さあて、またいつもの '実験ボード' を引っ張り出していろんなペダルを試してみる。EventideのMixinglinkとHatena ? SpiceCubeを各々トランペットの 'クリーントーン' におけるプリアンプとして、そのまま 'センド・リターン' に繋いだ各種ペダルの音作りに貢献する '縁の下の力持ち'。どうしても管楽器用ではグーズネック式のコンデンサー・マイク一択の雰囲気がありますけど、アンプを脇に置いて鳴らすセッティングではダイナミック・マイク使用も悪くないですヨ。
さらに 'エレアコ' にとってプリアンプと共に大事なのがヴォリューム・コントロール。以前はそれほどヴォリューム・コントロールに対して気にかけておりませんでしたが、自らの足元へ 'ループ・サンプラー' 導入によるダイナミズムの演出でヴォリューム・ペダルほど大げさじゃないものを何かないかと探しておりました。そんなヴォリューム・ペダルの使用に当たって注意したいのは、最初にベストな音量の設定をした状態から可動させた後、瞬時に元の設定位置へ戻すのが大変なこと。このようなニッチな不満に応えようと現れたのが、そんなヴォリュームの状態を視認できる '便利グッズ' と呼ぶべきレベル・インジケーター。音量の増減に合わせてググッとLEDが上がったり下がったり・・その視認性の高さ以外に見た目としても華やかで楽しく、チューナーアウトもしくはエクスプレッション・アウトの端子を持つヴォリューム・ペダルに対応しております。このOK Custom Designのものは、接続する製品によって極性を合わせる為に裏面のトリマーを調整してレベル・マッチングを図ることが出来るのも便利(現行品は筐体上面にトリマー装備)。そして現在愛用しているのが 'Pad' でダイナミズムを生成するNeotenicSoundのPurePad。これは2つに設定された 'プリセット・ヴォリューム' をスイッチ1つで切り替えるもので、ひとつは通常の状態(赤いLEDのSolo)、もうひとつが若干ヴォリュームの下がった状態(緑のLEDのBacking)となっており、'Pad' で音量を抑えながら全体のバランスを崩すことなく音量を上下できる優れもの。この切り替えによる音質の変化はありますが、音量を下げても引っ込みながらシャープなエッジは失われずまとまりやすい定位となります。わたし的には先頭でも後端でもなく真ん中に繋ぐのがポイントで、そんな工房による '取説' では以下の通り。
"ピュアパッドは珍しいタイプのマシンなので使用には少し慣れとコツが必要かもしれませんので、音作りまでの手順をご紹介します。アコースティックの場合は図のように楽器、プリアンプ、ピュアパッド、アンプの順に接続します。エレキギターなどの場合は歪みペダルなど、メインになっているエフェクターの次に繋ぐとよいでしょう。楽器単体でお一人で演奏される場合は、初めにピュアパッドをソロ(赤ランプ)にしておいて、いつものようにプリアンプやアンプを調整していただければ大丈夫です。ピュアパッドのスイッチを踏んで、緑色のランプになったら伴奏用の少し下がった音になります。複数の人とアンサンブルをする場合には、初めにピュアパッドをバッキング(緑のランプ)の方にして、他の人とのバランスがちょうどいいようにプリアンプやアンプで調整します。そしてソロの時になったらピュアパッドのスイッチを踏めば、今までより少し張りのある元気な音になってくれます。また、ピュアパッドを繋ぐと今までより少し音が小さくなると思いますが、プリアンプよりもアンプの方で音量を上げていただく方が豊かな音色になりやすいです。もしそれでアンプがポワーンとした感じとなったり、音がハッキリクッキリし過ぎると感じたら、アンプの音量を下げて、その分プリアンプのレベルを下げてみてください。ツマミを回すときに、弾きながら少しずつ調整するとよいでしょう。"
わたしの環境では 'ループ・サンプラー' でのオーバーダブする際、フレイズが飽和することを避ける為の導入のほか、宅録の際にもアンプのヴォリュームはそのままに全体の音像を一歩下げる、もしくは歪み系やディレイ、ワウのピーク時のハウリング誘発直前でグッと下げる使い方でとても有効でした。以前のPurePadはLED視認の為の電源以外はパッシヴの仕様なのですが、現在は新たにバッファー内蔵のアクティヴ版PurePadで新装してラインナップ。従来のパッシヴ版ではプリアンプや '歪み系' エフェクターの後ろに繋いでマスタープリセット的に使用することを想定していたようですが、このアクティヴ版は各種スイッチャーのチャンネルに組み込んだり、楽器の先頭に繋いでブースターの補助的アイテムとして用いるなど '使い勝手' の幅が広がりました。堂々の 'Dynamics Processor' という名と共にDC9Vアダプターのほか9V電池による駆動も可能です。
"ああやって前かがみになってプレイすると耳に入ってくる音が全く別の状態で聴きとれるんだ。スタンディング・ポジションで吹くのとは、別の音場なんだ。それにかがんで低い位置になると、すべての音がベスト・サウンドで聴こえるんだ。うんと低い位置になると床からはねかえってくる音だって聴こえる。耳の位置を変えながら吹くっていうのは、いろんな風に聴こえるバンドの音と対決しているみたいなものだ。特にリズムがゆるやかに流れているような状態の時に、かがみ込んで囁くようにプレイするっていうのは素晴らしいよ。プレイしている自分にとっても驚きだよ。高い位置と低いところとでは、音が違うんだから。立っている時にはやれないことがかがんでいる時にはやれたり、逆にかがんでいる時にやれないことが立っている時にはやれる。こんな風にして吹けるようになったのは、ヴォリューム・ペダルとワウワウ・ペダルの両方が出来てからだよ。ヴォリューム・ペダルを注文して作らせたんだ。これだと、ソフトに吹いていて、途中で音量を倍増させることもできる。試してみたらとても良かったんで使い始めたわけだ。ま、あの格好はあまり良くないけど、格好が問題じゃなく要はサウンドだからね。"
"ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイスの環境が得られます。"
→Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker
DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままRoger Mayer 456やこのStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?。
"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"
余談ですが、佐藤氏がバークリー音楽大学から帰国した1968年、当時開発していた電気楽器のモニターとしてアプローチしてきたのが京王技研でした。面白いのは佐藤氏が目の前にした同社初のシンセサイザー 'Korgue' のプロトタイプに対して、'世界同時革命' 的(笑)に似たようなテクノロジーの進化のエピソードとしてこう述べております。
"8月に帰ってきた同じ年、京王技研(Korg)の社長さんから電話がかかってきたんです。アメリカに行く前からエレピやクラヴィネットを使っていたのを知っていて、「うちで今度、新しい電子オルガンを作ってみたんだけど、見に来て、ちょっと意見を聞かせてくれないか」っていうんですよ。それで行ったらば、ヤマハのコンボオルガンとかみたいなんだけど、音色を作れるようになっていたわけ。ここをこうすると音が変わるよ、というふうな。それで「これ、オルガンっていうより、シンセサイザーなんじゃないの?」って言ったら、シンセサイザーという言葉を誰も知らなかったの、その場にいる人が(笑)。
「なんだ、それは?」って言うんで、発振器からいろんな音が作れるっていうものを、シンセサイザーっていうらしいよって答えたら、「へえ、じゃあ、シンセサイザーっていうんだ、これは。そういう方に入るんだね」って。"
→Frogg Compu-sound - Digital Filterring Device
ちなみに、このようなフィルタリングに特化した機能をマルチ・エフェクツ的に100個のプログラマブルで駆使するものとしては、1970年代後半にわずか100台ほどしか製作されなかった '初期デジタル風' な製品(中身のVCFはアナログらしい)のFrogg Compu-soundがありました。いかにも同時代的なEL管表示のデジタル・カウンターとテンキー操作はペダルというより '電卓風 シーケンサー' なルックスですけど、中身は意外に '飛び道具' とは真逆の実直なフィルター専用機であります。
"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"
今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサー(6種切り替え)と2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能。しかし 'Tone' や 'Comp' とは真逆にLEDのOnで光っている状態がバイパス、Offの消灯状態でOnというのはちょっとややこしい(苦笑)。そして、この巨大な 'アウトボード型' ペダルは 'ディスコン' となった代わりに新装登場したのがEQ/Boost部のプリアンプとコンプレッサーを個別に分けてリーズナブルな仕様となったGTR - EQ/BoostとCMP - Compressorです。また、そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階で切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。現行品は、新たにファンタム電源を搭載したColour Box V2として 'ヴァージョンアップ' しております。
→Spectra Sonics Model 610 Complimiter Custom
→Spectra Sonics Model 610 Complimiter 'Sequential Stereo Pair'
そんなCarlin Compressorに見る '歪むコンプ' の系譜は、いわゆる 'ファズ+サスティン' とは別にスタジオで使用するアウトボード機器で珍重された '飛び道具コンプ'、Spectra SonicsのModel 610 Complimiter (現Spectra 1964 Model C610)がございます。1969年に発売以降、なんと現在まで同スペックのまま一貫したヴィンテージの姿で生産される本機は、-40dBm固定のスレッショルドでインプットによりかかり方を調整、その入力レベルによりコンプからリミッターへと対応してアタック、リリース・タイムがそれぞれ変化します。クリーントーンはもちろんですが、本機最大の特徴はアウトプットを回し切ることで 'サチュレーション' を超えた倍音としての '歪み' を獲得出来ること。上のドラムの動画にも顕著ですけど一時期、ブレイクビーツなどでパンパンに潰しまくったような '質感' で重宝されたことがありました。こんな個性的に潰すコンプの味はAPIやNeveのモジュール、Urei 1176などの流れに続いてその内、Spectra 1964から 'ペダル化' することで新たなブームを期待したいですね。
ちなみにわたしのメインのエフェクターボードで絶対に欠かせないのがNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Force。いわゆる 'クリーンの音作り' というのをアンプやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムというか、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを 'アコースティック' だけでは得られないトーンとして生成します。2011年頃に 'Punch'、'Edge'、'Level' の3つのツマミで登場した本機は一度目のリファインをした後、新たに音の密度を司るこの工房お得意の 'Intensity' を追加、4つのツマミ仕様へとグレードアップしたMagical Force Proへと到達しました。しかし不安定なパーツ供給の面で一度惜しむらく廃盤、その後、声援を受けて小型化と 'Intensity' から 'Density' に名称変更して根本的なリファイン、4回目の変貌を遂げたのが現行機Magical Forceとなりまする。また、惜しくも 'ディスコン' となりましたが、本機からそのコンプ的機能 'Density' だけを抜き出した単体機も用意されておりました。
いわゆるEQとは違う一昔前の '質感生成器' であるUrei 565TやMoogのThree Band Parametric EQ、そして '飛び道具コンプ' としてスタジオで現在でも珍重されるSpectra SonicsのModel 610 Complimiter(現Spectra 1964 Model C610)など、その後のDJ用エフェクターとしてのフィルターの音作り含め、まだまだ探求すべき分野は幅広くあります。Lovetone Meatballはそんな 'ベッドルーム・テクノ' の価値観の時代に産み落とされた傑作のひとつでした。以下、その発想のきっかけとなる 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事をどーぞ。この頃はまさに四畳半の一室から世界へと発信する 'ベッドルーム・テクノ' の黎明期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。
S − 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。
− それはだれかが先にやってたんですか?。
W − 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。
S − 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。
W − 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。
− しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?。
S − 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。
W − それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。
S − で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。
W − 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。
S − ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。
W − フィデリティ(Fidelity)って '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。
− 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?。
W − それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。
− フィルターとEQの違いは何ですか?。
S − 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。
W − 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。
S − エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。
− そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?。
W − お手軽にいい音になるというかね。
S − 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。
− しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?。
W − それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。
− 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?。
W − 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。
S − それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。
W − よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。
− 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。
W − ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。
S − 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。
W − System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。
S − 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。
W − 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。
− 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?。
W − それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。
− トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?。
W − 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。
S − それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。
W − 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。
S − Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。
− エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?。
W − エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。
S − 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。
W − 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。
S − 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。
− 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?。
S − それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。
W − 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。
− ジャックがあったら挿し込んでみたい?。
S − 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。
W − ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。
− 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?。
S − デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。
W − それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。
S − 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。
W − それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。
S − どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。
"ダイナミック・サウンズ用に作られた特注のコンソールだから、すごく独特だったよ。最近のコンソールには付いていないものが付いていた。周波数を変えるときしむような音がするハイパス・フィルターとか、私たちはドラムでもベースでもリディムでもヴォーカルでも、何でもハイパス・フィルターに通していた。ハイパス・フィルターがタビーズ独特の音を作ったんだ。"
→Arbiter Soundette
→Arbiter Soundimension
一方、Arbiterから登場したSoundimensionとSoundetteはBinson Echorecと同様の磁気ディスク式エコーであり、この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名です。そんなSoundimensionはジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。後には自らミキシング・コンソールの前を陣取り 'Dub Specialist' の名でダブ・ミックスを手掛けますが、そんな彼のスタジオStudio Oneでドッドの片腕としてエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。
"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"
"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"
→Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur
→ 'Mixtur' Liner Notes
→Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur
→Maestro Ring Modulator RM-1A
→Maestro Ring Modulator RM-1B
そんなリング・モジュレーションといえば現代音楽の大家、カールハインツ・シュトゥックハウゼンが 'サウンド・プロジェクショニスト' の名でミキシング・コンソールの前に陣取り、'3群' に分かれたオーケストラ全体をリング変調させてしまった 'ライヴ・エレクトロニクス' の出発点 'Mixtur' (ミクストゥール)に尽きるでしょうね。詳しいスコアというか解説というか '理屈' は上のリンク先を見て頂くとして、こう、何というか陰鬱な無調の世界でおっかない感じ。不条理な迷宮を彷徨ってしまう世界の '音響演出' においてリング・モジュレーターという機器の右に出るものはありません。映像でいうならフィルムが白黒反転して '裏焼き' になってしまった色のない世界というか、ゴ〜ンと鳴る濁った鐘の音、世界のあらゆる '調性' が捻れてしまったような金属的な質感が特徴です。さて、この前衛的な現代音楽の分野で持て囃されたリング・モジュレーターの製品化は1960年代後半、後に 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムが同じUCLA音楽大学に在籍していたラッパ吹き、ドン・エリスにより 'アンプリファイ' のための機器製作を依頼されたことから始まります。この時少量製作した内のひとつがハリウッドの音響効果スタッフの耳を捉え、1968年の映画「猿の惑星」のSEとして随所に効果的な威力を発揮したことでGibsonのブランド、MaestroからRM-1として製品化される運びとなります。オーバーハイムは本機と1971年のフェイザー第一号、PS-1の大ヒットで大きな収入を得て、自らの会社であるOberheim Electronicsの経営とシンセサイザー開発資金のきっかけを掴みました。
さて、そんなマルチな音作りに威力を発揮するペダルがある一方、いわゆる昔ながらの限定された機能のみのペダルも大好きで特に 'ヴィンテージ・フェイザー' はついつい集めてしまいます。その全盛期とも言うべき1970年代はフェイザーの時代でした。いや、正確には 'フェイザーとワウ' の時代と言うべきか。これは大げさでもなんでもなく、とにかくあらゆるバンドの音からこのウネッた変調感満載のサウンドが垂れ流されておりました。個人的にはレゲエのギターによる16ビートのカッティング、クロスオーバーやフュージョンと呼ばれるサウンドの代名詞的効果としてギターやベース、キーボードから管楽器やドラムスなどあらゆるソロでその過剰な 'ジェット・サウンド' を堪能することが出来まする。まさに '亜熱帯のサイケデリア' ともいうべきスプリフ片手に、たゆたうマリワナの煙と共に力を与えるリー・ペリーの姿は、ほとんどギタリストがアプローチするのと同じ意識でMusitronicsの大型 'デュアル・フェイズ' Mu-Tron Bi-Phaseをミキサーに繋いで '演奏' しております!。そして強烈なファズやワウと組み合わせれば、そのエグい 'フェイズ感' はさらに強調されて聴く者の三半規管を司る定位を狂わせるのです。そんなサイケな残り香漂うクロスオーバー期の傑作、三保敬太郎率いる 'Jazz Eleven' の 'こけざる組曲' は最高峰でしょうね。特にこの '聞かざる' のファンクなビートとワウ、ハープシコードや女声コーラスの 'サイケ' な音色が渾然一体となって、3:28〜のグルグルと三半規管を狂わせるような強烈なパンニングとフェイジングの嵐。ぜひヘッドフォンで体感して頂きたい!。もう完全にトリップしますヨ、これは。そしてサイケ繋がりでピエール・アンリの 'Psyche Rock' もどーぞ。
"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"
後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、映画のサントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する重要なものであったのかが分かります。また、この時期から1971年の 'Moogシンセ' 導入前の富田氏の制作環境について松武氏はこう述懐しております。
"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"
この '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さて、古くは 'ギターシンセ' の元祖であるLudwig Phase Ⅱ SynthesizerやEMS Synthi Hi-Fliなど高級なサウンド・システムの一環として登場し、いわゆる通俗的な 'ギターシンセ' の初期のイメージとして流布するきっかけとなりました。中身は上述したバンドパス・フィルターとファズを組み合わせて 'ソレっぽく' (笑)聴かせているような印象に終始するものが大半の代物、しかしその効果が醸し出すロマンがあったのです。この、何度見てもたまらない '楽器界のロールスロイス' とも言うべきEMS。いわゆる '万博世代' やAppleの製品にゾクゾクする人なら喉から手が出るほど欲しいはず。現在、このEMSは過去製品の 'リビルド' をDigitana Electronicsを中心に会社は存続しているのだからAppleが買収して、電源Onと共に光る '🍏' マークを付けた復刻とかやって頂きたい。個人的に 'エフェクター・デザイン・コンテスト' が開催されたら三本の指に入る美しさだと思います。
俗に 'オシレータの無いモジュラーシンセ' と呼ばれるVCFのバケモノFilterbankは、流石に現在では使われ過ぎて '飽きた' という声もあるもののその潜在能力の全てを引き出してはおりません。個人的には当時の主流であった無闇矢鱈に '発振' させない使い方でこそ、本機の新たなアプローチが光ると思っているんですけどね。そんな強烈なフィルタリングと発振、歪みからシンセやドラムマシン、ギターはもちろん管楽器にまでかけるモノとして、何と100台限定でFilterbankを4機搭載してしまったバケモノ、Quad Modular Filterに挑む挑戦者求む!。その強烈なフィルタリングと発振、歪みからシンセやドラムマシン、ギターはもちろん新たな要素として管楽器にまでかける猛者が現れます。クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露しております。ほとんど 'オシレータのないモジュラーシンセ' と言って良い '化け物' 的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調してくれますヨ(動画途中の 'Intermission' は長く第2部は58:33〜スタート)。
→Elta Music Devices Console - Cartridge Fx Device w/ 11 Cartridges
→Elta Music Devices
ここまでご紹介してきた個別の効果をひとつの機器で行うマルチ・エフェクツ。ロシアのElta Music Devicesから2018年に発売され話題となったカートリッジ交換式のマルチ・エフェクツ、Console。各々3種のモードを内蔵したカートリッジをあれこれ入れ替えて、左手でジョイ・スティックをグリグリ動かすインターフェイスはラクで良いですね。当初は10個のプログラムを備えたカートリッジが封入されており、その中身は以下の通り。
⚫︎Cathedral: Reverb and Space Effects
⚫︎Magic: Pitched Delays
⚫︎Time: Classic Mod Delays
⚫︎Vibrotrem: Modulation Effects
⚫︎Filter: Filter and Wah
⚫︎Vibe: Rotary Phase Mods
⚫︎Pitch Shifter: Octave and Pitch
⚫︎Infinity: Big Ambient Effects
⚫︎String Ringer: Audio Rate Modulation
⚫︎Synthex-1: Bass Synth
'モジュレーション/空間系' 中心のメニューですけど、'Vibe' や 'Vibrotrem'、'Magic' などのピッチを変調させるプログラムが多く、それをジョイ・スティックでグリグリと動かす為に何でもグニャグニャ・・。正直、もう少し幅広いプログラムがあっても良かったですけど今後に期待?。フィルターで期待したいのは、1970年代にFormantaが製作したビザールなアナログシンセPolivoksのVCFを 'シミュレート' したプログラムがあること!。その他、'Synthex-1' の 'ベースシンセ' でチューバの如くブッバ、ブッバとしゃくり上げる感じの効果が面白いですねえ。これは 'エレハモ' のMicro Synthesizerに内蔵された 'Attack' スライダーでエンヴェロープのアタックを消し、Voiceセクションでフィルタースウィープさせる感じと言えば分かって頂けるでしょうか。また、本機の筐体に描かれた 'マレーヴィチ' 風ロシア・アヴァンギャルドなデザインも格好良いのですヨ。
⚫︎Generator: Signal Generator
⚫︎Digital: Bit Crasher
ちなみにこのConsoleはその10種のプログラムに続き、現在までひっそりと3種カートリッジを追加しております。いわゆるデジタルのオシレータである 'Generator' に8ビット系の歪みとしてポピュラーとなったビット・クラッシャーの 'Digital'、そしてリヴァース・ディレイとHold機能のループを備えた 'Ochre' なのですが、なぜひっそりかと言えば公式HPで一切アナウンスされていないのです(謎)。突然、eBayやReverb.comなどのお店で在庫として少量登場し、慌てて注文して何とか確保出来たというアバウトさ・・。カートリッジ本体に穴が空いているのは全てをチェーンなどで繋ぎ、無くすことなく瞬時に入れ替えられるのは便利ですね。あ、そういえば互換性は無いものの同種のカートリッジ式マルチ・エフェクツArcadesを出した人気の工房、Cooper Fxは早々にペダル製作をヤメてしまいました(悲)。群雄割拠、栄枯盛衰といえば業界の '新陳代謝' が機能しているように見えますけど、このCooper FxにDwarfcraft DevicesやカナダのDiamond Guitar Pedalsなど、大きな支持を得たペダル・ビルダーたちが何のためらいもなく 'ドロップアウト' してしまうのは色々考えさせられますヨ。そろそろこの飽和した市場もひとつのピークに達しているようで、一部のSNSで作り出したトレンドだけで市場を回すやり方は機能しなくなっているように感じますね。
→U.S.S.R. Spektr-4 Fuzz Wah & Envelope Filter
→U.S.S.R. Spektr Volna Auto Wah
→U.S.S.R. Elektronika Synchro-Wah
その 'ロシア繋がり' ということで、旧ソビエト時代のファズワウ、オートワウ、エンヴェロープ・フィルターの数々をどーぞ。初期のファズワウSpektr-1やSpektr-2、ファズ、ワウペダル、そしてエンヴェロープ・フィルターを個別もしくは複合的に組み合わせて用いるマルチ的製品Spektr-4は、そもそもこれらを2つのペダルでコントロールする '機能強化版' のSpektr-3から単品にして使いやすくしたもの。また、そこからオートワウのみ単品にした 'うねり' の効果として 'Wave' という意味を持つVolna Auto Wahも用意されております。昔のSF映画に出てくる小道具っぽさというか(笑)、こーいう 'ロール状' でダイヤルのようなパラメータって 'ペダルの世界' ではほぼ見ないですね。実際、使ってみると・・やはり官製品ならではのステージ使用を考慮しない仕様、限定的な効果のみ特化したのかレンジやパラメータの幅が狭いなあ。この時代の製品と仕様は、いわゆる '私有財産' の認めないソビエト共産党による国家の '備品' であると考えることが重要です。一方、Elektronikaによる 'Cnhxpo-Bay' こと'Synchro-Wah' はなかなかにエグい効果でたまりませんね。一説にはElectro-Harmonix Doctor Qの 'デッドコピー' とのことで、ロシア語全開のさっぱり読めない取説にも確かにそれっぽい単語が載ってる(笑)。しかし欧米の工業規格と全く違う旧ソビエト産エフェクターはまさにデザインの宝庫ですね。
●Fission
このモードでは、入力された信号の周波数帯を分割し、それぞれを2つのLoopにスプリットして再びミックスして出力出来ます。Umbrella Company Fusion BlenderやVocuのMagic Blend Roomなどと同種の機能ですね。またエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。
●Fusion
このモードでは、2つのLoopのバランスを調整してブレンドすることが出来ます。これらミックスのバランスは筐体真ん中にあるSplitpointツマミ、またはエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。これはDwarfcraft Devices Paraloopと同種の機能に当たりますね。
●Fallout
このモードでは、2つのLoopの前にワイドノッチ・フィルターを適用して、Splitpointツマミやエクスプレション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。ペダル・コントロールすることでワウのような操作を付加することが出来ます。また本機には、これとは別にHicut、Locutのフィルターを搭載して音作りに適用することが出来ます。
ちなみに本機搭載のフィルターは12dB、24dB、48dB/Octのスロープ角度を選択出来、それぞれFission、Falloutモードのワイドノッチ・フィルターにも適用されます。もちろん、Ch.2のLoopでフェイズアウトが起こった際の位相反転にも対応出来るのは素晴らしい。そして2つのLoopからなる 'Send/Return' にはフォンと 'ユーロラック' モジュラーでお馴染み3.5mmミニプラグが同時対応し、さらにこの3.5mmのLoopには内部DIPスイッチにより楽器レベルとラインレベルで 'インピーダンス' を切り替えて使用すること可能。
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