2017年1月2日月曜日

'チャカポコ' とリズムボックス

1960年代後半、当時Gibsonのエフェクター・ブランドであったMaestroから奇妙なエフェクターが発売されました。Rhythm 'n Sound for Guitarと名付けられたそれは、いわゆる現在でいうところの 'マルチ・エフェクター+ドラム・マシーン' のはしりのような機種といえます。また、見た目からも分かる通り、これは管楽器用エフェクターSound System for Woodwindsの姉妹機でもあります。



こちらは初期のG-1でBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載。ドラム・マシーンというのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、本機はギターの入力でトリガーするパーカッションの音源が内蔵された風変わりなものです。







こちらはG-1の後継機でG-2というモデル。G-2はG-1の5つのパーカッションから 'Bass Drum' を除いた4種類を搭載し、オクターバーとファズ、トレブル・ブースターを整理しております。そして、新たにエンヴェロープ・フィルターの 'Wow Wow' と 'Echo Repeat' なるトレモロを加え、より 'マルチ・エフェクター' 的色彩の濃いものとなりました。



音源自体は当時、Maestroが発売していたRhythm Kingというリズムボックスからのものが流用されており、現在の基準で見ればおおよそリアルな音源とは程遠いチープなものです。ちなみにこのRhythm Kingは、あのスライ・ストーンの名盤 '暴動' (There's A Riot Goin' On)で全面的にフィーチュアされるリズムボックスでもあります。単にホテルのラウンジ・バンドとして、オルガン奏者が伴奏に用いていたリズムボックスをこのようなかたちでファンクに応用するとは設計者はもちろん、誰も想像すらしなかったことでしょう。スライ本人はスタジオの片隅に捨て置かれていたコイツを見つけて、ひとりデモ用として都合が良いことから使い出したらしいですけどね。



I'm Just Like You: Sly's Stone Flower 1969 - 1970

スライ・ストーンが立ち上げたレーベル、Stone Flowerは1年のうちで僅か5枚のシングルをリリースして潰れてしまいましたが、そこにはスライの傑作 'Stand !' 〜 '暴動' に至るプリ・プロダクションの興味深い雛形を垣間見ることができます。2014年にその5枚のシングル盤と同レーベルに残された未発表デモ10曲をまとめたコンピレーション 'I'm Just Like You: Sly's Stone Flower 1969 - 1970' はまさに必聴!6ix、Joe Hicks、Little Sisterという若手を使いながら、このクールな 'リズムボックス・ファンク' をたっぷりと堪能して頂きたいですね。

話を戻して、Rhythm 'n Sound for Guitarの 'マルチ・エフェクター' の部分を見てみると、G-1はオクターバーにあたる 'String Bass'、'Fuzz Bass' にトーン・コントロールを司る 'Color Tone 1、2、3'の3種、そしてバッファー兼原音の役目となる 'Natural Amp' のスイッチが整然と並びます。一方、後継機G-2はこの部分がガラリと変わり、オクターバーは 'Fuzz Bass' が廃され 'String Bass' のみとなり、'Natural Amp' と 'Fuzz Tone'、そしてトーン・コントロールも 'Color Tone 1、2' の2種となった分、新たに 'Wow Wow' と 'Echo Repeat' が装備されました。特筆したいのは、1970年代初めの時点で 'Wow Wow' というエンヴェロープ・フィルターが早くも登場したこと。Wow Wow Speedのツマミ1つで設定するものですが、ちゃんとピッキングに追従してワウがかかります。'Echo Repeat' はその名前だけ聞くとエコーの効果を付加してくれるように思いますが、これはVoxのRepeat Percussion同様のトレモロでして、Echo Repeat Speedのツマミを遅くすることで 'ドッドッドッ' とエコー風に繰り返している印象を与えるものです。パーカッションやオクターバーはピッキングへの反応が鋭い分、うまく鳴らすにはコンプレッサーなどで入力を一定に抑えておいた方が良いでしょう。



Funky Skull / Melvin Jackson (Limelight)

これら音源は単にユニゾンで鳴るだけなので、現在の基準で効果的に用いるのはループ・サンプラーなどでオーバーダブしながら、多彩なサウンドを構築していく使い方がより効果的かもしれません、と思っていたら、やはりそのアイデアで巧みに操るユーザーが現れました。本機は晩年のジミ・ヘンドリクスも入手していろいろ試していたようで、またダブの巨匠、リー・ペリーのスタジオ 'Black Ark' にも本機が置かれている写真を見たことがあります。変わったところでは、エディ・ハリスのバンド・メンバーであるベーシスト、メルヴィン・ジャクソンのソロ作 'Funky Skull' (Limelight)で全編、ウッドベースへEchoplexと共に使用しております(ジャケットにも堂々登場)。このビヨ〜ンと伸びきったような 'Wow Wow' のかかるファズベースのとぼけた感じや、ベース・ランニングの後ろでチャカポコと鳴りまくるパーカッションのビザールな扱い方は、まさに本機ならではの効果・・なのですが、こちらも '視聴制限' がかけられているのでYoutubeの方でご視聴下さいませ。ちなみに作曲家の故・富田勲氏もMoogシンセサイザー直前のお仕事で、姉妹機のSound System for WoodwindsやLudwig Phase Ⅱ Synthesizerと共に本機をよく活用されていたそうです。











Shin-ei Companion 4 in the Floor

こちらは未だに謎というか、1960年代後半から70年代半ばにかけて、あの伝説の名機Uni-Vibeの開発、製造に携わった新映電気が(たぶん)輸出用に製造していた電気パーカッション、4 In The Floor Percussion Combo。たぶん、オルガン奏者が足で踏んで伴奏する為のものだったと想像しますが、その音色はほとんど 'シンセドラム'。後者の動画ではテルミン風のセンサーやエコー切り替えスイッチの 'モディファイ' を施しておりますが、まだまだ電気楽器やエフェクターの黎明期において、これほどの発想力と技術力を持った会社が日本に存在したという事実はもっと声高に叫んでも良いと思いますね。しかしこの時代、Korg初のアナログシンセMini Korg 700もそうだけど '木目調' ってのが流行していましたねえ。





Digitech Trio+

いまの時代、'Youtuber' のようなひとりでいろいろとパフォーマンスしてみようという人にはピッタリなアイテムではないでしょうか?入力する楽器の演奏からベースラインとドラム・パターンを生成してくれるという点で、まさに隔世の感がありますね。'リズム' に特化したマイナスワンというか、自在にテンポを合わせてくれる 'バックトラック' と、さらにループ・サンプラーを加えて独自にオーバーダブで構築できるなど、ホント良い時代になったものです。





Digitech SDrum - Strummable Drums
Digitech SDrum - Strummable Drums Review

こちらはそのTrio +をさらに進化させた 'インテリジェント・ドラムマシン' とでも言うべきもので、単なるカラオケからギターやベースの入力でリズム・パターンとソングを組み鳴らすことが出来る、リズムに特化した '簡易DAW' (言い過ぎ?)。おお、コレってまさにMaestro Rhythm 'n Sound for Guitarの進化系に当たる存在ではないでしょうか。本体上面には 'Kick' と 'Snarre' のパッドも備えており手で叩いて入力することも可能ですが、ギターやベースの低音弦をキック、高音弦をスネアに割り振って打ち込むことの可能な 'Beat Scratch' 機能も搭載。またJam Syncを用いて同社のループ・サンプラーであるJamMan Delayとの同期も可能です。これでますます '一人遊び' というか、バンドなくても作曲からパフォーマンスまで可能ですね。





Taal Tarang Digital Tabla Machine
Radel Taalmala digi-100 Plus

ちなみにリズムボックスは何も欧米の音楽シーンばかりが全てではないということで、インドの民俗楽器タブラを機械的に奏でるタブラ・マシーンの登場です。そもそもはシタールの伴奏及び練習用として製品化されたもので、MIDI同期もできるRadel社のものが有名ですね。ここでは最近デザインを一新したコンパクトなTaal Tarang Digitalをどーぞ(動画は旧製品だけど)。ターラというインドの複雑な変拍子をカウントする表示があるのは便利。また本機のプログラム機能をメチャクチャに設定することで、わざと機械の暴走した 'バグらせる' 感じから 'グリッチ' 風エレクトロニカな効果を生成。伝統的なラーガの勉強も良いですが、こういう 'ガジェット' を無国籍的に使ってみるのも面白い。

もう、バンドのメンバー募集もいらなければ、音楽性の違いなどメンバー間で揉めることもない・・ただ、ひたすら文句も言わずあなたのお傍に仕えてくれるリズムボックス。コンピュータを持ち込んでオケを流しながら演奏するのも良いですが、こんな一風変わった 'リズム・セクション' と管楽器だけでステージに立つというのも面白いかもしれません。

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