2020年9月2日水曜日

バーカスベリーの時代

いわゆるグーズネック式のマイクをベルに装着する以前、管楽器の 'アンプリファイ' として一般的だったのがマウスピースに穴を開けてピエゾ・ピックアップを装着するやり方でした。いくつかのメーカーからその手の製品が登場しましたけど最も普及したと思われるのがピックアップの老舗、Barcus-berryのもの。俗にマウスピース・ピックアップにおける収音方法を指して 'バーカスベリー・ピックアップ' と呼ばれるくらい、その小さな金属製のピン状本体と短いコードが一緒になったそれは、安価な単製品として市場に '捨て置かれて' いたのです。





なぜ、ここで '捨て置かれて' などと表現したのかといえば、いわゆるアコースティックギターにおける 'エレアコ' のPA的知識に比べて、ほぼ管楽器奏者に対する基本的な知識、セッティングなどの具体的な説明がなされていないこと。メーカーもピックアップ本体と薄っぺらな最低限の仕様書一枚のみ封入で、とにかくマウスピースのシャンク部に穴を開けて接合した後は別売りのプリアンプ、その後はほぼPAのエンジニアに '丸投げ' して下さい、という程度の扱いなのです。それは、この手の製品が市場のどこのコーナーに陳列されていたのかを見てもよく分かり、後年わたしも管楽器店の 'デッドストック' としていくつか発見しましたが、店員もさっぱり分からなければそれをチェックする基本的なPAシステムを備えた場所もナシ。多分、奏者はステージの現場に持って行って初めてそれと '対面' することになっていたんじゃないかと想像します。ここで以下、そんなBarcus-berryピックアップの愛用者であったラッパ吹き、近藤等則さんのエピソードをご紹介。米国で突然のエレクトリック・バンド結成と相まって、コンドーさんもこのピックアップと '遭遇' した当惑感をその後の '散財' のきっかけと共に語ります。

- 近藤さんの電気トランペットは、レコードですと「Metal Position」から正式にクレジットされてますけど、その前から色々と研究されていたと思うんですが、その最初の頃に組み上げたところから、今の電気トランペットのシステムまで、かなり色々と改良を加えてると思いますが、そのあたりの大きな違いとか、近藤さんが開発してきたところとかは何かありますか?

K - 電気トランペットにしようとしたのは1979年だったかな。ビル・ラズウェル達とWorld Mad Musicってバンドを作ったんだ。フレッド・フリス、ヘンリー・カイザー、ビル・ラズウェル、フレッド・マー、オレって言う、このメンツでね。あいつらは完全にフリー・ロックやろうってことで、ニューヨークでやり始めたらとにかくあいつらは音がデカい。ヘンリーもデカいギターアンプ鳴らしてるわ、フレッド・フリスもあんなヤツだし、ビルもこんなデカいベースアンプでブウゥン!って弾くし、フレッド・マーも元気だったからね。スクリッティ・ポリッティの前で。で、オレがどんなにトランペットをマイクにぶっ込んでも、全然音がないんで頭にきて、「もうこれは電気だ」って次の日に40何丁目行ってピックアップ買ってきてブチ込んでやり始めたんだ。「必要は発明の母」っていう(笑)。

やり始めたら、そこから悩みの始まりでね。電気ラッパ用の機材なんて誰も売ってないわけだから。ピックアップだけ売っててね。だからどうやってチューニングするのか分からないし、えらい試行錯誤があったよ。すでにマイルスは70年代前半にそれをやってて、マイルスなりのその電気のやり方を参考にはしたけど、あれじゃ気に入らないからもうちょっとオレなりの、ってことをやりだすとね。

- マイルスもあんまりやらなくて、ちょっとで止めちゃったようなイメージがあります。

K - でも、あの3年間ぐらいはマイルスは素晴らしい探求をしたわけだけどね。

- 期間的には短いですよね。

K - ピックアップを入れて、マイルスは基本的にワウを使った。ディレイとか複雑なものは使わなかった。基本的にワウの発想だった。ちょっと話は変わるけど、ワウこそ、あれはトランペットだからね。ギターがワウを作ったのは、トランペットでワウをやってたのを真似したんだから。アコースティック・トランペットに、トイレを掃除するゴムの丸いヤツあるだろ?あれをアメリカの黒人達がトランペットに当てて、ワォンワォンってやり出したんだ。それをギターに応用した。基本的にはトランペットからワウはスタートしたんだ。サックスじゃできないんだから。(電気トランペットの開発には)家一軒建つぐらいの金は使ったね。 






1965年のH&A Selmer Varitoneをきっかけに始まった管楽器の 'アンプリファイ' は、後続するC.G. Conn Multi-Vider、Vox / King Ampliphonic、Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds、そしてHammond / Innovex Condorという流れの中、ピックアップの老舗Barcus-berryによりこの製品の特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者のLester M. BarcusとJohn F. Berryの両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しております。特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなく、カップ内に穴を開けてピックアップを接合するのにビックリ。しかし、カップ内で音をピックアップするとプシャ〜とした息の掠れる音が入り、最初の動画はPiezoBarrelピックアップのものですが、こんな独特な音色となってイマイチ扱いにくいのでシャンク部に穴を開けた方が使いやすいと思います。多分この奏者は、トロンボーンのギャップの関係でピックアップを装着出来るスペースが無かったが故の苦肉の策なのかも知れませんね。一方、微細な振動をトリガーして鳴らすということからMIDIノートに変換して、譜面ソフトと同期するのに利用したいかにも 'マイコン' 黎明期のデモ動画。こっちはリムの方に穴を開けています。








ユーザーとしては、ラリー・コリエルのバンド、The Eleventh Houseにランディ・ブレッカーの後釜で加入したマイケル・ローレンス、フランク・ザッパのバンドのホーン陣を仕切るイアン・アンダーウッドやトロンボーンのブルース・ファウラーらが使うことでこの製品普及に大きく貢献したと思われます。当時、Barcus-berryはマウスピースに穴を開ける金管楽器用1374、木管楽器用1375-1のほか、単純にリードの下側に貼り付けて 'アンプリファイ' する廉価版1375も用意しており、その他、後述するジャコ・パストリアス・バンドのボブ・ミンツァーらはバス・クラリネットに用いて吹いておりました。





金管用マウスピース・ピックアップ変遷。最初の写真のものは1970年代初めに製品化された金管楽器用1374で、中継コネクターを介して2.1mmのミニプラグでフォンへと接続します。中継コネクターにぶら下がるタイラップはラウンドクルーク部とリードパイプ部分をグルッと引っ掛けておくという仕様でして、この会社の製品はその '作り' という点でも結構荒っぽいんですよね。これ以後、1970年代後半には3.5mmのミニプラグに仕様変更され、金管楽器用は中継コネクターを専用のクリップでリードパイプに着脱できるようになったのが真ん中の写真のもの。この時期の製品を個人的に調べてみて分かったのは、1982年製造と1983年製造のものでピエゾの感度がかなり変わってしまったことでして、正直、1983年製は 'ハズレ' と言いたいくらいエフェクツのかかりが悪いですねえ(謎)。そして1990年代半ばに発売されるも少量で生産終了した 'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001が同社 '有終の美' を飾りました。スクリューネジによるピックアップ本体の着脱とソケット内部にポリプロピレンのスクリーンで防水するなど、当時愛用していたラッパ吹き、近藤等則さんは後の自作マウスピース・ピックアップ製作においてほぼ踏襲しております。そんなBarcus-berryが社運を賭けて開発したと思しき6001は同社で最も高価な製品となり、当時代理店であったパール楽器発行の1997年のカタログを見ると堂々の65,000円也!しかし、すでにグーズネック式のマイクがワイヤレスと共に普及する時代の変化には太刀打ちできませんでした。








さて、決定的にこの製品の市場拡大で貢献したのはザ・ブレッカー・ブラザーズのランディ・ブレッカーでしょう。それまでHammond / Innovex Condorの付属品として用意されていたShureのCA20Bからスイッチ、より小型化されたBarcus-berryピックアップはこの収音方法をやめる1994年頃までトレードマーク的に装着されておりました(なぜか当時、弟マイケルの方は旧態然なピックアップのほか貼り付け型の1335を使用)。ちなみに面白いのは、1982年のジャコ・パストリアス・グループ参加時の 'マウスピース周り' の中継コネクターで、ここではラウンドクルーク部とリードパイプ括り付けの 'タイラップ' から専用のクリップでマウントする方式に変更。しかし動画のランディは、そのマウントするパーツが未だ従来のタイラップも付けたまま状態という、いかにも過渡期の勇姿を拝むことができます。そんな当時の 'アンプリファイ' について近年、ランディは今のステージと昔話を交えながらこう述べておりました。

- ステージを見せてもらいましたが、ほとんどずっとエフェクトを使っていましたね。

R - 今回のバンドのようにギターの音が大きい場合には、エフェクトを使うことで私の音が観客に聴こえるようになるんだ。大音量の他の楽器が鳴る中でもトランペットの音を目立たせる比較的楽な方法と言えるね。トランペットとギターの音域は似ているので、エフェクターを使い始める以前のライヴでは常にトラブルを抱えていた。特に音の大きいバンドでの演奏の場合にね。それがエフェクターを使い始めた一番の理由でもあるんだよ。ピッチ・シフターで1オクターヴ上を重ねるのが好きだね。そうするとギターサウンドにも負けない音になるんだ。もし音が正しく聴こえていれば、アコースティックな音ともマッチしているはずだしね。

- ライヴではその音を聴いていて、エッジが増すような感じがしました。

R - うん、だからしっかりと聴こえるんだ。それに他の楽器には全部エレクトリックな何かが使われているから、自分もエレクトリックな状況の一部になっているのがいい感じだね。

- そのピッチ・シフトにはBossのギター用マルチ・エフェクター、ME-70を使っていましたね?

R - うん、そうだ。ディレイなどにもME-70を使っている。ただ使うエフェクターの数は少なくしているんだ。というのもエフェクターの数が多すぎるとハウリングの可能性も増えるからね。ME-70は小型なのも気に入っている。大きな機材を持ち運ぶのは大変だし、たくさんケーブルを繋ぐ必要もないからね。

- そのほかのエフェクターは?

R - BossのオートワウAW-3とイコライザーのGE-7、ほかにはErnie Ballのヴォリューム・ペダルだよ。本当はもっとエフェクツを増やしたい気持ちもあるんだけど、飛行機で移動するときに重量オーバーしてしまうから無理なのさ。もっとエフェクトが欲しいときにはラップトップ・コンピュータに入っているデジタル・エフェクツを使うようにしているね。

- マイクはどんなものを?

R - デンマークのメーカーDPA製の4099というコンデンサー・マイクだ。このマイクだと高域を出すときが特に楽なんだ。ファンタム電源はPA卓から送ってもらっている。

- 昔はコンタクト・ピックアップを使っていましたよね?

R - うん、エフェクツを使い始めた頃はBarcus-berryのピックアップを使っていたし、マウスピースに穴を開けて取り付けていた。ラッキーなことに今ではそんなことをしなくてもいい。ただ、あのやり方もかなり調子良かったから、悪い方法ではなかったと思うよ。

- ちなみにお使いのトランペットは?

R - メインはYamahaのXeno YTR-8335だ。マウスピースは・・いつも違うものを試しているけど、基本的にはBach 2 1/2Cメガトーンだね。

- 弟のマイケルさんとあなたは、ホーンでエフェクツを使い始めた先駆者として知られていますが、なぜ使い出したのでしょうか?

R -  それは必要に迫られてのことだった。つまり大音量でプレイするバンドでホーンの音を際立たせることが困難だったというのが一番の理由なんだ。最初は自分たちの音が自分たち自身にちゃんと聴こえるようにするのが目的だったんだよ。みんなが私たちを先駆者と呼ぶけど、実際はそうせざるを得ない状況から生まれたのさ。

- あなたがエフェクターを使い始めた当時の印象的なエピソードなどはありますか?

R - 1970年当時、私たちはDreamsというバンドをやっていた。一緒にやっていたジョン・アバークロンビーはジャズ・プレイヤーなんだけど、常にワウペダルを持って来てたんだよ。彼はワウペダルを使うともっとロックな音になると思っていたらしい。ある日、リハーサルをやっていたときにジョンは来られなかったけど、彼のワウペダルだけは床に置いてあった。そこで私は使っていたコンタクト・ピックアップをワウペダルにつなげてみたら、本当に良い音だったんだ。それがワウを使い始めたきっかけだよ。それで私が "トランペットとワウって相性が良いんだよ" とマイケルに教えたら、彼もいろいろなエフェクターを使い始めたというわけだ。それからしばらくして、私たちのライヴを見に来たマイルス・デイビスまでもがエフェクターを使い出してしまった、みんなワウ・クレイジーさ(笑)。

- マイケルさんとは "こっちのエフェクターが面白いぞ" と情報交換をしていたのですか?

R - うん、よくやっていたよ。彼の方が私よりもエフェクツにハマっていたから、時には彼がやっていることを理解できないこともあったもの。でも私たちはよく音楽に関する情報を交換していたね。特に作曲に関してや、バンドの全体的なサウンドに関していつも話をしていたよ。それにお互いに異なるエフェクツを試すことも多かった。サックスに合うエフェクトとトランペットに合うエフェクトは若干違うんだよ。ワウは彼のサックスには合わなかったよ(笑)。







Shure CA20B Transducer Pick-Up

ちなみにこちらは 'Barcus-berry前夜' とも言うべき、ランディが愛用していたHammond製作のInnovex Condor RSMとShureのマウスピース・ピックアップCA20Bの頃のもの。1971年と72年にMainstreamから立て続けにリリースされたキーボーディスト、ハル・ギャルパーの 'The Guerilla Band' と 'Wild Bird' でその '電化ぶり' を開陳、さらにラリー・コリエル率いるThe Eleventh Houseやビリー・コブハムのグループへの参加で特に初期ランディ・ブレッカーのイメージを決定付けました。このCA20Bは、スクリューネジでピックアップ本体を着脱してピックアップ台座とシャンク部を繋ぐアダプターはゴムOリングで嵌め込む仕様。その為、ステージ上で派手なアクションと共に楽器を振り回すとゴムOリングの劣化に伴い外れてしまうので、同時期の愛用者であるマイルス・デイビスのステージ動画を見ると、アダプターとピックアップ本体をビニールテープでグルグル巻きにする荒技で凌いでおりますね。たまにピックアップの反応が鈍いのか、ステージ後ろからロード・マネージャーのクリス・マーフィーがフラフラと出て来てギュッとピックアップをマウスピースに押し付ける '応急処置' を確認することが出来まする(笑)。そんなピックアップは以下、ShureのHPから質問コーナーに寄せられたこのピックアップに対する回答。

"Q - わたしはShurre CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。"

"A - CA20Bは1968年から70年までShureにより製造されました。CA20BはSPL/1パスカル、-73dbから94dbの出力レベルを持つセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それはHammond Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られておりませんでした。

CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられて、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイ・インピーダンスの出力を60'ケーブルと1/8フォンプラグにより、InnovexのCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクツを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax、Fuzz、Cello、Oboe、Tremolo、Vibrato、Bassoonなどの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。

Condorはセールス的に失敗し、ShureはいくつかのCA20Bを生産したのみで終わりました。しかし、いく人かのプレイヤーたちがCA20Bを管楽器用のピックアップとしてギターアンプに繋いで使用しました。その他のモデルのナンバーと関連した他の型番はCA20、CA20A、RD7458及び98A132Bがあります。"





こちらはCecil Gullicksonという人が当時Hammondの代理店業として、自分で製作した10ページほどの 'Innovex Condor GSM/RSM' のカタログからこのShure CA20Bのバリエーション一覧。こちらでは 'Innovex' ブランドを象徴する緑のマークではなく本家 'Shure' のマークとなっておりますね。ちなみにこのピックアップはCondor RSMのユーザーの為にShureが付属品として用意したもので一般には手の入りにくい貴重なもの。このカタログの本家 'Shure' ブランドや緑のマークの付いた 'Innovex' ブランド以外では、他に 'ISC Audio' ブランドのものが存在します。







動画はギター用GSMのものですが、基本的構成はGSMと管楽器用RSMにそれほどの違いは無いのでほぼこのような出音となります。この世界初の 'ギターシンセ' と呼ばれるCondorはHammondがOvationと協業して開発したもので、その初期のユーザーでもあるジミ・ヘンドリクスはニューヨークの馴染みの店Manny,sで購入しております。こちらはManny'sの領収書が残っており、ヘンドリクスは1969年11月7日にシリアル・ナンバー1145のCondor GSMを480ドルでMaestro Echoplexと共に購入。使用楽曲として(今のところ)唯一確認出来るのはヘンドリクス没後に発売された未発表曲集 'Rainbow Bridge' の中に 'アメリカ国家' のスタジオ録音版が収録されており、これの 'シンセライク' にキラキラしたトレモロのギターによるオーバーダビングで本機が使われているのでは?という噂があるのですヨ。この曲のベーシックトラックは1969年3月18日にニューヨークのレコード・プラント・スタジオで収録され、同年11月7日にヘンドリクスがManny,sで本機Condor GSMを購入、さらにオーバーダブの作業を経て完成させた、というのが今のところわたしの '見立て' なのですが・・。
















1965年のH&A Selmer Inc. Varitoneを出発点に登場した管楽器用マウスピース・ピックアップの数々。そもそもはローランド・カークの 'ひとり四重奏' な奏法にヒントを得て製品化されたこれら初期サウンド・システムは、C.G. Conn Multi-Vider、Robert Brilhart Co. R-B Electronic Pick-Up、Vox / King Ampliphonic、Gibson / Maestro Sound System for Woodwindsといったピックアップ単品での販売というより、専用コントローラーの付属品として用意されていたのが基本でした。エディ・ハリス、ソニー・スティット、クラーク・テリー、ナット・アダレイ、リー・コニッツ、ドン・エリス、ルー・ドナルドソン、キャノンボール・アダレイ、ポール・ジェフリー、アービー・グリーンといった旧来のジャズメンからこの時代の変化と呼応するように彷徨い出て来たトム・スコット、ラスティ・ブライアント、ソフト・マシーンのエルトン・ディーンとリン・ドブソン、ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのイアン・アンダーウッドとバンク・ガードナー、もちろんランディとマイケルのブレッカー兄弟も早いアプローチでこの黎明期に注目を集めました。








閑話休題。そして我らが '電気ラッパの伝道師' である近藤等則さんもこのニッチなBarcus-berryのマウスピース・ピックアップを印象付けたひとり。特に1980年代のIMAバンドにおける勇姿は記憶に残っているお方も多いのでは?。ここでの自作による 'スピーカー・スクラッチ' は参加したハービー・ハンコックの作品 'Sound System' でも披露しておりましたね。この時代のコンドーさんのラッパは、いかにもBarcus-berryならではの痩せた硬い音質、プシャ〜としたノイズと共に量感の無い音色で後年のマイクを併用してのトーンと比較するとピエゾ特有の '困った感じ' がよく分かります。そんなIMA時代に愛用した 'ピエゾ' 型1374からソロ後の 'エレクトレット・コンデンサー' 型6001を経て2007年、意を決してDPAのミニチュア・マイクロフォンを流用してのオリジナル・ピックアップ製作に動いたのも納得。





Barcus-berry 1330 Standard Preamp
Barcus-berry 1330-S Standard Pre-Amplifier
Barcus-berry 1332 Studio Pre-Amplifier
Barcus-berry 1332-1 Studio Pre-Amplifier
Barcus-berry 1333 Super Boost
Barcus-berry 1335 Pre-Amp Equalizer
Barcus-berry Hot Dot Box

そんなBarcus-berryの 'ピエゾ型' マウスピース・ピックアップはパッシヴなので、メーカーから別に汎用のプリアンプが用意されておりました。これも時代ごとのモデルチェンジが激しく、初期の1330S High Impedance 'Standard' Preamplifier、Super Boostの1333や1433-1、1980年代からは3Vのボタン型リチウム電池のプリアンプがピックアップと同梱して販売され、その後の1990年代頃からはUniversal Interface 3500Aなどが登場しました。ちなみに、'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001に対応したBuffer Preamp/EQ 3000Aはこれらとインピーダンスが違うので共用することはできません。写真のものは1970年代後半の1430 Standard Pre-Ampと1432 Studio Pre-AmpというDI出力の付いたもので、9V電池のみならずDC9V電源の駆動も可能とします。ちなみに、このようなマウスピース・ピックアップとステージなどその環境においては、1970年代まではピックアップからの出力をステージ上のアンプで鳴らしたものをマイク録りしていたのに対し、1980年代以降はPAのサウンド・システム全体のクオリティーが向上したことと相まってラインによる音作りが一般化、ほぼDIからPAへと送るやり方に変化しました。ただ大きな音を鳴らせればよかった時代から 'アンサンブル' における 'エレアコ' とPAの関係、それは小型化されたグーズネック式のワイヤレス・マイク登場の舞台を用意したのだと思うのです。







Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ①
Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ②

現在、その他の製品としては元々フルートの 'アンプリファイ' に力を入れていた同社らしく頭管部に差し込む6100、サックス/クラリネット用としてベル内側にベルクロで貼り付ける(荒っぽい!) 'エレクトレット・コンデンサー' 式のC5200 (C5600)などの一風変わったピックアップを供給するなど、相変わらず '斜め上' のセンスで細々と展開しておりまする。また、一風変わったものとしては 'エレクトレット・コンデンサー' 式ピックアップとして一時期、金管楽器用の5300というのがラインナップされておりました。これはラッパのベルのリム縁にネジ止めしてマウントするもので、1981年に復帰したマイルス・デイビスもメーカーは違いますが同種のピックアップをステージで使用しておりましたね。当時、もの凄いお金のかけたワイヤレス・システムだったそうですが、このBarcus-berryの方はすでに '廉価版' としてリーズナブルなお求めやすい価格で提供されました。こんな構造ですけどオープンホーンはもちろんミュートもちゃんと拾うナチュラルな収音であるものの、ワウなどのエフェクツをかけると簡単にハウってしまいます。基本的にはリヴァーブやディレイ程度で '生音' の収音に適したピックアップなのですが、これもグーズネック式マイクの登場であっという間に '過去の遺物' に・・(デイビスもあの '傘の柄' のようなワイヤレス・マイクに変えちゃいましたしね)。





Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
Piezo Barrel Instructions

さて、そんなわたしも長らく 'Barcus-berryユーザー' を経て現在はオーストラリアでひとりSteve Fransisさんの製作するマウスピース・ピックアップ、PiezoBarrelに切り替えて愛用しておりまする。コイツを使ってしまうとピエゾひとつとはいえ、やはり相応の技術の進歩というのはありますね。とりあえず、これまでありがとうBarcus-berry!の気持ちでございます。多謝。

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