去年はいろんなものがぶっ壊れた一年でしたね。これまで '忖度' するかのように君臨した日本のエンタメが急降下していく様を 'マス' のレベルで皆が目撃した。特にここ10年近く奈落のように落ちていっているのが音楽の力であり、実際にはこんな状況にも関わらずユニークな才能が現れようともメディアによりフックアップする力が本当に無くなってしまった。わたしもそんなに頑張って追ってるワケではないのでエラそーなことは言えないけど、Youtubeなどで流れてくる動画から、お、コレいいなとチェックしてみると3年前、さらには5、6年前のものだったことに気付かされてしまう。もっと気が付いて欲しい動画よりSNSから卑近なものだけ摘んで大衆に与えておけば良い、という態度で本当に 'オタク' がメディアの中からいなくなってしまったことを実感するのです。いや、ちょっと違うかな...既存のメディアはもはやどうでもいいのかも知れない。そこを嘆いても仕方ないし、何かを啓蒙するようなことでも一生懸命 'マス' を変えようという意識ですらなくなった。マニアックなものからアニソンやアイドルなものとか、もはやその線引き自体でカテゴライズすることも意味がないし、皆がひとつの現象を共有して熱狂する時代はとうに過ぎ去ったのだ。ここで挙げたものもR&B志向の強いサウンドに偏っているのはわたしの趣味だけど、こういうコード感やサウンドって今の日本からは一番聴こえてこないジャンルだったりする(苦笑)。このまるで80'sニューウェイヴ全開のローファイな質感と現代のミューズ、小松菜奈を組み合わせたVaundyの傑作 '踊り子' ('トドメの一撃' も好き)から掘込高樹のソロユニットとなったKirinjiが宅録マニアのマイカ・ルブテとのコラボでモロ80'sなシティポップをアップデートし、続くバークリー音大卒キーボーディストとしてその才能を発揮するKan Sanoが、DedachiKentaとのコラボに続きフォンスとラリーのミゼル兄弟によるスカイハイ・プロダクションから触発されたようなジャズファンク・ポップチューン 'My Girl' (ぷにぷに電機とのコラボも上げたかった)、ついつい 'J-Popの良心' と呼びたくなる挑戦的な姿勢でポップスを刷新する宇多田ヒカルの2年前のアルバム 'BADモード' からそのタイトル曲とサイケデリック全開のアシッドハウスでフロアーを揺らす 'Somewhere'...いや、もうヤバすぎ、そしてすでにJ-Popを席巻するほど '時代の寵児' となった奇才、藤井風のゴリゴリなR&Bチューンを台湾ロケで贈る 'Workin' Hard' はそのMVを同じく 'まつり' や '花' の世界観でも発揮したMESS監督の掬い上げる手腕に脱帽(ちなみに風さんがわずか15歳でチャーリー・パーカーの 'Donna Lee' をコピーしたサックス動画はエグい)、そして、そろそろメジャーでの浮上によって 'Pop回帰' に戻ってきて欲しいという願いを込めて竹内まりやの 'Plastic Love' のカバーでも話題となった 'FNP' ことFriday Night PlansはStuts、JJJとのコラボによる 'Prism' のウェットな質感に貢献するMasumiさんが素晴らしい!。この不穏なR&Bポップともいうべき 'Honda' が、やっぱりサビが一回しか出てこないとこ含め、ほんと良いアレンジだなあ。ちなみに彼女のMVに携わってるのがKingGnuの常田大希氏も所属するクリエイティヴチームPerimetronとのこと。しかし、これほどの尖ったR&B感覚を持ちながらここ近年は音響作家的なアプローチに行ってしまった 'FNP' のMasumiさんの心境にいろんな思いを感じてしまうのです...うぅ。本当に広く聴かれずに埋もれていく曲や才能が多過ぎる...。
こちらは一転、最近ちょろちょろ聴き出してるベトナムものを8曲。ベトナムR&Bの先駆だというJusta Tee(しかし 'Đã Lỡ Yêu Em Nhiều' が 'うっかりあなたが大好き' っていう謎の邦題で笑った...直訳すれば '君をあまりにも愛し過ぎた' かな)や日本のSirupなどと一緒に聴きたいヴォーカルユニットDa Lab、まるで90's R&Bを思い出すヴー・タン・ヴァンにスニ・ハ・リン、フォン・リィの '紅三点' はお気に入り。さて、そんなスニさんは去年9月に埼玉のベトナムフェスで来日したステージも素晴らしかったけど、彼女がメジャーのワーナーと契約したバンドChilliesとコラボした '渋谷系' エレクトロ・ファンクチューン 'Cứ Chill Thôi' (この特徴的なドゥラッタラ...というフレイズがTikTokでバズってたらしい)のポップなアレンジ・センスもなかなかです。一方のGrey DはChilliesとのコラボで爽やかなCity Popフュージョンといった趣きから一転、最後はその濃い顔からベトナムの久保田利伸を想起させる(俳優の北村一輝っぽくもある)クァク・フンのR&B感覚が素晴らしい。最初はフォン・リィとのコラボによるCity Pop感満載の 'Phiêu Nhịp Thở' を聴いて、お、いいセンスだなと思ってたらこんなD.Train風エレクトロ・ブギーで踊らせるとはベトナム恐るべし。ということで、ここ最近近所に出来たベトナム風サンドイッチのバインミー食べながら黄昏た気分(笑)で聴いていた音楽でした。これらV-Popで一部EDM色濃いのはK-Popからの影響なんだろうけど、その音楽の幅は結構多彩でモロ欧米市場に合わせたK-Popより土着性の強い歌謡感覚がメロディーと節回しに漲っているのが独特ですね。また 'Lo-Fi' と称したリミックス文化によるマッシュアップも盛んでDAW人口も多いのだろうなあ。もっといっぱい紹介したいんだけど選曲の並びでこんな感じ...。ちなみにここでのカタカナ表記はあくまで目安でして、ベトナム語はローマ字使用ながら6声からなる声調と同音異義語の数々、それを表す発音記号がなければ全く意思疎通の出来ない難易度の高い言語(さらに南部、中部、北部で違う!)でもあります(汗)。
そしてベトナムとジャズといえば、わずか6歳で家族と渡米してバークリー音大からパット・メセニーのグループへの大抜擢で一躍その名を知られた在米ベトナム人ラッパ吹き、クォン・ヴーの存在は大きいですね。グッと顎を引き往年のウッディ・ショウを思わせるその構え方から 'アンプリファイ' による歪んだエコーの音像と共に新たなサウンドの可能性に挑み、あの左手でテーブルに置いたディレイやループサンプラーを触るスタイルが印象的です。彼が堂々Trioでゲストにブル・フリゼールのギターを呼び完成させた、2005年の4作目 '残像' こと 'It's Mostly Residual' の衝撃は凄かった。個人的には多分セカンドハンズで見つけてきたであろう、わずか2秒のサンプリングタイムを持つDigitech PDS1002 Two Second Digital DelayのHold機能で自らの世界観を生み出しているのは素晴らしい。てか、10年以上前から見てるけど元が '老け顔' だからなのかあんま老けないね(笑)。そして、ルーツ的な 'ベトナムジャズ' っていうのは何かあるのかな?と漁ってみたら出てきた 'Bong Cay Ko-Nia' なるタイトルのインストによるコンピレーション。これが南北統一前の南ベトナム時代の音源?なのかどーかそこら辺の情報一切ナシなんだけど、この鄙びたオンド・マルトーノ風のチープなオルガンや古臭い歌謡性を帯びたアレンジがエチオピアのムラトゥ・アスタトゥケなどとの共通性を発揮します。最後はベトナム統一1975年にリリースされていたという 'ベトナム・ファンク' 45回転シングル盤ノンストップ!。
"ダイナミック・サウンズ用に作られた特注のコンソールだから、すごく独特だったよ。最近のコンソールには付いていないものが付いていた。周波数を変えるときしむような音がするハイパス・フィルターとか、私たちはドラムでもベースでもリディムでもヴォーカルでも、何でもハイパス・フィルターに通していた。ハイパス・フィルターがタビーズ独特の音を作ったんだ。"
そして去年、これまで買い漁っていたコンパクトペダル群を大量に手放しました。別にコレクターをやめたワケではありません(汗)。お気に入りなペダルは変わらず手許に所有しているのだけど、なんというか、一介のアマチュア音楽家のひとりとして '焦点がボヤけてきた' 気がしているのですヨ。つまり、やりたいことや楽しみ方はそれぞれだけど自分の手足は4本だよね、ちょっとやそっとで取り組んでもいろんな機材に使える時間は有限だよね、素晴らしいモノに囲まれていてもアイデアは錆び付いてるよねetc...ま、こーいう御託はどうでもいいんだけど(汗)、ほんと '焦点がボヤけてきた' という以外ないのが今の偽らざる気分なんです。ちなみにわたしのお気に入りである関西の工房、Effectronics Engineeringこと 'えふぇくたぁ工房' もHatena ?〜NeotenicSoundと長年携わってきたペダル製作から 'ご卒業' されました(涙)。いっぺいさん、お疲れさまでした。しかし、今後はその 'Nextステージ' としてこれまで培ってきた '音場生成' のコンセプトをアナログ回路により専門的なプロセッサーである 'Dynamics Proccesing System' (DPS)の 'HatmanDPS' へと移行します。乞うご期待!。ま、こんな黄昏た気分も飽きてきたらまたペダル買い集め出すかも知れませんけどね(汗)。そして、基本的に管楽器とは相性が悪いという点で歪み系ペダルをココで取り上げることはないのですが、いま日本の 'ペダル界' で最も頼もしく絶対に面白い組み合わせの2人の2時間に渡る試奏動画をチェック!。日本最大のコレクターにしてPedal Shop Cult主宰でこだわりのペダル製作も展開する細川雄一郎氏と渋谷の楽器店Hoochiesの店員にして信頼のレビュワーでもある村田善行氏がCultこだわりのペダル3種、Tempest、Ray、Luxを中心に 'ディストーションvsオーバードライブ' のお話はタメになりまする。月一で 'Cult × Hoochies' の 'ペダル話' チャンネルとかこの2人でやって欲しいな(笑)。そしてCult細川氏が 'ギタマガ' とのコラボでお送りする 'MVP' こと 'Monthry Vintage Pedal' も14回目、'EQD' ことEarthquaker Devices主宰のジェイミー・スティルマンも加わりHoneyのPsychedelic Machineが登場しました。ええ...あえて詳細は申しませんがこの個体はよーっく知っております(笑)。オリジナルの電球から白色LEDへの変更は購入から半年ほどで '球切れ' を起こしたがゆえの妥協だったのですが、なんで?壊れたんだからLEDで直しゃいいじゃんというジェイミーの合理的判断がハハハ、ザ・アメリカ人(笑)。そんなPsychedelic Machineの堂々スペックを同社のカタログから抜粋します。
●Psychedelic Machine (サイケデリックマシーン) ¥38,000 (フットスイッチ2ヶ付)
さて、国産といえば日本初のファズボックスを製作し、後に独立してRolandを設立する梯郁太郎氏が手がけたブランド、Ace Toneことエース電子工業株式会社。Fuzz MasterやWah Masterは知っていてもこの管楽器用オクターバー、Multi-Vox EX-100を製作していたことはほとんど知られておりません。当時、39,000円というあまりにも高価格の設定とそのニッチな需要から現在までこの実物を見たことがないのですヨ。当時の雑誌広告など資料は揃えましたがあのEffects Databaseにも未だ網羅されていない為、どなたかより詳細な本機の情報を求む(実際に使用した日野皓正さんや村岡建さんはもう忘れてるだろうなあ...)。今のところ、唯一の音源として残されているのは1970年に日野クインテットが手がけた東宝映画 '白昼の襲撃' のO.S.T.盤。そのタイトル曲である 'Super Market' (3曲目)から日野さんの吹くソロで影のように追従する蒸し暑いオクターヴトーンが聴けますけど、これはオクターヴのカットされた45回転シングル盤とは別テイクのミックスでO.S.T.盤でしか味わえない貴重な音源となります。当時、Yamahaトランペットのベル横側に付属のピエゾ・ピックアップPU-10(3,000円)を自ら穴を開け取り付けたことがジャズ誌で述べられておりました。
そのMulti-Voxと組み合わせて使うモノなのかは分かりませんが、Ace Toneから同時期発売されていたのがMic Adapter MP-1という2チャンネルのアクティヴDI(9V電池駆動)。入力ゲイン自体低く設定されておりH.I.、L.I.各々2つずつ計4つの入力があるなどミキサーとしての機能も備わっております。出力がバランスのXLRではなくアンバランスのフォンなのは古い時代ならではですけど(苦笑)、本機の使い方を考えてみれば管楽器のベルに立てたダイナミックマイクの収音をCh.1のL.I.、Multi-Voxからピエゾ・ピックアップで収音したものをCh.2のH.I.に入力してミックスするということでしょうか?。ちなみにわたしの所有品の出力ケーブルは柔らかかったです(笑)。さて、そのAce Tone随一の謎に迫るべく、'スイングジャーナル' 誌1969年3月号に掲載された座談会「来るか電化楽器時代! - ジャズとオーディオの新しい接点 -」から掲載します。こちらは4名の識者、'スイングジャーナル ' 誌編集長の児山紀芳氏、テナーサックス奏者の松本英彦氏、オーディオ評論家の菅野沖彦氏、そして当時Ace Toneことエース電子工業専務であった梯郁太郎氏らが 'ジャズと電気楽器の黎明期' な風景について興味深く語り合います。ここでの議論の中心として、やはり三枝文夫氏と同じく梯郁太郎氏もこの '新たな楽器' に対してなかなか従来の奏者やリスナーが持つ価値観、固定観念を超えて訴えるところまで行かないことにもどかしさがあったのでしょうね。しかし、この頃からすでに現在のRoland V-DrumsやAerophoneの原初的アイデアをいろいろ探求していたとは・・梯さん凄い!。また、管楽器とピエゾ・ピックアップの過剰なレスポンスに関する 'エレアコ' の含蓄ある話が聞けることも貴重です。
- 児山
今回の座談会は、去年あたりから市販されて非常に話題になっているエレクトリック・インストゥルメントとしてのサックスやドラムといったようなものが開発されていますが、その電気楽器の原理が一体どうなっているのか、どういう特性をもっているのか、そしてこういったものが近い将来どうなっていくだろうかといったようなことを中心にお話を聞かせていただきたいと思います。そこでまずエース電子の梯さんにメーカーの立場から登場していただき、それからテナー奏者の松本英彦さんには、現在すでにエレクトリック・サックスを時おり演奏していらっしゃるという立場から、菅野沖彦さんには、ジャズを録音していくといった、それぞれの立場から見たいろんなご意見をお伺いしたいと思うんです。
まず日本で最初にこの種の製品を開発市販された梯さんに電化楽器というものの輪郭的なものをお話願いたいと思うんですが。
- 梯
電気的に増幅をして管楽器の音をとらえようというのは、もう相当以前からあったんですが、実際にセルマーとかコーンとかいった管楽器の専門メーカーが商品として試作したのは3年ぐらい前です。それが2年ぐらい前から市販されるようになったわけです。
- 児山
これは結局いままでのエレクトリック・ギターなどとは別であると考えていいわけですか。
- 梯
ええ、全然別なんです。これらの電化管楽器が、ギターなどと一番違うところは、コードのない単音楽器だけができる電気的な冒険というのが一番やりやすいわけです。といいますのは、コードになった時点からの増幅段というのは絶対に忠実でなければならない。ところが単音というのはどんな細工もできるわけです。この単音のままですと、これはまだ電子音なんです。そこに人間のフィーリングが入って初めて楽音になりますが、そういった電気的な波形の冒険というのが、単音楽器の場合いろいろなことができるわけです。その一例として、オクターブ上げたり下げたりということが装置を使うと簡単に実現することができるんです。コードの場合はその一音づつをバラバラにしてオクターブ上げたり下げたりしてまた合接する・・これはちょっと不可能なわけですね。
- 児山
これら電化楽器のメリットというか特性的なことをいまお話し願いましたが、そこでいかにして電気的な音を出しているのかという原理をサックスに例をとってわかりやすくお願いしたいんですが。
- 梯
現在市販されているものを見ますと、まずマイクロフォンを、ネックかマウスピースか朝顔などにとりつける。そのマイクもみんなエア・カップリング・マイク(普通のマイク)とコンタクト・マイク(ギターなどについているマイク)との中間をいくようなそういったマイクです。ですからナマのサックスの音がそのまま拾われてるんじゃなくて、要するに忠実度の高いマイクでスタジオでとらえた音とはまったく違うものなんですよ。むしろ音階をとらえてるような種類のマイクなんです。音色は、そのつかまえた電気のスペースを周波数としてとらえるわけです。それを今度はきれいに波を整えてしまうわけです。サックスの音というのは非常に倍音が多いものですから基本波だけを取り出す回路に入れて今度はそれを1/2とか1/4とか、これは卓上の計算機のほんの一部分に使われている回路ですけど、こういったものを使ってオクターブ違う音をつくったりするわけですよ。これらにも2つのモデルがあって、管楽器にアタッチメントされている物ですと、むしろ奏者が直ちに操作できることを主眼に置いて、コントロール部分を少なくして即時性を求めてるものと、それから複雑な種々の操作ができるということに目標を置いた、据え置き型(ギブソンのサウンド・システム)といったものがあるわけです。
- 児山
これで大体原理的なことはわかりますが。
- 菅野
わかりますね。
- 松本
ところが、これから先がたいへんなんだ(笑)。
- 児山
じゃ、そのたいへんなところを聞かせてください。それに現在松本さんはどんな製品を・・。
- 松本
現在セルマーのヴァリトーンです。しかし、これどうも気に入らないので半年かかっていろいろ改造してみたんだけど、まだまだ・・。サックスは、サックスならではの音色があるんですよ。それがネックの中を通して出る音はまず音色が変わるんですね。それから、音が出てなくてもリードなどが振動していたり、息の音などが拾われて、オクターブ下がバァーッと出るんですよ。
- 梯
それはコンタクト・マイクの特性が出てくるわけなんです。
- 菅野
わずかでもエネルギーがあればこれは音になるわけですね。
- 梯
ですから、マウス・ピースに近いところにマイクをつけるほど、いま松本さんのいわれたような現象が起るわけなんです。かといって朝顔につけるとハウリングの問題などがあるわけなんです。
- 松本
ちっちゃく吹いても、大きなボリュームの音が出るというのは、サックスが持つ表情とか感情というものを何か変えてしまうような気がするねェ。一本調子というのかなあ。それに電気サックスを吹いていると少し吹いても大きな音になるから、変なクセがつくんじゃないかなんて・・。初めオクターブ下を使ってたとき、これはゴキゲンだと思ったけど、何回かやってると飽きちゃうんだね。しかし、やっぱりロックなんかやるとすごいですよ。だれにも音はまけないし、すごい鋭い音がするしね。ただ、ちょっと自分自身が気に入らないだけで、自分のために吹いているとイージーになって力いっぱい吹かないから、なまってしまうような・・。口先だけで吹くようになるからね。
- 児山
それもいいんじゃないですか。
- 松本
いいと思う人もありますね。ただぼくがそう思うだけでね。電気としてはとにかくゴキゲンですよ。
- 児山
いま松本さんが力強く吹かなくても、それが十分なボリュームで強くでるということなんですが、現在エレクトリック・サックスの第一人者といわれるエディ・ハリスに会っていろんな話を聞いたときに、エレクトリック・サックスを吹くときにはいままでのサックスを吹くときとはまったく別のテクニックが必要であるといってました。
- 松本
そうなんですよ。だからそのクセがついてナマのときに今度は困っちゃうわけ。
- 児山
だから、ナマの楽器を吹いているつもりでやると、もうメチャクチャになって特性をこわしてしまうというわけです。結局エレクトリック・サックスにはそれなりの特性があるわけで、ナマと同じことをやるならば必要ないわけですよ。その別のものができるというメリット、そのメリットに対して、まあ新しいものだけにいろんな批判が出てると思うんですよね。いま松本さんが指摘されたように音楽の表情というものが非常に無味乾燥な状態で1本やりになるということですね。
- 松本
ただこの電気サックスだけを吹いていれば、またそれなりの味が出てくるんだろうと思うんですが、長い間ナマのサックスの音を出していたんですからね・・。これに慣れないとね。
- 児山
やっぱりそういったことがメーカーの方にとっても考えていかなきゃならないことなんですかね。
- 梯
ええ。やはり電子楽器というのは、人間のフィーリングの導入できるパートが少ないということがプレイヤーの方から一番いやがられていたわけです。それがひとつずつ改良されて、いま電子楽器が一般に受け入れられるようになった。しかし、このエレクトリック・サックスというのはまだ新しいだけに、そういう感情移入の場所が少ないんですよ。
- 松本
ぼくが思うのは、リードで音を出さないようなサックスにした方がおもしろいと思うな。だって、実際に吹いている音が出てくるから、不自然になるわけですよ。
- 梯
いま松本さんがいわれたようなものも出てきてるわけなんですよ。これは2年前にフランクフルトで初めて出品された電気ピアニカなんですが・・。
- 松本
吹かなくてもいいわけ・・。
- 梯
いや吹くんです。吹くのはフィーリングをつけるためなんです。これは後でわかったのですが、その吹く先に風船がついていて、その吹き方の強弱による風船のふくらみを弁によってボリュームの大小におきかえるという方法なんです。ですから人間のフィーリングどうりにボリュームがコントロールされる。そして鍵盤の方はリードではなく電気の接点なんです。ですからいままでのテクニックが使えて、中身はまったく別のものというものも徐々にできつつあるわけなんです。
- 松本
電気サックスの場合、増幅器の特性をなるべく生かした方が・・いいみたいね。サックスの音はサックスの音として、それだけが増幅されるという・・。
- 菅野
いまのお話から、われわれ録音の方の話に結びつけますと、電子楽器というものは、われわれの録音再生というものと縁があって近いようで、その実、方向はまったく逆なんですよね。電子楽器というのは新しい考え方で、新しい音をクリエートするという方向ですが、録音再生というのは非常に保守的な世界でして、ナマの音をエレクトロニクスや機器の力を使って忠実に出そうという・・。というわけで、われわれの立場からは、ナマの自然な楽器の音を電気くさくなく、電気の力を借りて・・という姿勢(笑)。それといまのお話で非常におもしろく思ったのは、われわれがミキシング・テクニックというものを使っていろいろな音を作るわけですが、電子楽器を録音するというのは、それなりのテクニックがありますが、どちらかというと非常に楽なんです。電子楽器がスタジオなりホールなりでスピーカーからミュージシャンが音を出してくれた場合には、われわれはそれにエフェクトを加える必要は全然ない。ですからある意味ではわれわれのやっていた仕事をミュージシャンがもっていって、プレーをしながらミキシングもやるといった形になりますね。そういうことからもわれわれがナマの音をねらっていた立場からすれば非常に残念なことである・・と思えるんですよ。話は変わりますが、この電化楽器というのは特殊なテクニックは必要としても、いままでの楽器と違うんだと、単にアンプリファイするものじゃないんだということをもっと徹底させる必要があるんじゃないですか。
- 梯
現在うちの製品はマルチボックスというものなんですが、正直な話、採算は全然合ってないんです。しかし、電子楽器をやっているメーカーが何社かありますが、管楽器関係のものが日本にひとつもないというのは寂しいし、ひとつの可能性を見つけていくためにやってるんです。しかし、これは採算が合うようになってからじゃ全然おそいわけですよ。それにつくり出さないことには、ミュージシャンの方からご意見も聞けないわけですね。実際、電子管楽器というのは、まだこれからなんですよ。ですからミュージシャンの方にどんどん吹いていただいて、望まれる音を教えていただきたいですね。私どもはそれを回路に翻訳することはできますので。
- 菅野
松本さん、サックスのナマの音とまったく違った次元の音が出るということがさきほどのお話にありましたね。それが電子楽器のひとつのポイントでもあると思うんですがそういう音に対して、ミュージシャンとしてまた音楽の素材として、どうですか・・。
- 松本
いいですよ。ナマのサックスとは全然違う音ならね。たとえば、サックスの「ド」の音を吹くとオルガンの「ド」がバッと出てくれるんならばね。
- 菅野
そういう可能性というか、いまの電気サックスはまったく新しい音を出すところまでいってませんか。
- 梯
それはいってるんですよ。こちらからの演奏者に対しての説明不十分なんです。要するに、できました渡しました・・そこで切れてしまってるわけなんです。
- 菅野
ただ、私はこの前スイングジャーナルで、いろんな電化楽器の演奏されているレコードを聴いたんですが、あんまり変わらないのが多いんですね。
- 児山
どういったものを聴かれたんですか?。
- 菅野
エディ・ハリスとか、ナット・アダレーのコルネット、スティーブ・マーカス・・エディ・ハリスのサックスは、やっぱりサックスの音でしたよ。
- 梯
あのレコードを何も説明つけずに聴かせたら、電子管楽器ということはわからないです。
- 児山
そうかもしれませんが、さきほど菅野さんがおっしゃったようにいまそういったメーカーの製品のうたい文句に、このアタッチメントをつけることによってミュージシャンは、いままでレコーディング・スタジオで複雑なテクニックを使わなければ創造できなかったようなことをあなた自身ができる、というのがあるんです。
- 菅野
やはりねェ。レコーデットされたような音をプレイできると・・。
- 梯
これはコマーシャルですからそういうぐあいに書いてあると思うんですが、水準以上のミュージシャンは、そういう使い方はされていないですね。だからエディ・ハリスのレコードは、電気サックスのよさを聴いてくださいといって、デモンストレーション用に使用しても全然効果ないわけです。
- 菅野
児山さんにお聞きしたいんですが、エディ・ハリスのプレイは聴く立場から見て、音色の問題ではなく、表現の全体的な問題として電子の力を借りることによって新しい表現というものになっているかどうかということなんですが・・。
- 児山
そもそもこの電気サックスというのは、フランスのセルマーの技師が、3本のサックスを吹く驚異的なローランド・カークの演奏を見てこれをだれにもできるようにはならないものかと考えたことが、サックスのアタッチメントを開発する動機となったといわれてるんですが、これもひとつのメリットですよね。それに実際にエディ・ハリスの演奏を聴いてみると、表情はありますよ。表情のない無味乾燥なものであれば絶対に受けるはずがないですよ。とにかくエディ・ハリスは電気サックスを吹くことによってスターになったんですからね。それにトランペットのドン・エリスの場合なんか、エコーをかけたりさらにそれをダブらせたりして、一口でいうならばなにか宇宙的なニュアンスの従来のトランペットのイメージではない音が彼の楽器プラス装置からでてくるわけなんです。それに音という意味でいうならば、突然ガリガリというようなノイズが入ってきたり、ソロの終わりにピーッと鋭い音を入れてみたり、さらにさきほど松本さんがいわれたように吹かなくても音がでるということから、キーをカチカチならしてパーカッション的なものをやったりで・・。
- 松本
私もやってみましたよ。サックスをたたくとカーンという音が出る。これにエコーでもかけると、もうそれこそものすごいですよ(笑)。
- 児山
エディ・ハリスの演奏の一例ですが、初め1人ででてきてボサ・ノバのリズムをキーによってたたきだし、今度はメロディを吹きはじめるわけなんです。さらに途中からリズム・セクションが入るとフットペダルですぐにナマに切り換えてソフトな演奏をするというぐあいなんですよ。またコルトレーンのような演奏はナマで吹くし、メロディなんかではかなり力強くオクターブでバーッと・・。つまり、彼は電気サックスの持つメリットというものを非常に深く研究してました。
- 菅野
それが電化楽器としてのひとつのまっとうな方法なんじゃないですか。でも、あのレコードはあんまりそういうこと入ってなかったですよね。
- 児山
つまり、エディ・ハリスのレコードは完全にヒットをねらったものでして、実際のステージとは全然別なんです。また彼の話によると、コルトレーンのようなハード・ブローイングを延々20分も吹くと心臓がイカレちゃうというわけです(笑)。そしてなぜ電気サックスを使いだしたかというと、現在あまりにも個性的なプレイヤーが多すぎるために、何か自分独自のものをつくっていくには、演奏なり音なりを研究し工夫しなければならない。たとえば、オーボエのマウス・ピースをサックスにつけたりとかいろんなことをやっていたが、今度開発された電気サックスは、そのようないろいろなことができるので、いままでやってたことを全部やめてこれに飛び込んだというんですよ。
- 菅野
非常によくわかりますね。
- 児山
ラディックというドラム・メーカーが今度電化ヴァイブを開発して、ゲーリー・バートンが使うといってましたが、彼の場合は純粋に音楽的に、そのヴァイブがないと自分のやりたいことができないというわけですよ。なぜかというと、自分のグループのギター奏者が、いままでのギター演奏とは別なフィードバックなどをやると、ほかの楽器奏者もいままで使ってなかったようなことをやりだした。そういう時にヴァイブのみがいままでと同じような状態でやっているというのは音楽的にもアンバランスであるし、グループがエレクトリック・サウンズに向かったときには自分もそうもっていきたいというわけなんですよ。もしそれをヴァイブでやることができれば、どういう方向にもっていけるかという可能性も非常に広いものになるわけですよね。
- 梯
それから、いままでの電子楽器というのは、とにかくきれいな音をつくるということだけから音が選ばれた。ところが音の種類には不協和音もあればノイズもある。そのことをもう一度考えてみると、その中に音の素材になりうるものがたくさんあるわけです。たとえばハウリングですが、以前にバンクーバーのゴーゴー・クラブへいったとき、そこでやってたのがフィードバックなんです。スピーカーのまん前にマイクをもってきてそいつを近づけたり離したりして、そこにフィルターを入れてコントロールして、パイプ・オルガンの鍵盤でずっとハーモニーを押さえ続けてるようなものすごく迫力のある音を出すんです。そんなものを見て、これはどうも電子楽器の常識というものをほんとうに捨てないと新しい音がつくれないと思いましたね。
- 児山
そうですね。ですから、いまこういう電子楽器、あるいは楽器とは別なエレクトリックな装置だけを使って、ジャズだといって演奏しているグループもあるわけです。まあそれにはドラムやいろいろなものも使ったりするわけですが、いわゆる発振器をもとに非常に電気的な演奏をしているわけなんですよ。
- 松本
ただ音は結局電子によってでるんだけど、オルガン弾いてもサックス吹いても同じ音が出るかもしれない。弾いてる人の表情は違うけれども、そういうのがあったらおもしろいと思いますね。
- 菅野
それにもうひとつの問題は、発振器をもとにしたプレーは、接点をうごかしていくといった電子楽器と根本的に違うわけだ。電気サックスなどは、松本さんがいわれているようにナマの音が一緒に出てくるという。そこが問題ですね。だからナマの音も積極的に利用して、ナマの音とつくった音を融合して音楽をつくっていくか、それともナマの音はできるだけ消しちゃって電子の音だけでいくか・・。
- 児山
それはミュージシャン自身の問題になってくるんじゃないかな。たとえばリー・コニッツなどのようにだれが聴いてもわかる音色を持っている人は変えないですね。自分の音を忠実に保ちながらオクターブでやるとか・・。
- 梯
しかしその場合、音色は保ち得ないんです。つまりその人その人のフィーリング以外は保ち得ないんですよ。
- 児山
なるほど、そうすると音楽的な内容がその個性どうりにでてくるということなんですね。
- 菅野
一般に音というものはそういうものの総合なんで、物理的な要素だけを取り上げるのは困難なわけです。そういったすべてのものがコンバインされたものをわれわれは聴いているわけですから、その中からフィーリングだけを使っても、リー・コニッツ独特なものが出てくれば、これはやはりリー・コニッツを聴いてるわけですよ。
- 松本
それならいいけどサックスというのはいい音がするわけですよ。それをなまはんかな拡声装置だといけない。それだとよけいイヤになるんですよ。
- ついに出現した電気ドラム -
- 児山
ニューポートに出演したホレス・シルヴァー・クインテットのドラマー、ビリー・コブハムがハリウッド社のトロニック・ドラムという電気ドラムを使用していましたが、あれはなんですか。
- 梯
うちでも実験をやっています。ロックなどの場合、エレキのアンプが1人に対して200W、リードが200Wならベースは400Wくらい。そうなってくるといままで一番ボリュームがあったドラムが小さくなってきたわけですよ。最初はドラムの音量をあげるだけだったのですが、やってみるとマイクのとりつけ方によって全然ちがった効果が出てきたわけですよ。
- 菅野
それは具体的に各ドラム・セットの各ユニットに取り付けるわけですか。
- 梯
最初は単純に胴の中にマイクを取り付けただけでしたが、いまはコンタクト・マイクとエア・カップリング・マイクの共用でやっていますね。
- 菅野
シンバルなんかは・・。
- 梯
バスドラム、スネア、タム・タムにはついていますが、シンバルはちょっとむずかしいのです・・。でもつけてる人もいるようですね。
- 菅野
ではいまの形としては、新しい音色をつくろうとしているわけですね。
- 梯
そうですね。現在ははっきりと音色変化につかってますね。
- 松本
でもやはりこの電気ドラムとてナマの音が混じって出るわけですよね。ナマの音がでないようにするにはできないのですか。
- 梯
それはできるんですよ。市販はしてないんですが、ドラムの練習台のようなものの下にマイクをセッティングするわけなんですよ。いままでのドラム以外の音も十分でますがシンバルだけはどうもね。らしき音はでるんですが。
- 松本
いままでの何か既成があるからでしょう。
- 梯
そうですね。だからシンバルはこういう音なんだと居直ってしまえばいいわけ・・。それぐらいの心臓がなきゃね(笑)。
- 菅野
本物そっくりのにせものをつくるというのはあまりいいことではない。あまり前向きではないですよ。よくできて本物とおなじ、それなら本物でよりいいものを・・。
- 松本
だから電気サックスでも、ナマの音をだそうとしたんじゃだめですね。これじゃ電気サックスにならない。
- 梯
松本さんにそういわれるとぐっとやりやすくなりますよ(笑)。
- 児山
電気サックスというのはだいたいいくらぐらいなんですか?。
- 松本
ぼくのは定価85万円なんですよ。でもね高いというのは輸入したということですからね。そのことから考えると・・。
- 梯
松本さんの電気サックスはニューオータニで初めて聴いたんです。これは迫力がありましたね。
- 松本
すごい迫力です。でも、それに自分がふりまわされるのがいやだから・・。
- 梯
こちらから見たり聴いたりしていると松本さんが振り回しているように見えるから、それは心配いらないですよ(笑)。
- 松本
それに運ぶのがどうもねェ。いままではサックスひとつ持ってまわればよかった。ギターなんかじゃ最初からアンプを持って歩かなければ商売にならないとあきらめがあるんですが、ぼくはなにもこれがなくたってと考えるから・・。そういうつまらないことのほうが自分に影響力が大きい・・(笑)。
- 児山
やはりコンサートなどで、おおいにやっていただかないと、こういった楽器への認識とか普及とかいった方向に発展していかないと思いますので、そういう意味からも責任重大だと思います。ひとつよろしくお願いします。それに、いまアメリカあたりでは電子楽器が非常に普及してきているわけなんですよ。映画の音楽なんかも、エレクトリック・サウンズ、エレクトリック・インスツルメントで演奏するための作曲法なんていうのはどうなるんですかねェ・・。
- 松本
これがまたたいへんな問題ですが、非常にむずかしいですね。
- 児山
それがいまの作曲家にとって一番頭のいたいことになってるんですね。
- 菅野
あらゆる可能性のあるマルチプルな音を出しうる電化楽器が普及すれば、新しい記号をつくるだけでもたいへんですね。
- 松本
そのエレクトリック・インスツルメントのメーカーだって指定しなければならないし・・。作曲家もその楽器も全部こなさなきゃならないですからね。
- 児山
そのように色々な問題もまだあるわけなんですが、現実にはあらゆる分野の音楽に、そしてもちろんジャズの世界にも着々と普及してきつつあるわけなんです。この意味からも電化楽器の肯定否定といった狭い視野ではなく、もっと広い観点から見守っていきたいですね。
ちなみにこの '心境' というのをコンパクトペダルを例にとって説明するなら(笑)、そもそもギターやベースで使うことを前提に設計されたこのペダルというヤツはソレでやれる機能というものが限定されているんです。つまり、この手の分野でも特にニッチな需要である '飛び道具' 系ペダルというのはそれが端的に示されている。ソレが10の機能備えているとして10そのままツマミを振り切ってしまえばあっという間に消費する、そしてなんだこの程度か、使えないよなという至極ごもっともな感想に辿り着いてしまう...。いやいや、そりゃそうでしょう。ソレを10じゃなく半分の5で使ってみよう、ソレを一瞬踏んでみよう、例えばメインの楽器があるとしてソレをメインじゃなくバックグラウンドに控えめで使ってみよう...段々、何を言っているのかよく分からなくなってしまいましたが(汗)、いま目の前にあるモノから紡ぎ出されるものはそれほど必死にならなくてもいろんなサウンドがあるよ、ということなんですヨ。まだ自分にとって観念的な話なんでそれこそ '絵に描いた餅' 状態なんですけど、これも私的音楽の二大インフルエンスであるジャズとダブから受け取った '隔世遺伝' 的なお話。ただ、スティールパンとBuchla Music Easelシンセサイザー、ループサンプラーを揃えたことで具体的な '地図' は見えてきたと思っております。さて、そんな御託などどうでも良いとばかりに、ハープを 'アンプリファイ' にして 'グリッチ系ペダル' ばかりアプローチすることで人気を博すEmily Hopkins姉さんによる安定のペダルレビュー。
このように空間的な音響効果はダブ的アプローチの '飛び道具' として必須ということで、大きなミキシング・コンソールと共に手に入れておきたいのが '3種の神器' ともいうべきスプリング・リヴァーブ、ディレイ、フィルターであります。サウンドをリアルタイムに生成していく上で重要な '一筆書き' のデザインに威力を発揮する絵筆こそ、これら '3種の神器' に求められる特性であり各々の個性を発揮する場でもあります。単なる道具を超えてサウンドを支配する '声' にまで高められるダブの魔力...。スペインでダブに特化した機器を専門に製作するBenidub Audioは、現在の市場に本場ダブの持つ原点ともいうべき音作りを開陳するべく貴重な存在。すべては '目の前にある' 反復した音のミキシング・コンソールによる '抜き差し' から、ライヴとレコーデッドされた素材を変調するために '換骨奪胎' する・・これぞダブの極意なり。
さて、そんなスティールパンと相性の良いヴォコーダーといえばやっぱり欲しいのはKorg往年の名機、VC-10 Vocoder。本機特有のザラついてモワッとした質感は例えば同時代のRoland VP-330に比べてとても太刀打ちできないチープなものだけど、逆にそのローファイさ加減が本機でしか出ない唯一無二のヴォイスを生成します。ちなみにわたしの所有物は英国のコレクターから入手したもので電源部と音声ボードに手が入っており、4558デュアルオペアンプへの交換、音声認識を向上するための重要な4バンド(17Hz〜20kHz)の帯域モディファイがなされております。これでオリジナル特有の篭り具合から大幅なアップグレードを達成しました。そして本機の人気を決定付けたのが、坂本龍一教授1979年の傑作 '千のナイフ' 冒頭でヴォコードされる毛沢東の詩でしょう。教授自らフランシス・レイからの影響を促すようなコードの響きに新たな電脳都市 'TOKIO' 到来を夢見たのはわたしだけじゃないハズ(笑)。そんな偉大な才能ももういなくなってしまったんだよな...(涙)。これらの音声合成による 'スピーチシンセシス' には、古くはトークボックスからヴォコーダーにやられちゃったYMO世代にAntares Audio Technologies Auto-Tuneから始まったケロケロヴォイスなど、リアルタイムに音声を加工することへの関心は過去から一貫して引き継がれております。なんとMoogは16チャンネルのヴォコーダーまで復刻させてしまいました...(そんな需要あるのか!?)。このような '加工サウンド' 全盛のなか、この椎名林檎によるケロケロヴォイスのリアルタイム処理はRolandのVT-4かな?。
一昨年はRolandのSP-404 Mk.Ⅱ、そして去年の暮れにKorgから定番のKaossPadに新たなサンプラーとしての機能を強化したKaoss Replayなどが登場しましたが、ガジェット的なDAWとして大きな話題となったTP-1のTeenage EngineeringのEP-133 K.O. Ⅱ。まるで一昔前の電卓を思わせる懐かしいスタイルに感圧センサーt多機能フェーダーを駆使して46kHz/16Bitの強力なサンプラーとシーケンサーを搭載、ステレオ6ヴォイス/モノラル12ヴォイスで64MBのメモリーに999のサンプル・スロット、ステレオエフェクツにより多彩な音作りを約束。また、このブランドでお馴染みマイクとスピーカーを内蔵してどこでも気軽に持ち出せるモバイル性も発揮します。
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