなり、音抜けの良くなる 'マスタリングツール' のような位置にある機器ですね。もう、何度も口酸っぱくして書きまくってますけど(笑)、管楽器の 'アンプリファイ' でアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。それはピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生を目指すより、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' こと、自分にとってのフラットである管楽器の音を追求することに主眼を置くべき、と考えております。そして、この分野にもファームウェア・アップデートにより 'プラグイン' からフィードバックされたペダルが押し寄せております。いわゆるDSPの 'アナログ・モデリング' から市場に新たなカテゴリーとして根付いた 'ローファイ・ペダル' の成功は、このUniversal Audioからの新たな 'UAFXシリーズ' のMaxで同社のスタジオ・アウトボードの名機、1176系コンプレッションを軸にした 'マルチコンプ' で討って出てきました。1176のみならずTeletronix LA-2AからMXR Dyna Compなどのクラシックな質感まで同社の名機真空管プリアンプ610を模したブースター、EQと組み合わせて多彩な音作りが可能。ちなみにこの1176系コンプのペダルとしては、すでに 'ディスコン' ですけどKatana Soundの '青線' ことBlue Stripeがここ日本で好評を博しましたね。












そんな '音場補正' に特化したMagical Forceの源流ともいうべきプリアンプとして、後述するエレアコ用2チャンネル・プリアンプSpiceCubeにも搭載されている '緑色の小箱' でおなじみActive Spice。2000年代初めのヴィンテージ・エフェクター再評価以後、いわゆる 'ブティック・ペダル' と呼ばれた個人によるペダル製作の工房が全国で勃興します。'Hatena ?' というブランドを展開したEffectronics Engineeringもその黎明期を象徴する工房で、特にActive Spiceはベーシストを中心にヒットしました。唯一動画としてUPされているThe Spiceはその最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミクスのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。後継機のMagical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整するVolumeの他はかなり異色で、音圧を調整するSensitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、そしてTightスイッチはその名の通り締まったトーンとなり、On/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となります。ちなみに画像左側のものは初期のプロトタイプであり、Level、Wild !、Toneの3つのツマミという仕様でDC9Vのほか、9V電池ホルダーが基板裏側に内蔵?されるように装着しているのが面白いですね。ToneはそのままEQ的機能ですがこのWild !というツマミ1つを回すことでSensitivityとGainの効果を担っており、この後の製品版よりサチュレーション的飽和感の '荒さ' がいかにも初期モノっぽい。まだ南船場で工房を構える前の自宅で製作していた頃のもので、この時期の作業はエッチング液に浸した基板から感光幕を除去すべく玄関前?で干していたブログ記事を覚えております(笑)。Acitive Spiceはその 'クリーンの音を作り込む' という他にないコンセプトで今に至る '国産ハンドメイド・エフェクター' の嚆矢となり、さらに 'プリアンプ感' の強調した派生型Spice Landを始め、2008年と2009年の最初の限定版から2011年、2012年と限定カラー版(2011年版はチューナー出力増設済み)なども登場しながら現在でも中古市場を中心にその古びないコンセプトは健在なり。そして、いよいよえふぇくたぁ工房20周年を記念して 'Hatena ? by NeotenicSound' の名であの '緑色の小箱' が蘇ります!。






単なるエンハンサーやコンプレッサーではない、というピックアップアップ・マイクからの '質感生成' を向上させるのに適したペダルが数多市場へと投入されている昨今、その原点ともいうべき '忘れられたモノたち' による温故知新はバカにできません。過去、この手の地味な '音質補正' というか、ある時代の価値観として広まった解像度を上げる効果で '栄枯盛衰' を体現するエキサイターというものがありました。そもそもこの名称はAphexという会社により製品化された商品名の 'Aural Exciter' であり、続くBBEからは 'Sonic Maximizer' など独自の技術で商品化された後、一般的には 'エンハンサー' というカテゴリーで他社が続々と追随します。共通するのは各社それぞれの回路により 'スパイス' 的に高域成分を原音へ混ぜるというもので、その混ぜ方にどこか '化学調味料' 的不自然なギラ付きがあること含め、今や 'DAW' のプラグインにオーディオやTVの音響効果に備えられた 'EQ的処理' の大半で耳にするのみです。1980年代にはPearl TH-20 Thrillerやラック中心のBBEから珍しいペダル版のModel 601 Stinger、そしてBossのEH-2 EnhancerやDODからFX85 Harmonic Enhancer、そして同社の 'Psycho Acoustic Processor' ことFX87 Edgeというワンノブのヤツなど、いかにも 'ハイファイ' 志向の時代を象徴する製品が市場に用意されておりました。まさに原音重視のエフェクターが跋扈する現代では完全に '過去の遺物' と化しておりますけど、実はEQのセッティングなどであれこれ悩んでいる方にはコイツを 'スパイス' 的に振りかけてやれば解決する場合も多いのです。何かエキサイターの解説って 'ドーピング' でも勧めているようなネガティヴなものが多いですね(苦笑)。ここではそんな国産エキサイターとして初期に登場したTokai TXC-1 Exciterをチョイス。さらに高域のシャリシャリ感を落ち着かせるリミッター的効果として同社のTCO-1 Compressorを組み合わせてみます。ちょっとレアなのがこれら2つ共にツマミが最初期仕様のモノでして、これがツマミ上面が剥がれたり壊れやすいというトラブル多発により急遽次ロット品から別のツマミに変更されました。しかし、このTokaiの旧ソビエト製ペダルに共通する地味で質実剛健な筐体のデザインはカッコイイなあ。




数多ある 'エレハモ' のカタログの中でも最もレアなペダルのひとつである 'Mono to Stereo Exciter' ことAmbitron。本機を構成するショートディレイの 'ダブリング' と倍音の歪みによる音像の補正を応用したものとして、近年 'エレハモ' からThe Analogeizerなどで復活しておりまする。さて、このAmbitronを設計した名匠ハワード・デイビスによれば、きっかけはモノラルのレコードから '疑似ステレオ' を取り出すことにあったとのこと。

 "Ambitronを思いついたとき、わたしのコレクションのいくつかのレコードはモノラルのロックばかりでした。古いものでは45回転や78回転のものもあり、また当時のステレオ録音の中には実際の 'ステレオ・ミックス' がされていないものもありました。多くの場合、ミックスの '真ん中が抜けて' ('hole-in-the middle')おり、おそらくヴォーカルとベースを除いて楽器は真ん中もしくはその近くに無く、左右に振り分けられていました。モノラルのソースからリアルな疑似ステレオを生成して実際に部屋やスピーカーを変更することなく、より周囲の音響を合成したステレオ効果を強調する方法が必要でした。このようにして誕生したのがAmbitronです。"


残念ながらこちらの動画はありませんけど、2007年の発売以来ずっと '縁の下の力持ち' 的役割として比較的高価格ながら現在までそのラインナップを不動のものとするWeed EffectorsのBeef。このヒヤヒヤするようなブランド名はアレですけど(苦笑)、その製作は東京に居を構えるHarry's工房のオリジナル・ペダル第一号でもあります。そもそもはBossやMXRなど定番ペダルの 'もう一歩' を後押しするモディファイを得意としていたのですが、その技術力を誇示すべくシンプルにしてあらゆる楽器のブラッシュアップに焦点を当てたBeefのコンセプトは素晴らしい。ネーミングの由来は 'Buffer Equallizer Enhancement Foot Pedal' の 'Beef' ということで、トゥルーバイパスによるTop、Bottomの2バンドEQと高品質バッファー兼エンハンサーという構成になっております。この最初期品を複数入手することができたので比べて見たのですが、S/N50くらいまでは2バンドEQにセンタークリックが付いており、それ以降は無段階の可変へと変更されているようですね(現行品もそうなのかな?)。その心臓部を司るのは、Bar Brown社のオペアンプICである2134APをハンド・ワイアードにより丁寧に製作。現行品はハンマートーン加工の黒い筐体ですが、わたしは初期のズシッとした銅製による金色の筐体を所有しておりまする。その仕様は単なる 'バッファー・プリアンプ' ではなく、Vol.ツマミの左回し切りでバイパス状態、右に回すと共に2バンドEQで足した高域、低域を 'スパイス' の如くミックスするというエンハンサーとしての仕事をしてくれることを証明します(ブーストはEQの方で行います)。というか、EQをあれこれ弄り帯域で悩んだり名機◯◯から取り出したバッファーなどという商品に手を出すなら、本機一台を足下に置いた方が悩まずに欲しい '質感' が簡単に手に入りますヨ。代わり映えのしない歪み系ペダルが跋扈する世の中だけど、こーいうサウンドの '根本' に着目して自身のブランド第一号のまま君臨するってのは相当の技術と耳を持った工房だと思う。なんとその金色な初期モノを3台揃えてしまった...Weed恐るべし(苦笑)。また、最近はVocuや大阪のEva電子といった国産工房からも優秀なエンハンサー・ペダルが登場しておりますね。





一方である時期、ある時代に流行したペダルの組み合わせから提案する '革命' というのがあります。MXRはそのカラフルな筐体と手のひらサイズのスタイリッシュなデザインで、それまで高価で大仰な '装置' と呼ぶに相応しい1970年代のエフェクター市場に大きな衝撃を起こしました。そのMXRを代表するペダルが真っ赤なコンプレッサーDyna CompとオレンジのフェイザーPhase 90の2つであり、その後の各社カタログの先鞭を付けた '70年代鉄板の音作り'。つまり、それまで '縁の下の力持ち' の如くレコーディング・スタジオのテクニックのひとつであったものを、当時の '新兵器' であるフェイザーと共に奏者へ投げ付けてきた技術者からの '挑戦状' とも言えるのです。さて、この 'コンプ+フェイズ' の提案としてはそのMXR以前、Maestroの手によりThe Sustainer SS-1とPhase Shifter PS-1の組み合わせがあり、これをコピーしたと思しき国産のRoland AS-1 Sustainer、Electro-HarmonixのBlack Finger などが市場に開陳されておりました。ただ、あくまでピークを抑えてサスティンを伸ばすだけが目的だった 'サスティナー' が歪みのヴァリエーションである 'ファズ・サスティナー' と両義で用意されていたのに対し、MXRのDyna Compは明確に 'コンプレッサー' という圧縮に焦点を絞った '質感生成' を目的にしたものであるということ。それまでの先入観としてあった踏めば明確に音が変わってこそ 'エフェクツ' であるいう価値観は、このサスティナー/コンプレッサーと呼ばれる製品が市場に投入されることで奏者自身のタッチ、レスポンスといった奏法とセットで音作りする意識へと変わるエポックメイキングの出来事だと言えますね。もはや、わざわざ筐体に 'Distortion - Free' などと注意書きをする黎明期は終わったことを告げたのがDyna Compの功績なのです。








ちなみにその 'コンプ+フェイズ' の音作りとしては謎多き一台というか、1970年代の数多あるエフェクター・ブランドの中で未だ '発掘調査' の進んでいないGretschのFreq-Fazeをご紹介しましょう。一般的にコンプレッサーと呼ばれるエフェクターは単体のほか、冒頭の 'ファズ・サスティナー' を筆頭に歪み系ペダルとの '2 in 1' で製品化される場合が多いですね。その中でもこのFreq-Fazeは唯一無二の 'コンプ+フェイズ' をひとつの製品として組み込んでしまった "なぜそうなる?" が具現化された珍品。このGretschのペダルといえばExpandafuzz、トレモロのTremofect、管楽器用オクターバーであるTone Divider、またイタリアのJen ElettronicaのOEMでGretschが 'Playboy' ブランドで販売したものがありましたけど、どれも一般的知名度の低い 'レアもの' 扱いとあってこのFreq-Fazeも滅多に市場へ姿を現すことはありません。本機が実に奇妙な仕様となっているのは、まず卓上に乗せるような 'ハーフラック・サイズ' であること。多分、キーボードの上に鎮座して使うことを想定させておきながら、いわゆる '尻尾の生えた' AC電源仕様ではなくまさかのDC9V電池駆動のみなのは・・なぜ?。エフェクツのOn/Offは筐体前面のトグルスイッチで行うのですが、筐体後面に回るとIn/Out端子のほかに蓋がされている。多分、ここにオプションのフットスイッチ繋いでOn/Offさせるつもりだったらしく、これも特に実用化されずに蓋をされてしまったということは色々と頓挫していた模様(苦笑)。この時代ならではのかなりガッツリとかかるコンプがフェイズの倍音を際立たせる効果で、こういう意外な組み合わせは再評価しても面白いでしょうね。いま復刻するのなら、OK Custom Design Change BoxやCooper FxのSignal Path Selectorのような 'フリップ' するスイッチによりフェイザーの前後をコンプが各々入れ替えられる仕様で製品化してみたい。













こんなGretsch Freq-Fazeのような組み合わせなんかあるワケない、と思っていたら、そうそう、この怪しげなガレージ工房の製品がありました。コンプをベースにステレオ・リヴァーブとコーラス・エコーを組み合わせた複合機、Neon EggのPlanetariumはそのビザールな佇まいから興味をそそられます。ある意味その 'ガレージ丸出し' なアナログシンセ的筐体から生成されるサウンドは、Attack、Release、Ratioに加えて優秀なサイドチェイン・コントロールで 'ダッキング' による音作りを約束。これもV.2で従来のデュアル・モノからリアル・ステレオ仕様となり、DC9VからDC15Vに上げられることでよりヘッドルームの広いコンプレッションを実現します。そして2つのリヴァーブとコーラスから3つの異なるアルゴリズムを選択して、Sizeツマミは2つのリヴァーブ・サイズとホール・リヴァーブを追加。EchoセクションはMix、Time、Feedbackに加えてモジュレーションの部分で正弦波と方形波の選択と共にワウフラッター的不安定な揺れまでカバー。まあ、これはいわゆるコンプレッサーというよりVCAによる 'サイドチェイン' に特化した音作りということで、かなりイレギュラーな珍品ではありますけどね。ちなみに同種の効果では、英国の奇才にして 'マッド・サイエンティスト'  でもあるDavid Rainger主宰の工房、Rainger FxからMinor Concussionがありまする。基本的なトレモロのほか、外部CVや付属のダイナミック・マイクをトリガーに ' サイドチェイン' でVCAと同期してReleaseによるエンヴェロープを操作できるなどかなりの '変態具合' です。そんな本機の後継機としては現在、同工房からより小型化したマイナーチェンジ版のDeep Space Pulserが用意されております。



わたしの所有するDyna Compはヴィンテージではなく、MXRが 'Custom Shop' の限定品として2008年に発売した'76 Vintage Dyna Comp CSP-028となります。中古で購入した時点でどっかの工房がモディファイしたと思しきLEDとDC端子が増設されておりましたが、こういった往年の 'ヴィンテージトーン' が現代のシーンに復刻される意味を考えましたね。特に現代のエフェクターにおいて '原音重視' やナチュラル・コンプレッションなどが持て囃される昨今、いかにもダイナミズムをギュッと均すコンプは、時に演奏の細かなニュアンスを潰す '悪役' として敬遠されてしまうのも事実...。そのDyna Compと並び1970年代を代表する 'ペダルコンプ' として殿堂入り、現在に至るまで定番として新たなユーザーを獲得しているのがRossの 'グレーボックス' とも言うべきCompressor。創業者Bud Rossの意志を継いだ孫らにより2019年に 'Ross Audibles' として復活させたのがこの 'Gray' Compressorです。未だにヴィンテージの米国製初期、後期、台湾製などが市場を賑わせておりますが、この復刻版もかなりの再現度ながら、世界的に枯渇するアナログのパーツやコロナ禍により市場への供給が不安定のまま少量入荷状態ですね。ともかくナチュラルなコンプレッションをお求めであればコレは外せない一台。ちなみにそのRossとDyna Compは回路的にはほぼ '従兄弟' のような関係ということで(笑)、ここでは日本を代表するギタリスト鈴木茂氏と佐橋佳幸氏による 'コンプ動画' をどーぞ。そんな1970年代には当たり前であったコンプレッサーでしか出来ない圧縮を演出の '滲み' として捉えるとき、そのDyna Compが現在の市場でも変わらず製造されている意味とは何なのであろうか?。そんなヒントとして現在でも愛用者であるギタリストの土屋昌巳氏はこう述べております。

"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"





スウェーデンの工房Moody Soundsによる復刻によりその名が広く知られたNils Olof Carlinのペダルたち。現在、そのMoody Soundsが並行してBJFEことBjorn Juhlのデザインしたキット販売も手がけているのですが、そのBJFEこそCarlinを継承したような 'ブティックペダル' の立ち位置で 'エフェクター史' を変える存在として君臨しております。そのナチュラルな効果で唯一無二のオプティカル式Pale Green Compressorは、Bjorn Juhlの名を知らしめた代表的製品のひとつです。ザ・ビートルズが当時のアビーロード・スタジオで用いたコンプレッサー、RS-124(Altec436BのEMIモディファイ)が本機製作のきっかけとのこと。最近のナチュラルなコンプレスの潮流に倣ったトーンから真ん中のツマミ 'Body' を回すことで空間的な幅の調整がイジれます。このBJFEの音は世界に認められてお隣フィンランドのブランド、Mad ProfessorからForest Green Compressor、さらに米国のブランドBear FootからPale Green Compressorとしてそれぞれライセンス生産による 'Re-Product' モデルが登場。動画はそのPale Greenの後継機に当たるPine Green CompressorとBear Footのものですが、本家BJFEとしては2002年の登場以降、淡いグリーンのニトロセルロースラッカーから深いグリーンへの変更と共にPine Green Compressorへ変わります。ここでフォトセルと 'Body' を司る単軸二連ポットが変更されて3ノブ、4ノブ、5ノブの仕様と共に現在も不定期な少量製作体制は健在です。わたしが所有するのは、不定期にPedal Shop Cultがオーダーする初期Pale Green Compressorの '2020復刻ヴァージョン' になりまする。









定番のEQで補正する音作りに 'プラス・アルファ' してここでは、単なるEQというよりそれこそ 'シンセサイズ' なフィルタリングまで対応するカナダの工房、Fairfiled CircuitryのLong Lifeを繋いでみます。エクスプレッション・ペダルの他にフィルター周波数のQとVCFをそれぞれCVでモジュラーシンセからコントロール出来るなど、なかなか凝った仕様です。こちらでの音作りには、Long Lifeのブースター的アプローチと兼用しての '歪むコンプ' のアプローチによるサチュレーションに挑戦。そこで近年の製品としては珍しい1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinの手により生み出されたコンプレッサーをチョイス。本機の特徴はコンプと銘打たれていながら 'Dist.' のツマミを備えることでファズっぽく歪んでしまうことで、当時、エフェクター黎明期においては 'ファズ・サスティナー' とクリーンにコンプ的動作をするものを単に 'サスティナー' として使い分ける傾向があったそうです。今でいうBJFEに象徴されるスウェーデン産 'ブティック・ペダル' のルーツ的存在であり、それを同地の工房Moody SoundsがCarlin本人を監修に迎えて復刻したもの。1960年代後半から70年代初めにかけてそのキャリアをスタートさせたNils Olof Carlinは、電球を用いたモジュレーションの独自設計によるPhase Pedalのほか、持ち込まれた既成の製品(多分MXR Dyna Comp)をベースにしたCompressor、わずか3台のみ製作された超レアなRing Modulatorを以ってスウェーデン初の 'ペダル・デザイナー' の出発点となりました。ここまではあくまでコンプレッサーを '質感' として補正する使い方でしたが、こちらは従来のセオリー通りな 'コンプ→EQ' のセッティングで狙いはCarlinの '歪み' をLong Lifeでコントロールすることにあります。さて、そんな幻のペダルともいうべきスウェーデンのCarlinについて、当時の状況を 'Effects Database' によるCarlin本人へのインタビューが残されているのでどーぞ。

- Carlinという工房はどのように始めたのでしょうか?。

C - 60年代後半〜70年代初めの学生時代、わたしは南スウェーデンの大学街で幾人かのミュージシャンと知り合いでした。わたしは電子機器を試したり、他の人に自分のアイデアを試してもらうことに熱心でした(わたし自身はミュージシャンとしてはあまり上手ではありませんでした)。これがわたしの小さなビジネス立ち上げのきっかけとなり、最初は近県のフレンドリーな楽器ディーラーを介して配布、後にスウェーデンの他のショップでも小売を始めました。わたしの知る限り、位相変調のフェイズ効果は自分自身の発明でした。他のビルダーは大抵、既製品の後から同様の解決策を考え出していました。また通常、周期的な効果を出すために発振器を使用しています。しかし、ワウワウのようにペダルで位相効果を制御することでは少々異なっていました。コンプレッサーに関しては、そのインスピレーションについて多分積極的ではなかったと思います。これはCarlinの楽器ディーラーがわたしに別のブランドのペダルを見せて、それをもっと向上させることは可能か?と聞いてきました。そのペダルをリヴァース・エンジニアリングして試してみることとなり、そして改良に成功したと感じました。

- Carlinという名前はどこから来たのですか?。

C - わたしの家族の名前ですよ。

- なぜ生産を終了したのでしょうか?。

C - わたしは70年代初め頃の数年間その事業に没頭していましたが、特に将来性もなく自身で管理できる規模の利益はほとんどありませんでした。わたしは自身の研究とキャリアについて改めて考え直さなければなりませんでした。













そんなCarlin Compressorの特徴でもある '歪むコンプ' の質感生成。自嘲気味に他社製品のリヴァース・エンジニアリングとCarlin本人は言ってましたが、その個性的な 'Distツマミ' に現れる 'サチュレーション' は、いわゆる 'ファズ・サスティナー' とは別にスタジオで使用するアウトボード機器で珍重された '飛び道具コンプ'、Spectra SonicsのModel 610 Complimiter (現行はSpectra 1964のModel V610)を取り上げないワケにはいきません。1969年に発売以降、なんと現在まで同スペックのまま一貫したヴィンテージの姿で生産される本機は、-40dBm固定のスレッショルドでインプットによりかかり方を調整、その入力レベルによりコンプからリミッターへと対応してアタック、リリース・タイムがそれぞれ変化します。クリーントーンはもちろんですが、本機最大の特徴はアウトプットを回し切ることで 'サチュレーション' を超えた倍音としての '歪み' を獲得出来ること。上のドラムの動画にも顕著ですけど一時期、ブレイクビーツなどでパンパンに潰しまくったような '質感' で重宝されたことがありました。その個性的なコンプの味はAPIやNeveのモジュール、Urei 1176などの流れに続き、今後Spectra 1964からの 'ペダル化' を願って新たなブームを期待したいですね。また一方、Ampex 456テープとStuder A-80マルチトラック・レコーダーによる '質感' をアナログで再現したRoger Mayer 456は、オープンリール・テープの訛る感じとバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションに特徴があります。本機の大きなInputツマミを回すことで 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整。キモはその突っ込んだ '質感' を 'Presence' ツマミで調整する音抜けの塩梅にあります。一方、昨今の市場で人気を博している 'ローファイ・ペダル' としては、イタリアのTEFI Vintage Lab.という工房から登場したGolden Eraがイイ味出しております。本機はTemplesのリーダーであるJames Edward Bagshawのアイデアから生み出されたもので、6つのツマミのうち 'WOB.dpt' でテープの摩耗と不安定なワウ・フラッターの再現、'WRP.dpt' でその音ズレの深さを調整しながら 'Noise' を混ぜて行くことで歪んだ世界を表出します。そして、サチュレーションやテープコンプの '質感' をDSPテクノロジーにより再現、この分野でのヒット作となったのがStrymonの 'tape saturation & double tracker' のDeco。去年にその音質をブラッシュアップしてMIDIにも対応したマイナーチェンジ版のV2は、これまでの 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleの 'テープ・フランジング' に加え、新たに搭載された 'Cassette' モードが好評とのこと。このStrymon各製品は楽器レベルからラインレベル、そして入力に 'インサート・ケーブル' を用いることでステレオ入出力にも対応とあらゆる環境で威力を発揮します。





このような '汚し系サチュレーション' といえばKP-Adapterを用いて繋いでみたいのが、フランスのOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが可能。そして、一方はすでにElektronの定番 'アナログ・フィルター' であるAnalog Heat。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上での連携にも対応します。



Maestro Parametric Filter MPF-1 ③
Stone Deaf Fx EP-1 Expression Pedal

MaestroのParametric Filterは、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することで生み出されました。本機特有の 'フィルタリング' はやはり1990年代以降の '質感世代' に再評価されることとなり、とにかく何でも通してみる・・ジャリジャリと荒い感じとなったり、'ハイ落ち' する代わりに太い低域が強調されたりすれば、それはもう 'ベッドルーム・テクノ世代' の求める '質感' へと変貌します。後にMoogはこれを '歪み系' のエフェクターに特化したMinifooger MF Driveとして蘇らせましたが、英国の工房、Stone Deaf FxからもPDF-2として登場。本機は 'Clean' と 'Dirty' の2つのチャンネルで切り替えて使うことが可能でおお、便利〜。また、専用のエクスプレッション・ペダルを用いればエンヴェロープ・フィルターからフェイザー風の効果まで堪能できる優れモノ。管楽器においては適度なクランチは 'サチュレーション' 効果も見込まれますが、完全に歪ませちゃうとニュアンスも潰れちゃう、ノイズ成分も上がる、ハウリングの嵐に見舞われてしまうので慎重に 'サチュらせる' のがこれら設定の 'キモ' なのです。







自称 'フィルターフェチ' であるわたしの手許にはこの手の効果に貢献するモノとして、日本が誇る偉大なエンジニア三枝文夫氏が手がけたKorg FK-1 Synthpedalがあります。Korgの前身である京王技研の初ペダルSynthesizer Traveller F-1など単体の製品を始め、国産初のシンセサイザーとして近年復刻もされたmini Korg 700Sにも搭載された-12dB/Octのローパスとハイパス・フィルターの組み合わせで構成される 'Traveller'。さて、そんな管楽器の 'アンプリファイ' において、この '質感' というやつを個人的に追求してみたい欲求があるんですよね。目的はアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。もう、何度も口酸っぱくして書きまくってますけど(笑)、それはピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生を目指すより、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' こと、自分にとってのフラットである管楽器の音を追求することに主眼を置くべき、と考えております。以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

− そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?。

S − 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

− それはだれかが先にやってたんですか?。

W − 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S − 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W − 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

− しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?。

S − 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W − それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S − で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W − 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S − ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W − フィデリティ(Fidelity)って '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

− 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?。

W − それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

− フィルターとEQの違いは何ですか?。

S − 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W − 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S − エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

− そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?。

W − お手軽にいい音になるというかね。

S − 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

− しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?。

W − それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

− 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?。

W − 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S − それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W − よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

− 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W − ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S − 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W − System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S − 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W − 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

− 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?。

W − それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

− トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?。

W − 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S − それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W − 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S − Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

− エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?。

W − エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S − 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W − 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S − 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

− 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?。

S − それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W − 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

− ジャックがあったら挿し込んでみたい?。

S − 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W − ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

− 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?。

S − デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W − それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S − 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W − それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S − どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。









Spectre - Ruff Kutz

そんな 'ローファイ' ということで、こちらは一瞬で燃え尽きた 'イルビエント' ムーヴメント終焉後にDJスプーキーがメジャー盤 'Riddim Warfare' をリリースした1998年に限定100本のカセットテープとしてひっそりとニューヨークのストリートで流通した謎の一本。そのSpectreの 'Ruff Kutz' がミニマル・ダブのベーシック・チャンネル傘下のスタジオ、Dubplates & Masterringの手によりPanレーベルから2枚組アナログ盤で蘇りました。これは 'イルビエント' の首領であったDJスプーキー以上に 'Dope' というか、いやあ、どこか実体のない 'イルビエント' の感覚がタフなブレイクビーツとして覚醒していくこの '質感'・・これはヤバい。その 'ローファイ' に対する日本からの '解答' というワケではありませんが、早くから世界の 'ベッドルーム・テクノ' 世代への呼応としてアプローチしてきたCappablackのデビュー作 'State in The Night' は衝撃でしたね。そして、こちらは '200年後のTOKYO' を想像させる?ような浮遊空間とダビーな音像のマリアージュをどーぞ。その200年後の世界はまさに重力から解放された都市空間、お台場のゆりかごめも空中を疾駆するようにSugar Plantの 'A Furrow Dub' がトリッピーに演出します。いや、これは単にゆりかごめの先頭車からの動画を垂直反転させた10年ほど前の動画ですけど、当時その単純にしてCGを超越した浮遊空間が話題となりましたね。最後は先日冥界へと旅立たれていった故・坂本龍一さんとのコラボもあるオーストリアの音響職人、フェネスの傑作 'Endress Summer' で締め括りましょう。また、あの夏がやってくる...ジリジリとしたアスファルトの乾いた熱気の匂いの放つNIPPONの夏が...。

あ、そういえば生前ジャズを積極的に評価することはなかった坂本さんでしたが(苦笑)、一方であの '千のナイフ' が大好きなハービー・ハンコックの 'Speak Like A Child' からインスパイアされたこと、藝大時代にマイルス・デイビスの 'Bitches Brew' に衝撃を受けたことなどが散発的に語られておりましたね。そんな坂本さんのNYの自宅スタジオに積まれた数多あるCDの中に 'マイルス・デイビス&ギル・エヴァンス' のボックスセットを発見。なんと坂本さんが一番好きなマイルスのアルバムが1963年の2人のコラボの最終作 'Quiet Nights' だったことに二度ビックリしたものです。実はコレ、いろいろと曰く付きのアルバムでして、当時米国に上陸してきたブラジルのいわゆる 'ボサノヴァ商戦' に乗っかり、ギル・エヴァンスとスタジオに入ったものの予定の内の4曲ほどデモ的に録音して頓挫...そのまま 'お蔵入り' するはずだった失敗作に近いものだったのですヨ。タイトルの 'Quiet Nights' とはアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲 'Corcovado' の英語タイトルでして、静謐なボサノヴァとマイルスのクール・ジャズはスタン・ゲッツに次いで相性の良いものになる、はずだった...。しかし、気乗りせずデモ途中で放り出してしまうマイルスの気持ちを無視してプロデューサーのテオ・マセロが同時期、別にカルテットで録音していたものとセットで編集、勝手に 'Quiet Nights' という一枚の作品としてでっち上げて発売してしまったのです。もちろんマイルスは激怒、その後1年半近くをこの名コンビであるテオ・マセロとは疎遠状態になってしまいました。さて、ブラジルものといえば坂本さんも室内楽的アプローチで一時期やっておりましたけど、そのボサノヴァを '外側' から眺めていた作曲家が(あえて)この '失敗したボサノヴァ' をどう聴いて評価していたのか、今でも凄い気になる一枚だったりするのです。だって世の 'マイルス・ファン' は絶対に選ばない凡作扱いなんですから、ね。

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