2017年9月4日月曜日

創造する 'エフェクト' のプロセス

ここ近年のアナログ・エフェクターの復刻とデジタルによる 'アナログ・モデリング' の可能性、 'ユーロラック' サイズによるモジュラーシンセ再評価は、今やプラグインやソフトシンセをDAWでコントロールするのが当たり前だというのに、その根底には未だ20世紀末の '遺産' から何かを掴もうとする状況が続いております。







Pedals And Effects
Earthquaker Devices Organizer
Earthquaker Devices Pitch Bay
Electro-Harmonix Pitch Fork

しかし、エフェクターに関しては正直、もう新しい 'ジャンル' というか、何がしかを発奮するものが出にくくなってますねえ。エレクトロニカにおけるプラグインがもたらした 'グラニュラー・シンセシス' からエフェクターへのフィードバックとなった 'グリッチ/スタッター' 系くらいが最近、市場を賑わせていると言っていいでしょうか。この辺もここ数年、かなりの製品が市場にひしめき合っていて少々過剰気味。ただし、この分野においては日本は早くからアプローチしており、Masf Pedalsを皮切りにS3N、Butterfly Fx、Sunfish Audioといった大手ではない小さなガレージ工房がこぞって面白いものを市場に提供しているのは特筆して良いですね。まあ、それでも毎年洪水のように押し寄せる新製品には心躍らせているワケで(笑)、メキシコの旗が印象的な 'ペダル・ジャンキー' の 'Pedals And Effects' さんが取り上げる膨大なペダル群を見てもこの分野の '活況ぶり' はよく分かると思います。そして、7月の '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' からの続編で、ここ最近の売り上げ好調な同社を反映して登場した新製品、Earthquaker Devicesの 'オルガン・トーン' を生成するOrganizerと Pitch Bay。このPitch Bayは以前に 'エレハモ' から現れたPitch Forkのライバル機なのですが、ココも従来のギタリストから管楽器奏者へと裾野を広げてきましたねえ。オクターバーほど単純ではなくピッチ・シフターほど仰々しくないという、なかなかに '欲しい' ユーザー層のツボを突いた製品だ。







Soviet Guitar Effects Online Store & Museum
U.S.S.R. Fuzz / Vibrato / Wah

そうそう、こういったコンパクト・エフェクターの過熱ぶりは、いよいよ西側自由主義陣営の向こう側、かつての旧共産圏の 'ペダル' たちへビザールな関心を向けることとなります。ここ最近、eBayなどでゾロゾロと怪しげなキリル文字による何ともレトロかつ無機質、どこか '学研の教材っぽい' デザイン・センスで鷲掴みする旧ソビエト製エフェクターが現れております。当然、西側のエフェクターと規格が違う為か、端子類などに独自のものを採用していて使いづらいのですが、しかし、そのチープかつレトロ・フューチャーな雰囲気はある意味とても新鮮!ファズワウからトレモロ、フェイザーやフランジャーにマルチ・エフェクターのようなものまで揃えられていることに驚きますけど、しかしこれらはかつて '国の所有物' として厳重に管理されていたワケですよね。何か、ロシアになってゴミとなった '不良債権' が巡り巡ってネットの競売に掛けられるという、時代の過酷な流れを感じますねえ。ちなみにかなりの珍品だからなのか、リンク先の日本の楽器店でもの凄い値段が付けられております・・。

さて、これはスタジオにおけるラックで積み上げたアウトボード機器類にも言えることでして、今や、そのほとんどは 'アナログ・モデリング' のプラグインでミックスダウンの処理するのが当然となってしまいました。一方、これらアウトボード機器類からスタジオでの高級なコンプレッサーの処理を、そのままギター用のコンパクト・エフェクターへフィードバックされる現象も起きております。ヴォーカルの処理などに威力を発揮するUrei 1176は、現在でもUniversal Audioにより生産されておりますが、Input、Output、Attack、Releaseの4つのツマミと4モードのRatioスイッチ(全部押しが有名ですね)で起こる極上の効果を、そのままギタリストやベーシストの足元に置くことで緻密なサウンドへと引き上げました。

俗に 'Urel系コンプ' の流れが現れたのは、それまで '潰す、圧縮する' のエフェクティヴなコンプレッサーに対し、より繊細なダイナミズムと音場の演出にプレイヤー自身でコントロールしたい、という欲求が強まったからだと思います。そういう意味では、このMagical Forceもその流れに棹さしており、これはどのような 'ジャンル' と呼ぶべきか、大阪で 'アンプに足りないツマミを補う' をコンセプトとしたエフェクターを製作する工房の '迫力増強系' エフェクター。プリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのようでもある・・とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれる。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。ここでのツマミの設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ちなみに、より 'アコースティック' な楽器の持つ '鳴り' に特化したNeotenic Soundの新作プリアンプ、Pure Acousticというのもあります。本機の中央に位置する2つのツマミは、同じツマミを持つ同社のベース用プリアンプDyna Forceの説明によれば 'Divarius回路' というもので、楽器の '鳴り' というべき '音の重心' と '芯の定位'に関する部分をそれぞれ 'Body' と 'Wood' という2つのツマミに落とし込み、より 'アンプリファイ' な環境において 'アコースティック' の演出に長けているとのこと。これは試してみたい!



JHS Pedals Colour Box

このスタジオ・レコーディングにおけるアウトボードの技術の究極と言えるものが、永らく音響機器界の伝説的存在として語り継がれるRupert Neveのサウンドでしょう。特にNeveの手がけたミキシング・コンソールはその太い '質感' に定評があり、このコンソールをバラしてプリアンプ、EQなどを 'チャンネル・ストリップ' にするエンジニア必携のアイテムとなっております。この '質感' をコンパクト・エフェクター・サイズにしてしまったのが近年その名を聞くことの多いJHS PedalsのColour Box。構成はプリアンプ + EQといった感じながら、その可変具合はクリーンからそれこそファズっぽい歪みに至るまで加工することが可能で、動画でのヴォーカルのエフェクティヴな処理に驚かされます。なお入力はフォンとXLRの兼用なコンボ端子となっており、そのまま管楽器用マイクから入力するプリアンプにもなりますので是非ともお試しあれ。









Catalinbread Zero Point Flanger
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker
A/DA Flanger

そんなスタジオ・ワークの中でユニークなもののひとつが、ザ・ビートルズのサイケデリックな処理で有名となったADT(Artificial Double Tracking)。2台のオープンリール・テープ・デッキの録音用シンク・ヘッドから再生音とリプロ・ヘッド(再生ヘッド)からの音声を意図的にズラすことで、それぞれの位相差を利用した擬似ダブル・トラッキング生成、フランジング・マシーンの効果を生み出すことができます。当時、似たような効果としてはハモンド・オルガンにおけるレスリー・スピーカーの 'ドップラー効果' か、日本のHoneyがフェイザーに先駆けて開発したコーラス/ヴィブラート・ユニット、Vibra Chorus(Uni-Vibe)の電子的シミュレートに頼るほかありませんでした。しかし、このADTの効果は単体のフェイザーやフランジャーを用いたものとも一味違う、やはりスタジオにおけるアナログな操作で生成される独特なものでして、今までなかなかコンパクト・エフェクターとして納得のいくものはなかった。そんな中でCatalinbreadとStrymonはそれぞれアナログとDSPによる 'アナログ・モデリング' の違いはあっても、この特殊な効果に挑んだ稀有な一台と呼ぶに相応しいものでしょう。ちなみにエグめといえば、コンパクトで最も有名なのがA/DAのFlangerなんですけど、すでに2度の '復刻' もされているだけにデジマートなどで検索して頂ければ中古でズラッと出てきますので、これまた狙い目で御座います。







Musitronics Mu-Tron Bi-Phase
Prophecysound Systems Pi-Phase Mk.2 ①
Prophecysound Systems Pi-Phase Mk.2 ②
Mu-FX Phasor 2X + XP-2
Gerd Schulte Compact Phasing A
Mode Machines KRP-1 Krautrock Phaser

また、このようなモジュレーションによる音作りで1970年代に効果を発揮したのが、Musitronicsの 'デュアル・フェイザー' として君臨したMu-Tron Bi-Phase。この時代、ロックからファンク、レゲエやフュージョンのソロやカッティングには常にかかっていたフェイズ・サウンド。その中でもこの2台分のフェイズを組み込んだ大型フェイザーは、未だ市場ではプレミアが付いております。そんな需要を見越してか、2015年と今年にかけてMu-Tronを忠実に再現した2機種が登場しました。ひとつはオーストラリアのProphecysound Systemsからそのルックス含め忠実に再現、かつ小型化したPi-Phase Mk.2(なぜかYoutubeにまともな動画がひとつもない)。もうひとつは本家Mu-Tronを設計したマイク・ビーゲルによるブランド、Mu-FXから登場したPhasor 2X。こちらはBi-Phaseの 'デュアル・フェイザー' ではなく、同社のPhasor Ⅱを元にしているようですが、それでもMu-Tron直系のフェイズ・サウンドを堪能できます。そして、Bi-Phaseと同じく強烈なフェイズ・サウンドで時代を席巻したのがドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことで大変なプレミアものですね。このCompact Phasing AもMode Machinesからその名もずばり 'Krautrock Phaser' として生まれ変わりました。しかしその筐体はあまりにもデカイ・・。











Snazzy FX
Dwarfcraft Devices Happiness
Elta Music Devices

'揺れもの' といえばモジュレーション系以外のものではトレモロやヴィブラートなどがありますが、より多彩な音作りとしてCV(電圧制御)によるLFOがあります。この辺へのアプローチとして近年活発化している 'モジュラーシンセ' があり、これまでコンパクト・エフェクターを製作していた工房などもこぞって 'モジュール' を製作、新たな市場とユーザーに訴えかけようとしております。Malekko、WMD、4MS、Masf Pedals etc..、このDan Snazalleが主宰するガレージ工房、Snazzy FXもそんな参入組のひとつ。現在ではほとんど 'モジュール' へとラインナップが移行しているようですが、このDivine Hammerというウェイヴ・シェイパーはコンパクト・エフェクターの体裁を取りながらCVにより、モジュラーとの互換性でより凝った音作りを可能とします。またDwarfcraft Devices Happinessというエンヴェロープ・フィルターもそんなCVによる音作りを備えた一品で、ここではArturiaのアナログシンセとKorgのドラムマシンをHappinessのLFOで '同期'。しかし、コンパクト・エフェクターが '同期' のマスターになるなんて面白い。そして1990年代にギタリストやベーシスト、エンジニアなどから人気のあった英国のガレージ工房Lovetoneは、現在でもプレミアの付いた価格で取り引きされております。このString RingerはそんなLovetoneのリング・モジュレーターであるRing Stingerをデッドコピーしたマニアックな一台。しかし、Elta Musicなるロシアの工房のサイトを覗いてみれば、いやあ、ギターのみならずシンセサイザーと組み合わせていろいろ遊べる 'ガジェット' 満載で最高ですねえ。どこか日本の代理店とか取り扱わないかな?

ちなみに作曲家の故・富田勲氏はフェイザーを入手する以前、どうしてもレスリー・スピーカーの効果が欲しくなり、それを求めて奇妙な実験を始めたというエピソードがなかなかにゾクゾクします。

"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンが散々使ったんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにもの凄く高かった。それで「惑星」や「ダフニスとクロエ」で使った方法なんだけど、F(Fast)とS(Slow)というスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがウチにあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したらレスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はアースを使って直接台から送って、もう1本は天井からエナメル線を吊るしてそれで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"







Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
Marcello's Special Binson Shop
T-Rex Effects

今ならBluetoothのスピーカーで音を飛ばして試すことができますが、これは案外、電子的なシミュレートとは違う '天然のフェイズ' 効果を得られて面白いかもしれません。そして 'Moogシンセサイザー' の導入以前、ドラム・メーカーのLudwigが開発した初期の 'ギター・シンセサイザー' Phase Ⅱ Synthesizerも富田氏の音作りで重要なアイテムとなりました。

"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"

後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、サントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する大事なものであったかが分かります。しかしこのビザールな名機、後述するSherman Filterbankや 'エレハモ' のTalking Pedalのルーツ的機種といった感じで、そういえば富田氏、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったのだとか。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますねえ。他には磁気ディスク式のエコーとして有名なBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムで富田氏は以下のように語っております。

"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"

わたしも 'ダブ作り' に熱中していた当時、トランジスタ仕様のBinson Echorec EC3を愛用しておりましたけど、とにかくキャリブレーションをしていないのか、もの凄い 'ワウフラッター' による回転ムラが生じて勝手にサイケデリックな効果となっておりました(笑)。さて、このEchorecはBinson社閉鎖後、同社で働いていたマルセロ・パトゥルノ氏が残されたパーツや工作機械の一部などを買い取り、現在のパーツと組み合わせた 'リビルド・モデル' の再生品として受注、少量生産でのみ購入できました(リンク先ではどれも50万ほどしますね)。しかし、カセットテープ式のテープ・エコー 'Replicator' を製作したT-Rexにより2017年、いよいよ正式復活します!





Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume
De Almond Model 800 Trem-Trol

さて、このような '超アナログ' ともいうべきレスリー・スピーカーの効果は、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルに結実します。まあ、このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。以前に 'トレモロで挑発する' でも取り上げたDe Almondの古いトレモロ・ペダルとよく似た構造と言えますね。







Sherman Filterbank 2
Filters Collection

このような '喋らせる' 効果をそのまま 'オシレータのないモジュラーシンセ' なフィルターで生成するものとしては、ベルギーでHerman Gillisさんによりひとり設計、組み立てを行い、現行機としてテクノ方面でヒットしたSherman Filterbank 2があります。ある意味 '賞味期限切れ' と言われるほどに使われまくったアナログ・フィルターではありますが、むしろ、発振させてシンセのキックとして乱用されたブーム過ぎ去りし後、じっくりと本機の多様なフィルタリングの能力と向き合ってみればまだまだ刺激を受けることでしょう。本機の特徴として、CVやMIDIのノートオンによりトリガーできるエンヴェロープ・フォロワーの独特な追従性があります。1990年代に興隆したループをメインとするサンプリング・ミュージックの手法は、そのままアナログのフィルターを '2ミックス・マスター' に突っ込む '質感' の生成からドラムマシンのキックをリアルタイムに変調するところまで広がり、音楽の構造とその聴き方に対するパラダイムシフトをもたらしたと言っても過言ではありません。それはこのFilterbank 2を始めとして、各社から単体のアナログ・フィルターが製品化されたことにも如実に現れております。









Electro-Harmonix Talking Pedal
Electro-Harmonix Stereo Talking Machine

さて、エフェクターと 'ヴォイス' の関係を探る上で、実はエフェクター黎明期から存在していた原始的なエフェクターがあります。通称 'マウスワウ'、正式にはトーク・ボックスとかトーキング・モジュレーターと呼ばれるものですね。その構造はギターやキーボードからの出力がホースを通して口に運ばれていきます。それを頭蓋骨で骨振動!させながら口腔内を開閉させることでフィルターの役割を果たし、それを別のマイクで収音して(無くても大丈夫ですが)ミックスすることであの独特な、まるで楽器が喋るようなサウンドが奏でられるのです。ギターよりはキーボードで定着したエフェクターでして、特に左手でかけるピッチベンダーと組み合わせることで独特の抑揚を生み出します。代表的なのはオハイオ・ファンクの雄、ザップのロジャー・トラウトマンなのですが、このtalkboxmaihemさんのカバーはかなりのファンキーなノリを体現していてグッド!しかし、これは吹奏が基本の管楽器では物理的にムリな効果なのですが(苦笑)、例えばラーサーン・ローランド・カークばりに2本、3本とサックスを咥えられる人は、思い切ってトーク・ボックスのホースをマウスピースと共に咥えて '腹話術的' な技術と共に挑んでみて下さいませ(笑)。いや〜、これはトランペットなどの金管楽器では不可能だわ。ちなみに、そんな実際に喋りながら演奏することは叶わないけど、擬似的に 'ヴォイス' 的フォルマントな効果をワウに特化させたものでElectro-Harmonix Talking Pedalがあります。そして、ヴォコーダーといえばあのマイケル・ジャクソンにもカバーされたYMOの 'Behind The Mask'。このような 'ヴォイス' とエフェクトの関係性は、例えばトランペットとプランジャーやワウワウ・ミュート、エレクトリック・ギターとトーク・ボックスからワウペダル、クラフトワークとYMOの時代になって流行したヴォコーダー、そしてピッチ・シフトの強制コレクトによるプラグイン、オートチューンを経てヴォーカロイドの '初音ミク' に至るまで綿々と追求されている特異な分野。そう、人間にとっての究極の理想は '人間' を模倣し、凌駕することなのではないでしょうか。







Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

エフェクター及びシンセサイザーの開花した1970年代、クラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作エフェクター・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます(上のリンク先にAlpha 77の写真と記事があります)。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。"

"シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"



またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"





本機の発想の元のひとつに、キング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップが発案した創作エフェクター・システム(そもそもはブライアン・イーノだと思うのですが)、Frippertronicsがあるのは間違いないでしょうね。長いテープ・ループの変調でそれこそシンセサイズと同等の 'エフェクト' を自在に得られるのですから。しかしこの1977年のライヴ、シュミット以上にベースのホルガー・シューカイが別個にベーシストを立てたその後ろで、怪しげな発信機からラジオ、受話器!や電子機器によるノイズ担当となっているのが笑えます。いやあ、さすがシュミット共々カールハインツ・シュトゥックハウゼンの門下生だっただけのことはあるなあ。上の動画ではイマイチそのサウンドの確認が取りにくいのですが、このAlpha 77もイルミン・シュミット監修などのかたちで、是非とも現在の市場に蘇って頂きたいですねえ。

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