2016年2月4日木曜日

改稿: プリアンプのお仕事

以前に書いた 'プリアンプのお仕事' がほぼ日記的な内容でしたので、ここで再度ちゃんと記しておきたいと思います。そう、管楽器にとって音の入り口、出音の最も重要な出発点であるマイクとプリアンプは重要です。昔はART Tube MPやBehringer Tube Ultragain Mic 100のような卓上プリアンプくらいしか選択肢がなかったのですが、近年はもっと管楽器に適したお手軽なプリアンプが市場に現れております。

Audio-Technica VP-01 Slick Fly

Audio-Technica VP-01 Slick Fly 1
Audio-Technica VP-01 Slick Fly 2

まずはこちら、最初に市場に現れたAudio-Technica VP-01 Slick Flyです。マイク・プリアンプにしてDI機能、そしてコンパクト・エフェクターをインサートするという仕様は、この後に登場するVoco Locoの先鞭を付けたと言えるでしょう。Slick Fly1万円前後の低価格であり、BossのPSA-100Sを始めとしたDC9Vセンターマイナス(300mA以上を推奨)の電源供給が可能です。



Radial Engineering Voco Loco

もうひとつのRadial Engineering Voco Locoは、さすがに4万円クラスのものだけあり、クラスAなプリアンプとToneLoHi2バンドEQを備えており積極的な音作りが可能となっております。ただしDC15V(400mA)のセンタープラスによる専用電源なので汎用性は低いですね(並行輸入品でご購入の方ご注意あれ)。



Eventide Mixing Link

こちらはEventideによるループ・ブレンダー機能を備えたライン/マイク・プリアンプ。ファンタム電源内蔵でコンデンサー・マイクのほか、通常の楽器入力、モバイルフォンからのライン入力にも対応しております。入力とループ・ブレンダーとのミックスは、Dry+FX(ドライ100%+ウェット)、Mix(ドライ/ウェット)、FX Only(ウェット100%)の3タイプの切り替え可能。

このようなコンパクト・エフェクター用のインサート端子を備えたプリアンプを用いるメリットは、マイクからバランス接続によりPAへと引き回すためのインピーダンス・マッチングを取った上で、ギター用のコンパクト・エフェクターを接続できることにあります。一方、プリアンプからアンバランスのフォーンで出力し、そのままコンパクト・エフェクターに繋いだ後にDIからバランスでPAへと出力する方法もあります(わたしはこれです)。こちらはきちんとしたインピーダンス・マッチングを取らないと不要なノイズなど、劣化した接続になる場合があります。基本的には 'ロー出しハイ受け' (低いインピーダンスで出力し、高いインピーダンスで受ける)という '公式' を覚えておくと良いのですが、これも製品ごとの微妙な差異がありケース・バイ・ケースですね。わたしが愛用するJoemeekのプリアンプThree Qにはバランス出力用の+4dBuと-10dBvの切り替えスイッチがあります。これはコンパクト・エフェクターへ出力する場合、アンバランスの-10dBvにしてインピーダンス・マッチングを取ることが可能となります。以下にご紹介するプリアンプはすべてフォーンによる出力を備え、別途DIと組み合わせて管楽器で用いるものですが、面倒臭い '接続の公式' に頭を悩ませたくないのならば、素直に上述したVP-01やVoco Loco、Mixing Linkを用いた方が良いでしょう。ちなみにDIに関しては個人的にパッシヴのものがベストでした。アクティヴ(電源必要のDI)にするということは、まずピックアップ・マイクをプリアンプで増幅した後さらに 'アンプ' を通ることでゲインを上げてしまうことと同義であり、音質の変化やレベルの調整に大きな影響をもたらして扱いが難しかったです。つまり、パッシヴの欠点とされたトランスによるゲインの減少を最終的にアコースティック用アンプで持ち上げる方が明らかに調整しやすかったですね。

Radial Engineering JDI ①
Radial Engineering JDI ②

さて、わたしはプリアンプからコンパクト・エフェクターを経た信号はパッシヴDI(電源不要のDI)であるRadial EngineeringのJDIにステレオで入力しております。信号を色付けせずナチュラルにロー・インピーダンスへと変換するのがパッシヴDIの特徴ですが、ゲインを下げる分トランスの品質がその音質を左右します。JDIはその名の通りJensenの高品質トランスを搭載しており、またステレオのエフェクターからの出力を受けられる 'Mono to Merge' 機能が大変ありがたい。わたしの愛用するディレイStrymon Brigadierは、原音はAD/DAを通らずに内蔵のアナログ・ミキサーでミックスする仕様で、つまり原音とエフェクト音をそれぞれ分離した状態のままJDIの方で 'モノ・ミックス' することが可能なのです。これは、BrigadierからモノでJDIに出力したものと比べると最終的な 'モノラル' 再生は同じでも、明らかに音の広がり方で違いが現れますね。



Joemeek Three Q ①
Joemeek Three Q ②

こちらは、わたしがダイナミック・マイクのSennheiser e608と共に使用中であるJoemeek Three Qというハーフラック・サイズのプリアンプ、コンプレッサー、EQ搭載の 'チャンネル・ストリップ' です。このメーカーは太さともっちりした質感が '売り' であり、本機でも従来機(VC3Q)に比べてダイナミック・レンジは広くなったものの、少々クセのあるオプティカル・コンプレッサー含めて、いわゆる 'Joemeekらしさ' は健在です。わたしはコンプレッサーは使わず、Input Gain 30ddB、Output Gain -3dBの設定をプリアンプの基本にして、-10dBvのアンバランス出力でコンパクト・エフェクターに繋いでおります。 EQは160Wのアンプを真横に置いているのでさすがにハイは抑えめの-3dB、ミッドは生音のおいしい帯域を強調すべく+5dBのブースト、可変する中心周波数のQを1kHzに設定し、ローはワウを踏むと膨らんで抜けが悪くなるのでフラットと、ほぼ補正的に用いております。ダイナミック・マイクのSennheiser e608と組み合わせるとクリアーで使いやすいですね。



Studio Projects VTB 1 ①
Studio Projects VTB 1 ②

比較的安価な製品の中で、なぜか 'Neveのような・・' という '口コミ' が広まり人気が出ているのがハーフラック・サイズの本機、Stuido Projects VTB 1です。Joemeek同様すでに10年以上経った製品ながら、真空管のトーンをツマミでブレンドできるという 'ハイブリッド' な仕様がその価値を高めています。正直、安価なクラスの真空管搭載というのは、単にアウトプットで通しているだけの無駄なノイズを付加する意味のないものが多いのですが、このVTB 1はなかなかにその 'ハイブリッドさ' を楽しめる一台です。上の動画を見ても真空管のトーン・ツマミを上げるだけでグッとエッジが出てくるのが分かります。また、Three Q及びVTB 1にはインサート端子を備えているので、ライン・レベルのエフェクター(コンパクトでは歪んでしまうと思う)であればここにインサート・ケーブル(Y型のケーブル)を用いて接続することができます。

 

Presonus Tubepre V2 ①
Presonus Tubepre V2 ②

こちらはStudio Projects VTB 1同様に真空管とのハイブリッドなPresonus Tubepre V2。GainのほかにDriveのツマミを持ち、上げていくと真空管特有のサチューレーションを付加してくれます。



Summit Audio 2BA-221

そのほか、Studio Projects VTB 1やPresonus Tubepre V2の '上位互換' 的機種として、サウンドハウスが代理店を務めるこちらの真空管マイクプリ、Summit Audio 2BA-221もあります。

Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2
Alembic F-2B Stereo Tube Preamp
Toshinori Kondo Equipment

そして我らが 'アンプリファイな' ラッパの師、近藤等則さんが現在使用中なのがこちらのハーフラック・サイズのプリアンプ、Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2です。これまでコンドーさんもいろいろなプリアンプをこだわって '取っ替え引っ替え' してきており、以前にマウスピース・ピックアップとベル側のコンデンサー・マイクのミックスで使用していた時には、Alembic F-2B Stereo Tube Preampという2チャンネルEQのものが長くラックに鎮座しておりました。これは1960年代後半、FenderのDual Showmanアンプのプリアンプ部分を元に設計された1Uプリアンプとして、特にパッシヴのベーシストに重宝された機器であります。コンドーさん的には、この2チャンネルをモノで出力できるMixアウトから足元のコンパクト・エフェクターに繋げることが重要だったのでしょう。それはこれ以降、コンドーさんが特にマウスピース・ピックアップをDPAのマイクに換装したことでより高品質なプリアンプを物色する際、コンパクト・エフェクターへ入力する為のフォン出力の備えたプリアンプを選ぶことからも伺えます。音響機器の世界で伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴが新たにRupert Neve Designsの名で手がけたプリアンプ/EQ、Portico 5032 Mic Pre/Equalizerを手始めに、それをツアー中の空港でのロストバゲージで紛失した後には、プリアンプ、コンプレッサーを備えたAPI The Channel Stripという1Uラックのものに換装、そして上述のPhoenix Audio DRS-Q4M Mk.2へと行き着きます。一時期APIを試していたとはいえ、PorticoにPhoenix Audioと基本的にコンドーさんはNeveの持つプリアンプの質感が好みのようですね。

Hosa MIT-435
Hosa MIT-176
Classic Pro ZXP212
Classic Pro ZXP212T

いや、わざわざマイク・プリアンプなど用意せずマイクからコンパクト・エフェクターに繋ぎたい!そんな極力 '無駄銭' を使いたくない方には、こんな便利なインピーダンス・トランスフォーマーという変換アダプターがあります。これはXLR(メス)とモノラルフォンをインピーダンス変換するもので、そのまま簡易プリアンプとして使うことができるんですね。Hosaは200Ω⇄50kΩ、Classic Proは600Ω⇄50kΩのインピーダンス変換となります。もちろん、これはダイナミック・マイク限定のやり方であり、コンデンサー・マイクはきちんとファンタムかバッテリーボックスなどの電源が必要となります。

4 件のコメント:

  1. はじめまして。Voco Locoの購入を考えているのですが、DC15V(400mA)のセンタープラスによる専用電源なので汎用性は低いとはどういう意味でしょうか?間違っていたらすいません。対応しているアダプタが見つかりにくいということでしょうか?その辺の知識が乏しくて…よければ返信ください。よろしくお願いします。

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  2. 高橋英樹さん
    こちらのHPへの訪問、ありがとうございます。

    はい、高橋さんの言われる通り、DC15V(400mA)センタープラス・アダプターの代替え品を見つけるのは難しいという意味です。

    このRadial社の製品は高価なものが多く、一部並行輸入品を求めるユーザーもいます。以前、同社の真空管エフェクターが人気となって並行品を購入したものの、米国AC120V仕様から日本のAC100V仕様のアダプターへのサービスを日本代理店に断られ、代替え品を見つけるのに苦労したという話が結構ありました。一般的にはエフェクター程度の電圧ならAC120VとAC100Vでは問題なく使える場合が多いのですが、真空管仕様など高い電圧を用いる場合は、ノイズや電圧低下などの問題が出る場合があります。

    また、アダプター紛失の場合もなかなか代替え品を見つけることが難しい為、もし購入される場合はその辺のメリット/デメリットも考慮して頂ければ、ということであえて強調して書いてみました。参考にして頂ければ幸いです。

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    1. すみません。名前を間違えてしまいました。
      高橋秀樹さんでした。

      ちなみにRadial Engineering Voco Locoは、日本ではサウンドハウスが並行輸入品を扱っておりますが、こちらはサウンドハウス独自の保証があるのでそれほどACアダプターについて気にする必要はないと思います。

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    2. いえいえ、こちらこそご親切にありがとうございます。
      とても勉強になりました。メモして保存しておきます笑
      サウンドハウスでの購入を考えていたのでその点も安心しました。
      何から何まで助かります。本当にありがとうございました。

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