2021年10月1日金曜日

バーカスベリーの憂鬱

 管楽器の 'アンプリファイ' において今や主流のグーズネック式マイク。腰に装着するトランスミッターにより自由にステージ上を動き回れるワイヤレス・システムは、クリップでベルに挟む動作を片手で付け替えられるお手軽さと共に普及しました。収音の為のマイクの位置もフレキシブルに調整できるなど、そのピンポイントに '被り' を抑えた出音はPAにも好まれております。








Sennheiser Evolution e608
Sennheiser Microphone
Shure Blog

ちなみにグーズネック式でもわたしが愛用するのは珍しいダイナミック・マイクのもの。基本的にこのタイプのピックアップはファンタム電源駆動によるコンデンサー・マイクが一般的なのですが、むしろマイク駆動の為の電源の必要が無いお手軽さと頑丈な構造、ある帯域に特化した特性ゆえにエフェクターとの相性という点ではダイナミック・マイクの方が扱いやすいですね。これ以前における管楽器の 'アンプリファイ' では、マウスピースのシャンク部分に穴を開けるピエゾ式の 'マウスピース・ピックアップ' が一般的でした。上の動画はサックスによるマイク4種類の比較。管楽器用としてはコンデンサー・マイクのSD Systems LCM 8gとダイナミック・マイクのLDM 94、Beyerdynamicのダイナミック・マイクTG i52が選ばれております。やはりスタンド・マイクに比べるとグーズネック式のものは音質的に相当スポイルされているというか、ライヴという環境での利便性にシフトして設計されている感じがしますね。さて、わたしがトランペットに用いているのはSennheiserのe608。指向性はスーパーカーディオイドで、ShureHPの説明によれば「カーディオイドよりもピックアップ角度が狭く、横からの音を遮断、ただしマイクの背面にある音源に対し少し感度が高くなる」と記しています。環境ノイズや近くの楽器などからの遮音性がより高いため、フィードバックが発生しにくくなるが、使用者は「マイクの正面の位置をモニターに対して意識する必要がある」とのこと。確かにマイクを触ると後方もゴソゴソと感度は高いのが分かります。そして一方のBeyerdynamic TG i52の指向性はハイパーカーディオイドで、同じくShureHPの説明によれば「ハイパーカーディオイドには双方向性マイクロフォンの性質がいくらか備わっており、背面に対する感度は高くなっている。しかし、側面からの音の遮断に非常に優れフィードバックに特に強く、スーパーカーディオイドと同じく周囲の音が被りにくい性質。ただし指向性がとても強いため、音源に対するマイクの配置は正確さが求められる」とあります。う〜ん、どちらもよく似た指向性ながらTG i52の方がよりピンポイントで音を狙う設計というわけか。周波数特性としてはe608が4016000Hz、TG i52の方は4012000Hzとのことで、この辺も指向性の違いに反映されているのでしょう。ダイナミック・マイクはコンデンサー・マイクに比べて特に高域の周波数レンジが狭く、近接のオンマイクにセッティングしてマイク・プリアンプで適正なゲインを持ち上げてやらないと機能を発揮しません(ファンタム電源を誤ってOnにするのは厳禁です!)。ちなみにグーズネック式マイクのほか、定番のダイナミック・マイクSM57もマイク・スタンドに立てて使用しておりまする。







さて、ここからが本題。現在メインのマイク・プリアンプはHeadway Music AudioのEDB-2、サブでEventideのMixinglinkも愛用しております。いわゆる 'エレアコ' のピックアップ・マイクにおいて 'ピエゾ + マグ' や 'ピエゾ + コンデンサー' であるとか、いかにしてPAの環境で 'アコースティック' の鳴りを再現できるのかの奥深い探求があり、本機EDB-2はフォンとXLRの2チャンネル仕様でEQをch.1、ch.2で個別及び同時使用の選択、2つのピックアップの '位相差' を揃えるフェイズ・スイッチと突発的なフィードバックに威力を発揮するNotch Filter、DIとは別にフォンのLine出力も備えるなど、高品質かつ '痒いところに手の届く' 精密な作りですね。ただしXLR入力のファンタム電源が48Vではなく18V供給となっているところは注意。そのEDB-2も新たにEDB-2 H.Eとしてモデルチェンジし、新たに 'H.E.A.T (Harmonic Enhanced Analog Technology)' としてプリアンプ、3バンドのEQ部が2チャンネル独立して刷新、本体には 'Send/Return' が装備されました。ただ、わたしの環境においてはパッシヴのDIからロー・インピーダンスのライン出力でアンプを鳴らしているのですが、ここで 'アッテネート' しているとはいえ、やはりマイク併用だとハウってしまうのです(悩)。その為にプリアンプ自体のゲインを思いっきり上げることが出来ず、後段に繋ぐNeotenicSound Magical ForceやTerry Audio The White Rabbit Deluxeなどで間接的にゲインアップした上での音作りとなります。






そんな悩めるダイナミック・マイク・ユーザー、がいるのかどうかは分かりませんが(汗)、まさにそれに打ってつけなアイテムを発見しました。Cloud MicrophoneのCloudlifter CL-1という '逆アッテネータ' というか 'リアンプ・ボックス' と言うべきか、ゲイン不足のダイナミック・マイクの出力をお手軽に25dBもゲインアップしてくれます。もちろん、本機は48Vのファンタム電源供給出来るプリアンプとの併用が前提です(残念ながらわたしのHeadway Music Audio EDB-2は18Vファンタム電源供給なので不可)。意外にもYoutubeには関連動画が結構UPされているようで、ここ最近のYoutuber隆盛もあってか望まれていた製品だったようですね。上で原則的にダイナミック・マイクにはファンタム電源厳禁!と書きましたが、本製品はそれを逆手に取ってファンタム電源を利用してダイナミック・マイクのゲインを稼いでおります(コンデンサー・マイクのような駆動電源ではないのでマイク破損は起きません)。逆に本製品ではコンデンサー・マイクによる使用は厳禁!ということで、ちとややこしい書き方となりましたね(汗)。ちなみにわたしのセッティングではサブのエフェクターボードで、2チャンネルのプリアンプながらマイク入力のないHatena ?のSpiceCubeにマイク入力するべくTDC Mic Optionを介してこのCL-1を使用中。48Vのファンタム電源はBehringerのMicro Power PS400で供給しておりまする。








Pro 35 vs. ATM 350U vs. e908B vs. C519M

一般的にグーズネック式で普及しているコンデンサー・マイク。レコーディングにおける管楽器の収音としてNeumann u87が '定番' とされているように、幅広い帯域と 'アンビエンス' を捉える力はやはりコンデンサー・マイクならではの持ち味ですね。個人的にAudio-TechnicaのATM 35は価格と音質含めてとても良いものであり、同種のものではほかにShure Beta 98H/C、Sennheiser e908B、Beyerdynamic TG i57、Audix ADX20i-Pなどが市場に投入されております。このATM 35は以前所有しておりましたが、専用のポーチに乾燥剤と一緒に放り込むだけで音質が劣化することもなければ壊れることもないくらい耐久性はバッチリ!。ATM 35はバッテリーボックスのAT 8532が付属、廉価版としてATM 350はそのままXLR端子のみで販売されております。また、一風変わったところではサックス用のSD Systems LCM 89をクリスチャン・スコットがその独特な形状のAdams Reverse Flugelhornに '3点支持' で装着。そしてランディ・ブレッカーはデンマークのDPAから高品質な 'd:vote' シリーズの4099Tを現在愛用中です。従来のクリップ式より接地面の少ない、ゴムのボール2つでベルを挟むようにマウントするSTC 4099というユニークなクリップも用意。響きへの影響で、どうしても従来のベルに挟むクリップが苦手な方は試してみてはいかがでしょうか?。以下はそのDPA 4099Tを用いて昔話なども交えながら語る近年のランディのインタビューです。

- ステージを見せてもらいましたが、ほとんどずっとエフェクトを使っていましたね。

R - 今回のバンドのようにギターの音が大きい場合には、エフェクトを使うことで私の音が観客に聴こえるようになるんだ。大音量の他の楽器が鳴る中でもトランペットの音を目立たせる比較的楽な方法と言えるね。トランペットとギターの音域は似ているので、エフェクターを使い始める以前のライヴでは常にトラブルを抱えていた。特に音の大きいバンドでの演奏の場合にね。それがエフェクターを使い始めた一番の理由でもあるんだよ。ピッチ・シフターで1オクターヴ上を重ねるのが好きだね。そうするとギターサウンドにも負けない音になるんだ。もし音が正しく聴こえていれば、アコースティックな音ともマッチしているはずだしね。

- ライヴではその音を聴いていて、エッジが増すような感じがしました。

R - うん、だからしっかりと聴こえるんだ。それに他の楽器には全部エレクトリックな何かが使われているから、自分もエレクトリックな状況の一部になっているのがいい感じだね。

- そのピッチ・シフトにはBossのギター用マルチ・エフェクター、ME-70を使っていましたね?。

R - うん、そうだ。ディレイなどにもME-70を使っている。ただ使うエフェクターの数は少なくしているんだ。というのもエフェクターの数が多すぎるとハウリングの可能性も増えるからね。ME-70は小型なのも気に入っている。大きな機材を持ち運ぶのは大変だし、たくさんケーブルを繋ぐ必要もないからね。

- そのほかのエフェクターは?。

R - BossのオートワウAW-3とイコライザーのGE-7、ほかにはErnie Ballのヴォリューム・ペダルだよ。本当はもっとエフェクツを増やしたい気持ちもあるんだけど、飛行機で移動するときに重量オーバーしてしまうから無理なのさ。もっとエフェクトが欲しいときにはラップトップ・コンピュータに入っているデジタル・エフェクツを使うようにしているね。

- マイクはどんなものを?。

R - デンマークのメーカーDPA製の4099というコンデンサー・マイクだ。このマイクだと高域を出すときが特に楽なんだ。ファンタム電源はPA卓から送ってもらっている。

- 昔はコンタクト・ピックアップを使っていましたよね?。

R - うん、エフェクツを使い始めた頃はBarcus-berryのピックアップを使っていたし、マウスピースに穴を開けて取り付けていた。ラッキーなことに今ではそんなことをしなくてもいい。ただ、あのやり方もかなり調子良かったから、悪い方法ではなかったと思うよ。

- ちなみにお使いのトランペットは?。

R - メインはYamahaのXeno YTR-8335だ。マウスピースは・・いつも違うものを試しているけど、基本的にはBach 2 1/2Cメガトーンだね。

- 弟のマイケルさんとあなたは、ホーンでエフェクツを使い始めた先駆者として知られていますが、なぜ使い出したのでしょうか?。

R -  それは必要に迫られてのことだった。つまり大音量でプレイするバンドでホーンの音を際立たせることが困難だったというのが一番の理由なんだ。最初は自分たちの音が自分たち自身にちゃんと聴こえるようにするのが目的だったんだよ。みんなが私たちを先駆者と呼ぶけど、実際はそうせざるを得ない状況から生まれたのさ。

- あなたがエフェクターを使い始めた当時の印象的なエピソードなどはありますか?。

R - 1970年当時、私たちはDreamsというバンドをやっていた。一緒にやっていたジョン・アバークロンビーはジャズ・プレイヤーなんだけど、常にワウペダルを持って来ていたんだよ。彼はワウペダルを使うともっとロックな音になると思っていたらしい。ある日、リハーサルをやっていたときにジョンは来られなかったけど、彼のワウペダルだけは床に置いてあった。そこで私は使っていたコンタクト・ピックアップをワウペダルにつなげてみたら、本当に良い音だったんだ。それがワウを使い始めたきっかけだよ。それで私が "トランペットとワウって相性が良いんだよ" とマイケルに教えたら、彼もいろいろなエフェクターを使い始めたというわけだ。それからしばらくして、私たちのライヴを見に来たマイルス・デイビスまでもがエフェクターを使い出してしまった、みんなワウ・クレイジーさ(笑)。

- マイケルさんとは "こっちのエフェクターが面白いぞ" と情報交換をしていたのですか?。

R - うん、よくやっていたよ。彼の方が私よりもエフェクツにハマっていたから、時には彼がやっていることを理解できないこともあったもの。でも私たちはよく音楽に関する情報を交換していたね。特に作曲に関してや、バンドの全体的なサウンドに関していつも話をしていたよ。それにお互いに異なるエフェクツを試すことも多かった。サックスに合うエフェクトとトランペットに合うエフェクトは若干違うんだよ。ワウは彼のサックスには合わなかったよ(笑)。







 - 世界屈指のトランペット奏者ランディ・ブレッカーは、自身のインターナショナルツアーにDPAのクリップマイクロホン '4099' を採用した。このツアーは、2週間でリスボン、シンガポール、さらにはフィンランドまで巡回するというものだ。その間、ブレッカーは4099の性能を試してみた。ツアーから戻った彼は、このクリップマイクロホンにすっかり心を奪われていた。

R - こんなクリップマイクロホンは初めてだよ。ホーンの音域をすべてカバーしてくれるのはもちろんだが、バルブノイズをほとんど感じさせないんだ。独特な形状のクリップのおかげだね。4099を使っていると、自分のプレイまで良くなるようだよ。今回のツアーはアコースティックなものだったが、こういう状況でクリップマイクロホンを採用したのは実は初めてなんだ。

 - ブレッカーは、トランペットに様々なギターエフェクトを使用することで知られている。

R - ギターエフェクトを使うのは、ギターやベースの音で自分の出音が聞こえなくなってしまうのを防ぐ為でもあったんだ。一方で4099のサウンドは、僕のニーズにしっかり添ってくれる。量感たっぷりと、暖かさを感じられる音が欲しいときは、そういうサウンドに。エッジィな音が欲しいときは、そういうサウンドにしてくれる。ギターエフェクトなんてまるで必要ないって思うこともあったよ。音域の広い演奏をするときには、4099をマイクスタンドに載せて使ってみようと思っている。繊細なパートの時には、後ろに下がって演奏することができるからね。

 - ブレッカーが4099を初めて手にしたのは、ポルトガルのコンサートの時だ。

R - そのとき僕は自分でマイクを用意していたんだけど、そこの音響スタッフは、驚いたことにすでにこの4099を用意してくれていたんだ。違いはすぐに分かったよ。4099はすべての帯域において、素晴らしいサウンドを聴かせてくれたんだ。




SD Systems LCM 77

晩年のマイルス・デイビスがこの '傘の柄' のようなピックアップ・マイクを用いたことで彼の没後、市場に登場したのがこのSD Systems LCM 77。バッテリーボックスのLP Preamp付属でベルとマイクの間に一定の距離を空けることから、軽量の透明アクリルチューブで保護されたマイク部分を少しひねってミュートを装着することが出来るのが画期的でした。個人的な感想としては音質も硬く、ちょうど3番ピストン真下でマウントすることから余計なピストンノイズを拾ったりと良い印象は無かったのですが、この動画を見る限りたぶんわたしの使う環境が良くなかったのでしょうね(苦笑)。初期のクリス・ボッティや短期間ながら近藤等則さんも 'マウスピース・ピックアップ' と併用して使っておりましたが、現在では類家心平さんが愛用しておりまする。






グーズネック式の管楽器用ピックアップとしては最高峰のコンデンサー・マイク、AMT P800。ベルでは無くチューニングスライドを基点にマウントするその姿はSD Systems LCM 77以上に '晩年のマイルス仕様' っぽいですけど、これだけの大きなダイアフラムを持つマイク・ユニットということでステージ上でもラッパの音質は妥協したくない方にピッタリ。ベトナム系米国人のラッパ吹き、クォン・ヴーも以前ユーザーだったようですね。腰のベルトに装着してワイヤレス・システムと同時に使えるバッテリーボックスBP40付きのP800と、スタジオでミキサーにそのまま入力できるようプリアンプ/DIのAP40付きP800-Studioの2種類が用意されております。以前、日本の代理店Hook Upも扱っていたのですが何とこのP800-Studio・・怒涛の10万超え(汗)。さすがにグーズネック式マイクでこの価格は売りにくかったのではないでしょうか(苦笑)。














こちらもAMTマイクにより整然とした '物量' へ挑んでおります(笑)。Meris、Chase Bliss Audio、Strymonなどを駆使して、高品質かつMIDI同期なプログラマブル・スイッチャーに対応した仕様を備える製品で統合したシステムを構築することが可能ですね。これまでこのような同期やプログラムに対応したものはラックやマルチ・エフェクターに特化した分野でしたが、ここ最近はコンパクト・エフェクターの分野でも充実したシステムで組めるようになりました。もちろん、このような大仰なシステムを組まずともループ・サンプラーやワンショットの 'Hold' 機能を持つペダルが一台あるだけでもより豊かな発想を刺激するでしょう。そして、今やサックスによるフランス製Viga Music ToolsのintraMic使用でお馴染みBlendReedさんが、いよいよAKGのC519Mコンデンサー・マイクを追加してベル側とのミックスを始めました。





そして、せっかくのコンデンサー・マイクなのですからRadial Engineering Voco-LocoやこのZorg Effects Blow !に接続して各種ペダルと戯れましょうか。ややこしいインピーダンス・マッチングなどで悩むことなく、そのまま管楽器での 'アンプリファイ' を楽しめちゃうのです。一昔前の管楽器における '電化論争' とか、今の若いコたちには、ん?何ソレ?ってくらい実感がないというか、別にマイクやコンパクトペダル、PAを使った音作りをやったからといって管楽器自体の魅力が閉じるなんてことは全く無いんですよね。面白いんだから試しにちょっと遊んでみたら?って軽い気持ちでアプローチしても全然OK!。ちなみにZorg Effectsの新作であるBlow ! Blow !! Blow !!!は2つのマイク入力とDI出力、そして 'インサート' するセンド・リターンまで全て 'ステレオ' に拡張しました。これでEventideやStrymonなどの高品質な 'ステレオ・ユニット' をそのまま使うことが可能・・なのですが、ひとつ注意!。本機のマイク入力は残念ながらファンタム電源無しのダイナミック・マイク専用となりまする。'モノラル版' のBlow !の方はファンタム電源可能なので機器の '住み分け' なのかな?と思いましたが、しかし、ここは 'プロの現場' の意見が反映されていると考えれば納得する部分の方が大きいでしょうね。このような 'インサート' 付きプリアンプの取説ではマイクをそのままXLR入力する旨が記載されておりますが、実際のステージでこのような接続はほぼ無いのが現実です。会場の音場を掌握するPAエンジニアにとって重要なのはトラブルの無いステージ進行であり、その為にステージ上からの各種楽器の音はそのまま欲しい。つまり管楽器からのマイクはPAのミキシング・コンソールに繋がれて、別途エフェクツ類の使用においてはコンソールの 'バスアウト' からDIで 'インサート' するかたちでステージ上にペダル類を提供する 'リアンプ' 的手法が一般的なのです。この手の機器もほぼそのような接続で利用されており、それは例えばペダル類のトラブルが起きた場合すぐさま 'バスアウト' の回線を切って管楽器の生音に復帰出来ます。また突発的なハウリング・マージンを稼ぐ場合にもPA側でバランスを取りやすいというメリットがありますね。しかし、このZorg Effectsはそろそろ日本の代理店が取り扱って頂きたいなあ。そして、こちらもダイナミック・マイク専用ながらコンパクトペダル用の 'インサート' はもちろん、2つの独立したマルチエフェクツ(A - Octaves、Phaser、Short Delay、Reverb 1、Reverb 2、B - Rotaly、Flange、Long Delay、Reverb 3、Reverb 4)や音作りとしてサチュレーションのブースト機能内蔵のOld Blood Noise Endeavors Mawが登場。もうペダルすらアレコレ買いまくるのは面倒くさ、というユーザーにオススメです(苦笑)。











ピエゾ式の 'マウスピース・ピックアップ' からグーズネック式マイクの間にもうひとつ、ピックアップ・メーカーの老舗Barcus-berryから一風変わった製品が登場したことはあまり知られておりません。それはトランペットのベルのリム縁にネジ留めで挟み込み、一見ピエゾ式に見えますが電池駆動する簡易型の 'エレクトレット・コンデンサー' 式でベルからの振動と倍音を収音します。1981年に6年もの沈黙を経て復活したマイルス・デイビスのステージで星と月の彫刻の施された黒いMartin Committeeには、それまでGiardinelliのマウスピースへ開けられた穴に蓋をすると共にこの '挟み込む' ピックアップが新たに装着されたことから注目されました。デイビス使用のものはかなりの開発費をかけて製作された他社製のものでしたが、それからしがなくしてBarcus-berryからよりリーズナブルな価格帯で用意されたものがこちらの同種品。'Electret Mic System for Brass' と題しながらなぜか時期により2つの型番があり、それぞれ 'Model 5300' と 'Model 1574' にされておりました(謎)。腰に装着するバッテリーパックも '1586 Power Supply' とされながら、これも3Vボタン電池で駆動するものと9V電池駆動の2種が時期により各々付属されておりました。ピックアップ本体はこのバッテリーパックの後に別途プリアンプで増幅して使用します。ちなみにデイビスから先駆けること1978年にテリエ・リピダルのグループでラッパを吹く 'デンマークのマイルス' ことパレ・ミッケルボルグが、いわゆる 'ギターシンセ' 用のトリガーとしてベルに同種のピックアップを装着しているのが確認出来ますね。




俗に '荒っぽい仕様' でお馴染みBarcus-berryなんですが、こちらもトランペット本体にマウントする為のパーツが超強力でフレキシブルさの無いゴム付きクリップという難物に苦戦。とにかくクリップ部の着脱が硬すぎて確実に楽器を痛めてしまう為、何か代用になるものは無いか?と探してみたらuxcellのEPDMラバーライニングPクリップゴムという排水管用のパーツを発見!(笑)。いろんなサイズがある中からテキトーに直径8mmのものをチョイスしました。これをトランペットの第1スライド管部にマウントさせることで従来品の余計な 'ストレス' から解放されまする。というか、タイラップ、超硬いゴム付きクリップ、ベタに管体に貼り付けるベルクロなど、このメーカーはマウント部に対する楽器の '保護意識' が希薄過ぎるんだよな・・。ちなみに、プラスティック製のネジ(これもネジ山剥き出し)でベルのリム縁に装着する独特な形状のピックアップはオープンはもちろん、ミュートによる出音もちゃんと収音してくれますヨ。











Barcus-berryの管楽器用ピックアップとして一時代を築いた 'マウスピース・ピックアップ'。木管楽器用1374-1と金管楽器用1374はピックアップ本体は同じですが、その1374はいくつかモデルチェンジしており、初期は中継コネクターを介した2.1mmのミニプラグを楽器のラウンドクルーク部とリードパイプ部にグルッとタイラップで固定する仕様でした。そして3.5mmのミニプラグに仕様変更されて、クリップ式の中継コネクターでリードパイプに着脱出来るものに変わります。Barcus-berryはこの製品特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者Lester M. BarcusとJohn F. Berry両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しております。特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなく、カップ内に穴を開けてピックアップを接合するという初期の発案が興味深いですね。ただこの装着で鳴らすと、バルブ・トロンボーンによるPiezoBarrelピックアップの動画に顕著ないわゆる 'バズ音' と言うべきバジングしたような不快なノイズが入るので得策ではありません。そして1990年代に入りこれまでのピエゾ式から9V電池で駆動する 'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001が登場。当時、日本で代理店を務めたパール楽器1997年のカタログを確認すれば堂々の65,000円也!。結局、新たな潮流となったワイヤレスとグーズネック式マイクの流れに勝てず、少量の製作で同社の 'マウスピース・ピックアップ' における有終の美を飾りました。さて、上記動画の1993年ザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーの際、その来日公演時に受けた 'Jazz Life' 誌とのインタビューによる機材話が興味深いので抜粋してみます。以下のインタビューからも分かる通り、生音とエフェクト音を半々で混ぜたセッティングで1970年代後半から使い出したBarcus-berryの 'マウスピース・ピックアップ' 使用最後の時期に当たるものです。

R - ここには特別話すほどのものはないけどね(笑)。

− マイク・スターンのエフェクターとほとんど同じですね。

R - うん、そうだ(笑)。コーラスとディレイとオクターバーはみんなよく使っているからね。ディストーションはトランペットにはちょっと・・(笑)。でも、Bossのギター用エフェクツはトランペットでもいけるよ。トランペットに付けたマイクでもよく通る。

− プリアンプは使っていますか?。

R - ラックのイコライザーをプリアンプ的に使っている。ラックのエフェクトに関してはそんなに説明もいらないと思うけど、MIDIディヴァイスが入っていて、ノイズゲートでトリガーをハードにしている。それからDigitechのハーモナイザーとミキサー(Roland M-120)がラックに入っている。

− ステレオで出力していますね?。

R - ぼくはどうなってるのか知らないんだ、エンジニアがセッティングしてくれたから。出力はステレオになってるみたいだけど、どうつながっているのかな?。いつもワイヤレスのマイクを使うけど、東京のこの場所だと無線を拾ってしまうから使っていない(笑)。生音とエフェクト音を半々で混ぜて出しているはずだよ。

− このセッティングはいつからですか?。

R - このバンドを始めた時からだ。ハーモナイザーは3、4年使っている。すごく良いけど値段が高い(笑)。トラック(追従性のこと)も良いし、スケールをダイアトニックにフォローして2声とか3声で使える。そんなに実用的でないけど、モーダルな曲だったら大丈夫だ。ぼくの曲はコードがよく変わるから問題がある(笑)。まあ、オクターヴで使うことが多いね。ハーマン・ミュートの音にオクターヴ上を重ねるとナイス・サウンドだ。このバンドだとトランペットが埋もれてしまうこともあるのでそんな時はエッジを付けるのに役立つ。

− E-mu Proteus(シンセサイザー)のどんな音を使っていますか?。

R - スペイシーなサウンドをいろいろ使っている。時間があればOberheim Matrix 1000のサウンドを試してみたい。とにかく時間を取られるからね、この手の作業は(笑)。家にはAkaiのサンプラーとかいろいろあるけど、それをいじる時間が欲しいよ。

− アンプはRolandのJazz Chorus(JC-120)ですね。

R - 2台をステレオで使っている。

この時のランディの足下には、Boss Octave OC-2→T-Wah TW-1→Digital Delay DD-3→Digital Delay/Sampler DSD-3→Super Chorus CH-1をループ・セレクターのPSM-5でまとめています。生音とエフェクト音を半々で混ぜたセッティングから、マウスピースは穴を開けてBarcus-berryの1374が接合されており、8UのラックにはRolandのミキサーM-120、Alesis Quadlaverb、E-mu Proteus、Drawmer DS-201ノイズゲートのほか、Digitechとメーカー不詳のPitchriderなるハーモナイザーが入っておりました。2台のRoland JC-120アンプのセッティングは、想像ですけどPAからラインでJCの 'Return' に入力してプリアンプをバイパス、パワーアンプのスピーカーのみ使用して鳴らしていると思われます。



 









DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
DPA SC4060、4061 Review
Toshinori Kondo Equipments

ちなみに、このBarcus-berryのエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ6001の構造をベースにオリジナルで 'マウスピース・ピックアップ' を製作してしまった近藤等則さん。残念ながら去年冥界へと旅立たれてしまいましたが(涙)、1979年にニューヨークで必要に迫られて購入したBarcus-berryピックアップから25年ほど経ち、新たにDPAの無指向性ミニチュア・マイクロフォンを流用してオリジナルのピックアップを製作致します。スクリューネジによるピックアップ本体の着脱、ポリプロピレンのスクリーンによる水滴と息の風を防ぐ構造などはBarcus-berry 6001をほぼ踏襲しており、これでベル側のマイクに頼らず 'マウスピース・ピックアップ' ひとつだけで広い帯域を収音します。2007年にその苦労の顛末をこう述べておりました。個人的に最後の 'ひと言' が実に心に沁み入りますヨ(涙)。人生、飽きることなく足掻いてるっていうのが面白いんだよなあ。

"今年を振り返ってみると、いくつかよかったことの一つが、トランペットのマウスピースの中に埋めるマイクをオリジナルに作ったんだ。それが良かったな。ずっとバーカスベリー ってメーカーのヤツを使ってたんだけど、それはもう何年も前から製造中止になってて、二つ持ってるからまだまだ大丈夫だと思ってたんだけど、今年の4月頃だったかな、ふと「ヤベえな」と、この二つとも壊れたらどうするんだ、と思って。なおかつ、バーカスベリー のをずっと使ってても、なんか気に入らないんだよ。自分で多少の改良は加えてたんだけど、それでも、これ以上いくらオレががんばっても電気トランペットの音質は変えられないな、と。ピックアップのマイクを変えるしかない、と。それで、まずエンジニアのエンドウ君に電話して、「エンちゃん、最近、コンデンサーマイクで、小さくて高性能なヤツ出てない?」って訊いたら、「コンドーさん、最近いいの出てますよ。デンマークのDPAってメーカーが、直径5.5ミリのコンデンサーマイクを作っていて、すごくいいですよ」って言うんで、すぐそれをゲットして。

それをマウスピースに埋めるにしても、水を防ぐことと、息の風を防ぐ仕掛けが要るわけだ。今度は、新大久保にあるグローバルって楽器屋の金管楽器の技術者のウエダ君に連絡して、「このソケットを旋盤で作ってくれないかな」ってお願いして、旋盤で何種類も削らして。4ヶ月ぐらいかけてね。で、ソケットができても、今言ったように防水と風防として、何か幕を張ってシールドしないといけないわけだ。それをプラスチックでやるのか、セロファンでやるのか、ポリプロピレンでやるのか。自分で接着剤と6ミリのポンチ買ってきて、ここ(スタジオ)で切って、接着剤で貼り付けて、プーッと吹いてみて、「ダメだ」また貼り付けて、また「良くねーなぁ」って延々やってね(笑)。で、ポリプロピレンのあるヤツが一番良かったんだ。そうすると今度は、ポリプロピレンを接着できる接着剤って少ないんだよ。だから東急ハンズに行って、2種類買ってきたら一つは役に立たなくて、もう一つの方がなんとかくっつきが良くてね。その新しいピックアップのチューニングが良くなってきたのは、ごく最近なんだけどね。音質もだいぶ変わってきた。音質が変わると、自分も吹きやすくなるからね。それが、今年はすごくよかったな。

電気機材も、1Uっていうフォーマットで、あれは第一次世界大戦の頃にできた工業規格のはずなんだよ。第二次世界大戦前の、そのままの規格なんだ。だから、大きいんだよな、重いし。これからやるためには、さらに軽量化・小型化したい。今は5Uで使ってたんだけど、3Uぐらいにはできそうなんだ。最近も、なんていうメーカーだったかな。小さくていいディレイが出てね。1U分のディレイ外して、それに換えてみたり。あがきはいつまでも続くね(笑)。"









さて、1960年代から長らくその 'エレアコ市場' を掌握してきた老舗Barcus-berryなんですが、あまりに旧来のピエゾや簡易 'エレクトレット・コンデンサー' のピックアップに固執する中で、それ以降のグーズネック式マイクとワイヤレス・システムの流行に乗り遅れてシェアを失って行ってしまったのは残念。ピックアップ自体の音質など決して悪いものでは無いのですが、やはりそのユーザー・インターフェイス含めた古さと使いにくさにBarcus-berryの個性と限界を垣間見る思い・・それが '栄枯盛衰' にして '温故知新' な 'Electret Mic System for Brass' なのです。しかし、なぜここまで世の趨勢に逆らいながら独自の収音方式によるピックアップばかり製作するのだろうか?(苦笑)。








今や楽器店も積極的かつ他ではやらないコンテンツで発信することが大事。新大久保の大久保管楽器店とTC-GAKKIさんが面白いことやってます。というか、大久保管楽器店には元祖管楽器用オクターバー、H&A Selmer Varitoneの完動品があるじゃないですか(笑)。Boss OC-2 Octaveなんかよりはるかにぶっとい地を這うような低音で鳴りますヨ。動画の後編のオチで出てくるかと思っていたのに・・残念なり。

2 件のコメント:

  1. はじめまして
    サックスにおけるライブ、ステージ用途でのマイクをあれこれ悩んでいるうちにこちらのブログに辿り着きました
    過去の記事も拝見致しましたが、今の私にとって大変貴重な情報が纏めて記されており、本当に素晴らしいものでした
    また今後の投稿も楽しみにさせていただきます

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  2. yoさん。こんにちは。
    ブログへの訪問ありがとうございます。過去の記事のアップデート的書き換えばかりではありますが、何か参考になれば幸いです。

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